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福島地方裁判所 昭和26年(行)9号 判決

原告 橋本富芳

被告 丸守村議会

一、主  文

被告が昭和二十六年七月三十一日した原告を除名する旨の議決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は被告議会の議員で且つ議長であつたが、被告議会は昭和二十六年七月三十一日の臨時村議会において、被告議会々議規則第五十七条第四項を適用して原告を被告議会から除名する旨の議決をし、右議決は即日原告に通知された。その理由は、

一、原告は昭和二十六年七月二十六日の臨時会において、六番議員並びに十番議員から速かに開会することを要求したところ、被告議会は七月十八日の臨時会において議長不信任を決議した方法に手落があるとかを云云して開会せず、速かな開会が多数の意であることを伝えてもなお応ぜず、よつて地方自治法第百六条第一項の規定により副議長福島昇が開会を宣したところ、原告は議長には何等事故がないといつて議会の開会を妨害し議員の議案審議権を完全に無視する態度にでた。かゝる行為は被告議会々議規則第六条に違反する。

二、同年七月十八日の臨時会で、被告議会々議規則第五十六条第一項第一号の不信任の戒告を与えておいたのにもかゝわらず、少しも反省の色がなく戒告を無視して村議会の運営を敢て妨害したことは地方自治法第百三十一条に違反する。

というのである。

しかしながら右議決には以下のべるような違法がある。

一、原告が七月二十六日の村議会において開会しなかつたのは、七月十八日の臨時会で原告不信任の決議があつたとかいうことをきき、右決議は法律上効果のないものではあるが、かゝる決議があれば議長の職務を行うことはさける方がよいと考え、不信任決議の有無を明確にした上去就を決しようとしたためで、その際原告の質問に対し明確な答を与える者がないまゝに時間を経過し流会に至つたもので、原告が開会を妨害した事実はない。しかも開会の要求がある場合でも議長は必ずしも議員指定の日に開くことを要しないから、その結果議案の審議ができなかつたとしても何等審議権の妨害とはならないばかりか、地方自治法(以下自治法と略称する。)及び被告議会々議規則(以下規則と略称する。)にも審議権を妨害してはならない旨の規定はないから審議権の妨害を理由に懲罰を科することはできない。

二、被告議会が七月十八日の臨時会で原告に対してした不信任の戒告は自治法にも規定がないものであるから原告がこれを無視したとしても自治法第百三十一条の規定に違反したことにはならない。しかも何等具体的事実を指摘せず漫然反省の色がないというだけでは懲罰理由として甚だ薄弱である。

三、被告議会が原告に対し本件除名の議決をした際には議長副議長共に事故があつたので、国分長太が年長議員のため仮議長として議長の職務を行つたが自治法第百七条の規定によればこのような場合に年長議員を直ちに仮議長とするのではなく、年長議員が臨時に議長の職務を代行して仮議長を選任するか又はその年長職務代行者に委任して仮議長を決定する趣旨と解すべきである。従つて被告議会が右法定の手続を経ないで国分がそのまゝ仮議長として職務を行つたことは違法であり、違法な仮議長の下でなされた議決も違法である。

四、原告除名の件の議案は仮議長国分の名で提出されているが、議長は自治法第百三十七条に規定する場合を除いて議案を提出する権限はないから、被告議会が右議案に基ずいてした、原告の除名決議は違法である。なお原告除名に際し適用した、規則第五十七条第四項という規定は存在しない。

五、被告議会が、七月三十一日の村議会において、以前の会期における原告の行為を取り上げて原告に懲罰を科したことは自治法第百十九条の規定する会期不継続の原則に違反する。

