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福岡高等裁判所那覇支部 平成6年(う)11号 判決 1996年8月29日

本店所在地

那覇市西一丁目十六番地一

合資会社ゴールデン観光企画

右代表者無限責任社員

渡久山徹

本籍

同市西一丁目一六番地の一

住居

同市西一丁目六番地一 とくやま産業ビル七〇四

会社役員

渡久山徹

昭和一三年一〇月九日生

本籍

同市繁多川二丁目四五八番地

住居

東京都江東区森下三丁目六番九号 トミヤコーポ五〇一号

会社役員

宇榮原宗一

昭和一一年一月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成六年一月二四日那覇地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官高島剛一出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告人合資会社ゴールデン観光企画(以下「被告人会社」という。)及び被告人渡久山徹(以下「被告人渡久山」という。)の控訴の趣意は、弁護人佐藤義行及び同後藤正幸作成名義の控訴趣意書(一)、控訴趣意書(二)及び意見書並びに弁護人佐藤義行作成名義の弁護要旨に、被告人宇榮原宗一(以下「被告人宇榮原」という。)の控訴の趣意は、弁護人金城睦、同鈴木宣幸及び同藤井幹雄作成名義の控訴趣意書及び弁論要旨にそれぞれ記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官石原誠二作成名義の答弁書及び弁論要旨に記載のとおりであるから、これらを引用する。

一  被告人会社及び被告人渡久山の控訴趣意中、法令適用の誤りの主張(控訴趣意書(一)及び同(二)中の各第一点)について

所論は、要するに、法人税法一五九条一項にいう「第七四条第一項第二号に規定する法人税の額」は、同法七四条一項一号の「当該事業年度の所得の金額」を課税標準として計算されるところ、租税特別措置法六三条(平成三年法律一六号による改正前のもの。以下同じ。)、六三条の二(平成二年法律一三号又は平成三年法律一六号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する土地譲渡益重課税(以下「土地譲渡益重課税」という。)に係る当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額は、当該土地の取得に係る事業年度から譲渡に係る事業年度までの支払利子分や販売費、一般管理費分を経費の額として計算されるもので、右「当該事業年度の所得の金額」には含まれず、土地譲渡益重課税は法人税とは全く異なる租税であって、土地譲渡益重課税のほ脱は法人税法一五九条一項の処罰の対象となるものではなく、他にこれを処罰する規定はないのであるから、これを法人税のほ脱額に加算して処罰することは憲法三一条、三九条に違反し許されないにもかかわらず、原判決は、被告人会社の土地譲渡益重課税を法人税のほ脱額に加算してほ脱に係る法人税額を算出し、そのほ脱につき、被告人会社に対し法人税法一六四条一項、一五九条一項を、被告人渡久山に対し同法一五九条一項をそれぞれ適用したものであり、原判決には法令の適用に誤りがあってその誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

法人税法一五九条一項は、偽りその他不正の行為により、同法七四条一項二号(確定申告に係る法人税額)に規定する法人税の額につき法人税を免れた場合にその違反行為をした者を処罰する旨規定しており、同号に規定する法人税の額とは、当該事業年度の課税標準である所得の金額につき法人税法「第二編 内国法人の納税義務」「第一章各事業年度の所得に対する法人税」「第二節 税額の計算」の規定を適用して計算した法人税の額をいい(同法七四条一項二号、一号)、例えば、右第二節にある同法六六条一項は、内国法人である普通法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、各事業年度の所得の金額に百分の三十七・五の税率を乗じて計算した金額とする旨規定している。ところで、租税特別措置法六三条は、「法人が次の行為(土地の譲渡等)をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法六六条一項から三項までその他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」と規定し、租税特別措置法六三条の二も内容は異なるもののほぼ同様の形式で規定しているが、これらの土地譲渡益重課税に係る規定は、法人の土地に対する投機を抑制するとともに、土地の供給を促進し、右各規定を設けた当時における地価の高騰を防止するため、法人が所定の要件を満たす土地の譲渡等により利益を得た場合、その利益について通常の法人税のほか、租税特別措置法六三条、六三条の二により算出される重課税を課すこととしたものであって、右各規定や同法一条の文言から明らかなように、法人税に係る税額の計算について、法人税法六六条の特例を定めたものである。そして、租税特別措置法により、法人税に係る税額の計算について、法人税法の特例が設けられている場合には、法人税法七四条一項二号の「前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額」とは「租税特別措置法に規定された、法人税に係る税額の計算についての法人税法の特例を適用して計算した法人税の額」をいうものと解すべきであるから、土地譲渡益重課税の額は、法人税法一五九条一項にいう「七四条一項二号(確定申告に係る法人税額)に規定する法人税の額」に含まれるものであり、これを加算して本件ほ脱額を算出し、これに法人税法一六四条一項、一五九条一項を適用して、被告人会社及び被告人渡久山を処断した原判決には所論のような違法はないというべきである。

なお、所論は、被告人会社の土地譲渡益重課税の額をほ脱額に加算するのであるならば、法令の適用において、法人税法一六四条一項、一五九条一項のほかに、租税特別措置法六三条、六三条の二を掲げるべきであるのに、その摘示を欠いた原判決には、理由の不備があるとも主張するが、有罪判決を言い渡す際に法令の適用を示すのは、事実に対する刑罰法的評価を示し、かつ、主文の刑が導き出される法令上の根拠を明らかにするためであって、非刑罰法規まで摘示する必要はないと解されるところ、租税特別措置法六三条、六三条の二は、法人税に係る税額の計算について法人税法の特例を定めた非刑罰法規であるから、法令の適用としてこれを示さなければならないものではなく、刑罰法規として刑法六〇条、法人税法一六四条一項、一五九条一項のみを適用法令として摘示した原判決に所論の違法はない。

二  被告人会社及び被告人渡久山の控訴趣意中、収益計上時期等に係る事実誤認の主張(控訴趣意書(一)中第二点)について

所論は、要するに、被告人会社は、昭和六三年、東京合商株式会社(以下「東京合商」という。)に対し、昭和六一年一月に株式会社リウスイ(以下「リウスイ」という。)から買い受けた那覇市西三丁目九番一ほか七筆の土地(以下「西三丁目土地」という。)を代金三八億七五〇〇万円で売却した(以下、この売買を「本件一売買」という。)が、昭和六三年五月二六日に、右代金の約五七パーセントに当たる二二億三〇〇〇万円を受領し、これと引換えに東京合商に対し条件付所有権移転仮登記をしており、右の時点で、本件一売買による利得を実質的に管理支配するに至ったものであって、右売上高三八億七五〇〇万円は、昭和六三年一二月期に計上されるべきであるのに、原判決は、これを平成元年一二月期の益金の額に算入して被告人会社の平成元年度の所得に対する法人税の額を認定したものであるから、原判決は、法人税法二二条一項、二項の解釈を誤り、ひいては事実を誤認したものであって、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

法人税法二二条二項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とする旨定め、同条四項は、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨定めている。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解される。

そこで、どの時点で本件一売買に係る収益の実現があったかについて検討するのに、関係各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  被告人会社は、昭和六一年一月二一日、リウスイから、西三丁目土地を代金二一億七四〇二万五〇〇〇円で買い受けた。当時、西三丁目土地上には他に賃貸しているリウスイ所有の建物(以下「本件建物」という。)があったが、右売買契約の際、リウスイは本件建物を撤去して西三丁目土地を被告人会社に引き渡すこととされた。

2  被告人会社は、西三丁目土地の売却先を探していたが、仲介人から東京合商を紹介され、同社と交渉を始めた。東京合商は、西三丁目土地上にホテルを建設するつもりであったため、リウスイから本件建物を撤去することの合意を取り付けるよう被告人会社に要求し、被告人会社は、これを受けてリウスイからその旨の約束を取り付け、昭和六三年五月二六日、東京合商との間で、西三丁目土地を代金三八億七五〇〇万円で売却する旨の契約(本件一売買)を締結した。その際、被告人会社は、条件付所有権移転仮登記手続をするのと引換えに東京合商から内金二二億三〇〇〇万円を受領したほか、両者の間で、残金の支払方法について、東京合商は、西三丁目土地上の計画道路について都市計画変更決定告示後一か月以内に仮登記に基づく所有権移転本登記手続を受けるのと引換えに中間金として一二億五七五〇万円、平成元年五月二五日までに西三丁目土地の引渡しを受けるのと引換えに残金三億八七五〇万円をそれぞれ支払うこと、西三丁目土地の所有権は、中間金支払と同時に、東京合商に移転すること、被告人会社は、自己の負担と責任において本件建物を撤去し、平成元年五月二五日までに残金の支払を受けるのと引換えに、西三丁目土地を東京合商に引き渡すこと、被告人会社の違約により本件一売買が解除されたときは、被告人会社は、既収の売買代金額のほか売買代金の二割に相当する金額を東京合商に支払うことが合意された。

3  その後、平成元年になって、被告人会社は、西三丁目土地について新しい買い手がいるとの話が持ち込まれたため、西三丁目土地を東京合商から買い戻し、これを新しい買い手に転売して儲けようと考え、東京合商との間で買戻しの交渉を重ねると同時に、転売先とも売買交渉を進めた結果、同年四月一四日、被告人会社は、東京合商との間で、西三丁目土地を五〇億二五〇〇万円で買い戻す旨の契約(以下「本件二売買」という。)を締結すると同時に、転売先であるリビング住販との間で、右土地を五四億六六一二万円で売却する旨の契約(以下「本件三売買」という。)を締結した。この当時も、なお、西三丁目土地上には本件建物が存し、本件三売買の際には、被告人会社は平成元年七月三〇日までに本件建物を撤去し、右土地を更地の状態にしてリビング住販に引き渡すこととされた。

4  本件二、三売買に先立って、同年四月三日ころ、被告人会社は、本件一売買について、東京合商に対し西三丁目土地に係る所有権移転登記手続をするのと引換えに、東京合商から中間金一三億四五〇〇万円の支払を受けた。東京合商の本件一売買に係る残金三億円の支払債務は、その後、被告人会社の本件二売買に係る同額の代金支払債務と相殺された。

5  同年夏すぎころ、本件建物の賃借人の立退き問題が解決し、被告人会社は、平成元年九月、リビング住販に西三丁目土地を引き渡すのと引換えに同社から本件三売買に係る残代金の支払を受けた。

右認定事実に照らすと、昭和六三年五月の段階で、被告人会社は、東京合商に対し、西三丁目土地の条件付所有権移転仮登記手続をし、それと引換えに売買代金の約五七パーセントに相当する内金二二億三〇〇〇万円を受領しているが、なお、西三丁目土地には本件建物が存しており、被告人会社としてはその賃借人を立ち退かせて本件建物を撤去した上で西三丁目土地を東京合商に引き渡さなければならず、東京合商としても西三丁目土地上にホテルを建設する予定で右土地を買い受けたのであり、更地として西三丁目土地の引渡しがされるか否かは本件一売買の効力を左右するものというべきであるから、右昭和六三年五月の時点において、本件一売買の代金(三八億七五〇〇万円)に係る収益が実現し、その収入すべき権利が確定したとはいえず、被告人会社が平成元年四月に東京合商に対し西三丁目土地の所有権移転登記手続をし、中間金一三億四五〇〇万円を受け取り、さらに、西三丁目土地を東京合商から買い戻すことになり、東京合商との関係では本件建物を撤去する必要がなくなった時に本件一売買に係る収益が実現し、その収入すべき権利が確定したものと解するのが相当である。

したがって、本件一売買に係る売上高三八億七五〇〇万円を平成元年一二月期の益金の額に算入することを前提として被告人会社の平成元年度の所得に対する法人税の額を認定した原判決には、法人税法二二条一項、二項の解釈の誤りはもちろん、所論のような事実の誤認もないから、所論は採用することができない。

なお、所論は、西三丁目土地の引渡しがされた日の属する事業年度に、その売却に係る収益を計上するというのであれば、被告人会社は、東京合商に右土地の引渡しをしないうちに東京合商との間で本件一売買を合意解除し、平成元年四月、リビング住販に対し、西三丁目土地を売却して(本件三売買)これを同社に引き渡したのであって、結局、西三丁目土地については、被告人会社からリビング住販に対する売買がされたに止まるから、被告人会社の西三丁目土地の譲渡については短期所有土地等に該当するものの譲渡として租税特別措置法六三条を適用すべきであるのに、原判決は、超短期所有土地等に係る土地の譲渡等として同法六三条の二を適用して被告人会社の平成元年度の所得に対する法人税の額を認定した違法があるとも主張するので、この点について判断するに、被告人会社は、西三丁目土地について新しい買い手がいると聞いて、これに転売して儲けようと考え、右土地上にホテルを建設しようとしている東京合商を説得してこれを買い戻したものであること、その買戻し金額も五〇億二五〇〇万円であり、被告人会社の債務不履行により本件一売買が解除された場合に被告人会社が支払うべきこととされた金額を数億円も上回るものであることを考慮すると、本件二売買は、被告人会社が西三丁目土地をリビング住販に転売して利益を上げるために従前の売却先であった東京合商から右土地を仕入れるためにしたものと解され、実際、本件二売買と本件三売買は同じ日にされているのであるから、本件三売買について超短期所有土地等に係る土地の譲渡等として同法六三条の二を適用して被告人会社の平成元年度の所得に対する法人税の額を認定した原判決に所論の違法はない。

