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福岡高等裁判所那覇支部 平成14年(行コ)3号 判決 2004年5月27日

控訴人 A株式会社

同代表者代表取締役 J

同訴訟代理人弁護士 宮國英男

同 阿波連光

被控訴人 北那覇税務署長 髙江洲清一

同訴訟代理人弁護士 渡嘉敷唯正

同指定代理人 上野英二

同 福山命

同 安里康市

同 友利りつ子

同 照喜名志乃

同 藤井典明

同 我那覇隆

同 髙嶺淳

上記当事者間の頭書事件について、当裁判所は、平成16年3月18日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者双方の申立て

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が、控訴人の平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度の法人税について、平成5年9月21日付でした更正処分のうち、所得金額2億7342万7445円、課税土地譲渡利益金額1億0304万9000円、納付すべき税額1億2588万1400円を超える部分並びに同日付けでした過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  事案の概要

控訴人は、控訴人の平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度の法人税について、被控訴人が平成5年9月21日付でした更正処分のうち、所得金額2億7342万7445円、課税土地譲渡利益金額1億0304万9000円、納付すべき税額1億2588万1400円を超える部分並びに同日付けでした過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分はいずれも違法であると主張して、その各取消しを求めている。

1  当事者間に争いのない事実及び証拠上又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実(当事者間に争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実については証拠を掲記しない)

原判決2頁20行目の「所」を「者」と改め、同3頁17行目末尾に改行の上、次のとおり付加するほかは、原判決が「事実及び理由」の第2の2に摘示するとおりであるから、これをここに引用する。

「 オ 控訴人は、雑収入計上漏れ額(1840万1478円)、交際費等損金不算入額(1万9939円)、受取配当益金不算入過大額(61万5715円)及び未納事業税認容額(332万0200円)の各土地譲渡益計上漏れ額以外の所得修正額が正当であることは、争っていない。

(3) 本件更正処分の基礎となった所得金額のうち、原判決添付別表2記載の各土地(以下「本件各土地」という。)及び同表記載の建物(以下「本件建物」といい、本件各土地と本件建物を一括する場合には、「本件各土地等」という。)に係る譲渡益の計上漏れの存否に関する事実

ア  控訴人及び株式会社C(以下「C」という。)による本件各土地等の取得乙(以下「乙」という。)は、平成2年10月16日当時、本件各土地を所有しており、乙が代表者である株式会社D(以下「D」という。)は本件建物を所有していた(乙3の1ないし6、乙4)。

控訴人は、同日、本件各土地を乙から代金7億7000万円で、本件建物をDから1億円でそれぞれ取得し(甲2)、その後、最終的には、Cが、平成3年3月6日に、本件各土地等を代金13億6250万円で取得した。

イ  契約書の存在とその内容

本件各土地等の売買については、①平成2年11月26日付の、売主を控訴人、買主をE有限会社(以下「E」という。なお、その代表取締役は丙〔以下「丙」という〕である)、代金を10億2000万円とする不動産売買契約書(甲3、以下、この契約書記載の売買を「本件第1売買契約」という。)、②平成3年3月6日付けの、売主をE、買主をC、代金を13億6250万円とする不動産売買契約書(乙19添付別紙三〔乙20別添二も同じ。〕、以下、この契約書に記載された売買契約を「本件第2売買契約」という。)がそれぞれ作成されている。

ウ  本件各土地等の登記簿上の記載内容

本件各土地については、平成3年1月7日受付の、乙から控訴人に対する平成2年10月16日売買を原因とする所有権移転登記、平成3年3月6日受付の、控訴人からEに対する平成2年11月26日売買を原因とする所有権移転登記、平成3年3月6日受付の、EからCに対する同日売買を原因とする所有権移転登記がそれぞれされている(乙3の1ないし6)。

本件建物については、平成3年1月7日受付の、Dから控訴人に対する平成2年10月16日売買を原因とする所有権移転登記、平成3年3月6日受付の、控訴人からEに対する平成2年11月26日売買を原因とする所有権移転登記、平成3年3月6日受付の、EからCに対する同日売買を原因とする所有権移転登記がそれぞれされている(乙4)。」

