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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和61年(ラ)24号 決定 1987年1月12日

抗告人 河上冬子

相手方 河上喜三郎

主文

原審判中昭和55年3月以降の婚姻費用分担申立を却下した部分を取消す。

右取消にかかる部分を宮崎家庭裁判所日南支部に差戻す。

抗告人のその余の抗告を棄却する。

理由

一  抗告人の申立の趣旨及びその理由は、別紙「審判に対する即時抗告の申立書」記載の通りである。

二  先ず、抗告人の求める昭和55年2月以前の婚姻費用分担に関する部分(原審判の所謂過去の婚姻費用の分担を求める部分)については、原審判指摘の通り、抗告人の現実の支出を正確に把握し得る資料も無く、この点について抗告人も何等立証するところがないから(仮にこれを精算するにしても、離婚に至つた場合において離婚に伴う財産分与の額を決定する際に考慮すれば足りる)、これを却下した原審判は相当であり、抗告は理由がない。

三  次に、別居後である昭和55年3月以降の婚姻費用分担を求める部分であるが、一件記録によれば、原審判指摘の通り抗告人と相手方との婚姻関係は右別居頃から破綻しているものと認められるものの、右破綻、別居の原因についての有責性において抗告人の方が相手方を凌駕しているものとは認められず、かような場合別居中の夫婦間においても、婚姻費用分担の請求をなしうるものと解すべきである。

ところで、一説には婚姻費用分担(760条)は、本質上、その基盤に円満な婚姻共同生活体の存続が要請されるから、別居中の夫婦間においては、その相互の信頼関係の回復が期待でき、婚姻生活共同体の回復の可能性の存する場合に限り分担義務が生ずるもので、夫婦関係が破綻し、婚姻共同生活関係の回復が不可能な場合には、夫婦間の扶助義務(752条)に移行すると説かれており、家事審判規則においても婚姻費用分担義務と夫婦間扶助義務とはその性質が異る別個のものと観念すべきことを窺わせる規定を置いている(規則46条は扶養の審判に関する同96条の規定を夫婦間扶助等の審判手続に準用するが、婚姻費用分担の審判手続には右96条の準用はみられない)。

このような観点から、別居中の夫婦が破綻状態にあり婚姻共同生活関係の回復が不可能と思われる本件の如き場合には、これを婚姻費用分担の審判手続に包摂して処理するにしても、その実質を通常親族間の扶養義務と軌を一にするものと捉え、夫婦の一方が最低生活を維持することもできない場合にのみ他方にその扶養の義務が生ずるとの原審判の如き解釈に導かれるものと思われる。

しかし、婚姻費用の分担義務と夫婦間の扶助義務を具体的に截然と区別することはむつかしく、実質的な後者の義務の覆行を手続上前者の義務の覆行として求め両者が重複することも妨げないところであるし、更に実質が扶助義務であるとしても、夫婦間の扶助義務である以上、その一方に相当の余裕がある場合まで他方が最低生活を維持することもできない場合に限り扶助の義務が生ずるとみるのは狭きに失し、その場合には、両者が円満に同居していた場合と同一の生活程度を維持するに必要なものであることは要しないとしても、他方においてなお単独で通常の社会人として生活するのに必要な程度は余裕ある相手方においても分担すべきものと解する。

そうして、一件記録によれば、相手方においては少なくとも抗告人を越える相当の収入があることが窺える(相手方は昭和61年3月末日を以つて○○産業株式会社の事業は閉鎖するので、同年4月以降の給与所得はない旨主張するが、右閉鎖に伴う退職金乃至退職慰労金、或いは抗告人指摘の関連会社からの収入の可能性も否定し得ない)が、他方抗告人は、その健康状態からすれば稼働収入には余り期得できないところ、不動産収入も差押の為今後なお相当期間は期待できず、その収入は相当程度低いことが看取し得るから、抗告人は相手方に対し、前記別居以後の婚姻費用の分担として相当の給付を求め得べきものである。