以上のとおりであるから、論旨は理由がない。

三  被告人会社及び被告人渡久山の控訴趣意中、損金不算入に係る事実誤認の主張(控訴趣意書(二)中第二点)について

所論は、要するに、被告人会社が、南陽産業株式会社(以下「南陽産業」という。)又は被告人宇榮原に支出した金員は、南陽産業が支払うこととなっていた土地譲渡益重課税の原資又は南陽産業若しくは被告人宇榮原に対する報酬若しくは手数料であり、仮にそのすべてが違法行為のための支出であるとしても、企業会計上費用性を有するものである限り損金算入が認められるのであるから、右支出に係る金員のうち三億六二二八万六〇〇〇円は被告人会社の平成元年一二月期の損金に、一億二七五四万円は同平成二年一二月期の損金にそれぞれ算入されるべき金額であるのに、これを右各期の損金に算入しなかった原判決には、法人税法二二条三項、四項の解釈を誤り、ひいては事実を誤認したものであって、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

そこで、検討するに、関係各証拠によれば、被告人渡久山は、被告人宇榮原との間で、被告人会社の不動産取引に被告人宇榮原の経営に係る南陽産業等をダミーとして介在させてその売上高の全部又は一部を除外するなどの方法により所得を秘匿して法人税を脱税することを画策し、その謝礼として除外に係る売上高等の一五パーセント又は二〇パーセントを被告人宇榮原において取得することを合意したこと、所論のいう被告人会社が被告人宇榮原又は南陽産業に対し支出した金員は、被告人宇榮原が右脱税に協力したことに対する謝礼金であることが認められる。

ところで、法人税法二二条三項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、売上原価等の原価の額、販売費、一般管理費その他の費用の額、資本等取引以外の取引に係る損失の額とする旨定め、同条四項は、これらの額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定しているが、右認定に係る被告人宇榮原への謝礼金は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用として損金の額に算入する会計処理もまた、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものであるということはできないと解するのが相当である(最高裁判所平成六年九月一六日第三小法廷決定・刑集四八巻六号三五七頁参照)。したがって、右支出について平成元年一二月期及び平成二年一二月期の各期の損金の額に算入しなかった原判決には、法人税法二二条三項、四項の解釈の誤りはもちろん、所論のような事実の誤認もないから、論旨は採用することができない。

四  被告人らの控訴趣意中、量刑不当の主張(被告人会社及び被告人渡久山に係る控訴趣意書(一)中第三点、被告人宇榮原に係る控訴趣意書)について

所論は、要するに、被告人会社に対し罰金三億円、被告人渡久山に対し懲役二年六月、被告人宇榮原に対し懲役一年六月の各実刑を言い渡した原判決の量刑は重きに過ぎ、特に被告人渡久山及び被告人宇榮原に対してはその刑の執行を猶予すべきであるというのである。

そこで、記録を精査して原判決の量刑の当否を検討するのに、本件は、原判示のとおり、不動産の売買等を目的とする合資会社である被告人会社の業務に関し、その経営者の被告人渡久山と株式会社等を経営する被告人宇榮原が、被告人会社の経理担当者と共謀のうえ、被告人会社の法人税を免れようと企て、被告人会社が行った不動産取引に被告人宇榮原の経営する会社をダミーとして介在させてその売上の全部又は一部を除外するなどの方法により所得を秘匿し、二事業年度にわたる被告人会社の実際の所得金額及び課税土地譲渡利益金額がいずれも合計二〇億円近くあったにもかかわらず、初年度はいずれも零円で納付すべき法人税額はない旨の、次年度は欠損金が約八〇〇〇万円、課税土地譲渡利益金額が約一六〇〇万円でこれに対する法人税額が約二五〇万円である旨の虚偽の申告をして、正規の法人税額合計一二億七九〇〇万円とその申告税額との差額約一二億七六五〇万円の法人税を免れたという事案であり、被告人会社のほ脱額が巨額である上、ほ脱率は約九九・八パーセントと非常に高く、ほ脱の態様も、資産も収益もないダミー会社に売上が帰属するように装い、国税当局による金銭の流れの追及を困難にするため、転売先からダミー会社名義の銀行預金口座に入金させた代金を外国人名義の銀行預金口座に振り込んで入金してこれを引き出し、予め設けていた借名、仮名の銀行預金口座に入金したり、無記名の割引債券を購入して蓄財するなど周到かつ巧妙で計画的であるほか、ほ脱に係る法人税については未だにその大半が納められておらず、その国庫及び社会一般に与えた影響をも考慮すると、本件は、極めて重大かつ悪質な脱税事犯といわざるを得ない。

被告人らの量刑事情を個別にみるに、被告人会社は被告人渡久山を唯一の無限責任社員とする合資会社であるところ、被告人渡久山は、前記の脱税の巧妙な手口については被告人宇榮原から持ちかけられたものであるとはいえ、不動産取引の話が舞い込んでくる都度、ダミー会社を利用することを進んで決断するなど、その実行面においては終始主体的、積極的に行動したものであり、脱税の動機も、被告人会社の不動産取引の際に必要となる取引相手に対する裏金の資金等被告人会社の運営資金を得るほか、多額の税金を納めるのを回避するためというのであるが、後者の点はもちろんのこと、前者の点についても裏金自体が取引相手の脱税に協力することになりかねないことを考慮すると、到底酌量の余地はないというほかない。また被告人渡久山は本件ほ脱に係る二期分の法人税について後記のとおり納めてきたもののその金額自体は延滞税にも満たない。これらの諸情状を併せ考えると、被告人会社及び被告人渡久山の刑事責任は重いといわざるを得ない。したがって、被告人渡久山が、国税当局による査察当時から事実を概ね認めており、被告人会社の代表者として、国税当局の指導に基づき、本件ほ脱に係る二期分の修正申告書を税務署長に提出し、ほ脱に係る法人税について、原判決後も、毎月五〇万円支払ってきたほか、所有物件を処分するなどして一億五五〇〇万円を支払うなど法人税を完納するために努力し、脱税行為の重大性を認識して反省の態度を示していること、被告人会社が原判示の罰金刑に、被告人渡久山が実刑にそれぞれ処せられた場合に被告人会社の事業に生じる影響その他所論が指摘する被告人会社及び被告人渡久山に有利な情状を十分に斟酌しても、被告人会社に対し罰金三億円、被告人渡久山に対し懲役二年六月の各実刑に処した原判決の量刑が重きに過ぎるとは認められない。

被告人宇榮原は、被告人会社の本件ほ脱行為のすべてに関与したわけではなく、被告人渡久山の指示を受け、ダミー会社の代表者として行動するという従たる立場にあったことは否定できないが、被告人会社の不動産取引の際に介在させるダミー会社として自己の経営する会社を利用することや国税当局からの金銭の流れの追及を困難にするため転売先からダミー会社名義の銀行預金口座に入金させた代金を外国人名義の銀行預金口座に振り込んで入金することなどを被告人渡久山に提案して被告人会社の脱税に協力し、被告人宇榮原の関与に係るほ脱額は本件ほ脱額の大半を占めており、現に脱税に協力した謝礼として五億円余を取得しているのである(なお、所論は、被告人宇榮原には違法性の認識がなかったと主張するが、被告人宇榮原の右の行為に照らしても、到底、同被告人に違法性の認識がなかったとはいえない。)。その動機も、パラオ共和国における都市開発事業の資金にするために、脱税に協力して報酬を得ることが必要であったというのであり、手段を選ばず安易に資金を獲得しようと脱税に協力したものであって酌量の余地はない。被告人宇榮原は、この点に関連して、右事業が成功した場合には、被告人会社の納税分まで含めて法人税を全額納めるつもりであったと供述するが、他方、同被告人は、右事業を成功させるには最終的に数千億円の資金が必要であり、その資金を得るためにパラオへの永住者を募集しなければならないが、その前提となるパラオでの永住権取得の問題の処理等に一〇億円から三〇億円の資金が必要となるとも供述しており、被告人宇榮原の供述を前提にしても、右事業の成功は極めて不確実であり、少なくともその成功には多年を要し、被告人宇榮原が、被告人渡久山に対して約束した二年間のうちに本件ほ脱に係る法人税全額を納めることができないことは明らかであったのであって、当時、被告人宇榮原が、本当に、二年間のうちに右事業を成功させて被告人会社の納税分まで納めるつもりでいたのか疑問であり、仮に、被告人宇榮原に当時そのような意思があったとしても、これを動機の面において斟酌する余地はなく、以上の諸情状を併せ考えると、被告人宇榮原の刑事責任も重いといわざるを得ない。したがって、被告人宇榮原が、国税当局による査察当時から事実を概ね認め、同被告人の経営する会社が本件脱税行為によって謝礼金を得たことによる法人税を完納するために努力するなど、脱税行為の重大性を認識して反省の態度を示していること、同被告人には前科前歴がないこと、同被告人が実刑判決に処せられた場合に同被告人の経営する会社の事業に生じる影響その他所論が指摘する同被告人に有利な情状を十分に斟酌しても、被告人宇榮原に対し懲役一年六月の実刑に処した原判決の量刑が重きに過ぎるとは認められない。

論旨はいずれも理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 裁判官 伊名波宏仁)

平成六年(う)第一一号法人税法違反被告控訴事件

控訴趣意書(一)

被告人 合資会社ゴールデン観光企画

同 渡久山徹

右被告人らに対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成六年四月八日

第一点 法令の解釈・適用の誤り

原判決は、法人税に非ざる租税特別措置法第六三条による短期土地譲渡益および同法第六三条の二による超短期土地譲渡益に係る右各法条による税率を乗じて算出した税額の逋脱につき被告人渡久山徹に対し、法人税法一五九条一項、被告人会社につき同法一六四条一項、同法第一五九条を各適用し、同法違反をもって処断したことは、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈ならびに適用の誤りであるので、その破棄を求める。

一、原判決は、

判示第一において「昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一五億九〇一五万二六五〇円(カッコ内省略)課税土地譲渡利益金額が一四億二九四九万五〇〇〇円であったにもかかわらず・・・所得金額及びは課税土地譲渡利益金額がいずれも零であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(カッコ内省略)を提出し、・・・同会社の右事業年度における正規の法人税額九億八九〇六万四八〇〇円(カッコ内省略)を免れた」とし、次いで

判示第二において、「平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が四億五一三万八二五六円(カッコ内省略)で、課税土地譲渡利益金額が五億五一四一万八〇〇〇円であったにもかかわらず・・・欠損金が八〇八〇万八五六四円、課税土地譲渡利益金額が一六四〇万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二五〇万三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(カッコ内省略)を提出し・・・同会社の右事業年度における正規の法人税額二億八九九七万七九〇〇円と右申告税額との差額二億八七四七万七六〇〇円(カッコ内省略)を免れた」

旨を判示したうえ法令の適用として被告人渡久山徹(以下「被告人渡久山」という)及び宇榮原につき刑法六〇条、法人税法一五九条一項、合資会社ゴールデン観光企画(以下「被告人会社」という)につき法人税法一六四条一項、一五九条一項を各適用している。

二、これを要するに、原判決は、法人税の逋脱についてのみならず、短期課税土地譲渡利益に係る租税特別措置法六三条一項所定の税率を乗じた税額と超短期課税土地譲渡益に係る同法六三条の二所定の税率を乗じた税額(以下両税を併せて、実務上一般に用いられている「土地譲渡益重課税」ともいう)をも法人税の逋脱犯として法人税法一五九条一項を各適用し、処断していることは一見極めて明白である。

三、しかしながら、以下によって明らかなように右土地譲渡益重課税は、法人税とはとうてい言い得ず、また租税特別措置法六三条に規定する(短期)土地譲渡益重課税も同法六三条の二に規定する(超短期)土地譲渡益重課税についても偽り不正の行為により税を免れた場合の罰則規定は存在しない。

四、よって、原審で、逋脱所得金額とされた課税土地譲渡利益金額(短期)および課税土地譲渡利益金額(超短期)に対する土地譲渡益重課税は、法人税法七四条一項二号にいう法人税には含まれず、法人税の逋脱税額とはならない。従って、この土地譲渡益重課税分については刑訴法三三九条一項二号に基づき、公訴棄却の判決をすべきであったにもかかわらず、土地譲渡益重課税についても法人税法違反をもって処断をした原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈・適用の誤りがあり破棄せらるべきである。

五1、法人税法一五九条一項は、「偽りその他不正の行為により、第七四条一項二号(確定申告に係る法人税額)(中略)に規定する法人税の額につき法人税を免れ(中略)た場合には、法人の代表者(中略)でその違反行為をした者は、五年以下の懲役若しくは五〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定し、同条二項は、同条一項の免れた法人税の額につき罰金刑を課すものとしている。即ち、同条違反の犯罪構成要件要素としては、同法七四条一項二号に規定する法人税の額につき法人税を免れた場合でなければならないのである。

2、では、同法七四条一項二号にいう法人税の額とは何を意味するのか。

同法七四条一項二号では「前号に掲げる所得の金額につき前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額」と規定している。このことから、まず第一に課税物件は、「前号に掲げる所得」であり、第二に、その課税標準は法人の各事業年度の所得の金額(法人税法二一条)であり第三に税額の計算方法は「前節の規定を適用して得られた法人税の額」でなければならないことが明らかである。

そして、この第一の「前号に掲げる所得」とは、同法七四条一項一号により「当該事業年度の課税標準である所得」と明確に規定されており、この「当該事業年度の課税標準である所得」とは、同法二一条により、「事業年度の所得の金額」を意味する。さらにこの所得の金額の計算は、同法二二条の定めるところによるものであることが法文上も明らかである。

