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福島地方裁判所 平成12年(ワ)172号 判決 2001年4月25日

原告

福島市

代表者

福島市水道事業管理者 齋藤廣

訴訟代理人弁護士

今井吉之

指定代理人

齋藤克己

阿部博宣

高橋信雄

被告

會澤武人

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  〔証拠略〕によれば、市水道条例及び福島市水道条例施行規程において、管理人や水道使用者などの義務等については、以下のように規定されていることが認められる。

(1)  市水道条例17条1項は、「この条例に定める事項を処理させるために、管理人を選定し」と規定し、同条例には「管理人」と明記する(同条例22条2項4号)ほか、「水道の使用者又は管理人若しくは給水装置の所有者(以下「水道使用者等」という。)」として、水道使用者等との表現で明記している規定がある(同条例21条1ないし3項、22条1、2項、24条1ないし4項、25条、38条1ないし3項)。

(2)  管理人は、「専用給水装置を家事用として2世帯以上で共同使用するもの、その他管理者が必要と認めたもの」が選定して管理者に届けることにより管理人となるのであり(市水道条例17条1項)、管理者は管理人が適当でないと認めた場合には(届出時またはその後に)管理人を変更させることができる(同条2項)。したがって、管理人は給水契約の申込をした管理人に限らないことになる。

そして、管理人が交代した場合に水道使用異動届が管理者宛に提出されるが(被告の場合もこのケースである。〔証拠略〕)、その際、従前の管理人の権利義務ないし契約上の地位を承継する旨の規定が市水道条例には存在しない。

また、給水装置所有者と管理人が同一人であることは要求されていない(市水道条例7条、9条、16条、21条。〔証拠略〕)。

(3)  市水道条例によれば、管理人は水道の使用者であるとは限らず、専用給水装置を家事用として2世帯以上で共同使用する者が、共同使用者でない者を管理人に選任することもありうる(同条例17条1項)。

福島市水道条例施行規程(様式第6号。地方公営企業法10条参照)によれば、共同住宅の管理人選任・入居者届は、共同住宅管理人名で管理者宛に届け出ることを要するが、この様式(用紙)には、不動文字で「上記のとおり共同住宅の管理人を選任したので、お届けします。なお、使用者は、下記のとおりですので併せてお届けします。」と記載され、住宅(室)番号と使用者名が記載され、本件マンションについての平成12年4月21日付届出書には、共同住宅管理人渡辺隆之が居住者として記載されていない(〔証拠略〕によると、共同住宅管理人渡辺隆之の住所は本件マンションの所在地である福島市清明町ではなく、同市野田町である。)。

(4)  市水道条例で「水道使用者」と明記されているのは、同条例26条1項(料金の徴収)及び40条(給水の停止)においてである。

給水停止に関し市水道条例40条は、水道使用者が同条例24条2項の修繕費を納入しないときは、その理由の継続する間給水を停止することができると定める。ところが、同条例24条2項は、修繕を必要とするときは、その修繕に要する費用は水道使用者等の負担とする。」と規定する。したがって、この場合も、水道使用者と管理人、給水装置の所有者とを文理上明確に分けて規定している。

(5)  また、市水道条例は、水道使用者等の管理者への届出義務として、「水道使用者の氏名又は住所に変更があったとき」と定めるが(同条例22条2項1号)、共同住宅の管理人が当該共同住宅の水道使用者の氏名又は住所に変更があった場合にはその旨届け出る義務があると解されるから(〔証拠略〕参照)、管理人と水道使用者が文理上分けて規定されている。

2  前提となる事実及び前記1の事実に基づき、市水道条例及び福島市水道条例施行規程における規定をみると、「水道使用者」と「管理人」は文理上明らかに区別して使用され、その役割と義務に基づいて別々に定められていること、また、管理人が給水契約の申込みをした場合において、管理人がその後変更される場合に旧管理人と新管理人との間で何らかの権利義務を承継する旨の規定が存在しないこと、管理人が同条例15条に基づいて給水申込みをしたことを根拠として同条例規定の各義務が発生するとの構成は取られておらず、申込み如何に関わらず、共同住宅における給水施設の構造や安全な水道水を円滑に給水するという水道事業目的、また水道事業者の便宜から管理人を選任させ、選任届出された管理人に上記目的等から一定の義務を負わせる構成になっていると解されることに照らすと、原告の主張するような、同条例26条1項の「水道使用者」とは同条例15条の「管理人」を含み、その理由は管理人が契約当事者だからであるとの解釈は、同条例の解釈としては無理があり、採用できないと考えられる。

3  ところで、市水道条例は、水道事業の上記2の目的等のために、マンション、アパート等の共同佳宅において管理人を届け出させ、一定の義務を課しているのであるが、そのためには必ずしも水道給水契約の当事者となる必要はなく、「共同使用者の代理人」として同契約を締結するものと解し(16条のように明文で「代理人」とは規定していない。しかし、「管理人」の通常の用語例は事務処理の受託者であり代理人である。なお、福島市水道条例規程様式第6号の様式参照)、給水装置の所有者(必ずしも給水装置の新設、改造又は撤去の工事をしようとする者ではない。同条例7条、16条、21条1項、22条2項2号、24条1、2項参照)と同様、水道給水契約当事者ではないが、市水道条例で前記のとおり一定の義務が課されていると解することも合理性があると考えられる。

4  もとより、水道事業者としては、市の水道メーターが1個であるマンション、アパート等の共同住宅において、専用給水装置を共同で利用する場合には必ずしも客観的に各戸の使用量を把握できないから、共同使用者に管理人を届け出させ、管理人に共同住宅の水道料金の全部支払義務があるとして水道事業を運営することが便宜であることは明らかである。

しかしながら、実際上は給水停止措置を背景に各戸の支払が事実上担保されているし、必要であればその旨を市水道条例で文理上明らかにすべきである。水道給水契約はいわゆる付合契約であり、契約者において具体的な契約条項の確認が行われなくても有効に成立するため一層文理上明らかにすることが求められる。旧水道条例(昭和36年4月施行)を廃止し、現在の市水道条例を施行した際に、マンションの時代が到来しつつあったのだから、管理人に共同住宅の水道料金の全額支払を求めうる規定を同条例に明らかに規定すべきであったと思われる。

なお、かかる付合契約の場合でも、契約主体が別個に特別の合意をすればその約定どおりの効力が発生するから、水道事業者が水道の需要者及び管理人との間で、管理人の水道料全部支払義務を定めることはできるのであり、実際の運用がそのようにされている場合もあるであろうが(〔証拠略〕参照)、市水道条例26条1項の解釈としては前記のとおり無理があると考えられる。

したがって、実際上の必要性は高いと考えられるが、原告の解釈を支える理由とはなり得ない。

また、原告の主張(3)の事実は、〔証拠略〕によって認められるが、原告は、市水道条例26条1項に基づいてのみ本件水道料金の請求をしているので、同条例26条1項の「水道使用者」に「管理人」が含まれないと解釈されることから、被告の本件水道料金支払義務に関する検討は以上のほか行わないこととする。

5  原告は、原告の表示を福島市水道局として支払督促の申立をしたが、異議申立て後に福島市と訂正した。当裁判所としては、本件請求が一貫して水道料金であり、いずれも代表するのは福島市水道事業管理者であること、被告は特に異議を述べなかったこと、条例に基づく請求であることから水道料金請求が公法上の徴収行為と誤解したためであると理解し、有効に訂正されたものと解した。

6  以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙橋光雄)

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