2  争点

以下のとおりに改めるほかは、原判決が「事実及び理由」の第2の4に摘示するとおりであるから、これをここに引用する。

(1)  原判決6頁2行目冒頭から同頁9行目末尾までを、次のとおりに改める。

「 本件の争点は、本件更正処分等の基礎となった所得金額のうち本件各土地等に係る譲渡益計上漏れ額(2億9768万8159円)が存するか、否かである。

(被控訴人の主張)

(1)  Eは税務対策のための控訴人のいわゆるダミーであり、本件各土地等は、控訴人が直接Cに対し代金13億6250万円で譲渡したものである。Cが本件各土地等を代金13億6250万円で譲り受けたことには当事者間に争いがないから、本件各土地が控訴人から直接Cに譲渡された事実が立証されれば、当然その売買代金は控訴人に帰属することになる。

ア 本件各土地等の取引の実体を判断すると、本件各土地等は、控訴人から直接Cに対して代金13億6250万円で譲渡されたことは明らかである。

すなわち、本件各土地の取引の実体に関しては、控訴人及びEが本件各土地等の取引に関して取得したとされる利益の不均衡と不合理性、当時銀行取引停止になっていたEをことさら本件各土地等の取引に介在させる不自然さ、Eが控訴人に支払ったとする売買代金は結局は本件各土地等の最終取得者であるCの決済金で賄われていること、Eの代表者である丙が、本件各土地等の取引に関して、同人は報酬を貰って名義を貸しただけであると述べていること、本件取引終了後に2回、関係者が集合して税金対策としか考えられない話し合いをしていたことの各事実がある上に、Cへの譲渡代金13億6250万円の金の流れに関して、Cからの本件各土地等の譲渡代金を受け入れるためにわざわざ新規のE名義の預金口座が開設されていること、しかもその預金口座はE側が開設したものではないこと、開設後は、控訴人と関係のある有限会社F(以下「F」という。)の関係者が入出金の手続を行っていること、その預金口座から当時の控訴人代表者である甲に流れている金があること等の不自然な点があり、これからは上記E名義の預金口座はEに帰属するものではなく、控訴人側に帰属するものと考えられるのであり、これらの事実を総合すると、本件各本件各土地等が控訴人から直接Cに対し代金13億6250万円で譲渡されたことは明らかである。

本件各土地等の取引の実体は、上記の各事実関係を総合的に考慮して判断できるものであり、譲渡対価13億6250万円の行方、経路、帰属をすべて明らかにしないと判断できないものではない。

イ Eは控訴人のダミーであって、Kのダミーではないこと

本件各土地等の取引には、Fの代表者であるK(以下「K」という。)が深く関与している。控訴人は、この点をとらえて、EはKのダミーであり、本件各土地等の取引は、控訴人→EすなわちK→Cと順次譲渡されたのであり、控訴人から直接にCに譲渡されたのではないと主張するが誤りである。すなわち、Fは、平成2年から平成3年にかけて、控訴人及び当時控訴人と代表者を同じくしていたL株式会社から20億円近い金員を借り受けていて、控訴人が丙に対する1億円の貸金債権をFに債務を引き受けさせる等した事実もあり、控訴人は大口債権者としてFに対して実質的な支配権を有しており、控訴人はFの実質的な管理運営に対して支配的な影響力を有していたものと推測される。したがって、Kは、本件各土地等の取引に関して、控訴人から独立した別個の取引主体として行動したものではなく、単に、ブローカーとして行動していたに過ぎないものである。このことは、Kが、当時の控訴人代表者や控訴人の開発部長であるH(以下「H」という。)に対して、本件第1売買契約と第2売買契約の売買代金の差額の使途について縷々説明していた事実から明らかである。

一方、Kに、本件各土地等の取引に関与を始めるに際して乙らが直接の売主になるとの理解があり、その過程で自らがCへの売主になって転売利益を得ようと目論見があったとしても、そのようなKの主観によって、控訴人が本件各土地等を売却した相手方が誰かが決まるものでないし、Kが本件第1売買契約と第2売買契約の売買代金の差額の大半を取得したとしても、それによってEがKのダミーであることになるわけではない。Kの行動のうち、買手としてCを見つけてきたこと、丙にEがダミーとなるように依頼したこと、EとCの間の売買代金額について交渉したこと、Eの預金口座を管理していたことなどは、いずれもブローカーとしての行動として把握し得るのであり、それらの事実があったからといって、Kが本件各土地等の取引の当事者であるというわけではない。Fが本件第1売買契約と第2売買契約の売買代金の差額の内から利息を取得したことも、Eが控訴人のダミーであることの妨げとはならない。」

