福島地方裁判所 昭和41年(行ウ)29号 判決 1971年4月26日
原告 株式会社 角家
被告 福島税務署長
主文
原告の各請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立て
原告訴訟代理人は、「被告が、昭和三九年九月九日付で、原告の昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)における所得金額を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに対する法人税五、一七八、九六〇円、無申告加算税三二七、八〇〇円、重加算税六六五、〇〇〇円の賦課決定をした各処分ならびに原告に対し源泉徴収にかかる所得税一、五四九、一二〇円の納税告知およびこれに対する不納付加算税一五四、九〇〇円の賦課決定をした各処分は、いずれも取り消す。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二、請求の原因
一、原告は、旅館業を営む株式会社であるが、被告は、昭和三九年九月九日付で原告の本件事業年度における所得金額を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに対する法人税五、一七八、九六〇円、無申告加算税三二七、八〇〇円、重加算税六六五、〇〇〇円の賦課決定をし、さらに、同日付で原告に対し、源泉徴収にかかる所得税一、五四九、一二〇円の納税告知およびこれに対する不納付加算税一五四、九〇〇円の賦課決定をした。
二、原告は、昭和三九年一〇月八日、被告に対し、右各処分につき異議の申立てをしたところ、昭和四〇年一月七日、これが棄却されたので、同年二月五日、仙台国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は、昭和四一年七月二六日、これを棄却し、同年一一月一〇日その旨原告に通知した。
三、しかしながら、原告には、本件事業年度の所得がなく、また、給与の支払いをしていないから、被告の右各処分は違法であるので、その取消しを求める。
第三、請求原因に対する答弁
一、請求原因第一項の事実を認める。
二、同第二項中、原告が本件各処分につき被告に対し異議の申立てをしたこと、これに対し被告が法人税、無申告加算税、重加算税の異議申立てについてのみ請求を棄却したこと、これに対し原告が仙台国税局長に審査請求をしたこと(源泉徴収にかかる所得税については被告において原告が異議の申立てをした翌日から起算して三月を経過した日までに右異議の申立てに対する決定をしないでいたため、国税通則法(昭和四〇年法律第九〇号による改正前のもの。以下同じ。)第八〇条により昭和四〇年一月八日付で仙台国税局長に審査請求をしたものとみなされた。)同局長は右各請求を棄却する裁決をしたことを認める。なお、右裁決の通知は昭和四一年八月一〇日付でしたものである。
三、同第三項を争う。
第四、被告の主張
一、被告は、原告が昭和三四年八月一日から昭和三五年七月三一日までの事業年度以降法人税の確定申告書を提出しなかつたので調査したところ、原告は、昭和三七年四月八日、福島興産有限会社(以下単に「福島興産」という。同年中に商号を有限会社ホテル聚楽(以下単に「(有)ホテル聚楽」という。)と変更し、さらに昭和四〇年に株式会社ホテル聚楽(以下単に「(株)ホテル聚楽」という。)と組織変更し現在に至る。)に対し、原告会社の営業資産一切を譲渡するとともに、営業権を金一、五〇〇万円で譲渡し、旅館業を廃止したことが判明した。
二、被告が、右営業権の譲渡価額を金一、五〇〇万円と認定した理由は次のとおりである。
1、営業権は、法律上の権利ではなく、営業に固有の事実関係であつて、財産的価値のあるものをいい、営業上の秘訣、得意先、創業の年代、名声、仕入先、経営の組織、地理的関係などから構成され、営業の一部を構成するものとして必ず営業とともに譲渡または移転される。営業を構成する資産としては、固定資産、流動資産等があるが、営業の譲渡または合併の場合に、これらの個別的な資産の価額の合計額以上にその対価が定められたときは、その超過額が営業権の価額であり、それは企業が設立された創業当初の試練を経て過失がなく、若干年経過すれば、外部的には社会的認識を得、内部的にも経営組織が完備し、新規に開業するものに比べて数段優越した立場となることにより発生する。
2、ところで、営業権は税法上の固有の概念ではないので、法人税法上、その意義および性格について特に規定せず、商法や会計学上の営業権の概念をそのまま用いており、そして、その償却額を損金に算入することができ(法人税法施行規則(昭和三七年政令第四一八号による改正前のもの。以下同じ。)第二一条第一項第八号)、その償却額を計算する場合、耐用年数を一〇年(同規則第二一条の二第一項、固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令(昭和三六年大蔵省令第八二号による改正前のもの。以下同じ。)第一条、別表九)とし、残存価額を零として定額法により算出する(同規則第二一条の三第一項、第四項)ことになつていることからみて、税法上も営業権の資産性が認められている。ただ、税法上の営業権は客観的価値を問題にするのであるから、商法や会計学の立場と異なり、有償取得または合併の場合常に資産性が認められるわけではなく、その取得の態様に応じて営業権の取得と認められる場合はじめて資産性が認められるのである。
