大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和57年(ワ)319号 判決 1984年10月03日

原告

涌井チエ子

ほか一名

被告

安藤敏之

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告涌井チエ子に対し金一〇九四万六一七五円及び内金九九三万六一七五円に対する昭和五四年六月二四日から完済まで、原告涌井衛に対し金一〇五万円及び内金九六万円に対する同五七年八月一八日から完済まで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

五  ただし、被告らが、各自、原告涌井チエ子に対し金四〇〇万円、原告涌井衛に対し金四〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告涌井チエ子(以下「原告チエ子」という。)に対し、金八九三八万五三一一円及び内金七八三八万五三一一円に対する昭和五四年六月二四日から完済まで、原告涌井衛(以下「原告衛」という。)に対し、金六六〇万円及び内金六〇〇万円に対する同五七年八月一八日から完済まで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 昭和五四年六月二三日午後一時一〇分頃、原告衛運転の普通乗用自動車(福島五六ひ七三六三、以下「原告車両」という。)が福島県福島市下鳥渡字新町四五番地先の信号機のない十字路交差点(以下「本件交差点」という。)に下鳥渡方面から東北自動車道路福島西インターチエンジ入口方面へ向かい、北進して進入した際、折から、原告車両進行中の道路(以下「原告側道路」という。)にほぼ垂直に交差する道路(以下「被告側道路」という。)上を大森方面から右交差点に向け西進してきた被告安藤敏之(以下「被告安藤」という。)運転の普通貨物自動車(群馬四四ひ五九八七、以下「被告車両」という。)と出合頭の衝突をした(以下「本件事故」という。)。

(二) 右事故によつて、原告車両の助手席に同乗していた原告衛の妻である原告チエ子は、頸髄損傷、両肩乳房部以下の両四肢の運動及び知覚の完全麻痺、仙骨部に褥瘡、神経因性膀胱、両肩関節周囲異所性化骨等の傷害を受け、他人の全面的介助を受けなければ、寝起き、食事、排尿排便、入浴等が全くできない状態となつた。

2  責任原因

(一) 被告安藤は、本件交差点の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然同交差点に進入した過失により本件事故を起こし、よつて原告らに後記損害を生ぜしめたものであるから、民法七〇九条に基づき右損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告宏和鉱業株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告車両の所有者であり、自己の為に被告車両を運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 原告チエ子(金一億四八九九万九〇三八円)

(1) 医療費及び差額ベツド料(金一二四六万七九七〇円)

期間 本件事故発生の日である昭和五四年六月二三日(以下「本件事故日」という。)から退院日である同五七年七月一五日までの合計一一一九日間(原告チエ子は、本件事故日から同五四年七月一三日までは医療法人神岡病院に、同日から同五七年七月一五日までは福島県立リハビリテーシヨン飯坂温泉病院に入院した。)

医療費 金一〇六九万六七七〇円

差額ベツド料 金一七七万一二〇〇円

(2) 文書料(金一六万二三八〇円)

期間 本件事故日から同五八年六月三〇日まで

内容 診断書、診療報酬明細書代等

(3) 入院雑費(金一一一万九〇〇〇円)

期間 本件事故日から退院日までの合計一一一九日間

内訳 一日当り金一〇〇〇円の割合による雑費を要した。

(4) 付添看護料(金一一八一万三一六四円)

期間 事故日から同五八年六月三〇日まで

内訳 事故日から同五七年七月一五日まで金八七七万二九二四円

同年七月一六日から同五八年六月三〇日まで金三〇四万〇二四〇円(但し、このうち四日分は一日当り金三〇〇〇円の割合による家族付添費である。)

(5) 家屋増改築費等(金二八四万六〇〇〇円)

内訳 家屋増改築費 金二六八万九〇〇〇円

移動式平行棒 金一五万七〇〇〇円

(6) 家族看護交通タクシー代(金二一万八八一〇円)

