福岡高等裁判所宮崎支部 昭和62年(う)31号 判決
本件は,少年である被告人両名による強盗殺人と窃盗の事犯であるところ,本件強盗殺人の犯行(以下「本件犯行」という。)は,被告人両名が金欲しさから,独り暮らしの被害者A男(当69歳)からの金銭強取を企て,必要の際は同人を殺害することも相談して,タオル,電気コード等を準備した上,深夜,被害者方の浴室から侵入し,タオルで同人の口をふさぐよう促す被告人少年乙とこれを逡巡した同少年甲が言葉を変わしているうち,これに気づいたA男から誰何されるや,被告人両名においてA男に対し,タオルでさるぐつわをし,電気コードでその両手首を縛り上げるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上,その間に室内を物色したが現金を発見できず一時物色行為を中断した際,A男に顔を見られているため同人を殺害しようと意思を通じ,同人の首に電気コードを巻きつけて窒息殺害し,その後も更に室内を物色して同人所有の現金60円と煙草6個を強取したという事案である。
本件犯行は,被告人少年甲においては知人に対する借金の返済や交通違反の反則金の納付にあてる資金の工面に窮し,他方,被告人少年乙においては大阪の就職先に赴く旅費や家に残していく家族の生活費の必要に迫られていたところ,被告人少年乙の妹B女とその同級生C女がA男の家にしばしば出入りして現金を盗み出していたことや,C女からA男がなお相当の現金を持つている旨聞いていたことから,本件犯行に及んだもので,自己中心的犯行であり,犯行の動機に酌むべき事由を見出すことができない。もつともA男が被告人少年乙の妹B女と性的関係を持つていたという事情が原判決指摘の通り本件の遠因になつているとしても,A男にこのような不良な態度があつたことを被告人両名のために酌むべき事由として過大に評価することはできない。
本件犯行の計画性及び態様等についてみると,原判決指摘のように,被告人らは犯行に至る過程において逡巡がみられるものの,被告人両名は,犯行の実行時刻,A男方への侵入方法,侵入後の役割分担,A男の殺害方法などを具体的に打ち合わせ,かつ,首を絞めるために用いる電気コード等を準備するなど周到な計画のもとに本件犯行を実行したものであり,被告人両名の犯行意思は相当強いものであつたと認められ,犯行態様も残忍非道なものである。
本件犯行によつて被告人らが強取した金品は,原判決指摘のとおり少額ではあるが,本件はわずかな金員を得るために人ひとりを殺害するという重大な犯行であり,しかも,もともとA男がわずかの金員しか所持していなかつた上,被告人らが金員の隠し場所を発見できなかつたことによるものであり,財産的損害が少額であつたことを過大に評価することは相当ではない。
被害者A男の遺族においては,被告人らに対し厳重処罰を求めており,他方,いまなお被告人らの両親からはみるべき慰謝の措置は講じられていない状況にある。
更に,本件犯行が社会一般に与えた影響も深刻であり,一般予防の見地からも,被告人両名の刑事責任は厳しく追求されなければならない。
一方,被告人らの家庭環境等につき,被告人少年甲においては両親の離婚の繰り返し,継母に対する感情的な問題等による家出,教護院への入所など恵まれたものではなかつたことは認められる。また,被告人少年乙においては本件犯行当時15歳の少年であつたこと,以前から両親が病弱であり中学校に進学してからも家計を助け,そのため学業も不十分のまま卒業したこと,同被告人の父親は勤労意欲に欠け,母親も同被告人を放任するなど恵まれたものではなかつたことが認められる。
しかしながら,被告人両名のこれらの家庭環境等は著しく劣悪なものであつたとはいえず,被告人両名において中学校卒業後真面目に努力をしたならばそれなりの効果をおさめうる種々の手段と機会を有していたであろうことも否定できず,被告人両名のこれまでの家庭環境等の問題点を過大に評価することはできない。
以上に述べた諸事情を総合すると,本件が計画的な強盗殺人の犯行であること,犯行の動機において酌むべき事由が乏しく,ことに殺害するための用具を準備して臨み,犯行態様が冷酷かつ残忍非道なものであること,被害者A男には格別の落度もせめられるべき点もないこと,遺族の被害感情は慰謝されず,いまなお被告人らに対し厳重な処罰を求めていること,本件犯行が社会一般に与えた影響は深刻であり,一般予防の見地からも重視しなければならないこと,及びこの種事犯に対する量刑の一般的実情などを考慮すると,本件犯行による財産的利得が僅少であること,被告人少年甲においては本件犯行の計画,実行の際,幾分かためらいや躊躇した点がみられること,被告人両名の生育環境,家庭環境に関する前記の諸事情,犯行時,被告人少年甲が18歳,同少年乙が15歳の少年であり,その情緒面の発達の程度と性格,被告人両名が本件の非を反省していることなど本件に現れた被告人両名に有利な又は同情すべき一切の情状を参酌しても,本件においては被告人両名につきいまだ刑を酌量減軽するまでの事由があるとは認められず,本件において,被告人両名につき酌量減軽した原判決の量刑はいずれも軽すぎて不当であり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。