福島地方裁判所 平成7年(行ウ)14号 判決 1998年9月28日
福島県郡山市桑野三丁目二〇番三八号
原告
阿部金彌
右訴訟代理人弁護士
高橋一郎
福島県郡山市堂前町一〇番一一号
被告
郡山税務署長 菊地進
右指定代理人
鳥居俊一
同
粟野金順
同
鎌田公夫
同
菅野正孝
草野謙治
小松豊
阿部修
齋藤正昭
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が、原告の平成四年一〇月三一日相続開始に係る相続税について、平成六年四月四日付けでした更正ないし通知処分(ただし、原告が被告に対して平成五年九月三〇日にした更正の請求の一部について更正すべき理由がない旨を通知した処分に相当する部分で、被告が原告に対してした平成六年一一月一〇日付の異議決定により一部取り消された後の部分)のうち、別紙一記載の原告主張額を超える部分を取り消す。
二 予備的主張に基づくと
被告が、原告の平成四年一〇月三一日相続開始に係る相続税について、平成六年四月四日付けでした更正ないし通知処分(ただし、原告が被告に対して平成五年九月三〇日にした更正の請求の一部について更正すべき理由がない旨を通知した処分に相当する部分で、被告が原告に対してした平成六年一一月一〇日付けの異議決定により一部取り消された後の部分)のうち、別紙二記載の原告の予備的主張を超える部分を取り消す。
第二事案の概要
一 本件は、原告が阿部金重(以下「金重」という。)から別紙三記載の各土地(以下、各土地一括して「本件土地」という。そして、別紙の番号1の土地から順に「本件土地1」、「本件土地2」等という。)を含む財産(以下「本件相続財産」という。)を相続したとして、本件相続財産について相続税の申告をし、後に、更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたものの、被告が原告に対し、本件更正請求について、その一部につき減額更正をし、その余につき更正すべき理由がない旨を通知した更正ないし通知処分(以下、更正すべき理由がない旨を通知した更正ないし通知処分を「本件処分」という。)をしたので原告が被告に対し、本件処分に対する異議(以下「本件異議」という。)を申し立てたところ、被告が本件処分を一部取り消す異議決定(以下「本件異議決定という。」をしたにとどまったという事実経過において、原告が本件異議決定による一部取消後の本件処分は本件土地につき相続税法二二条に違反する評価をしたものであって違法であるとして、本件異議決定による一部取消後の本件処分の一部の取消しを求めて出訴した事案である。
二 本件訴え提起に至る経緯
1 原告は金重の二男であったとこら、金重が平成四年一〇月三一日死亡したので、原告はその余の相続人とともに本件土地を含む本件相続財産を共同相続した(争いない。)。
2(一) 原告及びその余の相続人は、平成五年四月二三日、本件相続財産について相続税の申告をするとともに、本件土地を含む物件について物納の申請をした(争いない。)。
(二) 原告は、同年九月三〇日、本件更正請求をした(弁論の全趣旨)。
(三) 原告は、同年一二月二八日、前記物納の申請を取り下げた(争いない)。
(四) 被告は、原告に対し、平成六年四月四日付けで、本件更正請求に対して、その一部につき減額更正をし、その余につき本件処分をした(争いない)。
(五) 原告は、同年五月一七日、本件処分に対する本件異議の申立てをし、被告は、同年一一月一〇日付けで、本件処分を一部取り消す旨の本件異議決定をした(争いない。)。
(六) 原告は、同年一二月六日、本件処分に対する審査請求をし、国税不服審判所長は、平成七年九月二二日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(争いない。)。
(七) 原告は、同年一二月二七日、本件処分の取消しを求める本件訴えを提起した(弁論の全趣旨)。
三 争点
1 原告は本訴において、被告がした本件異議決定による一部取消後の本件処分における本件相続財産の評価のうち本件土地についての評価のみを争っており、本件相続財産のうちの本件土地以外の財産の評価については当事者間に争いはない。
したがって、本件の争点は、被告の本件異議決定後の本件処分における本件土地の評価が相続税法二二条に違反するか否かである。
2 原告の主張
(一) 相続税法二二条は、相続又は遺贈により取得した財産の評価について当該財産の取得の時の時価によると定めており、これに関して定められている、昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁官通達「相続税財産評価に関する基本通達」(平成四年三月一一日付け課評二―二による改正前のもの。平成三年一二月一八日付け課評二―四、課資一―六「相続税財産評価に関する基本通達の一部改正について」により、その題名は「財産評価基本通達」に改められている。以下「財産評価基本通達」という。)は、市街地的形態を形成する地域にある宅地にある宅地等の価額は路線価方式によって評価すると定めている。
しかし、本件相続についての相続税課税に当たって、本件土地を平成四年の路線価に基づく路線価方式により評価することは、次の事情から相当ではない。
(二) 被告の原告に対する本件土地についての物納許可申請の拒否
(1) 原告は被告に対し、平成五年四月二三日、本件相続財産についての相続税の納付のため、本件土地を含む物件について物納の許可を申請した。
(2) しかし、被告は原告に対し、本件土地は都市計画法二九条の規定により都道府県知事の開発行為の許可を受けることができない販売不可能物件であるとして、物納を受理できないとした。そこで、原告は本件土地について物納の申請を取り下げた。
(3) 本件土地は登記簿上地目が畑であり、都市計画法二九条による開発許可を受けるための条件として、公道に面する道路の道幅が四メートル必要とされているところ、本件土地については北側に道路は存在するが、その道路幅は二メートルしかなく、このみなし道路が四メートル幅になるのは、同道路に面して居住する住民が全て自宅等を新築、改築して、道路幅が拡張されたときであって、現在では全くその見通しが立たないため、都道府県知事から右開発行為の許可を受けることができないうえ、本件土地にはその南側隣接地に郡山市の伝染病舎がある。
(4) 被告は、本件異議決定による一部取消後の本件処分において、本件土地について平成四年の路線価を基に財産評価基本通達に基づいた評価をしたのであるから、被告は同評価に基づく原告の本件土地についての物納申請を受理許可すべき義務があるのに、被告は、本件土地につき財産評価基本通達42‐2により売却できる見込みのない不動産であると判断して、原告の物納許可の申請受理を拒否したものであって、被告の本件土地についての評価に関する主張は失当である。
(5) ところで、被告は、相続財産の価額の評価と当該相続財産が物納財産として国の管理又は処分に適するか否かということはその判断の観点を異にすると主張する。
しかし、このように解したのでは、例えば、相続財産が全て低額の賃料で賃貸している土地であるというような場合には、当該土地の物納が認められないと、相続人は延納による支払もできない苦境に陥ることになることが予想される。そして、金融機関に貸し渋りが生じており、デフレスパイラルの状況下にある現在の経済状況においては、土地の流動化が極めて困難な状況になっていることから、相続人に右のような事態が生じることは十分にありうることである。このように解すると、相続財産の評価と当該相続財産が物納財産として適当か否かの問題を分離して検討することに問題があると解される。したがって、被告の反論は失当である。
