福島地方裁判所 平成13年(む)67号 決定 2001年9月13日
主文
本件準抗告を棄却する。
理由
1 準抗告申立ての趣旨及び理由
本件準抗告の申立ての趣旨及び理由は、準抗告申立書及び準抗告申立理由補充書記載のとおりであり、弁護人は、要するに、被疑者の身柄を横浜少年鑑別所から郡山拘置支所に移すに当たり、検察官は裁判官の同意を得て移監指揮手続をとるべきであったのに、これを行わずに被疑者を同拘置支所に身柄拘束した勾留には憲法三一条、三三条、三四条による刑事手続における法定手続の保障や、令状主義の要請の趣旨に反するほか、刑事訴訟法二〇七条一項、刑事訴訟規則八〇条、三〇二条、少年法二〇条、四五条に反する違憲・違法があるから、勾留の取消請求を却下した原裁判を取り消し、勾留を取り消されたいというのである。
2 当裁判所の判断
(1) 一件記録によれば、被疑者に対する勾留(少年法四五条四号による、いわゆるみなし勾留。以下「本件勾留」という。)がなされるに至った経緯は、原裁判の理由中第2項記載のとおりであると認められる。すなわち、被疑者は、平成一三年七年二四日、郡山簡易裁判所裁判官により傷害の罪を犯したと疑うに足りる相当の理由と、刑事訴訟法六〇条一項二号及び三号の要件があるとして勾留され、さらに同年八月二日、同裁判所裁判官によりその勾留の期間を同月一〇日まで延長する裁判を受けた。この勾留期間中に被害者が死亡したことから、福島地方検察庁郡山支部検察官は、同日、上記傷害事件を傷害致死事件(以下「被疑事件」という。)として福島家庭裁判所郡山支部に送致し、同支部裁判官は、少年法一七条一項二号により被疑者を福島少年鑑別所に送致する旨の観護措置決定を、さらに同日、被疑事件を横浜家庭裁判所に移送するとともに、上記観護措置決定につき指定した福島少年鑑別所を横浜少年鑑別所に変更する旨の決定をした。被疑事件の移送を受けた横浜家庭裁判所裁判官は、同月一五日、被疑事件につき調査及び審判を開始する旨の決定を、同月二二日に上記の観護措置の期間を同月二四日から更新する旨の決定をそれぞれ行った上で、同年九月五日、少年審判規則二四条の二第一項により罪となるべき事実並びに刑事訴訟法六〇条一項二号及び三号の事由がある旨の告知をした上で、観護措置決定を取り消すことなく少年法二三条一項、二〇条二項本文、二〇条一項により被疑事件を横浜地方検察庁検察官に送致する旨の決定を行った。被疑事件の送致を受けた同庁検察官は、同日、これを福島地方検察庁郡山支部検察官に移送するとともに、被疑者を郡山拘置支所に収監した。なお、横浜地方検察庁検察官が被疑者を郡山拘置支所に収監するに際して、裁判官による移監の同意(刑事訴訟法二〇七条一項、刑事訴訟規則八〇条一項、三〇二条一項)の手続きが行われた事実は認められない。
(2) 以上の事実を前提として検討するに、被疑者については、横浜家庭裁判所裁判官が、観護措置決定を取り消すことなく少年法二三条一項、二〇条二項本文、二〇条一項により被疑事件を横浜地方検察庁検察官に送致する旨の決定を行ったことにより、従前の観護措置が同法四五条四号により勾留とみなされたものであるところ、かかる場合には、従前少年鑑別所において観護措置が執られていたものが(少年法一七条一項二号、少年審判規則二〇条)、そのまま勾留に切り替わるのであるから、勾留場所は従前の少年鑑別所となるのであり、これを拘置支所等に変える場合には、移監の手続として、刑事訴訟法二〇七条一項、刑事訴訟規則八〇条一項、三〇二条一項に基づき裁判官の同意を要すると解するのが相当である。それ故、本件において、被疑事件の送致を受けた横浜地方検察庁検察官が、かかる手続を行うことなく被疑者を郡山拘置支所に収監した点には、移監の手続きを定めた上記刑事訴訟法及び刑事訴訟規則に反する手続的瑕疵があったといわざるを得ない。
しかしながら、一件記録によれば、被疑事件は、<中略>という事案であり、原決定も指摘するとおり、横浜地方検察庁検察官は、被疑事件の発生の経過や犯罪地等の事情を総合考慮して、犯罪地の管轄裁判所である福島地方裁判所郡山支部に公訴を提起し、同支部において審理を行うのが相当であるとの考慮の下、被疑事件を同支部に対応する福島地方検察庁郡山支部検察官に移送するとともに、被疑者を郡山拘置支所に収監したものであると認められ、その判断に合理性・相当性があることは明らかである。このような場合に、仮に横浜地方検察庁検察官が郡山拘置支所への収監につき、前記移監の手続に基づく同意を裁判官に求めていたとすれば、これを不同意とする理由は見出し難いところであることも、原裁判が指摘するとおりである。
以上によれば、本件勾留には、検察官が移監の手続を行うことなく被疑者を郡山拘置支所に収監した点に手続的瑕疵があると認められるものの、その瑕疵が本件勾留自体を違法として取り消さなければならないほどに重大なものであるとは解されない。弁護人の主張は採用することができない。
(3) 以上の次第であって、本件において、勾留を取り消さなければならないような重大な違憲・違法があるとは認められず、原裁判は相当であると認められ、本件準抗告は理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。