3、原告の場合、旅館としては飯坂におけるしにせであり、立地条件もよく、長い間かち得た信用も大であり、しかも(有)ホテル聚楽が原告の資産一切を包括的に取得し、原告と同一場所で同一営業を開始し、直ちに収益をあげている事実が存するので、これらの事実に徴すると、原告において営業権が発生していたことは明らかであつて、原告はこれを有償で譲渡したものである。
4、原告会社における昭和三七年四月八日ごろの企業全体の価額は金七、〇〇〇万円ないし金七、二〇〇万円であつたところ、原告は、同日、福島興産に対し、別紙物件目録一の1、2、二の1ないし3、三、四記載の各資産および什器備品を、それぞれ別表記載の価額(土地、建物、賃借権の譲渡価額については被告が更正した)で譲渡したが、その合計額は金五三、五〇七、七二九円であるから、これを前記企業全体の価額から控除した残額の金一六、四九二、二七一円ないし金一八、四九二、二七一円が原告の営業権の価額であるが、本件の場合、それよりも内輪の金一、五〇〇万円で取引されたけれども、取引価額は売手と買手との経済力等によつて左右されることおよび原告同様温泉地である会津若松市東山地区の営業権の譲渡の実例に比し、決して高額でないこと等を斟酌すると、右営業権の取引価額は適正妥当である。
三、右営業権の譲渡契約の効力は、本件事業年度中に発生したものであるから、本件事業年度の法人税を計算するうえにおいて、これを益金に計上すべきであるが、原告が営業を譲渡した際、不良資産として引き受けられなかつた車両については除却損とするのが相当であり、その帳簿価額は金一、一〇七、九九四円であるから、これを営業権の譲渡価額から控除した金一三、八九二、〇〇六円が本件事業年度の益金となる。そして、原告は、以前から旅館営業を休止し、本件事業年度中営業上の収入支出がなく、また、青色申告書を提出しない法人でもあるので、法人税法(昭和三八年法律第六七号による改正前のもの。以下同じ。)第九条第五項により本件事業年度の所得計算上損金に算入すべきものは存しない。そこで被告は、国税通則法第二五条により、原告の本件事業年度における所得金額を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに基づき法人税、重加算税、無申告加算税の各税額を算出し、原告に賦課決定したものである。すなわち、
1、法人税法第一七条第一項第一号により、所得金額のうち年二〇〇万円以下の金額については一〇〇分の三三、年二〇〇万円を超える金額については一〇〇分の三八の税率を各乗じて原告の本件事業年度における法人税額を金五、一七八、九六〇円と算出した。
2、原告は、正当な理由がないのに確定申告書を提出しなかつたから、その全額について無申告加算税の課税対象となるところ、このうち金五〇〇万円については原告代表者中山辰郎が(有)ホテル聚楽から営業譲渡代金として受領したのに、これを原告の収益として計上しないで隠ぺいし、原告代表者中山辰郎がこれを費消したのであるから、重加算税を納付しなければならないが、国税通則法第六八条第二項によりその税額を金六六五、〇〇〇円と算出し、その余の金額については同法第六六条第一項により無申告加算税を金三二七、八〇〇円と算出した。
四、源泉徴収にかかる所得税の賦課決定をしたのは次のとおりである。
原告は、昭和三七年中に前記営業権譲渡代金の一部金五〇〇万円(内金三〇〇万円については(有)ホテル聚楽が中山辰郎に対し貸し付けたものとして経理しているが、その実質は営業権の譲渡代金の一部である。)を受領したのに、これを原告の収入として計上せず、原告の代表者中山辰郎において不当に流用したことは前述のとおりであるが、これは原告がいつたん収入として受け入れたものを右中山辰郎に賞与として支給したのと同一の効果があるので、被告は、これを原告が中山辰郎に賞与として支給したものと認定したのであり、そして、原告は、昭和三七年中に右金五〇〇万円以外に他に給与の支払いをしていない。
ところで、原告は、中山辰郎に賞与を支給したのであるから、その際、所得税法(昭和三八年法律第六六号による改正前のもの。以下同じ。)第三八条により、中山辰郎から所得税を徴収し、これを納付しなければならないのにこれをしなかつたので、被告は同法第四三条によりこれを原告から徴収することとし、同法第四〇条により年末調整を行ない、その所得税額を金一、五四九、一二〇円と算出し、国税通則法第三六条により、昭和三九年九月九日付で原告に対し納税の告知をし、さらに、同法第六七条一項により不納付加算税を金一五四、九〇〇円と算出し、合わせて賦課決定した。
五、以上のとおり、原告の本件事業年度における法人税および源泉徴収にかかる所得税につき、被告のした賦課決定の各処分には何ら違法はない。
第五、被告の主張に対する原告の答弁および反論
