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福岡高等裁判所那覇支部 平成18年(行コ)4号 判決 2007年2月01日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人の平成14年分の所得税について,北那覇税務署長が平成15年11月4日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

3  控訴人の平成15年分の所得税について,北那覇税務署長が平成16年4月2日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

4  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

事案の概要は,当審における当事者の主張を補充するほかは,原判決「第2 事案の概要」に記載のとおりである。

1  当審における控訴人の主張

(1)  Aは,本件施設に入所し,医師等(嘱託医や琉球大学の医師)から単なる訓練ではなく,治療を受けている。また,B病院の医師の処方箋に基づいて本件施設の医療者である看護師によって投与されており,医療行為もなされている。

また,Aの自閉症の症状に関して,本件施設の作業療法士の資格のある職員が作成した資料(甲4ないし6)に基づいて医師が看護師あてに指示を出している。

(2)  所得税基本通達73-3(1)には,控除の対象となる医療費の範囲として,「医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費,入院若しくは入所の対価として支払う部屋代,食事代等の費用又は医療用器具等の購入,賃借若しくは使用のための費用で,通常必要なもの」と規定しているが,本件負担金は,「部屋代,食事代」に該当する。

(3)  本件負担金は,控除対象医療費に該当する。

2  被控訴人の主張

(1)  Aが,本件施設とは関係のないB病院の医師による診療等を受けているからといって本件施設において医師等による診療行為等がされていることにはおよそなり得ないし,児童が医師等から処方された薬を服用するに当たり,これを補助等する行為が医療行為となるものでもない。また,控訴人が主張する作業療法士の資格を有する職員が作成した資料(甲4ないし6)は,Aが本件施設を退所後に入所した施設の記録であり,本件施設とは無関係である。

Aが,本件施設において,医療行為を受けているとはいえない。

(2)  控訴人は,本件負担金が「部屋代,食事代」に該当すると主張するが,本件施設内において,医師等による診療は行われていない以上,「部屋代,食事代」にも該当しない。

(3)  控訴人の主張は,原審における主張と同旨であり,理由がない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は,当審における控訴人の主張に対する判断を補充するほかは,原判決「第3 判断」に記載のとおりである。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(1)  控訴人は,本件施設において,Aに対する医療行為が行われていたと主張する。

しかしながら,本件施設の嘱託医によるAの治療が行われていなかったことは,原判決12頁21行目「しかしながら,」から13頁10行目までに記載のとおりであり,また,本件施設とは関係のないB病院の医師が処方した薬剤を,本件施設の看護師がAに投与したからといって,本件施設において医療行為が行われていたとは認められない。

控訴人は,Aの自閉症の症状に関して,本件施設の作業療法士の資格のある職員が作成した資料(甲4ないし6)に基づいて医師が看護師あてに指示を出しているとも主張する。しかし,上記資料(甲4ないし6)は,Aが平成15年4月7日に本件施設を退所した(乙7)後である平成16年11月から平成17年9月の間に作成されたものであるから,直ちには本件施設で医療行為があった旨の控訴人の主張を基礎付ける資料とはならず,また,作業療法士の資格のある職員が作成した資料を参考にして医師が看護師あてに指示を出したからといって,その作業療法士が所属する施設で医療行為が行われていたことになるとも認められない。他に控訴人の主張を認める足りる証拠はない。

当審における控訴人の主張には理由はなく,本件施設においてAに対する医療行為が行われていたとは認められない。

(2)  控訴人は,本件負担金は,所得税基本通達73-3(1)の「部屋代,食事代」に該当すると主張する。

しかしながら,「部屋代,食事代」は,「医師等による診療等を受けるため」のものであることを必要とするものであって,上記のように本件施設においてAに対する医療行為が行われていたとは認められない以上,本件負担金は,「部屋代,食事代」には該当しない。

控訴人の主張には理由がない。

第4結論

以上によれば,控訴人の請求に係る訴えの一部を却下し,控訴人のその余の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正明 裁判官 唐木浩之 裁判官 木山暢郎)

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