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福島地方裁判所 平成6年(行ウ)4号 判決 1998年2月16日

東京都千代田区一番町二三番地二

原告

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井上励

福島県郡山市堂前町二〇番一一号

被告

郡山税務署長 菊地進

右指定代理人

大塚隆治

板倉不二夫

佐藤昇

鎌田公夫

菅野正孝

新田公夫

小松豊

加賀谷清孝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、平成四年七月六日付けでした酒類販売免許申請拒否処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は酒類の販売等を目的とする株式会社であるが、平成三年九月三〇日、被告に対し、酒税法(以下「法」という。)九条に基づき、福島県郡山市(以下「郡山市」という。)清水台一丁目八番十三―一〇二号を販売場(以下「本件販売場」という。)の所在地とする一般酒類小売業を行うための酒類販売業免許(以下「酒販免許」という。)を申請した。

2  被告は原告に対し、平成四年七月六日付けで、右申請にかかる酒販免許を付与した場合には、「販売地域における酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがあると認められ、酒税法一〇条一一号に該当する」との理由でこれを付与しないとの処分(以下「本件免許拒否処分」という。)をした。

3  しかしながら、酒類販売業について免許制(以下「酒販免許制度」という。)を定めた法九条一項及びその要件を定めた法一〇条一一号の規定は憲法二二条一項の保障する営業の自由を合理的な理由なく制限するものであり、同条項に違反するから、右違憲の条項を根拠としてなされた本件免許拒否処分は違憲、違法である他、本件免許拒否処分は合理性を欠き法九条、一〇条一一号の規定にも違反する違法な処分であり取消を免れない。

よって、原告は本件免許拒否処分の取消を求める。

二  請求原因の認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  請求原因3の主張は争う。

三  抗弁

1  (免許拒否処分の要件)

法一〇条は、人的及び場所的の両側面から、同条所定の免許要件となるべき事由を定め、これに該当する場合には、酒販免許を与えないことができると定めている。

すなわち、人については、販売業の経営安定の見地から、また場所については検査取締上と酒類の需給均衡維持上の見地からそれぞれ要件を定め、人及び場所に係わる申請内容が酒販免許制度の趣旨目的に沿っている場合に限り、人と場所を特定して免許を付与することとしている。

ところで、税務署長による免許付与が公平かつ適正に行われるためには、右の不確定概念の解釈適用を明確にし、事務処理を統一的・合理的かつ円滑に行うための具体的指針、すなわち免許付与に関する具体的な判断の基礎となる内部的基準が必要となるところ、右基準として、昭和五三年六月一七日付間酒一―二五国税庁長官通達(以下「基本通達」という。)及び平成元年六月一〇日付間酒三―二九五国税庁長官通達(以下「酒類販売業免許等の取扱いについて」という。)の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」(以下「免許取扱要領」という。)が定められており、酒販免許事務の運用方針及び法令の解釈基準とされている。

2  (免許取扱要領による免許の付与)

平成元免許年度以降の酒販免許の付与の手続については、免許取扱要領により、次のとおり定められている。

(一) 年度内免許の確定

税務署長は、次のとおり所轄の各市区町村を単位とすることを原則とした小売販売地域を設定し、その地域について、基準人口比率に基づき、酒販免許を付与できる年度内免許枠を設ける。この年度内免許枠は免許取扱要領の需給調整上の要件に対応する。

(1) 小売販売地域の格付

税務署長は、酒類の販売場数と酒類の消費数量の地域的需給調整を行うために、原則として、税務署管轄区域内の各市区町村を一単位として小売販売地域を設け、当該小売販売地域を次の三つに区分する。

<1> 東京都特別区、人口三〇万人以上の市若しくはこれらに順ずる市町村(可住地人口密度(市町村の総人口を当該市町村の総面積から林野面積及び湖沼面積を除いた可住地面積で除して得られる人口密度をいう。)が三〇〇〇人/平方キロメートル以上の市町村をいう。)またはこれらの一部を小売販売地域とする場合、当該小売販売地域をA地域とする。

<2> A地域以外の市、若しくはこれらに順ずる町村(可住地人口密度一二〇〇人/平方キロメートル以上三〇〇〇人/平方キロメートル未満の町村をいう。)またはこれらの一部を小売販売地域とする場合、当該小売販売地域をB地域とする。

<3> A地域及びB地域のいずれにも該当しない小売販売地域をC地域とする。

(2) 基準人口比率の算定

税務署長は、各年度の開始前において、当該年度開始直前の三月三一日現在の小売販売地域ごとの人口を基準人口(A地域は一五〇〇人、B地域は一〇〇〇人、C地域は七五〇人とする。)で除し、基準人口比率を算定する。

(3) 年度内一般免許枠の確定

税務署長は、(2)で算定した各小売販売地域ごとの基準人口比率から、当該小売販売地域に関し各年度開始直前の八月三一日現在既に付与している一般小売業免許場数を控除して得られる数値を計算値とし、税務署管内の各小売販売地域ごとの合計を合計値とする。

そして、小売販売地域ごとの年度内一般免許枠は税務署長が右計算値及び合計値並びに別途定める基準に基づき確定した税務署ごとの年度内一般免許枠に、当該税務署ごとの合計値に占める税務署管内の各小売販売地域ごとの計算値の割合を乗じて得られる件数とする。

(二) 申請書の受理とその審査順位

税務署長は、前記(一)にしたがって、年度内一般免許枠が設けられた小売販売地域について、次のとおり、酒販免許の申請を受理し、審査順位を決定する。

(1) 申請書の受理

申請書は、原則として年度内のいつにおいても受理する。

(2) 申請書の審査順位

申請書は、申請を受理した順に審査する。ただし、各年度九月一日から同月三〇日までの間に受理される申請書は、申請による順位を同順位とし、抽選により審査順位を決定する。