一、被告主張第一項の事実中、原告が、昭和三四年八月一日から昭和三五年七月三一日までの事業年度以降法人税の確定申告書を提出していないこと、昭和三七年四月八日、福島興産に対し、別紙物件目録一の1、2、二の1ないし3、三、四記載の物件を譲渡したことを認め、その余を否認する。右の物件を譲渡した事情は次のとおりである。すなわち、原告は、福島興産から昭和三五年一二月二九日および昭和三六年一月二七日の二回にわたり合計金一、〇〇〇万円を、弁済期はいずれも同年一二月三一日、利息年一割五分の約定で借り受け、なお、原告が右借入金の返済を怠つたときは、福島興産において別紙目録一ないし四(ただし三の12ないし14を除く)記載の物件中原告所有の物件を代物弁済により取得することができるが、その際には別紙物件目録一ないし四(ただし三の12ないし14を除く)記載の物件に設定された抵当権によつて担保されている原告の債務および原告の負担する公課のうちすでに右物件が差し押えられている公課部分について福島興産が引き受けることを内容とする代物弁済の予約ならびに債務引受契約を原告、中山惣兵衛および福島興産との間で締結した。そして、原告が前記借入金を返済することができなかつたので、福島興産は、昭和三六年六月一四日、右代物弁済の予約に基づき完結の意思表示をして別紙物件目録一ないし四記載の物件につきその所有権を取得し、同年九月一一日所有権移転登記手続を了した。ところが、福島興産の出資の持分を所有していた国華酒造株式会社(以下単に「国華酒造」という。)は、昭和三七年四月八日、これを大日本食堂株式会社(以下単に「大日本食堂」という。)に譲渡したため、中山辰郎は原告角家から退去を余儀なくされた。これに同情した大日本食堂代表取締役加藤清二郎は、昭和三七年三月上旬、右中山辰郎およびその妻中山小夜子に対し、更生資金として金一、五〇〇万円を支給することを約したが、被告の主張する営業権譲渡代金とは右金一、五〇〇万円のことである。
二、同第二、三項は争う。本件は営業権の譲渡に関するものでないから、被告の処分は違法である。
三、同第四項中、被告主張の処分がなされたことを認める。しかし、本件事業年度中に大日本食堂代表取締役加藤清二郎から金五〇〇万円を受領したのは、中山辰郎およびその妻個人であつて原告ではなく、しかもそれは更生資金の一部として受領したものであり、営業権の対価ではないから、被告の処分は違法たるを免れない。
第六、証拠関係<省略>
理由
一、被告が、昭和三九年九月九日付で原告の本件事業年度における所得金額を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに対する法人税五、一七八、九六〇円、無申告加算税三二七、八〇〇円、重加算税六六五、〇〇〇円の賦課決定をし、さらに同日付で原告に対し源泉徴収にかかる所得税一、五四九、一二〇円の納税の告知をし、これに対する不納付加算税一五四、九〇〇円の賦課決定をしたこと、原告が、被告に対し、右各処分につき異議の申立てをしたところ、被告が、昭和四〇年一月七日、右異議の申立て中、法人税、無申告加算税および重加算税部分についてのみ棄却したこと、さらに、原告が、仙台国税局長に対し審査請求をしたが、これについて同局長が昭和四一年七月二六日付で棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがなく、また、源泉徴収にかかる所得税に対する異議の申立てにつき被告において原告が異議の申立てをした翌日から起算して三月を経過した日までにこれに対する決定をしなかつたため、国税通則法第八〇条により、昭和四〇年一月八日付で審査請求をしたものとみなされたことは被告の自陳するところであり、そして、仙台国税局長がこれについても昭和四一年七月二六日付で棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いがない。
二、法人税の課税処分について
1、被告は、原告が本件事業年度中に譲渡した営業権の譲渡代金を原告の益金と認定し、法人税の賦課決定をしたものであると主張するので、まずこの点から判断する。
(一) 営業権は、税法上の固有の概念ではないので、法人税法もこれについて直接規定をせず、一般に会計学や商法で用いている概念をそのまま使用しているが、会計学あるいは商法でいう営業権とは、のれん、しにせ権などともいわれているが、それは債権、無体財産権に属せず、いわゆる法律上の権利ではなく、財産的価値のある事実関係であつて、既設の企業が各種の有利な条件または特権の存在により他の同種企業のあげる通常の利潤よりも大きな収益を引続き確実にあげている場合、その超過収益力の原因となるものをいい、その超過収益力の原因としては、既設企業の名声、立地条件、経営手腕、製造秘訣、特殊の取引関係または独占性などが考えられるが、営業権は、これらの諸原因、諸収益力を総合した概念であり、個々に分立した特権の単なる集合ではない。そして、超過収益力の諸原因は、企業が設立されてから創立当時の試練を経て過失がなく若干年経過することにより外部的には社会的認識を得、内部的にも従業員の経験、熟練度が増し、経営組織が完備することにより自然に発生するものである。
