福島地方裁判所 昭和24年(行)78号 判決
原告 金田貞蔵
被告 福島県農地委員会
一、主 文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が別紙物件目録記載農地の売渡計画につき、昭和二十三年十二月二十八日附裁決書をもつて、原告の訴願を棄却した裁決はこれを取り消す。被告は尾岐村農地委員会が、昭和二十三年八月十六日別紙物件目録記載の農地につき、売渡の相手方を訴外金田キチと定めて立てた売渡計画を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。旨の判決を求め、その請求原因として、
(一) 訴外尾岐村農地委員会(以下村農委と略称する)は、昭和二十三年八月十六日別紙物件目録記載の農地(以下本件農地という。)につき、売渡の相手方を訴外金田キチと定めた売渡計画を立てたので、原告は同月二十一日これに対し異議を申し立てたところ、村農委は同月三十一日棄却したので、同年九月三日訴願を提起したが、被告は同年十二月二十八日訴願棄却の裁決をし、裁決書は昭和二十四年二月十二日原告に送達されたが、同年三月十日さきに、この事件の調査に当つた県農地課遠藤主事が、大沼那高田町役場へ出張して来た機会に、右裁決書記載内容の事実が、甚だしく事実に相違していることを指摘したところ「それなら至急再審議願を提出して呉れ」と云われたので、その言に従い同月十五日被告に対し再審議願を提出した。被告はこれを受理し審査したうえ、要求に応じかねるとて、昭和二十四年六月二十二日村農委の手を経て右願書を返戻して来たので、原告は同日いよいよ被告は、裁決書記載の理由により、確定的に訴願を棄却したことを知つた。
(二) しかし、右売渡計画には、次のような違法がある。
本件農地は、原告が所有者鈴木久三から、大正二年春期間の定めなく賃借小作し、昭和二十一年四月下旬まで耕作して来た。
ところが昭和二十年十二月初旬ころ、鈴木久三はこれを自作したいから返地してくれ、その代り自分の所有地で金田喜造に賃貸している、別紙第二物件目録記載の農地の返還を受けて、これを原告に賃貸すると申し出たので、原告は、止むなくこれを承諾したが、調査の結果、右替地の賃借名義人は金田喜造であるが、星善吉、金田兼次が転借耕作しており、両人共零細農でこれを取り上げられては生活ができなくなるとて、返還を承諾しないことが判り、従つて原告がこれを耕作することはできないので、久三との前記解約を破棄する旨同人に通告し、昭和二十一年四月下旬本件農地に田植をするばかりに耕耘、施肥その他一切の手入れをしたが、久三及び同人の親戚浅沼三吉等から脅迫的に応諾を強要され、不本意ながらその代替地を原告に賃貸するとの約を信じて、同年四月二十七日これを久三に返還することにした。
久三は、かようにして原告から本件農地を取り上げたが、その後一向代替地を貸してくれる様子がないので、原告は昭和二十一年四月高田警察署に久三を告訴した。ところが、同年五月下旬同署の三本松部長から、この問題は福田日吉外二名の斡旋取計いに任せてくれと頼まれたので、止むなくこれに応ずることとした。これよりさき、久三は原告から、自作すると称して無理強いに本件農地を取り上げて置きながら、自作せずこれを親戚である浅沼三吉に貸し渡し、浅沼は更にこれを金田キチに耕作させることにし、浅沼はその代りキチの所有地である、別紙第三物件目録記載の農地を耕作することにしていた。福田等は関係者間を斡旋し、浅沼三吉が鈴木肇に賃貸中であつた、別紙第四物件目録記載の農地を同人から取り上げ「原告に適当の代替地を見出して賃貸するに至るまでの間、これを暫定代替地として原告に耕作させる」ことに話を決めてくれたので、一応これを承諾したところ、肇はこれを返地したので、原告は昭和二十、二十一年の両年間暫定的にこれを耕作した。
しかるに、原告が右暫定代地として耕作して来た農地は、自作農創設特別措置法(以下措置法と略称)の規定により買収され、ついで、従前の小作者であつた鈴木肇に売り渡され、また本件農地は、久三において財産税として物納したので、村農委は当時耕作していた金田キチを、売渡の相手方とする本件売渡計画を定めた。
かくて、原告は暫定代替地を失い、従来賃借していた本件農地は取り上げられ放しという結果になり、未だ約旨の代替地を賃貸されずにいるものである。
(三) 以上が紛争経過である。ところで、本件農地は鈴木久三が財産税法第五十六条の規定に従い、昭和二十二年九月二十五日物納したため、政府の所有となつたもので、これが売渡計画を定めた時期である、昭和二十三年八月十六日当時には金田キチが耕作しており、昭和二十年十一月二十三日当時にあつては原告が耕作しており、且つ同日以後である昭和二十一年四月下旬にこれをやめたものであるから、その売渡の相手方は、措置法施行令第十七条第一項第三号括孤内の規定に則つて定めるべきものである、然るに村農委は、同条第一項第一号を適用して、その相手方を金田キチとする売渡計画を定めたものであるから、右売渡計画はそれ自体不法である。仮りに同条第一項第一号を適用したことが正しいとしても、同括孤内の規定により、昭和二十年十一月二十三日現在、該農地につき耕作の業務を営んでいた、小作農である原告を売渡の相手方と定めるべきものであるから、村農委が売渡の相手方を金田キチと定めて立てた、売渡計画は不法不当であり、従つて、右売渡計画を容認して、原告の訴願を排斥した被告の裁決も不法であるから、右売渡計画及び裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、