(三) 免許の要件

税務署長は、前記(二)の(2)により審査順位が第一位となった者から、次の要件について、免許付与についての拒否を検討する。

(1) 人的要件

<1> 申請者については、法一〇条一号から同条八号までの規定に該当しないこと。

<2> 申請者の経営の基礎が確立していること。

<3> 申請者の設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体や、申請者が酒場、旅館、料理店等酒類を取り扱う業者に該当しないこと。

(2) 場所的要件

<1> 申請販売場と既存の一般小売販売場との距離は、申請販売場の所在地の小売販売地域の所在地の小売販売地域の格付ごとに、A地域及びB地域が概ね一〇〇メートル以上、C地域が概ね一五〇メートル以上であること。

<2> 申請販売場が酒類の製造場、酒類の販売場又は酒場、料理店と同一の場所にないこと。

以上のとおり、税務署長は、小売販売地域の年度内一般免許枠がある場合には、申請書の審査順位に基づいて審査を行い、免許のための全ての要件を満たす者に順次当該年度の年度内一般免許枠の範囲内で免許を付与することになる。

(四) 免許事務の処理期間

酒販免許の申請がなされた場合において、税務署限りで処理するものについては、申請書類を受理した日の翌日から起算して最大限二か月の期間内に右申請を処理する旨の原則が定められている。しかし、この免許事務の処理期間を経過したことのみをもって、直ちに本件免許拒否処分を違法になるとはいえない。

3  (人口基準採用の合理性)

(一) 免許取扱要領が定めている免許枠を確定する方法としていわゆる人工基準を採用しているところ、これは、一定地域における酒類消費の実情が、当該地域に居住する人口と最も密接な因果関係を有していると認められ、人口に基づく基準を採用することが近時の社会経済情勢下における酒類の需給調整上の要件の判断基準として、より妥当であると考えられること、一定地域に居住する人口は逐年公表されており、その数が客観的に明らかなものであることから、税務署長の判断の透明性を確保するという観点からみても、より適切な基準であると考えられること等に照らして合理的である。

(二) また、昭和六二年度における酒類の販売状況等に関する資料によると、別表一記載のとおり、酒類の消費金額は約金五兆三〇二六億円と推計されるところ、これを同年九月一日当時の人口一億二一〇六万人で除すると、人口一人当たりの消費金額は金四万三八〇一円となること、同年度における免許付与の実情についての全国的な実態調査の結果、人口当たりの免許の付与比率の平均は、別表二記載のとおり、A地域が一五六七人に一場、B地域が人口一一二六人に一場、C地域が人口八七八人に一場の割合であったこと、A、B、C各地域の小売酒販店の平均酒類売上金額は別表三記載のとおりであったこと、これらを基礎とすると、現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口は、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人と算定されることから、免許取扱要領における基準人口が決定されたもので、基準人口は酒類の需給均衡を図り、同業者間の過当競争を防止するために合理的な基準である。

4  (本件免許拒否処分の根拠)

(一) 原告の免許申請販売場にかかる小売販売地域は郡山市であるところ、同市は、平成三年三月三一日当時の人口が三一万〇五三三人であり、免許取扱の定める小売販売地域格付のA地域に該当する。そして、A地域の基準人口は一五〇〇人とされているので、同市の基準人口比率は二〇七となるところ、同年八月三一日当時の同市内の一般酒類小売業免許場数が三四八場であったから、同市においては年度内免許枠が存在しないことになる。

(二) 被告は原告に対し、平成四年七月六日、原告に免許を付与した場合は、販売地域における酒類の需給の均衡を破り、ひいては、酒税の確保に支障を来すおそれがあると認められ、法一〇条一一号に該当するとの理由を付して、本件免許拒否処分を行ったものである。

5  酒販免許制度及び法一〇条一一号の憲法適合性

(一) 酒販免許制度の憲法二二条一項についての適合性判断基準

憲法二二条一項は、何人も公共の福祉に反しない限り職業選択の自由を有する旨規定しているところ、職業選択の自由はいわゆる経済的自由権に含まれると解されている。経済的自由権は、資本主義の発展に伴う資本主義経済の弊害の是正及び国民経済の均衡のとれた調和的発展という観点から、国家による積極的な介入が要請されるに至り、政策上の規制の対象と解されている。そのため、憲法二二条一項の「公共の福祉」には、全ての人権に内在する内在的制約の他、国家が経済的自由権に対して規制を加える必要があるという歴史的要請からの社会国家的立場に基づく政策的制約を含ましめると解されている。右のうち、内在的制約とは、他人の生命、健康等への配慮から導かれる人権の限界であり、かかる観点からの人権の制約を消極目的の制約というのに対し、政策的制約は、経済的自由に対して積極的な政策目的のために加えられるものであり、かかる観点からの人権への制約を積極目的の制約という。職業選択の自由に対する積極目的の制約についての合憲性判定基準は、規制の目的において一定の合理性が認められ、規制の手段、態様においても、それが著しく不合理であることが明白でない限りは、その規制は合憲とされるというものであり、他方、消極目的の制約の場合についての合憲性判定基準は、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であり、規制の手段、態様においてはよりゆるやかな制限において規制の目的を十分に達成することができないと認められることであると解される。

憲法三〇条及び八四条は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等の課税の要件については、全て法律又は法律の定める条件によることを必要とすることのみを定め、その具体的内容は、法律の定めるところに委ねている上、租税が今日では国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再配分、資源の適正配分、景気の調節等の諸機能を有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政、経済、社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかであるから、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるをえないものというべきである。したがって、酒販免許制度のように、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために職業の許可制による規制については、その必要性と合理性について立法府の判断が、右政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、憲法二二条一項に違反しないというべきである。

(二) 酒販免許制度の憲法適合性

法は、酒類の消費を担税力の表われであると認め、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課することとするとともに、その賦課徴収に関しては、いわゆる庫出税方式によって酒類製造業者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じてその税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みによることとし、これに伴い、酒類の製造及び販売業について免許制を採用したものである。

