福島地方裁判所 昭和24年(ワ)19号・昭24年(ワ)29号・昭24年(ワ)98号 判決
被告は原告に対し福島市置賜町現在家屋番号同町第百五十七番木造亞鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅一棟建坪三十一坪の東側一戸分十五坪五合のうち北側の六疊一室(床、押入附)及び同室の北側にある廊下を明け渡せ。
原告のその余の請求を棄却する。
右明渡を命ずる部分は原告が金五千円の担保を供するときは仮に執行することができる。
昭和二十四年(ワ)第二九号事件につき
反訴原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、前記第一九号事件、第九八号事件及び第二九号事件を通じて相消す。
二、事 実
昭和二十四年(ワ)第一九号事件の請求の趣旨。
「福島市置賜町六十七番ノ四宅地七十二坪七合のうち被告が賃借する同地上所在木造亞鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅一棟建坪三十一坪の東側一戸分十五坪五合と物置建坪約五合の敷地十六坪、右居宅に出入する通路及び便所汲取口への通路以外の部分につき被告に使用権のないことを確認する。
被告は右使用権のない部分につき原告の所有権行使を妨害する一切の行爲をしてはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。」
昭和二十四年(ワ)第九八号事件の請求の趣旨。
「被告は原告に対し福島市置賜町六十七番地現在家屋番号同町百五十七番木造亞鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅一棟建坪三十一坪のうち東側一戸分十五坪五合を明け渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決には担保を條件とする仮執行の宣言を求める。」
右両事件の請求の趣旨に対する被告の答弁。
「原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。」
反訴原告の請求の趣旨。
「反訴被告は反訴原告に対し福島市置賜町六十七番ノ四宅地七十二坪七合のうち東側三十五坪三合三勺の地上に反訴被告が新築した木造リユーヒング葺平家建住家一棟建坪六坪三合四勺のうち右三十五坪三合三勺地上に存する部分を撤去せよ。
反訴被告は反訴原告が右土地を使用することを妨害してはならない。
訴訟費用は反訴被告の負担とする。」
反訴の請求の趣旨に対する反訴被告の答弁。
「反訴原告の請求を棄却する。」
原告は前記昭和二十四年(ワ)第一九号、第九八号事件の請求の原因及び同年第二九号事件の反訴請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
原告(反訴被告、以下單に原告という。)は、かねてから賃借居住していた住家の明渡を迫られて、困つていた際、たまたま、賣物に出ていた福島市置賜町六十七番ノ四宅地七十二坪七合及び右地上にある家屋番号同町百五十七番木造亞鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅一棟建坪三十一坪及び物置を、昭和二十三年九月二十日その所有者である訴外本多長兵衛から買い受け、同年十一月一日所有権移轉登記を経由した。右居宅は、一棟二戸建で、当時、被告(反訴原告、以下單に被告という。)と訴外生田某とが、おのおの一戸十五坪五合ずつを賃借居住していたが、原告も住宅に困つていたため、被告に六疊一室と二疊一室だけ明けて貰いたいと頼んだが、断わられた。ちなみに被告方は、被告夫婦と子女四人の六人家族であり、右一戸は、玄関、炊事場のほか、六疊二室、二疊、三疊各一室の部屋がある。原告は、いたしかたなく、右居宅前の空地に小さい住家を建てゝ住むほかなかつたので、了解を求めたところ、生田は、快よくこれを承諾し、被告も、とにかく、これを了承したので、原告は、建坪十二坪の住宅建築の許可を受け、請負人に工事を註文して、早速、建築工事に着手したところ、被告からとかくの申出があつたので、原告は、円満にことを運びたいため、設計を変更し、建坪を六坪三合四勺に縮少して工事を進めようとしたが、現場で働く職人たちは、被告の暴言におそれて、作業を中止する有様であつた。