3、しかるに土地譲渡益重課税の対象となる課税土地譲渡利益金額は、同法七四条一項一号にいう「当該事業年度の所得の金額」にはあたらない。

(一) 原審の「犯罪事実」の記載においても、第一、第二の各事業年度毎に、実際所得金額と課税土地譲渡益金額とをそれぞれ分別して判示している。

このことは、当該各事業年度の法人税の課税標準は当該各「事業年度の所得の金額」であり、課税土地譲渡益は「事業年度単位の益金の額から損金の額を控除した額」(法人税法二二条一項)とは全く課税物件および課税標準を異にするものであることから区分・分別せざるを得ないこと、換言すれば両者の課税所得金額の計算と課税標準そのものが全く異なることに基因することを意味し、現に原判決別紙2および別紙4においても法人税法所定の所得金額および税額と課税土地譲渡利益の短期・超短期の各金額とこれに対応する各土地譲渡益重課税額を明確に分離計算しているのである。

即ち、原審判決自ら「実際所得金額」は、法人税法二一条にいう当該「事業年度の所得の金額」に当り、「課税土地譲渡利益金額」はこれに当らないことを認めていることに外ならないのである。

(二) それにもかかわらず土地譲渡利益金額を法人税の逋脱金額に含まれるものとし、本件土地譲渡利益金額に対応する二〇パーセント(短期)および三〇パーセント(超短期)の土地譲渡益重課税を法人税の額に包含せしめて処断した原判決には二つの大きな解釈上の誤りがある。

(1) 即ち、誤りの第一点は、所得と土地譲渡利益金額とを混同をしている点である。

推認するに原判決は、租税特別措置法六三条一項(平成三年法律第一六号による改正前のもの。同法六三条の二についても以下同じ)の文言が各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法で計算した法人税の額に、「土地譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額とする。」となっており、六三条の二も同様の規定となっているところから、土地譲渡利益金額も法人の当該事業年度の所得に当るのだと解したのではなかろうか。

(2) そこで、租税特別措置法六三条を注意深く読むと「各事業年度の所得に対する法人税」という言葉と、「法人税法によって計算した法人税」という二つの言葉とを区別して用いていることが明らかである。そして、この「各事業年度の所得」という課税物件については、法人税法にいう「各事業年度の所得」を意味すると解するか、それとも、ここでいう「各事業年度の所得」とは、法人税法でいう「各事業年度の所得」とは別の所得を意味すると解するか、そのいずれでしかありえない。

租税特別措置法六三条、六三条の二(以下両条を併せて便宜上「六三条」と言う場合もある)では、何ら明確な課税物件および課税標準についての定義規定を置いていないところから法解釈の原則から言えば、ここでいう「各事業年度の所得」とは、法人税法二一条・二二条によって求められる「各事業年度の所得」を意味すると解することも充分に理由のあることである。

しかし、このように解すると、租税特別措置法六三条の「各事業年度に対する法人税額」という文言は、次の「法人税法によって計算された法人税」という文言にのみかかることになり、全体の文意が不明になってしまう結果となる欠点を有することになる。

その意味からすると、この租税特別措置法六三条でいう「各事業年度の所得」というのは、法人税法でいう「事業年度の所得」とは別の、いわば広い意味での「事業年度の所得」を意味する、即ち、具体的には、法人税法にいう「事業年度の所得」と事業年度中の土地譲渡利益金額とを含んだものを意味する、と解釈せざるを得ない。

(3) これに対し、原判決は、この広い意味での「事業年度の所得」という文言と、法人税法にいう「事業年度の所得」という文言とを混同し、ひいては、課税物件たる「所得」と課税標準たる「所得金額」すら同一概念と誤解したうえ法人税法にいう「事業年度の所得」の中に本件各事業年度中に生じた土地譲渡利益金額が含まれると判示していることになる。

(4) しかして、租税特別措置法六三条、六三条の二に規定するいわゆる土地譲渡益重課税は、所有期間一〇年(短期)または二年(超短期)未満の土地の譲渡に係る当該土地の個別的純利益の概算額(租税特別措置法施行令三八条の四第六項)の合計額(事業年度単位)を課税標準として、期間的所得金額(法人税法にいう所得金額)と別個独立に重加的・追加的に課する税であるから、当該事業年度において、法人税法の所得計算によって当該事業年度の所得金額につき欠損を生じた法人に対しても課せられるものである。

このように、法人税法にいう「事業年度の所得」と租税特別措置法六三条、同法六三条の二にいう「事業年度の所得」とは全く別個の概念であるにもかかわらず、原判決は、何ら区別せず、単純に合算して逋脱税額を算定するという決定的誤りすら犯しているのである。

(5) さらに、原判決は、右(4)にみた誤りに加えて、租税特別措置法六三条・同法六三条の二を法人税の税率に関する特別規定であると解する二重の誤りを犯している。

税額は、課税標準に一定の税率を乗じて算出されるものであるが、もし、原判決が右両法条を法人税の税率に関する特別規定であると解したとするならば、課税標準そのものは法人税法も租税特別措置法六三条・六三の二も共通のもので税率のみが異なるものでなければならないはずである。

にもかかわらず、前述したように租税特別措置法六三条・六三条の二の土地譲渡益重課税の課税標準は、法人税法二一条二二条および七四条一項一号にいう「当該事業年度の所得の金額」とは全く別個の、当該年度の土地譲渡利益金額なのである。従って、どのように計算ないし考慮しても、共通の課税標準となることはないのである。

そこで、土地譲渡益重課税制度と土地譲渡利益金額の計算方式の大略(骨子)を短期土地譲渡利益金額に対する土地譲渡益重課税制度を中心に検討してみる。

<1> 土地譲渡益重課税は、租税特別措置法(以下「租特法」ともいう)六三条一項により「当該法人・・・に対して課する各事業年度の所得に対する法人税・・・の額は、・・・法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」と定めているので、各事業年度の所得に対する法人税の特別付加税であると共に、二〇パーセントの税率による追加的分離課税である。従って、欠損法人にも課税されることとなり、法人税法上の法人税とその性格を異にし、人税としての性格・性質を失わせている。

<2> この課税は、必ずしも各事業年度の所得に対する課税でないこと(超短期土地譲渡利益で、同一事業年度中に所得し、同一事業年度内に譲渡した場合に限っては、事業年度の所得に対する重課税となる)。

<3> 譲渡利益金額は、土地譲渡益課税の課税標準に相当するものである(法人税法詳説昭和六一年版三八九頁・吉牟田勲 中央経済社)と共に、土地の譲渡等に係る収益金額(対価)から、その収益に係る譲渡原価の額および土地の譲渡等のために直接または間接に要した経費の額(弁護人注・この条文から収益金額から控除の対象となる経費の額が明確になると考える者は一人でもいるであろうか)を控除した残額をいうものとされている(租特法六三条二項)。従って右にいう「経費の額」は、法人税法二二条一項、同条三項でいう「当該事業年度の損金の額」とは全く異なり、既に、「当該事業年度の損金の額」に算入された金額のうち、土地の譲渡に係る収益に対応する原価の額と当該土地の取得の日から譲渡の日までの「土地の譲渡等のために直接または間接に要した経費の額」を控除するのであるから、法人税法が定める「当該事業年度」、換言すれば事業年度を単位とする期間損益計算という法人税法二二条四項でいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される」ものでもないことになり、租特法六三条の見出しにもかかわらず、単に法人税の特別税率に関する規定でないことも明らかである。

<4> では、右にいう「直接または間接に要した経費の額」は、いかなる方法で確認し、計算されるべきか、租特法六三条(短期)も、同法六三条の二(超短期)も各第二項で、あげて政令に委任し、両条とも「土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額として政令で定めるところにより計算した金額」とのみ規定している。

<5> そこで右の「直接又は間接に要した経費の額」を定めた、租税特別措置法施行令三八条の四を次に検討してみることとする。

同令同条第六項は、「直接又は間接に要した経費の額」につき、いわゆる概算計算方式によることを原則とし(このことは同令同条第八項の、いわゆる実額計算方式につき「法人が第六項第一号又は第二号に掲げる金額に係る経費の額につき、…当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に計算して…法人税申告書…に記載した場合には、第六項の規定にかかわらず、当該計算した金額をもって当該土地の譲渡等に係る同項各号に掲げる金額とすることができる。」と規定しているところから、同条六項の概算計算方式が原則で、八項の実額計算方式が例外であることは明らかである)、本件においても概算計算方式が証拠として採用されている(原判決四丁裏掲記の課税土地譲渡利益金に対する税額(土地譲渡税額)調査書」参照)。

ところで、この概算計算方式なるものは、次により計算することとされている(同令同条第六項)。

<イ> 支払利子分。各期末の帳簿価額の累計額の六パーセント

<ロ> 販売費および一般管理費分(以下「販管費分」という)。各期末の累計額の四パーセント

右で明らかなように、本件平成元年、同二年およびその一〇年前の間の、いわゆるバブル経済時代の中小企業に対する市中貸出平均金利は六パーセントより、はるかに高金利であり、実態と乖離するとともに、販管費の四パーセントに至っては、何らの合理的根拠も示されていない。これを要するに、法人税法の基本原則たる事業年度単位の期間損益計算(法人税法二一条、二二条一項、四項)を無視し地価高騰の迅速な抑制という政策の目的のみに立法技術が傾斜したところにある。このため、概算計算法によって税額計算が可能であることを政令で宣明したのであるから、課税物件たる所得や課税標準たる所得金額の計算や申告は概算で良いのではないか、という風潮さえ生じ、我国の納税倫理感を著しく害する弊害すら生じたのである。

多少駄足にわたる点もあったが、弁護人がここで言いたいのは、右の法人税法上の期間損益計算の原則を無視し一〇年間にわたる経費の額につき概算法を原則とした土地譲渡益重課税は、法人税とは、全く性格を異にし、法人税法違反をもって処断し得るものではないという点にある。

六、次に保護法益は何かについて法人税と土地譲渡益重課税を対比してみる。法人税の逋脱犯が実質犯であり、その保護法益は、国の財産権であることについて異論・異説はない。しかるに土地譲渡益重課税の保護法益は、短期たると超短期たるとを問わず、両者共に地価の高騰抑止・抑制にあることもまた異論を見ない。よしんば、土地譲渡益重課税にも、いくばくかの財政収入確保の趣旨・目的があると仮定しても、それは副次的、二次的保護法益に過ぎない政策税であることに思いを至せば、この点からも土地譲渡益重課税を法人税法違反として処断することの誤りは明白である。

七、これを要するに法人税法一五九条一項の構成要件である同法七四条一項二号の法人税は、同法七四条一項一号の「当該事業年度の所得」を課税標準とするものであるから、土地譲渡益重課税の譲渡利益金額は、それには含まれない。従って、この土地譲渡益重課税分は刑事罰の対象となる「法人税」ではなく、犯罪事実には該らないと解する外はない。

八、もし原判決が、租税特別措置法六三条・六三条の二にいう「事業年度の所得」と法人税法二一条・二二条にいう「事業年度の所得」が、同一であると解して、それを同法一五九条一項にいう法人税の中に含まれるとして処断したとすれば、それは憲法三一条の罪刑法定主義に明らかに反する解釈に基づく運用であるといわざるを得ない。

1、前述において詳論したように、租税特別措置法六三条・六三条の二にいう「事業年度の所得」と法人税法にいう「事業年度の所得」とは全く別個の概念である。

2、そして、この租税特別措置法六三条六三条の二にいう「事業年度の所得」は、法人税法にいう「事業年度の所得」と土地譲渡益重課の対象となる課税土地譲渡利益金額とを含んだものである。

これに対し、法人税法一五九条一項の構成要件要素である同法七四条一項二号の法人税の課税標準は、同項一号の「事業年度の所得」であると明示している。にもかかわらず、この「事業年度の所得」を更に拡張して租税特別措置法六三条・六三条の二にいう「事業年度の所得」をも意味すると解することは、明らかに罪刑法定主義に反する解釈であるといわざるを得ない。

3、構成要件の解釈から、当然には処罰根拠法条が見出せない場合には、法は、新たな構成要件および刑の種類を規定して処罰するという態度をとるのが、罪刑法定主義の当然の要請であることは言うまでもない。

4、そして、罪刑法定主義の理解において、いかなる学説判例においても、刑事罰における類推解釈が禁止されているのは言うまでもない。許されない類推解釈として、昭和二四年の人事院規則一四-七「政治的行為」五項一号にいわゆる「特定の候補者」に「立候補しようとする特定人」を含むものとした原判決を破棄した判決(最判昭和三〇・三・一集九・三・三八一)があるが、判旨にいわく「用語の普通の意義からいって無理があり、同規則の他の条項ないし他の場合との関係で、是非そのように解さなければならないような特段の根拠があるわけでもないのに、『国家公務員法一〇二条の精神に背反する』というような理由から、刑罰法令につき類推拡張解釈をとることは、明らかに不当」と明快に述べている。

5、本件の場合にあっては、まさに課税標準を全く異にする土地譲渡益重課税を法人税法七四条一項二号、同項一号に該る法人税と解釈することは、前述の判例も述べているような「用語の普通の意義からいっても無理であり」「刑罰法令につき類推拡張解釈を」とった場合に該ると解さざるを得ず違憲の判決たるを免れない。