すなわち、間接消費税においては、税負担が課税対象たる譲渡資産ないし役務提供の対価に含められて最終的に消費者に転嫁されることによって、その徴収が実質的に完了するものであり、庫出課税方式においては、納税義務者と定められた酒類製造業者のみならず、酒類製造業者と最終消費者との中間に位置して両者の間の税負担の転嫁を仲介するパイプ役である酒類販売業者も間接消費税の徴収確保によって重要な役割を担い、いわば、間接消費税の徴収機関ともいえる重要な地位を占めているものである。

そして、法は庫出課税方式を採用しつつ、酒販免許制度により酒類販売業者の経営の安定を図り、酒類販売業者から酒類製造業者への酒類代金の支払いを円滑にし、もって酒類製造業者がその納付した酒税相当額を消費者から回収するのを容易にさせ、酒税の負担を消費者へと円滑に転嫁させることによって酒税収入の安定的かつ効率的な確保を図ろうとするものであり、これによって、間接消費税である酒税の徴収制度は有効に機能し、酒税の滞納防止にも寄与するものである。

法は昭和一三年法律第四八号による改正により、酒販免許制度を採用したところ、これは、昭和一三年当時の時点において、酒販業者の濫立によって過当競争が生じ、酒造業者は売掛代金の回収に多大の困難を来たし、酒造業者の倒産等を招いたため、この弊害を除去し、酒税保全を図る必要からであったことは明らかであり、その立法目的は正当であった。

酒販免許制度の基本目的は酒税の保全である。酒税は国の租税収入の主要な一部をなしており、酒税徴収の確保は国家財政上極めて重要な課題であるから、酒税の保全という基本目的が財政政策の一種であることは明らかである。すなわち、酒販免許制度は職業選択の自由に対する積極的制約に属する。したがって、酒販免許制度の憲法適合性の判断基準としては、規制の目的に一応の合理性が認められ、また規制の手段、態様においても、それが著しく不合理であることが明白でない限りは、合憲と判断されるべきである。

酒税の保全という酒販免許制度の目的は、憲法二二条一項の公共の福祉に含まれ、同条項に違反するものではない。すなわち、国は国民生活の安定の確保のみでなく、社会経済の発展をも図るべき重大な責務を担っているのである。これらの責務を果たすために、国は予めこれに要する経費を調達しなければならないのは当然であるが、更にその前提として、国の存立の維持及び統治機構の運営のための経費を調達する必要があることもまた自明の理である。右の経費の大部分は租税によってまかなわれるのであるから、憲法は国の重要な権能として租税の賦課徴収権を認め、これに対応して、国民の納税義務を明記しているのである。したがって租税の確保の要請は、憲法二二条一項の公共の福祉に含まれるといわなければならない。また、租税確保のために、憲法の枠内において、いかなる租税を課し、いかなる方法で徴収するかは、租税法律主義の原則に基づく立法府の政策的技術的な裁量に委ねられているのであって、酒税という税目もこの立法裁量によって採用されているのである。このように酒販免許制度は、酒税の保全を基本目的とし、副次的に酒類販売業者の経営の安定を図っているものであり、それは憲法二二条一項の公共の福祉に含まれるものであるから、規制の目的において十分の合理性を有している。

酒税が沿革的に見て国税全体に占める割合が高く、確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒税の酒類の販売代金に占める割合も高率であったことに鑑みると、法が昭和一三年法律第四八号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、酒販免許制度を採用したことには、その必要性及び合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造業者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的措置であったということができる。そして、本件免許拒否処分時である平成四年度において、酒税収入の国税収入全体に占める割合は、約三・六パーセントであるものの、金額的には金一兆九六〇九億六一〇〇万円と約二兆円に達し、税目別では第五位に位置する重要な税目であり、また、酒税の税率がなお非常に高いため、酒類製造業者の納税額も必然的に高額となり、そのため、酒類製造業者の税負担が消費者に対して円滑に転嫁されなければ高率な酒税の安定的かつ効率的な確保が困難となり、酒類製造業者に過重な負担をかけることになるから、法はいわば中間的な徴税機関ともいえる酒類販売業者に対して免許制度を採用し、酒税制度が有効に機能するようにしているのである。このように、酒販免許制度は酒税制度を維持する上において、極めて重要な役割を果たしているのであって、その必要性と合理性があることは明らかというべきである。

加えて、酒類はその致酔性を原因として飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の社会問題を引き起こしていることから、その販売秩序が保たれていることが社会的に要請されている。したがって、酒類の販売の自由については、何らかの規制が行われてもやむをえないと解され、生活必需品等の販売の自由とは異なった保障のあり方が考慮されるべきである。そして、飲酒を容認し、酒税という財政収入を得ている社会には、適正飲酒の考え方の普及を図り、アルコール関連問題を未然に防ぎ、健全な酒文化を育てる責務があるところ、酒類業界は酒類の宣伝、広告について自主的な見直しを行っている他、未成年者による酒類の購入を防止するために酒類自動販売機を平成一二年を目処にして撤去することを決議したもので、法が産業行政法として機能し、酒販免許制度の効用として業界内の健全性が担保されていることの表われということができる。

これらの事情に照らせば、平成四年当時においてなお酒販免許制度を存置するものとしている立法府の判断が、著しく不合理であってその委ねられた政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえず、したがって酒販免許制度を維持することが憲法二二条一項に違反するとはいえない。

(三) 法一〇条一一号の憲法適合性

法は酒販免許制度を採用した上、酒税収入の確保の万全を期するため、酒類販売業者の経営の安定を図ろうとして、法一〇条一一号において、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売免許を与えることが適当でないと認められる場合には、税務署長は免許を与えないことができると規定しているところ、右規定は、一定地域内における酒類に対する需要量は、当該地域に存在する販売場の数にかかわりなくほぼ一定していることから、一定地域内において酒類販売業者の濫立が生じれば、これを原因とする過当競争、経営不安定を生じ、その結果、関係製造業者の経営の不安定による酒税確保の困難が生じるのを防止して、適切な需給関係を維持し、もって酒税収入の安定的な確保を図ろうとしたものと認められるから、右規定に定める規制措置は、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法二二条一項に違反するものということはできない。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1、2の各事実は認める。