(三) また、本件土地の路線価は、平成元年から平成四年までの間に約二・五倍に上昇しており、特に平成三年から平成四年にかけて二倍となっている。
このような路線価の異常な上昇はいわゆるバブル現象であって、本来の時価を無視した不動産投機を政府、大蔵省がむしろ是認し、何ら是正措置をとらなかったことに起因するものであった。ただ、平成二年秋からの株価の暴落、平成三年に始まる地価の大幅な下落に照らせば、それまで株価及び地価が高水準にあったことは全く実体を反映していないバブル状態であって、地価が平成四年以降一層下落することは容易に予想できた。それにもかかわらず、平成四年の本件土地の路線価が平成三年の路線価の二倍と定められたのは、いわゆるバブル経済期の異常な経済現象としての地価高騰をあたかも適正な地価の上昇と誤解したことによるか、平成三年までにいわゆるバブル経済の崩壊が本格化したにもかかわらず、金融機関の救済を含む経済政策上の配慮から、バブル経済崩壊に伴う地価の下落傾向を無視して、本件土地の路線価は適正な相続税課税のための評価基準として採用できないものであった。
(四) 以上の事情によれば、本件相続税課税のための本件土地の評価においては、路線価方式によることができない特別な事情があったといえる。
(五) そして、被告は本件土地の価額を、次のように評価すべきであった。
(1) 主位的主張
本件土地は相続発生後五年間という長期間の販売努力により平成九年七月ようやく代金総額金三〇〇〇万円で売買契約が締結されたものであり、本件土地の売却には本件相続発生後長期間を要したこと、右売買契約の代金額が本件異議決定における本件土地の評価額を三割も下回っていたこと、そもそも不動産の経済価値は資産性、収益性に加え、原価性の三面からアプローチするのが鑑定評価の常道であり、収益還元法に基づく不動産の収益性の把握が極めて重要であるとの見解があること、被告が原告による本件土地の物納の許可申請を本件土地が売却不能物件であるとして実質的に拒否したこと、本件土地はその南側隣接地に郡山市の伝染病があること、本件土地はその南側隣接地に郡山市の伝染病があること、本件土地について都市計画法二九条の開発許可を受けることができないことの各事情に照らせば、バブル経済崩壊後である本件相続開始時の本件土地の評価としては、少なくとも、純農地としての評価ないし収益還元法による評価である一平方メートル当たり金三〇〇〇円を上回ることはないとするのが相当である。
(2) 予備的主張
仮に、右の評価が相当でないとしても、甲第一号証の鑑定書の記載、平成八年及び平成九年の本件土地のうちの本件土地1及び2の路線価がそれぞれ金七万二〇〇〇円、金七万一〇〇〇円となっており、平成四年の路線価とほぼ同じであることから、本件相続開始から五年間を経過して締結された前記売買契約における本件土地の代金額が金三〇〇〇万円であることは、相続開始当時の本件土地の評価が金三〇〇〇万円であったこととを推測させることによれば、本件土地の相続時の評価としては、一平方メートル当たり金二万〇八〇〇円、合計金三〇一八万円になると評価するのが相当である。
3 被告の主張
(一) 相続税法二二条の「時価」の意義について
相続税法二二条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定している。同条に規定する「時価」とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価格すなわち、対象財産の客観的な交換価格をいうものと解される。しかし、対象財産の客観的交換価格は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別的に評価するとすれば、評価方法等により異なる評価額を生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速の処理が困難となるおそれがあるため、課税実務上は、財産評価の一般的基準が財産評価基本通達により定められ、これに定められた評価方法によって画一的に財産を評価しているところである。右のように財産評価基本通達によりあらかじめ定められた評価方法によって、画一的な評価を行う課税実務上の取扱いは納税者間の公平、納税者の便宜、微税費用の節減という見地から見て合理的であり、一般的には、これを全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができ、租税平等主義にかなうものであるというべきである。
(二) 租税財産の課税価額の算定根拠及び算定方法
(1) 財産評価基本通達の概要について
財産評価基本通達は、国税庁官が国税局長宛に発した通達で、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを財産の種類ごとに詳細に定めたもので、地価税の評価においても適用されている。
(2) 財産評価基準の概要について
財産評価基準とは、財産評価基本通達によって、その策定を委ねられた各国税局長が、相続、遺贈または贈与により取得した財産及び地価税に係る土地等の評価に適用する目的で定めた財産評価額を算出するのに必要な具体的基準であり、主に土地の評価に関し、路線価方式による評価を行う場合の路線価設定地域図と倍率方式による評価を行う場合の評価倍率表からなっている。
また、「財産評価基準書」(以下「基準書」という。)とは、右財産評価基準の内容を全国の各県地域ごとに編集したもので、毎年八月中旬、当該地を管轄する税務署及び国税局の窓口で一般に公開され、同内容のものが財団法人大蔵財務協会から販売されている。
(三) 財産評価基本通達及び基準書における相続財産の評価方法の概要について
財産評価基本通達及び基準書における相続財産の評価方法の概要並びにこれを本件土地に適用した場合の説明は以下のとおりである。
土地の評価方法
財産評価基本通達が定める土地の価額の評価は、課税時期における現況の地目に応じ(財産評価基本通達7)課税時期における実際の面積により評価する(同8)こととしている。
(1) 宅地の評価方法
宅地の評価は、原則として、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げる方式によって行う。
<1> 路線価方式
路線価方式とは、市街地的形態を形成する地域にある宅地について(同11の(1))、その宅地の面する路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。以下同じ。)に付された路線価を基とし、同15ないし20の定めにより計算した金額によって評価する方式をいう。
また、路線価とは宅地の価額が概ね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定するもので、その価額は路線に接する宅地で、
A その路線のほぼ中央にあること、
B その一連の宅地に共通している地勢にあること、
C その路線だけに接していること、
D その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであること、
