福島地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決
原告 麻原好重
被告 草野村長
一、主 文
被告が昭和二八年五月八日になした福島県石城郡草野村固定資産評価員たる原告に対する懲戒による免職処分はこれを取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二八年五月八日なした福島県石城郡草野村固定資産評価員たる原告に対する懲戒による免職処分はこれを取消す。被告は原告が同村の一般職の職員たる身分を有することを確認せよ。被告は原告が同村固定資産評価員並びに同村の一般職の職員として執務することを妨害してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決及び前記請求の趣旨第三項に限り仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は昭和二三年一一月一七日草野村に雇員として採用され、昭和二四年一二月一二日書記補、昭和二五年四月一日書記に昇格し、同村に雇員として勤務以来、税務、土木関係等の事務を担当し、昭和二六年一月一日地方税法第四〇四条にもとずき同村議会の同意を得て、同村長により特別職である同村固定資産評価員(以下単に評価員という)に選任され、常勤者として勤務し、一面一般職である同村職員として従前どおり税務、土木、登記等の職務を兼職し、月額金一三、〇〇〇円の給与及び家族手当月額金一、二〇〇円(二人分)の支給を受けていたものである。
二、ところが昭和二八年五月二〇日同村長選挙が実施されることゝなり、当時同村長であつた被告は、予てかう同村長立候補を表明し、再選を期していたところ、原告の実兄麻原作衛の立候補を警戒し、原告に対し「兄を立候補させるな。同人に対しては自分が再選のうえは次期村長の育成の意味で助役の椅子を考えている。」と語り、極力その立候補の断念を希望していた。
一方右作衛はその家族らの反対意見もあつたため、右選挙に立候補の模様がなかつたが、原告が知らない間に四囲の状況やむを得なかつたのか、同月六日同村長立候補のため、公職選挙法の規定にもとずき、就任していた草野村教育委員長の公職につき辞表を提出した。その後右選挙には、四名立候補したが、選挙の結果被告は村長として再選され、右作衛は次点者として落選した。
三、右作衛が教育委員辞任の翌々日である同月八日午前八時四〇分頃、同村役場で執務中の原告は被告から村長室に呼ばれて入室したところ、被告は突然「本日限り解雇するから速に退庁せられたい。今日まで面倒みてきたが飼犬に足を食われたも同様である。敵の弟を使うわけにはゆかぬ。おれは使わないから別の村長に使つてもらえ。不服があるなら公平委員会に訴願したらよかろう。」と即時罷免の意思を表示し、原告の執務を拒否し、即刻同役場からの退去を命じたので原告はやむなく退出した。
四、よつて原告は公平委員会に提訴すべく、同月一〇日頃被告に免職理由書の交付を求めたところ、被告は評価員である原告を懲戒処分として免職したものであつて、その理由として
A、昭和二七年中小川江筋土地改良区設定に対し、本人の承諾なしに勝手に他人の印を押したこと。
B、村長は昭和二五年度までの村税滞納者に対し、滞納処分するよう命令したのに勝手に昭和二六年度村税滞納者の一部の者に対し滞納処分をなしたこと(但し財産差押をしたが後日取消した。)
以上二個の理由を挙示した。
五、原告は右不利益処分に対し、地方公務員法第四九条にもとずき、同月一二日所轄湯本町ほか二八ケ町村公平委員会に提訴し、その処分の取消の審査を請求したところ、同委員会は審査の結果、原告が一般職たる村職員として有する身分については格別として兼職している評価員である身分については同法第三条所定の特別職であるから、同法第四条に従い、右提訴に疑義があるが、被告のなした処分は正当の理由なく違法または不当であるから速に免職処分を取消し、執務せしめるよう同年六月四日同委員長渡辺勝治、同委員猪狩仁三、小松委員の三名から口頭で被告に指示勧告し、更に同月一〇日渡辺委員長から口頭で指示勧告したが、被告は地方公務員法第六〇条の規定があるのにかゝわらず、右指示を無視して、これに応じない。
六、評価員たる原告に対する被告の免職処分が懲戒による場合はもちろん仮にそうでない普通の免職とするも右免職処分は次のように違法もしくは不当のものである。
(1) 評価員の罷免については、法令に明文なく、解釈に疑義があるが、憲法に保障する勤労者の権利、並びに選任につき村議会の同意を要件とする立法の趣旨に照らすときは、解職処分についても議会の同意を要すると解すべきところ、原告は何らかゝる方法をとつていない違法がある。