2  抗弁2(四)の法律見解に関する反論

本件免許拒否処分は、免許取扱要領上、申請受理の日の翌日から二か月間内になされるべきところ、右の日から九か月以上経過してなされたものであって、免許取扱要領に違反し、違法である。

3  同3は争う。

免許取扱要領が定めている小売販売地域のうちのA地域の基準人口一五〇〇人が適正な数値であるとすれば、日本全国に必要な一般酒類小売業の販売場は約八万場に過ぎないことになる(日本の総人口約一億二〇〇〇万人を一五〇〇人で除すれば一二万になる。)が、これはアルコール消費量が現在の二七分の一に過ぎなかった昭和二一年の販売場数よりも少ない基準であって、かかる基準はその合理性に欠ける。また、郡山市内での酒の消費量は二万九一五六キロリットルであり、これは、一人当たりの消費量に換算すると九四キロリットルであり、全国平均の一二五パーセントに相当する。免許取扱要領は、全国平均の一二五パーセントに相当する酒類の消費量がある地域にも全国一律の基準でしか免許枠を設けないもので不合理である。夜間人口のみによるいわゆる人口基準は右のような点で不合理であり、かかる基準は違法である。

4  同4の(一)は争い、同4の(二)は認める。

本件免許拒否処分は、国税当局が、酒造、酒販業界と一体となって、酒販免許制度を死守するために、酒販免許制度に異議を唱え酒類販売の自由化を主張してきた原告代表者古市滝之助を狙い撃ちにして徹底的につぶす目的から行ったものであって、違法である。

5  同5は争う。

6  酒販免許制度及び法一〇条一一号の憲法二二条一項についての適合性に関する反論

(一) 営業許可制に対する合憲性判定基準及び違憲審査基準

憲法二二条一項は職業選択の自由を保障しているところ、法九条一項、一〇条に規定する酒販免許制度のような営業の許可制度は単に職業活動の内容、態様及び手段を規制するだけではなく、狭義の職業選択の自由、開業の自由を直接制約する最も徹底した規制である。

このような営業の許可制に対する合憲性判定基準としては、規制の目的自体が公共の目的に適合する正当性を有すること(目的の正当性)、規制の目的と規制の手段との間に合理的な関連性が存在すること(必要性、合理性)、規制によって失われる利益と得られる利益との間に均衡が存在すること(比較衝量)の三要件に充足することが適当であると解される。

また、営業許可制に対する違憲審査基準としては、その営業許可制が、社会経済政策上の積極目的に出た規制である場合には、立法府に広範な裁量権を認める明白性の原則が適当であるが、警察目的のための消極的規制である場合には、より緩やかな規制によってはその目的を達成することができない場合に限るという必要最小限度の原則が適当であると解される。

(二) 租税法、租税政策に対する違憲審査基準

租税は、国家がその財源的需要を満たすために私人に課す金銭的給付であるから、財産権の侵害をもたらす措置であるが、憲法三〇条、八四条は納税を国民の義務とし、かつ租税法律主義を採用することを明らかにするに止まり、いかなる租税を選択するか等租税政策の内容については明らかにしていない。したがって、課税要件及び租税の賦課徴収手続については国会の広範な裁量権を認めていると解され、このような税制の基本的、本質的部分に対する違憲審査基準としては、明白性の原則が妥当すると解される。しかし、税収確保のためにどのような措置をとるかについては、具体的に明らかになっている目的達成のための手段の選択に過ぎないので、憲法一三条に規定する人権保障の基本原則である必要最小限度の原則が違憲審査基準として適当であると解される。

(三) 酒販免許制度に対する違憲審査基準及び憲法適合性

(1) 酒販免許制度の真の目的は、酒税収入の保全ではなく、いわゆる庫出課税方式の導入に伴う酒税の増税措置に対する抵抗を緩和すること、酒造業者の既得権の保護、既存の酒販業者の保護そのものにあると解され、これらの目的は職業選択の自由に対する制限の目的としては、特に零細業者としての酒造業者又は酒販業者の保護という目的の下でしか正当であるとは認められないところ、酒造業者又は酒販業者が右のような特別に保護に値する零細業者であるとは認められないから、酒販免許制度に正当な目的は存在しないと解され、その余の点を考慮するまでもなく、酒販免許制度及び法一〇条一一号は憲法に違反する。

(2) 仮に、酒販免許制度の目的が酒税収入の確保にあるとしても、酒販免許制度及びその一内容である法一〇条一一号が定める免許付与のための要件は酒税確保のための具体的手段として選択されたものであり、しかも、狭義の職業選択の自由そのものに対して制約を課す強力な規制であるから、これについて憲法適合性を肯定するためには、原則として、重要な公共の利益を図る目的のための措置であって、規制手段が目的達成のために合理的で必要性のあるものであることを要する他、目的達成と規制手段との間に十分な関連性が必要であって、しかもより緩やかな規制では右の目的を達成できないことを必要とすると解される(必要最小限度の原則)。

(3) そこで、酒販免許制度を基礎づけると主張されている立法事実を検討すると、次のとおりである。

<1> 酒販免許制度合憲論は、酒販業者の濫立、これを原因とする酒販業者の過当競争及び倒産、これらに起因する酒税の滞納という因果関係の存在を基礎としていると解されるところ、酒販免許制度が採用されたころに生じていた酒税の滞納、酒販業者の倒産、酒造業者の代金回収の困難性は当時の不況や酒造業界の特殊性及び売掛代金の回収方法の特殊性を原因としており、酒販業者の濫立とは全く因果関係がなく、また当時の酒販業者の濫立も当時の不況の影響であって、酒販免許制度が採用されていなかったこととの間に因果関係はない。