の全ての事項に該当するものについて、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線がとに評定した一平方メートル当たりの価額をいい(同14)、具体的には基準書の路線価設定地域図に記載されている。
<2> 倍率方式
倍率方式とは、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいい(同21)、倍率方式により評価する宅地の価額は、その宅地の固定資産税評価額に地価事情に類似する地域ごとに、その地域にある宅地の売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する(同21―2)。
(2) 農地の評価方法
農地の評価に当たっては、農地をまず、
<1> 純農地
<2> 中間農地
<3> 市街地周辺農地
<4> 市街地農地
のいずれかに分類し(同34)、純農地及び中間農地の価額は、その農地の固定資産税評価額に、田又は畑の別に、地勢、土性、水利等の状況あるいは地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する(同37及び38)。
また、市街地農地は、その農地が宅地であるとした場合の一平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる一平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用(以下「宅地造成費相当額」という。)の金額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額にその農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する(同40)。市街地周辺農地は右市街地農地の価額の一〇〇分の八〇に相当する金額によって評価する(同39)。なお、本件における宅地造成費相当額として国税局長が定める金額とは、基準書「5宅地造成費の標準価額表」に掲げられている金額をいう。
(3) 雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地について財産評価基本通達の定めるところにより評価した一平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する(同82)。
(四) 路線価の評定については財産評価基準の14で定められており、その定める路線価の評定手続の概要は次に述べるとおりである。
(1) 路線価の評定に当たり基準点となる土地について
路線価の評定に当たり、基準点となる土地(以下「標準地」という。)とは、
<1> 国土庁の土地鑑定委員会が、一般の土地の取引価格に対して指標を与えることを目的とした地価公示法により、毎年一月一日現在の公示価格を決定する地価公示標準地(以下「公示地」という。)、
<2> 右公示価格を補うものとして、各都道府県が右公示価格と同様の性格を有するものとして、毎年七月一日現在の基準地標準価格を決定する基準地(以下「基準地」という。)、
<3> 各国税局長が、その管轄地域内において、財産評価基本通達14で定める標準的な条件に該当する場所として選定して、毎年一月一日現在の価格を不動産鑑定士、不動産業者、金融機関職員等の精通者に意見を求め決定する精通者意見価格を求める標準地(以下「その他の標準宅地」という。)
の全てをいい、仙台国税局管内における平成四年分の右標準地は約二万四〇〇〇地点に及んでいる。
(2) 標準地における仲値の評定について
「仲値」とは、当該土地において、自由な取引が行われるとした場合、その取引において通常成立すると認められる一平方メートル当たりの価格をいい、いわゆる買進みや売急ぎがなかったものとした場合における価格をいうのであって、次のとおり評定するものである。
なお、標準地は、必ずしも財産評価基本通達14で定める標準的な条件に該当しない場合があり、その場合には、財産評価基本通達の奥行価格補正や側方路線影響加算等の定めによって標準的な土地としての価額に修正(以下「標準化補正」という。)した後の価格をもって評定することとなる。
<1> 公示地の仲値の評定
原則として、公示価格を標準化補正して評価する。
<2> 基準地の仲値の評定
原則として、基準地標準価格を標準化補正し、一月一日現在の価格に修正(時点修正)して評価する。
<3> その他の標準宅地の仲値の評定
その他の標準宅地は、精通者意見価格及び近隣における売買実例価格を基に、その付近にある公示地の仲値及び基準仲値との均衡を図って評定する。
(3) 標準地の路線価の評定について
標準値の路線価は、右(2)により評定した仲値に、路線価の適用がその年一年間に及ぶことや課税の安定性の要請からくる安全度のため、評価割合八〇パーセントを乗じて評定する。
(4) 標準地以外の路線価の評定について
標準地以外の路線価の評価は、原則として、その路線について現地確認を行ったうえ、その路線に最も近い標準地の路線価を基として、売買実例価額、路線の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便宜等を総合的に勘案し、更に、その路線と隣接する路線との均衡にも配慮して評定する。
(5) まとめ
以上述べたように、路線価は、周辺路線との評価の均衡の維持されたもので、一般に評価水準の堅めの評価(時価以下評価)がされていることは公知の事実であり、その合理性も判例及び学説により認められているところである。
(五) 本件土地の評価額の計算根拠について
(1) 本件土地の地目、地区区分、形状、地積及び利用状況について
<1> 本件土地2について
本件土地2は、地目雑種地(同7)で、地区区分の定め(同14―2)により仙台国税局長が定めた普通住宅地区に位置し、北側の私道に接する長形の土地(地積一四一平方メートル)で私道として利用されていた。
<2> 本件土地1、同3ないし6について
右各土地はそれぞれの土地が接し合う一団の土地で、それぞれ地目雑種地で普通住宅地区に位置し、直接接する路線はないものの、その相互の境が判別不能な状態であることからこれを一団の土地としてみると、私道たる本件土地2に接する奥行距離二八メートルの不整形な土地(地積合計一三一〇平方メートル)で、特に利用されていなかった。
(2) 本件土地の評価方法について
本件土地はいずれも市街地的形態を形成する地域内にある宅地に隣接する雑種地であるから、右宅地に準じて路線価方式により評価する(同82)。なお、本件土地2はその状況から私道の用に供されている土地として評価することが相当でる。
(3) 本件土地の評価額について
<1> 本件土地2について
本件土地2が面する路線は私道で路線価が付されていないため、近隣の類似する路線の路線価金六万一〇〇〇円を基に、道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等の路線価に影響を及ぼす事項を斟酌して、通常の路線価の設定に準じて仮路線価を金四万五〇〇〇円と設定したうえで本件土地2が私道の用に供されていることから、右金額に一〇〇分の六〇を乗じた金二万七〇〇〇円に地積一四一平方メートルを乗じた金三八〇万七〇〇〇円となる。
<2> 本件土地1、同3ないし6について
