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福島地方裁判所 平成12年(行ウ)7号 判決 2001年7月31日

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

別紙平成12年度土地・家屋・償却資産名寄帳記載の各土地に対する平成12年度固定資産課税台帳登録価格につき,被告が平成12年5月24日付けでした原告の審査申出を棄却する旨の決定はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は、別紙平成12年度土地・家屋・償却資産名寄帳記載の122筆の土地(以下「本件土地」という。)を含む334筆を所有している。同334筆の各土地に関する平成11年度の固定資産課税台帳登録価格は,以下のとおりであった。

ア 田130筆11万4897㎡  1335万9764円  1㎡当たり約116円(1円未満四捨五入。以下同じ。)

イ 畑75筆5万5947㎡  222万2351円  1㎡当たり約40円

ウ 山林103筆209万2543㎡  4269万5221円  1㎡当たり約20円

エ 原野25筆34万0651㎡  541万6650円  1㎡当たり約16円

オ 雑種地1筆195㎡  3510円  1㎡当たり約18円

カ 原告所有土地334筆260万4233㎡  6369万7496円  1㎡当たり約24円

(2)  表郷村村長は,本件土地につき,平成12年度の固定資産税の課税標準たる価格を一律に1㎡当たり970円と決定し,地方税法411条により固定資産課税台帳に同価格を登録した(以下「登録価格」という。)。

(3)  原告は,地方税法423条に基づき表郷村に設置された被告に対し,平成12年4月28日付で本件土地の登録価格に不服があるとして審査申出(以下「本件審査申出」という。)をしたところ,被告は,同年5月24日,本件審査申出を棄却する旨の決定(以下「本件審査決定」という。)をした。

(4)  しかし,本件審査決定には,手続上の重大な瑕疵がある。

ア 口頭審理の申込みとその不履行

(ア) 本件審査申出に際し,原告は,被告に対し,地方税433条2項所定の「口頭審理」の「要請」として電話により口頭で意見を述べる機会を設けるよう求めた。

(イ) 被告は固定資産評価委員会条例4条2項(3)に基づいて口頭審理を求める場合は審査申出書にその旨記載しなければならないのに原告の本件審査申出にはそれが欠けているというが,原告は電話で口頭審理を求めているのであるから,被告は,その際,同申出書にその旨「記載」するよう告知するべき義務を負っていたものである。かかる最低限の説明すら怠っていた以上,被告は,本件審査申出書に口頭審理の記載がないことを理由として,口頭審理を拒むことはできない。

イ 書面審理の不存在

(ア) 表郷村の固定資産評価審査委員会条例6条によれば,審査申出書の受理がなされた場合には,「書面審理」が行われ,「書面審理を行なう場合においては」,村長に対し「正副二通の弁明書の提出を求め」,「審査申出人に対しその副本」を送付しなければならないと規定されている。

(イ) しかしながら,被告は,「書面審理」すら全く実施していない。すなわち,被告は,表郷村村長に対し「弁明書」の提出を求めず,そのため,原告は同村長の「弁明書」を入手できず,これに対する「反論書」を提出する機会を得られなかった。

ウ 被告は,以上のとおり「口頭」によるも「書面」によるも,およそ実質的な審理といえるものを一切なさないままに,本件審査決定をなした。これは,第三者機関である審査委員会を設けて審査手続にできる限り対審的,争訟的構造を取り入れてその手続を公正なものとすると同時に,審査申出人の権利の救済を全うしようとする制度目的に著しく反しており,本件審査決定には致命的な手続上の瑕疵がある。

エ さらに,本件審査手続においては,一方当事者である表郷村が審査委員会の開催から議題,資料等審理の在り方まで全て主導し,公平な第三者機関であるべき審査委員会が一方当事者である同村と完全に癒着し一体化しており,この点においても,本件審査手続は違法を免れない。

オ 以上のとおり,被告は,本件審理手続において,①原告に対し,固定資産評価委員会条例等の手続について一切説明せず,その告知を怠り,②原告から電話で口頭審理の申請がなされたのに,これを実施せず,③同条例に反して書面審理さえも実施しないまま,④具体的な手続において,固定資産税の課税標準となる価格を決定した表郷村がその全てを主導して一方的に結論を出しており,その手続上の瑕疵は著しく重大かつ深刻であって,実質的な審査がなされていないに等しい。

よって,上記重大な手続上の瑕疵によってなされた本件審査決定は,その内容の当否及び口頭審査の是非にかかわらず,取り消されなければならない。

(5)  また,本件審査決定は実体上も違法である。

ア 本件審査決定は,ゴルフ場用地についての固定資産評価基準を安易に適用し,ゴルフ場用地の取得価格に宅地の評価割合を乗じたものに,ゴルフ場の造成費に宅地の評価割合を乗じたものを加算して,その評価額を算出しているが,上記価格は,「時価を超えており」違法に高額な評価となっている