(二) ところで、会計学上、営業権の資産性については議論の存するところであるが、通説的見解によると、買入れのれん、すなわち他人から買い入れた場合に限つて資産への計上を認め、自然に発生したいわゆる発生のれんについては資産性を否定しており、また、商法も会計学の通説的見解に従い、有償で譲り受けまたは合併によつて取得した場合に限つて貸借対照表能力を認めている(商法第二八五条の七)。この点について、税法上は必ずしも明らかではないが、法人税法第九条の八第一項では、固定資産の減価償却の方法について、「所得の計算上損金に算入すべき固定資産の償却額の計算については命令の定める方法によらなければならない。」旨規定し、これを受けて同法施行規則第二一条では「法人の固定資産の償却額は各事業年度の所得の計算上、損金に算入する」旨規定し、その第一項第八号に営業権を掲げており、営業権の耐用年数を一〇年とし(同規則第二一条の二第一項、耐用年数等に関する大蔵省令第一条、別表九)、残存価額を零として定額法により算出すべき旨規定している(同規則第二一条の三第一項、第四項)。これらの規定は、営業権の資産性を是認したうえでの規定と解されるから、税法上営業権の資産性を認めていることは明らかであり、なお、会計学や商法の立場と別意に解さなければならない特段の事情も存しないから、有償取得に限つて資産性を認めているものと解すべきである。
2、そこで、原告の営業権、その譲渡の有無等について順次検討を加えることとする。
(一) 証人加藤清二郎、同小川謙受の各証言によると、原告角家旅館は、営業を譲渡した時点において、創業以来約八〇年以上の歴史を有するしにせであり、立地条件に恵まれ、長い間にかち得た信用も大であつて、あらゆる点で温泉旅館として最高の条件を備えていたことが認められ、また、成立に争いのない乙第五号証、第三二号証によると、(有)ホテル聚楽は、昭和三七年四月七日原告から営業の譲渡を受けるや、その翌日から原告が営業をしていた同一の場所で旅館営業を開始し、昭和三七年一二月三一日の決算では、営業用の固定資産の取得のため借用した金利に追われたことおよび開業費を支出したことなどにより、結局金二五、二九八円の当期損失を計上しなければならなかつたが、それにもかかわらず、右営業期間における営業利益として金六、六一五、二三七円を計上するなど順調な成績をあげ得たことが認められる。
以上のことを総合すると、原告には営業の譲渡時において営業権が発生していたものと認めるのが相当である。
(二) 次に、原告が前記の営業権を譲渡したものであるか否かについて判断する。
(1) 成立に争いのない乙第一九、二〇号証、中山辰郎名下の印影が同人の印章によつて顕出されたことについては争いがなく、矢萩忠吉名下の印影が同人の印章によつて顕出されたことについては証人矢萩信二郎の証言によつて認められ、証人加藤清二郎の証言によりその原本の成立および存在の認められる乙第一号証、同証人の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証、証人武藤宏、同加藤清二郎、同矢萩信二郎、同中山宗の各証言および原告代表者尋問の結果(ただし、証人武藤宏以外の各供述部分中後記信用しない部分を除く)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
原告は、福島興産から営業資金一、〇〇〇万円を借り受けていたところ、角家旅館が経営不振に陥り、弁済期が到来してもその支払いができず、別紙物件目録一の1、2、二の1ないし3、三、四記載の資産をもつて右一、〇〇〇万円の代物弁済に供したため倒産のやむなきに至つた。そこで、古い歴史をもつ角家旅館が人手に渡ることを憂えた原告代表者の叔父中山宗は、昭和三六年一〇月ごろ、以前番頭として勤務したことのある国華酒造の代表取締役矢萩信二郎(先代)に対し、その善処方を懇願したところ、右矢萩は、旅館経営の経験がないので自からその任に当るのは適当でないと難色を示し、そのころ、親交のあつた大日本食堂代表取締役加藤清二郎に右の事情を説明し、角家旅館を買収して経営してくれるよう要望した。右加藤は、各所に旅館、食堂を経営していたが、たまたま飯坂においても旅館を経営したい希望を抱いていたときでもあつたので、右矢萩の申出でに乗気を示し直ちに買収交渉を始めた。そして、角家旅館の資産一切がすでに福島興産に渡つていたため、国華酒造が福島興産の出資の持分の全部を取得してこれを買収し、次いで昭和三七年四月八日、これを大日本食堂に譲渡したので、福島興産は、同日付で商号を「有限会社ホテル聚楽」、目的を旅館業、飲食業、物品販売業と変更し、さらに、昭和四〇年七月二〇日、「株式会社ホテル聚楽」と組織を変更して現在に至つている。ところで、その際、右加藤は、右矢萩信二郎から原告の経営者であつた中山辰郎の更生について善処方を依頼されたが、中山辰郎の先祖が何代にもわたり経営してきたしにせで信用もあり、立地条件等にも恵まれている角家旅館の営業全部を有利に譲り受けて引続き経営することになつたので、できるだけ右依頼に応じようと考え、右中山辰郎が原告の経営から離れた後の収入、住居、更生資金にあてうるようにするため、前記営業資産の買収代価とは別に金一、五〇〇万円を交付することを約し、その会計処理について顧問税理士川口元雄に相談したところ、同人から営業権を有償で取得したものとして処理することが適当であろうとの回答を得たので、以後これに従つて会計処理をし、福島興産が原告から代金一、五〇〇万円でその営業権の譲渡を受けることとした。