本件土地2の仮路線価金四万五〇〇〇円に奥行価格補正率〇・九七及び不整形地補正率〇・七〇(不整形の程度を最大限斟酌して一〇〇分の三〇を控除した割合)を乗じた金三万〇五五五円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金三万〇三五五円に地積合計一三一〇平方メートルを乗じた金三九七六万五〇五〇円となる。
(六) 原告の主張に対する反論
(1) 主位的主張に対する反論
原告は本件土地の本件相続時の時価が一平方メートル当たり金三〇〇〇円を上回らないと主張するが、そのことを示す具体的根拠は存在しない。
しかも、国税を納付しようとする者は、金銭をもって納付するのを原則とする(国税通則法三四条一項)が、法律に特別の定めがある場合において物納の許可があった国税については、金銭納付に代えて金銭以外の財産で課税原因と関連のあるものを納付することにより納税義務を履行することができるものとされている(相続税法四一条)。そして、このように物納された財産は、国が国有財産のうちの普通財産として取得した上、管理処分することになるため、適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならず、また、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的にこれを運用しなければならない(財政法九条)。したがって、相続税の納税義務の履行として物納される財産は、国税収納上金銭に代わるものである以上、国が右のような管理又は処分を行うことができるものでなければならない(相続税法四二条二項)。
原告は被告に対し、平成五年四月二三日、本件相続に係る相続税納付のために、本件土地の物納申請をしたが、被告は、本件土地に面する道路が六メートル未満と狭隘であるため、現状のままでは一団の土地としての開発に困難な点があることから、将来管理又は処分して確実に財政収入に充当しなければならない物納財産としては不適当であると判断して、原告に対し、物納財産の変更を求めたところ、原告は同年九月三〇日、右物納申請を取り下げた。
ところで、相続税の課税に当たり、相続財産の価額をどのように評価するかということと、当該相続財産が物納財産として国の管理又は処分に適するか否かということとは、事柄の性質上、その判断の観点を異にする。
相続財産の価額の評価は、相続税課税の趣旨に照らして、相続開始時における当該相続財産の時価、すなわち、相続人の取得した財産についての使用、収益、処分の利益の総体的評価によるものであり、必ずしも当該相続財産が管理又は処分に適していることを想定して評価されるものではない。これに対して、物納財産の管理又は処分の適否は、国が当該相続財産の管理又は処分により、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるかどうという観点から判断される。したがって、ある相続財産について、財産評価基本通達に基づく時価評価が可能であり、かつ、それが適正であるとされる場合であっても、そのことから直ちに当該財産が物納財産として管理又は処分に適するということにはならず、これに不適当であるとされることもありうる。
以上のとおりであるので、被告が本件土地の物納申請を拒否したことをもって、本件土地の財産評価基本通達に基づく時価評価が不適当となるとする原告の主張は失当である。
また、原告は、本件土地の南側隣接地に郡山市の伝染病舎があるので過去に譲渡できなかったことがあったうえ、本件土地については都市計画法上の開発行為の許可が受けられないと主張する。
しかし、右伝染病舎のは昭和四二年に建設されているところ、当時から現在に至るまで右伝染病舎の近隣地において、同伝染病舎の存在を理由として、住宅建築や土地売買が禁止されていた事実はなく、実際に右伝染病舎の周辺には多くの住宅が存在していることから、伝染病舎の存在が土地の譲渡を不可能にしていたとは認められない。そして、原告提出の鑑定評価書(甲第一証)においても、伝染病舎の存在の評価への影響や本件土地において開発行為の許可を受けられないことの影響に関して何らの記載もない。したがって、原告の右主張は失当である。
原告は、本件相続開始時の本件土地の評価に当たっては、平成四年の路線価がバブル経済による地価の高騰を基礎として評定されていることから、これを基にした路線価方式によって評価することを著しく不当ならしめる特別な事情があると主張する。
しかし、路線価の評定は、公示価格、基準地標準価格、精通者意見価格及び売買実例価格を総合勘案して決定するものであり、その評定手続に合理性があること、そして、バブル経済の崩壊により地価が大幅に下落したのは主に都市部並びに商業地域等の特定の地域であって、これらの特定地域の地価とそこに含まれない本件土地の地価とを同列に論じることはできないことから、原告の右主張はその前提を欠き失当である。
また、平成四年の路線価の上昇には、従前において土地の時価に比して路線価が低額であったところ、平成四年以降は路線価の評価割合が八〇パーセントと引き上げられたことも影響していることから、原告の平成四年の路線価の上昇が路線価方式によることを著しく不当ならしめる事情であるとの主張は失当である。
(2) 予備的主張に対する反論
原告は本件土地の本件相続開始時の時価としては、鑑定評価書(前記甲第一号証)による評価額が相当であると主張し、その根拠として本件土地の売買契約書(甲三号証)を提出する。
しかし、右鑑定評価書の相当性には次の疑問がある。すなわち、本件土地から直線距離で約三〇〇メートルの場所に、公示地「郡山―1」が存在し、当該公示地は本件土地と同様の住宅地域で周辺状況が類似しているにもかかわらず、同公示地が本件土地の鑑定評価額算定上全く考慮されていない。
また、右鑑定は、本件土地につき鑑定評価額を算定するための基準地として、福島県基準地「郡山(県)3―1」を採用しているが、当該基準地は、本件土地から国道四号線バイパスを越えて直線距離で約一・五キロメートルも離れた遠隔地にあり、平成四年当時の現況は田で一区画の地積が五一八九平方メートルと広大であって、またその周辺のほとんどが農地(田)であったことから、本件土地の周辺地域と条件を著しく異にしていた。
更に、右鑑定は、本件土地の近隣地域内に適格な取引事例が得られなかったとしているが、右地域内には従来から比較的取引が活発であり、平成四年当時も右地域内に参考とすべき取引事例がいくつか存在したことは、本件において平成七年九月二二日付でされた本件裁決によりあきらかである。
そして、原告は前記売買契約書を右鑑定評価書を裏付けるものと主張するが、相続財産の取得時の時価はその後に相続財産が売却されたとしてもその売却価額によって影響されることはないのであるから、右売買契約書の契約金額は鑑定評価書の評価額を裏付けるものとはなり得ない。また、そもそも右売買契約書は相続開始時から五年を経過して締結されたものであることからも、右売買契約の代金額は相続時の時価として採用し得ない。
したがって、原告の予備的主張も失当である。
第三当裁判所の判断
一 相続税法二二条の「取得の時の時価」の意義