九1、法人税を講学上、人税と物税に分類した場合、人税に属することについては異説はない。

人税は基本的な税法の教科書にすら記載されているように「所得又は財産が帰属する人の生存、居住に着目し、総体的な担税力を斟酌して課するのが人税であり」(租税法(新版)五頁・田中二郎著・法律学全集 有斐閣)と説明されているように、人税たる法人税は法人の「総体的な担税力を斟酌して課する」ものである。

しかるに租税特別措置法六三条一項の短期土地重課税の規定は、「法人が次に掲げる行為(以下の条において「土地の譲渡等」という。)をした場合には、当該法人・・・に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額(弁護人注・法人税法二二条一項参照)・・・その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする」(以下略)と規定している。従って本件の如く、継続事業に係る右にいう「各事業年度の所得に対する法人税の額」が零または、所得金額もしくは法人税の額がマイナス、つまり赤字法人に対しても、換言すれば、法人税の担税力皆無の法人に対しても、租税特別措置法六三条所定の土地の譲渡益が発生すれば、土地譲渡以外の営業について欠損が生じ当該事業年度のトータルとしての所得(課税所得金額)が無い場合でも短期土地譲渡益重課税は課税されることになる。

このことは、超短期土地譲渡益重課税の場合も同様であることは、租税特別措置法六三条の二第一項が「法人が・・・超短期所有土地等に係る土地の譲渡をした場合には、当該法人・・・に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額・・・は、法人税法第六六条第一項から第三項まで・・・その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該超短期所有土地等に係る土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の三十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする」と規定しているところから明らかである。

一〇1、以上みてきたとおり、土地譲渡益重課税は、事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額(法人税法二二条一項)が無く、法人税法二一条に定める法人税の課税標準たる所得の金額が零または欠損であっても課税するのであるから法人税ではない。

これをしても、法人税であると強弁するのであれば、法人税が人税であることすら否定することとなり、我国税制の根幹と所得税体系を覆す暴論と言うべきである。

2、租税は、今更言うまでもなく、「国または地方公共団体が財政収入を得て、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、特別の給付に対する反対給付としてではなく、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」(同旨、租税法第三版八頁・金子宏・弘文堂、田中二郎前掲書一頁)。

しかし、今日の租税は、右の如く、国または地方公共団体の財政収入の確保とか、団体の経費に充てるための財力調達の目的(田中二郎前掲書一頁)のみではなく、富の再配分機能と、景気調整機能の二つが租税の重要な機能として作用していることは多言を要しない。

後者の景気調整機能は、正に政策税制であり、本件では問題となる租税特別措置法六三条および六三条の二の土地譲渡益課税(本件事業年度後である平成四年より施行の同法六二条の三を含む)は、地価昂騰の抑制のための政策税で、短期間、土地または土地の上に存する権利(借地権・地上権)を保有して利益を得て転売することを抑制しようとする政策税であるから、同法六三条や六三条の二所定の課税要件に該当する事実の発生がなく、納税義務者が皆無であることが、同法各条の趣旨、目的を達することになる。

この点でも恒久的な国の財政収入の取得を目的とする法人税とは、根本的にその性質、性格および機能を異にしていることを忘れてはならない。

3、ちなみに租税特別措置法第三章は「法人税法の特例」となっており、また同法六三条の条文見出しには「(土地の譲渡等がある場合の特別税率)」と表記され、また同法六三条の二の条文見出しには「超短期所有土地等に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率)」と記載されていることから、あたかも土地譲渡益重課税は、法人税の特例であり、法人税の特別税率であるかの如き錯覚を起こしかねない。

しかし、同法の「第三章法人税法の特例」とは、法人に課する税の特例を意味するにとどまり、実質的意義の法人税法の特例でもなければ、法人税に係る別段の定めと位置づけられるものでもない。

このことは、法令作成の基本的ルールとして、例えば、法人税法を例にとっても第一編「総則」第一章「通則」と規定されているからといって、法人税の通則が網羅的に規定されているわけではなく、法人税に関する重要な作用を営み罰則規定まで用意されている(同法一六二条一号)質問検査権の規定(同法一五三条、一五四条)は、第一章の通則ではなく、第四編の雑則の中に規定されている一事をもっても明らかである。要するに編、章、款および目等の見出し(現在の多数の法令は、章、節、款および目に細分している-法例作成の常識五六ないし五七頁・林修三・日本評論社)が、この章、節、款、目等の標題の記載いかんによって、法解釈が左右されるわけではなく、いわんや条文見出しの記載いかんによって条文の法解釈が影響されたり、条文の法解釈の参考となるわけでもない。このことは、同一法律の中に条文見出しのついている条文と全く条文見出しがついていない条文が混在している立法令が見られる(林修三著前掲六七頁)ことからも明らかである。この実例としては、行政事件訴訟法三三条、法人税法一五九条ないし一六四条、相続税法三九条、四二条、四三条、労働基準法一〇条ないし一二条、三二条の二、三二条の五、四二条、五九条、六六条、九八条ないし一〇〇条の二および一二一条等、毎挙にいとまがない程多数ある。要するに単なる立法技術上の便宜に留まるのであり、法人税の特別税率でないことを確認しておかねばならない。

4、既に若干ふれたところでもあるが、重要な論点の一つであるので、ここでやや詳細に租税特別措置法六三条および六三条の二の土地譲渡重課税について述べると、<1>土地譲渡重課税は、法人の課税標準たる当該事業年度の所得(法人税法二一条)とは、全く別個独立に、当該譲渡に係る土地等の利益を租税特別措置法施行令三八条の四第六項(概算法による計算)または第八項(実額による計算)のいずれかの規定に従って計算した土地譲渡益を課税標準として租税特別措置法六三条または六三条の二所定の税率を乗じて短期または超短期の土地譲渡益重課税額が算出され、申告納付することになるのであるから、法人税との間では、完全な二重課税であると共に、既に述べたように、人税としての性格を全く有していない税である。

なお、付言すれば、右第一点と同旨の上告理由で平成元年三月に上告趣意書を提出した(弁護人佐藤義行)事案がある(平成元年(あ)第二八号法人税法違反事件)が満五年余りを経過した今日に至るも最高裁の判決を得ることに至っていない。この点でも貴裁判所の御判断が示されることは、ひとり本件の解決にとどまらず、税法学と行政法の分野における進歩発展に被益するところ大なるものがあると思料し、あえて一言する次第である。

第二点 事実誤認

一、収益計上時期の誤り

被告人会社が、那覇市西三丁目九番一号外七筆(合計面積二四八四・六〇坪)(以下「西三丁目土地」という)を、東京合商株式会社(以下「東京合商」という)に売却(以下「西三丁目土地売買一」という)したことによる売買高三八億七五〇〇万円は、昭和六三年一二月期に計上されるべきである。

従って、右売上高を平成元年一二月期の益金の額に算入した原判決には、法人税法二二条一項及び二項の解釈を誤った結果、被告人会社の収益計上時期を誤った違法があり、かつこの収益計上時期の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるからその破棄を求める。

以下、その理由を述べる。

1、法人税法二二条二項は、「内国法人の各事業年度の所得の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売・・・に係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定し、また、同条四項は、「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定して、法人所得の計算が、企業会計原則の収益認識基準に準拠して行われることを示している(東京地裁昭和五〇年八月二八日判決・税務訴訟資料八二号五八七頁、同地裁昭和五七年五月二〇日判決・税務訴訟資料一二三号四〇七頁)。

しかして、一般に収益の計上時期に係る「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」として、所謂権利確定主義が唱えられ、益金の額に算入すべき収益の額は、それを収入すべき権利が確定した日を含む事業年度に計上すべきであるとしている。そして、ここにいう「権利確定」とは、法律上権利が確定したものに限り収益として計上しなければならないことを意味するのではなく、現実に、かつ実質的に、その利得を管理支配し、自己の所得の形成に寄与させている限りは、収益として認識・計上しなければならないことを意味するとされている。

2、そこで、西三丁目土地売買一において、被告人会社の収益の額をどの事業年度の収益として計上すべきか、すなわち被告人会社が、現実に、かつ実質的に、その利得を管理支配し、自己の所得の形成に寄与させたのは何時かを考えるに、関係各証拠に照らせば、右売買においては、以下の事実が認められる。

(1) 被告人渡久山徹は、昭和六一年一月、西三丁目土地を株式会社リウスイ(以下「リウスイ」という)より買受け、同土地の所有権を取得したが、リウスイから被告人会社への所有権移転登記は経由していなかったこと。

(2) 右被告人会社リウスイとの売買当時、西三丁目土地上にはリウスイ所有の建物が存在したが、右売買契約において、リウスイは、建物を完全収去して被告人会社に土地を引き渡す約定となっていたこと。

(3) 被告人会社は、西三丁目土地の売却先を探していたが、昭和六三年二月か三月ころ、仲宗根健效より、買主として東京合商を紹介され、そのころ被告人渡久山が、当時東京合商の実質的な経営者であった佐伯弘道(以下「佐伯弘道」という)と会い、西三丁目土地売却の交渉を開始したこと。

(4) その後、被告人渡久山と佐伯弘道は、何度か売買の交渉を行い、昭和六三年三月末か四月初めころ、被告人会社が、東京合商に、西三丁目土地を代金三八億七五〇〇万円(坪一五五万円)で売り渡す旨の合意が成立し、同年四月八日、東京合商より被告人会社に手付金一億円が支払われたこと。

(5) 右被告人会社と東京合商との売買契約当時も、西三丁目土地上には、リウスイの建物が存在していたが、契約に際しリウスイから改めて建物を完全収去する旨の約束がなされ、リウスイからその旨の念書が差し入れられたこと。

(6) そして、同年五月二六日、合資会社南陽産業と東京合商との間で、右合意に基づく売買契約書が交わされ、同日、東京合商より被告人会社に二二億三〇〇〇万円が支払われ、西三丁目土地につき、東京合商を権利者とする条件付所有権移転仮登記がなされたこと。

(7) その後、平成元年初めころ、玉城栄徳を通じて、被告人会社に、西三丁目土地につき新たな買主がいる旨の話が持ち込まれたため、被告人会社は本件土地を買い戻して新たな買主に転売することとし、その交渉を被告人渡久山と佐伯弘道との間で行い、同年二月か三月ころ、被告人会社が東京合商から、本件土地を買い戻す旨の合意が成立したこと。

(8) この際、西三丁目土地の登記は一旦東京合商に移転してから買い戻すこととなり、平成元年三月末か四月初めころ、所有権移転登記に必要な書類と引換えに、東京合商から被告人会社に一三億四五〇〇万円が支払われ、リウスイより東京合商に直接移転登記がなされたこと。

(9) 同年四月一四日、東京合商株が南陽産業株式会社に、西三丁目土地を売り渡す旨の売買契約書が取り交わされ、かつ同日、南陽産業株式会社が同土地を株式会社リビング住販(以下「リビング住販」という)に売り渡す旨の売買契約書が取り交わされたが、右時期までに、同土地上に存在したリウスイの建物は収去されていなかったこと。

3、すなわち、被告人会社は、西三丁目土地売買一において、昭和六三年五月二六日に、代金三八億七五〇〇万円の内二二億三〇〇〇万円(代金総額の約五七・五パーセント)を受領し、かつ東京合商は、停止条件付所得権移転の仮登記の設定を受けているのであり、右時点で被告人会社が、西三丁目土地売買一の利得を実質的に管理・支配した事実が認められる。

4、これに対して、法人税基本通達二-一-一は、棚卸資産の販売による収益の帰属の時期は、「・・・その引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」と定め、被告人の検察官に対する平成四年二月八日付供述調書にも「東京合商との約束で翌年(平成元年)五月二五日までに土地の上にある建物を撤去して土地を引き渡すとしていたからであり、引渡しは平成元年になるので、売上の計上時期も平成元年一二月期になる」との記載がある。

しかし、仮に棚卸資産の販売の収益計上時期につき、引渡基準をとるとしても、ここにいう引渡が約定の引渡時期をいうのではなく、実際に引渡があった時期をいうことは、前述の「権利確定」の意義に照らし明らかである。

そして、西三丁目土地売買一においては、右約定の引渡期日前に、被告人会社が東京合商から本件土地を買戻す旨の契約が成立し(なお、同契約の成立は、リウスイより東京合商に中間省略登記がなされた時期よりも前であることを付言する。)、結局東京合商に対する引渡はなされなかったのである。

この事実に照らせば、西三丁目土地売買一においては、引渡基準を取る限り収益が計上されないこととなってしまうのであり、それ故西三丁目土地売買一においては、そもそも引渡基準をとることはできない場合であるということができる。

しかして、西三丁目土地売買一においては、被告人会社約五七・五パーセントに当たる二二億三〇〇〇万円を受領の設定を受けているのであるから、同日をもって、被告人会社が、現実に、かつ実質的に、その利得を管理支配したことは明らかである。

したがって、被告人会社の西三丁目土地売買一に係る売上高三八億七五〇〇万円は、昭和六三年五月二六日の属する昭和六三年一二月期に計上すべきものと解さなければならない。

二、これに対して、仮に西三丁目土地の売買についても、引渡基準を堅持し、かつ西三丁目土地売買一に係る収益も計上しようと思えば如何なる構成が可能であろうか。

前述のとおり、西三丁目土地売買一においては、結局東京合商に対する引渡はなされなかったのであるから、収益が計上されないこととなる不合理を排除しようと思えば、被告人会社が、西三丁目土地を東京合商から買戻し、リビング住販に売却し、しかる後に建物を収去しリビング住販に引き渡した時点をもって、現実に、かつ実質的に、その利得を管理支配したとき(権利確定の時)と解さざるを得ない。