(2)  原判決7頁7行目冒頭から8頁11行目末尾までを次のとおりに改める。

「(控訴人の主張)

(1)  法人税法11条は、『資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。』と定めているが、①『資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受していないこと』及び②『その者以外の法人がその収益を享受すること』の各事実は、いずれもそれを主張する課税庁において主張、立証すべきである。

これを本件の争点に当てはめてみると、被控訴人は、①の点について、Eは収益を享受しておらず、その者以外の者がその収益を享受していることを、②の点について、控訴人がその収益を享受していることをそれぞれ主張することになると解される。控訴人は、①の点についてはこれを争わないが、本件売買により収益を享受したのはKであり、EはKのダミーであると主張して、②の点を否認する。形式的には、本件第1売買契約及び第2売買契約が存在するにもかかわらず、実質に着目して課税する場合には、課税庁において、その者以外の法人がその収益を享受することを基礎づけるに足りる具体的な事実を主張、立証しなければならない。

(2)  本件においては、上記②について、収益の享受主体がKであることを基礎づける具体的な事実として、第1に、Kの主観の問題として、Kは、本件各土地等の取引に関与を始めるに際して乙らが直接の売主になると認識しており、その過程で自らがCへの売主になって4、5億円の転売利益を得ようという目論見があったこと、Kは、同人作成の収支計算のためのメモ(乙23の2)において、本件第1売買契約の代金額である10億2000万円を原価としてとらえているが、控訴人の利益を計算するのであれば、その原価は乙と控訴人の間の売買契約の代金額の8億7000万円のはずであるから、これは控訴人の利益を計算したものではなく、K自身の利益を計算したものであることは明らかであること、Kは、Cから支払われた売買代金のうちから当時の控訴人代表者である甲に交付された1億1000万円については、これを甲の手数料であると認識していたことなどがあり、第2に、Kの行動として、買手としてCを見つけてきたのはKであること、Eをダミーとして利用することを思いつき、丙にEがダミーとなるように依頼したのもKであり、EとCの間の売買代金額について交渉したのもKであり、Cから支払われた売買代金を管理し、ダミーである丙に対する支払など取引に必要な経費の支払を行っていたのもKであることなど客観的に売主であれば本来とるような行動をしていたのは全てKであったという事実があり、第3に、金銭の流れとしても、結局Kから控訴人に渡された金銭は全てK又はFの控訴人側に対する返済として交付されたものであり、K又はFの資金として費消された事実がある。

これに対して、上記のCとの売買契約締結に至る一連の行動、経費の支出、Eの口座の預金の出し入れに関して、控訴人側からKに対して指示がされていた事実はなく、いずれもKが独断で行っており、控訴人側の関与は一切なかったし、本件第1売買契約における手付金の支払に関して、控訴人から2億円がFに融資され、これを原資としてFからEに1億9500万円が融資され、Eはこれを原資として控訴人に対する手付金残金1億9400万円を控訴人に支払ったことに関しても、控訴人とFとの間の融資には担保が設定され、利息が支払われ、現実に返済がなされているのであって、これらの事実は、控訴人がCに対する売主であると見ることの妨げとなるものである。被控訴人の主張する取引終了後の会合は国土法上の問題を解決するために開かれたものであり、税金対策上の事後工作ではない。

以上によれば、EはKのダミーであり、Cに対する売主は実質的にはKであって、控訴人が直接Cに対して本件各土地等を売却した事実はない。」

第3  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、以下のとおり改めるほかは、原判決が「事実及び理由」の第3の1ないし4に説示するとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決10頁3行目冒頭から14頁6行目末尾まで次のとおりに改める。

