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福島地方裁判所 平成11年(レ)2号 判決 1999年10月26日

控訴人(附帯被控訴人)

熊谷辰雄

被控訴人(附帯控訴人)

小松義明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の各負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴

1  原判決中控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。

二  附帯控訴

1  原判決中被控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  控訴人は、被控訴人に対し、金七万七一〇二円及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  平成八年六月二五日午後二時四八分ころ、福島県郡山市安積町荒井字大久保四三番地の一道路交差点(以下「本件交差点」という。)において、被控訴人の妻小松道子(以下「道子」という。)が運転する普通乗用自動車(以下「小松車」という。)の右側前部と控訴人が運転する普通乗用自動車(以下「熊谷車」という。)の左側前部が衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故により、被控訴人は、自己の所有する小松車の修理代金三八万五五〇八円の損害を受けた。

二  争点

本件事故の具体的状況並びにそれに基づく道子と控訴人の過失の有無及びその程度

三  争点に対する当事者の主張

1  控訴人

控訴人は、熊谷車を本件交差点にゆっくり進入させ、別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)のAの位置のマイクロバス(以下「車両A」という。)の前で止まり、助手席に同乗していた妻に左を見てと言い終わるか終わらないかというときに小松車に衝突された。そのときの熊谷車の停止位置は、前部が車両Aより二〇センチメートルから三〇センチメートル出る程度であった。小松車が本件交差点に進入する際、その進路上中央線側にマイクロバス等車両二台が停車し、これらによって小松車からの視界は右側が遮られていた。したがって、道子が、車両Aの前方を右側から左側に通行する車両のあることを予測していれば、熊谷車は停車中の車両Aから二〇センチメートル程度はみ出しただけで停車したのであるから、僅かのハンドル操作により熊谷車との衝突を回避できたし、そのスペースも十分にあった。

よって、本件事故は、道子が適切な予測運転をしていなかったことによる過失によって生じたものであるから、被控訴人側にも相当の過失がある。

2  被控訴人

道子は、小松車を運転し、見取図のとおり、車両Aを含む二台の車両の左側を通過しようとしたとき、車両Aの前から出てきた熊谷車と衝突した。このとき、道子は、時速約二〇キロメートルの速度で前方を見ながら走行していた。道路交通法上、進行道路上に障害物がある場合その左側を通行することは許された通行方法であり、小松車の通行方法に違法はない。また、道子が熊谷車を発見できたのは、衝突の直前であり、急制動しても間に合わなかった。

したがって、道子には、本件事故について過失はなく、本件事故は、控訴人の一方的過失によって生じた事故である。

第三判断

一  争いのない事実及び証拠(甲一、乙一、二、原審及び当審における証人小松道子の各証言、原審における控訴人の供述)によれば、次の事実が認められる。

1  本件交差点付近の道路状況及び交通規制等について

(一) 本件交差点は、福島県郡山市安積町荒井字大久保四三番地の一先に所在し、南北に伸びるいわゆる国道四号バイパス道路(以下「バイパス」という。)と、郡山市久留米五丁目方面から同市万海池方面に伸びる道路(東方へは幅員六・五メートルの道路(以下「東側道路」という。)が、西方へは幅員一〇・七メートルの道路(以下「西側道路」という。)が通じている。)とがほぼ直角に交差する、信号機によって交通整理が行われていない交差点である(見取図参照)。

(二) 本件交差点付近のバイパスの幅員は九・九メートルで中央線が本件交差点を貫いて表示され、片側一車線で、本件交差点南側の小松車進行車線には車道左側から一・五メートルの位置に外側線が表示されている(見取図参照)。

(三) 東側道路及び西側道路の本件交差点の手前には、いずれも一時停止の標識が設置され、両道路には中央線の表示がない。

(四) 本件事故直前、本件交差点の見取図のAの位置に幼稚園送迎用のマイクロバスである車両Aが右折準備のために停車し、同図の甲の位置に後続車両(以下「車両甲」という。)が右折のため縦列に停車していた。そのため、車両A及び甲が障害となって、本件交差点に東側道路から進入する車両の運転手はバイパスを南方向から進入してくる車両を、本件交差点にバイパスを南方から進入する車両の運転手は東側道路から直進してくる車両を、それぞれ見通すことができない状況にあった。

2  本件事故の態様等について

(一) 控訴人は、熊谷車を運転して東側道路からバイパスを横断して、西側道路に進行するため本件交差点に進入するに際し、見取図の<1>の位置で一時停止した後(控訴人は、一時停止標識の白線手前で一時停止した旨供述するが、甲第一号証に照らして採用できない。)、車両Aの前を通過して本件交差点を横断しようとして発進し、徐行して交差点の横断を始め、車両Aの左側から本件交差点に進入してくる車両の有無を確認しようと、見取図の<2>の位置で停車した途端に、その前部左側と小松車の前部右側が衝突して本件事故が発生した。熊谷車の前部のバンパーから運転席までは約二メートルの距離がある。

(二) 道子は、小松車を運転してバイパスを北進し本件交差点にさしかかったところ、見取図のAの位置に車両Aが、同図の甲の位置に車両甲が、いずれも右折のため中央線寄りに停車していたことから、本件交差点手前で進路をやや左側に変更して外側線の内側に入り(中央線から道路端までが五・二メートル)、速度を二、三〇キロメートルに減速して、本件交差点に進入し、車両Aの左側を通過しようとしたときに、熊谷車を発見し、急制動を講じたが間に合わず、見取図のアの位置で衝突して本件事故が発生した。

