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福島地方裁判所 昭和23年(行)66号 判決

原告 株式会社 中村機具製作所

被告 福島県農地委員会・白川市農地委員会

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告福島縣農地委員会が、別紙物件目録記載の土地につき、昭和二十三年九月一日なした買收計画についての訴願裁決を取り消す。被告白河市農地委員会が右土地について定めた買收計画を取り消す。訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙物件目録記載の土地は、原告会社の所有である。白河町農地委員会(市制施行前の名称を用い、以下町農委と略称する。)は、右土地を自作農創設特別措置法(自創法と略称する)第三條第一項第一号並びに同條第五項第四号の規定により、昭和二十二年三月三十一日買收計画を樹て公告したので、同年五月五日異議の申立をしたところ、同委員会は同月十八日「本件農地は白河町の野菜給源地として一等地にあり、これを潰廃するは農地関係者として忍びがたく、殊にこの農地は戰時中強制取上げによつたものなれば、旧耕作者等に還元するを相当とする」として却下の決定をしたので、更に同年六月三十日福島縣農地委員会(縣農委と略称する)に訴願したが、同委員会は昭和二十三年九月一日訴願棄却の裁決をし、裁決書は同年十一月十二日町農委を経て原告に送付された。

被告町農委が、本件土地の買收計画を定めた自創法上の根拠は、原告会社は、不在地主にして、且つ本件土地は法人の所有する小作地であると謂うのであるが、原告会社の本店所在地は、登記簿上東京都品川区五反田三丁目四十四番地であるけれども、白河町に工場を設置しているから、不在地主でない。また本件土地については、何人も賃借権、使用貸借による権利等に基いて、耕作しているものでないから、(自創法第二條第二項後段)小作地でもない。

しかして、原告は被告縣農委に対する訴願において、(一)原告会社は市制施行準備のため白河町に誘致され、本件土地は白河町当局の斡旋で買い取り、当時の耕作者に対しては、昭和二十年五月までの間に、それぞれ三箇年分の耕作料を支拂つて、小作権を消滅させているから、小作地ではない。(二)現在の耕作者は附近の部落民であり、無断で占有耕作しているもので、これ等の耕作者に対し、使用貸借に基く耕作権を與えた事実は絶対に無い。すなわち、本件土地の耕作者は、不法占拠者であるから、小作関係はない。(三)原告は、本件土地の大部分につき、昭和十九年九月一日臨時農地等管理令第五條の規定により、農地潰廃の許可を得てあつて、本件土地は事業の遂行上必要欠くべからざるものである。すなわち、原告会社は、昭和二十年八月終戰後、特別事情により工場作業を中止していたが、將來自動車工場にする予定であるので、鑄物工場及び試運轉場として、本件土地は絶対に、必要のものである旨主張したのに対し、被告縣農委の裁決は、「訴願人たる原告会社は、工場再開計画に伴い、絶対必要欠くべからざる土地であることを結論として、前述事項を訴願の理由としているが、取得当時潰廃許可を得てあつても、現に農耕地として利用しあることは明かである以上、農地として処理されるべきは法に示すところであり、且つ耕作権存在の有無については仮に使用貸借等何等の契約或は権利が存しないとしても、法第三條第五項第五号の規定により、買收の対照となるべきは当然であるから、町農委の定めた買收計画を違法であるとする何等の理由も存しない」として、訴願を棄却した。

しかし、被告町農委の買收計画には根本的に違法が存する、本件土地は自創法第三條第一項第一号に所謂不在地主の小作地でないから、買收の対象となる農地ではない。なお同委員会は同條第五項第四号にも該当する土地であると謂うが、この條項の規定する農地は、その所有者が、法人その他の団体である場合の小作地である。然るに原告の所有土地は小作地ではないのであるから、被告町農委の買收計画の違法であることは明かである。次に被告縣農委の裁決の理由も、また根本的の違法を存する。すなわち、苟くも農耕地であれば、何等の権限に基かない不法占拠であつても、小作地であると謂うが、小作関係のない耕地は自創法の対象にならないのである。よつて原告は請求の趣旨記載の如き判決を求めるため、本訴に及んだ次第であると述べた。