すなわち、西三丁目土地につき行なわれた被告人会社の東京合商からの買戻しは、売買契約の合意解除であり、結局西三丁目土地につき行なわれたのは、被告人会社からリビング住販に対する売買のみであるということになる。

そして、右売買における被告人会社の西三丁目土地の取得価額は、昭和六二年一月に支出した二一億七四〇二万五〇〇〇円と平成元年六月三日に支出した五〇億二五〇〇万円と三八億七五〇〇万円との差額一一億五〇〇〇万円の合計額となる。

また、この場合には、被告人会社が西三丁目土地の売却により得た課税土地譲渡利益金額は、当時の租税特別措置法六三条の所謂短期譲渡として課税されることとなる。

もとより、本控訴趣意書第一で述べたとおり、当時の租税特別措置法六三条及び六三条の二の規定により課税される金額は、法人税法一五九条の罪を構成するものではなく、また同書第二の一で述べたとおり、西三丁目土地売買一により被告人会社が得た収益は、被告人会社の昭和六三年一二月期の事業年度に計上されるべきである。

しかし、仮にこれらの主張が排斥されるとしても、右のとおり西三丁目土地についての被告人会社の課税土地譲渡利益金額は、被告人会社からリビング住販への同土地の引渡しをもって短期譲渡所得として課税されるべきものであり、これを超短期譲渡であるとして、右利益金額に対し三〇パーセントの税率を適用して、逋脱金額とした原判決は、破棄されなければならない。

第三点 量刑不当

原判決の被告人会社に対する罰金刑および被告人渡久山に対する懲役刑ならびに実刑判決は重きに失し破棄されると共に被告人渡久山については執行猶予の判決をもって相当とする。以下その理由を述べる。

一1、第一点で詳述したとおり、土地譲渡益課税を法人税法違反をもって処断することを得ないのであるから、原判決別紙2の平成元年一二月の<1>短期譲渡税額金二一〇六六三八〇〇円及び<2>超短期譲渡税額金一一二八五二八〇〇円は、いずれも法人税法違反の逋脱税額とはならない。更に<3>西三丁目土地の譲渡利益金額は、第二点で主張したとおり、平成元年一二月期の逋脱所得金額ならびに逋脱税額とはなり得ず収益計上時期を誤って判示したものてあるから、これに対応する法人税額金四億五一五〇万〇〇〇〇円も平成元年一二月期の法人税の逋脱税額を構成しない。

さすれば、原判決が認定した逋脱法人税額九億八九〇六万四八〇〇円から右<1>ないし<3>の税額を控除した正規の平成元年一二月期の逋脱法人税額は金二億一四〇四万八二〇〇円となり、原判決が判示する逋脱法人税九億八九〇六万四八〇〇円は正規の逋脱税額の四・六倍強の過大逋脱税額を認定している。

2、平成二年一二月期の逋脱法人税額についても第一点で述べたとおり、原判決別紙4記載の脱税額計算書中、<1>短期土地譲渡税額金七一一一万四二〇〇円と<2>超短期土地譲渡税額五八七五万四一〇〇円は、いずれも法人税法違反の逋脱税額とはならないから、原判決が認定した平成二年一二月期の逋脱法人税額金二億八七四七万七六〇〇円より右<1>および<2>の税額を除算した残額金一億五七六〇万九三〇〇円が正当な逋脱法人税額であるから、原判決は、二倍弱の過大な逋脱税額を認定した違法がある。

従って、本件二期分の正確な法人税の逋脱税額は、三億七一六五万七五〇〇円であること。

3、原審で証拠に採用されている波名城盛次の平成四月二月九日検察官調書三には、次のような供述がある。

「また、沖縄では不動産を買収する場合、素人のおじいさんやおばあさんでも平気で一〇〇〇万円単位の裏金を要求します。

裏金は、仕入原価になりますので公表すればよいとお思いかもしれませんが、売手としては税金対策のため裏金を要求するわけですからそれを買手である側が公表するわけにはいきません。

これを公表すれば沖縄は狭い所ですからすぐ評判とりなり、土地を売ってくれる人がなくなります。

ですから、買手である業者は裏金を公表できないのです。

そして、裏金という公表できない支払いに充てる原資も公表しないものにせざるをえず、所得を隠して裏口座を作ることになってしまうのです。」

では、土地の売主は何故に裏書を要求するのであろうか。そこには、自衛隊とアメリカ軍によって、広大な土地が占拠され、さらに軍事用の電力・水道等の確保の為にその返還を合法的に拒否し使用継続をするための「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」まで用意されており、これによる土地不足が、売手をして「命の次に大切な土地を売却し、その上税の収奪まで行われてはたまらない」という本州では考えられない沖縄特有の気風と考えを生ぜしめた。このため、買手は、裏金の資金を譲渡益と税額の過少申告によって生みだす以外に方法はないこととなる。

右の事情を考えれば、単に逋脱税額の多寡と逋脱率のみによって、本州並の量刑をし、また執行猶予の可否を判断すべきではなく、むしろ逋脱の根本原因の中に、沖縄の軍事基地の永久化とこれを合法化している右の沖縄県のみに適用される法律が用意され、沖縄住民はその被害者であることを量刑基準においても断じて忘却されてはならないのである。

4、被告人会社が、国税犯則取締法違反に基づく犯則嫌疑で帳簿書類の一切を差押え領置された後である平成三年一二月上旬沖縄国税事務所の管査察官の呼出を受け、被告人会社の渡久山光宏と顧問税理士事務所の女性事務職員が出頭した。

しかるところ、管査察官は平成元年一二月期と同二年一二月期の修正申告をせよとの強い勧奨をし、或いは修正申告をすれば告発を免れ有利であるかの如き甘言を弄したうえ、右両事業年度の法人税修正申告書別表一(一)、同三(二)、同三の(二)の(二)、別表四および別表および別表五(一)に各記載すべき数額を口述して速やかに修正申告書を提出するよう要求した。

渡久山光宏らは、右口述した数字が正確なものであるから否か、被告人会社には帳簿書類その他の一切の書類が差押されて存在しないので、資料を見せて欲しい旨を要請したところ、資料は見せられない、説明の必要もない。この数字で修正申告をすれば良いのだとの一点張りであった。

右の報告を受けた代表取締役(被告人)渡久山らは、国税当局を信頼して、要求されたとおりの修正申告書を提出し、もって被告人会社と被告人渡久山らの反省の態度と心情をも表明することとし、平成三年一二月一三日右両事業年度の修正申告書を那覇税務署長に提出した。

右の事情は、修正申告書の別表三(二)、同別表三の(二)の(二)に端的に示されている。何故なら、被告人会社の手許には右各表の必要的記載事項を記入する資料がないので、結論(終局)の「課税土地譲渡利益金額の合計額」の欄に数字のみが記載され、計算過程は全く白紙となっているからである。正に管大蔵事務官が口述した結論としての数字のみを記入して提出したことを物語っているのである。

右の経緯と結果は、被告人会社ならびに被告人渡久山の本件逋脱事件に対する強い反省と、国税当局の指導、指示に盲従してまでも、今後正しい申告納税の義務を果さんとする表れとして量刑において斟酌せらるべきである。

五、本件逋脱事件は国税当局がジャーナリストに公表した結果、新聞に大きく、かつ度び重なる報道がなされ、また起訴後の経過も同様の報道がくり返された。

このことは、社会的な指弾と制裁を受けたことに外ならないことはもとより、金融機関からは融資を拒否されるという経済的制裁も甘受せざるを得ない現状にある。

六、また、逋脱犯に対する当然の報いと言えば、言えないこともないかも知れないが、法人税四二パーセント(平成元年一二月期)ないし四〇パーセント(平成二年一二月期)、土地譲渡益重課税二〇パーセント(短期)ないし三〇パーセント(超短期)に、重加算税および地方税が課せられたのでは、右両事業年度の所得金額の百パーセントを超過する金額を国および地方公共団体に納付する結果となる。

このことは、法人に対する死刑に等しい。その上、被告人会社の代表者に実刑を課すことになれば、被告人会社の再起は望むべきもないことになろう。

これらの諸点を併せ考えれば、原審判決の量刑不当は明らかと言わざるを得ない。

以上

弁護人 佐藤義行

同 後藤正幸

福岡高等裁判所那覇支部刑事部 御中

平成六年(う)第一一号法人税法違反被告控訴事件

控訴趣意書(二)

被告人 合資会社ゴールデン観光企画

同 渡久山徹

右被告人両名に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣旨は左記のとおり補充する。

平成六年六月一〇日

第一点 法例の解釈・適用の誤り

一、控訴趣意書(一)を補充して本控訴趣意書(二)を提出するにあたり、前回にも若干ふれたところであるが、法人税法上、法人税は講学上、或いは税法学の分類上の所得課税の基本構造を再確認することから検討を進めていきたいと思う。

1、法人税は講学上「人税」に属し、物税に対立する種類の税であることは学説上争いはないこと。

2、法人税が人税であることから、商法上は経費と認められる法人税の損金算入が認められていないこと(法人税法三八条一項本文)。

3、法人税は、各事業年度の所得を課税標準として課する税であり(法人税法二一条)、その所得は当該事業年度の益金の額から、当該事業年度の損金の額を控除した金額とすること(同法二二条一項)。

4、これに対し、租税特別措置法六三条(および六三条の二)の土地譲渡益重課税は、最高裁判所の判例をここに引用すれば「租税特別措置法六三条一項所定の土地重課税は、法人が昭和四四年一月一日以後に他の者から取得した土地等の譲渡等をした場合に、当該土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を基礎とし、本来の各事業年度の所得に対する法人税の額又は清算所得に対する法人税の額とは別途に計算された上で本来の法人税額に対する法人税の額とは別途に計算された上で本来の法人税額に上乗せされる租税であり、本来の法人税額が存しないときであっても納付すべきものである」(昭和六二年四月二一日。第三小法廷判決民集四一巻三号三二九頁)ということになる。

右最高裁判決は、租税特別措置法六三条の土地重課税(土地譲渡益重課税)の課税大綱をよく判示しているところと言えよう。

ここでは、

(一) 土地重課税は、土地譲渡利益金額の合計額を基礎とし、本来の各事業年度の所得に対する法人税の額…とは別途に計算された上で

(二) 本来の法人税額に上乗せされる租税であり、

(三) 本来の法人税額が存しないときであっても納付すべきものである。

との三点を指摘しているが、特に右(二)のとおり「本来の法人税額に上乗せされる租税であり」と判示し、「本来の法人税額に上乗せされる法人税であり」と判示しなかったところにも土地重課税が租税ではあるが法人税でないことを慎重に判示していると解される。

5、更に、法人に特定の事業年度の所得がなく、法人税額が存しないときであっても、右最高裁判決が判示するように土地重課税は納付すべきものとされているのであるから、土地重課税は人税たる正確を有せず、「法人税と共に、法人税申告書によって、もしくは法人税申告の際(法人税の課税標準たる所得金額がなく、欠損を生じている場合であっても申告義務はあり(法人税法七四条一項一号)その際に、土地重課税を申告する義務もあるというに留まり、法人税の申告書の用紙に土地重課税も併せて記載するからといって、これによって土地重課税が法人税の性格を有することになるわけではない。このことは、当該事業年度の所得が欠損であるが、偶々土地譲渡益のみを計算すれば土地譲渡益が生じる事例において、当該事業年度単位で欠損が生じ、法人の担税力に欠ける場合であっても、なお土地譲渡益課は課される租税であるから人税たる法人税とは全く異なる租税であること明白である。

6、果して、しからば原審は法人税に非ざる土地重課税を、何を根拠に法人税法違反を適用して処断したのであろうか。単に過去の先例に従ったままであると解してはならない筈である。

起訴状には罪名及び罪条を記載し、訴因の明示とあいまって公訴事実の特定を目的とするものであるが、被告人の防御権の行使も罪名及び罪条と訴因によって特定された公訴事実の存否及び量刑事情をめぐる攻撃防御であること今さら言うまでもない。

ところで、刑法犯においては、各条文の罪名を基本とし、これをある程度細分化したものを表示しているが、特別法犯の罪名については、例えば「銃砲刀剣類所持等取締法違反」とか、「爆発物取締罰則違反」というように、当該罰則を規定する法令名に「違反」の文字を加えて表示している。これの罪名の表示の仕方がベターか否かは、しばらくおき、本件に如ける如く、法人税法に土地重課に関する規定が全くなく、かつ法人税法の特別法たる租税特別措置法六三条、同法六三条の二に罰則規定がないのに、何を根拠に、法人税法違反をもって、租税特別措置法六三条、同法六三条の二の土地重課税の逋脱税額を法人税法違反を適用し、処断し得るのか、弁護人には到底理解し難いところである。

そしてそれ故にこそ、別件の法人税法違反被告事件の上告理由書において、この点の最高裁判決を求めたところであるが(平成元年(あ)第二八号・第三小法廷係属)今日に至るも何らの判決も、決定もなられてはいない。

7、そもそも刑罰法規の特別法たる法人税法本法違反を適用して、法人税法の更に特別法たる租税特別措置法違反で処断し得る根拠は何か。まして、右特別法たる租税特別措置法には何らの罰則規定も存在しないにおいておやである。

8、この矛盾は、原審判決の理由(犯罪事実)第一(昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度)において、「課税土地譲渡利益金額が一四億二九四九万五〇〇〇円であったにもかかわらず・・・所得金額及び課税土地譲渡利益金額がいずれも零円であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書・・・を提出し、・・・正規の法人税額九億八九〇六万四八〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れた。」と判示しているところにも表れている。