期間 本件事故日から退院日まで

内訳 事故日から同五七年五月四日までの四〇日分金 二〇万七八一〇円

同年五月五日、同月二二日、同年六月四日、同月一五日の四日分金一万一〇〇〇円

(7) 介護料(金六五七五万七四〇七円)

期間 退院日の翌日である同五七年七月一六日から同九八年九月まで(なお、退院日当時三九歳であつた原告チエ子の同五五年簡易生命表による平均余命は四一・二六年である。)

算出根拠 退院日当時の家政婦基本料金が一日当り金五四〇〇円、夜間割増料が金二八〇〇円であるから、介護料として一日当り合計金八二〇〇円を要する。

算式 金八二〇〇円×三六五日×二一・九七〇四(ホフマン係数)=金六五七五万七四〇七円

(8) 自宅治療必要経費(金八〇一万九一九六円)

期間 退院日から同九八年九月まで

算出根拠 紙おむつ、ガーゼ、脱脂綿、バンソウコウ等の経費が一日当り平均金一〇〇〇円の割合で必要となる。

算式 金一〇〇〇円×三六五日×二一・九七〇四(ホフマン係数)=金八〇一万九一九六円

(9) 通院タクシー代(金六八万五四七六円)

期間 退院日の翌日から同九八年九月まで

算出根拠 原告チエ子の自宅から福島県立リハビリテーシヨン飯坂温泉病院までの往復タクシー代が金五二〇〇円かかり、二ケ月に一回の割合で右期間通院すると、右金額のタクシー代を要する。

算式 金五二〇〇円×年六回×二一・九七〇四(ホフマン係数)=金六八万五四七六円

(10) 休業損害(金五五〇万一〇三九円)

期間 本件事故日から症状固定日である同五七年四月三〇日までの合計一〇四三日間

算出根拠 昭和五五年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計年齢階層別平均給与による年収金一九二万五一〇〇円を基礎に計算すると次のとおりとなる。

算式 金一九二万五一〇〇円÷三六五日×一〇四三日=金五五〇万一〇三九円

(11) 逸失利益(金三五二四万八一四七円)

期間 症状固定日の翌日である同五七年五月一日から同八五年四月三〇日までの二八年間

算出根拠 同五六年度賃金センサス産業計企業規模計年齢階層別平均給与による年収金二〇四万六八〇〇円及び同五七年五月一日当時における原告チエ子の就労可能年数である二八年間を基礎に計算すると次のとおりとなる。

算式 金二〇四万六八〇〇円×一七・二二一一(ホフマン係数)=金三五二四万八一四七円

(12) 入院慰謝料(金六五〇万円)

期間 本件事故日から退院日までの合計一一一九日間

算出根拠 原告チエ子が本件事故によつて、入院中に受けた精神的、肉体的苦痛は極めて大きく、その慰謝料は金六五〇万円を下らない。

(13) 後遺症慰謝料(金四〇〇〇万円)

原告チエ子は同五七年四月三〇日、一級三号の後遺症で症状が固定し、生涯全面介護を要する状態であり、この苦しみは、生命侵害に比し優るとも劣らない程で、筆舌に尽し難く、これを慰謝するには金四〇〇〇万円が相当である。

(14) 弁護士費用(金一三〇〇万円)

原告チエ子は原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任し、その報酬として認容額の一割を支払うことを約した。右金額はその内の一部を請求するものである。

(二) 原告衛(金六六〇万円)

(1) 慰謝料(金六〇〇万円)

原告衛は、同チエ子の受傷により、子供二人を抱えた状態で日常生活上、精神的にも経済的にも計り知れない苦痛を被つたものであり、これを慰謝するには金六〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用(金六〇万円)

