福島地方裁判所 昭和28年(行)3号 判決
原告 工藤政助
被告 福島地方法務局長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告は福島地方法務局大宮出張所登記官吏が昭和二十七年九月六日に抹消した福島県南会津郡館岩村大字湯の花字田代山辛六百二番の一山林五十七町三反八畝二十七歩に生立する別紙目録記載の立木の保存登記につき、同官吏に対し、抹消回復登記をすべき旨を命ずる義務のあることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、次のように述べた。
原告は、昭和二十六年六月五日請求の趣旨記載の立木につき、福島地方法務局大宮出張所受附第四五九号を以て、これが保存登記を経由したが、その後、被告は、訴外王子製紙株式会社の異議を容れ同出張所登記官吏に対し、右保存登記を抹消すべき旨を命令した。原告は、この処分を不服として昭和二十六年九月二十六日その取消訴訟を福島地方裁判所へ提起し、昭和二十六年十二月二十八日原告勝訴の判決を受け、この判決は確定した。ところが、すでに、大宮出張所登記官吏は被告の前記命令に基づき右保存登記を抹消していたので、原告は、昭和二十七年六月十八日被告に対し、不動産登記法第百五十条所定の異議を申し立てて、右抹消登記の回復を計つた。かような場合、被告としては、同法第百五十四条所定の「相当の処分」として、登記官吏に対して右抹消登記の回復を命ずべき義務があるにもかかわらず、被告は、その存在を争い、かつ、右異議に対する決定もしないので、原告は、被告に対し、右義務の存在確認を求めるため、本訴に及んだ次第である。
被告は、本案前の抗弁として、行政庁に対して行政処分をすべき義務あることの確認を求める本訴は、憲法が採用している三権分立の建前を破るものであるから、不適法として却下さるべきである、と述べ、本案につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、原告の主張事実はすべてこれを争わないが、登記官吏の登記実行処分に対し異議の申立をし得る場合は、その登記が不動産登記法第四十九条第一号又は第二号に当る場合に限られるものと解すべきであるから、被告は原告の異議申立を認容して、その主張のような命令を登記官吏に対してするべき義務を負うものではないと述べた。
三、理 由
まず、本訴の適否について考えるに、憲法第七十六条、裁判所法第三条、行政事件訴訟特例法第一条の各規定によれば、公法上の権利又は法律関係を裁判事項としていることは明らかであるから、これが存否について私人が確認の訴を提起することは、憲法の採用している三権分立の原則にもとるものではないというべきであり従つて被告の本案前の抗弁は、これを採用しがたい。
しかしながら、原告の主張は次に述べるようにそれ自体理由がないものというべきである。
すなわち、原告の主張は、「被告は、不動産登記法第百五十条の規定による王子製紙株式会社の異議を容れ、登記官吏に対して本件保存登記の抹消を命じ、登記官吏はこの命令に基づいて右保存登記を抹消した。そこで原告は登記官吏の右処分を不当として被告に異議を申し立てたが、これよりさき、原告は被告が王子製紙株式会社の異議を容れて登記官吏に抹消登記を命じた前記処分につき、これが取消訴訟を提起し、原告勝訴の判決を受けており、従つて被告は、不動産登記法第百五十四条の規定により、原告の異議を容れ、登記官吏に対し右抹消登記を回復すべき義務がある。」というのであるが、不動産登記法第百五十条所定の異議の対象となり得る登記官吏の処分のうちには、登記官吏が同法第百五十四条の規定による法務局又は地方法務局の長の命令に基づいてした処分を含まないものと解すべきである。けだし、かかる処分について新たなる異議による是正を許すとすれば、その前提となつている異議認容の決定を抗告訴訟によつてのみ是正せしめんとした法の趣旨は、全く失われてしまうからである。
かように解することは、右のような登記官吏の処分を是正する途がないことを意味するわけではない。むしろ、かかる処分はその前提となつている異議認容の決定(ないし、これと一体関係にある法務局又は地方法務局の長の登記官吏に対する命令、以下同じ。)が、抗告訴訟をとおして取り消されることにより、法理上当然に是正さるべきことが予定されているのである。すなわち確定判決の拘束力(行政事件訴訟特例法第十二条)の結果、関係行政庁は、以後これに示めされた裁判所の判断を基礎とし、かつこれにそつた措置を講じなければならないのであり、それは正に法的にき束された関係に外ならないからである。もつともかかる場合、関係行政庁(法務局又は地方法務局の長、登記官吏等)が、具体的にいかなる方法によつて、右のような登記官吏の処分を是正すべきかについては、これを規整すべき明文を欠いている。けれども異議認容の決定が、抗告訴訟をとおして取り消された結果、既述のように関係行政庁をき束する関係は、権利者の救済という点から考えると、あたかも不動産登記法所定の異議手続において、異議認容の決定をした結果、現実に登記官吏の不当な処分を是正する場合と同視されるから、確定判決後前記のような登記官吏の処分を是正するについては、不動産登記法第百五十四条後段、第百五十七条の規定を類推し、これに従つた措置を講ずることにより、事件の終局的解決を計るべきである。
これを要するに、登記官吏が不動産登記法第百五十四条所定の法務局又は地方法務局の長の命令に基づいてした処分については、右に述べた過程をとおしてのみ是正さるべきであり、原告主張のように異議手続をとおして是正さるべきものではないから、その限りにおいて、被告は原告主張の異議を認容して本件抹消登記の回復を登記官吏に命ずべき義務を負ういわれはないものといわなければならない。
そうすると、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 篠原弘志)
(別紙目録省略)