福島地方裁判所 昭和23年(行)57号 判決
原告 田中組合名会社
被告 福島県農業委員会・刈野村農業委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告福島県農業委員会(当時福島県農地委員会。以下県農委と略称する。)が昭和二三年一月一九日別紙目録記載の農地について原告の訴願に対してした訴願棄却の裁決(福島県農委裁決い第一〇〇号)を取消す。被告刈野村農業委員会(当時刈野村農地委員会。以下村農委と略称する。)が右農地について樹てた買収計画を取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、
(一) 原告は、土木建築請負、山林立木売買、製材、不動産売買、農地耕作、自動車運送、製塩、開墾などの事業及びこれに附帯する一切の業務を営むことを目的とする合名会社で、別紙目録記載の農地を所有していたが、被告村農委は右農地について自作農創設特別措置法(以下措置法と略称する。)第三条第一項第一号及び同条第五項第二号を適用して買収計画を樹て、これに対する原告の異議の申立をも却下したので、原告がこれに対し被告県農委に訴願したところ、同被告は、昭和二三年一月一九日、福島県農委裁決い第一〇〇号により、被告村農委が、措置法第三条第一項第一号を適用して、右買収計画を樹てたことは相当でないが、右農地は、同法第三条第五項第二号及び第三号によつて買収されるべきものであるとの理由で原告の訴願を棄却し、その裁決書は、同年二月二九日原告に交付された。
(二) しかし、被告村農委は、(1)原告が昭和一六年以来前記農地を自給農場とし、原告の従業員及び代表社員田中清太郎の家族の労力によつて自作してきた事実、及び(2)原告が充分の自家労力を保有し右農地の耕作を他に請負せたことのない事実を見落し、買収できない自作地について本件買収計画を樹てたのであるから、右計画及びこれを維持した被告県農委の本件訴願裁決はいずれも違法である。更に、前記のように右計画は相異なる二個の法条に準拠しており、また、右裁決は一方で原計画を相当でないとしながら、他方でこれを維持しているのであるが、このようにあいまいな根拠法条に基いて買収計画を樹て、訴願裁決をすることは許されないから、右計画及び裁決はともに違法である。
とのべ、被告の主張中原告の主張に反する部分を否認した(立証省略)。
被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、
(一) 原告請求原因第一項中、原告の目的を除く他の部分を全部認める。同第二項を否認する。
(二) 別紙目録記載の農地に対する被告村農委の本件買収計画は、昭和二〇年一一月二三日現在の事実を基準とするいわゆる遡及買収計画であり、次の理由によつて適法である。
右農地の耕作状況を見ると、昭和一六年度は、原告の代表社員田中清太郎が稲の植付をしたあと、末永武が田中の依頼で一番除草から収穫までの作業をし、昭和一七年度から昭和二〇年度までは末永が田中又は原告から賃借して耕作し、小作料は反当り玄米三俵であつたが、昭和二一年度からは、末永がその中五反四畝歩を従前どおり小作し、その他の部分約六反歩は、昭和二一年度だけ門馬小斎治ほか二名が末永と同じ条件で小作し、その後田中が耕作するようになつた。もつとも末永との小作関係をかくすため、外部的には末永に耕作を請負わせるという形がとられたことはあるかも知れない。なお、原告は、土木建築請負業者である田中の事業を受継ぎ、土木建築請負を主な目的とする個人会社で、農耕を主な業務とはしておらず、米の供出なども田中名義でしていたのであるから、前記農地の賃貸人は田中であつたと思われる。従つて、昭和二〇年一一月二三日現在、右農地は(1)原告又は田中を賃貸人とし、末永を賃借人とする小作地であるか、(2)原告の自作地ではあるが、田中が個人として耕作していたか、(3)原告がみずから耕作していたか、そのいずれかであるが、(1)の場合とすれば措置法第三条第一項第一号により、不在地主の小作地として、(2)の場合とすれば、同法第三条第五項第二号により、自作農以外のものが耕作の目的に供している農地として、(3)の場合とすれば、同法第三条第五項第三号により、その営む耕作の業務が適正でない法人の自作地として、どの場合であつても買収の対象となり、(2)(3)の場合には、被告村農委が買収するのを相当と認めたのであり、また(3)の場合には、同法第三条第六項第二号に抵触しないのであるから、本件農地は、同法第三条第一項第一号に該当するが仮にそうでないとしても、同法第三条第五項第二号に該当するとして樹てられた被告村農委の本件買収計画は正当であり、右計画と理由は異なるが、前記農地が同法第三条第五項第二号及び第三号に該当することを理由に、右計画を維持した被告県農委の本件訴願裁決も正当である。
とのべた(立証省略)。
三、理 由
被告村農委が、原告所有の別紙目録記載の農地につき、措置法第三条第一項第一号及び第三条第五項第二号を適用して買収計画を樹て、これに対する原告の異議の申立を却下したこと、原告がこれに対して被告県農委に訴願したところ、同被告が、昭和二三年一月一九日、福島県農委裁決い第一〇〇号により、村農委が措置法第三条第一項第一号を適用して右計画を樹てたのは相当でないけれども、同法第三条第五項第二号第三号によつて右農地を買収すべきことを理由に、原告の訴願を棄却する裁決をしたこと、その裁決書が同年二月二九日原告に交付されたことは当事者間に争いがないから、次に右計画及び裁決の適否を判断する。
