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福島地方裁判所 昭和27年(行モ)3号 決定

申立人は、被申立人が昭和二十七年八月五日附及び同月九日附福島県指令河第五〇号を以て、別紙目録記載区域の水路につき被申立人が申立人に対し与えた河川占用許可を取り消す旨の処分並びに被申立人が昭和二十七年八月六日附福島県指令河第八四号を以て申立外東北電力株式会社に対して与えた河川占用を許可する旨の処分の各効力は申立人から被申立人に対して提起した、右行政処分取消請求訴訟事件の判決確定に至るまでこれを停止するとの裁判を求めた。効力停止を求める理由は次のとおりである。

申立人は電気事業再編成令により設立された電気事業会社で福島県内只見川水域のうち、別紙目録第一記載区域の水路について、福島県知事が昭和四年四月二十六日附福島県指令土第六、六三六号を以てした許可により、別紙目録第二(イ)記載区域の水路について、同知事が昭和四年四月二十六日附福島県指令第二、二七五号を以てした許可により、夫々発電を目的とする水利使用権を有していた。しかるに被申立人は河川法第二十条第三号及び第六号を適用して、昭和二十七年八月五日附福島県指令河第五〇号を以て、別紙目録第一記載区域の水路についてした右許可処分を取り消し、同日附同県指令同号を以て、昭和二十七年八月四日附建設大臣の認可により被申立人が許可するべき東北電力株式会社(以下東北電力と称する)の水利使用にてい触するという理由で別紙目録第二(ロ)記載水域の水路についての許可処分取り消し、次いで昭和二十七年八月六日附福島県指令河第八四号を以て右各取消処分の対象となつた区域に存する本名地点、上田地点につき、東北電力に対して水利使用の許可を与えた。

しかし、河川法第十七条、第十八条の規定に基いて地方行政庁の許可により河川に工作物を施設し、且つ維持する権利及び河川の敷地若しくは流水を占用する権利、即ち河川特別使用権は排他性、不可侵性を有する公法上の権利で、その許可の取消または、その取消を前提とした同一内容の許可処分は当然右権利の侵害をもたらす。ゆえに右行政処分には客観的限界があり、当該処分を必要とする公益上の特別理由の存在、即ち右行政処分により得られる公益が大きく、被侵害権利の被る損害のおゝうに足るものであることを要件とする。河川法第二十条の規定は地方行政庁に自由裁量権を認めたものでなく、右の範囲の法規裁量を予定した規定である。しかして、被申立人は河川法第二十条第三号及び第六号の規定を適用して、申立人に対して与えた別紙目録第一、第二(ロ)記載区域の水路につき河川占用許可を取り消し、東北電力に対して右取消の対象となつた許可と重複する許可を与えたのであるから、東北電力が右許可区域を占用することにより得られる公益が申立人の占用により得られる公益よりまさると認定したというべきであるが、かような事実は無いばかりか却つて申立人側、東北電力側双方の電力需給状態、右水利使用に対する依存度、電源開発についての適格等諸般の事情を考量すると申立人側に存する公益性は東北電力側に存する公益性にまさる。従つて、被申立人のなした前記取消処分並に許可処分は事実誤認に基いて前記裁量の限界を逸脱した違法の処分であり、これにより申立人は前記水利使用権をき損されたので、昭和二十七年八月十六日福島地方裁判所に対して右違法の各行政処分の取消訴訟を提起した。

ところで、東北電力は被申立人より同電力に対する許可を得る以前より前記上田地点、本名地点でえん堤工事の準備に着手し、進んで電源開発工事に着工しようとしているので、時日を徒過すれば、申立人は次のような事情で償うことのできない損害を被り、これを避けるため緊急の必要がある。

(一)  固定的、永久的施設であるえん堤、水路等発電用工作物の建設は莫大な経費と多くの日数を要するので、既設工事の撤去を求めるには事業主の損失が大に過ぎ、仮に工事を撤去させても、その後の建設につき莫大な経済的、時間的浪費並びに技術的困難を伴い、そのため電気供給が遅延することととなる。また右工作物が完成された場合、その撤去は勿論、別途の計画による改修は不可能な状態に置かれるので申立人が仮に勝訴の判決を得ても東北電力の既設工事を是認する外ない。

(二)  申立人は昭和二十六年末十七億円を投じて日本発送電株式会社が着工した群馬県金井、西東京間、送電量十七万五千ボルトに達する送電線を完成し、次いで昭和二十四年二月十八日通商産業大臣より日本発送電総裁宛「信濃川、東京線」送電設備に関する建設命令に基き、更に湯宿(三国峠)までの送電線を工事三億円を以て建設中で同工事は昭和二十七年十月ごろ完成する予定である。右の送電線は、いずれも別紙目録記載の各水路を含む只見川電源地帯よりの送電を前提としたもので東北電力の工事進展、完成により申立人の電源開発は遅延し、右送電線を遊休状態に置くこととなる。

(三)  違法行政処分の取消訴訟において、形成された事実状態が処分取消の適否に関する判断に影響を及ぼす場合があることは否定できないところで、電気事業の性質上(一)に述べたように工事進行の程度如何で東北電力に対して、施設した工作物の撤去を求め得なくなり、この事情は申立人の提起した申立趣旨記載の行政処分取消訴訟においてその処分の適否の判断に影響し、申立人に当然回復されるべき水利使用権は喪失せしめられる可能性がある。

(四)  なお電源開発促進法は只見川を含む大規模電源地帯の開発は原則として電源開発会社がこれを行い右会社以外の事業者の右地帯の開発は主務官庁に対する具体的計画の提出、電源開発調整審議会の計画確認を経ることを要する旨規定する。右審議会は未発足であるが、東北電力の前記着工は将来発足するべき審議会の申立人に対する電源開発の許容に障害を与える。

以上の次第であるから右各行政処分の執行停止を求めるというのである。

しかるところ、内閣総理大臣は昭和二十七年八月二十九日当裁判所に対して「被申立人のなした行政処分の執行が停止されゝば、只見川筋、本名、上田両地点の早期開発は期待し得ないこととなり、従つて東北電力に対し水利使用を許可した意味が大半失われ、電源の早期開発を行い電力不足を緩和して産業の振興をはかろうとする現下の要請に応ずることができないことにもなつて、公益上重大な支障を招来する。」という理由を示して右行政処分の執行は停止すべきでない旨異議を述べた。

行政事件訴訟特例法第十条第二項但書、同法第三項の規定によれば、行政処分の執行停止の申立に対して、内閣総理大臣がその理由を明示して異議を述べたときは、裁判所は、処分の執行を停止すべきことを命ずることができないことは明らかである。そして、このような場合には、執行停止の申立は、これを却下する旨の裁判をなすべきものと考える。

ところで、本件異議は、前段に記載したとおり、その理由を明示して述べたものであるから、当裁判所は、本件について、もはや執行停止を命ずる裁判をすることはできなくなつたわけである。よつて、申立人の本件申立を却下すべきものとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 間中彦次)

(別紙目録省略)

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