右の判示からすれば、課税土地譲渡利益金額も「正規の法人税額九億八九〇六万四八〇〇円」の中に含まれており、原審は、課税土地譲渡益も「正規の法人税額」となるというのである。何を根拠にかく判示し得るもののであろうか。弁護人には、法人税法の拡張解釈による違憲の法例解釈並びに適用と言うの他はない。

更に、右の別紙2の脱税額計算書によれば、

課税土地譲渡利益金額(短期) 一、〇五三、三一九、〇〇〇

課税土地譲渡利益金額(超短期) 三七六、一七六、〇〇〇

土地譲渡税額(13×二〇%) 二一〇、六六三、八〇〇

土地譲渡税額(14×三〇%) 一一二、八五二、八〇〇

との記載があるが、右の(短期)とか(超短期)とか、二〇%とか三〇%は、いかなる「法人税法」の根拠に基づくのか何一つ判示するところはない。「法人税法」には短期も超短期も一言の規定もないし、二〇%や三〇%の税率も規定されてはいない。これは、法人税法に規定のない脱税額を何らの適用上の根拠もなく、またその根拠を示すことなしに、法人税法違反の名において法人税法の特別法たる租税特別措置法六三条、六三条の二を適用した矛盾が露呈したものと言うべきである。

このことは、判示第二の犯罪事実(平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度)についても全く同様の判決であるので右判示第一について述べたところをここに援用する。

9、これを要するに、やや極論になるが法人税法違反をもって起訴された被告人や弁護人が、その特別法たる租税特別措置法の何条何項をもって処断されるか、自ら模索し、手さぐりで予想して防御権を行使し、裁判所は、その弁護人の予想した防御権の行使が的を射ていたか否かを問わず、また、いやしくも法人税法違反で起訴された場合は、その審判の対象は、法人税法の特別法たる租税特別措置法その他、およそ法人税法の特別法(附則を含む)の全般にわたって、処罪される危険を覚悟しなければならないことになろう。

かくては、起訴状に罰条を示す意義も判決において法令の適用を明示する必要も全く意味をなさない(現に原審判決の法令の適用のみでは、租税特別措置法の適用は全く不明であり、わずかに判文の課税土地譲渡利益という用語と脱税額計算書の短期、超短期という用語から租税特別措置法六三条、同法六三条の二による土地譲渡益の計算をしたものであろうと推察して、本控訴趣意書を作成している。)。

少なくとも本件法人税法違反被告事件については、罪刑法定主義も公訴事実の特定も事実上みごとに死文化されたのである。

10、以上要するに、少なくとも判文上租税特別措置法のおそらくは六三条および六三条の二を適用して脱税額とされた

判示第一の脱税額金 九億八九〇六万四八〇〇円のうち、

土地譲渡税額(短期) 二億一〇六六万三八〇〇円

土地譲渡税額(超短期) 一億一二八五万二八〇〇円

の合計金額三億二三五一万六六〇〇円

判示第二の脱税額とされた金二億八七四七万七六〇〇円のうち

土地譲渡税額(短期) 七一一一万四二〇〇円

土地譲渡税額(超短期) 五八七五万四一〇〇円

の合計金一億二九八六万八三〇〇円

は、いずれも判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りがあり破棄のうえ減額されなければならない。

さすれば

判示第一の脱税額は、六億六五五四万八二〇〇円

判示第二の脱税額は、一億五七六〇万九三〇〇円

とされるべきである。

11、なお、念のため附言すれば、かく解すると租税特別措置法六三条、六三条の二(ひいては現行法の同法六二条の三も含む)、土地重課税の逋脱犯は、何らの逋脱罪も構成せず、これを処断し得ないとすれば、逋脱犯を助長し或いは租税刑法における公平を著しく害することになる等々の疑問が生ずるかも知れない。

しかし、それならば、右両法条違反はに対する罰則規定を設ければ足りるのであって、それが罪刑法定主義の本来の姿でもある。

そもそも土地重課税は、地価の高騰を抑制するための政策税であって、国家の財政需要(一般経費)にあてるための財源確保を目的とした租税ではないから、土地重課税は一人(一法人)の納税義務者も発生しないことを目的とするものと言える。

さすれば、罰則規定を設けなかったのもそれなりに首肯し得ないところではない。

百歩譲って、土地重課税も法人税法違反の一環をなすとの解釈が仮に成り立つ余地ありとしても、その場合は、法令の適用として法人税法違反の他に、租税特別措置法の該当法条を掲げるべきであって、これすら欠除する本件原審判決が、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違反として破棄を免れないことに、いささかの変わりもない。

第二点 法令解釈の誤り・事実誤認

一、被告人会社が、南陽産業株式会社(以下「南陽産業」という)または被告人宇榮原宗一(以下「被告人宇榮原」という)に支出した金員のうち、金三六二、二八六、〇〇〇円は被告人会社の平成元年一二月期の損金に、金一二七、五四〇、〇〇〇円は同平成二年一二月期の損金に、それぞれ算入されるべき金額である。したがって、これを右各期の損金算入しなかった原判決には、法令解釈を誤った結果判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、取消さなければならない。

二、被告人会社が、南陽産業または被告人宇榮原に支出した金員の支払時期及び金額は、左記のとおりである。

<省略>

三、ところで、右各金員のうち、<1>の一五、〇〇〇、〇〇〇円は、その支払時期からして被告人会社の昭和六三年一二月期の損金の額に算入されるべき金額であり、<13>の八一、〇〇〇円は首里四丁目の物件の売買に際し、太陽神戸三井銀行横山町支店の南陽産業名義の口座に、約定価額より八一、〇〇〇円多く振込みがなされ、それをそのまま南陽産業が取得した金額であるから、右<1>及び<13>の金額は、被告人会社の平成元年一二月期及び平成二年一二月期の損金に算入されるべき金額ではない。

したがって、被告人会社の平成元年一二月期及び平成二年一二月期の損金となるべき金額は、次のとおりである。

平成元年一二月期 金三六二、二八六、〇〇〇円

平成二年一二月期 金一二七、五四〇、〇〇〇円

合計 金四八九、八二六、〇〇〇円

四、そこで、被告人会社が、南陽産業または被告人宇榮原に、金員を支出したのは如何なる理由に基づくか検討するに、関係各証拠に照らせば以下の事実が認められる。

1、被告人宇榮原は、昭和六一年暮れころ、被告人会社の代表者被告人渡久山徹(以下「被告人渡久山」という)に対し、当時被告人宇榮原が専務取締役の肩書を有していた第一企画コンサルタントを、被告人会社が棚卸資産として所有していた西三丁目物件を売却する際に、売主たる被告人会社と買主との中間に入れて形式的に利益を取得させ、その代わり譲渡利益の一五パーセントを、第一企画コンサルタントの取分として欲しい旨持ち掛け、さらに被告人渡久山に対し、「ゴールデン観光の利益から一五パーセントの金をもらったらこれをパラオの開発事業の資金にしたい。パラオの開発事業がうまくいけば二〇億円くらいの税金は払える。今税金の申告をしても税金を支払えないが一年か二年まってもらえればパラオの開発事業がうまくいくと思うので、税務署には一年か二年くらい税金の支払を待って欲しいと頼むつもりだ。」と持ち掛けた(乙第三号証、同第四一号証)こと

2、そこで、被告人渡久山も、第一企画コンサルタントを当事者の売買の中間に入れることを承諾した(乙第三号証、同第四一号証)こと

3、その後、買主が見つからなっかたこと及び第一企画コンサルタントの代表取締役小浜が死亡したことにより、第一企画コンサルタントを売買の中間に入れるという話は立ち消えとなったが、被告人宇榮原から被告人渡久山に対し何度か連絡があり「西三丁目物件の買主が見つかったら中間に入れてくれ」との申し出があった(乙第三号証、同第四一号証)こと

4、そこで、被告人宇榮原または南陽産業は、被告人会社が、土地を売却するに際して、被告人宇榮原が代表社員をしていた合資会社南陽産業または南陽産業を売買に関与させ、右各金員を取得せしめた(乙第四三号証ないし同第五五号証)こと

四、以上のとおり、被告人会社が、南陽産業及び被告人宇榮原に支出した金員(以下「本件支出金」という)の性格は、南陽産業が支払うこととなっていた土地重課税の原資、或いは南陽産業または被告人宇榮原に対する報酬若しくは手数料である。即ち、本件支出金の性格の中には、南陽産業が被告人会社に代わって土地譲渡益課税を支払うための原資となるものが含まれており、その全てが被告人会社が土地譲渡益課税を免れるために支払った違法行為のための支出であるということはできないのである。

五、また、仮に違法行為のための支出であるとしても、その金額は法人税法二二条三項の損金となる支出である。

以下、その理由を述べる。

1、法人税法二二条一項において「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金額を控除した金額とする。」と規定し、同条三項において「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価の額、二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)、三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」と規定している。

しかし、法人税法は、右規定の外損金について特に定義規定を設けていないので、損金の意義については、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(同条四項)に委ねられることとなる。

即ち、現行法人税法は損金の範囲につき別段の定めがあるものを除き全て企業会計上の費用または損失を前提とし、適正な会計慣行に委任することとしており(同法二二条三項、四項)、所得税法における必要経費のように「必要性」及び業務関連性の要件を設けていない。

したがって、我が国の法人税法のもとにおける違法支出金については罰金、科料等法人税法三八条二項五号ないし七号を除き、損金不算入の別段の定めがないから、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(同法二二条四項)(以下「公正処理基準」という)に照らし、企業会計上費用性を有するものである限り、損金算入が認められる(中村利雄著・法人税の課税所得計算-その基本原理と税務調整改訂版一三一頁)。

2、また、法人税法三八条二項の五号ないし七号を含む損金不算入の特例(法人税法二二条三項にいう別段の定めにあたる)は、例示的列挙ではなく、制限(限定)列挙であることは、法人税法三八条二項六号が昭和四八年に、同項七号は昭和五二年にそれぞれ追加されている立法経緯に照らしても明らかである。

したがって、法人税法上の別段の定めがない以上、本件支出金は被告人会社の損金の額に算入されなければならず、これに反する解釈は、憲法八四条が規定する租税法律主義に違反することとなる。

3、これに対して、違法支出を法人の所得の計算上損金の額に算入せしめることは、脱税を助長せしめることとなるとの見解がある(東京高等裁判所昭和六三年一一月二八日判決、判例時報一三〇九号一四八ページ)。

しかし、法人税法上の損金性の判断基準である公正処理基準は「税法規定の解釈というよりは、企業会計上の費用性の判断基準であるから、法的正義論または課税公平論等の税法的要求に影響されない中立的な『一般に公正妥当』な会計処理の基準である」(中村前掲書一三二頁)。

したがって、例え違法行為のための支出金であっても、それ故に損金性を認めないというのは、税法の解釈論としては理由がない。

4、また、違法行為のための支出金を損金として認めると、「その納税者に対しそれだけ税の負担を軽減させることになる反面、その軽減させた部分の負担を国に帰属せしめることとなるのであって、国においてこれを甘受しなければならない合理的な理由は全く認められない」(前掲東京高等裁判所判決)との見解もある。

しかし、違法行為のための支出金であっても、それを受領した者(個人・法人を含む)は所得ないし益金(法人税法二二条二項)として課税されるのであり、右「軽減させた部分の負担を国に帰属せしめることとなる」との批判は全く当たらない。

本件においても、被告人会社の支出金に対応する金額は、すべて南陽産業の受取手数料として課税されている(弁第五号証及び同第六号証)。

さらに、本件支出金を被告人会社の損金の額に算入しないというのでは、二重課税禁止の原則に反する。

即ち、税法は、同一の所得について二重課税を排除するめたに様々に規定を設けており(所得税法九二条、同九三条、法人税法六八条、六九条)、これらの規定は同一所得について二重に課税することは許されないという税法の根本原則の発露にほかならない。

しかして、本件の場合、被告人会社が南陽産業に対して支出した金員を、被告人会社の損金に算入しないということになれば、同一の金員をかたや被告人会社の土地譲渡利益として同社の益金として課税し、かたや南陽産業の受取手数料として同社の益金として課税することになり、結局双方に課税することになって、二重課税禁止の原則に違反することとなるのである。

五、以上の次第で、被告人会社が南陽産業または被告人宇榮原に支出した金員のうち、金三六二、二八六、〇〇〇円は被告人会社の平成元年一二月期の損金に、金一二七、五四〇、〇〇〇円は同平成二年一二月期の損金に、それぞれ算入されるべき金額であり、これを右各期の損金算入しなかった原判決には、法令解釈を誤った結果判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるので、取消さなければならない。

以上

弁護人 佐藤義行

同 後藤正幸

福岡高等裁判所那覇支部刑事部 御中

平成六年(う)第一一号

控訴趣意書

被告人 宇榮原宗一

右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

一九九四年四月一五日

右弁護人

弁護士 金城睦

同 鈴木宣幸

同 藤井幹雄

福岡高等裁判所那覇支部 御中

原判決は、被告に対して、懲役一年六月の実刑判決を下したが、以下に述べるとおり、原判決は余りにも重すぎ、量刑不当である。

一 原判決は、「被告人宇榮原は、犯行自体においては、被告人渡久山に比較して従たる立場にあったことは否めないとしても」とは判示しているものの、「南陽産業等を被告人会社の不動産取引にダミーとして介在させるという方法による脱税額が本件脱税額の大半を占めている」という表面的な捉え方しかせず、被告人宇榮原が本件公訴事実に関与してしまった経緯について、十分な検討・考慮がなされておらず、その現実に関与した程度は、他の被告人(渡久山)と比べて極めて薄く、実質的な役割としては共同正犯というよりは幇助犯に極めて近いものであることを、十分考慮していない。