原告衛は、原告ら訴訟代理人に対し本件訴訟の遂行を委任し、認容額の一割の報酬を支払うことを約した。

4  よつて、原告らは、被告安藤に対し不法行為責任に基づき、被告会社に対し自賠法の運行供用者責任に基づき、各自、原告チエ子について、前記損害額の一部である金八九三八万五三一一円及び内金七八三八万五三一一円に対する本件事故日の翌日である昭和五四年六月二四日から完済まで、原告涌井衛について、金六六〇万円及び内金六〇〇万円に対する本件事故日の後である同五七年八月一八日から完済まで、それぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) 同1(一)のうち、本件事故が出合頭の衝突事故であつたことは知らず、その余の事実は認める。

(二) 同1(二)のうち、本件事故によつて原告チエ子が傷害を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

2  同2について

(一) 同2(一)は否認する。

(二) 同2(二)のうち、被告会社が被告車両の所有者であり、運行供用者であることは認める。

3  同3について

(一) 同3(一)の(1)、(2)のうち、原告ら主張の費用を要したことは認めるが、金額は知らない。

同(3)の金額は争う。一日六〇〇円の割合とすべきである。

同(4)のうち職業的付添人費用の金額は知らない。家族付添人費用の金額は争う。

同(5)は本件事故との相当因果関係を否認し、その金額も争う。

同(6)も事故との相当因果関係を否認する。

同(7)は金額を争う。一日三〇〇〇円の割合とし、中間利息控除はライプニツツ式によるべきである。

同(8)は否認する。

同(9)は争う。この費目については不確定要素が多いので、後遺症慰謝料に含めて考えるべきである。

同(10)のうち算出期間は認め、その余は争う。

同(11)のうち算出期間は認め、その余は争う。主婦の逸失利益算定については、事故発生年度の賃金センサスによるべきである。また、中間利息の控除はライプニツツ式によるべきである。

同(12)、(13)は争う。

同(14)のうち原告チエ子が原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは認め、その余は知らない。

(二) 同3(二)の(1)は争う。

同(2)のうち原告衛が原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは認め、その余は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

(一) 原告側道路の幅員は二・七メートル、被告側道路の幅員は三・二メートルであり、右両道路の相互の見通しが極めて悪いから、原告衛は本件交差点の安全を十分確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然同交差点に進入した過失により被告車両の発見が遅れ本件事故を発生させたものであるから、本件事故の発生につき、同原告にも重大な過失があつたものであり、右過失割合は七割を下らないから、原告衛に対する被告らの損害賠償額を算定するに当り、右割合による過失相殺を行うべきである。

(二) 原告衛は原告チエ子の夫であるから、同原告に対する被告らの損害賠償額の算定についても、原告衛の右過失を原告チエ子側の過失として斟酌し、右と同様の過失相殺を行うべきである。

2  損益相殺(損害の填補)

原告チエ子は、本件事故により被つた損害について次のとおり合計金五四九四万五五三二円の填補を受けた。

(一) 日新火災海上保険株式会社から支払われた分

(1) 治療費 金一一四一万六一八八円

(2) 付添看護費 金八〇〇万二〇五四円

(3) 入院諸雑費 金二四万八五〇〇円

(4) 頸椎装具類 金八万八七九〇円

(二) 自動車損害賠償責任保険から後遺障害に対する保険金として支払われた分

金三五一九万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

(一) 同1(一)のうち、被告側道路の幅員が三・二メートルであること、被告側道路から原告側道路に対する見通しが極めて悪いことは認め、原告側道路から被告側道路に対する見通しが極めて悪いことは知らず、その余は争う。