相続税法は、相続税の課税価格は相続によって取得した財産の価額の合計額であるとし(一一条の二)、相続によって取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価であるとしている(二二条)。そして、右にいう「取得の時」とは、具体的には被相続人または遺贈者の死亡の日をいい、「時価」とは、当該財産の客観的な交換価値のことであり、不特定多数の当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる取引の価額を意味すると解される。したがって、相続による財産の取得後に何らかの理由によってその財産の価値が低落した場合にも、課税価格に算入されるべき価額は、相続時における当該財産の時価であると解される。また、本件異議決定による一部取消後の本件処分における本件土地の評価が、本件相続時における本件土地の客観的交換価値を上回らないのであれば、右の本件処分には、本件土地について相続税法二二条の「時価」を上回る評価をした違法はないことになる。
ただ、右のような意味での客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定しうるものではなく、相続の発生の都度これを個別的に評価するほかないものとすれば、評価方法の違いや取引事例の欠如等によって、事案ごとに異なる評価額が生じる結果となって、租税負担の公平を害するおそれがあり、かつ、大量の課税事務を処理すべき課税庁に過大な負担と費用を強いることになるから、課税庁が準拠すべき一般的で簡便な評価方法を定め、これによって課税実務を運用することは、当該評価方法の合理性が認められる限り適法である。そして、国税庁長官が定める財産評価基本通達及びこれに基づき各国税局長が定める評価基準は、乙第一、第二号証及び弁論の全趣旨により認められるそれらの趣旨及び内容に照らして、右の合理性の認められる評価方法を定めたものというべきである。もとより、このような財産評価基本通達や評価基準は、法規としての性格を有するものでないから、納税者はこれによらず、適正な時価を主張することができることはいうまでもないが、適格な主張がない場合には、右財産評価基本通達及び評価基準によって評価した価額に基づき課税処分を行うことができるものというべきである。
二 ところで、財産評価基本通達は、土地の価額の評価について、次のように定めている。
1 課税時期における当該土地の現況の地目の別に応じて(財産評価基本通達7)、課税時期における実際の面積により評価する(同8)。地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則一一七条、一一八条に準じて行う。
2 宅地については、市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式により、それ以外の宅地については倍率方式による(同11)。
路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、奥行価格補正、不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価の定めにより計算した金額によって評価する方式をいう(同13)。
路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されて道路をいう。)ごとに設定される。路線価は、路線に接する宅地で、その路線のほぼ中央にあること、その一連の宅地に共通している地勢にあること、その路線だけに接していること、その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形または正方形のものであることの各事項のすべてに該当するものについて、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した一平方メートル当たりの価額をいう(同14)。
そして、奥行価格補正とは、一方のみが路線に接する宅地の価額は、路線価にその宅地の奥行距離に応じて付表1「奥行価格補正率表」(なお、本件においては、平成四年八月二七日付け課評二―一〇、課資1―一五による平成四年分及び平成五年分用をいう。以下同じ。)に定める補正率を乗じて求めた価額にその宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価する(同15)ことをいい、当該宅地が不整形の場合は、その宅地の地積をその間口の距離で除して得た計算上の奥行距離を基として、右定めにより計算した価額とする(同20の(1)の口)
また、不整形地、無道路地、間口が狭小な住宅等、がけ地等の評価のうち、不整形地の価額については、その不整形程度、位置及び地積の大小に応じ、その近傍の宅地との均衡を考慮して、一定の方法により算出された価額からその価額の一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除した価額よって評価する(同20の(1)こととし、その具体的な計算方法については財産評価基本通達において地区区分及び地積区分に応じた蔭地割合(想定整形地の地積から評価対象地の地積を控除した後の地積を想定整形地の地積で除した割合)から得られた「不整形地補正率」をその宅地の価額に乗じて求める。
3 雑種地とは、田、畑、山林等のいずれにも該当しない土地をいい(同7、不動産登記事務取扱手続準則一一七条)、雑種地の評価については、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地について財産評価基本通達の定めるところにより評価した一平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する(同82)。
三 本件土地を右財産評価基本通達の定めるところに照らして評価すれば、次のとおりとなる。
1 本件土地の地目、地区区分、形状、地積及び利用状況について
甲第一号証、乙第二、第五証、第八号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち、
本件土地は、仙台国税局長が財産評価基本通達14―2により定めた普通住宅地区に位置し、本件土地の北側及び南東には十数件の住宅があるほか、本件土地の北や東には未利用地がある。本件土地の西側には国道四号線バイパスが、南側には県道郡山・河内線があるものの、本件土地はそのいずれにも直接接していない。そして、本件土地は右県道から北に分かれ、右バイパスに交わる路線から、更に西に分かれた私道に接している。また、本件土地の南には郡山市立伝染病舎が建築されているほか、更にその南方には国立郡山病院がある。
本件土地2は北側に存する前記の私道と接している細長い土地(地積一四一平方メートル)であり、本件土地1、3ないし6と右の北側私道とを結ぶ私道として利用されており、不動産登記簿上の地目は畑と記載されているものの、全く耕作の用に供されておらず、私道としての用途の他には特に利用されていなかった。
本件土地1、3ないし6は、それぞれの土地が接し合う一団の土地で、それぞれ直接接する路線はなく、その相互の境が判別不能な状態であることからこれを一団の土地としてみると、私道たる本件土地2に接する奥行距離二八メートルの不整形な土地(地積合計一三一〇平方メートル)で、不動産登記簿上の地目は畑とされているものの、耕作の用に供されておらず、他に特に利用されていなかった。
2 本件土地の評価方法について
右1に認定の各事実によれば、本件土地はいずれも市街地的形態を形成する地域内にある宅地に隣接する雑種地であると、認められるから、財産評価基本通達によれば、宅地に準じて路線価方式により評価することになる。そして、右1に認定の事実によれば、本件土地2は私道の用に供されている土地であると認められるので、財産評価基本通達によれば、本件土地2は私道の用に供されている雑種地として評価することになる。