被告等は、主文同旨の判決を求め、原告の本訴請求原因中、別紙物件目録記載の土地が、原告会社の所有なること、被告町農委が自創法第三條第一項第一号、並びに同條第五項第四号の規定により、右土地につき買收計画を樹てて公告したこと、原告が、異議の申立をしたが、被告町農委がこれを却下したので、さらに昭和二十二年六月三十日被告縣農委に対し訴願をしたが、同委員会が原告主張の理由により、昭和二十三年九月一日訴願棄却の裁決(「法第三條第五項第六号により」とあるのは「法第三條第五項第五号により」の誤記であり、昭和二十四年一月二十四日附その旨通知した)をし、右裁決書が、昭和二十三年十一月十二日原告に送付されたことは認めるが、右買收計画公告の日は、昭和二十二年五月三十一日、異議申立の日は、同年六月七日、異議却下の日は、同月二十四日である。原告会社は、軍需工場建設の美名の下に、当時小作地であつた本件土地の強制買收に成功し、原告の謂う離作料として二、三十円位の涙金を、小作人に無理に渡して賃借権を消滅さした。そのとき原告は工場を建てるまでの間は、今まで通り耕作していてよろしい。工場を建てるときは異議なく引き渡して呉れと、小作人等と使用貸借による耕作権を設定したので、小作人等は、爾後平穩無事に從來通り耕作を継続して來た。結局賃借権は消滅したが、使用貸借による権利によつて、占有耕作をして來たのであつて、不法占拠ではない。原告会社は本件土地を取得した当時、既設の建物を利用して、軍需品の生産をしていたが、工場拡張は実現せず、終戰後自動車の部分品製作と称して、ささやかな操業を開始したが、永続きせず、間もなく操業を中止し、現在は無人の空工場である。そこで町農委は、本件土地の所有者は、本店が東京都内で、事務所を神奈川縣下に移轉した原告会社であり、小作人は、同会社と使用貸借による権利により、旧來から引き続き耕作してる鈴木忠次郎等十数名であるので、自創法第三條により不在地主の小作地、不在地主にあらずとするも法人の所有する小作地として、買收計画を定めたのであるから、何等違法ではない。(買收公告に買收法條は表示しない。)原告は小作関係のない耕地は、自創法の対象にならないと謂うが、自創法第二條に明らかなように、本法において農地とは耕作の目的に供される土地をいい、本件土地が立派な畑として現存していることは動かせない事実である。しかもこの畑の耕作者は、原告がこの土地買收前からの耕作者であり、買收当時明らかに使用貸借による権利を取得し、継続して増産に励んで來たのである。原告は、目前の土地を毎日耕作してるのを、昭和十九年から現在まで、不法占拠として阻止したことがない。被告縣農委は訴願裁決において、町農委の異議却下決定を維持し、併せて原告主張の如く、本件土地につき権限を有する耕作者は存しないと仮定しても、現況農地である以上、自創法第三條第五項第五号(第六号の誤記は訂正ずみ)により「農地で所有権その他の権限に基きこれを耕作することのできる者が現に耕作の目的に供していないもの」として、買收すべきであると決定したのである。以上の如く本件土地の買收計画について、何等違法の点がないので、原告の請求は棄却さるべきであると述べた。(立証省略)

三、理  由

被告町農委が、別紙物件目録記載の土地につき、自創法第三條第一項第一号並びに同條第五項第四号の規定により、買收計画を樹ててこれを公告したこと、これに対し、原告が、異議を申し立てたが却下されたので、さらに訴願をしたが、これまた棄却され、その裁決書が原告主張の日、原告に送付されたこと、原告会社は、本店を東京都品川区五反田三丁目四十四番地に、事務所を神奈川縣茅ケ崎市に置き、戰時中昭和十九年福島縣西白河郡白河町に工場を設置したこと及び原告が本件土地を買い取つたことは当事者間に爭いなく、また、成立に爭いのない甲第四号証ノ一乃至第十四、第五号証に徴すれば、原告が本件土地の大部分につき臨時農地等管理令第五條の規定により、昭和十九年九月一日福島縣知事から農地潰廃の許可を得たこと及びその小作人十数名に対し、昭和二十年四、五月中離作料を支拂い、各土地引渡契約証書を差し入れしめたことが明らかである。

