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福島地方裁判所 平成14年(わ)105号 判決 2003年1月31日

主文

被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中180日を,それぞれその刑に算入する。

被告人両名から,押収してあるホイールナットレンチ1本(平成14年押第20号の1)及びフレアースカート1枚(同号の2)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯)

1  被告人Aは,昭和40年4月7日,福島県相馬市で父F,母Cの二女として出生し,同市内の中学校を卒業した。被告人Aは,同県原町市内のパン屋で稼働するなどした後,昭和58年Dと婚姻し,その間に長女E(昭和58年9月18日生まれ)が出生したものの,昭和60年に離婚し,その後,暴力団構成員や暴走族構成員と同棲したり婚姻するなどし,その間,夫や同棲相手の給料や事業資金を持ち出してはスナックなどで遊興したり,金がなくなると男性と肉体関係を結んで金を用立ててもらっては遊興に耽るなどした。被告人Aは,平成8年ころ,漁船の乗組員で相当額の収入を得ていた被告人B(当時は婚姻前の姓であった。)を金蔓にしようと考え,スナックに誘うなどして親しくなり,間もなく被告人Bと肉体関係を結んだ。被告人Aは,そのころ,別の男性と同棲していたが,その後も被告人Bと情交を繰り返して同棲するようになり,被告人Bが平成8年9月ころ福島県相馬市aに被告人B名義で2400万円余りの住宅ローンを組んで建売住宅を購入するや,そのころから同所で被告人Bと同棲してEや姪のGと一緒に暮らし始め,平成9年11月被告人Bと婚姻した。

2  一方,被告人Bは,昭和48年3月21日,福島県相馬市で漁師をしていた父H,母Iの二男として出生し,昭和63年3月,同市内の中学校を卒業した後,地元の沖合底引き網漁船の乗組員として稼働した。被告人Bは,多いときで月100万円程度の高収入を得たこともあったが,被告人Aと婚姻した後の平成11年6月ころには漁船の乗組員の仕事を辞め,その後携帯電話の部品製造工場に勤めたり,とび職として働くなどした。しかし,被告人Bは,勤務先から給料の前借りをするなどしたため,勤務先に居づらくなって退職を繰り返し,平成13年9月ころから仕事をしなくなり,パチンコなどをして生活していたが,そのうちパチンコによる収入もなくなり,全く無収入の状態となり犯行時に至った。被告人Bは,平成9年11月被告人Aと婚姻し,Eと養子縁組をした。

3  被告人Aは,被告人Bと一緒に暮らすようになった後,被告人Bが漁期になると週末ぐらいしか帰宅しないことに乗じて,姪のGを口実にして知人から入手した金や自分が男性から得たり借りたりした金で遊興に耽る生活を送るようになり,債権者から被告人Aに対し貸金返済の催促があれば,被告人Bに対しては,他人の借金の保証人になっているためであるなどと虚言を弄して信用させたほか,被告人Bの給料も遊興のために浪費した。被告人Bは,このような被告人Aの態度に不審の念を抱くようになったが,被告人Aの実娘で同居していたEに女性としての愛情を抱くようになっていたこともあって,被告人Aとの共同生活に終止符を打つことができなかった。被告人Bは,平成14年に入って全く収入がなくなり,自宅の電気代やガス代等も支払えず,そのうち電気やガスの供給が止められ,夜間はろうそくを使って生活するようになった。被告人Bは,情を知らないまま,被告人Aが上記のようにして調達した金で自宅でEと過ごしたり,債権者の催促から逃れるなどして生活していた。

4  判示第2,第3事実(強盗殺人,死体遺棄)の被害者Jは,平成2年に前妻と死別した後は,知人の女性にホームヘルパーを依頼し自宅で暮らしていた。被告人Aは,平成12年5~6月ころ,知人の紹介でJと面識を持つようになった。被告人Aは,同人に気に入られたことに乗じ,あれこれと口実をもうけては,同年6月から7月にかけて同人から現金合計300万円余りを借り受けるようになり,これを遊興費などに費消した。被告人Aは,遊び仲間に対し,「あのじじい,寝ればお金を引っ張れる。」などと吹聴した。被告人Aは,Jから借り入れた金員の返済については,同人に月20万円ずつ返済する旨約束したものの,平成12年秋ころまで数回に分けて合計約60万円余りを返済した後は,その返済要求をはぐらかしただけでなく,更に虚言を弄して数万円程度の金を複数回にわたってEの銀行預金口座に振り込み入金させるなどする一方,被告人Bに対しては,被告人Aが友人の女性に代わって自分名義で金を借りたがその友人が借金を返済しないので自分が返済しなければならなくなって困っているなどと虚言を弄するなどしていた。

