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福島地方裁判所いわき支部 平成8年(ワ)52号 判決 1998年3月25日

呼称

原告

氏名又は名称

株式会社ミスミ

住所又は居所

東京都江東区東陽二丁目四番四三号

代理人弁護士

野間昭男

代理人弁護士

原口健

代理人弁護士

神田英一

代理人弁護士

土井智雄

代理人弁護士

佐伯美砂紀

復代理人弁護士

志賀正浩

呼称

被告

氏名又は名称

テイエスケー株式会社

住所又は居所

福島県いわき市泉町黒須野字江越二四六番地の一六

代理人弁護士

折原俊克

主文

一  被告は、別紙カタログ目録一記載のカタログの一部又は全部を複製又は翻案してはならない。

二  被告は、別紙カタログ目録二及び三記載の各カタログの制作、発行、販売、譲渡、配達、頒布若しくは販売のための展示又は貸与をしてはならない。

三  被告は、別紙カタログ目録二及び三記載の各カタログ及びこれらの半製品並びにこれらに関する印刷用紙型、亜鉛版、フィルム、版下などの印刷用原版及びハードディスク、フロッピー、CD―ROM、電磁フィルムなど電磁的複製及び電磁印刷用の原版と記録媒体を廃棄せよ。

四  被告は、原告に対し、四八六九万八七六五円及び内一九七四万〇二八一円に対する平成八年一月一日から、内二八九五万八四八四円に対する平成八年一〇月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員並びに平成八年一〇月一日から被告が第一項から第三項記載の義務を履行するまで、一か月三〇〇万円の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文第一から第四と同旨

第二  事案の概要

本件は、被告が制作、発行、頒布した別紙カタログ目録二及び三記載の各カタログ(以下それぞれ「被告初版カタログ」及び「被告改訂版カタログ」という。)が、原告が制作、発行、頒布した別紙カタログ目録一記載のカタログ(以下「原告カタログ」という。)の複製物又は翻案物であり、原告は著作権及び著作者人格権を侵害されたと主張して、著作権法上一二条一項に基づき著作権侵害行為の差止め、同条二項に基づき被告初版カタログ及び被告改訂版カタログ等の廃棄及び不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いがない事実

1  当事者

(一) 原告は、商業登記簿上、プレス、プラスチック金型用部品及び金型製造一連に使用する消耗品、産業用自動組立機部品、自動加工機部品、自動検査機部品及び産業用ロボットの部品並びに電子機器等の開発、販売及び輸出入等を目的欄に掲げる株式会社であり、実際上も、金型用部品、産業用自動組立機・自動加工機(FA)用メカニカル部品、電子機器部品、工具及び工場消耗品などの物品について、カタログを作成し、右カタログを通じて顧客の注文を受け付け、通信販売をするという業務を行っている。

そして、原告カタログの編集・発行人として表示されているものである。

(二) 被告は、平成元年一二月竹内精工株式会社(以下「竹内精工」という。)の関連会社として設立された資本金一六〇〇万円の株式会社であって、商業登記簿上、各種軸受の販売、産業用ロボット及び部品の販売、金属工作機械、金属加工機械及びその部品の販売、計測機器、電気、電子応用機器及び部品の販売並びに包装、荷造機械及びその部品の販売等を目的欄に掲げているものである。

そして、被告初版カタログ及び被告改訂版カタログの発行者として表示されているものである。

2  被告初版カタログの配付

被告は、平成七年七月ころ被告初版カタログを一万五〇〇〇部制作し、顧客に約一万二〇〇〇部頒布した。

3  被告改訂版カタログの配付

被告は、平成七年一二月下旬被告改訂版カタログを制作発行し、平成八年一月からこの改訂版カタログにより通信販売を開始した。

4  被告の売上高及び売上原価

(一) 被告の平成七年五月一日から同年一二月三一日までの被告初版カタログを利用した通信販売による売上高は一四九五万〇三一四円であり、売上原価は一一六二万〇〇三三円である。

(二) 被告の平成七年一〇月一日から平成八年九月三〇日での売上総利益は三二五三万二二二〇円である。また、右期間の保険代理店収入は六一万八五六四円であり、保険代理店収入には変動費は存在しない。それから、被告の平成七年一〇月から同年一二月までの通信販売による粗利益は合計二九五万五一七二円である。

二  争点

1  原告カタログの著作物性

(一) 原告の主張

原告カタログは、原告がカタログによる販売事業を生成展開する過程において、二年以上の準備期間を費やし、延べ五〇〇人以上の者を制作、編集作業に関与させて作成したものであって、顧客の便宜を追求するために自動機械用部品に関する情報を独創的に選択、配列したものとして多くの特色があり、素材の選択及び配列において独創性を有する編集著作物である。