原告は本件土地は買收の対象となる農地でない。すなわち、昭和十九年春本件土地を買い取り、当時の耕作者(小作人)に対しては離作料を支拂つて小作権を消滅させたので、小作地ではない。また原告は土地所在地の白河町に工場を有するから不在地主でない。本件土地を耕作している者があれば、それは不法占拠者である。それ故に自創法第三條第一項第一号に、所謂不在地主の所有する小作地でないから、買收の対象となる農地ではないと主張するから案ずるに、自創法にいう不在地主とは、自分の住所のある市町村の区域外に小作地を有している者のことであり、会社の場合には本店の所在地が住所であつて、一箇所だけにかぎられるのであるから、原告会社の本店が東京にある以上、原告会社が、白河町に所有している本件農地は、たとえ原告会社が同町に工場を所有していても、その住所の存する区域外において所有する農地であるといわなければならない。

しかして弁論の全趣旨で眞正に成立したものと認める乙第二号証に証人石川運藏、同山崎喜三郎の各証言を総合すると、本件土地の小作人等は、昭和二十年四、五月中原告から離作料の支拂を受け、土地引渡契約証書を差し入れたが、同時に將來原告会社の工場拡張のため、明渡の請求あるまでは、無料で耕作を継続することを承認されたこと、原告会社は元煙草收納所を工場建物に使用し、本件隣接農地を買い取つたものであるが、本件土地のは、白河町の町はずれに位し、附近は田畑で、上の部の耕作地で、現在も從前の小作人等によつて野菜類が耕作されていることが認められるから、本件土地は、自創法第二條第一項所定の農地であると共に、從前の小作人等が、原告会社との使用貸借によつて、これを耕作しているものであることが明らかである。

原告は、本件土地の現在の耕作者等に対して、使用貸借に基く耕作権を與えたこと無く、その他何人も賃借権使用貸借による権利、永小作権又は質権等に基き、耕作を爲し得るものでないから(自創法第二條第二項後段)、小作地でないと主張するが、右認定を左右するに足る証左なく、却つて証人石倉忠藏、同須釜順四郎の各証言及び、原告会社代表者中村清一の供述を総合すると、原告会社は昭和二十年八月休業し、同二十二年春自動車整備工場を準備したが、思わしくなかつたこと、本件の土地は現在も畑になつて、從前の小作人と大体同じ者が耕作しており、原告会社が耕作を阻止したことも、強いて畑地の引渡を求めたことも無いことが認られるから使用貸借は依然存続していることが明かである。

なお、原告は、被告縣農委が仮に使用貸借等何等の契約或は権利が存しないとしても、自創法第三條第五項第五号(現行第三條第五項第六号)により、買收の対象となるべきは当然であるとして、町農委の定めた買收計画を支持した点に対し、同号の規定によつて買收せらるべき土地は、該土地が農地であること及び該土地の耕作権者が、現に耕作の用に供しないこと、の二つの要素を備えなければならない。これを本件土地について檢討するに、元畑地であつたから、その土質は耕作に適するものであろうが、原告は工場建設の目的でこれを買收し、現在の耕作者等には、離作料を支拂つて耕作権を放棄せしめ、農地の潰廃を申請して許可せられた土地であるから同号に該当しないと主張するが、右規定は、農地であつて現に耕作されていないもの(休耕地ないし不耕作地)及び現に耕作されてはいるが、耕作者が耕作する正当な権利なくして、耕作している農地を指称するものであり、訴願裁決は、かかる農地も、市町村農地委員会が買收を相当と認めたときは、すべて買收ができる趣旨を明かにしたものである。

要するに、農地潰廃の許可があつても、買收計画樹立当時未だ工場敷地に変換せられず、現況農地であれば、買收の対象となるべきものであつて、被告町農委が原告は東京都下に本店を有する株式会社であり、從來の小作人等が使用貸借による権利に基き本件土地を耕作するものと認め、これを自創法第三條第一項第一号同條第五項第四号に該当する小作地として、樹立公告した買收計画及びこれを維持して原告の棄却した被告縣農委の裁決は、いずれも正当である。よつて原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松浦欣 斉藤規矩三 黒江清)

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