5  被告人Aは,平成13年12月ころから,他の男性と交際し同人から借りた金などを生活費に充てるようになった。被告人Aは,平成14年3月ころには,同人の立ち寄り先を訪ねるなどして金を手に入れようとしたが,手に入れることができず,所持金が少なくなったので,宿泊していたホテルの客室内からテレビを盗んで売り払って当座の生活費を得ようと考え,被告人Bにその旨申し入れ,被告人Bもこれを承諾し,被告人両名は判示第1の犯行に及んだ。

6  被告人Aは,平成14年3月19日午前には所持金が7000円程度しかなかった。被告人らはなんとか他から金を手に入れようと考え,同日午後零時ころ被告人らの自宅を自動車で出発した。ところが,被告人らは,出発直後に同車両が故障して走行不能となり,同日午後零時過ぎころ,福島県相馬市a字bc番地のd所在の被告人らの自宅に戻ってきた。被告人Aは,車がなければ行動の自由が奪われて金策もできないなどと思ったことから,かねてから執拗に借金返済を迫っていたJのことを思い出し,これまで同人から受けた仕打ちに対する恨みがこみ上げてきた。被告人Aは,同人が常に多額の現金を持ち歩いていたことから,同人を被告人らの自宅に呼び出して殺害し,所持金と車を強取すれば,当座の生活費のみならず,交通手段としての車も手に入るなどと考えた。そこで,被告人Aは,被告人BとEに対し,「車取っぺ。J殺して取っぺ。呼んで金取っぺ。」などと言って,Jを被告人らの自宅に呼び寄せ殺害して同人の所持する車や現金を奪おうと強く主張した。被告人BとEは,当初被告人Aの突然の言動に驚き,その犯行計画に反対した。しかし,被告人Aは,被告人Bに対し「だったらお前金作れんのか。」などと怒鳴りつけるように言って,なおもJを殺害して同人の所持する車や現金を強取する旨執拗に主張し続けた。被告人Aは,同日午後1時ころ,被告人らの自宅にJを誘き寄せるための電話をかけ,その旨同人に伝えた。その結果,電話に出たJが被告人らの自宅に来ることになったが,同人が到着するまでの間,被告人Aは,自宅で被告人BとEに対し,Jから車や現金を強取するために同人を殺害する旨主張し,これに対する協力を求め,被告人Bらの協力が得られない場合には被告人A単独ででも犯行を実行する旨言い張った。被告人Bは,このような被告人Aの決意を聴いても,なお犯行への加担を渋った。ところが,被告人Bは,そばにいたEが,「私もまざっから。」と言い出して,被告人Aと行動をともにする旨申し出るのを目の当たりにするに至り,Jを殺害するまでの考えはなかったものの,同人の反抗を抑圧し,金品を強取する程度までなら仕方がないと考えてその旨承諾するに至り,ここにおいて,被告人Bは,判示第2の犯行のうち,強盗の共謀を遂げた。そして,被告人Bは,犯行に加担することを申し出ていたEに対しては,「じゃあ,ガムテープでも貼ればいいから。」などと言った上,手で口にガムテープを当てる動作をしてJの口を塞ぐよう指示した。