(二) 同1(二)のうち、原告衛が原告チエ子の夫であることは認め、その余は争う。

2  抗弁2は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

1  昭和五四年六月二三日午後一時一〇分頃、原告衛運転の原告車両が信号機のない本件交差点に進入した際、原告側道路にほぼ垂直に交差する被告側道路上を進行してきた被告安藤運転の被告車両と衝突したこと、右事故により原告チエ子が傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第二号証の一、第二八、第三〇ないし第三二号証、第三三号証の二、第三六、第三七、第四二、第四五、第四七、第四八号証、証人三浦英男の証言及び原告衛本人尋問の結果によれば、原告車両は鳥川街道方面から成川方面へ向けて北進し、被告車両は大森方面から荒井方面へ向けて西進し、それぞれ本件交差点に進入したこと、同交差点は一時停止その他の交通規制も行われていなかつたこと、本件事故は出合頭の衝突であつたこと、原告チエ子は原告衛の妻であり、右事故当時原告車両の助手席に同乗していたこと、本件事故によつて原告チエ子が受けた傷害は頸髄損傷であること、同原告は昭和五四年六月二三日から同年七月一三日まで医療法人神岡病院において、同日から同五七年七月一五日まで福島県立リハビリテーシヨン飯坂湯泉病院においてそれぞれ入院治療を受け、同年四月三〇日に症状が固定し、頸髄損傷による四肢痙性麻痺、神経因性膀胱との後遺障害診断を受けたこと、他方、同五五年福島県によつて身体障害者等級表による一級の、その後群馬県共済連によつて後遺障害等級一級三号の各認定を受けたこと、同五九年現在においても他人の全面的介助なしには起居、排尿・排便、食事等が全くできない状態であることが認められる。

二  被告らの責任

1  被告安藤の責任

(一)  被告側道路の幅員が三・二メートルであることは当事者間に争いがなく、前掲甲第三〇、第三一、第三七、第四五号証及び原告衛本人尋問の結果によれば、原告側道路の幅員は三・七メートルであること、被告側道路と原告側道路の相互の見通しは極めて悪く(被告側道路から原告側道路への見通しが悪いこと自体は当事者間に争いがない。)、両道路の間にりんご畑があり、被告側道路の南側に、道路沿いに高さ一・三メートルの柴の垣根が本件交差点から約三〇メートルの距離に亘り設けられている上、同交差点付近に消防ポンプ小屋が存在すること、また、被告側道路から右方道路への、原告側道路から左方道路への各見通しも困難なこと、被告安藤は本件事故当時被告側道路を進行するのは初めてであり、本件交差点の存在も知らなかつたこと、被告車両は時速約四〇キロメートルで被告側道路を西進中、本件交差点の手前約三六メートルの地点で、同交差点の西側入口付近に対向車が停止した(以下、同車を「停止車」という。)のを認めたこと、被告安藤は、道路幅が狭いので擦れ違いのために右停車をしてくれたものと考え、被告車両を時速約二〇キロメートルに減速して進行し、本件交差点の手前約二〇メートルの地点に到つた際同交差点の存在に気づき、右停止車を待たせないように早く擦れ違おうと思い右速度でそのまま進行したところ、被告側道路上の右交差点入口直前で同交差点に向けて北進中の原告車両を約七・九メートル斜め左方に発見し、急ブレーキを掛けたが間に合わず、被告車両左前部を原告車両前部に衝突させたこと、以上の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  右事実によれば、被告安藤は、本件交差点が信号機その他による交通整理の行われていない左右の見通しの困難な状況にあつたから、徐行して交差道路を通行する車両の有無に注意して交通の安全を確認すべき注意義務があつたと言うべきであり、同被告はそれにもかかわらずこれを怠り、対向車である前記停止車との擦れ違いに気を取られ、交差道路に対する安全を確認することなく、漫然時速約二〇キロメートルで本件交差点に進入した点で過失が存し、同過失によつて本件事故を惹起したものと認めることができる。