なお、この点につき証人加藤清二郎、同矢萩信二郎、同中山宗、同太田政治の各証言および原告代表者尋問の結果中には、右加藤個人が中山辰郎およびその妻小夜子らに対し金一、五〇〇万円を交付することを約したものであつて、原告の営業権を取得した対価として交付することにしたものでない旨の供述部分があるが、右加藤が相当の資産家であるとしても、中山辰郎夫妻とは親戚関係にあつたわけではなく、本件営業譲渡の交渉を始めた昭和三六年一〇月ごろ初めて知り合つた中山辰郎夫妻に対し金一、五〇〇万円を更生資金として援助しなければならない特段の事情も認められず、成立に争いのない甲第二ないし第四号証は、原告が中山辰郎の更生資金の一部の受領を証するものと主張する金員領収証であるが、それには原告が(有)ホテル聚楽から受領した旨および同第四号証には営業権譲渡代金の一部である旨の記載があり(原告代表者尋問の結果によると、甲第二ないし第四号証のように記載したのは聚楽本社の事務員の指示によつたものであるとの供述部分があるが、仮りにそうだとすると、少なくとも(有)ホテル聚楽としては中山辰郎個人に金員を交付するつもりはなく、原告に交付する意思のもとにかかる指示をしたものと推測される。)、これらの事実および後記(2)ないし(4)で認定する各事実に対比すると、前記各供述部分は信用することができない。また甲第一号証には、前記供述部分と同趣旨の記載があるが、これも前記各供述部分以上に出るものでないから、これをもつて加藤清二郎が中山辰郎夫妻に対し金一、五〇〇万円の更生資金を交付することを約したものと認めることはできず、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。
(2) 成立に争いのない乙第三、四号証、証人武藤宏の証言によると、原告が被告の法人税等の課税処分に対し異議の申立てあるいは仙台国税局長に対し審査請求をした理由の要旨は、原告は、昭和三七年四月八日、資産負債等営業の全部を福島興産に譲渡し、同時に旅館業を廃止したが、廃止に伴い営業権を金一、五〇〇万円で福島興産に譲渡したけれども、旅館業を廃止したのは営業不振により多額の債務をかかえて倒産したためであり、右営業譲渡の際引き受けられなかつた債務は営業権譲渡の原価および経費に相当するから、結局課税の対象となるべき所得がないので、課税処分の取消しを求めるというのであつて、主たる争点は営業権の譲渡の有無にあるのではなく、かえつて営業権の譲渡を前提としたうえで、本件事業年度における原告の所得金額の有無の点についてであつたことが認められる。もつとも、原告代表者尋問の結果中には、乙第三、四号証は当時依頼した川口元雄税理士が作成したものであつて、記載内容は事実と異なる旨供述している部分があるが、前記(1)の認定事実に照らすと、右の供述部分は信用することができない。
(3) 前掲乙第五号証、成立に争いのない乙第一四ないし第一八号証、第二六ないし第三二号証によると、(有)ホテル聚楽(または(株)ホテル聚楽)は、昭和三七年四月八日、角家旅館の営業権を金一、五〇〇万円で買い入れて営業を開始し、第三期(昭和三七年一月一日から同年一二月三一日までの期間)決算報告書の貸借対照表の資産の部に営業権一、五〇〇万円と計上し、以後毎期の決算において耐用年数を一〇年、残存価額を零として定額法によつて減価償却費を算出したうえ、その償却費を各期の経費に算入して損益計算を行ない、それに基づき法人税の確定申告を行つており、さらに、昭和四二年一二月三一日現在において原告に対する営業権の未払代金七〇〇万円の存することが認められる。
(4) 証人三上勝光の証言とこれにより成立が認められる乙第二五号証、第三五号証によると、乙第三五号証(質問てん末書)は、三上勝光らが原告の法人税につき滞納整理の事務を担当していたころの昭和四二年二月二三日、(株)ホテル聚楽の代表取締役加藤清二郎に対して質問をし、そのてん末を記載したものであることが認められるが、それによると、右加藤は、(有)ホテル聚楽が角家旅館の営業権を買収したが、譲渡契約は(有)ホテル聚楽と原告との間で結んだものであり、代金の一部の授受も右両者で行ない、譲渡代金の未払部分については(有)ホテル聚楽の会計帳簿に未払金として計上してある旨回答し、なお、その際、三上らの要求に応じ、同日付で「昭和三七年四月八日原告から営業権を譲り受けたが、その代金は一、五〇〇万円で、そのうち金七〇〇万円は未払いになつているので本件債務のあることを認める。」旨記載した債務確認証(乙第二五号証)を作成交付したことが認められる。
以上(1)ないし(4)で認定した各事実を総合すると、原告は、昭和三七年四月八日、福島興産に営業用の各資産を譲渡したのとは別個に営業権自体を金一、五〇〇万円で譲渡したところ、福島興産は、同日、前記のように商号および目的を変更し、なお、原告は右営業権の譲渡代金の一部金八〇〇万円を(有)ホテル聚楽から受領しているのであるから、原告と(有)ホテル聚楽との間で本件営業権の売買がなされたものと認めるのが相当であつて、加藤清二郎が中山夫妻に同情し、その更生資金として金一、五〇〇万円を交付することを約したものとは到底認めることができない。