しかし、被告は、右宅地のうち、借家の敷地と物置の敷地と、出入口への通路と、便所汲取口への通路について、使用権があるとしても、賃借していないその他の宅地については、原告の使用や建築を妨害する何等の権利もないと考えたので、原告は、昭和二十四年一月七日福島地方裁判所から建築工事妨害禁止の仮処分命令を得て、被告の妨害を除き、かろうじて建築を完成して、これに居住している。しかるに、被告は、借家人の住居権を脅かすとか、借家権とかといつて、あるいは原告を告訴し、或は福島簡易裁判所に建築物取拂を求める調停の申立をして、原告の所有権の正当穏健な行使を妨げようとしているから、第一九号事件の請求の趣旨記載のような判決を求める。
原告方では、右のとおり小屋を建てたが、家族は、原告と、原告の父母、祖母、叔母の五人であるのに、右小屋は、店を除けば、居間、寝室、茶の間兼用の四疊半一室しかなく、日中は五人がそこに居住しているが、夜間は余儀なく祖母が原告の伯父方に泊つている。しかるに、被告は、原告の苦境に一顧も與えず、被告に宅地の使用権があると主張して、原告が折角新築した小屋の取拂を要求するという不信きわまる態度に出ている。原告は、自ら居住するため絶対に被告の借家が必要なので、昭和二十四年一月三十一日被告に対し、書面で本件賃貸借の解約申入をし、右書面は、そのころ被告に到達したから、本件賃貸借は、その後六箇月の経過によつて終了した。よつて、右賃貸借の終了を原因として、第九八号事件の請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
被告が、反訴請求の原因として主張する事実のうち、原告が、三十五坪三合三勺の宅地上に住宅を新築したことは相違ないが、被告は、右三十五坪三合三勺の全部について賃借権を有するものではなく、原告が第一九号事件で主張した範囲において使用権を有するのみで、それ以外の部分については、使用権を有しないのである。それのみではなく、被告の本件家屋の賃貸借が終了したことは、第九八号事件で、原告が、主張したとおりであるから、仮に被告が三十五坪三合三勺の使用権があつたとしても、右使用権は、家屋の賃貸借の終了と同時に消滅したから、被告の反訴請求は失当である。
被告は、原告の請求の原因に対する答弁及び反訴の請求の原因として次のとおり述べた。
原告が、昭和二十三年九月二十日その主張の宅地、建物をその所有者本多長兵衛から買い受け、同年十一月一日所有権移轉登記を経由したこと、被告と生田が、右建物のうちそれぞれ一戸十五坪五合を本多から賃借中であること、原告から明渡の要求があつたが、被告が、これを拒絶したこと、原告が建築に着手したので、被告が、これに抗議したこと、原告が、その主張のような仮処分決定を得て、六坪三合四勺の建物を建築したこと、被告が、原告主張のような告訴をしたり、調停の申立をしたこと、本件係爭家屋の間どりが、原告主張のとおりであること及び被告方の家族が被告夫婦と子供四人の六人であることは、これを認めるが、被告は、原告が建物を建築するのに同意したことはない。原告方の間どりや、家族の数はわからないと述べ、本件宅地七十二坪七合のうち三十五坪三合三勺は、その地上にある被告借家の敷地であつて、被告は、昭和八年から右宅地を本多から賃借使用中のものである。原告は、本件宅地、建物を本多から買い受けたものであるから、右宅地と敷地について賃貸人の地位を承継したものであり、從つて、原告は、賃借人である被告の敷地使用を拒むことはできないのにかゝわらず、この敷地の上に無理に建築したのは、賃借人である被告の敷地使用権を不当に侵害するものであるから、第一九号事件の請求は、失当である。
また、原告は、被告一家が長年賃借居住中であることを知りながら、被告を追いたてゝ、みずから居住しようとの意図をもつて、本件家屋等を買い受けたもので、初から被告の賃借権を無視しているのである。被告は他に移轉すべき家屋もない現状であるから、原告の解約申入は、いわゆる正当の事由をかくものであり、権利の濫用であつて、解約の効果を生じないから、賃貸借の終了を原因とする明渡の請求も失当である。
なお、被告は、先に述べたとおり、本件宅地のうち三十五坪三合三勺を本多から賃借中であるのに、原告は右宅地内に六坪三合四勺の家屋を新築して、被告の敷地使用権を妨害し、賃借建物の使用にも、不便と困難をきたしている。よつて、被告は、右敷地の賃借権に基き、反訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