3 以上の事情から、財産評価基本通達によれば、本件土地はいずれも路線価方式により評価されるべきことになり、平成四年一〇月三一日の相続については同年の路線価を基として評価すべきことになる。
四 本件土地の平成四年の路線価を基準とする評価について
1 原告は、本件土地について平成四年の路線価を基に路線価方式によって評価することは、次の各理由から相続税法二二条に違反し違法であり、本件土地は主位的には金四三五万三〇〇〇円と評価すべきであり、予備的には金三〇一八万円と評価すべきであると主張するので、以下のとおり判断する。
(一) 原告は、被告に対して本件相続に係る相続税について本件土地による物納の許可を申請したにもかかわらず、被告が本件土地は都市計画法二九条の開発行為の許可を受けられない販売不可能物件であるので物納財産として不適当であるとして本件土地による物納の許可を否定したのであるから、平成四年の路線価を基にした評価をすることは違法であると主張する。
そして、前記第二、二本件訴え提起に至る経緯、甲第四号証、証人春木正雄(以下「春木」という。)の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告が被告に対し、平成五年四月二三日、本件相続に係る相続税について、本件土地につき路線価に基づく評価による申告をしたうえ、本件土地による物納の申請をしたこと、東北財務局福島財務事務所の担当者が同年六月、本件土地の現況確認を行ったこと、その後、右担当者が本件土地について都市計画法二九条に基づく開発行為の許可を受けることができるかどうか質問したこと、原告の相続税申告手続を代理した税理士である春木は土地家屋調査士の舟山幸夫から、本件土地について右許可を受けられないことを確認し、同年八月、郡山税務署の職員に対して、本件土地の状況では右許可を受けることができないと説明したこと、右職員はその後、春木に対し、本件土地については物納申請を許可できない旨返答したこと、そこで、原告は物納申請を取り下げたことが認められる。
しかし、国税通則法三四条一項は、国税の納付は金銭をもってするのを原則とし、物納の許可があった場合に例外的に国税の納付を物納によってできると定めている。これは、国の財政が歳入としての税収に支えられており、今日のような貨幣経済の下においては金銭若しくはこれと同視できる税収が得られなければ適正な歳出の確保ができないことから、納税の方法として金銭納付を原則としつつ、例外的に、相続税については財産課税の側面があるほか、金銭による納税を困難とする場合が予想されることから、相続税法四一条により、例外的に物納が許される場合について定めたものと解される。また、同法四二条二項ただし書は、税務署長が、物納申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求めることができると定めているが、これは、前記のような考慮から、相続人に物納による相続税の納税を許す一方で、物納財産については、国がその財産の管理又は処分によって金銭による納付を得た場合と同視できるような経済的利益を得ることができるように、その対象となる財産を限定したものであって、もって、適正な財政の運営に支障を生じないように定めた趣旨に出たものと解される。
したがって、相続税の課税に当たり、相続財産の価額をどのように評価するかということと当該財産が物納財産として国の管理又は処分に適するかどうかということとは、事柄の性質上、その判断を異にするものといわなければならない。すなわち、相続税課税に当たっての相続財産の価額の評価は、相続開始時における当該相続財産の時価により行われるところ、ここでいう時価とは、相続人の取得した財産についての使用、収益、処分の利益の総体的評価によるものであって、必ずしも、当該財産が相続税法四二条二項ただし書にいう管理又は処分に適していることを前提としてされるものではない。しかし、物納財産としての管理又は処分の適否は、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による納税があったのと同等の経済的利益を確保することができるかどうかという観点から判断されるのである。そうであるとすると、相続財産について財産評価基本通産による評価が可能であり、かつそれが適正であっても、そのことから直ちに当該相続財産が物納財産として管理又は処分に適するということにはならず、物納財産としては不適当であるとされることもありうる。
そうであるとすれば、本件土地が物納財産として適当でないとしても、そのことだけをもって、直ちに本件土地の平成四年の路線価に基づく路線価方式による評価が本件相続税課税に当たっての本件土地の評価として失当であるとは認められない。
(二) 原告は、平成四年の路線価は、バブル経済による投機的な地価の高騰を適正な地価と誤解し、本件相続時には地価は大きく下落していたのに、このような下落の傾向を適正に考慮せずに決定されたものであったところ、このように路線価が地価を適正に反映していないような場合には、路線価方式により評価することが著しく不当となる特別な事情があるとして、それにもかかわらず、右路線価を基にしてされた被告による本件土地の評価は違法であると主張する。
しかし、乙第七号証によれば、次の公示価格等が定められていたことが認められる。
(1) 所在 公示価格(平成四年) 公示価格(平成五年)
郡山市亀田二丁目 金一〇万一〇〇〇円 金九万八一〇〇円
(2) 所在 基準地価格(平成四年) 基準地価格(平成五年)
同市桑野三丁目 金三三万円 金三〇万円
また、右各土地の平成四年の路線価は次のとおりである。
(1) 金八万一〇〇〇円
(2) 金二七万五〇〇〇円
(右の各価格はいずれも一平米当たりのものである。)
右認定の各事業及び乙第五号証によれば、右認定の各土地のうち(1)の所在地は、本件土地の近隣に位置していると認められる。
更に、乙第八号証によれば、次の売買実例があったことが認められる。
所在 地目 売買年月 価格(一平米当たり)
(3) 郡山市亀田二丁目 宅地 平成四年一〇月 金九万七三七六円
(4) 同所 同 同年一二月 金九万〇四四〇円
(5) 同市字上亀田 同 同年九月 金一一万〇五一二円
(6) 同所 同 同年九月 金一五万六〇二一円
同号証によれば、右の各土地の平成四年の路線価(一平米当たり)は次のとおりである。
(3) 金七万八〇〇〇円
(4) 金七万七〇〇〇円
(5) 金六万一〇〇〇円
(6) 金七万二〇〇〇円
右認定の各事実及び乙第五号証によれば、右認定の各土地のうち(5)、(6)の所在地は、本件土地と同字であり、(3)、(4)も近隣に位置していると認められる。
右認定の各事実によれば、本件土地と同字の土地や本件土地の近隣の土地について、平成四年の路線価より高額の取引事例が平成四年九月以降に複数存在したほか、平成四年の路線価が同年及び平成五年の公示価格等を下回っている事例が存在することが認められる。
これらの事情に、前記のとおり、財産評価基本通達に基づく路線価が、公示価格、売買実例価格及び不動産鑑定士等の精通者意見価格等を基に公示価格水準の八〇パーセント程度により評価されていることを併せ考慮すれば、本件土地の近隣の平成四年の路線価が同年一〇月三一日時点の本件土地の時価を上回っていたとは認められない。したがって、本件相続に係る相続税の課税に当たって本件土地を平成四年の路線価を基準として評価することが、本件土地につき右時点の時価を超える評価をすることになるとは認められない。