「 上記の丙の各供述は、証人Hの、①本作各土地等をEに譲渡した平成2年11月26日当時、Eは倒産しており、既にCが本件各土地等を買い受けるという話が出ていた、②本件第1売買契約の契約書(甲3)の手書き部分は丙ではなく、Hが書いたなどの供述と合致するものであり、極めて信用できるものであるから、上記の丙の各供述と控訴人においても、当審において、Eがダミーであったことは争わない旨主張していることなどの弁論の全趣旨からすれば、少なくともEは本件第1売買契約及び本件第2売買契約に単なる名義上の当事者として関与したに過ぎず、実質上の当事者ではなかったことが認められる。

(2) ところで、上記のとおり、Eを本件各土地等の取引にダミーとして関与させる目的としては、控訴人が本件各土地等の売買による利益を圧縮した外観を作出し、脱税を図ることが考えられるところ、控訴人は、Eをダミーとして関与させたのはKであり、実質的な本件第1売買契約の買主、本件第2売買契約の売主はKである旨主張するので、以下この点について判断するに、証拠(甲30、乙9、10、11の1・2、12の1ないし4、13の1ないし3、14の1ないし3、15の1ないし5、17、23の1・2、25の1ないし4、28の1ないし6、控訴人代表者〔1、2回〕、証人丙)によれば、次の事実が認められる。

ア  控訴人代表者は、平成2年の初めころ、乙から本件各土地等の買い手を探すことを依頼され、マンション業者や不動産業者らに買い手の斡旋を依頼していた。

イ  この依頼を受けた業者の1人であったKは、パチンコ店等の遊技場を経営するCとの間で本件各土地等の売買の交渉を進め、その結果、平成2年8月ないし9月ころ、控訴人の社屋においてCを最終的買主とする第1回目の価格交渉がもたれ、平成2年9月ころに控訴人代表者がオーナーであるMホテルで2回目の価格交渉が行われた結果、その交渉の場で、本件各土地等の売買価格が13億6250万円と決定された。この価格交渉の場には、K、Cの担当者のNのほか、控訴人代表者など控訴人の関係者も出席していた(甲30)。

ウ  控訴人は、その後の平成2年10月16日、本件各土地等を総額8億7000万円で乙等から買い受けた。

エ  その後、本件第1売買契約についての売買契約書(甲3)が作成されたが、この契約書に記載されている手付金(契約書上は契約締結と同時に支払われることになっている。)2億400万円の大半の1億9400万円については、平成3年1月7日に控訴人がKの経営するFが控訴人から借り入れた2億円のうちの1億9500万円をFがEに貸し付けた資金によって支払がされている。

オ  そして、平成2年12月中旬ころ、控訴人方事務所において、本件第2売買契約締結の合意がされ、売買契約書が作成された(なお、本件各土地等についての売買契約書の作成日付は、Kの要請により、翌年3月6日付とされた)。Kは、その際、Cが本件各土地等を確実に購入することを担保する趣旨で、Cに対し、約束手形の振出を求め、Cは、これに応じて、額面2億6280万円、受取人E、支払期日平成3年3月7日の約束手形を振り出したが、Cとしては、Kや本件第2売買契約の契約書上の売主であるEは信用できないということで、この手形を控訴人に預けた。

カ  Kは、平成2年12月26日、控訴人の開発部長であり、本件各土地等の取引に関与していたH宛の本件第1売買契約の代金額と本件第2売買契約の代金額との差額の使途を説明する内容のメモ(乙23の1・2)を作成している。

キ  Cの本件各土地等の購入代金13億6250万円は、平成3年3月6日、Kの開設したE名義の預金口座に振り込まれ、本件第1売買契約における売買代金残金及び控訴人の同契約の手付金についての上記の融資金はこのCから入金された売買代金を原資として支払われた。Kは、更に、この売買代金のうちから、総額1億1000万円を控訴人代表者が開設した架空名義の預金口座に振り込み、控訴人代表者がこれを取得した(この点について、控訴人代表者は、第1回尋問の際には、この金員の受領自体を否認し、上記口座の開設をも否認していたが、その後、被控訴人側から乙第25号証の1ないし4が提出され、上記の供述を維持することが困難になった後の第2回尋問においては、上記の供述を翻し、その受領を認めた上で、Kから弁済を受けるべき貸金との相殺分であるとの弁解をしているが、これを裏付ける資料がない上、上記の供述の変遷の経緯、正当な弁済を受けるについて仮名の口座を作るといういうのは不自然であることに照らせば、上記の弁解は到底採用できない。)。