従つて、同被告は、民法七〇九条に基づき不法行為責任を負うべきである。

2  被告会社の責任

被告会社が被告車両の所有者であり、運行供用者であることは、当事者間に争いがないから、被告会社は自賠法三条の運行供用者責任を負うべきである。

三  損害

1  原告チエ子の損害

(一)  医療費及び差額ベツド料金 金一二五六万八七八〇円

成立に争いのない甲第二号証の二、第三号証の二ないし七、第四ないし第二四及び第六四号証の各二によれば、原告チエ子が前記一の2のとおり治療を受けた医療費として合計金一〇八六万八〇八〇円を要したこと、成立に争いのない甲第五六号証の二、三及び原告衛本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五二号証によれば、右入院治療の差額ベツド料金が合計金一七〇万〇七〇〇円であつたことが認められる。原告チエ子は、差額ベツド料金として金一七七万一二〇〇円を主張するが、右認定額との差額金七万〇五〇〇円を認めるに足りる証拠はない。

(二)  文書料 金一四万六七〇〇円

前掲甲第三号証の二、七、第四ないし第二四号証の各二及び成立に争いのない甲第五八号証の一ないし一〇によれば、原告チエ子は診断書、診療報酬明細書等の文書代として合計金一四万七三八〇円を支出したことが認められるが、右甲第五八号証の八ないし一〇によれば、右金額のうち金六八〇円は住民票代、戸籍謄本代、所得額証明書代として支出されたことが認められ、これらについては本件事故との相当因果関係が明らかでないから、原告チエ子の損害としては右金額を差し引いた金一四万六七〇〇円を認めるのが相当である。

(三)  入院雑費 金七八万三三〇〇円

原告チエ子が昭和五四年六月二三日から同五七年七月一五日までの合計一一一九日間入院したことは前記認定のとおりであり、同原告の前記傷害の程度、入院期間及び弁論の全趣旨によれば、その入院雑費としては、一日当り金七〇〇円の割合による合計金七八万三三〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

(四)  付添看護料 金八七七万〇九二四円

前掲甲第二号証の一及び成立に争いのない甲第三ないし第二四号証の各一によれば、原告チエ子は右入院期間中付添看護を要する状態であつたことが認められ、成立に争いのない甲第五七号証の一ないし一八及び原告衛本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五三、第五四、第六六号証によれば、右期間中、職業的付添人による看護料として、合計金八七三万一九二四円を要したことが認められる。

また、前掲甲第五三及び第六六号証によれば、右入院期間中合計一三日間近親者による付添看護を受けたこと、そのうちの同五四年七月になされた合計四日間は職業的付添人も付いていたことが認められるところ、原告チエ子の前記傷害の程度及び弁論の全趣旨によれば、職業的付添人が付いていても右四日間について近親者による付添が必要であつたことが認められ、近親者の付添費は一日当り金三〇〇〇円が相当であるから右一三日分として金三万九〇〇〇円を認めるのが妥当である。

原告チエ子は、本件事故日から同五七年七月一五日までの付添看護料として金八七七万二九二四円を主張するが、右認定額の限度でこれを認めるのが相当である。

なお原告チエ子は同原告の退院後についても付添看護料を主張するが、これは後記(七)の介護料の問題として考えるのが妥当である。

(五)  家屋増改築等費用 金二〇〇万円

原告衛本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五〇号証、第六一号証の一ないし三及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五一号証並びに原告衛本人尋問の結果によれば、原告チエ子は退院後自宅の中を車椅子で移動する状態であり、医師から自宅でのリハビリテーシヨンをすすめられ、これらの目的に合わせるため、家屋の増改築を余儀なくされ、その家屋増改築工事に金二六三万九〇〇〇円、移動式平行棒に金一五万七〇〇〇円、合計金二七九万六〇〇〇円を要したことが認められる(原告チエ子は金二八四万六〇〇〇円を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)が、右甲第五〇、第五一号証及び原告衛本人尋問の結果によれば、右家屋増改築工事の中には、壁耐火ボード、天井耐火ボード、天井吸音板等本件事故との相当因果関係が必らずしも明らかでない工事も含まれているので、これらの点を考慮し、右相当因果関係を肯定できる工事としては金二〇〇万円と認めるのが相当である。