被告の本案前の抗弁に対し、原告は、前記のとおり、昭和二十四年六月二十二日被告から再審議願を返戻されて、初めて訴願が確定的に棄却されたことを知つたものであるから、本訴の出訴期間は同日から起算されるべきものである。訴願の裁決書が原告に送付されたのは、昭和二十四年二月十二日であるから、この日から起算するときは、本訴は、措置法第四十七条の二第一項所定の期間を経過した後に提起されたことになるが、法規を知らない原告が、県係員の言を信じて再審議願を提出し、その結果に期待して、直ちに訴を提起しなかつたことはむしろ当然である。また農地調整法第十五条の二十八第一項の規定の趣旨からすれば、被告は、右再審議願が理由あると認めるときは、裁決の要旨を変更することもできるのであるから、原告は、再審議願の返戻された前記日時に、被告が最終的に訴願を棄却する処分をしたものであることを知つたとみるのが正しい。更に前掲第四十七条の二第一項所定の出訴期間が不変期間でないことは、行政事件訴訟特例法(以下特例法という)第五条第一項、第二項、第三項但書の規定の趣旨に照らし、明らかなところであるから、正当の理由による多少の出訴期間の経過は、許されるべきものである。これを要するに、再審議願が返戻された前記日時から一箇月以内である昭和二十四年七月十二日に提起された本訴は、出訴期間内に提起された適法な訴であるから、これを却下すべきいわれはないと述べた。
先ず被告は、本案前の抗弁として、原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由として、原告に訴願棄却の裁決書が送達されたのは、昭和二十四年二月十二日であるのに、本件は、同年七月十二日に提起されたものであるから、出訴期間経過後に提起された不適法な訴である。なお、原告主張の再審議願を被告に差出したことは、出訴期間に何等の影響を与えるものではないと述べ。本案に対する答弁として、原告の請求棄却の判決を求め、原告主張の請求原因に対し、第一項中再審議願を出してくれと云われた事実は不知、被告県農地委員会が、原告の再審議願を拒否したことによつて、確定的に訴願棄却の裁決があつたことを知つたとの主張は否認する、その余の事実は大体においてこれを認める、第二項の事実中本件農地を鈴木久三から原告に賃貸中であつたことは認めるが、原告は、合意解約の上返地したものであるから、原告主張のような不法なことはない、第三項前段の事実中本件農地が財産税のために物納となつたことは認めるが、その余の事実は否認する、同項後段の見解には反対すると述べた。(証拠省略)
三、理 由
本件訴願棄却の裁決書が、昭和二十四年二月十二日原告に送達されたこと及び原告は同年三月十五日被告に対し再審議願を差し出したが、同年六月二十二日拒否の通知書が、原告に送達されたことは当事者間に争がなく、本訴が、昭和二十四年七月十二日提起されたことは、訴訟記録に徴し明らかである。よつて本訴の適否を按ずるに、措置法(昭和二十二年法律第二百四十一号)第四十七条の二が特例法第五条第五項にいわゆる他の法律に特別の定めのある場合に該当することは、特例法附則第三項の規定によつて明らかである。そして前記第四十七条の二と第五条の各律言を対照して考えると、第四十七条の二第一項本文は特例法第五条第一項に、第四十七条の二第一項但書は特例法第五条第三項本文に、それぞれ照応する規定であることは、容易にこれを看取することができる。ところで、第四十七条の二第一項本文については、第五条第二項に照応する規定はないが、右本文所定の一箇月が不変期間であることは疑ない。また第四十七条の二第一項但書については、第五条第三項但書に照応する規定がない。あるいは、右第一項但書は、特別の必要から、特に短かい出訴期間を定めたのであるから、何等明文のない以上、濫りに右第三項但書の類推適用があるものとして、出訴期間を伸長する結果を招来するような解釈は許されないと考えられないでもないが、特例法第三項但書の規定によつて与えられる救済を、措置法による抗告訴訟の場合に奪わなければならない程の合理的な根拠を発見することができないから、第五条第三項但書の規定は、第四十七条の二第一項の但書の場合にも類推適用されると解するが相当である。さて、原告は、昭和二十四年二月十二日訴願棄却の裁決を一応知つたが、同年三月十五日被告に再審議願を提出し、同年六月二十二日右再審議願書が返戻されたのであるから、原告は、同日、被告が最終的に、確定的に、訴願を棄却したものであることを知つたものとみるのが正しいと主張するが、訴願の裁決の性質上、原告の右見解は不当である。原告は、同年二月十二日これを知つたものと認められるのであり、且つ原告が再審議願を提出したことは、民事訴訟法第百五十九条所定のその責に帰すべからざる事由により、不変期間を遵守することができなかつた場合に該当するものと認めることはできないから、原告は同日から一箇月以内にその取消を求める訴を提起しなければならなかつたのに、本訴は、右期間を経過した同年七月十二日に提起されたのであるから、不適法な訴たるを免れない。
また、原告は、第四十七条の二第一項本文所定の期間は、不変期間ではないから、正当の事由による多少の出訴期間の経過は許されるべきであると主張するが、当裁判所が、右期間を不変期間と解することは、先きに説述したとおりである。そして特例法第五条第三項但書の規定は、処分の日から出訴期間が計算される場合にのみその適用があるのであつて、同条第一項の処分のあつたことを知つた日から出訴期間が計算される場合には適用されないのであり、本訴は、その後者の場合に該当するのであるから、原告が再審議願を提出したことが、出訴期間を遵守することができなかつたことの正当の事由となるかどうかは、これを判断する必要がない。よつて本訴は不適法として却下すべきものであり、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 黒江清 唐松寛)
(目録省略)