7  Jは,平成14年3月19日午後1時30分ころ,同人の車を運転して被告人らの自宅東側路上に到着し,被告人Aは,同人を迎えて応対したが,被告人BとEは,1階リビング南側縁側のガラス戸そばのカーテンの裏に潜んで隠れた。被告人Aは,Jが室内から被告人Aの衣服を持ち出して同人の運転してきた自動車に積み込むため,家を出入りし,同人が台所で被告人Aの別の服を選ぼうとして被告人Bのいる方向に背を向ける形でしゃがむのを見るや,Jに悟られないようにした上で,被告人Bに対し,同人を襲うよう指示し,これを見た被告人Bは,意を決し,同人の背後から忍び寄りその頚部に左腕を回して手元に引き,その左手を右手で掴でその頚部を力を込めて絞め上げた上,同人を居間の方に引きずり込みながら,被告人Aに「早く縛れ。」と叫んだ。ところが,Jは必死に抵抗して右手に持っていたライターを点火させて被告人Bの腰の辺りに火を点けようとするなどした。被告人Aは,これを見て殺意を持って,ホイールナットレンチ(平成14年押第20号の1)を右手に持って,Jの頭部を力を込めて殴りつけた。被告人Bは,当初,被告人Aが同人の頭部を殴打したときに生じた「ゴツ」という音の意味が十分には理解できなかったが,すぐに被告人Aが同人を殴っていることに気づき,予想外の被告人Aの行為に驚いて,「はたくな。」と言って殴打行為をやめさせようとしたが,被告人Aは,更に続けて上記ホイールナットレンチで同人の頭部を殴り続けた。被告人Bは,同人の頭部を続けて殴打する被告人Aの行為を目の当たりにして,被告人Aの殺意を確信するとともに,もはや後戻りはできないと考え,この上は,被告人AらとともにJを殺害するしかない旨決意した。ここにおいて,被告人Bは,被告人Aらと本件強盗殺人の共謀を遂げ,更に判示第2の犯行を続行遂行した。

8  被告人らは,判示第2の犯行後,いずれJの死体を棄てなければならないと考え,死体遺棄場所を探して車を走らせるなどしていたところ,平成14年3月22日,判示第3の犯行に及んだ。

(罪となるべき事実)

被告人両名は,

第1共謀の上,平成14年3月15日午後零時15分ころ,福島県原町市e字fg番地のh所在のホテル甲10号室で,同ホテル経営者K所有のテレビ1台(時価約4万円相当)を窃取し,

第2Eと共謀の上,被告人Aが,J(当時77歳)を殺害して金品を強取することを企て,平成14年3月19日午後1時30分ころ,福島県相馬市a字bc番地のd所在の被告人B方で,被告人BがJから金品を強取する旨被告人Aらと共謀の上,Jに対し,被告人Bにおいて,Jの頚部を背後から左腕で絞めつけ,被告人Aにおいて,Jの頭部をホイールナットレンチ(平成14年押第20号の1)で数回殴打し,この間に被告人BがJを殺害して金品を強取するのもやむを得ないと決意し,被告人Aらと共謀の上,さらに,被告人両名においてEとともにJの顔面にガムテープを巻き付けて両手足をビニール紐等で緊縛した上,被告人Bにおいて,Jの頚部にフレアースカート(同号の2)を巻き付けて絞め上げ,よって,そのころ,同所で,上記暴行によりJを窒息死させて殺害した上,同人所有の現金約40万1000円及び普通乗用自動車1台(時価約3万円相当)を強取し,

第3Eと共謀の上,同月22日午後8時20分ころ,福島県相馬郡i村j字kl番地のm先の乙湖に架かるj大橋で,Jの死体を同橋上から同湖に投棄し,もって,死体を遺棄したものである。

(証拠の標目)省略

(法令の適用)

被告人両名の判示第1の所為は刑法60条,235条に,判示第2の所為は同法60条,240条後段に,判示第3の所為は同法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について被告人両名に対しいずれも所定刑中無期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるところ,判示第2の罪の刑につき無期懲役刑を選択したので同法46条2項本文により他の刑を科さないで,被告人両名をそれぞれ無期懲役に処し,被告人両名に対しいずれも同法21条を適用して未決勾留日数中各180日をそれぞれその刑に算入し,押収してあるホイールナットレンチ1本(平成14年押第20号の1)及びフレアースカート1枚(同号の2)は,判示第2の強盗殺人の用に供した物で被告人両名以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用して被告人両名からこれらを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

1  被告人Aの弁護人は,被告人Aは平成14年4月25日相馬警察署長宛の上申書により,捜査機関に対し,未だ発覚していなかった判示第2の強盗殺人及び判示第3の死体遺棄の各犯行を自発的に申告したので,判示第2及び第3の各罪については刑法42条1項の自首に該当する旨主張する。

2  そこで,検討するに,確かに,被告人Aは,平成14年4月25日相馬警察署長宛に上申書(乙1号証)を提出し,その中で,「逮捕される前に自分の口から言いたいことがあります。」旨の前置きをした上で,被告人Aと被告人Bが被害者を殺害して橋の上から落とした旨述べたほか,死体を遺棄した場所の図面まで書いて提出するなどし,その後の同月27日被告人Aが警察官を現場に案内し,警察が捜索を実施した結果,同月30日被害者の遺体が発見されたことが認められる。