イ 本件審査決定は,ゴルフ場用地の取得価格について,「価格変動があった場合の取得価格」として「近傍の山林に係る実例売買価格1000㎡当たり60万円,1㎡当たり取得価格600円」と認定する。

しかし,価格決定の唯一の根拠とされている「実例売買」なるものについて,その売買の時期及び場所の特定すらなされておらず,上記売買価格には,当然立木等の価格が含まれているものと考えられ,土地そのものの対価としては,せいぜい1㎡当たり300円程度が妥当である。

ウ 本件審査決定は,本件土地の評価にゴルフ場造成費分を加算するが,造成費が直ちに「時価」に反映される訳ではないから当然に加算されるべきではなく,上記造成の結果として発生するゴルフ場の収益等を固定資産評価の要素としてこれを考慮せず,無視する以上,上記造成費は,そもそも評価上,加算されてはならない。

エ 確かに,「ゴルフ場の収益等」を直接固定資産「評価額の算定の一要素としてすることは妥当でない」かもしれないが,「ゴルフ場の収益等」は,間接的にゴルフ場の価格すなわちゴルフ場用地の「時価」を左右する一要素である。

例えば,本件ゴルフ場の平成12年4月から6月の3か月間についていえば,1か月平均売上げ約2004万円,売上原価約890万円,一般管理費約1858万円と金利等を無視しても744万円もの営業赤字に陥っており,こうした収支からすれば,本件ゴルフ場は,ほとんど無価値に等しく,およそ年間約2600万円もの固定資産税を支払う資力は存在し得ない。

オ 以上の理由から,本件土地については,ゴルフ場取得価格を1㎡当たり300円として,造成費を加算せず,300×0.7×.0.96×0.95=192円と評価すべきである。

(6)  よって,原告は,本件土地に対する平成12年度固定資産課税台帳登録価格につき,被告が平成12年5月24日付けでした本件審査決定の取消しを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)の事実は認める。

(2)  同(2)の事実は認める。

(3)  同(3)の事実は認める。

(4)ア  (ア)同(4)ア(ア)の事実は否認する。

被告の固定資産評価委員会条例4条2項(3)では,審査申出書には「口頭で意見を述べることを求める場合には,その旨」を記載しなければならないとされている。同条例は,地方税法433条2項の手続を明確にしたものである。

しかし,本件審査申出書には口頭で意見を述べる旨の記載はない。また,本件審査申出に際し,原告から口頭で意見を述べる機会を設けるような要望はなかった。

(イ) 同(イ)は争う。

被告担当者において,条例の内容を説明すべき法的義務はないイ(ア)同イ(ア)の事実は認める。

(イ) 同(イ)の事実は認める。

ウ 同ウの事実中,口頭審理及び書面審理をしなかったことは認め,その余は争う。

被告は,表郷村村長の弁明書,原告の反論書の提出をさせなかったが,原告の申し出た内容を慎重に検討し,書面審理をし,結論を出しこの結論について文書で原告へ送付している。

エ 同エは争う。

オ 同オは争う。

(5)ア  同(5)アのうち,本件審査決定の内容は認め,その余は争う。

本件評価額は,原告の本件土地の買収単価(1㎡当たり1026円)を超えていない。

イ  同イのうち,本件審査決定の内容は認め,その余は争う。

本地域の売買実例としては,1㎡当たり、小松方面800円(平成3年ころ),堀ノ内方面750円(平成8年ころ),八幡方面1000円(平成7年ころ)であり,これらの売買実例では立木補償が別に支払われており,立木等はこの売買価格には含まれていない。

ウ  同ウのうち,本件審査決定の内容は認め,その余は争う。

表郷村は原告所有のゴルフ場用地について,自治省(現総務省)通達の固定資産評価基準に基づき評価したものである。これによれば,ゴルフ場の用に供する土地の評価は当該ゴルフ場を開設するに当たり要した当該土地の取得価額に当該ゴルフ場の造成費を加算した価額を基準とし,当該ゴルフ場の位置利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとされている。

エ  同エのうち,本件審査決定の内容は認め,その余は争う。

固定資産税は,土地・家屋・償却資産の所有者に課税されるものであり,所得の有無は問わない。

オ  同オは争う。

本件土地の評価は,固定資産評価基準に基づき行っており,違法はなく適正な価格である。

理由

1  請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで,同(4)の本件審査決定の手続上の瑕疵について検討する。

(1)  証拠(「決定書の取り消しについて」と題する書面。甲5)によれば,被告は平成13年3月30日,同12年5月24日付けの本件審査決定を,地方税法433条11項及び表郷村固定資産評価審査委員会条例6条の規定による審理不尽を理由として取り消す旨決定し(以下「本件取消決定」という。),本件審査申出に対し再度審議することにしたことが認められる。