(三) 原告は、本件土地が都市計画法上の開発行為の許可を受けることができず、しかも本件土地の南に郡山市の伝染病舎が存在していることから、本件土地を平成四年の路線価を基準に評価することはできず、本件土地は一平方メートル当たり金三〇〇〇円と評価するのが相当であると主張する。
前記認定の事実によれば、本件土地の南に郡山市の伝染病舎が存在していることが認められる。
しかし、乙第五号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地の周囲すなわち郡山市の伝染病舎の近隣には、二〇数件の住宅が建築されていること、したがって、本件土地と同様の環境でも宅地としての需要はあること、甲第一号証においても、郡山市の伝染病舎の存在は本件土地の減価要因として考慮されていないことが認められ、これらの事情に照らせば、本件土地の南に伝染病舎が存在することから直ちに本件土地を平成四年の路線価で評価することを不合理とする理由は認められない。
また、本件全証拠によっても、本件土地において都市計画法上の開発行為の許可を受けることができないかどうか明らかではないが、仮にそうであったとしても、そのことが本件土地について平成四年の路線価を基準とする路線価方式による評価を不当とするほどの事情とは認められない。
(四) 原告は本件土地について収益還元法により評価すべきであって平成四年の路線価を基準としたいわゆる路線価方式による評価をするのは違法であると主張する。
しかし、収益還元法による評価をするには、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益を算定するために予測される諸要素を的確に把握すること及び収益還元率を正しく定めることが不可欠の要件であるが、これらには、<1>土地の価額に見合う収益の算定が困難であること、<2>経営者の能力、財産の状態により収益の額が左右されること、<3>還元利回りの算定が困難なこと等の問題があると認められ、これらの問題によれば、収益還元法を本件土地の評価基準として採用していないことをもって不相当とまでは認められない。原告の右主張は失当である。
(五) 原告は、主位的に、右に主張した事情を根拠として、本件土地は一平方メートル当たり金三〇〇〇円と評価すべきであると主張する。
しかし、証人春木の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件土地を右のように評価する根拠は春木が自認するように明確ではなく、結局のところ、本件土地について物納を許可されなかったこと、本件土地において都市計画法上の開発行為が許可されないこと、本件土地の南に伝染病舎が存在すること、本件土地が平成九年七月まで売却できなかったこと、しかもその代金額が金三〇〇〇万円に過ぎなかったことによると推認されるところ、前記認定判断によれば、これらの各事情を総合しても、本件土地を一平方メートル当たり金三〇〇〇円と評価すべきものとは認められない。
(六) 原告は、予備的に、右(五)において主張した事情に加え、甲第一号証の鑑定書が本件土地の価格を金三〇一八万円と評価したこと、平成四年の路線価と平成八年から九年にかけての路線価がほぼ同様であることを根拠として、本件土地は金三〇一八万円と評価すべきであると主張する。
(1) しかし、前記認定判断のとおり、右(五)において主張した事情によっては、原告が右に主張するような価格を本件土地の価格として評価することはできない。
(2) ところで、甲第一号証によれば、同号証の鑑定は、次のように行われたことが認められる。すなわち、
まず、宅地見込地の基準として、福島県基準地価格「郡山(県)3―1」一平方メートル当たり金三万五五〇〇円を基準としたこと、これを基準として時点修正、個別的要因、地域的要因による修正を行って本件土地の標準的画地の価格を一平方メートル当たり金二万五〇〇〇円と算定した。
次に、右鑑定に当たって左の各取引事例を採用した。
所在 取引年月日 価格(一平米当たり)
<1> 郡山市喜久田町字赤沼 平成四年八月 金四万五三八七円
<2> 同市富田町字天神林 平成五年三月 金三万四七八九円
<3> 同市同町字塩ノ草 平成三年八月 金三万九九八五円
<4> 同市同町字諏訪西 同年一月 金三万五一〇〇円
右の各取引事例価格に事情補正、時点修正を施したうえで、個別的要因及び地域的要因に基づく比較を行って、本件土地の標準的画地の価格を一平方メートル当たり金二万九〇〇〇円と算定した。
更に、福島県基準地価格「郡山(県)―2」一平方メートル当たり金八万円や左の取引事例価格を基準とした。
所在 取引年月 価格(一平米当たり)
<5> 郡山市富田町字舘南 平成三年一二月 金七万二六〇〇円
<6> 同所 平成四年二月 金七万八〇九七円
<7> 同町字十文字 同年一月 金八万四〇〇〇円
<8> 同町字大十内 平成三年一二月 金七万五六〇〇円
右の各取引事例価格に事情補正、時点修正を施したうえで、個別的要因及び地域的要因に基づく比較を行って、本件土地の転換後、造成後の想定更地価格を一平方メートル当たり金七万五〇〇〇円と求め、ここから造成工事費及び諸費用を控除した結果、転換後、造成後の想定更地価格から求められる素地の平均価格を一平方メートル当たり金二万二七〇〇円と求めた。
以上の検討の結果を更に検討して、本件土地の価格を一平方メートル当たり金二万六〇〇〇円と求めた。
そのうえで、本件土地の開発宅地化のために取付道路の買収が必要であるところ、この買収に若干のリスクを伴うことを考慮して、本件土地の価格を一平方メートル当たり金二万〇八〇〇円と評価した。
(3) しかし、前記認定の事実、甲第一号証、乙第五号証、第八号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地の周辺には公示地「郡山―1」が存在し、同地点は本件土地から直線距離で約三〇〇メートルの場所であること、同地点は本件土地と同じ住宅地区であり周辺状況が類似していること、これに対して、甲第一号証の鑑定書が採用した基準地は福島県基準地「郡山(県)3―1」であるところ、同基準地は、本件土地から国道四号線バイパスを越え、本件土地から直線距離にして約一・五キロメートルも離れていること、同基準地の平成四年当時の現況は田であり、その周辺は農地(田)であったこと、本件土地の同字地内や本件土地の近隣に前記認定の四つの取引事例が存在したこと、しかし、甲第一号証の鑑定書はこれらの事実を考慮していないことが認められる。したがって、甲第一号証の鑑定は、その基礎として本件土地のより近距離に存在した土地や本件土地の本件相続時の現況により近似した土地についての価格情報を考慮しないで判断したものというほかなく、そうである以上、右鑑定書の記載は直ちに採用することができない。
(4) また、甲第三号証及び第四号証によれば、原告が渡部明義に対して、平成九年七月七日、本件土地を代金額金三〇〇〇万円の約定で売却したことが認められる。しかし、相続税法二二条が相続財産の「時価」の基準時を取得の時と定めているのは、右の「時価」が相続後に相続人が実際に相続財産を売却する際の価格の動向によっては左右されないとする趣旨であると解される。しかも、相続人が実際に相続財産を売却する価格は、相続人が実際に相続財産を売却するかどうか、実際に売却した時期、売却した時の状況によって、変動することが予想されるから、これらの事情を考慮することなしに、相続人が相続財産を実際に売却した価格をもって相続財産の取得時の時価として評価すべきでないと解される。そして、原告がした右売買契約が本件相続時から約五年を経過してされたことに鑑みれば、右契約価格をもって本件土地の相続時の時価を決定する資料とすることはできないと解される。