しかしながら,関係証拠によると,以下の事実を認めることができる。すなわち,被害者は,身の回りの世話をしている女性や被害者の妹によって,平成14年3月21日に行方不明者の捜索願いが相馬警察署に提出された。相馬警察署捜査員は,同月22日,被告人Aの所在を知るべく,被告人Bの実家を訪れその妹に被告人Aに連絡をつけて相馬警察署に連絡を取るよう依頼した。相馬警察署捜査員は,同月23日,被告人Aから電話連絡を受け,その中で,被告人Aが,被害者が行方不明になる以前に,同人から300万円程度の貸付を受けており,その返済をめぐってトラブルになっていることや被告人Aの携帯電話の電話番号などを確認するとともに,被告人Aが上記貸付金の返済を滞らせた時期,被害者と最後に会った時期,被害者が行方不明となったことを知っているかどうか,被告人Aの所在などを確認しようとした。相馬警察署捜査員は,同月24日には,被告人Aが前日に申し立てた所在場所には居住しておらず,その申告内容が虚偽であることを掴んだ。同月31日には,被害者が被告人Aから借金を取り立てるべく包丁を持ち出すまでして被告人Aの所在を探すなどしており,被告人Aが被害者と従前からただならぬ金銭関係のトラブルがあったことを掴んだ。捜査機関は,被害者が行方不明になったころの被告人Aらの行動状況等を捜査し,その結果,同年4月8日ころには,被告人Aらは自宅があるにもかかわらず,たびたびホテルを利用しており,被害者が行方不明になったころにも頻繁にホテルを利用していたこと,同人が行方不明になったころ,被告人Aは定職についておらず,被告人Aは被害者のみならず他の男性からも借金を重ねていたことが明らかになった。捜査機関は,平成14年4月13日,被告人Bが白色乗用自動車を宮城県岩沼市内の駐車場に放置した旨の被告人Aの長女であるEの供述を得て,同日Eに案内させて同市内の駐車場に赴き同所で被害者の所有車両を発見した。同月14日には,その車両トランク内から血痕が発見された。同月16日までには,Eが同月4日被告人Aから車両の鍵を預かったことが明らかになった。同月19日までには,被害者所有の同車内に遺留された指紋が被告人Aのものであることが明らかになるとともに,同車内からは血痕の付着したズボン,細紐などが発見された。相馬警察署は,一連の捜査活動により,被害者が殺害された殺人事件として捜査に着手従事した。以上のとおり,認められる。

3  以上の事実関係からすると,被告人Aは,上記上申書を提出した平成14年4月25日,自己の犯罪事実を捜査機関に対して申告し,その訴追を含む処分を求めたことが認められるが,同日より前に,既に捜査機関において,被害者が殺害され,その死体が同人所有の自動車のトランクに入れられた上,どこかに遺棄されたという事実を掴んでいたというべきであり,判示第2の事実のうち少なくとも被害者殺害の点及び判示第3の死体遺棄については,既に捜査機関に発覚していたことが認められる。また,平成14年4月25日の時点では,捜査機関において被告人Aが犯人であると疑うに足りる合理的な根拠は,上記事実関係のとおり,既に相当程度存在していたことが認められ,事実,捜査機関としても,被告人Aに関する情報収集を相当程度重点的に行っていたことからすれば,判示第2の事実のうち被害者殺害の点及び判示第3の死体遺棄について,捜査機関は被告人Aが真犯人である可能性が極めて高いと合理的に判断し,最も有力な容疑者であると考えていたことが認められる。このような事実関係からすれば,上記上申書を提出した同月25日より前に,既に被告人Aが判示第2の事実のうち被害者殺害の点及び判示第3の死体遺棄の犯人であることは捜査機関に覚知され発覚するところとなっていたものというべきである。これらの事実に,被告人Aが当公判廷において,「相馬近辺でJさんがいなくなったら,怪しまれるのはあなたぐらいしかいないんじゃないですか。」との検察官の質問に「はい。」と答えており,被告人A自身,客観的な事実関係からすれば自分が判示第2及び第3の事実について犯人ではないかと疑われることの合理性を自認していることをも併せ考えると,被告人Aには判示第3のみならず第2の罪全体についても自首は成立しないというべきである。上記弁護人の主張は理由がない。

