福島地方裁判所 平成7年(行ウ)2号 判決
原告
荒川猪太郎(X)
右訴訟代理人弁護士
安田純治
被告
塙町長 二瓶隆男(Y)
右訴訟代理人弁護士
吉川幸雄
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 〔証拠略〕によれば、次のとおりの事実が認められる。
1 塙町は昭和五九年ころ、片貝地区住民から国有林野活用による農地開発計画実地に向けての陳情を受けたこと、右陳情は、国有林野を農地に開発して農業経営の規模拡大と農家経済の安定を図りたいとの理由に基づくものであり、右陳情の背景には、片貝地区においては、当時こんにゃく栽培による収益が好調であったところ、こんにゃくには忌地現象があることから、国有林を活用して新しい農地の造成を行ってほしい等の要望があったこと(〔証拠略〕)、
2 塙町は右陳情を受けて、同年一一月一六日、棚倉営林署長に対し、片貝地区内の国有林六五ヘクタールについて、農地開発による畑地造成の計画を要望したこと(〔証拠略〕)、
3 片貝地区県営総合農地開発事業推進委員会(以下「委員会」という。)委員長八幡は、前町長に対し、昭和六〇年一月二九日、国有林野の活用による農地開発により、農業経営の規模拡大と農家経済の安定確保のため、片貝地区県営総合農地開発事業を採択するように陳情したこと(〔証拠略〕)、
4 本件整備事業は、国が約五〇パーセント、福島県が約三〇パーセント、町が一三・八三パーセント、受益者が六・一五パーセントの費用負担割合で実施されたこと(〔証拠略〕)、
5 本件整備事業参加者は、本件整備事業区域内の全部の道路又は排水に関する費用について塙町の負担とすることを希望していたが、塙町は、本件整備事業によって笹原地域の発展と地域住民の安定を促進するとともに、今後各集落間の結びつきも強くなり、塙町の発展にもなる上、幹線道路については公益性も高かったことや、受益者の負担軽減をも考慮し、道路及び排水の全部については負担しないこととして、昭和六二年二月二日、組合との間で合意した了解事項に従って、幹線道路施行部分にかかる負担、土地取得補償及び工事完了後の管理帰属を塙町の負担とするにとどまったこと、右合意は起案書を作成して行われたこと、本件整備事業開始後、本件整備事業から脱退する者が相次いだこと、そこで組合及び塙町双方が本件整備事業からの脱退を食い止めようとして右合意を行ったこと(〔証拠略〕)、
6 塙町議会平成六年第二回定例会において、当時の益子東嗣男塙町農林課長が、本件整備事業区域内の町道払川線、本件林道、本件幹線道路の各道路敷について、昭和六一年一月の塙町長部局内の協議、同年一二月の塙町と公社又は福島県との間の協議等によって、塙町において買い取り、管理する旨合意されていることを説明し、その上で、前記本件売買契約の仮契約に対する承認の議決がなされたこと(〔証拠略〕)、
7 本件基準によれば、塙町が一般町道に認定する道路とは、一般交通の用及び不特定多数の用に供する道路で、法令その他特別の定めがあるものを除き、(一)巾員四メートル以上で公共的な性格を有するもの、(二)袋小路であって延長が一〇〇メートル以上あり、人家が一〇戸以上ある道路、(三)集落の中に町道が一路線もなく集落の幹線的な路線で巾員が三メートル以上ある道路のいずれかに該当する道路でなければならないと定められていること(〔証拠略〕)、
8(一) 町道払川線は、塙町が道路敷につき国有林を無償で貸付を受け昭和四六年三月一八日町道として認定し供用していたものであること、沿線に約一〇戸の人家があり、四メートル以上の幅員があること、営林署は町道敷として供用されている国有林についてはなるべく買い取るように要望していること、基盤整備事業の中で農地と道路を一括して造成する場合に、道路敷だけを先に測量して取得することは難しいこと、なぜなら事業が終わらないと道路敷の位置や面積が確定しないし、調査、測量費用についても全額を町で負担することになり、その費用等によって町の負担が全体として割高となるからであること、町道払川線についての工事は拡幅工事が中心であったこと、町が事業主体となり、測量して素地だけ営林署から売払いを受け、拡幅工事を行うという場合の建設費と国と県の補助を受ける基盤整備事業の中で道路造成も農地等の造成も一体として改良区が実施して町は道路敷の面積分だけ買い取るという方式とでは、国や県の補助が受けられるため基盤整備事業の中で一体として実施する方が、町の負担は軽くなること、実際にも本件整備事業施行後の町道払川線の線形は施行前の線形と異なっていること、