(三) ところで、前記(二)で認定したとおり、原告が営業権を金一、五〇〇万円で譲渡したのであるが、その価額の適否について検討する。
営業権は、その客観的価値を判断することが必ずしも容易ではないため、実際の売買にあたつては、売買当事者の経済力によりその決定が左右されることが多く、いわば主観的価値をもつて譲渡価格となされ、合理的な基礎に立つて計算されるものとは限らないから、譲渡価格をもつて直ちにその客観的価値とすることはできないが、それにしても客観的価値がその主たる要素となされることもまた否定できない。したがつて、営業権の客観的価値を決定するには、前述の営業権の発生原因にみられるように、営業の超過収益力、その継続期間、移転性等を考慮すべきものである。
原告代表者尋問の結果によると、本件営業権を譲渡した時点における角家旅館全体の価額は、金七、〇〇〇万円ないし金七、二〇〇万円あつたことが認められ、そして、証人小川謙受の証言とこれにより成立の認められる乙第三六号証によると、原告は、福島興産に対し別紙物件目録一の1、2、二の1ないし3、三、四記載の譲渡物件を金五三、五〇七、七二九円(建物、土地、借地権については譲渡価額を被告において更正したが譲渡価額全体については原告の主張する価額と同一である。)で譲渡したことが認められるので、これを前記の企業全体の価額から控除した金一六、四九二、二七一円ないし金一八、四九二、二七一円が営業権の価額に相当する。本件の場合、これよりも内輪の金一、五〇〇万円で譲渡されたが、営業権の価額を決定する場合、売買当事者の経済力等により左右されることがあることは前記のとおりであるが、本件の場合原告は倒産の憂目にあつており、(有)ホテル聚楽は経済的に優越的地位にあつたのであるから、営業権の価格が低められることはあつても、客観的価値より高額に定められる機縁はないと考えられること、証人力田正の証言およびこれにより真正に成立したと認められる乙第三三、三四号証ならびに弁論の全趣旨によれば、原告の旅館の所在地である飯坂に比較すれば、温泉地として劣勢な地位にある東山で、原告より経営規模、年数、立地条件のいずれの点においても劣る旅館の営業権が四〇〇万円ないし四五〇万円の価格で譲渡されていることにかんがみると、本件営業権の譲渡価額を金一、五〇〇万円と決したことはおおむねその客観的価値にも合致するものであり、適正妥当であるというべきである。
3、課税処分の適法性について
(一) 法人税の課税標準たる各事業年度の所得額は、その年度の総益金から総損金を控除した金額によるのであるが(法人税法第九条第一項)、法人税法上、いかなるものをもつて益金あるいは損金とするかについて一般的規定がなく、個々の事項についてそれを益金または損金に算入しあるいは算入しないと規定するだけであつて、総益金および総損金の内容を明らかにしていない。しかしながら、右の総益金とは、法令に別段の定めあるもののほか、資本の払い込み以外において純資産増加の原因となるべき一切の事実をいい、総損金とは法令に別段の定めあるもののほか、資本の払いもどしまたは利益処分以外において純資産の減少の原因となるべき一切の事実をさすものと解すべきである。そして、税法上、営業権の資産性が認められることは前述のとおりであるから、その譲渡代価が右にいう課税標準たる所得に含まれることは明らかであり(法人税法施行令第一六二条参照)、しかも原告が本件事業年度中に営業権を金一、五〇〇万円で譲渡したことはすでに認定したとおりであつて、これが原告の所得金額を計算するに当り益金に算入すべきであることも明白である。ところで、原告が昭和三四年八月一日から昭和三五年七月三一日までの事業年度以降法人税の確定申告書を提出していないことは当事者間に争いがなく、原告が以前から旅館業を休止していて本件事業年度中に旅館業としての収入がなかつたことは原告において明らかに争わない。成立に争いのない乙第一〇号証、証人武藤宏の証言によると、原告が営業を譲渡した際、不良資産として引き受けられなかつた車両運搬具の帳簿価額が金一、一〇七、九九四円あつたことが認められるから、これを除却損として前記営業権の譲渡価額から減算するのが相当である。なお、前掲乙第三、四号証によると、原告は、被告に対する異議の申立てあるいは仙台国税局長に対する審査請求の段階において、多額の債務があつたため営業権譲渡代金一、五〇〇万円でこれを弁済しても、なおかつ金八、一八五、五一九円の欠損となる旨主張してきたことが認められるが、本訴においてはこの点の主張はないのみならず、証人武藤宏の証言によると、原告の主張する右の債務は本件事業年度中に発生したものではなく、過年度における債務であり、しかも原告は青色申告書を提出した法人ではないことが認められるので、原告の主張する前記債務は本件事業年度における所得額の計算上これを損金に算入することができないのであつて(法人税法第九条第五項)、原告の主張自体失当といわなければならない。したがつて、営業権の代価一、五〇〇万円から車両運搬具の除却損分一、一〇七、九九四円を差し引いた金一三、八九二、〇〇六円が原告の本件事業年度における所得であり、これに対する法人税の税率は、所得金額のうち年二〇〇万円以下の金額については一〇〇分の三三、年二〇〇万円を超える金額については一〇〇分の三八であるから(同法第一七条第一項第一号)、その法人税額は金五、一七八、九六〇円となる(国税通則法第九〇条第一項により一〇〇円未満の端数については切り捨てて計算する。)。
