大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 平成4年(行ウ)17号 判決

原告

有限会社伊東牧場(X)

右代表者代表取締役

伊東菊夫

右訴訟代理人弁護士

山田次郎

被告

矢吹町長 三村博昭(Y)

右訴訟代理人弁護士

高橋一郎

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  本件の〔証拠略〕を総合すれば、次のような本件通知処分に至る経緯が認められる。

1  原告会社は、千葉県袖ケ浦市において、昭和三二年ころから、牧場を経営してホルスタイン種を主体として肉牛の肥育を行っていたが、昭和六三年ころ、牛肉の輸入自由化を見越して、経営規模の拡大により生産コストを削減して対抗しようと考え、関東近辺で牧場用地を物色していたところ、平成元年ころ、取引先の紹介により見つけた矢吹町内の土地を候補地と定め、一〇〇〇頭以上の肉牛の肥育を内容とする牧場建設を計画した。

2  原告会社では、主にその代表者が用地買収のための折衝に当たり、矢吹町内の地元脇力者を通じて、開発予定地の所有者らから売買の承諾を取り付けると、平成二年四月一九日を皮切りに、本件土地を含む各土地の売買契約を順次締結して、年内に全ての契約を終えたうえ、まもなく代金の支払いもほぼ済ませた。しかし、右一連の契約を締結するにあたり、全体の取得面積からして、国土法に定められた事前指導の申出の手続を要するにもかかわらず、原告会社関係者はこれを怠り、その瑕疵に気づいた後もそのまま契約の締結を続行した。

3  これより先の平成二年二月一日、原告会社の代表者長男にして専務取締役である伊東勇が、矢吹町役場に電話をかけて、同町内に土地を買い求め牧場を経営したい旨を伝えたところ、応対した同町企画広報課員から、原告会社の取得予定地は、パイロット事業の計画予定地に組み入れられているうえ、農業振興地域の農用地であることから、開発には難しい条件がある旨を教えられた。更に、同専務は、同月一三日に矢吹町役場を訪れて、企画広報課長らと面談して計画概要を説明し、同月二一日にも、同役場の農業振興課を訪れた。そして、同年五月八日、原告会社代表者は、司法書士を伴って県南行政事務所と矢吹町役場を訪れ、平成三年度中には五ないし一〇ヘクタールの土地取引を進め、将来的には二〇ヘクタール位まで拡大する等と開発構想を説明したが、前記2の具体的な土地買付状況については告げず、さらに、同年八月二日に全体計画概要書を持参して町役場を再訪し、同月二三日には専務らを伴って、県南行政事務所において開催された県南地区土地利用連絡会議に出席して、関係機関の担当者に対し、計画概要を説明して質疑応答を行ったが、その際、県の担当者から、パイロット事業の計画区域から除外されるまでは大規模取引の事前申出の受理はしない旨の意向が示されており、原告会社においても、遅くともこのころまでには、前記手続を看過して行った右一連の売買が国土法に違反することを認識するに至った。

4  そのため、原告会社は、とのあえず取得した土地の所有権移転登記を差し控えていたが、翌平成三年、土地の売主の所得申告によって、原告会社の土地の取得が町役場の知るところとなり、平成三年度分の固定資産税や特別土地保有税の課税がなされたこともあって、移転登記手続を進めて全て済ませる一方、特別土地保有税については、いったん異議を申し立てたものの、牧場建設につき町役場当局の協力が得られるとの期待を抱き、まもなく取り下げて納税した。

5  原告会社は、同年九月過ぎころ、本件土地に牛二五頭位を放したほか、同年一二月ころ、本件土地に隣接する農地内にカウハッチを設けて、スモール牛(生まれたての牛)六〇頭を搬入した。しかし、林地開発許可を得ないままに、所有する山林内に通路や牧柵を設けたこと等を理由として、同月二六日、所轄官署である柵倉林業事務所長から開発行為の中止命令を受けた。

6  その後、原告会社は、本件土地において放牧を継続しつつ、平成四年三月ころから、町役場当局と折衝を重ねていたが、その要望を受け入れて、同年六月、本件土地等に搬入した牛をいったん撤去した。しかし、同年八月になり、本件通知処分を受けるに至り、翌九月に二四頭の牛を再搬入して、放牧を開始した。

二  ところで、特別土地保有税の非課税対象地に該当するか否かは、原則として、基準日における当該土地の現況や利用状況に基づいて判断すべきものであるので、さらに、本件通知処分の基準日である平成四年一月一日前後における本件土地の現況や利用状況に絞って検討すると、前掲証拠を総合すれば、(1) 原告会社は、養畜業を営んでいたものの、農業生産法人になっておらないために、農地及び採草放牧地の所有権、賃借権等を取得する資格がなかったものであり、そのため原告会社は、本件土地を含めた山林原野約一六万三〇〇〇平方メートルの所有権を取得するに止まっており、なお右用地取得と並行して、勇においても、原告会社の事業の用に供する目的をもって、田畑約二万二〇〇〇平方メートルの所有権・賃借権を取得しており、将来、原告会社が農業生産法人となって農地及び採草放牧地の所有権、賃借権等を取得する資格を取得し、行政上の許認可も経由して、所期の開発計画が実現される場合に備えたこと、(2) 本件土地は、現況においても、樹木が生育する山林であること、(3) これらの土地上で肥育していたのは、千葉の牧場から搬入した成牛二五頭位、スモール牛六〇頭位であること、(4) そのうち成牛については、専ら本件土地上の樹木の葉を餌とした輪牧を実施する一方、スモール牛は、前記農地上にカウハッチを設けて肥育していたこと(なお、カウハッチとは、スモール牛の伝染病を予防する目的とした、地面に固定していない木製の簡易な小屋であり、これを利用した肥育を行う期間は二か月位である。)、(5) 開発予定地には、カウハッチのほかに周囲に牧柵を設けた以外、管理棟、牛舎等の施設は設けられておらず、予定された施設の建設にも着工できなかったこと、(6) この時点で、原告会社では、千葉から派遣した一名と現地で新たに雇用した二名の計三名の従業員をして、牛の管理に当たらせていたこと、が認められる。

