福岡高等裁判所那覇支部 平成21年(ラ)24号 決定 2009年5月20日
抗告人 甲野太郎
主文
原決定を取り消す。
理由
1 申立て
抗告人は,本件基本事件の申立債権者であるが,原決定物件目録記載の土地(物件2)について無剰余通知を受けてから法定の期間内(1週間以内)に,民事執行法63条2項ただし書所定の事実の証明をしなかったとして,同項本文に基づき,本件基本事件の手続が取り消されたので,これに対して執行抗告を申し立てている。
2 当裁判所の判断
(1)一件記録により明らかな事実
執行裁判所は,抗告人の申立てにより,平成20年10月10日,債務者に対し連帯保証債務履行請求権約500万円の支払を命ずる仮執行宣言付支払督促を債務名義として,物件1及び2を差し押さえる旨の強制競売開始決定をした。
物件1は,既に他の債権者の申立てにより担保不動産競売開始決定がされていたため,同事件において手続が進行することとなった。物件2には,本件基本事件に基づく差押えに先行して,有限会社地産トラストの1番抵当権(被担保債権元本500万円)及び2番抵当権(被担保債権元本200万円)が設定されていた。
執行裁判所は,物件2についての現況調査及び評価並びに債権調査を経て,平成21年3月3日,物件2の買受可能価額を299万2000円とする旨の決定をするとともに,本件基本事件の手続費用見込額が36万2698円,前記各抵当権によって担保される債権額が合計929万8600円,これらの総合計が966万1298円であって,上記買受可能価額がこれに満たないと判断し,その旨の無剰余通知をした(同月4日送達)。
抗告人は,上記送達後1週間以内の日である同月11日,執行裁判所に対し,優先債権者からの手続続行の同意を得るために,同年4月13日まで期限を猶予するよう求めた。
執行裁判所は,同月14日,抗告人の求めた猶予期間中に上記同意の証明がなかったことなどから,本件基本事件の手続を取り消す旨の決定をした(同月16日送達)。
抗告人は,同月21日,執行裁判所に対し,優先債権者である有限会社地産トラストの同意書(同社の資格証明書及び印鑑証明書添付)を提出するとともに,上記送達後1週間以内の日である同月23日,本件執行抗告を申し立てた。
(2)判断 強制競売手続において,買受可能価額が手続費用及び優先債権額の合計額に満たないにもかかわらず当該手続を続行すると,当該優先債権者は,自己の債権の一部しか弁済を受けられないにもかかわらず,自己の担保権が抹消されるなどの不利益を被るので,原則として,当該強制競売手続を取り消すものとされている(民事執行法63条2項本文)。しかし,法定の期間内に,当該優先債権者が当該強制競売手続の続行に同意したことを証明したときは,もはや優先債権者の利益を害するものとはいえないから,当該強制競売手続は続行すべきものとされている(同項ただし書)。
ところで,民事執行の手続を取り消す旨の決定に対しては,執行抗告をすることができ(民事執行法12条1項),当該取消決定は確定しなければ効力を生じない(同条2項)。法定の期間内に前記の証明がされなかったことを理由に,強制競売手続が取り消されても,これに対して執行抗告がされた結果,その確定前に,前記証明がされるに至った場合には,当該強制競売手続を続行しても,もはや優先債権者の利益を害するおそれがなく,あえて当該強制競売手続を取り消す必要がないというべきである。
前記のとおり,抗告人は,本件基本事件の強制競売手続取消決定の後,本件執行抗告を申し立てるとともに,優先債権者による同意を証明したから,あえて当該基本事件の手続を取り消す必要がなくなったというべきである。
3 結論
よって,本件基本事件に係る強制競売手続を続行させるため,これを取り消した原決定を取り消すこととし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 河邉義典 裁判官 森鍵一 裁判官 山崎威)