(六)  家族が看護のために要した交通費 金二万三四〇〇円

入院期間中近親者の付添を要したのは一三日間であることは前記認定のとおりであり、前掲甲第五三及び第六六号証によれば、右付添は昭和五四年六月二三日、同月二七日から同年七月二日までの六日間、同月四日ないし同月一三日の間の二日間、同月一四日ないし同月二八日の間の二日間、及び同五七年六月一五、一六日になされたことが認められ、原告らが同五六年六月一四日に従来の住所であつた福島市大森字下原田六九番地の二から同市方木田字樋口二六番地の一〇へ転居したことが記録上明らかであるから、右一三日間の原告ら住所から福島県立リハビリテーシヨン飯坂温泉病院までの往復交通費としては、バス、電車等の交通機関を利用することを前提として、経験則上金二万三四〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

原告チエ子は全部タクシーを利用したことを前提として、金二一万八八一〇円を主張するが、右認定額の限度で認めるのが妥当である。

(七)  介護料 金二五二四万九六七八円

原告チエ子が昭和五七年七月一五日に退院したことは前記のとおりであり、同日当時、同原告は三九歳であつたから同五五年簡易生命表による同日当時の同原告の平均余命は四一・二六年である。そして前出甲第五七号証の三ないし一八によれば、原告チエ子は退院後も職業的付添人を依頼したことが認められるけれども、退院後四一年余の間の自宅療養期間中、職業的付添人を付さなければならない必要性を認むべき証拠はないから、右退院後一時期職業的付添人を依頼した点をも考慮し、昭和五七年七月の退院当時を基準として、右退院後同九八年九月までの介護料として一日当り金四〇〇〇円をもつて、相当因果関係内の介護料と認めるのが相当であるから、次の算式によつて合計金二五二四万九六七八円となる。

金四〇〇〇円×三六五日×一七・二九四三(ライプニツツ係数)=金二五二四万九六七八円

なお、原告チエ子は、請求原因3(一)(4)において、同五七年七月一六日から同五八年六月三〇日までの付添看護料(これは右にいう介護料と同じものを指す趣旨と解される。)として金三〇四万〇二四〇円を主張し、さらに同五七年七月一六日から同九八年九月までの介護料として金六五七五万七四〇七円を主張しているが、右限度で認めるのが相当である。

(八)  自宅治療必要経費 金三一五万六二〇九円

成立に争いのない甲第五九号証の一ないし一二によれば、原告チエ子は退院以後紙おむつ、ガーゼ、脱脂綿、バンソウコウ等の購入費を支出したことが認められるが、同人の前記のような重篤な後遺障害及び右購入費の出捐状況等からして、自宅治療必要経費は退院日の翌日から昭和九八年九月(退院日の翌日当時の同原告の平均余命である四一・二六年を基準とする。)まで一日当り平均金五〇〇円の割合で必要となると認めるのが相当であるから右期間中次のとおり合計金三一五万六二〇九円となる。

金五〇〇円×三六五日×一七・二九四三(四一年のライプニツツ係数)=金三一五万六二〇九円

原告チエ子は、一日当り金一〇〇〇円の割合の金額を主張しているが、右限度で認めるのが相当である。

(九)  通院タクシー代 金三万五八四〇円

成立に争いのない甲第六〇号証の五ないし一一によれば、原告チエ子が昭和五七年八月から同年一二月までの間に合計七回福島県立リハビリテーシヨン飯坂温泉病院にタクシーで通院したこと、そのタクシー代が合計金三万五八四〇円かかつたことが認められる。しかし、それ以後も通院を継続したこと及び将来に亘つて原告チエ子が主張するように二ケ月に一回の割合で通院する蓋然性を認めるに足りる証拠はない。