(2) 仮りに村議会の同意を必要とせず、地方公共団体の長が部下職員に対して有する任免権にもとずき解職することができるとしても、免職のような公務員にとり致命的に重大な処分については、特別職員といえども分限及び懲戒の規準については地方公務員法第二七条、第二八条、第二九条の適用または準用あるべきところ、被告の右処分はいずれもこれに該当する事由なく、殊に被告のいうとおり懲戒免職であるならば、同法及びこれにもとずく条例に定められた懲戒手続に従つて行わなければならないのに、何らかゝる処置がとられていないもので、被告の独断的行為にもとずく違法処分である。
(3) 次に被告が懲戒免職の事由とする前記第四項A、B記載の事実は後述のように実質上も何ら正当の理由がないのみならず、仮りにこれありとしても、これは地方税法所定の評価員としての職務に、何ら関係のない事実であつて、右事由により原告を評価員の職務に不適当として免職処分にする理由は少しもないのであり、これは全く不当の処分である。
七、前記免職原因として挙示された事実が正当のものでない理由は次のとおりである。
A、高岡博の承諾書に関する押印問題
これにつき被告は事件発生が昭和二七年中といつているが時期が相違している。その時期は昭和二六年三月一六日旧水利組合が土地改良区小川江筋組合に改組される際の事件である。従来草野村役場は法令にもとずくものでなしに便宜上同村税務課が旧水利組合の事務の面倒をみていたが、右改組について原高野部落は、原高野川問題で紛議を生じ、部落内に対立抗争があり、当時原告としては評価員を兼ね税務、土木、登記、交通その他の事務に忙殺されていたゝめ、右改組に同意の調印等は部下職員が集めていたところ、同月一四日頃税務職員たる部下の新妻洋が、組合員高岡博(大蔵事務官であるため不在村、母タカ在村)の同意書の名下に他人の印を押したことを、博の後見的地位にあつた郵便局長新妻恭孝に発見せられ、調印を集めるため歩行中の職員が、草野駅附近において関係書類を同人に取上げられた事件が発生し、原告は大に驚き交渉の結果、右押印は取消し、改めて同意の押印をしたことがあり、その際部下の監督不行届の点につき、原告は恭孝の求めにより右交渉の同月一六日取消書と題する書面に、高岡博、タカ宛「昭和二六年三月一五日小川江筋組合が解散され土地改良組合事務所に包がんされることに同意する同意書に高岡博、同タカの両名に承諾を得ずして捺印したことに対し、代人新妻恭孝からの異議申立により同意の捺印を取消致します」旨記載し交付したことがあつた。当時原告は右関係書類の返還を受けなければ急施の事務に支障を招くことを慮り円満処理のため、右の書面を交付し、これが返還を受けた次第であつたので、帰庁後直ちにこの旨を被告に報告したところ、同人は口頭で詫びるだけでよく、書面を書く必要はなかつたと思うと注意しただけで原告の報告を諒承し、当時解決済みの事件である。ところが二年有余を経過した今日に至りこれを懲戒免職の一理由とするが如きは違法の甚だしいものといわなければならない。殊に昭和二七年四月二八日平和条約の効力発生と共に同年法律第一一七号「公務員等の懲戒免職等に関する法律」により、同日より以前に発生した事実にもとずく公務員の懲戒は大赦され、これを行わないことになつたのにかゝわらず、かゝる旧事件を引用して懲戒処分の原因とするのは単に口実に過ぎず、違法の処分であることは明らかである。
B、昭和二六年度村税に対する滞納処分の点
草野村においては村税の徴集を確保するため、法令及び条例にもとずくものではないが、村長の相談的、補佐的機関として滞納処理委員会(村長、助役、収入役、評価員、税務職員全員、村議会議長、村議会総務員六名で構成)を設けてあるが、昭和二七年一〇月三〇日開催の右委員会で速に滞納処分に着手せよとの強い要求があり、取りあえず昭和二五年度分までの滞納処分をやり、引続き昭和二六年分を実施することに決定し、これら約三七件、総額約二〇〇、〇〇〇円の処分に着手することゝなり、原告は税務職員全員を以て翌昭和二八年一月一三、四日頃これを実施した。被告のいう原告の関係した昭和二六年度分を含む滞納処分の実施の状況の結果は左表のとおりである。
氏名
税目
年度
合計金額
納入額
解除分
望月久造
事業、村民税
二四、五、六年
一、二〇〇円
完納
富岡忠
固定資産、村民水利、家畜税
同右
約二、五〇〇円
完納
新妻忠次郎
同右
同右
約四、〇〇〇円
二四、五年分
二六年分
鈴木安次郎
同右
同右
約三、五〇〇円
同右
同右
鎌田正右衛門
同右
同右
約二、五〇〇円
同右
同右
大和田小重郎
同右及び不動産所得税
同右
約三、五〇〇円
完納