1 原判決は、「南陽産業株式会社等を被告人会社の不動産取引にダミーとして介在させるという脱税方法を計画立案して被告人渡久山に持ちかけ、被告人会社の脱税に協力してきた」と判示している。しかし、今回の脱税工作を実際に持ちかけたのは、被告人宇榮原ではなく、渡久山であることを見落としている。

確かに、昭和六一年二月ないし三月頃、被告人宇榮原は、渡久山が西三丁目物件の転売先を探していることを知り、その売買の仲介をしようとして、渡久山に対して、その気を引くために、一度は被告人宇榮原の関係する企業をダミーとして介在させる方法を申し出たことはあった。しかしながら、昭和六二年一月頃に至っても適当な買い主が見つからなかったため、被告人宇榮原、渡久山ともに、右計画を実行に移すことを断念し、この時点で完全に被告人宇榮原と渡久山との関係は完全に断絶したのである。その後、被告人宇榮原は西三丁目物件の取引には一切関与することなく、パラオから日本へのマホガニー材輸出事業に全精力を注ぐこととなった。

一方、渡久山は、被告人宇榮原との関係が断絶した直後から、被告人宇榮原の第三者(有限会社健宝)が売買の中間に入ったように仮装しようとして、同社に対して、所有権移転請求権仮登記を設定するなどの工作を行っていた。ところが、結局、有限会社健宝との関係も険悪化し、同社を利用した脱税工作が実行できなくなったため、渡久山は、再び被告人宇榮原を利用して、脱税工作をしようと考えて、東京のホテルに滞在していた被告人宇榮原に対して、電話をかけて、西三丁目物件の買手が決まりそうであるから、売買の中間に入ってくれないか、と持ちかけた。

このように、今回の計画を積極的に具体的に持ちかけたのは、渡久山の方であって、被告人宇榮原ではなく、その意味では、被告人宇榮原は、受動的に本件に関与するに至ったのである。(この経緯については、検察側も被告人宇榮原の主張が事実であることを冒頭陳述書においても認めている。)

2 さらに、被告人宇榮原は、自己が関与する取引は西三丁目物件を東京合商株式会社(株式会社パックスコーポレーション)のみであると考えていた。ところが、その後、渡久山の方から、西三丁目物件の買い戻し・転売や読谷物件や首里物件についても、一方的に次々と計画が持ちかけられ、それに対して、被告人宇榮原は(後述のように一旦断ろうとはしたが)断りきれず、渡久山の指示どおり、いわばロボットのように動かされてしまった。このように、被告人宇榮原の当初の意思とは異なり、渡久山の指示によってしかたなく西三丁目物件等の取引に関与させられてしまったことは、被告人宇榮原の関与の程度をより一層薄めるものであるから、被告人宇榮原に極めて有利な事情として十分評価されなければならない。

3 本件脱税工作において、被告人宇榮原がいなければ実行に移すことができなかったということではなく、必須の共犯者ではないという点も、原判決では考慮されていない。

渡久山は、前述のように、被告人宇榮原と渡久山との関係が断絶していた昭和六二年には、被告人宇榮原以外の者(有限会社健宝)を使って、西町三丁目物件の売買に同社が関与したかのような仮装をした。即ち、渡久山としては、西三丁目物件の脱税工作を実行する上で、協力者は必ずしも被告人宇榮原である必要はなく、誰でもよかったのである。

また、渡久山が、このようなことは沖縄の不動産業者の多くのものがしていることであると、原審の公判廷においていみじくも供述しているように、渡久山自身が自らの意思で積極的に脱税工作をしたのである。本件の動機の点でも、その主導性・積極性はもっぱら渡久山にあり、被告人宇榮原は何等主導的な役割は果たしておらず、ただ、渡久山にいわれるまま、取引に関与したにすぎないのである。

4 各売買契約書の作成も、渡久山が売買価格及び売買代金の中間控除額等すべて契約相手方と決定した後で、単に契約書に署名押印する段階で初めて被告人宇榮原を呼んでいわば形式的に契約書に署名押印させたにすぎない。被告人宇榮原は、各売買交渉、売買代金の決定及び売上除外額の具体的な決定等に関しては、一切関与していない。

5 本件に関して利用した被告人宇榮原名義の口座や通帳などは、すべて渡久山が保管・管理していた。

琉球銀行本店の被告人宇榮原名義の口座は、渡久山の指示で被告人宇榮原が作ったものであるが、作成当日入金した八〇〇〇万円の金額は、渡久山ないし被告会社が決定して入金したものであり、その後の管理も渡久山ないし被告会社が行っていた。また、被告人宇榮原に無断で、被告会社側が南陽産業名義の口座を開設し、勝手に利用していたことすらある。さらには、本件で利用されたローマン・メトゥール名義の通帳も、その入金及び出金の管理は、すべて被告会社が行っていた。

各売買契約及び脱税工作に関して、金銭の管理という点からも、渡久山ないし被告会社側が主導権を握っていたものであり、被告人宇榮原の関与は一切ない。

6 以上のように、本件に関しては、その脱税工作の端緒から各実行過程に至るまで、被告人が主導的な役割を演じたことは一切なく、ただ渡久山に指示されるまま、ロボット的に受動的に関与したもの、渡久山に利用されたものに過ぎない。これらの経緯について、原判決は十分に検討評価しておらず、極めて不当である。

二 被告人宇榮原は、途中で一度は、脱税工作から抜けようと試みた(被告人宇榮原の平成四年二月一二日付検面調書第五丁、第九回宇榮原供述第三〇項ないし四〇項)が、原判決は、被告人宇榮原の離脱への努力については、全く考慮しておらず、不当である。

1 被告人宇榮原は、当初は、西三丁目物件の東京合商への売買についてだけ、中間に介在するという意識しかなかった。ところが、その後西三丁目物件の買い戻しや読谷物件一の取引等、当初念頭においていなかった取引にも入れられるような話になってきたため、被告人は、あまりこのような工作に関与すると結果的に自分が負担しなければならない金額(被告人宇榮原が被告人会社にかわって納めなければならない税額)が膨大なものとなることが想定されることもあって、渡久山に対して、もうこれ以上脱税工作に関与することはやめたい旨、申し出た。

しかし、この申し出も渡久山から無視され、いったん始めた以上、最後まで協力するように強く働きかけられたため、それまで資金的にも渡久山に世話になっているという義理から、断りきれずに、ずるずると、脱税工作への協力を続けてしまったのである。

2 この経緯からみると、結果的には、脱税工作への協力は続けてしまい、被告人が関与した取引による脱税額が本件脱税額の大半を占めていることになっているが、被告人宇榮原は、一度は、本件脱税工作から真剣に離脱しようと試みたこと、そしてそれはすべて渡久山が一方的に計画し、被告人を介在させようとし、離脱を許さなかったのであるから、被告人宇榮原が離脱しようと試みたという事実は、被告人宇榮原に極めて有利な事情として考慮されなければならない。

三 原判決は、被告人宇榮原には本件犯行当時、違法性の認識がなかったという点も、全く考慮せず、逆に、原判決は、「裏金は取引相手の脱税に協力することになりかね」ず、「その動機が謝礼を得るためである」旨判示しているが、これは本件の一面しか見ていない結果であり、誤った判断である。

1 被告人宇榮原は、本件に関与した当時、自らが取引に関与した形式をとることが、脱税にあたり違法なものであるとは意識していなかった。勿論、法律家が考えれば、本件の行為態様は脱税行為であると判断できるが、しかし、被告人宇榮原のような素人が、自分が形式上取引に関与した分については、そのまま正直に申告して納税すれば、結果的に全額納税することになるから、それは脱税にあたらないと考えてしまうことは、十分理解できることである。その意味では、本件は、法律の誤解に基づく、過失犯的な側面が強い事件である。

そして、その証拠に、被告人宇榮原は、それまですすめていたパラオ開発に情熱を傾け、それによる利益によって、すべての税額を支払うつもりであった。だから形式上自己が関与した部分については、全く虚偽の申告などすることなく、国税庁に対して、すべて正直に申告していたのである。

本裁判のため、被告人自身がパラオに行けないために、パラオ開発事業は事実上中断せざるを得なくなっているため、現実には納税は滞っているが、それは結果であって、当時の被告人宇榮原の意思としてはあくまで、自己に関する税金の支払はするつもりである。

現在でも、被告人宇榮原は、当初からの計画どおりにパラオ開発計画を推進しようという意思は強固にもっており、後述のように現に諸外国からもパラオ開発計画についての問い合わせは来ている状況にある。さらに、北海道での温泉を利用した水耕栽培の計画を立案し、事業化しようとして、南陽産業による事業に情熱を燃やしており、それらの成果によって支払うべき税金は支払うつもりでいる。

2 一方、本件のような工作が脱税にあたるということを被告人宇榮原が知ったのは、本件が国税当局に発覚して査察を受けた後の取調においてである。

被告人宇榮原に今日、罪を免れようなどという意思は毛頭ないが、本件に関与する当時には、軽率に、いわば過失的に本件に関与してしまったものである。その軽率さは非難されても仕方ないが、どのような行為が脱税にあたるかということは、法律の素人がその判断を誤ることは十分理解できる。被告人が脱税という犯罪に関与している意識がなく、いわばその形態は過失的であるという事実は、その罪責を判断する場合に最大限考慮されなければならない。

3 このように、被告人宇榮原自身には、自らすべて納税すれば脱税にあたらないと誤解していたのであるから、「脱税に協力する」等という意識はなく、単に謝礼を得ようという動機だけではなく、パラオ開発事業を成功させて、それによって全額納税しようという強い意識があったのである。その意味では、被告人は、被告人会社の脱税に加担するという意識はなく、被告人会社に代わって全額納税するために、いわばその準備資金として、謝礼を得たと評価することができる。

この点において、原判決は、被告人宇榮原が本件脱税事件に関与してしまった際の違法性の意識の有無について、全く考慮がなされておらず、妥当ではない。

四 本件は法人税法違反であるが、被告人宇榮原自身の納税意識は高い。

1 被告人宇榮原は、本件では、自分が現実に利益を得ていないものまでも、国税庁に申告しており、自己の申告に関する限り、税金をごまかそうという気持ちは一つもなかった。被告人宇榮原は、渡久山の利益についても、自分の所得として申告して支払えば、それは脱税にはならないという誤解のもとに、自己が関与した部分について、すべてそのまま正直に申告したのである。

また、被告人宇榮原自身は、渡久山から受けた報酬については、本件発覚後直ちにすべて正しく修正申告している。そして、それに対する税金は一部ではあるが、既に納付されている。残余部分についても、被告人宇榮原は、今後、現在企画中の事業を成功させることによって、支払う意思をもっているのである。

2 このように、被告人宇榮原自身は脱税しているものではなく、納税意識は高いと評価すべきである。

法的には、渡久山の脱税の共犯に加担したという形となり、責任を追及されている本件において、被告人宇榮原のこの納税意識の高さは、大いなる矛盾といっていいが、脱税事件たる本件においては、この矛盾ともいえる被告人宇榮原の納税意識の高さは、その刑責を問う場合に、被告人宇榮原個人に極めて有利な事情として大いに考慮されなければならないにもかかわらず、原判決は、全くこの点について考慮しておらず、妥当ではない。

五 被告人宇榮原は、これまで、パラオの都市開発に情熱を傾け、その発展に大きな貢献をしてきており、今後もその開発計画に情熱を燃やしており、その実現可能性は高い。

1 被告人宇榮原は、昭和五三年頃に知人を通じて、ローマン・メトゥールというパラオの有力者を紹介されて以来、パラオに魅せられ、パラオの自立発展のために自分なりに尽力したいと考えるようになった。それ以来、被告人宇榮原は、パラオの住民の生活向上のためには、農業や漁業だけではなく、都市開発に伴って市場を広げたり観光客を増やしたりすることが必要であると考えて、パラオ住民の自立のために、その観光開発・都市開発のプランを作成するようになった。

被告人宇榮原のパラオ開発計画は、当然自らの利潤を得ようとする目的もあったが、それ以上に、沖縄と縁の深いパラオ住民の生活を向上させてパラオの自立に少しでも貢献することが大きな目的であったのである。

2 原判決は、被告人宇榮原の手掛けていたパラオ開発事業について、「右事業が成功するかどうかは極めて深く確実であり、少なくとも多年を要することは明らかであって、その収益から納税するつもりであったとしても、これが実行される可能性は低い」と判示している。

しかし、原審においては、被告人宇榮原は、パラオ開発事業に関する資料はすべて捜査当局に押収されて、その実現可能性が高いことを立証する資料を失っていた。しかも、被告人宇榮原は、公判中であるために、パラオに赴くことができず、パラオ開発事業を進展させることができないばかりか、その実現可能性が高いことを示す資料を入手し、公判に提出することすらできなかった。そのために、原判決は、パラオ開発事業について十分な資料もないまま、右のような判示をしてしまった。

しかし、弁第一号証は、被告人宇榮原が描いた右開発計画を実行に移すために、戸田建設及び電通という超一流企業も参加して作成されたものである。この描いたパラオ開発計画は、遠大であるだけに未だ実現していないが、決して単なる絵空事ではなく、現実にも十分可能性がある計画である。