そして、酒販免許制度を存置しても継続的に行われる事業活動の中から発生する様々な理由を原因とする酒販業者の倒産を回避することは不可能である。

しかも、酒税の滞納率は他の製造業者を納税義務者とする間接税と比較して特別に低く抑えられているとはいえないし、酒販免許制度を採用した前後において酒税の滞納率に大きな変動はないことに照らせば、酒税の滞納率が低いことと酒販免許制度の存置との間に因果関係は何ら存在しない。仮に酒税の滞納率が他の税目と比較して低いとすれば、それは酒造業者についての免許制度の効果であって、酒販免許制度の効果とは考えられない。

更に、酒販免許制度によって酒税の完全な転嫁を行うことができるとは解されない。そして酒税を転嫁するために酒販業者に対して一定の価格による販売を強制するというのであれば、それは価格公定制度であって、そのような制度は許されない。

酒税の約九六パーセントは大企業である酒造業者によって納税されており、その余の約四パーセントを小規模酒造業者が納税しているところ、このような小さな割合の小規模酒造業者の倒産等による酒税の徴収の確保のために、広く一般的な酒販免許制度を存置する必要性、相当性は存在しない。

したがって、酒税確保の目的と酒販免許制度の存置との間には合理的関連性は何ら認められないと解される。

<2> 酒税は、酒販免許制度が導入される前の昭和九年から昭和一一年ころには、国税収入の一七・六パーセントを占めていたものの、平成四年度においては、国税収入の約三・四パーセントに過ぎなくなっており、国税収入全体に占める重要性を失っている。

また、たばこ税及び揮発油税は、酒税と同程度の重要性を有するところ、たばこの小売店や揮発油の販売に携わるガソリンスタンド及び小売販売業者において営業免許制度が採用されていないのにたばこ税又は揮発油税、石油税が滞納されている旨の議論はなされていない。

更に、酒税の単純平均負担率は二五・五パーセントであるのに対し、揮発油の小売価格に占める税負担率は、三八・四パーセントであって、酒税以上に税率が高いにもかかわらず、揮発油小売販売業においては免許制は採用されていない。

これらの事情に照らせば、酒税についてのみ税収の確保のために販売業者について免許制度を採用しなければならない必要性、相当性は存在しない。

<3> 酒販免許制度の立法趣旨としては、右の他に、酒販業者が増加した場合不正に衛生上有害な混用物の混入があるおそれがあることが挙げられていたが、今日においてはかかる危険性は全く存在しない。

また、酒類は致酔性を有する飲料であり未成年者又はアルコール中毒者の飲酒を防止するとの観点からは酒販免許制度が必要であるとの主張もあるが、酒販免許を受けている酒販業者が未成年者やアルコール中毒者への販売を回避することに意を用いる等ということは実際にはなく、却って酒類自動販売機によって対面販売による抑止もないままに酒類を販売しているのが現状であって、酒販免許制度によって酒類の致酔性を原因とする弊害の防止を図ることは難しく、酒類の致酔性を根拠とする酒販免許制度肯定論は適当でない。

<4> 酒税の保全を一つの目的として、酒税の保全及び酒類業者組合等に関する法律が制定されているところ、これによれば、第一に組合内部の自主的な需給調整措置が定められているほか、第二には大蔵大臣による勧告、命令による脱税及び滞納予防の具体的措置が規定されており、これによって、酒税保全のための酒類製造業者及び酒類販売業者に対する規制が存在している。また、法は酒類製造業者について免許制度を採用している。これらの制度によって、酒税保全の目的のために十分な措置がとられているというべきであり、これらに加えて、更に、酒販免許制度という狭義の職業選択の自由に対する規制を行うべき理由は存在しない。

<5> 以上の次第であって、酒販免許制度の真の目的は酒税確保ではなく、酒販業者の既得権の保護等にあるところ、かかる目的は公共の福祉に適合した目的とは認められない上、仮にその真の目的が酒税の確保であるとしても、それは重要な公共の利益であるとまではいえない。しかも、前記のとおり、酒販免許制度によって酒税の確保を図ることができるような関係は存在しないこと等から、酒販免許制度は右目的のために合理的な関連性を有する規制であるとは認められず、更に酒造業者についての免許制度や酒税の保全及び酒造業者組合等に関する法律による規制等のより緩やかな方法によって、右目的を達成することができる他、酒販免許制度によって営業の自由を全く奪われている国民の不利益は、酒販免許制度によって得られる利益を大きく上回ることから、酒販免許制度及びこれの一内容である法一〇条一一号はいずれも憲法二二条一項に違反する。

第三証拠

本件訴訟記録中書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因事実及び抗弁1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁3について

1  その方式及び趣旨により公務員が作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第五号証、成立に争いのない甲第七号証、第一四号証、第一一五号証、乙第二号証、第三号証、第六号証、第九号証、第一五号証及び弁論の前趣旨によれば、次のとおりの事実を認めることができる。

(一)  全国の酒類小売場数は、昭和一三年法律第四八号により酒販免許制度が発足した同年当時には三三万場以上あったが、終戦直後の昭和二一年当時には約八万場に減少し、その後ほぼ一貫して増加を続け、昭和五一年には一五万場を超えたが、その後は増減を繰り返し、本件処分時である平成四年当時には約一五万八〇〇〇場あったこと、この間の昭和五三年から昭和六二年までの間の酒類の消費数量は別表一のとおりほとんど変化がないこと、昭和六二年度における酒類の販売状況等に関する資料によると、別表一のとおり、酒類の消費金額は約金五兆三〇二六億円と推計されるところ、これを同年九月一日当時の人口一億二一〇六万人で除すると、人口一人当たりの酒類消費金額は金四万三八〇一円となること、