(二) 被告の主張

原告カタログは、他のカタログの模倣や竹内精工の提供した図面や資料に基づいて作成されており、原告カタログと類似した内容のカタログも存在していて、独創性に欠け、著作権の対象とならない。

2  被告の著作権侵害行為の有無

(一) 原告の主張

別紙対照表(なお、この対象表において「本件書籍」とは被告初版カタログをいう。)によれば、被告初版カタログは原告カタログの複製物又は翻案物というべきである。

また、被告改訂版カタログは、被告初版カタログと実質的に同一のものであり、被告初版カタログにおいて使用例が図面やイラストで表示されているのが割愛されている点を除き、被告初版カタログと同一の特徴を有している。

(二) 被告の主張

別紙相異対象表一(なお、この対象表において「甲四書籍」とは被告初版カタログを、「甲二書籍」とは原告カタログをそれぞれいう。)のとおり、相違点があるため、被告初版カタログは原告カタログの複製物又は翻案物ではない。また、被告初版カタログの技術データの部分はいずれも日本工業規格(JIS)からの抜粋、竹内精工の技術データ及び日本国内のメーカーの資料に基づき作成したものである。

また、被告改訂版カタログは、被告初版カタログと別紙相異対照表二(なお、この対象表において「初版カタログ」とは被告初版カタログを、「本件カタログ」とは被告改訂版カタログをそれぞれいう。)のような相違点があり、原告カタログと別紙相異対照表三(なお、この対象表において「FACEカタログ」とは原告カタログを、「EAGLEカタログ」とは被告改訂版カタログをそれぞれいう。)のような相違点がある。

3  損害額

(一) 原告の主張

(1) 著作権法一一四条一項により推定される利益は、粗利益と解するのが相当であり、侵害者は変動費用の額を主張立証して、過大な賠償額の支払を免れることができるというべきである。

被告の平成七年五月一日から同年一二月三一日までの被告初版カタログを利用した通信販売による粗利益は、前記一4(一)によれば、平成七年五月一日から同年一二月三一日までの売上高から売上原価を差し引いた残額の三三三万〇二八一円である。

また、被告の平成八年一月一日から同年九月三〇日までの被告改訂版カタログを利用した通信販売により粗利益は、前記一4(二)によれば、平成七年一〇月一日から平成八年九月三〇日での売上総利益から右期間の保険代理店収入及び平成七年一〇月から同年一二月までの通信販売による粗利益を差し引いた残額の二八九五万八四八四円である。

そして、被告の平成八年一〇月一日以降の被告改定版カタログを利用した通信販売による粗利益は一か月三〇〇万円を下らない。

(2) 原告が、著作権侵害行為により被告に信用を毀損されたことによる損害は一〇〇〇万円を下らない。

(3) 弁護士費用は六四一万円が相当である。

(二) 被告の主張

著作権法一一四条一項により推定される利益は、純利益と解するのが相当であり、被侵害者は変動費用の額をも主張立証すべきである。

また、被告の平成八年一月一日から同年九月三〇日までの被告改訂版カタログを利用した通信販売により粗利益は、通信販売の特質からカタログ制作費なども変動費として控除されるべきであり、これら変動費(カタログ経費を含む仕入費、外注費、運賃)を差し引いた残額の一三七〇万二七一五円である。

純利益は、これから固定費を差し引くため、五八五万六三二三円の損失となる。

また、原告が主張する粗利益には、原告カタログに登載されてないし、原告が商品として扱っていない商品で、被告が取り扱っている商品による利益が含まれている。この点からも原告の請求は過大である。

第三  争点に対する判断

一  争点1(原告カタログの著作物性)について

1  甲第二、一五号証及び証人河原政秀の証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告カタログには、以下の特徴がある。

(1) 原告が取り扱っているFA用メカニカル部品について、リニアシャフト・シャフトホルダ、ボールねじ・台形ねじ、カム等の種類ごとに区分し、商品一種類ごとに見開き二ページないし一ページに写真、材質、図面、規格表(注文サイズの表)、注文方法、納期、使用例、価格、オプション等の情報を掲載している。

(2) 規格表は、部品の構成部分ごとに細かくサイズを分けて掲載し、顧客の注文に広範に対応できるようになっており、顧客も注文にあたり用意に必要なサイズの部品を選択できるようになっている。

(3) 注文方法の欄は、注文に必要な記号及び具体例を掲載しており、注文する場合にどのような寸法を連絡すればよいかを明らかにしている。

(4) 納期の欄は、納期が「一日目発送」、「五日目発送」のように一目でわかるようにマーク化して表示されており、また、原告は、緊急に部品を発送するサービスである「ストーク」を採用しているが、このサービスの表示も「ストークA」「ストークB」というようにマーク化して表示されている。