(量刑の理由)

本件は,被告人両名が共謀の上,ホテルからテレビ1台を窃取した窃盗の事案(判示第1),被告人両名が娘のEと共謀の上,被害者の頚部を腕で絞め付け,頭部をホイールナットレンチで数回殴打し,頚部にフレアースカートを巻き付けて絞め上げるなどして,被害者を窒息死させて殺害した上,現金及び普通乗用自動車1台を強取した強盗殺人の事案(判示第2)及び被告人両名が娘のEと共謀の上,被害者の死体を湖に投棄して遺棄した死体遺棄の事案(判示第3)である。

被告人らは,判示のとおり,仕事に就かず借金や遊興を繰り返していたため,当面の生活費にも事欠くほど困窮した上,判示第2の犯行当日はそれまで使用してきた自動車が故障し,その代わりの交通手段として自動車を手に入れたいと考え,多額の現金を持ち歩いていた被害者を被告人らの自宅に誘き寄せて金品を奪ったものであり,被告人両名の間で殺意の形成時期に違いがあるものの,結局,被告人らは強盗殺人を敢行したもので,その動機は極めて短絡的かつ安易であり自己中心的というほかなく,酌むべきものは全くない。

被告人らは,判示のとおり,被害者に対し,その頚部を背後から左腕で絞め付け,頭部をホイールナットレンチで数回殴打し,その顔面にガムテープを巻き付けてその両手足をビニール紐等で緊縛した上,その頚部にフレアースカートを巻き付けて絞め上げ,これらの暴行により被害者を窒息死させて殺害し,現金及び普通乗用自動車を強取したものであり,被告人らの判示第2の強盗殺人については,被告人両名とも確定的殺意に基づく犯行であり,その犯行態様も悪質というほかない。被告人らは,強盗殺人の犯行後,被害者の死体を2日間余り被告人らの自宅台所の床下収納庫に放置し,その後,強盗殺人の発覚を怖れて深夜被害者の死体を運び出して遺棄しており,その犯行動機に酌量の余地は全くない。被害者は死亡してなお死体に毛布を巻き付けられたり,重りの石をくくりつけられた上,首と腕を後ろ手にして結びつけられたまま湖に遺棄されており,その犯行態様は,死者の尊厳を顧みない極めて悪質で無惨というほかない。

被害者は,被告人Aから突然電話で呼び出され,上記のような暴行を加えられ絶命したばかりか,所持していた現金約40万1000円と自動車1台を奪われたあげく,その死体を湖に投棄されて遺棄されたもので,被害者の無念は計り知れない。被害者の遺族は,突然,被害者が行方不明になるという事態に遭遇し,その後,変わり果てた姿となって発見され,被害者の遺体と対面したものであり,その心中は察するに余りある。本件強盗殺人及び死体遺棄の各犯行は,被害者の捜索願いが提出されて捜査が開始され,行方不明となった被害者の自動車が発見されその中に血痕などが残されていることが判明し,その後捜査の結果湖から遺体が発見されたという経緯をたどっており,本件が付近住民はもとより社会に与えた不安と衝撃は深刻である。本件被害の賠償や慰謝の措置の点について,被告人B自身が遺族へ謝罪の手紙を書いたほか,同被告人の実父が,遺族に対し線香代1万円を渡して謝罪し,墓参りに行くなどしていることを除けば,これといった金銭賠償等の具体的な慰謝の措置は講じておらず,遺族の被害感情は未だ癒されておらず,被告人両名に対する処罰感情にはなお極めて厳しいものが認められる。

