福岡高等裁判所宮崎支部 昭和47年(ネ)1号 判決 1973年10月03日
控訴人 森野章
被控訴人 有限会社日高電器商会
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金五五万円及びこれに対する昭和四五年六月一九日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
二、控訴人の請求原因
(一)控訴人は、被控訴人の振出しにかかる、左記記載のある約束手形一通(以下本件手形という)を所持している。
金額 金五五万円
満期 昭和四五年三月一五日
支払地・振出地 宮崎市
支払場所 株式会社鹿児島銀行宮崎支店
振出日 昭和四四年一二月一七日
振出人 被控訴人
受取人 三浦敏只
第一裏書人 右同人(被裏書人白地)
第二裏書人 平山大(右同)
第三裏書人 控訴人(右同)
第四裏書人 宮崎県宮崎県税事務所
(右同)
(二)控訴人は、本件手形を、拒絶証書作成義務を免除して、宮崎県県税事務所に裏書譲渡していたものであるが、同県税事務所が支払呈示期間内である昭和四五年三月一六日に本件手形を支払場所に呈示したところ、支払いを拒絶されたので、控訴人において、同月二二、三日頃、右県税事務所に対し本件手形金五五万円を支払って本件手形を受け戻し、手形上の権利者となったものである。
(三)よって、控訴人は被控訴人に対し、右受戻金五五万円及びこれに対する右受戻しの日の後である昭和四五年六月一九日から支払いずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払いを求める。
三、被控訴人の答弁並びに主張。
控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人が本件手形を振り出したとの点は否認するが、その余の事実は認める。本件手形は、昭和四四年一二月半ば頃、被控訴人方事務所で窃取された、いまだ流通過程においていない手形用紙を使用して偽造されたものである。よって、被控訴人には本件手形金支払いの義務はない。
四、証拠関係<省略>
理由
請求原因事実は、被控訴人による本件手形振出しの点を除き当事者間に争いがない。
そこで、本件手形を被控訴人が振り出したか否かにつき検討する。
<証拠>を総合すると「被控訴人は電気器具の販売を業とする会社であり、約束手形の作成を含め会計等の事務には主として被控訴会社代表者の妻日高美代子があたっていたものであるが、昭和四四年一二月初め頃、右美代子は、被控訴会社の商品仕入先に対する商品代金支払いのために約束手形を作成するべく、被控訴会社備え付けの約束手形用紙(甲第一号証の本件手形の用紙)に支払期日を昭和四五年三月一五日、振出期日を同四四年一二月一七日とそれぞれ記入し、振出人欄に被控訴会社代表者の記名、押印をなしたところ(なお支払地及び支払場所の各欄には、前記争いのない事実のとおりの記載が不動文字が印刷されていた)、たまたま他から現金の入金があったので、仕入先には現金で支払いをすませたため、右手形は不要となったこと、そこで、美代子は、右金額欄及び受取人欄空白のままの手形用紙を、いずれ廃棄するつもりで被控訴会社事務所内に保管しておいたところ、その後何者かによってこれが盗取され、前記争いのない事実のとおりの金額欄、受取人欄の記載がなされ、被控訴会社不知の間に転々して控訴人がこれを取得するに至ったこと、ちなみに、被控訴会社が前記仕入先に支払いを予定していた金額は、金一〇〇万円位であったこと」以上の事実を認めることができる。右事実によって考えると、被控訴人としては、本件手形の用紙に記名押印等はなしたものの、予定していた金額の記入もしないまま、これを廃棄する意図で保管していたに過ぎないのであるから、結局本件手形を約束手形として流通におく意思はなかったものと認めるべく、そうだとすれば、被控訴人において本件手形を振り出したものとはいえないと解するのが相当である。
この点につき、原審における被告(訴え取下げ前)三浦敏只及び控訴人本人尋問の結果中には、被控訴人が訴外平山大に対し、本件手形を資金融通もしくは商取引決済のため振出し交付したものである旨の各供述部分があるけれども、これらはいずれも伝聞に過ぎないうえ前掲諸証拠に照らして採用しがたく、他に前記認定を覆して、被控訴人が本件手形を振り出したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被控訴人は、本件手形につき振出人としての義務を有するものではないから、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきである。
よって、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 桑原宗朝 裁判官 大西浅雄 柴田和夫)