(1)  ところで,一般に,行政機関は自らした行政処分を相応の理由がある場合に取り消すことができるが,行政処分であっても,実質的に見ればその本質が法律上の争訟を裁判するという性格を有し,対立する争訟当事者の主張・立証を手続上保障し,公権的に当該争訟の解決基準を定立するという意味で実質的には裁判であると評価することができる行政処分は,他の一般行政処分とは異なり,特別の規定がない限り,処分庁自らにおいて取り消すことはできないと解すべきである(最高裁昭和29年1月21日第1小法廷判決・民集8巻1号102頁参照)。

そこで,固定資産評価審査委員会における審理手続をみてみると,次のとおりである。

ア  地方税法上の審理手続

(ア) 固定資産評価審査委員会は,地方税法第3章(市町村の普通税)第2節(固定資産税)第6款(固定資産の価格に係る不服審査)に定められ,固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために,市町村に設置され,当該市町村の議会の同意を得て市町村長が選任する3人以上の委員で構成され,審査申出の事件の議事は過半数の委員が出席し,審査の決定は,出席委員の過半数の同意がなければすることができない。委員は一定の欠格事由があれば委員であることができず,職務上の義務違反等の一定の事由があれば議会の同意を得て罷免される。固定資産評価審査委員会は,審査の申出を受けたときには,直ちにその必要と認める調査その他の事実調査を行い,その申出を受けた日から30日以内に審査の決定をしなければならない。

(イ) 不服の審理は,書面による(同法433条2項本文)。ただし,審査請求者の申出があった場合には口頭で意見を述べることができる機会を与えなければならない(同項ただし書)。固定資産評価審査委員会は,審理のために必要がある場合には,審査請求者及び市町村長の出席を求め,公開による口頭審理を行うことができる(同条6項)。同審理においては,固定資産評価員その他の関係者の出席及び証言を求めることができる(同条7項)。同委員会は,審査のために必要がある場合には,固定資産の評価に必要な資料を所持するものに対しその資料の提供を求め,固定資産評価員に対し評価調書に関する事項について説明を求めることができる(同条3項,4項)。審査申出人は,市町村長に対し,当該申出に係る主張について書面での回答を求めることができる(同条5項)。

審査手続には,行政不服審査法22条(処分庁の弁明書の提出と審査請求人に対する送付義務),23条(審査請求人の反論書の提出権),26条(審査請求人の証拠書類等の提出権),27条(参考人の陳述及び鑑定の請求権),29条(検証請求権),30条(審査請求人に対する審尋),33条(処分庁の書証等の提出権)等の規定が準用されている(地方税法433条11項)。

固定資産評価審査委員会が決定をした場合には,審査申出人及び市町村長に文書で通知し,固定資産税の納税者は同決定に不服がある場合にはその取消しの訴えを提起することができ,市町村長は固定資産課税台帳に登録された価格等を修正する必要がある場合には修正して登録しなければならない(同法433条12項,434条1項,435条1項)。

イ  表郷村固定資産評価審査委員会条例上の審理手続

審査申出書には,口頭で意見を述べることを求める場合においては,その旨を記載するものとし(同条例4条2項),書面審理を行う場合においては,村長に対し審査申出書の幅本及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し,期限を定めて,正副2通の弁明書の提出を求めるものとし,弁明書の提出があった場合,審査申出人に対しその副本及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付しなければならず,審査申出人はこの場合,弁明書に対する反論書を提出することができる(同条例6条1項ないし3項)。

審査申出人に口頭で意見を述べる機会を与える場合には,あらかじめ,その日時及び場所を審査申出人に通知しなければならない(同条例7条)。固定資産評価審査委員会は,口頭審理を行う場合には,そのつど審査申出人及び村長に通知しなければならない(同条例8条2項)。委員会は,口頭審理を終了するに先立って,審査申出人に対して,意見を述べ,かつ,必要な資料を提出する機会を与えなければならない(同条例8条6項)

以上によると,固定資産の登録価格についての不服の審査は,評価,課税の主体である市町村長から独立した第三者的機関である固定資産評価審査委員会に行わせ,対立する市町村長と審査申出人(納税者)の主張・立証を手続上保障し,公権的に当該争訟の解決基準(登録価格とすべき価格)を定立するという意味で実質的には裁判であると評価することができる行政処分に該当するというべきである。