(二)  昭和六二年度に新規に付与された一般酒類小売業の販売場数は五四七場であり、新規免許が付与された小売販売地域を認定基準にいうA、B、Cの各地域に分類した、それぞれの地域の人口当たりの販売場免許付与の割合は、同年度における免許付与の実情についての全国的な実態調査の結果によれば、別表二のとおり、A地域で一五六七人に一場、B地域で人口一一二六人に一場、C地域で人口八七八人に一場の割合であったこと、

(三)  昭和六二年度における一般酒類小売業者の売上金額を、右A、B、Cの各地域別にみると、別表三のとおりであり、それぞれの売上金額を維持するために必要な人口は、右地域の各売上金額を前記の人口一人当たりの消費金額で除すると算定されるところ、これによれば、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人と算定されること、

(四)  免許取扱要領の免許認定基準は、原則として市区町村を基準に設定された小売販売地域の人口を基準として新規に付与すべき一般酒類小売業の酒販免許の枠を機械的に確定することとしたものであるが、その枠数を算定するための基準人口(A地域で一五〇〇人、B地域で一〇〇〇人、C地域で七五〇人)は、前記の昭和六二年度における一般酒類小売業者の売上金額を維持するために必要な人口を参酌して定められたこと、

以上のとおり認められる。

2  免許取扱要領における認定基準は、酒類の販売場数と消費数量の地域的需給調整の見地から、小売販売地域の格付ごとにあらかじめ設定された基準人口を用いて算出された基準人口比率に基づき、年度内の免許枠を確定するというものであって、その基準人口は、右認定のとおり、昭和六二年度当時における一般酒類小売業者の経営の実態を参酌して定められたものであり、一定地域における酒類の消費が当該地域に居住する人口と密接な関係を有していると考えられることからすれば、一定の小売販売地域の人口を基準に需給要件を判断することとした右認定基準の内容は、後記認定の本件規制の目的を達成するための方法として合理性を有しており、本件免許拒否処分当時の一般酒類小売業者の経営の実態が右昭和六二年の時点と大きく異なっていることをうかがわせる事情も認められないことによれば、本件免許拒否処分当時においてもなお合理性を失っていなかったと認めることができる。

三1  抗弁4(一)について

成立に争いのない乙第一号証によれば、郡山市の平成三年三月三一日当時の人口は三一万〇五三三人であることが認められ、免許取扱要領にこれをあてはめると、同市は免許取扱要領の定める小売販売地域のA地域に格付され、同市の基準人口は一五〇〇人となり、したがって、基準人口比率は三一万〇五三三人を一五〇〇人で除した二〇七となることが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、右時点における郡山市の一般酒類販売業者は三四八あることが認められ、これを免許取扱要領にあてはめると、平成四年度には同市の一般酒類販売免許には空きがなかったことの各事実が認められ、抗弁4(一)の各事実はいずれも認めることができる。

2  抗弁4(二)の事実は当事者間に争いがない。

3  抗弁4(一)の事実は免許取扱要領の定める免許を付与しない要件を充足する事実であるから、本件免許拒否処分は右免許取扱要領に適合した処分であり、前二説示のとおり免許取扱要領の認定基準は酒類販売上の需給調整の観点から合理的であると認められるので、本件免許拒否処分は法九条一項、一〇条一一号に適合した処分であると認められる。

したがって本件免許拒否処分の適法性は、法九条一項、一〇条一一号が憲法二二条一項に違反するかどうかにかかると解される。そこで、この点にかかる請求原因3、抗弁5並びに抗弁に対する認否及び原告の反論6について判断することとする。

四  請求原因3、抗弁5並びに抗弁に対する認否及び原告の反論6について

1  憲法二二条一項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが、職業の自由はそれ以外の憲法の保障する自由殊に精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、憲法の右規定も、特に公共の福祉に反しない限り、という留保を付している。また、憲法は我が国の政治制度として議会制民主主義を採用し、国政の上での国民の利害の対立は基本的に国会における立法を通じてこれを解決することとしたものと解される。したがって、憲法は国会への民意の反映を妨げ、国会による立法を通じた解決を阻害する民主主義の過程の制約を帰結する国家行為については裁判所の審査を広く認めているものと解されるが、職業の自由のごとき民主主義の過程を構成しない国民の権利と国政上の利益との調整については国会の立法による解決に委ね、国会の広い立法裁量を認めている趣旨であると解される。ただ、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法二二条一項適合性を一律に論ずることはできず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容並びにこれによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較衝量した上で慎重に決定されなければならない。そして、その合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にとどまる限り、立法政策上の問題として、これを尊重すべきであるが、右合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうる。ところで、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである。

2  また、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等については、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とすることのみを定め(八四条)、その具体的内容は、法律の定めるところに委ねている。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。また、前示のように、憲法が我が国の政治制度として議会制民主主義を採用し、財政民主主義を採用していることから、国家という国民により構成される共同体の財政運営は国民の代表者で構成される国会を通じて行われるべきであると解される。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

3  以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできないと解される。

4(一)  法は、酒類には酒税を課するものとし(一条)、酒類製造者を納税義務者と規定し(六条一項)、酒類等の製造及び酒類の販売業について免許制を採用している(七条ないし一〇条)。これは、酒類の消費を担税力の表われであると認め、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課することとするとともに、その賦課徴収に関しては、いわゆる庫出課税方式によって酒類製造者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介しての代金の回収を通じてその税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みによることとしたものである。

(二)  そして、成立に争いのない甲第六四号証、第六五号証、乙第四号証、第五号証によれば、昭和一三年二月一日の帝国議会衆議院において、賀屋興宜国務大臣が、同年の酒税法改正案について改正理由を酒税の保全を期するために酒類販売業について酒販免許制度を導入した旨説明したこと、昭和五八年一〇月三日の参議院決算委員会において、答弁者が酒税の保全上免許制度が必要である旨答弁したこと、昭和五九年四月五日の参議院大蔵委員会において、政府委員から酒税保全のために小売段階まで免許制度が必要である旨の答弁がなされたことがそれぞれ認められ、この認定に反する証拠は容易には措信できない。