証人末永武、門馬小斎治の各証言によれば、昭和一七年度から昭和二〇年度までは末永武が本件農地を耕作したこと、昭和二一年度からは末永が右農地の中五反四畝歩を耕作し、その他の部分約六反歩について昭和二一年度には門馬小斎治ほか二名、昭和二二年度からは原告の代表社員田中清太郎がそれぞれ耕作したことが認められ、証人田中太夫の証言中、昭和二一年度に末永を除く原告の従業員が前記農地の耕作に従事したとの部分は措信できないし、他に右認定を左右する証拠はない。そこで、末永や門馬らが誰との契約によつて右耕作に従事したかを考えてみるのに成立に争いのない甲第一、第九号証、乙第一、第二号証、証人末永武、門馬小斎治の各証言によれば、原告の定款にその目的として農地耕作に関する業務が追加されたのは昭和二二年一〇月ころのことであり、末永や門馬が契約の相手方を田中清太郎と信じていたことが認められるけれども、証人末永武の証言によつて成立の認められる甲第二号証及び成立に争いのない甲第五号証には、いずれも原告の表示がしてあることを考慮すると、右農地の耕作に関する契約の一方の当事者は、その所有者である原告であつたといわなければならない。そして、成立に争いのない甲第八号証、証人末永武、大越兵衛、林勇吉、門馬小斎治の各証言を綜合すれば、末永や門馬らの前記耕作は賃貸借によるものであることが認められる。もつとも前記甲第五号証成立に争いのない甲第四号証によれば、昭和一九年度から昭和二二年度までの米の供出は原告名義でなされていることが認められ、証人田中太夫、末永武の各証言によれば、昭和二一年度には原告が本件農地に対する肥料の配給を受けたことが認められるけれども、これらの事実だけでは前記認定を左右するにたらないし、甲第九号証成立に争いのない甲第六号証、証人田中太夫の証言中この認定に反する部分は採用することができず、他にこれをくつがえす証拠はない。そうとすれば、本件農地は、昭和二〇年一一月二三日当時、末永が原告から賃借して耕作していた小作地であり、中五反四畝歩の部分は、証人大越兵衛の証言によつて本件買収計画樹立の時と認められる昭和二二年当時、やはり末永が原告から賃借していた小作地であつたということができる。そして、原告が本件農地のある双葉郡刈野村に住所をもたないことは明らかであるから、右計画樹立当時、本件農地の中、右五反四畝歩の部分は現況により、その他の部分は昭和二〇年一一月二三日当時の事実により、いずれも措置法第三条第一項第一号の不在地主所有の小作地として買収の対象になるものといわなければならない。
被告村農委が本件農地について買収計画を樹てるに際し、措置法第三条第一項第一号だけでなく、同法第三条第五項第二号をも適用したことは当事者間に争いがなく、証人大越兵衛の証言によれば、被告村農委は、右農地について遡及買収をすることに決め、同法第三条第一項第一号を適用して本件買収計画を樹てたが、予備的に同法第三条第五項第二号を適用したことが認められる。この二個の法条は両立しないけれども、前記のように、本件農地を措置法第三条第一項第一号によつて買収することは正当であるから、予備的になされたにすぎない同法第三条第五項第二号の適用が誤りであつても、そのため右計画そのものが違法となるわけではない。なお、前記認定の事実によれば、右農地の中五反四畝歩の部分(この部分を特定するにたる証拠はない。)については、遡及買収でなく現況買収をすべきことが明らかである。しかし、本件のように買収計画樹立当時と昭和二〇年一一月二三日当時との耕作関係が全く同じであれば、現況によつて買収されるべき農地について一そう厳格な手続を要求される遡及買収計画を樹てても、これによつて計画が違法となるとはいえないから、本件買収計画は適法である。
被告県農委が、本件農地は措置法第三条第一項第一号の農地にはあたらないが、同法第三条第五項第二号第三号にあたる農地として、結局買収されるべきであるとの理由で、原告の訴願を棄却したことは当事者間に争いがない。ところで、都道府県農地委員会は、みずから買収計画を樹てる権限を有するものではなく、ただ原買収計画に対する訴願につき、原計画の適否を判断してその維持又は取消をするだけであるのだから、都道府県農地委員会が、市町村農地委員会の定めた条項にはあたらないが、それ以外の条項にあたるとの理由で、原計画を維持することは許されないわけである。しかし原計画が正当であるのに、都道府県農地委員会が、誤つてこれを非なりとし、ただ他の条項にあたるものとしてこれを維持し、訴願を棄却したような場合は、その裁決は理由において誤つてはいるが、原計画を維持した点において結局正当に帰するものといつて差支えあるまい。被告県農委の本件訴願裁決は、被告村農委の定めた条項以外の条項を本件農地に適用し、しかも、その適用が誤つている点において、理由中に違法な部分を含むけれども、本件買収計画が正当であることは前判断のとおりであるから、これを維持した右裁決は結局正当であるということができる。
従つて、被告県農委の本件訴願裁決及び被告村農委の本件買収計画の取消を求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 鈴木義男)
(目録省略)