よつて、これと異なる原審判を取消し、家事審判規則19条1項により原審に差戻すこととする。

よつて、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 吉村俊一 澤田英雄)

審判に対する即時抗告の申立書

中略

(即時抗告の理由)

1 審判理由第2、4のうち、申立人と相手方の婚姻関係が破綻状態になり、別居して今日に至った経過につき、申立人にも責任があるような認定をしている(申立人も家事に無頓着であるし、早くから別居生活をするなどで・・・・・・)が、これは事実を誤るものである。

申立人が居なければ、相手方が、このように多数回選挙で当選することもできなかったし、子供の教育(宮崎市、東京都)もできなかったものである。家事については申立人が日南、宮崎、東京一切を指揮していたもので、無頓着ならこのように生活のリズムはできなかったし、宮崎、東京という二重生活も相手方の指示もあってなしていたことであって、申立人が勝手に別居生活を作り出していたものでもない。

昭和55年以降の別居は、もっぱら相手方の暴力と女性関係にあることは明らかである。

2 審判理由第2、6(1)で申立人が不動産処分をして多額の金を自己の生活費にあてたかの如き認定があるが、これはその不動産取得資金の借金返済や、従前の二重生活の中で生じた借金がふくらんだ借金払いにあてたもので、自己の生活費にあてたものはない。

又、生命保険会社からの収入213万余円はその額の大半が経費として消えるものであり、自己の生活に使える金は月8万円にもならない程度であり、新しい借金をせずに生活することが困難である。又冷酷にも昭和55年別居後相手方が腹いせ的に申立人に提起した裁判に応訴するにつきその都度東京から日南、宮崎へ帰る交通費、裁判費用(法律扶助委員会にも行ってみた)など借金が累積している。

なお、申立人は60才を越え、高血圧で保険外交の激務に耐えられなくなっており、退職の予定である。

退職後は、年金月約7万円程度であるが、申立人は年金担保で前借りをしているため、現実には手許には支給されない。そのためたちまち生活保護を受けざるをえない状況にたち至るのである。

3 審判理由第2、6(2)で、相手方の同時期の収入として、○○産業、市町村共済組合の共済年金、社会保険庁の年金が主な収入源で相当額の収入を得ていると認定されているが、その額があげられていない。

昭和54年度では、申立人に判明しているもの(乙18)だけでも17,879,000円にのぼっている。市長退職後は各種年金を得、○○産業を閉鎖しても別会社○○建設は動いており、ここから報酬を得ているはずであり、今日現在でも合計1000万円程度の収入はあると思料される(調査していただきたい)。

4 審判理由第3、当裁判所の判断は、前記のような違った事実認識の上に判断されたものであり、その判断も結局誤っている。

(1) 申立人は、相手方が交際費として湯水の如く浪費する一方、生活費にはほんのわずかの金しか渡さなかったため、その不足を補うため働いたり借金したりしたもので、株(これは従前もらっていたものなのに、相手方はこれを相手方所有として裁判してきた)の売却代金をこれに当てたりしたが、なおその他にも借金が残っている。

相手方がその所有(判決)をたてにとって返還請求するのであれば、それをもって婚姻費用にあてたのであるから、婚姻費用の分担として同額の分担金を相手方は支払うべきなのである。

(2) 婚姻の破綻原因が90%以上相手方にあること(原審で申立人の提出した資料や昭和61年5月31日付上申書を詳細に検討していただきたい。)はまちがいなく、当然申立人は相手方と同じレベルの生活(相手方が年金を取得――公選についていたことからの帰結――その内助の功にむくいるべき)を求める権利がある。

仮りに、申立人にも破綻の原因の一担があるとして、審判の最低生活をすら維持できない場合に限るとの論によるとしても、まさに申立人は今日その状況にある。

5 よって、原審判を取り消して、申立人の求めるとおりの裁判を求めるものである。

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