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福岡高等裁判所那覇支部 平成21年(ラ)17号 決定 2009年5月29日

抗告人 甲野太郎

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  申立て

抗告人は,本件基本事件の原告であるが,領事送達(民事訴訟法108条,民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下「送達条約」という。)8条1項,日本国とアメリカ合衆国との間の領事条約(以下「日米領事条約」という。)17条(1)(e)(i))の方法によっては,アメリカ合衆国イリノイ州在住の本件基本事件の被告に対する送達手続が奏功しなかった(受送達者の不在又は事業閉鎖)ことから,公示送達の申立てをしたが,これが却下され,更にこれに対する異議申立ても却下されたことから,本件抗告を申し立てた。本件抗告の趣旨及び理由は,抗告状(写し)記載のとおりであるから,これを引用する。

2  当裁判所の判断

当裁判所は,本件基本事件の被告に対しては,中央当局送達(民事訴訟法108条,送達条約5条1項(a))が可能であると見込まれるから,民事訴訟法110条1項3号の要件を満たさず,公示送達をすることができないと判断するが,その理由は,原決定に記載されているとおりであるから,これを引用する。

抗告人は,民事訴訟法108条の規定する外国における送達のうち,領事送達が奏功しなかったから,公示送達の要件を満たすと主張する。しかし,本件においては,同条所定の外国における送達の方法のうち,言わば簡易な送達手続である領事送達が奏功しなかったとしても,なお中央当局送達が可能であると見込まれるから,「第108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合」(同法110条1項3号)には該当しないものと解するのが相当である。

また,抗告人は,本件基本事件において,公示送達をすることが訴訟の遅滞を避けるために必要であるから(同条2項),公示送達の要件を満たすと主張する。しかし,同項は,冒頭に「前項の場合において」と規定するところであるから,前記のとおり,同条1項3号所定の要件を満たさない本件においては,同条2項を適用する余地がない。

さらに,抗告人は,本件基本事件において領事送達が嘱託(平成20年9月24日)されてから6か月以上が経過したから,送達条約15条2項及び民事訴訟手続に関する条約等の実施に伴う民事訴訟手続の特例等に関する法律28条の要件を満たし,公示送達をすることができると主張する。しかし,送達条約15条2項(c)は,嘱託国の裁判所が,すべての妥当な努力にもかかわらず,受託国の権限のある当局から送達の証明書を入手することができなかったことを要件としており,嘱託から6か月以内の日である平成21年1月20日付けで,送達ができなかった旨の証明書を入手した本件においては,上記要件を満たさないことが明らかである。

したがって,抗告人の主張は,採用することができない。

3  結論

よって,原決定は相当であって,本件抗告には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 河邉義典 裁判官 森鍵一 裁判官 山崎威)

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