(一〇)  休業損害 金五四〇万七九一七円

前掲甲第三二、第四七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告チエ子は昭和一八年三月二四日生れで、本件事故当時銀行員であつた夫の原告衛との間に一〇歳と九歳の二人の娘を有する主婦であつたことが認められ、同五四年六月二三日本件事故が発生し、同五七年四月三〇日同原告の症状が固定したが、この間全く働くことができなかつたことは前記認定のとおりである。

然して、同原告は、右期間稼働できなかつたことにより、同五四年には少なくとも同年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者学歴計三五歳ないし三九歳の年平均収入(以下「賃金センサスによる年平均収入」という。)金一七五万八一〇〇円(同原告は、この点についても同五五年度の賃金センサスによる年平均収入を基準とすべき旨主張するが、妥当でない。)、同五五年以降は同年賃金センサスによる年平均収入金一九二万五一〇〇円の各得べかりし利益を失つたと認めるのが相当であるから、同原告の同五四年六月二三日から同五七年四月三〇日までの休業損害は、左のとおり金五四〇万七九一七円となる。

(1) 同五四年六月二三日から同年一二月三一日まで(一九二日間)の分

金一七五万八一〇〇円×一九二日÷三六五日=金九二万四八〇八円

(2) 同五五年一月一日から同年一二月三一日までの分

金一九二万五一〇〇円

(3) 同五六年一月一日から同年一二月三一日までの分

金一九二万五一〇〇円

(4) 同五七年一月一日から同年四月三〇日まで(一二〇日間)の分

金一九二万五一〇〇円×一二〇日÷三六五日=金六三万二九〇九円

(1)ないし(4)の合計 金五四〇万七九一七円

(一一)  逸失利益 金三〇四九万三四三一円

原告チエ子の後遺障害等級が第一級であることは前記のとおりであるから、同原告の労働能力喪失率は一〇〇パーセントであり、同原告は本件事故に遇わなければ症状固定日の翌日である同五七年五月一日から同八五年四月三〇日までの二八年間就労が可能であつたと言うべきであるから、同五六年賃金センサスによる年平均収入金二〇四万六八〇〇円を基準として同原告の逸失利益を計算すると、次のとおり金三〇四九万三四三一円となる。

金二〇四万六八〇〇円×一四・八九八一(二八年のライプニツツ係数)=金三〇四九万三四三一円

(一二)  入院慰謝料 金三五〇万円

昭和五四年六月二三日に本件事故が発生し、原告チエ子が同日から同五七年七月一五日までの合計一一一九日間入院していたことは前記のとおりであり、右入院による同原告の精神的、肉体的苦痛を慰謝するには金三五〇万円が相当である。

(一三)  後遺症慰謝料 金一六〇〇万円

原告チエ子が本件事故による傷害について後遺障害等級一級三号の認定を受けたことは前記のとおりであり、右後遺症による同原告の精神的、肉体的苦痛を慰謝するには金一六〇〇万円が相当である。

2  原告衛の損害(慰謝料) 金一六〇万円

原告衛本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同原告は原告チエ子の前記受傷によつて同原告が死亡した場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けたものと認められるが、原告チエ子について相当額の後遺症慰謝料を認めたこと等をも考慮すると、原告衛の慰謝料としては、金一六〇万円が相当である。

四  過失相殺

1  前掲甲第三六、第四二号証及び原告衛本人尋問の結果によれば、同原告は原告側道路を以前にもしばしば通つたことがあり、本件交差点の存在を知つていた(同交差点は事故の発生が多いことも知つていた。)ため、同交差点の手前約三三メートルの地点で原告車両の速度を時速約四〇キロメートルから同三〇キロメートルに減速して進行したところ、右交差点の手前約二一メートルの地点で、交差道路の原告側道路から向かつて左側入口付近に前記停止車を発見し、同車が原告車両の通過を待つているものと考え、同停止車の前方を通過するつもりで、クラクシヨンを鳴らして本件交差点手前約七メートルの地点まで進行した際、右斜め前方約七・九メートルの地点に被告車両を発見し、急ブレーキを掛けたが間に合わず、前記のとおり被告車両と衝突したことが認められる(原告衛は、右減速後の原告車両の速度は、時速三〇キロメートルには達していなかつた旨供述するが、前掲甲第三一号証によれば、原告車両のスリツプ痕は右が五・八メートル、左が五・三メートルであることが認められ、この事実と前掲甲第三六号証に照らすと、右供述は信用できない。)。