また、被告人宇榮原が本件裁判のために保釈中のみであるため、パラオを往来するなどの行動が制約されているため、パラオ開発事業は、現時点では、進展はしていない。しかしながら、決してパラオ開発事業が暗礁に乗り上げて、計画が頓挫しているわけではない。現在でも、被告人宇榮原のもとには、パラオ開発事業についての種々の問い合わせや打診が絶えない状況にある。例えば、その一つとして、今年に入って、地中海にあるマルタ騎士団国のコウヤマ極東全権大臣が、直接被告人宇榮原を訪問し、パラオ開発計画に非常な興味を示し、パラオ開発計画を国としてそっくりそのまま引き継ぐことを含めて、被告人宇榮原に対して、パラオ開発計画の実現に協力したい旨の申し入れさえある(控訴審において立証予定)。

このような状況からもし、被告人宇榮原がパラオへの往来が可能となれば、マルタ国やパラオ当局との協議を詰める等して、パラオ開発計画が一気に進展して早期に実現する可能性が高い。(また、被告人宇榮原のパラオ開発計画の実現が現実的である証拠を、パラオ側よりあらためて入手することも可能となる。)

そうなれば、被告人宇榮原が当初に考えていたように、それによる利益によって、現在滞納している税金はすべて支払うことも可能となる。したがって、被告人宇榮原のパラオ開発計画の実現性に疑問を抱いている原判決の判示は、事実誤認である。

3 なお、原審での弁論においても指摘したとおり、被告人宇榮原の平成四年二月一五日付検面調書において、ローマン・メトゥールとのパラオでの二通の土地賃貸借は契約書について、旧契約書については渡久山に、新契約書については税務署長に、それぞれ見せて信用させるためであり、内容は全部嘘である旨の供述があり(一三丁以下手書き部分)、あたかも被告人宇榮原のパラオ開発計画が虚偽であるかのように誤解される可能性がある。しかし、右供述部分は、取調検察官の誤解をそのまま強引に調書にしたものであり、到底信用できるものではなく、この部分をもって、被告人のパラオ開発計画の実現性を否定的に評価すべきではないことを付言しておく。

即ち、被告人宇榮原とローマン・メトゥールとは、現実に土地賃貸借契約を締結したからその旨の契約書作成したものであり、東京の大企業等パラオ開発計画事業に協力を依頼する人たちに示して、協力依頼するときの説明用に使用していたものである。そして新契約書は、南陽産業株式会社という法人が設立されたことから、個人名義よりも法人名義の方が、第三者に対しても信用力が高いために、内容はそのままにして作成し直したものであり、それ以外に何等他意はない。たまたま、新旧契約書の作成時期が、それぞれ脱税工作を決定した時期や南陽産業の確定申告をした時期に近接するだけである。

むしろ、旧契約書については、脱税工作を決定する前の段階で、自分を中間に入れるように渡久山に説得するために作成するのであれば、それは昭和六一年の段階で作成すべきものである。今回は、渡久山から被告人宇榮原に対して脱税工作に協力するように求めているのであり、またその作成時期(昭和六三年五月一日)も、既に被告人宇榮原が脱税工作に協力することが決定している段階でもあり、もはや渡久山をことさら説得する必要はない時期であり、その時期に渡久山に見せて信用させるためにわざわざ虚偽の契約書を作成するというのは明らかに矛盾している。

また、新契約書についても、税務署に確定申告する前に作成したというのであれば、税務署を信用させるためのものであるというのも理解できるが、新契約書は、既に確定申告を税務署に提出した後で作成されているものであるから、税務署に見せて信用させるというのは、検察官の誤解に基づくものである。

このことは、この調書の形式からも、看取される。即ち、一三丁目までのワープロ部分については、公判廷での被告人の言い分どおりの内容となっているが、急に手書き部分になって、唐突に、新旧契約書は虚偽の内容であると変更されている。その供述内容が変化した経緯も全く明らかになっていない。

この調書の形式やその作成時期(起訴三日前・身柄拘束一九日目)からみて、この調書の内容は、取調検察官が自己の誤解をそのまま被告人宇榮原に押しつけたものであり、その押しつけに対して、被告人宇榮原ははじめての身柄拘束からくる疲労困憊、困惑等から、自己の主張を貫ききれなかったものである。

決して、右調書から、パラオ開発計画が現実のものではないと評価すべきではないということを付言しておく。

4 以上に述べたように、被告人宇榮原がその実現に人生をかけているパラオ開発計画は、実現可能な現実的なものであり、その点に関する原判決の判事は、明らかに誤った評価であると言わざるを得ない。

六 被告人宇榮原が渡久山から受け取った報酬についても、原判決は表面的な捉え方しかしていない。

被告人宇榮原は、渡久山から受け取った五億円余りの金銭を受け取っていることは事実である。しかし、実質的にはそのほとんどをパラオ開発のために使用し、単なる自己遊興などに費消したものではない。

しかも、被告人宇榮原としては、パラオ開発計画を成功させて、本件に関する税金もすべて支払おうと考えていたのであり、いわば、本件に関与したことで渡久山から受け取った金額はすべて、後の納税のために使用したものと評価すべきものなのである。この点において、単に脱税に加担し謝礼を得ていたという事例とは、その性格を異にするものであり、原判決のように、被告人渡久山が五億円余りの金銭を受け取ったという表面的な捉え方をすべきではない。

七 被告人宇榮原が本件に関与してしまった背景には、パラオにおけるマホガニー材切出輸出事業において、マホガニー材の相場が急落したことによって、予定していた資金調達に失敗したという不運な一面があった。もし、これが順調に推移していたならば、被告人宇榮原は、渡久山からの誘いには応じることはなかったという被告人宇榮原の不運についても、何等考慮されていない。

被告人宇榮原は、昭和六二年一月に西三丁目物件の売買仲介から完全に手を引き、それ以後は、パラオにおいてマホガニー材を切り出し、日本に輸出することによって、パラオ開発計画の資金を調達しようとしていた。ところが、マホガニー材の相場が急落したことによって、逆に約六〇〇〇万円の損失を被ってしまった。ちょうどその時、渡久山から本件脱税工作への協力を依頼されたため、パラオ開発計画の準備資金に焦っていたこともあって、被告人は渡久山の計画に加担してしまったのである。マホガニー材の相場が急落していなければ、被告人が本件脱税工作に加担する必要性はなく、いったんは渡久山との関係は切断されてもいたから、その意味で、被告人には時期的な不運も重なったものである。

八 被告人宇榮原は非常に真面目な企業人・市民であり、事業を通じて社会に貢献するという姿勢で、その半生を貫いてきた。

1 被告人宇榮原は、これまで建設業や不動産業など生業に従事しており、必ずしも絶えず順調であったわけではないが、これまで一度も他人に迷惑をかけたり、違法行為に関与したことはない。

被告人がこれまで行ってきた事業は、那覇市小禄での宅地造成等、地域に貢献することが大きな目的となっていた。例えば、宇榮原小学校のために、道路用地を寄付したこともある。

このように、被告人のこれまでの事業の姿勢は、単に自己が儲けるためだけではなく、それを通じて、地域の発展に対して少しでも貢献をしたいというところにある。前述のパラオ開発事業に対する情熱もその現れである。

現在、北海道八雲町において、温泉を利用した水耕栽培の計画を立てているが、北海道において一年中作物を栽培できるようにして北海道経済に貢献することが、大きな目的となっている。

南陽産業の経理部長である福沢証人も、このような被告人の仕事ぶりについて、「仕事に男としての深い情熱をもち、また非常に人柄も良く、人に騙されても人を騙すような人ではない。知人が頼ってきたときには、自分で借金してまでもお金を作って貸してあげたりすることもある」旨証言している。このような情熱と暖かい心をもった被告人宇榮原であるからこそ、福沢証人ら従業員は、今後も一緒に仕事をしたいと、被告人宇榮原が事業に専念できる日を待ち望んでいるのである。

2 また、被告人宇榮原の妻が原審において証言しているように、家庭においても、四名の子供の父親として、尊敬されている。被告人が本件に関与して逮捕された後も、その尊敬は変わるところはない。これは、これまでの被告人の誠実な生きざまを子供達が認めているからに他ならない。

また、被告人宇榮原の四人の子供は、いずれもまだ未婚であり、未婚の四人の子を育てる責任のある父親としての家庭内の責務・役割も、被告人の処遇に際して、有利な情状の一つとして十分に考慮されなければならない。

3 また、被告人宇榮原は国頭村宜名真出身であるが、約三〇年前に、被告人宇榮原が中心となって、那覇において宜名真郷勇会を組織し、当時被告人宇榮原は二〇歳代であったにもかかわらず、初代副会長を務め、それ以後、郷勇会活動に積極的に関わり、郷里の諸活動に対しても、大きな貢献をしてきた。宜名真郷勇会の会員も、これまでの被告人の郷勇会あるいは郷里に対する貢献が大きかったことを評価し、今回の裁判を非常に気にかけてくれている。

4 このようなこれまでの被告人は、自分のことさえ良ければいい、自分さえ儲ければいいというような姿勢で半生を送っておらず、あらゆる点で社会への貢献に務めようと努力してきた。

被告人宇榮原が社会に対して行ってきた貢献は、被告人に非常に有利な事情であるから、最大限評価されなければならない。ところが、原判決は、この点について、何等の検討もされておらず、極めて不当である。

九 被告人宇榮原の性格は、極めて正直で誠実である。

被告人宇榮原の性格は、福沢証人や被告人の妻が証言するように、人から頼まれたらいやといえず、自分を犠牲にしても人を援助する人間であった。そのため、被告人のまっすぐで誠実な性格は、従業員をはじめ、他人から信頼されている。この誠実な性格は、本件への関与においても、決して主導的、悪質でなかったことの徴表ともなる。

原判決は、被告人宇榮原の正直で誠実な性格については、全く言及していないが、これは量刑を決定する意味でも重要な事情であるから、十分検討考慮されなければならない。

一〇 被告人宇榮原には前科は一つもなく、本件については十分反省しており、再犯の恐れは全くない。

1 被告人宇榮原にはこれまで前科は一つもなく、ごく普通の社会人として、犯罪とは無縁の生活を送ってきた。被告人宇榮原は、前述のように、本件に関与する際には、その知識の乏しさから、被告人会社が納めなくとも、その分を自分がかわりに税金を納めれば脱税にはあたらないと誤解し、安易かつ軽率に関与してしまった。

しかし、本件において、生まれてはじめて逮捕勾留され、刑事裁判にかけられたことによって、被告人は自己の軽率さを十分反省している。今後は、現在北海道八雲町で計画している水耕栽培計画を推進したり、さらには、パラオ開発計画を再開する意欲を有している。

被告人はこれらの事業に打ち込み、成功を通じて社会に貢献し、そのことによって、本件で多方面に多大な迷惑をかけてしまったことの償いをする決意をしており、決して再度罪を犯すような恐れはない。

2 原判決の量刑について、被告人宇榮原には前科前歴はない旨判示しているものの、これまで被告人の真面目な生活歴について、十分な検討がされているとはいえない。

これは、前科のある相被告人である渡久山が懲役二年六月であることと比較しても、懲役一年六月という判決は、被告人宇榮原に対しては、重すぎ、不当な量刑であることは明白である。

一一 被告人には判決が課しているような実刑ではなく、社会内で立ち直らせて、これまで以上に社会に貢献させることこそが、被告人に対する処遇として適切である。

本件に関与したことによって、被告人宇榮原(南陽産業)が得た収入に対する所得税については、未だ金額の支払はなされていない。もし、被告人を実刑に処することになれば、南陽産業は倒産し、被告人宇榮原が計画している諸事業も挫折するは、明白である。もしそのような事態になれば、南陽産業が納めなければならない税金も大半は、納付することができなくなることもまた必定である。

この点、渡久山であれば、長男等の後継者がおり、それらに事業を引き継ぐことは可能であるが、被告人宇榮原の場合は、これまでの事業はほとんどすべて自分一人で計画立案してきたもので、実質的に代わるべき者がいない。実刑判決によって被る打撃は、本件の中心的人物である渡久山よりも被告人宇榮原の方が、格段に大きい。このように、渡久山との比較からしても、被告人に対する実刑判決というものが、不当に重すぎることは一目瞭然であるといわざるをえない。

むしろ、その軽率さによって本件に関与してしまった被告人に対しては、今一度社会内においてチャンスを与えて、自己の事業に全力を尽くさせ、それによって、これまで以上に社会への貢献という形で、本件の償いをさせるとともに、未納付の税金を納めさせるようにすることこそが、脱税事件に関与した被告人に対する処遇としては最も適切である。

一二 原判決の量刑について

那覇地方裁判所における過去の類似事件(法人税法違反事件)において、数億円単位の脱税事件(例えば、モナコ事件や丸信事件)の主犯が、執行猶予の付された懲役刑の宣告を受けている。本件は、全体としては右事件よりも脱税の金額は多いものの、被告人が事件に関与した度合いは、前述のように、極めて間接的受動的なものであり、実質的には従犯であって、その刑責はそう大きくはない。執行猶予となった右事件の主犯との比較においても、本件において、被告人の刑事責任として実刑を科した現判決は、明らかに不当といわざるを得ない。

一三 結語

以上に述べたところから明らかなように、被告人宇榮原に対して、懲役一年六月の実刑判決を下した原判決は、明らかに重すぎ量刑不当であるというべきはであるから、原判決を破棄すべきである。

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