よつて被告議会がした原告除名の議決の取消を求めるため本訴に及んだとのべ、被告の主張に対し、昭和二十六年七月十八日の村議会において被告主張の理由で原告に対し不信任決議があつたこと、同年七月三十一日の村議会で原告が副議長福島昇に退場を命じたことは認めるが、右退場は正当の事由に基ずき命じたものである。同年七月二十六日の村議会において副議長福島の職務執行を妨害したことはないとのべた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告が被告議会の議員且つ議長であつたこと、被告議会が原告主張の村議会で原告除名の議決をし、その理由には原告主張の事実も含まれていること、右議決が即日原告に通知されたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は昭和二十六年六月三十日の村議会において、橋本庄次郎が村助役又は固定資産評価委員に起用されなかつたことを不満とし、故意に議案の審議を打ち切り、閉会を宣して重要議案の審議を妨害した。そこで被告議会は同年七月十八日の臨時会において、出席議員全員の賛成を以て原告の不信を決議したのであり、原告は右決議のあつたことを知つていたから、民主々義国家の議会における慣行として議長を辞任すべきであつた。ところが原告は同年七月二十六日の臨時会において、右不信任決議に藉口して故意に開会を宣せず、議員十一名の開会の請求にも応じないので、副議長福島が原告に代つて開会しようとした。すると原告は議長に事故はないといつてこれを阻止して同人の職務執行を妨害し、終に右村議会を流会に至らせた。これは自治法第百十四条第百六条の各規定に違反し、且つ第百四条に規定する議長の権限を濫用して村議会の審議権を無視したものである。ついで七月三十一日の臨時会において、当日の議案は原告の懲罰の件だけで、原告は自治法第百十七条の規定により議事に参与できないので、副議長福島が原告に代つて議長席についたところ、原告は正当の事由もなく同人に退場を命じてその職務執行を妨害したばかりか、自ら議事を進行して会議録署名議員の選任を行つた。これは自治法第百十七条、第百六条第一項の各規定に違反し、第百四条に規定する議長の権限を濫用したものである。以上の原告の行為は原告が議長としては勿論議員としても不適当であることを認めさせるに十分であるから、被告議会が以上の行為に対し規則第五十七条第四号を適用して原告の除名を議決したのは正当である。次に七月三十一日の村議会においては、議長副議長共に事故があり仮議長を選挙する必要が生じたので、そのためにまず年長議員である国分が臨時に議長の職務を行つたところ、古河議員から緊急動議として仮議長の選挙につき自治法第百十八条第二項の規定する指名推選の方法によることが提案され全員異議がなかつたので、同条第三項の規定により国分が仮議長として当選し議長の職を行つたもので、この間に原告主張のような違法はなく、原告除名の件は、古河外四名の議員により提案され佐藤長正外七名の議員の賛成を得て適法に村議会に提出されたものである。また、本件除名理由中には、前記のように、除名当日における原告の行為も含まれているから、会期不継続の原則に違反するという問題は生じないが、仮に含まれていないとしても七月二十六日の村議会は開会をみないで流会に終つた以上、会期は存在しない訳である。従つて七月三十一日の会期に対して前の会期とは七月十八日及びそれ以前の村議会を指すから七月二十六日における原告の行為は前の会期中における行為とはいえない。

仮に右主張が理由ないとしても、自治法第百十九条は、会期中の審議未了となつた議案はその会期の終了と共に消滅し、次の会期において新に議案として提出しない限り審議できない趣旨を規定したに止まり、当該会期において以前の会期中の議員の行為に対し懲罰を科することを禁じたものではないと解すべきである。何故ならば議会が議員に対し懲罰権を行使するのはその固有の自治権に基ずき紀律を確保しその権威を保持する為であり、これを時期的に制限すべき根拠が薄弱であるばかりでなく、村議会の会期は一、二日が普通であり、被告議会においても予算等の場合は三日以内、臨時会は一日を実際の例としているから、右のように解しないときは懲罰事犯の処理は殆ど不可能となる。殊に議長に懲罰を科する場合、議長が閉会を宣してしまえば会期は終了するから議長は如何なる場合にも懲罰を免れることになり、その不合理なことは明らかである。元来会期不継続の原則とは議会は会期毎に新しい意思を持つという観念から生じたものであるが、総選挙等により議員に変動を生じない限りは議会の意思は同一と解すべきである。被告議会は昭和二十五年九月三十日の改選から本件除名処分に至るまで議員に変動はなく、その意思は本件除名の議決の前後を通じて同一であるから、七月三十一日の臨時会において前の会期中における原告の非行を懲罰事犯として取り上げたことは会期不継続の原則に違反しない。以上の理由により、被告議会がした原告除名の議決手続にも何等かしはない。よつて原告の本訴請求は失当であるとのべた。(立証省略)

