大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所那覇支部 1970年(ネ)13号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人

原判決を取り消す。

本件を那覇地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の法律上および事実上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、当事者双方の主張として、つぎのとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人

控訴人は、法律上の効果を認められた戸籍により、控訴人の先代島袋林有の家督相続人としての地位を認められているのである。それゆえ、控訴人が相続人でないとするためには、真正相続人による家督相続回復の訴によることを要するのであつて、相続回復の判決が確定する以前に、真正相続人でない第三者が控訴人の相続人としての地位を否認することは許されないものというべきである。

二  被控訴人島袋林長

被控訴人島袋は、みずから控訴人の先代林有の家督相続人である旨を主張したり、控訴人の家督相続が無効であると主張しているのではなく、林有には法定の推定家督相続人として島袋林昌が存在したから、控訴人が家督相続をした事実はないとして、控訴人の家督相続の事実を否認しているにとどまるのである。控訴人の右主張は理由がない。

理由

一被控訴人島袋が本件土地につき那覇法務支局一九五三年三月六日受付第二、三九五号をもつて所有権保存登記を経由し、また、被控訴人山城が、その後、本件土地につき同法務支局一九五三年三月六日受付第二三九七号をもつて所有権移転登記を、一九五七年三月五日受付第三〇八三号をもつて住所変更の付記登記を経由したことならびに被控訴人山城が本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二控訴人は、本件土地は、もと控訴人の曾祖父島袋林佐の所有であつたところ、控訴人の父島袋林有が家督相続によりその所有権を取得し、さらに控訴人が林有を家督相続してその所有権を取得した旨主張する。

そこで、本件土地の所有権の所在についてはひとまず措き、控訴人が父林有の家督を相続したか否かにつき、まず検討する。

この点につき控訴人の父林有には子として二人の男子があり、長男は、島袋太郎であり、次男が控訴人であつたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、林有は、戦前に訴外高良モウシと法律上の婚姻をし、その婚姻中に島袋太郎を出生したが、その後同女と離婚して、離婚当時すでに同棲して控訴人を出生していた島袋ウメと正式の婚姻をしたこと、太郎は、戸籍の上の正式の氏名を島袋林昌といい、控訴人より先に出生し後記の沖繩群島において滅失した戦前における林有の戸籍には、その長男として入籍されていたことを認めることができ、この認定に反する証人島袋ウメ(第二回)の証言は措信できない、右事実関係によれば、控訴人の父林有の法定の推定家督相続人は島袋林昌(太郎)であつたものといわなければならない。

しかるところ、控訴人が父林有を家督相続するに至つた原因として、島袋林昌(太郎)は、昭和一〇年に林有の推定家督相続人たる地位を廃除された旨主張するが、同人に旧民法九七五条所定の廃除の事由が存在したような事実は本件全証拠によつても認めるに足りず、控訴人の主張に一部そう証人比嘉栄治および証人島袋ウメ(第一、二回)の証言はいずれもこれを措信するに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

もつとも、成立に争いのない甲第一号証(控訴人を戸主とする戸籍)によれば控訴人の前戸主との続柄欄には、控訴人は島袋林有の長男である旨、また身分事項欄には、「昭和一三年九月八日前戸主林有死亡により家督相続親権を行う母島袋ウメ届出同年九月二五日受付」と記載されていることが認められるが、他方、また、右事項欄には、「昭和一九年一〇月一〇日戦災による滅失につき昭和三二年一〇月七日本戸籍を整備す」との記載があつて、右戸籍は、今次大戦中に戦災によつて滅失した戸籍を、戦後、沖繩において施行された戸籍整備法(一九五三年立法第八六号)に基づいて昭和三二年に整備されたいわゆる認定戸籍であることが明らかである。

ところで、沖繩群島においては、今次大戦の戦禍により、各市町村役所に保存してあつた戸籍、除籍並びに関係簿冊の全部が滅失してしまつたところから、滅失した戸籍を再製整備するため前記戸籍整備法が立法されたが(同法一条)、同法の規定によれば、認定戸籍の調整の基礎となつた仮戸籍は、戦前の右戸籍滅失の日までに生じた事項については当事者の申告により、また、その後同法施行の日(昭和二九年三月一日)までに生じた事項については当事者の届出によつたほか、滅失の日までに戸籍の滅失した市町村によつて交付された戸籍、除籍の騰本、抄本、証明書類を所持する者にはこれを関係市町村に呈示させ、さらにそれ以前に作成されていた臨時戸籍をも参照して作成されたものであり(同法六条ないし一〇条)、また、かようにして作成した仮戸籍についても一定の縦覧期間と異議の申立期間が設けられ、能うかぎり正確を期したうえ戸籍として認定したものである(同法一一条ないし一四条)ことが窺われるが、現実には、認定戸籍の身分事項欄、父母との続柄欄の記載が必ずしも真実を現わすものでない場合があつて、虚偽の申告、届出に基づいて戸籍が調整され、それが紛争の原因となつて相続財産の所有権をめぐる訴訟が係属することが稀でないことは、当裁判所に顕著な事実である。そして、戸籍の滅失が、戸籍の再製が予定されている通常の場合のように、戸籍簿を保存する公署が火災、水害等に遭つたというような局地的な事変によるものでなく、沖繩群島が全体として戦禍に見舞われ、戦場と化したという状況(この点は公知の事実である)のもとでは、戸籍の再製、復元にあたつてその資料が十分でなく、再製された戸籍に意識的、無意識的な真実に合致しない申告、届出による虚偽の記載がなされる余地があつたことは推認するにかたくない。