(七) 以上の事情によれば、本件土地については平成四年の路線価により評価することを不当ならしめる事情があるとは認められない。
2 以上を前提にして、被告の本件異議決定後の本件処分における本件土地についての評価の相当性を検討すると次のとおりになる。
(一) 本件土地2について
前記認定の各事実、甲第一号証、乙第二号証、第五号証、第八号証、第九ないし第一六号証の各一、二、証人春木の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件土地2が面する北側路線は私道であること、したがって、本来路線価を付すべき路線でないこと、しかし、平成四年当時は誤って路線価が金七万二〇〇〇円と付されていたこと、そこで、平成六年から右路線に路線価が付されなくなったこと、同私道は二メートル幅の舗装されていないどうろであること、本件土地2の北側近隣の下亀田地内に、本件土地2同様、国道四号線バイパスや県道河内・郡山線に接しておらず、同県道から北に分かれ右バイパスに交わる路線から更に西にわかれた路線があり、その路線価が金六万一〇〇〇円であること、右路線は周囲を数件の住宅及び未利用地に囲まれていること、本件土地2も周囲を十数件の住宅及び未利用地に囲まれていること、本件土地2が面する私道は東西方向に走っているが、西側では他の路線と連続しないのに対し、右路線価を付された路線は周辺の路線と連続していること、本件土地については下水道及び都市ガスが未整備であること、本件土地2が前記認定のとおりその余の本件土地と前記北側私道とを接続する私道として利用されていること、以上の事実が認められる。
また、弁論の全趣旨によれば、被告が、本件異議決定後の本件処分において、本件土地の近傍にある路線の路線価を基に、同路線と本件土地北側の私道の道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等の路線価に影響を及ぼす事項を斟酌して、通常の路線価に準じて、本件土地2の仮路線価を金四万五〇〇〇円と評定したこと、そのうえで、同評定額に一〇〇分の六〇を乗じた金二万七〇〇〇円を本件土地2の評価額の基礎としたことが認められる。
右に認定した各事情を総合すれば、本件土地2とその近傍の右路線価が付された土地とは、それぞれの場所的条件、道路環境や周囲の利用状況が類似しているから、被告が、右の路線価を基に、これに前記の道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等を斟酌して、本件土地2の仮路線価を金四万五〇〇〇円と評価したことを不相当とする理由はなく、また、本件土地2が私道として利用されていることから、被告が、財産評価基本通達24に基づき右価格に一〇〇分の六〇を乗じた金二万七〇〇〇円に地積一四一平方メートルを乗じた価格金三八〇万七〇〇〇円を本件土地2の価格と評価したことを不相当とする理由はない。
(二) 本件土地1、3ないし6について
前記認定の各事実、前記各証拠、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地1、3ないし6は、それぞれの土地が接し合う一団の土地で、それぞれ直接接する路線はなく、その相互の境が判別不能な状態であることからこれを一団の土地としてみると、私道たる本件土地2に接する奥行距離二八メートルの不整形な土地(地積合計一三一〇平方メートル)で、不動産登記簿上の地目は畑とされているものの、耕作の用に供されておらず、他に特に利用されていなかったこと、被告は、本件異議決定後の本件処分の私道の道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下道等の社会資本の整備状況等の路線価に影響を及ぼす事項を斟酌して、通常の路線価に準じて、本件土地2の仮路線価を金四万五〇〇〇円と評定したこと、そのうえで、同評定額に一〇〇分の六〇を乗じた金二万七〇〇〇円を本件土地2の評価額の基礎としたことが認められる。
右に認定した各事情を総合すれば、本件土地2とその近傍の右路線価が付された土地とは、それぞれの場所的条件、道路環境や周囲の利用状況が類似しているから、被告が、みぎの路線価を基に、これに前記の道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等を斟酌して、本件土地2の仮路線価を金四万五〇〇〇円と評価したことを不相当とする理由はなく、また、本件土地2が私道として利用されていることから、被告が、財産評価基本通達24に基づき右価格に一〇〇分の六〇を乗じた金二万七〇〇〇円に地積一四一平方メートルを乗じた価格金三八〇万七〇〇〇円を本件土地2の価格と評価したことを不相当とする理由はない。
(二) 本件土地1、3ないし6について
前記認定の各事実、前記各証拠、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地1、3ないし6は、それぞれの土地が接し合う一団の土地で、それぞれ直接接する路線はなく、その相互の境が判別不能な状態であることからこれを一団の土地としてみると、私道たる本件土地2に接する奥行距離二八メートルの不整形な土地(地積合計一三一〇平方メートル)で、不動産登記簿上の地目は畑とされているものの、耕作の用に供されておらず、他に特に利用されていなかったこと、被告は、本件異議決定後の本件処分において、本件土地1、3ないし6が本件土地2に接していることから、前記認定の近傍類似の路線価金六万一〇〇〇円を基に、これに前記の道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等を斟酌して、本件土地2の仮路線価を金四万五〇〇〇円と評価したこと、更に、財産評価基本通達15、20(1)に基づき、右仮路線価金四万五〇〇〇円に奥行価格補正率〇・九七及び不整形補正率〇・七〇(不整形の程度を最大限斟酌して一〇〇分三〇を控除した割合)を乗じた金三万〇五五五円から、財産評価基本通達40、39に準じて、宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金三万〇三五五円に地積合計一三一〇平方メートルを乗じた金三九七六万五〇五〇円を本件土地1、3ないし6の価格と評価したことが認められるが、右認定に係る本件土地1、3ないし6の地目、地積、形状、利用状況、周囲の状況等の右各事情や前記の財産評価基本通達の趣旨、内容等に照らせば、被告の右評価を不相当とする理由は認められない。
五 したがって、被告の本件異議決定後の本件処分による本件土地の評価には、相続税法二二条所定の時価を上回る違法はないものと認められる。
第四結論
以上の次第で、本件異議決定後の本件処分は適法であり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 高橋光雄 裁判官 吉井隆平)
別紙一
課税標準等及び税額等
<省略>
○「相続税の総額5」の計算
<省略>
別紙二
課税標準等及び税額等
<省略>
○「相続税の総額5」の計算
<省略>
別紙三
<省略>