右認定の事情に照らせば、法が酒販免許制度を採用したのは、酒税の確実な徴収とその税負担の円滑な消費者への転嫁を確保する必要に基づくものと解される。

(三)  これに対し、原告は酒販免許制度の真の目的は酒販業者の既得権益の保護等であると主張する。

しかし、右認定の各事情に照らせば、酒販免許制度は酒税の確保を目的とするものであって、右制度により酒販業者の既得権益が保護されるのは副次的ないし反射的な効果に過ぎないと解するのが相当である。

(四)  ところで、酒税が沿革的に見て、国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和一三年法律第四八号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。

(五)  前掲甲第五号証、第一四号証、第一一五号証、乙第九号証及び弁論の全趣旨によれば、酒税収入の国税収入全体に占める割合は、酒販免許制度が採用された昭和一三年度当時には一三・四パーセントであったが、その後の社会経済状況の変化、租税制度の変遷に伴い、その割合は、昭和一五年度から昭和二一年度まで(ただし昭和二〇年度を除く)の間は一〇パーセント未満の状態が続き、その後昭和二五年度には二三・一パーセントに上昇したものの、昭和四四年度に再び一〇パーセントを割り込み、昭和五一年度から本件免許拒否処分が行われた平成四年度までは別表四のとおりであることが認められ、これによれば、酒税収入が国税収入全体に占める割合は相対的には低下していることが明らかである。

しかし、右各証拠によれば、酒税等の負担率は、昭和二五年度には、清酒及びビールについて七〇パーセント以上、焼酎甲類について約七〇パーセント、ウイスキー旧二級クラスについて約六〇パーセントであったところ、その後、基本的には逓減したこと、しかし、本件免許拒否処分当時である平成四年度においてもなお、清酒について一五パーセントから一八パーセント、ビールについては約四五パーセント、焼酎甲類については約二五パーセント、ウイスキー旧二級クラスについては約五〇パーセントと、依然として相当高率であること、このため、酒類製造業者の取得する販売代金のうち相当部分が酒税であるとの事実が認められ、しかも、酒税収入総額は昭和五七年度以降金一兆七〇〇〇億円を超えており、昭和六二年度及び同六三年度には金二兆円をかなり上回り、平成四年度も金一兆九〇〇〇億円を超え、同年度における酒税収入の国税収入全体に占める割合は三・四パーセントであったこと、税目別では第五位に位置していることが認められる。

それゆえ、昭和一三年の酒販免許制度採用後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件免許拒否処分当時の時点においてなお酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性について議論の余地があることは否定できないとしても、前示の酒税が本件免許拒否処分当時において、依然として、安定的な租税収入をあげている税目であり、国税の主要な税目の一つとして一定の割合を占めつづけていること、しかも租税負担率が依然として高率であること、納税金額自体が相当高額であること等の各事情を総合すれば、酒税の賦課徴収について、庫出課税方式により、酒類製造業者にその納税義務を賦課した上、酒類製造業者の販売代金を確実に回収させ、その酒税負担を最終的な担税者である消費者に円滑に転嫁できる仕組みを定めることの必要性及び合理性が失われるに至ったものとは認められない。加えて、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒販免許制度によって規制されるのが、そもそも致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、本件免許拒否処分当時においてなお酒販免許制を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定しがたい。

5  もっとも、右のような職業選択の自由に対する規制措置については、当該免許制の下における具体的な免許基準との関係においても、その必要性と合理性が認められるものでなければならないことはいうまでもないところである。

そこで、本件免許拒否処分の理由とされた法一〇条一一号の免許基準について検討するに、同号は一定地域内における酒類に対する需要が、当該地域における酒類販売業者の濫立による過当競争を防止するため、需給要件の認定判断を通じて酒類販売業への新規参入を一定限度で制限し、もって酒類販売業者の経営が安定的に行われることを確保することにより、酒税収入の確保を図ろうとしたものであって、酒販免許制度を採用した前記の趣旨、目的に照らし、不合理ということはできないし、その規定が不明確で行政庁の恣意的判断を許容するようなものと認めることもできないから、法九条一項、一〇条一一号の規定による本件規制が租税法定立についての立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であるということができず、したがって、法九条一項、一〇号一一号の酒販免許制度及び酒販免許の付与要件が憲法二二条一項に違反するものとは認められない。

6  これに対し、原告は酒販免許制度及び法一〇条一一号の憲法二二条一項の適合性について前記のとおり主張しているので判断する。

(一)  原告は、酒販免許制度及び法一〇条一一号の憲法二二条一項の適合性について必要最小限度の原則に照らして審査すべきであると主張する。

確かに、酒販免許制度及び法一〇条一一号の規制は職業の自由に対する酒税の確保という租税政策的見地からの規制であり、その内容は確かに納税義務者や課税要件等といった酒税制度の根幹に係わる部分ではなく、酒税の確保という比較的手段的な側面についての規制であるといえなくもない。しかし、酒販免許制度及びその免許付与の要件を定める法一〇条一一号は、酒税制度の基本をなしている庫出課税方式と密接に関連するものとして定められたものであり、租税制度の根幹をなすものとそれ以外のものとの区別が明確とはいえない中で、前者と後者とを異なる基準で審査すべきであるとすることは判断の明確性を欠くとのそしりを免れないし、酒販免許制度が制約する自由は致酔性を有する酒類の販売の自由であることに照らせば、右の憲法二二条一項についての適合性を必要最小限度の原則によって審査すべきものと解することはできない。