<立証省略>
三、理 由
原告が、昭和二十三年九月二十日本多長兵衛から福島市置賜町六十七番ノ四宅地七十二坪七合及び右地上所在木造メツキ鋼板葺平屋建居宅一棟建坪三十一坪を買い受け、同年十一月一日所有権移轉登記を経由したこと、被告が右居宅のうち東側一戸十五坪五合を本多から賃借居住してきたこと、原告が、右買受後、前記宅地の空地に六坪三合四勺の建物を新築したこと、及び被告が、原告の右行爲は、被告の居住権を脅かすものとして、警察署に原告を告訴し、且つ福島簡易裁判所に右建物の取拂を求める調停の申立をしたことは、当事者間に爭がない。
原告は、右宅地七十二坪七合のうち、右居宅十五坪五合及び物置五合の敷地合計十六坪、右居宅の出入口への通路及び便所汲取口への通路を除いたその他の部分について、被告に使用権がないことの確認などを求めるが、右居宅のうち西側一戸十五坪五合には、生田が賃借居住していることは当事者間に爭のない事実であり、被告も、單に右宅地のうち東側三十五坪三合三勺についてのみ賃借権があると主張するもので、右三十五坪三合三勺以外の宅地については、何等の権利をも主張するものでないから、原告の右請求中、三十五坪三合三勺以外の部分につき、被告に使用権のないことの確認等を求める部分は、訴の利益がないものといわなければならない。
よつて右宅地三十五坪三合三勺について考えるに、被告は、右宅地を本多から賃借していたもので、原告が本多からこれを買い受けると同時に賃貸人の地位を承継したものであると主張するが、証人本多長兵衛の証言によれば、本多は、被告に居宅十五坪五合を賃貸したのみで、その敷地については別に賃貸借を結ばず、たゞその使用を認めてきたのみであることが認められる。もつとも、乙第一号証には、「地代月割八円」の記載があるが、同証言によれば、右は地代と家賃とを区別して市役所に届出をしなければならないことになつたので、昭和二十一年十月二十日右居宅の家賃を適宜地代と家賃とにわけて届出をしたゝめ、地代と記載されたものであることが認められるから、同号証によつては敷地についての賃貸借成立の事実を認めがたく、他に右事実を認めさせるような証拠がないから、宅地についても賃借権があるとの被告の主張は採用しない。しかし、家屋の賃借人は、特に敷地について別に賃貸借を結ばなくとも、家屋の賃貸借に附随する当然の効果として、その敷地を利用することができるものといわなければならない。本件居宅の敷地の範囲は、証人本多長兵衛の証言、被告本人の供述及び檢証の結果を綜合すると、東方は、被告方東側の建築線から東方に三尺の地点で右建築線に平行して南北に走る直線、西方は、被告方と生田方との境界線及びこれを南北に延長する直線、北方は溝に沿つて東西に走る線、南方も溝にそつて東西に走る線で囲まれている一画の土地(その面積は正確にはわからないが、檢証の結果で約三十五坪三合三勺くらいと推測される。)で、この部分を被告が使用してきたし、また使用することができるのであるから、本多から本件宅地及び建物を買い受けて、建物の賃貸人の地位を承継した原告は被告に右敷地を使用させなければならないのである。從つて、この部分につき、被告に使用権のないことの確認等を求める原告の請求は失当である。
次に賃貸借の終了を原因とする家屋明渡の請求につき案ずるに、原告が、昭和二十四年一月三十一日被告に対し本件賃貸借解約の申入をしたことは、当事者間に爭がない。よつて右解約申入について、正当の事由があつたかどうかを考えるに、原告法定代理人土屋竹雄の第二回供述に檢証の結果を綜合すると、土屋竹雄は、福島市内に借家居住していたが、どうしてもこれを明け渡さなければならなかつたので、原告方一同がこれに居住する目的で本件家屋を買い受けて、原告名義に所有権移轉登記を経由したが、生田方は十一人家族であるのに、被告方は、六人家族であつた関係上、被告に対し明渡を求めたが、應じないので、せめて一室だけでも明け渡して貰いたいと懇請したが、これまた拒絶されたのでやむなく、本件宅地の北側空地の部分に住宅を建築しようとしたところ、被告は、これをも妨害する態度に出たので昭和二十四年当初、当裁判所から、被告に対し、右建築を妨害してはならない旨の仮処分決定を得て、被告方と生田方の空地にまたがつて、総坪数六坪三合四勺の建物を建設し、これに移住したが、被告は右建築をもつて被告の居住権をおびやかすものとして、原告方を警察署に告訴し、あるいは、右建物の取拂を求める旨の調停を福島簡易裁判所に申し立てたりして、原告方と被告とは、とかく反目の間柄になつたが、原告方の新築家屋は、建坪僅かに六坪三合四勺なのに、店舗があるため、居間は四疊半一室だけであり、家族は、原告、兄弟一人、両親、祖母及び叔母の六人で、日中はとにかく、夜分はとても全員が休むことができないので、祖母と叔母は他家にいつて宿泊していることが認められる。