福岡高等裁判所那覇支部 平成22年(行ス)1号 決定 2010年3月19日
抗告人
那覇市
同代表者市長
翁長雄志
処分行政庁
那覇市福祉事務所長 澤岻郁子
相手方
甲野花子
同代理人弁護士
大井琢
上原智子
松崎暁史
儀部和歌子
伊志嶺公一
横江崇
中村昌樹
高木佳世子
森川清
吉田雄大
平田広志
小久保哲郎
城間さなえ
仲西孝浩
松本啓太
喜多自然
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
(以下,略語,略称等は,原決定のそれに従う。)
1 審理の経過等
(1)相手方(基本事件原告,原審申立人)は,平成21年6月1日,処分行政庁に対し,生活保護の開始を申請(本件申請)したところ,処分行政庁から,同月22日付けで本件申請を却下する旨の処分(本件却下処分)を受けた。
相手方は,審査請求に対する裁決を経た上で,抗告人(基本事件被告,原審相手方)を被告として,本件却下処分を取り消すとともに,処分行政庁が相手方に対して生活保護を開始して生活扶助等を支給することの義務付けを求める訴え(基本事件)を提起し,上記義務付けの訴えを本案として,生活保護を開始して生活扶助等を支給することの仮の義務付けを求める申立て(原審事件)をした。
(2)原決定は,相手方の困窮状態にかんがみ,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があり,かつ,本案について理由があるとみえるとして,抗告人に対し,処分行政庁において生活保護を仮に開始し,保護の程度につき疎明のされた限度で生活扶助等を行うよう命ずる旨の決定をした。
(3)抗告人は,原決定中,相手方の申立てが一部認められた部分を不服として,本件抗告を提起した。
抗告人の主張は,別紙「抗告理由書」(写し),別紙「訂正申立書」(写し)及び別紙「補充書面」(写し)に記載のとおりであり,これに対する相手方の主張は,別紙「反論書」(写し)に記載のとおりである。
2 当裁判所の判断
(1)当裁判所も,相手方が,生活保護の開始決定がされないことにより,健康で文化的な最低限度の生活水準の維持も危ぶまれるほどの困窮状態にあったのに,処分行政庁が本件却下処分をしたことには,裁量権の逸脱があったものと一応認められ,かつ,上記のような困窮状態にかんがみれば,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があるものと判断する。
その理由は,原決定に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)抗告人は,相手方が亡父の遺産(不動産)を取得する権利があると主張する。
しかし,上記不動産は,既に他人名義となっているのであるから(疎乙4ないし7(枝番を含む。)),そもそも相手方が取得し得るものか否かが明らかではない。仮にその点を措くとしても,不動産の現金化には一定の期間を要するのが通例であるから,抗告人の上記主張を前提としても,上記の緊急の必要性が否定されることになるものではない。
また,抗告人は,相手方が年金担保貸付けを利用したり借金等をしていたのに,その事実を秘匿していたことを指摘する。
確かに,相手方は,金銭管理等が適切さを欠く上,生活保護を申請する者として誠実さを欠くと指摘されてもやむを得ない面もないではないが,相手方の上記困窮状態にかんがみれば,上記の裁量権の逸脱が直ちに否定されるものではない。
3 結論
以上のとおりであるから,本件申立ては,原決定の範囲で生活保護を仮に開始することを命ずる限度で理由がある。
よって,これと同旨の原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 河邉義典 裁判官 森鍵一 裁判官 山﨑威)
別紙
抗告理由書(写し)<省略>
訂正申立書(写し)<省略>
補充書面(写し)<省略>
反論書(写し)<省略>