ク  上記の取引の終了後、K、丙、H等の取引関係者が集まり、取引の流れ等を記載したH作成の書面(乙26の1ないし3)が配布され、上記取引による税金対策のための話し合いがもたれた(証人Hは、これらの書面は国土法の問題が発生する縣念があったことから善後策を協議するために作成したものであり、上記話し合いも国土法上の問題についての善後策の協議をしたものである旨証言するが、上記取引において、取引終了後にこのような協議を必要とするような深刻な国土法上の問題が生じたことを窺わせる資料はないから、上記証言はこの認定の障害となるものではない。)。

以上のとおり認められるところ、上記認定の諸事情、特に控訴人代表者は、本件第1売買契約や控訴人と乙等間の本件各土地等の売買契約締結時より前の時点において、Cの本件各土地等の購入代金額を知っていたとの事実及びKは、控訴人から本件各土地等の買い手を探すことを依頼されている立場の者に過ぎなかったとの事実及びKが本件各土地等の取引に当事者として関与したのであれば、Kは本件第1売買と本件第2売買との差額を誰に憚ることなく取得できるはずであるのに、上記認定のとおり、原告の開発部長のH宛でこの差額の使途に関する説明書を作成していること並びに控訴人とC間で直接本件各土地の売買契約を締結するについて何らかの支障があることや、控訴人側ないしはC側のいずれかないしは双方にKを本件各土地等の取引に売買契約の当事者として関与をさせざるを得ない必要性(後記の脱税を除く。)の存することを認めるに足りる証拠がないとの事情を合わせ考慮すると、控訴人がCと直接の売買契約を締結すれば4億9250万円の転売利益が見込める状況の下において、そのことを認識しながら、その中間にKを入れ、自らは1億5000万円の転売利益を取得することに甘んじ、その余の3億円を超える転売利益をKに譲るということは不自然であるといわざるを得ない。したがって、Eをダミーとして関与させたのはKであり、実質的な本件第1売買契約の買主、本件第2売買契約の売主はKである旨の控訴人の主張は失当であって、結局、上記のEのダミーとしての関与は、控訴人において自己の取得する利益を圧縮した外観を作出するためのもの、すなわち脱税を意図してされたものであるとみるのが相当である。

ところで、控訴人は、Kが本件第1売買契約の買主、本件第2売買契約の売主であったとの主張を基礎づける事情として、Kの主観の問題として、Kは、本件各土地等の取引に関与を始めるに際して乙らが直接の売主になると認識しており、その過程で自らがCへの売主になって4、5億円程度の転売利益を得ようとのもくろみがあった旨主張するが、このようなKの認識やもくろみのみによっては、上記認定の経過から、上記のEの関与が控訴人の脱税を意図してされたと判断することの障害にはならないというべきである。また、控訴人は、上記の主張を基礎づける事実として、本件各土地等の買手を見つけてきたのはKであるし、Eをダミーとして利用することを思いつき、丙にEがダミーとなるよう依頼したのも、Cから支払われた売買代金を管理し、ダミーである丙に対する支払など取引に必要な経費の支払を行っていたのもKであり、これらの行動は売主がとる行動である旨主張するが、上記の各行動は不動産取引の仲介人の立場の者でもとる行動であるというべきであるから、これらの事実もそれが存在するとしても、それによって上記認定の経過から、上記のEの関与が控訴人において自己の取得する利益を圧縮してみせること、すなわち脱税を意図してされたと判断する障害にはならないというべきである。

(3) 以上によれば、EはKのダミーではなく、控訴人のダミーであることが認められ、結局のところ、本件取引の実質は、本件各土地等が控訴人からCに対して直接代金13億6250万円で譲渡されたものであることが認められる。」

2  原判決14頁7行目の「4」を「3」に改め、同頁15行目冒頭から15頁1行目末尾までを削る。

第4  結論

以上によれば、本訴請求はこれを棄却すべきところ、当裁判所の判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 窪田正彦 裁判官 永井秀明 裁判官 増森珠美)

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