道子は、本件交差点に進入する際、交差点内で右折のために停車中の車両Aの前方を右側から左側に横断して来る車両があることを全く予想していなかった。

道子が、車両Aの前方を右側から左側に横断して来る車両があることを予想して、車両Aを通過する際にこれを確認し停車し得る程度に減速するか、若しくはかかる横断車に対処し得るように車両Aとの車両間の幅を余裕をもって確保して通行していれば、熊谷車を発見すると同時に急制動を講じるか、左にハンドル操作をすることにより、熊谷車の動向及び交差点内の広さからして、衝突を回避することは可能であった。

二  以上の認定事実及び争いのない事実を前提に、本件争点について判断する。

1  先ず、東側道路から本件交差点に進入する熊谷車は、バイパスが優先道路であり、一時停止標識が設置されているのであるから、停止線の直前(交差点の直前。通常は一時停止標識のある位置)で一時停止し、徐行するとともに、バイパスを通行する車両の進行を妨げないようにして横断しなければならない(道路交通法三六条二項、三項、四三条)。

ところが、熊谷車は、本件交差点の一時停止標識の位置(見取図参照)よりも交差点内に進んだところで停止した。その結果、バイパスから東側道路に右折進行する車両A等の進行の妨害となり、車両A等が右折準備のために停車している状況のまま、控訴人が横断を開始し進行することとなった。

しかしながら、道路交通法三六条二項によれば、非優先道路から優先道路に進入しようとする車両は、優先道路から交差道路に右折進行する車両の進行を妨害してはならないのであるから、そもそも控訴人が車両A等が右折を終了していないにもかかわらず、本件交差点に進入する事態に立ち至ったこと自体、右法規に違反するものと言うべきである。

2  その上、車両Aは幼稚園児送迎用のマイクロバスで箱形で車高があり、車両Bも縦列に停車していたことから、熊谷車からは、バイパスを南方から本件交差点に進入してくる車両を見通すことができず、それ故かかる車両を確認するために、熊谷車は自車のボンネット部分を車両Aの西側(小松車から見て進行方向左側)に突き出すまで進行せざるを得ず、熊谷車の構造及び車両Aとの位置関係(乙一)及び衝突部位、本件交差点付近のバイパスの状況、捜査復命書(甲一)、原審及び当審における証人小松道子の証言からすると、熊谷車は、車両Aの西側にバンパー部分を少なくとも一メートル程度は進めた位置で停車したものと推認される。

そうすると、優先道路であるバイパスを南側から本件交差点に進入した小松車からすると、右折停車中の車両Aの陰から急に熊谷車が少なくとも一メートル程度飛び出して来た状況であったと言うことになる。

3  以上によれば、右の熊谷車の通行は、一時停止標識のある道路から優先道路を横断する運転手として、優先道路を走行する車両の進行を妨害しない態様で交差点を横断すべき注意義務に違反していることが明らかである。

4  道子は、本件交差点に進入するに際し、バイパスが優先道路であることから、東側道路から横断してくる車両のあることを予測せず、右折のため停車していた車両A、甲を進行方向左側から通過するため、二、三〇キロに減速して進行したのであり、交通整理の行われていない交差点において優先道路を進行する運転手としては、見通しが悪い場合でも一般には徐行運転の義務はないから(道路交通法三六条三項参照)、道子の右通行方法自体は特段道路交通法に違反するものではない。

5  しかしながら、本件はバイパスであり交通量が多く、交差点内では、交差点内を通過する車両同士の事故が多発することが知られており、しかも、本件交差点は信号機によって交通整理が行われておらず、車両Aと甲の二台の車両が右折待ちのために停車していることから、直近に本件交差点を通過しようとしている車両の存在が当然予測され、かつ、中には西側道路に進行しようとして本件交差点内に入っている他の車両(横断車だけでなく、対向東線からの右折車両)のあることも予測されないわけではなく、それらの車両が不用意に横断を開始することもあり得ることであるし、更に、小松車からは右二台の停車車両のために本件交差点の右側は見通すことのできない状態であったから、これらの事態をも考慮した安全な速度と方法で本件交差点を通行する注意義務があったものと言うべきである(道路交通法三六条四項、七〇条)。

6  したがって、道子は、小松車を運転して車両Aの側を通過して本件交差点に進入するに際し、車両Aの前から西側道路方向に横断する車両のあり得ることも予測し、車両Aの前方(小松車の前方右側)も注視し、徐行して横断する車両があった場合には直ちに停車し得る程度に減速するか、又は左側に回避することができるように車両Aとの車両間隔を余裕をもって確保して進行すべき注意義務が要求されていたものと言える。

そうして、道子が、右注意義務を尽くしていたならば、熊谷車を発見するや、停止又は左側に回避する措置を取り、本件事故の発生を回避できたと考えられるから、道子にも本件事故については過失があると言える。

7  以上の検討に基づいて、本件事故における道子と控訴人との過失割合を考えれば、道子が二、控訴人が八とするのが相当である。

ところで、道子の右過失は、公平上、小松車に同乗し、道子の夫で小松車の所有者である被控訴人側の過失として評価すべきである。

三  以上によれば、原判決は正当であるから、本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却して、主文のとおり判決する。

(裁判官 生島弘康 高橋光雄 堀部亮一)

交通事故現場見取図

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