したがって,他の一般行政処分とは異なり,特別の規定がない限り,原則として処分庁自らにおいて取り消すことはできないと解される。

(3)  しかしながら,最高裁平成2年1月18日第1小法廷判決(民集44巻1号253頁)は,「法(地方税法)が固定資産の登録価格についての不服の審査を評価,課税の主体である市町村長から独立した第三者的機関である委員会に行わせることとしているのは,中立の立場にある委員会に固定資産の評価額の適否に関する審査を行わせ,これによって固定資産の評価の客観的合理性を担保し,納税者の権利を保護するとともに,固定資産税の適正な賦課を期そうとするものであり,さらに,口頭審理の制度は,固定資産の評価額の適否につき審査申出人に主張,証拠の提出の機会を与え,委員会の判断の基礎及びその過程の客観性と公正を図ろうとする趣旨に出るものであると解される。・・※納税者は,固定資産課税台帳を閲覧してその所有に係る宅地の評価額を知り,これに不服を抱いた場合に,不服事由を具体的に特定するために必要なその評価の手順,方法,根拠等をほとんど知ることができないのが通常である。したがって,宅地の登録価格について審理の申出があった場合には,口頭審理制度の趣旨及び公平の見地から,委員会は,自ら又は市町村長を通じて,審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順・方法,根拠等を知らせる措置を講ずることが要請されているものと解される。」と判示しているところ,この理は口頭審理の申出がない場合の書面審理の場合(地方税法433条2項)にも同様に妥当するものというべきである。

そして,固定資産評価審査委員会に対し,登録価格について審理の申出があった場合には,地方税法は,上記の趣旨に基づき,第三者的機関である同委員会を設け,職権で,(2)ア(イ)に記載の各手続を行使することができると定めているのであるから,同委員会は自ら又は市町村長を通じて,審査申出人に対し,不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順,方法根拠等を知らせる措置を講じ,反論の機会を実質的に与えることが要請されているというべきところ,このような手続を欠く場合には,第三者的機関たる同委員会を設けた不服審査制度の趣旨が没却されることになり,重大な瑕疵があるというべきである。したがって,このような手続を欠く審査決定は,審理不尽の違法があり取消しを免れないばかりでなく,その瑕疵の重大性に鑑み,実質的には裁判であると評価することができる行政処分とはいえないものとして,処分庁自ら当該処分を取り消すことが許されると解すべきである。

(4)  そこで,本件審査決定の手続及びその効果について検討する。

ア(ア)  原告は,本件審査申出に際し,本条例に基づき,本件審査申出書(乙3)に「口頭で意見を述べることを求める。」旨の記載をしなかったこと,そのため,被告は口頭審理の申出がないものとして,口頭で陳述を述べる機会を与えなかったこと,及び被告は,本件審査申出を受けて,地方税法433条2項,6項の規定する,口頭審理(同法433条6項,7項,11項,同条例8条)をしなかったばかりか,書面審理(同条2項本文)の方法としても,審査申出人から必要な資料の提出を求める(同条3項)こともなく,処分庁である表郷村村長から弁明書の提出を求めて審査申出人に送付することもなく,したがって,審査申出人から反論や証拠書類等の提出もなかったこと(同条11項)は,被告の自認するところである。

(イ)  そして,証拠(乙3ないし6)によれば,平成12年5月1日受付の本件審査申出に対し,同月22日開催された被告の委員会では,同申出の趣旨が,ゴルフ場造成後に何らの資産価値の増加がないこと,ゴルフ場の利便の悪さや冬季は閉鎖せざるを得ない自然環境等から収益力が非常に劣り,資産価値も低いと主張して従前通りの評価基準を適用して評価額の減額を求めているのに対し,被告事務局(実質的に表郷村職員)が資料(自治省税務局資産評価室長作成の「ゴルフ場の用に供する土地の評価の取扱いについて」と題する書面と,同書面に記載された評価方法による,龍の舞ゴルフクラブにおける評価額の算出方法を示した書面)を用いて一方的に説明し,これに対して委員の質問がなされたが,龍の舞ゴルフクラブのゴルフ場用地の実情に照らした実質的な議論がなされないまま,1時間半で委員会は終了し,同月24日,被告は同事務局の説明した資料のとおりの判断をして,本件審査申出棄却していることが認められる。

イ  以上によれば,本件審査決定は,地方税法が,固定資産評価審査委員会の審査決定手続において,争訟的,対審的手続を審査申出人に保障しているにもかかわらず(前記(2)参照),その審理手続において,本来職権を発動してなされるべき実質的な争訟的,対審的構造に基づく審理手続が採られず,一方的に課税庁(表郷村)の説明に基づいて行われたものであって,地方税法が予定している審査の在り方から著しく逸脱した重大な瑕疵があるといわざるを得ない。

したがって,本件審査決定は,実質的にみてその本質を法律上の争訟を裁判するものであるとの評価をすることができないものであるから,処分庁自ら当該決定を取り消すことができる場合に該当するというべきである。

3  以上のとおりであるから,本件取消決定は有効であるというべく,本件訴えはその取消しの対象となる処分が存在しないことになるから,不適法な訴えとして却下を免れないことになる。

よって,本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 高橋光雄 裁判官 久保孝二)

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