右のような事情のもとにおいては、控訴人の認定戸籍に、控訴人が前戸主林有の長男である旨の記載があり、また、戸籍滅失前の、昭和一三年九月八日に控訴人が前戸主林有の家督相続をした旨を親権者である島袋ウメが届出でた旨の記載があるからといつて、直ちにこの記載を信用することはできないものといわなければならない。

そして、控訴人が父林有の死亡の際に同人の家督を相続した旨の証人島袋ウメ(第一、二回)、同証人比嘉栄治の証言は叙上の事実関係に徴して措信することができず、他に同人の家督相続の事実を認めさせるに足りる証拠はない。

三控訴人は、戸籍上、控訴人は、先代島袋林有の家督相続人たる地位を認められているのであるから、真正相続人からの家督相続回復請求の訴によつて相続回復がなされていないかぎり、第三者にすぎない被控訴人らは控訴人の相続人としての地位を争いえないと主張する。右は、最高裁昭和三二年九月一九日第一小法廷判決(民集一一巻九号一五七四頁)の法理を援用する趣旨と解されるが、しかしながら、すでに説示したとおり、控訴人の援用する戸籍は、前示のとおり沖繩の戸籍整備法によつて整備された認定戸籍であるところ、右立法は、同法一条によつて明らかなとおり、旧戸籍法(大正三年法律第二六号)一五条(現行戸籍法一一条)の特別立法であつて、いうところの「整備」は、右一五条所定の戸籍の再製にほかならないのであり、その目的が滅失前の戸籍をできるだけ完全に復元するにあつたことは、前説示の戸籍整備の手続によつても明らかである。

しかるところ、控訴人は、右戸籍に相続人である旨記載された以上、第三者はその地位を争いえないと主張するけれども(沖繩の本土復帰に際して、認定戸籍は、「沖繩の復帰に伴う法務関係法令の適用の特別措置等に関する政令」一四条により、本土の戸籍法による戸籍とみなされた。)、被控訴人らが控訴人の相続人たる地位を争う真意は、弁論の全趣旨とその提出する証拠関係に徴すれば、右認定戸籍の記載が戸籍整備の際における不真実の申告、届出等によつて、滅失前における島袋林有ないし控訴人の戸籍を忠実に再現したものでない結果、認定戸籍に控訴人が林有の家督を相続したように記載されるに至つたにすぎないというにあり、滅失前の戸籍にも控訴人が家督相続人たる地位にあるものとして記載されていたに拘らず、同人の家督相続が無効であること、たとえば、島袋林昌(太郎)に対する相続人廃除が無効であると主張したり、または、その他の事由で控訴人が相続人の地位になかつたことを主張する趣旨ではないことが明らかである。換言すれば、被控訴人らは、戸籍の再製、復元が不完全であるという主張を介して、控訴人の家督相続人たる地位を争つているにすぎないのである。

そして、沖繩における戸籍再製の事情が前示のごときものであるからには、再製戸籍を援用して、みずから少なくとも表見家督相続人たる地位にあることを主張する者は、その再製戸籍が滅失前の戸籍を忠実に復元したものであることについて立証責任を負担するものと解すべく、かような場合には、相手方は、その戸籍の記載の真実性を争い、ひいてその者の表見相続人たる地位を争いうるものと解するのが相当であつて、本件の認定戸籍の記載が滅失前の戸籍を完全に復元したものと認めえないことは、さきに認定したところにより明らかであるから、本件は、前掲最高裁判決の示す場合とは事実を異にし、その法理を援用することはできないものといわなければならない。したがつて、控訴人の右主張は理由がない。

四以上の次第で、控訴人がその父林有の家督相続人となつた事実についてはこれを認めるに足りないから、本件土地が、もと亡林有の先々代林佐の所有に属したか否かについて判断を加えるまでもなく、控訴人はその主張の家督相続に基づいて本件土地の所有権を取得することはなかつたものというべきであり、控訴人の請求は、この点においてすでに理由がないものとして棄却されるべきものである。

してみれば、これと同旨に出た原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(吉井直昭 屋宜正一 宮城安理)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!