右事実に、被告方は、被告夫婦と子女四人の六人家族であること及び被告方の部屋数は、六疊二室、三疊一室、二疊一室であることの当事者間に爭のない事実及び檢証の結果で認められる被告方の間どりや、原被告方との距離などを勘案して、原告の解約申入は、北側の六疊一室(床、押入つき)とその北側に存する廊下の部分に限り正当の事由があるがその余の部分は、理由がないものと認める。もつとも、原告が、僅か六坪余の建物を新築するにあたり、その全部を居間にあてないで、一部を店舗としたことは、遺憾に思われるふしがないでもないが、この事実は、まだ右の認定を左右するには足りないものと認める。從つて本件賃貸借は、右六疊一室及び廊下の部分につき、原告が解約の申入をしてから六箇月を経過した昭和二十四年七月三十一日の満了とともに終了したのであるから、原告の本訴請求は、右認定の部分に限り正当であるが、その余の部分は、失当であるからこれを棄却する。
最後に、被告の反訴請求について考える。被告は、右宅地三十五坪三合三勺について賃借権があると主張し、右賃借権に基いて、原告の新築した建物中、右三十五坪三合三勺地上に存する部分の收去を求めるものであるが、被告が、賃借権を有するものでないことは、先に認定したとおりであるから、賃借権に基く右請求は、失当である。しかし被告が、一戸十五坪五合の建物を賃借した当然の効果として、その敷地約三十五坪三合三勺を利用することができることも、先に認定したとおりであるから、右利用権に基いて收去を求めるということになれば、おのずから別箇の問題である。原告は、被告の承諾を得て、右建物を新築したと主張するが、原告法定代理人土屋竹雄の供述中(第二回)右主張にそう部分は、被告本人尋問の結果と対比して信用できないから、原告は、右建物を建設所有することによつて、賃貸人の義務に違背すると同時に、被告の敷地利用権を不法に侵害するものといわなければならない。そして、建物の賃借人は、その敷地の利用を妨害する者があるときは、それが第三者であると、敷地の所有者であるとを問わず、敷地の利用権自体に基いて妨害の排除を求めることができるものと考える。しかし権利の行使は、信義に從つて誠実にこれをしなければならないのであり、その濫用は許されないのである。被告が、原告の家屋明渡の請求に應じなかつたのは、当然であろうが、さらに互讓の色なく、その一室の明渡をも拒んだのであり、原告が、窮余、本件宅地の空地に新築を企図したとき、被告とほゞ同じ立場にあると思われる生田は、よく原告の窮状を察して、快くこれを應諾したが、先に認定したとおり、被告は、たゞみずからの権利のみを主張して、これにも異議をとなえ、告訴などをしたのである。むろん、原告が新築した結果、從來、被告方東側の板塀の外側が、便所汲取の通路になつていたのに、こんどは、被告方の門から出入するほかなくなつたこと、被告方の通風、採光が妨げられることなど、多少の不都合や不便はあろうが、多数の国民が、互に讓りあい、助けあつて、不自由な住宅事情を忍んでいる事実、原告が、本件家屋を收去するときは、直ちに住居に窮するのだが、たやすく、住宅を買つたり、建てたりするもできないなら、ひいて生田や被告との間に新に明渡問題を生ずるかもはかり難い事実等に思いをいたすとき、被告は、これくらいの不都合や不便は、当然忍ばなければならないものでなかろうか、と考えるから、原告の新築行爲が、被告の敷地利用権を侵害するものであるにかゝわらず、被告が、その收去を求めるのは、たとい、敷地利用権に基くものであつても、それは、権利の濫用と認められるから、是認されないであろう。
よつて、民事訴訟法第九十二條、第百九十六條を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三)