右昭和二六年度分の解除は被告の指示に従てなしたものである。右滞納処分については既に以前から全滞納者に対し、回覧板の回付、督促状の発送、税務職員等の戸別訪問による督促が度々行われ、昭和二六年度分村税についても既に昭和二七年四月一日督促状を発布済みで、何時でも滞納処分として差押えその他の処分をなし得る状況にあり、税務職員である原告らにおいてこれを実施するのはむしろ職務上の義務であり、人情としては何人もこのような処分を実施するのは回避したいのであるが、職責上やむなく実施し、その後被告の指示により一部解除したものである。従つて右滞納処分の実施を理由に原告を免職処分に付するというのは何ら正当の理由なく違法であることが明らかである。
八、要するに原告に対する懲戒免職の理由は正当のものでなく、被告はその表面上の事由として前記二個の事実を挙げているが、それも前述のとおり理由なく、その真意は専ら原告の実兄が村長選挙に立候補したゝめ、右選挙に再選を期していた被告の企図に反するに至りこれを不快とする一片の感情から違法の懲戒免職処分に出たものである。
九、ところが被告は公平委員会の口頭による指示勧告すら拒否勧告すら拒否しており、しかも原告の右提訴後相当期間を経過しておるのみならず、原告が同村職員として一般職の地方公務員である身分の点を除き、評価員という特別職の身分については同委員会の審査の対象となし得るや否やについて疑義存し、かつ原告は昭和二八年六月一日以降給与等は全然支給されず、ほかに収入なく扶養家族二名を擁し生活に窮しており、あまつさえ、同村の一般職及び特別職の職員として執務を禁止され、事務渋滞等のため著しい損害を生ずるおそれがある等の正当な事由があるので行政事件訴訟特例法第二条但書所定の要件を具備するものである。
一〇、被告の本件免職処分は原告が特別職である評価員として懲戒免職したものであるが、原告は右身分のほか一般職の職員として土木、税務その他の職務を担当している。地方税法第四〇四条第一項は「市町村長の指揮を受けて固定資産を適正に評価し、かつ市町村が行う価格の決定を補助するため市町村に固定資産評価員を設置する。」と規定し、評価員の任務を明らかにしてその職務権限を明定している。次に同法第四〇六条は評価員の兼職禁止等を規定しているが、一般職との兼職は右規定に徴しても当然許されているものと解される。地方税法第一条第一項第三号は徴税吏員について「市町村長もしくはその委任を受けた市町村吏員をいうと規定し、一般職である村吏員が徴税に当る旨を定め、市町村税全般についてこれが徴収(滞納処分を含む)に関し同法に詳細な規定をしているのみならず、特別職である評価員にかゝる権限のないことはいうまでもない。原告は、一般職を兼職していたから、前示のような事務を担当したものであつて、単に右事務を手伝つたという関係ではない。
ところが被告は、一般職の職員である原告に対しては何ら免職等の処分をしておらないのにかゝわらず原告の右身分を否認し、理由なく、原告の村役場へ登庁し執務すること等を禁止し、不正に指揮監督権を発動した。その結果原告の一般職としての執務を妨害している。
よつて原告は被告の評価員である原告に対する懲戒免職処分の取消及び被告に対する原告の一般職である村職員としての身分の確認並びに被告の原告に対する固定資産評価員及び兼職している一般職員としての職務を執行することに対する妨害の排除を求めるため、本訴請求に及ぶ次第である(立証省略)。
被告は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、
一、原告主張の請求原因中第一項の事実は原告が一般職として税務、土木、登記等の職務を兼職しているとの点を否認し、その余はこれを認める。
二、同第二項中村長選挙に四名立候補した点のみを認めその余はこれを否認する。
三、同第三項中被告が原告に対し言つた言葉のうち辞めて貰いたいとの点を認め、その余はこれを否認する。
四、同第四項はすべてこれを認めるが、A、B記載事実は懲戒免職の理由ではなく例示したものである。
五、同第五項及び第六項の各事実はいずれもこれを否認する。
六、同第七項中A記載事実のうち「原告が帰庁後直ちにこの旨を被告に報告したところ被告は口頭でわびるだけでよく、書面を書く必要はなかつたと思うと注意しただけであり、当時原告の報告を諒承し、解決済みの事件である。しかるに二年有余を経過した今日懲戒免職の一理由とするが如きは違法の甚しいものと言わなければならない。こゝに昭和二七年四月二八日平和条約の効力発生とともに同年法律第一一七号「公務員等の懲戒免職等に関する法律」により同日より以前に発生した事実にもとずく懲戒は大赦され、これを行わないことになつたのにかゝわらず、かゝる旧事件を引用して懲戒処分の原因とするのは単に口実に過ぎず、違法の処分であることは明らかである。」との点を否認し、その余のA、B記載事実はすべてこれを認める。