右事実及び前記二1(一)の事実によれば、原告側道路から交差道路に対する左右の見通しが悪かつたから、徐行して特に被告側道路(これと反対側の道路には前記停止車が存していたから、同道路については安全確認の注意義務が軽減されるであろう。)から本件交差点に進入してくる車両の有無に注意して交通の安全を確認すべき注意義務があつたと言うべきであり、それにもかかわらず原告衛はこれを怠り漫然前記時速約三〇キロメートルで本件交差点に進入した過失があつたと認められる。そして、右過失は本件事故の一因となつているから、前記各事実その他諸般の事情を考慮し、本件においては被告らの原告衛に対する損害賠償額の算定に当り、四〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

原告衛は、被告側道路に自動車が進行している際には、原告側道路からそれを見ると前記柴の垣根越しに右自動車の屋根が見える程度であるところ、同原告は本件交差点手前約四〇メートルの地点において被告側道路の方を見たが、自動車の屋根は見えなかつた旨供述し、前掲甲第三六号証中にもこれに沿う部分があるが、前記のとおり、同原告が右交差点手前約七メートルの地点に到るまで被告車両の存在に全く気づいていなかつた事実に照らし、仮に右供述のとおり同原告が右交差点手前約四〇メートルの地点で被告側道路の方を見たとしても、それは同交差点に進入する際に必要な安全確認の方法としては全く不十分なものであると言わざるを得ず、右過失相殺の判断に影響を与えるものではない。

しかるとき、原告衛の前記慰謝料金一六〇万円から四〇パーセントの過失相殺をすると、同原告の損害額は金九六万円となる。

2  原告衛が原告チエ子の夫であることは当事者間に争いがなく、前記のとおり、本件事故は原告衛が運転する原告車両に原告チエ子が同乗していた際に発生したものであるから、被告らの原告チエ子に対する損害賠償額の算定についても、右衛の過失を原告チエ子側の過失として斟酌し、右と同様に四〇パーセントの過失相殺をすべきである。

しかるとき、原告チエ子の前記損害額を合計すると金一億〇八一三万六一七九円となり、これから四〇パーセントの過失相殺をすると、同原告の損害額は金六四八八万一七〇七円(一円未満切り捨て)となる。

五  損害の填補

原告チエ子が本件事故により被つた損害について合計金五四九四万五五三二円の填補を受けたことは当事者間に争いがないから、前記過失相殺後の金額からこれを控除すると、同原告の損害額の残額は金九九三万六一七五円となる。

六  弁護士費用

原告らが前記損害金の任意の支払を受けられないために本訴の提起及び遂行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任することを余儀なくされたことは、弁論の全趣旨により明らかであるところ(原告らが本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは当事者間に争いがない。)、本件事案の難易、審理の経過、前記認容額等諸般の事情に照らすと、原告らが被告らに対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうる弁護士費用としては、原告チエ子について金一〇一万円、原告衛について金九万円をもつて相当とする。

七  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して、原告チエ子について金一〇九四万六一七五円及びこれから弁護士費用金一〇一万円を除いた金九九三万六一七五円に対する本件事故日の翌日である昭和五四年六月二四日から完済まで、原告衛について金一〇五万円及びこれから弁護士費用金九万円を除いた金九六万円に対する本件事故日の後である同五七年八月一八日から完済まで、それぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九三条一項本文、九二条、八九条を、仮執行の宣言及びその免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤一男 山口忍 寺内保恵)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例