大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和39年(行コ)3号 判決 1967年12月27日

控訴人(原告) 井手上ミナエ

被控訴人(被告) 厚生大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の新請求(無効等確認の訴え)を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、控訴人

控訴人は当審において、これまでの次の(二)の処分の取り消しの訴えを、予備的請求とし、新たな次の(一)の無効等確認の訴えを、一次的請求とする訴の変更をなした。

原判決を取り消す。

(一)  被控訴人が控訴人に対してなした昭和三三年四月四日付消第二二三号による遺族年金裁定取消処分および同日付遺さか却一三五〇号をもつてなした遺族年金請求却下処分は、いずれも無効であることを確認する。

右の請求が容れられないときは、

(二)  被控訴人は控訴人に対し、前記遺族年金裁定取消処分および遺族年金請求却下処分の取消をせよ。

訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二、被控訴人

主文一および三と同旨ならびに控訴人の新請求を棄却する。

との判決を求める。

第二、当事者双方の事実上の主張および証拠関係

次のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人

(一)  控訴人と訴外盛武定一との間に婚姻の事実がなかつたことは、右当事者間の婚姻ならびに離婚無効確認の訴えの確定判決によつて、確定されているのであるから、行政庁たる被控訴人は、右判決の効力を変更することはできず、その効力を認めるのが憲法の精神からして当然である。

しかも、右判決は、法律上の婚姻とともに事実上の婚姻も存在しなかつたことを宣言するものである。

右事実に原判決記載の請求原因事実を併せて考察すれば、請求の趣旨記載の各処分は、当然無効であり、そうでないとしても、事実の認定をあやまつたかしがあるから、控訴人は一次的に右処分の無効確認を求め、二次的にその取消を求める次第である。

(二)  仮りに、本件取消の訴えの提起の日が、出訴期間を経過していたとしても、民事訴訟法一五九条の訴訟行為追完の規定により、本件訴の提起は適法である。

二、被控訴人

(一)  控訴人と右盛武との間に、その主張の判決があつたことは認めるが、その余の主張は争う。

(二)  厚生大臣の捺印のある裁決書が控訴人に送達された日が、昭和三八年六月二一日であることは認める。

三、証拠関係<省略>

理由

一、先づ本件無効等確認の訴えが適法であるかどうかについて検討する。

行政処分の無効確認訴訟は、その処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて、その目的を達することができないときに限り許される(行政事件訴訟法三六条)ものであるところ、控訴人は被控訴人のした遺族年金裁定取消ならびに遺族年金請求却下の処分の無効を前提として、国を被告として、控訴人が遺族年金の受給権を有することの確認を求める等の現在の法律関係に関する訴えによつて、本件無効等確認の訴えと同じ目的を達することができるのであるから、本件無効等確認の訴えは不適法である。尤も、行政事件訴訟法は右処分後に施行されたものであるが、同法附則三条により同法施行後に提起された本訴については同法三六条の適用を免れないものと解すべきである。

二、次いで、取消の訴え(予備的請求)について検討する。

当裁判所も、右の訴えが出訴期間経過後に提起された不適法なものであると判断する。その理由は次の判断を付加するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

戦傷病者戦没者遺族等援護法四一条(昭和三七年九月一五日号外法律第一六一号による改正前のもの)は厚生大臣の争訟判断的行政行為である裁決の効力を生ぜしめるために不服申立人にこれを通知すべきものとした趣旨と解せられるが、同法自体にはその通知の形式をとくに限定せず成立に争のない乙第一二号証によると唯内部的事務取扱規定たる性格を有するものと認められる同法施行事務取扱規程(昭和二七年五月一五日厚生省訓第一八号)に、裁定機関が不服申立を却下する裁決をなしたときは、裁決書を作成して不服申立人に送付するとともにその写を都道府県知事に送付すべきものと定められているにとどまり、右裁決書の形式については定めがないことを首肯し得るので、以上のことから考察すると、右裁判書の原本についてはともかくその内容を不服申立人に通知すべき文書については、その形式からみて、裁決の主体内容を明らかにし得るものであれば足りるものと解せられる。しかるに本件においては、原判決の認定する如く、昭和三八年一月一三日控訴人の受領した裁決書と題する書面は、厚生大臣西村英一の押印を欠くのみで、他の様式に欠くるところはなく、しかも、荘内町役場厚生係の送付書が添付せられていたのであるから、右書面の送付により有効に本件裁決の通知がなされたというに妨げない。そして、控訴人が右書面をもつて正規の裁決書と認めず、有効な裁決の通知がないものと判断して、出訴期間を経過したとしても、不変期間の性格上、期間徒過による不利益を受けるのはやむを得ないところである。

三、そこで、追完の主張について判断をすすめる。

右主張は、民事訴訟法一五九条にいう、出訴期間を徒過した事由およびその事由消滅の日時を明確にしていないが、控訴人の全立証その他本件全証拠を検討してみても、本件につき、民事訴訟法一五九条が適用されるものとは考えられない。したがつて、右主張も理由がない。

四、してみると、原判決は相当であり、控訴人の当審における新請求もまた、失当である。

五、よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木本楢雄 長西英三 中野辰二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例