三、理  由

原告が被告議会の議員且つ議長であつたところ、被告議会が昭和二十六年七月三十一日の臨時会において、原告を除名する旨の議決をしたこと、その除名理由中には原告主張の事実も含まれていること、右議決が即日原告に通知されたことは当事者間に争いがない。被告は原告が七月三十一日の臨時会において副議長福島に正当の事由もなく退場を命じたことも原告除名理由の一つであると主張するが、甲第一号証の三、四、乙第四号証の一、二によれば、原告の右行為が除名理由に含まれていないことは明らかである。証人福島昇、国分長太、佐藤長正、吉田安寅の各証言及び被告代表者本人尋問の結果のうち右主張に副う部分はいずれも信用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると被告議会は昭和二十六年七月三十一日の臨時会で以前の会期中における原告の行為に対し懲罰を科したことになるから、これが許されるかどうかにつき考えるに、議会が懲罰権を行使するについては時期的な制限がなく、前の会期中の議員の非行に対しては後の議会において何時でも懲罰を科し得るとすれば、非行を犯した議員は絶えず不安な状態におかれる上に懲罰が政争の具に供される結果ともなる。法律が犯罪に対してさえ一定期間経過後の処罰を禁じている趣旨からいつても右のように解することは妥当ではない。

元来自治法第百三十四条の規定により議会に懲罰権を与えた目的は、議場内の秩序を保持し議事の円滑な進行をはかるにあると解されるから、議会が懲罰を科し得るのも当該会期中における議員の非行に限られ、次の会期において前の会期中における議員の非行に対して懲罰を科することは許されないと解するのを相当とする。国会法第百二十一条第三項が懲罰の動議は事犯があつた日から三日以内に提出すべき旨を規定しているのも右見解を裏づけるに足る。自治法には右のような規定はないが、これは地方議会の会期が国会のそれに比し、極めて短時日であることに基ずくものと考えられ、懲罰事犯を長く不確定の状態におかず当該会期中に処理するとの精神は彼此同一であると解し得る。唯会期の終りに至つて懲罰事犯が発生したような場合は当該会期中にこれを処理することが困難であるが、会期を延長することができるのであるから、懲罰事犯を不問に附する外ないという不都合は生じない。(もつとも、延長された会期の終りに至つて、懲罰事犯が発生したので、最早会期を延長することのできない場合、これを次の会期で処理することができないとすると、右懲罰事犯を不問に附するの外ない不都合を生ずる。)本件において七月二十六日の村議会は原告が開会を宣しなかつたために流会となつたので、かりにこの間に原告に非行があつたとしてもこれを懲罰事犯として議することができなかつたのであるから、次の議会で原告に懲罰を科することができるかとも考えられる。然し自治法第百十四条百六条の各規定によれば、議員の請求があつても議長が開会を宣しない時は副議長において開会し得るのである。従つてたとい原告一人が開会を阻止したところで議員等が協力すれば開会できた筈であり、開会すれば、原告の右開会阻止にして懲罰に値する以上、原告に対して懲罰を科することができるものと解するから、七月二十六日における原告の行為に対し七月三十一日の村議会において懲罰を科する旨議決したことは違法を免れない。被告は、七月二十六日の村議会は流会に終つた以上会期が存在したとはいえないから、これを七月三十一日の議会の前の議会ということはできない旨主張するが、七月二十六日に会期が存在したといえるかどうかは別としても、当日における原告の行為が七月三十一日の議会における行為でないことは明らかであるから、それに対し七月三十一日の議会において懲罰を科するときは矢張り当該会期外の行為に対し懲罰を科したことになる。また原告は、議長が閉会を宣すれば会期は終了してしまうから、議長に対しては当該会期において懲罰を科し得ないと主張するが自治法第百十四条第二項の規定によると、議員中に異議があるときは議長は会議の議決によらない限り閉会できないのであるから右主張は当らない。以上の理由により被告議会がした原告を除名する旨の議決は違法であるから、右議決の取消を求める原告の請求は正当として認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 黒江清 福間佐昭)

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