(二) 被告は、原告が法定期限内に納税申告書を提出しなかつたので調査したうえ、原告の本件事業年度の所得を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに法人税五、一七八、九六〇円を賦課決定したことは前記一および二3(一)のとおりであり、また、原告が本件事業年度中に(有)ホテル聚楽から営業権の譲渡代金の一部金五〇〇万円を受領したのに原告の収入として計上しないでこれを隠ぺいし、原告代表者中山辰郎においてこれを費消したことは後記三で認定するとおりである。かかる場合、原告としては無申告加算税および重加算税を納付すべき義務がある(国税通則法第六六条第一項第一号、第六八条第二項)。すなわち、納税申告書を提出する義務があると認められる者が、これを提出しなかつたため、国税通則法第二五条の決定があつた場合に、当該納税者に対し、同条の決定に基づき同法第三五条第二項の規定により納付すべき税額(以下「本税額」という)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税が賦課され、さらに、無申告加算税の規定に該当する場合において、納税義務者がその国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しないときは、当該納税者に対し、その隠ぺいした部分について無申告加算税に代えて、重加算税が賦課され、その税額は、本税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいしていないことが明らかなものについては、当該隠ぺいしていない事実に基づく本税額として政令(同法施行令第二八条第二項)で定めるところにより計算した金額を前記無申告加算税の計算の基礎となるべき本税額から控除した税額に一〇〇分の三五の割合を乗じて算出される。
したがつて、隠ぺいしていない事実に基づく本税額についての無申告加算税と隠ぺいした事実に基づき右の計算方法により計算された本税額についての重加算税とが併課されることになる。
ところで、重加算税は、前記のように課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいした場合に課税されるが、右の課税標準等の基礎となるべき事実には、これを推認せしめる間接事実も含まれるものと解すべきところ、本件の場合、原告が(有)ホテル聚楽から金五〇〇万円を受領したことは、原告が(有)ホテル聚楽に営業権を金一、五〇〇万円で譲渡したことを推認せしめる間接事実に該当するから、原告が右の金五〇〇万円を原告の収入として計上しなかつたことは課税標準等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいしたものというべきである。
そこで、本件についてこれを計算すると、無申告加算税は金三二七、八〇〇円、重加算税は金六六五、〇〇〇円となるが、その算式は次のとおりである。(原告の所得金額を金一三、八九二、〇〇六円、隠ぺい部分を金五、〇〇〇、〇〇〇円とし、法人税の税率は法人税法第一七条第一項の規定に従い算出する。なお、端数の切り捨てについては国税通則法第九〇条、第九一条を適用する。)
¥13,892,006 ¥2,000,000×33/100=¥660,000
¥11,892,006×38/100=¥4,518,960
¥660,000+¥4,518,960=¥5,178,960…………無申告加算税額の基礎となるべき税額
¥13,892,006-¥5,000,000=¥8,892,006
¥8,892,006 ¥2,000,000×33/100=¥660,000
¥6,892,006×38/100=¥2,618,960
¥660,000+¥2,618,960=¥3,278,960…………重加算税部分を除外した無申告加算税額の計算の基礎となるべき税額
¥3,278,960×10/100=327,800…………無申告加算税額
¥5,178,960-¥3,278,960=¥1,900,000…………重加算税額の計算の基礎となるべき税額
¥1,900,000×35/100=¥665,000…………重加算税額
三、源泉徴収にかかる所得税の課税処分について