(二) 本件幹線道路は幅員が四メートル以上あり、本件幹線道路付近には大森イサ、鈴木博之、近藤マサの三人が居住しており、本件幹線道路を生活道路として活用していること、福島県には、県南農地事務所を担当主管として、本件整備事業区域内を南北に走る広域農道を新設する予定があり、これが採択されて新設されれば、本件幹線道路が広域農道の一部に吸収されるか、広域農道への取付道路として活用できること、本件幹線道路には袋小路となっている路線もあるが、付近に林道前枝木線があり、道路敷が国有地である農道を介して林道前枝木線と接続している他、延長されて広域農道に接続される可能性もあること、本件林道は本件幹線道路と林道前枝木線との接続点であること、林道前枝木線は沿線に四ないし五戸の人家があり生活道路としても利用されていること、本件幹線道路を広域農道と接続させようというのは塙町長部局内で検討されている計画であること、前町長は組合長との間で、塙町が本件幹線道路の取得について負担する旨の合意をしていたこと、
(三) 塙町は、右各事情を考慮して、改良区との間に、本件売買契約等を締結したこと(以上、〔証拠略〕)、
9(一) 本件整備事業において、同事業区域内の国有林の素地価格は合計金一億三一六四万五〇〇〇円であり、諸経費として合計金一一九二万九一〇一円を要したことから、国有林野売払価格は合計金一億四三五七万四一〇一円となったこと、本件整備事業による受益者分担金として合計金七二六二万九五〇四円を要したこと、国有林野売渡価格及び受益者分担金の合計金二億一六二〇万三六〇五円を整備事業の結果造成された畑地売渡面積二九万七二二五平方メートルで除すると、売渡面積一平方メートル当たりの価額が金七二七円となること、受益者側は右に基づいて、塙町に対し、本件道路敷の売渡価格を、一平方メートル当たり金七二〇円から金七三〇円と提示したこと、
(二) 平成五年度及び平成六年度の、塙町の道路整備関係事業に適用される、塙町用地買収基準価格には、山林の価格が、上級、中級、下級の三つに級別して決定されており、その下級の基準価格は一平方メートル当たり金六六〇円と定められていたこと、下級の地域区分は、原則として山間地のうちの大字片貝等と定められていたこと、本件道路敷は国有林の売渡を受けて造成したものであったこと、
(三) 塙町は協議を行った結果、片貝地区に存する本件道路敷の買取価格について、右の基準価格の内の山林の下級に対して定められた価格を基礎とすることを採用したこと(以上、〔証拠略〕)、
10 改良区は、平成六年三月三〇日開催の同年度通常総代会において、本件道路敷売買により取得した金員を、受益者の農地取得資金の補助金として取得面積に応じて支払うことを承認する旨の議決を得て、同年五月一六日、本件売買契約等に基づく代金として塙町から受領した金員を、塙町農協笹原支所の組合代表八幡清美名義の口座に振り込んだこと、組合は同月三一日、受益者の各個人口座に振り込み送金したこと(〔証拠略〕)、
二 なお、原告は、被告が塙町長として、本件売買契約等により本件道路敷を買い取った代金を改良区に支出することによって、本件整備事業に組合員として参加した自らの後援会会員に対して、実質的な補助金を交付したとか、本件売買契約等を締結する前に、被告が塙町長として組合との間に密約を交わし右の補助金の交付を画策した等と主張し、〔証拠略〕には、右主張に沿う記載がある。
しかし、前認定のとおり、塙町長からの棚倉営林署長に対する昭和五九年一一月一六日付けの陳情の中にも、住民からの要望があったことを受けての陳情である旨の記載があり、右の陳情後になされた委員会の昭和六〇年一月二九日付けの書面による陳情を受けて、前町長が塙町長として本件整備事業採択に向けての陳情を昭和六一年一二月一六日付けで行っていること等、本件整備事業自体が住民からの要望を基礎としていたこと、したがって、本件整備事業が塙町の主導により実施されたものではないこと、しかも、本件整備事業は被告が塙町長に就任する以前に採択され、開始されていた他、前町長が組合長との間において、昭和六二年二月二日付けで、塙町が本件幹線道路等を取得することについて合意していたこと、そのため、被告としては、行政の継続性や前町長の行った合意を尊重する限り、本件道路敷を取得せざるをえなかったこと、しかも、整備事業による造成終了後に、組合から塙町議会議長に対して、塙町による本件道路敷の取得が陳情されたこと、本件道路敷は、後記認定のとおり、町道としての要件に適合していたこと、塙町議会は本件売買契約等の締結に関して承認の議決をしたこと、本件売買契約等に基づく代金の組合員間での分配は、代金を受領した改良区において決定されたこと、したがって、被告は塙町長として、公益上の必要性から、本件道路敷を購入する理由があったこと、更に、右定例会において、前記合意の内容について説明が行われていること、右合意を締結するに際して、塙町役場内で起案書が作成されていたこと、それゆえ、右合意は密約とは認められないこと等の諸事情が認められ、これらの事情を総合すれば、原告主張の右各事実を認めるには足りない。