(二)  原告は、酒販免許制度によって酒税の滞納率に差異は生じておらず、酒販免許制度は酒税の転嫁を強制する制度でもない上、酒税が酒販免許制度が導入されたことのような国税収入全体に占める重要性を失っているので、酒販免許制度を存置している合理性も必要性も存在しないし、酒税と同程度の重要性を有するたばこ税又は揮発油税について営業免許制度が採用されなくても、たばこ税又は揮発油税の滞納等の税収の確保の上で不測の事態を生じていないことから、酒税の確保について酒販免許制度を採用することに合理的な関連性が存在するとはいえない旨主張する。

しかし、成立に争いのない甲第二七号証によれば、酒税の滞納率は、昭和一年度から昭和一〇年度までの間は、〇・八一パーセントから二・七パーセントの間を推移し、昭和一一年度、昭和一二年度はそれぞれ〇・三六パーセント、〇・一一パーセント、昭和一三年度は〇・〇七パーセント、昭和一四年度から昭和一八年度まで〇・五パーセント未満で、昭和一九年度から昭和二八年度までは(昭和二〇年度、昭和二一年度、昭和二二年度、昭和二五年度を除く。)、二・二一パーセントから一〇・三〇パーセントの間を増減したこと、昭和二九年度、昭和三〇年度はそれぞれ、〇・九六パーセント、〇・四五パーセント、昭和三一年度以降は昭和五七年度までの間(昭和三九年度の〇・三パーセントを除く。)、最大でも〇・一八パーセントに過ぎなかったこと、これに対して、所得税、相続税は滞納率も高く、滞納率の変動も大きいこと、酒税の滞納率は同じく間接税である物品税の滞納率よりも著しく低いことの各事実が認められる。右の滞納率の推移に照らせば、酒税の滞納率が酒販免許制度の採用によって低下したと認めるには足りないものの、右の酒税の滞納率の推移が酒販免許制度による影響を受けていないとまでは認められない。

また、前示のとおり、本件免許拒否処分当時において、酒税は国税収入の三・四パーセントを占めており、その割合は国税のうち第五位の地位にあること、酒税収入総額自体は昭和五七年度以降金一兆七〇〇〇億円を上回っており、相当高額の収入が安定的に得られており、酒税は国税収入の中で依然として重要な地位を占めていると認められる。

他方、弁論の全趣旨によれば、国内たばこのたばこ税の納税義務者は日本たばこ産業株式会社のみであり、たばこ事業法により、大蔵大臣の認可を受けた小売定価以外での販売が禁止されていること、日本たばこ産業株式会社と小売販売業者との結びつきは歴史的経緯から密接であること、揮発油の製造業者である石油精製業者は少数の大企業(石油元売一三社)であるところ、揮発油の販売業者である各ガソリンスタンドが製品の卸しや出資によって系列化され、製造業者と密接な関係を有していること、また、ガソリンスタンドについては揮発油販売業法による事前登録制が採用されており、その販売場には一定の有資格者を置くことが必要であって、しかも、ガソリンスタンドの出店のためには用地、設備のために多額の資金を必要とし、確実な資金的基盤を必要とすること等、たばこ業界及び揮発油業界における販売業者と製造業者との間の関係や流通過程、販売の態様等の各事情には、酒類販売業界とは異なる事情が存在することがうかがわれ、これらの事情を考慮すれば、原告の主張は、課税環境の異なる税目について同一の取扱を主張するものであって、酒販免許制度等を存置している立法府の判断が著しく不合理であると直ちには認められない。

したがって、原告の右主張は失当である。

(三)  原告は、酒販免許制度等が致酔性飲料である酒類の販売に伴う弊害を防止するために合理的な関連性を有する制度ではないので、憲法二二条一項に違反する旨主張するが、酒販免許制度は致酔性飲料である酒類の販売に伴う弊害を防止することを主たる目的とした制度ではないから、原告の右主張はその前提を欠き失当である。

(四)  原告は、被告が、酒造業界、酒販業界と一体となって、酒販免許制度を死守するために、酒販免許制度に異議を唱え酒類販売の自由化を主張してきた原告代表者古市滝之助を狙い撃ちにして徹底的につぶす目的から、免許取扱要領上、申請受理の日の翌日から二か月間内になされるべきところ、右の日から九か月以上経過した後に、本件免許拒否処分を行ったので、同処分は免許取扱要領に違反し、違法であると主張する。

しかしながら、原告主張の、被告が原告代表者を狙い撃ちにしてつぶす目的で本件免許拒否処分を行ったことを認めるに足りる証拠は存在しない。

また、確かに、法九条一項、一〇条一一号の酒販免許制度が、同条項の要件を備えた特定人について、その者の酒類販売業への参入を阻止するために利用されたとすれば、そのような右制度の運用は違法となる他、右特定人の職業の自由を侵害するものとして意見の瑕疵を帯びることがありうる。しかしながら、本件においては、前示のとおり、原告は、法及びこれに基づく免許取扱要領等の定める免許要件を具備しておらず、他方、法及びこれに基づく免許取扱要領等の定める免許要件は合憲かつ適法であると認められる。したがって、本件免許拒否処分が違憲、違法な運用によるものではないと認められる。加えて、酒販免許取扱要領には、酒販免許の申請がなされた場合において、税務署限りで処理するものについては、申請書類を受理した日の翌日から起算して最大限二か月の期間内に右申請を処理する旨の原則が定められているものの、この免許事務の処理期間を経過したことのみをもって、直ちに本件免許拒否処分が違法になるとは認められない。よって、結局、原告の右各主張はいずれも失当である。

7  したがって、法九条一項、一〇条一一号は憲法二二条一項に違反せず、法の右各条項の趣旨に適合した免許取扱要領の定めた認定基準に基づく本件免許拒否処分に原告主張の瑕疵はなく同処分は適法であると認められる。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 野口佳子 裁判官 吉井隆平)

別表一

酒類消費数量等の推移

<省略>

別表二

免許の付与状況(62年度)

<省略>

別表三

小売酒販店の経営状況 (1者平均)

<省略>

別表四

<省略>

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