七、同第八、第九及び第一〇項はいずれもこれを否認する。
なお被告は原告に対する解雇手当、休業手当合計二九、〇〇七円を供託してあると述べた(立証省略)。
三、理 由
(一)原告が昭和二三年一一月一七日草野村に雇員として採用され、昭和二四年一二月一二日書記補、昭和二五年四月一日書記に昇格し、同村に雇員として勤務以来税務、土木関係等の事務を担当し、昭和二六年一月一日地方税法第四〇四条にもとずき同村議会の同意を得て地方公務員法第三条にいう特別職に属する地方公務員(以下単に特別職という)である評価員に選任され、常勤者として勤務し、月額金一三、〇〇〇円の給与及び月額金一、二〇〇円の家族手当(二人分)の支給を受けていたものであること、(二)昭和二八年五月八日午前八時四〇分頃同村役場で執務中の原告が被告から村長室に呼ばれて入室したところ被告は原告を解雇する旨言渡したこと、(三)原告が公平委員会に提訴すべく同月一〇日頃被告に免職理由書の交付を求めたところ、被告は評価員である原告を免職した理由として、(イ)昭和二七年中小川江筋土地改良区設定に対し本人の承諾なしに他人の印を押したこと、(ロ)村長は昭和二五年度までの村税滞納者に対し滞納処分するよう命令したのに勝手に昭和二六年度村税滞納者の一部の者に対し滞納処分をなしたこと(但し財産差押をしたが後に取消した。)以上二個の理由を挙示したこと、(四)被告が原告を免職した理由として挙示した前記(三)(イ)、(ロ)の各事実の真相はそれぞれこれに相応する原告請求原因第七項A、B記載のとおりであること、(但し右A記載事実のうち、原告が帰庁後直ちにこの旨を被告に報告したところ、被告は口頭で詫びるだけでよく、書面を書く必要はなかつたと思うと注意しただけであり、当時原告の報告を諒承し解決済みの事件であるとの点を除く、)
以上の各事実はいずれも当事者間に争がない。
まず原告は前記解職は懲戒による免職であると主張し、被告は普通の免職であると争うので本件免職処分が如何なるもので、如何なる理由に基ずいてなされたものであるかの点について調べると成立に争のない甲第一号証及び証人片寄勇、松本彦明の各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告の原告に対する前記解職は懲戒による免職処分であること、被告が原告を右懲戒による免職処分をなすに至つた事情は、昭和二八年五月二〇日草野村長である被告の任期満了に因る村長の選挙が施行されることゝなつたが、予てから再選を期していた被告は、原告の実兄麻原作衛の立候補を警戒し、原告に対し暗に右作衛の立候補の断念をしようようしたが、同人が昭和二八年五月六日同村長立候補のため当時就任していた同村教育委員長の公職につき辞表を提出してから、二日後被告は突如原告に対し、一言の釈明も求めず、冒頭掲記(二)のとおり、解職の意思を表示したこと、その際被告は右解職は懲戒による免職処分であるとして、即時罷免の意思を明確に表示したこと、被告が右懲戒免職の理由として挙示した冒頭掲記(三)(イ)、(ロ)の各事実は単なる表面上の理由であつて口実に過ぎないものであること、原告の本件懲戒による免職処分の真実の理由は前記のような経緯のもとに原告の実兄作衛が村長選挙において被告の対立候補となつたことから被告が原告に対し不快の念を懐いたことにあることを各認定することができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
そこで次に被告の原告に対する右認定の事情のもとにおける懲戒による免職処分の違法性の有無について判断する。まずおよそ評価員は村長の指揮を受けて固定資産を適正に評価し、かつ村長が行う価格の決定を補助する重大な任務を有するものであつて、その選任については村議会の同意を得なければならない(地方税法第四〇四条第一、二項)。但しその任期については特別の定めがない。これを固定資産評価審査委員会の委員の場合と比べてみると、その選任について村議会の同意を要することは、評価員の場合と同様であるが、その任期は評価員の場合と異り、法定されている(同法第四二三条第三項、第四二四条)。また委員の罷免については村議会の同意を要する旨明定されているのにかゝわらず、(同法第四二七条)評価員についてはこのような定めはない。これは、前記のように評価員に一定の任期がないこと、また評価員は村長の補助機関であることから、その任命権者である村長において村議会の同意を得ないで解職することができるものとした法意と解するのを相当とする。従つて村長が評価員を解職することはいわゆる自由裁量処分に関することであるが、しかし村長に委された右自由裁量権といえどもその行使が全然村長の恣意に委ねられているわけでなく、そこには条理にもとずく一定の限界があり、その限界を超えたときにはその処分は単に当、不当の問題であるにとどまらず違法な処分として取消の対象となると解すべきである。