三 以上の、前提となる事実及び右認定にかかる事実を前提として、本件売買契約等の違法性について判断する。
1(一) 町道払川線の道路敷の買取りについて判断するに、前示の事実関係によれば、町道払川線は塙町において国有林につき無償で貸付を受け、町道に認定して供用していたもので、幅員が四メートル以上ある他、沿線に人家が約一〇戸あり生活道路として利用されていたことから、公共性があると認められ、したがって、本件基準による町道としての要件に適合していたと認められる。
ただ、かかる町道としての要件に適合した道路敷につき従前どおり無償で貸付を受けて供用するか、買い取って供用するかについては問題であるし、また、国から直接買い取るか、国から売払いを受けた改良区から買い取るかは一応問題である。
(二) 前示の事実関係によれば、国は近時、公共団体が国有林を道路として供用する場合、公共団体が道路敷を買い取ることを要望しており、特に本件の場合には、公社が町道払川線の道路敷を含む本件整備事業区域内の国有林につき一括して売払いを受けることから、もし、塙町において買い取らずに町道として利用するとすれば、改良区の負担で道路として供用することになるが、前記のように町道払川線が町道としての要件に適合していることに照らせば、かかる取扱は失当であると解される。また、国から直接買い取るか、改良区から買い取るかについては、改良区から取得し、国から直接取得しないことにより、本件整備事業によって国及び福島県の経済的補助を受けて本件整備事業区域全体の測量、造成を行うことができることから、町道敷の測量費を支出することを要せず、買取費用まで含めた町道敷の取得に要する費用全体を、国から直接取得するよりも安価なものにできることが認められる。
以上の事情を総合すれば、塙町が町道払川線の道路敷を改良区から取得したこと自体について、地方自治法二条一三項等に対する違反は認められない。
2(一) 次に、本件幹線道路及び本件林道の道路敷の買取りについて判断するに、前示のとおり、本件幹線道路は幅員が四メートル以上であり、沿線付近に三名が居住しており、その三名によって生活道路として利用されている他、広域農道が本件整備事業区域内を南北に走るように本件幹線道路付近に新設される計画があり、計画が採択された場合には、本件幹線道路が右広域農道に対する取付道路として活用することが期待できること、本件幹線道路のうち、袋小路になっている部分についても、農道を介して、林道前枝木線と連結していること、本件林道についても本件幹線道路と林道前枝木線との接続点であり、林道前枝木線が生活道路として活用されていること等の事実関係を認めることができることから、本件幹線道路及び本件林道は公共的性格を有する道路であると認められる。
以上の事情を、本件基準に照らせば、本件幹線道路は町道としての認定要件に適合していると認められる。
(二) したがって、かかる本件幹線道路を町道として認定する等の理由で、本件幹線道路及び本件林道を買い取ることに、地方自治法二条一三項等に対する違反は認められない。
3 なお、前記二に掲記のとおり、被告が塙町長として、改良区又は組合をダミーとして、被告の後援会会員に対する実質的な補助金の交付を図って、本件売買契約等を締結したとの事実は認めるに足りないので、右事実関係を前提とする原告の主張は失当である。
また、塙町が改良区に対して支払った本件売買契約等に基づく代金が、改良区から組合を経て組合員に対し交付されたことは認められるものの、この事実をもって、直ちに、被告が塙町長として、法令で定められた手続を潜脱して、補助金を交付したとは認めるには足りないので、本件売買契約等が地方自治法一〇〇条六項を潜脱した違法があるとの原告の主張は失当である。
4 以上を総合すれば、本件売買契約等及び売買代金の支出に違法は存しないと認められる。
(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 吉井隆平)