被告人Aは,本件犯行前には生活費にも事欠くようになっていたことが認められるが,これはもとをただせば,判示のとおり,被告人Aが仕事に就かず他人の収入をあてにし,自分たちの収入を弁えず遊興に耽るなどした結果というほかなく,これを被告人Aのために有利に斟酌することはできない。被告人Aは,本件強盗殺人の犯行を敢行するにあたっては,被告人BやEにその犯行計画を提案して執拗に犯行に誘い込んだ上,被告人Bらに指示して犯行を実行に移させ,現に当初から確定的殺意をもって,自ら数回にわたってホイールナットレンチで被害者の頭部を殴打するというまことに残虐としかいいようのない暴行を加えたほか,とどめを刺すよう指示し,さらには,Eに指示して被害者から現金入りの財布を抜き取らせてこれを取得し,死体遺棄についても,その実行現場を決定するなどしたもので,一連の本件犯行につき主犯格の立場にあるといってよい(なお,この点につき,被告人Aの弁護人は,被告人Bも被害者が被告人らの自宅を訪れた当初から確定的殺意を有していた旨主張するが,本件強盗殺人に至る経緯,ことに被害者に対する関係における被告人Aと被告人Bとの違い,被告人Aの本件強盗殺人についての動機,被告人Aの被害者の頭部に対するホイールナットレンチでの殴打行為の態様,被告人B自身が現に担当した実行行為やその後の被告人らの行動などに照らすと,罪となるべき事実に記載したとおり,被告人Bは被告人Aの被害者の頭部に対するホイールナットレンチでの殴打行為の途中から確定的殺意をもって,判示第2の犯行に及んだと認めるのが相当である。)。被告人Aには,本件強盗殺人に関して,役割分担を指示するなど,単なる思いつきによる犯行とはいいがたい面もうかがわれる。また,実の娘であるEを本件犯行に巻き込んだ責任も看過することができない。

被告人Bも,判示のとおり,本件強盗殺人の犯行を敢行するにあたっては,当初殺意まではなかったものの,被告人Aに呼応して被害者を背後から押さえ付け,そのまま後ろ手に縛り上げた後,被害者の頚部を確定的殺意をもって絞め上げて絶命させたものであり,死体遺棄については,遺体が浮かび上がらないよう重りの石を遺体にくくりつけるなどしており,被告人Bの行為なしには被告人Aが判示第2及び第3の各犯行を行うことはできなかったものといってよく,被告人Bの果たした役割はまことに大きい。なかでも被告人Bが無抵抗の被害者の頚部にフレアースカートを巻き付けて絞め上げとどめを刺した点は極めて悪質というべきである。

これらの事実に,判示第1の犯行(窃盗)については,当面の生活費を得るため,宿泊したホテルのテレビを換金目的のため窃取したというものであり,その動機は極めて短絡的かつ安易であり,酌量の余地が全くなく,その犯行を実行するにあたっては,ホテルの受付に架電して注意を引きつけている間に外出して逃走するなどしており,その犯行態様は巧妙で悪質というほかなく,被害弁償も未了であることなどをも併せると,被告人両名の本件各犯行に対する刑責はまことに重大である。

したがって,被告人Aについては,上記のとおり,自首には該当しないものの平成14年4月25日以降自己の犯行を認める供述をしたこと,被害者が被告人Aと交際するにつき同人の被告人Aに対する言動に配慮に欠ける点がなかったとはいえないこと,被告人Aが公判廷において自白し謝罪していること,罰金を超える前科がないこと,相当期間身柄拘束を受けていること,生まれ育った家庭環境に同情すべきものがあることのほか,被告人Aの年齢,家庭の事情,反省の情,更生の決意など被告人Aのために有利に斟酌すべき事情を十分考慮しても,本件においては酌量減軽するだけの事由があるとはいいがたく,被告人Aを主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した。

また,被告人Bについては,同被告人が被告人Aと出会うまでは漁師として真面目に稼働していたこと,本件各犯行を敢行するにあたり,被告人Aとの関係では被告人Bが主犯格とか被告人Aと同等な立場にあったとはいえないこと,被害者を殺害すること自体については,被告人Bは被告人Aが被害者を殴打するのを見てその場で殺害を決意したこと,強盗の犯行動機につき,被告人Bは,被告人Aが被害者から他人の借金のために一方的に苦しめられているという被告人Aの虚言に惑わされていたこと,本件各犯行を真摯に反省し,写経するなどして更生を誓い,被害者の遺族に謝罪文を書いたほか,公判廷においても謝罪していること,罰金を超える前科がないこと,相当期間身柄拘束を受けていること,父親が被告人Bを監督する旨誓っていることのほか,被告人Bの年齢,家庭の事情,反省の情,更生の決意など被告人Bのために有利に斟酌すべき事情を十分考慮しても,被告人Bの刑責が被告人Aに比較して若干軽いとは認められるものの,本件においては酌量減軽するだけの事由があるとはいいがたく,被告人Bを主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 被告人両名に対し無期懲役,ホイールナットレンチ1本及びフレアースカート1枚の没収)

(裁判長裁判官 原啓 裁判官 本間陽子 裁判官 久保孝二)

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