ひるがえつて本件懲戒による免職処分について考えると被告が、右の処分をした原因は既に認定したとおり、原告の実兄作衛が村長選挙において被告の対立候補となつたことから、被告が原告に対し故なく不快の念を懐いたことにあるのであるから、右処分は、被告の純然たる感情的恣意的処分というほかなく、明らかにその自由裁量権の範囲を逸脱したものであつて、権利の乱用というべきである。しかのみならず評価員は特別職であるから労働基準法第九条所定の労働者に該当するのにかゝわらず、被告はこれを懲戒により免職するに当り既に認定したとおり、即時解雇の意思を明確に表示しながら、同法第二〇条所定の予告期間を定めず、またこれに代る平均賃金いわゆる予告手当も支払わず、或は解雇理由について所轄労働基準監督署長の認定も受けていないことが、弁論の全趣旨から認められるのみならず、本件懲戒による免職処分が原告の責に帰すべき事由にもとずくものと認められないことは既に認定したところによつて明らかであるから右の処分は同条所定の要件を備えていないので即時解職の意思表示として無効であると断定せざるをえない。
以上要するに本件懲戒による免職処分はその動機からみて自由裁量権の乱用であり、その手続において労働基準法第二〇条所定の要件を備えておらず、いずれの点からみても違法で取消されるべきものである。
また仮りに被告主張のように被告の原告に対する前記解職が懲戒による免職処分でなく普通免職処分であるとしても、その免職の動機が前記認定のとおり被告の純然たる感情的、恣意的にした処分であることから、社会の通念からみて著しく不当で違法であることを免れない。
次に原告の本訴請求のうち、原告が草野村の一般職の職員である身分を有することの確認を求める部分について調べると、冒頭(一)記載のとおり原告が昭和二六年一月一日地方税法第四〇四条にもとずき同村議会の同意を得て常勤の特別職である評価員に就任するまでは、同村役場に初めは書記補として後には書記として税務、土木関係等の事務を担当し、地方公務員法第三条にいう一般職に属する地方公務員(以下単に一般職という)の身分を取得していたことは明らかである。原告は常勤の特別職である評価員就任後も一般職を兼職していた旨主張し、被告は原告を同村議会の承諾を得て評価員に選任するに際し、一般職は当然解職したものである旨主張するので、この点について調べると、公文書であつて真正に成立したと認められる乙第一乃至第三号証、成立に争のない甲第五号証の一、二、三、乙第五、六号証及び弁論の全趣旨と、評価員の任務が前記のように固定資産の評価という重大な職務に専念し、公正、適切に事務を遂行しなければならないことから、地方税法第四〇六条に兼務禁止の職業を規定した立法趣旨と考え合せると、被告が同村議会の承諾を得て原告を常勤の評価員に選任した際、原告の従前の一般職を解職したもので、原告が評価員就任後も税務等一般職の事務を担当していたのは同村職員のモツトーとする相互扶助の精神から進んで本務以外の右の事務を手伝つていたものであり、被告も同村行政事務の複雑多岐にわたることから、暗黙のうちにこれを委任していたものと解するのが相当であつて、この点についての原告提出援用の全証拠を以てするも右の認定を覆すに足らない。
従て原告は常勤の評価員に選任された昭和二六年一月一日に一般職の身分を喪失したことは明らかであるから、原告のこの請求部分は、失当としてこれを棄却すべきものである。
更に原告の本訴請求のうち被告は原告が評価員並びに同村の一般職の職員として執務するのを妨害してはならない旨を求める部分について、調べると、まず被告の原告が評価員として執務するのを妨害することの禁止を求める点は本件懲戒による免職処分が取消された以上その判決は確定をまつて関係の行政庁を拘束するのであるから(行政事件訴訟法特例法第一二条)重ねて被告に対し、かゝる請求をなすことは、これを求める法律上の利益なく、また原告が被告に対し一般職として執務することを妨害することの禁止を求める点は既に認定したとおり原告が一般職の身分を現在保有していないのであるから、その余について判断するまでもなく失当であることが明らかであつて、以上各請求はいずれも理由がない。
よつて原告の請求は被告のした本件懲戒による免職処分の取消を求める部分についてのみこれを認容し、その余の部分はこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 中谷直久)