これらの事実を総合すれば、原告会社が、本件土地を含めた開発予定地において、一応、牛の肥育を実施していた外形的事実を認めることができる。

三  そこで、かかる外形的事実を前提として、さらに前示の経緯や原告会社の利用目的、利用意図等を踏まえたうえで、その利用状況を詳察してみるに、前示認定事実及び前掲証拠を総合すると、原告会社は、当初、一〇〇〇頭規模の肥育を目的とした牧場の建設を計画していたのであり、開発予定地のうち、山林、原野の一部につき、敷地総面積約八万八〇〇〇平方メートルに事務所、牛舎、堆肥舎及び倉庫を設けるほか、採草放牧地として約一二万四〇〇〇平方メートル、調査池として約七〇〇〇平方メートルをあてる等、大規模な施設を予定していたこと、それが、前記のように、基準日である平成四年一月一日までに、諸手続を行う前提となるパイロット事業の計画変更が行われなかったので、林地開発許可の取得を初めとした所要の許認可を得ることが出来ず、前記計画に従った施設の着工にもおぼつかなかったこと(なお、開発予定地がパイロット事業の地区除外になったのは、平成五年二月一一日である。)、平成三年度分の特別土地保有税の決定通知がなされた直後である平成三年九月ころ、カウハッチと放牧による開発予定地の運用を先行させ、後日、開発許可を得た段階で前記施設を建設するという方針に転じて、千葉の牧場から肉牛を搬入したこと、しかしながら、前記開発計画を断念した訳ではなく、町役場当局に土地利用計画を示してその指導を仰ぐなど計画の推進を企図していたこと、一方で、先の肉牛の搬入時には、同所での施設を利用しない放牧のみによる形態での運用が可能か否かは判らなかったが、平成四年八、九月ころには、実施した放牧の結果により、放牧だけでも十分に牧場運営を維持できるとの手応えを得たものの、冬季には、寒さや飼料とする草の不足等により牛舎がないと肥育に困難が生じ、千葉に引き上げて屋内肥育をせざるを得ない状況にあったこと、当時、原告会社においては、平成四年一二月までに、各種行政指導を受け、住民への説明会を開催し、国土法上の取引届を提出し、林地開発許可申請する等の業務を了したうえ、平成五年一一月までに、林地開発許可・建築確認申請許可・計画地の開発着手・農業生産法人の取得・郊外センターへの届出等の業務を経て、開発事業を完成させる、という日程を立てて業務を運用していたこと、しかしながら、未だに国土法上の取引届の提出や林地開発許可申請すら履行された形跡が認められないこと、以上のとおり認められる。

してみると、原告会社において、開発予定地をその事業の用に供する目的を有していたことは明らかではあるが、所要の許認可が得られないために、当初計画していた牛舎や管理棟等の長期かつ継続的な牧場経営に必要となる施設を欠き、しかもその放牧のみによる運営の可否も判らないまま、確保した土地面積に比して格段に少ないと考えられる頭数の肉牛を搬入した経過、その後も前記の計画を維持する一方で、結局、開発予定地での通年の放牧による肥育は実際上困難である状況等に照らして考えると、基準日における原告会社の本件土地の利用意図は、前記計画の実現に向かう課程での過渡的、暫定的なものと見るのが相当である。

この点、原告会社は、その最終的な利用意思や利用目的を強調するが、非課税土地の該当性は、あくまで基準日前後における当該土地の利用状況という外形的事実に基づいて判断され、その評価、判断の補助的事実として参酌される所有者の利用意思等の主観的意図もまた、同時点における右外形的事実を作出した意図を基準として考えるべきであって、本件において、前示した外形的事実を前提に、前記の原告会社の利用意思、利用目的を斟酌して、本件土地の基準日における利用状況を考えるならば、そのまま将来にわたって継続的に運用されるものではない、開発前の過渡的、暫定的な利用であったものに過ぎないと解せざるを得ず、このような利用形態においては、未だ、本件土地を養畜の用に供していたとまでは言い難いものである(このような場合、最終的な利用形態が完成するまでの間、徴収猶予制度を利用して納税を免れるなどの方法に依るべきである。)。

以上からして、本件土地は、地方税法五八六条二項六号に定める非課税対象地に当たらないと言うべきである。

四  よって、本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 手島徹 石垣陽介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!