1、被告が、昭和三七年中に原告から中山辰郎に金五〇〇万円支払われたものとして、これを賞与の支給と認定し、これに対する源泉徴収にかかる所得税を金一、五四九、一二〇円と算出したうえ、昭和三九年九月九日付で納税の告知をし、合わせて不納付加算税一五四、九〇〇円の賦課決定をしたことについて当事者間に争いがない。ところで、原告は、被告の主張する金五〇〇万円について、原告がこれを受領したものでなく、中山辰郎夫妻が大日本食堂代表取締役加藤清二郎から更生資金として受領したものであると主張するが、しかし、すでに認定したとおり、(有)ホテル聚楽が原告に対し金一、五〇〇万円を交付することを約したのは営業権の対価としてであつて、それ自体としては、中山辰郎夫妻に対する更生資金ではないから、原告の右主張を採用することができない。
2、そこで、原告が昭和三七年中に(有)ホテル聚楽から営業権の譲渡代金として金五〇〇万円を受領したか否かを判断する。
原告が(有)ホテル聚楽から営業権の譲渡代金の一部として金八〇〇万円を受領していることは、すでに認定したとおりであるので、その時期について検討してみるに、前示甲第二ないし第四号証には、原告が(有)ホテル聚楽から昭和三七年四月九日に金二〇〇万円を、昭和三八年八月三一日に金三〇〇万円を、昭和三九年八月七日に金三〇〇万円を、それぞれ受領した旨の記載がある。しかし、証人加藤清二郎の証言によると、本件営業権の譲渡契約が締結された昭和三七年四月八日の直後金五〇〇万円が、昭和三九年に金三〇〇万円が、いずれも(有)ホテル聚楽から原告代表者中山辰郎に支払われていることが認められ、さらに前示乙第五号証、第一四号証によると、(有)ホテル聚楽の昭和三七年一二月三一日現在における決算報告書には、中山辰郎に対する貸付金三〇〇万円、原告に対する営業権の未払代金一、三〇〇万円が計上されているが、昭和三八年一二月三一日現在における決算報告書には右貸付金の記載がなく、営業権の未払代金一、〇〇〇万円が計上されていることが認められる。右認定の各事実と弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和三七年中に営業権の譲渡代金として(有)ホテル聚楽から金五〇〇万円を受領したが、そのうち金三〇〇万円については、(有)ホテル聚楽が一時中山辰郎に対する貸付金として会計処理をしていたところ、昭和三八年八月三一日に至つて、これを営業権の未払代金に振り替えて処理することとしたため、同日営業権の譲渡代金三〇〇万円が支払われた旨を記載した甲第三号証を(有)ホテル聚楽に交付したものと推認され、他にこれを覆えすに足りる資料はない。
3、そうだとすると、原告は、右金五〇〇万円を本件事業年度中の所得として収入に計上しなければならなかつたのであるが、これを計上しなかつたことについて原告は明らかに争わないから、現実に金五〇〇万円を受領した中山辰郎がこれを費消したものと推認するほかない。右のような事実関係のもとにおいては、原告がいつたん金五〇〇万円を受領し、これを中山辰郎に支給したものと同一の効果があるから、その支給が定期の給与あるいは退職金として支給したものとも認められない以上、原告が中山辰郎に賞与として支給したものと解するのが相当であり、なお、原告が昭和三七年中に他に給与の支払いをしていないことについて原告は明らかに争わない。
4、以上のとおり、原告は、昭和三七年中に中山辰郎に対し金五〇〇万円を賞与として支給したものであるから、その際所得税を徴収して納付すべき義務がある(所得税法第三八条)。そこで、その税額を算出してみるに、中山辰郎の昭和三七年中における所得は金五〇〇万円で他に収入がなかつたので、これから給与所得控除(同法第九条第一項第五号ハ)金一二〇、〇〇〇円、社会保険料控除(同法第一一条の六)金二、五〇〇円、生命保険料控除(同第一一条の七)金三〇、〇〇〇円、基礎控除および配偶者控除(同第一三条および第一一条の八第一項(いずれも昭和三七年法律第四四号所得税法の一部を改正する法律の附則第三条第一項により読み替える。))各金九七、五〇〇円を各控除した金四、六五二、五〇〇円に所得税法第一三条に定める税率(前記改正法附則第三条第二項による附則別表第二の当該税率は一〇〇分の四五)を乗じ、これを算出すると金二、〇九三、六二五円となり、さらに、これから前記附則別表掲記の控除額五四四、五〇〇円を控除すると、原告が中山辰郎から源泉徴収して納付すべき所得税は金一、五四九、一二〇円(国税通則法第九一条第一項により一〇円未満の端数を切り捨てる。)となる。
次に、原告は、中山辰郎から右所得税を源泉徴収してこれを法定期限内にこれを納付すべきであつたのに、これを納付しないから国税通則法第六七条により右所得税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を納付すべき義務があり、その税額は金一五四、九〇〇円(同法第九〇条第三項により計算の基礎となる税額が一、〇〇〇円未満のときは切り捨てて計算する。)となる。
四、以上説示のとおり、原告の本件事業年度中における法人税は金五、一七八、九六〇円、無申告加算税は金三二七、八〇〇円、重加算税は金六六五、〇〇〇円であり、また、昭和三七年中の源泉徴収にかかる所得税は金一、五四一、一二〇円、不納付加算税は金一五四、九〇〇円であるから、被告の本件各処分は適法であり、したがつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 丹野達 三井善見 新田誠志)
別紙物件目録<省略>
別表<省略>