(5) 使用例は、図面やイラストを使用して具体的な使用状況がイメージできるように工夫されている。

(6) 価格の欄は、部品のサイズごとに一覧的に価格が分かるように表示されており、また、一〇個以上等の大口の注文についてはディスカウント幅を明示している。

(7) オプションの欄は、オプションの内容を図面を使って表示するとともに、指示方法、注文方法を具体的に表示して簡便に注文できるようになっており、価格も明示されている。

(8) 表紙裏には、インデックスポジションを設けて、簡単に必要な商品を検索できるように工夫されている。

(9) 巻頭に総合目次が設けられており、総合目次は、原告カタログが扱っている商品を網羅的に写真とともにその製品名、納期及び掲載。ページを明らかにしている。

(10) 総合目次の次は、「FACEご利用にあたって」と題する原告カタログの使用方法について解説したページが一〇ページ設けられている。

(11) 巻末には、顧客が原告カタログにより部品を購入したり、使用を検討するのに必要な技術的情報を、「技術データ」としてJIS規格の中から抽出し、重要度の高いものから順に並べている。

(二) 従来機械部品を中心とする生産財の分野では、顧客のニーズが標準化されていなかったり、同種ではあっても若干異なる部品が極めて多数に及んでいた。このため、商品の選択は極めて煩雑であり、部品メーカーが決定する販売代理店経由の多段階の流通経路が支配的であった上に、見込み生産による在庫をかかえることのリスクを嫌うメーカーの体質もあって、顧客は必要な商品を必要な時に入手することが困難であり、価格体系も複雑かつ割高であって、各顧客は技術者を頼って個別に設計生産したり、町工場に生産委託したり、部品メーカーの販売から不便を忍んで購入する等顧客に不都合な状況が慢性化していた。

原告は、このような状況に着目し、顧客に必要な商品を必要な時に必要な量だけ供給することを目指し、前記のような機械部品について、各顧客が共通して使用できるように標準化した上、各顧客のニーズに応じて標準品を加工するシステムを開発した。このような標準品とその加工寸法を明確な標準表とともに通信販売のカタログに編集し、このカタログを顧客に直接頒布してこれにより顧客から注文を受け、ネットワーク化した協力メーカーに生産を委託し、顧客の希望に応じて標準品の加工を行わせた上で販売を行うというシステムを実現した。原告カタログをはじめとする原告のカタログは、このシステムの中で欠くことのできない要素となっており、顧客のニーズにあった精緻なカタログの作成を目的として、寸法、価格、納期、追加工が有機的に結び合わされ、すべて一目瞭然で分かるようになっている。

(三) 原告カタログの第一版となるカタログが創刊された昭和六三年当時原告の作成したものと類似したカタログは存在していなかった。したがって、原告のカタログ作成スタッフが右カタログを作成した当時他のカタログを参照することはなかった。

原告のカタログ作成スタッフは、自動機械関連の部品を網羅的に拾い上げてこれを大まかなカテゴリーに区分することから作業を始めた。自動機械の部品の構成部分については、当該部品を何に用いるかによって顧客毎に必要とするサイズが違っているため、原告はこのようなきめ細かいニーズに網羅的に対応し、一ミリメートル単位で顧客の選択に応えられるように、協力メーカーにアンケートをしたり、モニターの意見を聴くなど市場調査をして、協力メーカーの担当者を含めると延べ五〇〇人以上の人員で二年以上の準備期間を費やしてカタログの「規格表」を作成した。

その後、約二〇名の原告のカタログ作成スタッフが約六か月以上を費やしてレイアウト等の編集作業や値段設定等行い、原告カタログの第一版となるカタログが昭和六三年創刊された。

また、原告が自動機械関連の部品のカタログの作成に費やした費用は人件費その他を含めると約七億円である。

(四) 原告カタログは、平成七年当時約一万六〇〇〇社の顧客を対象として総数約一五万部が頒布された。

2  以上認定した事実によれば、原告カタログは、顧客のニーズに対応した情報を独創的に有機的に結び合わせて選択及び配列したものであって、表現方法においても表現内容においても、創造性が認められるので著作権法によって保護されるべき編集著作物であると認められる。

3  被告は、原告カタログは、他のカタログの模倣や竹内精工の提供した図面や資料に基づいて作成されており、原告カタログとほぼ同一の内容のカタログも存在していて、独創性に欠け、著作権の対象とならないと主張する。

セリオ株式会社発行のセリオFAパーツカタログ及びセリオニュープライスカタログ(乙第一八号証の一、二)並びにパンチ工業株式会社発行の「パンチ8007」と題するFA用部品カタログ(乙第一九号証)は、前記1(一)に挙げた特徴のいくつかを具備している部分があるが、これらのカタログは、原告カタログの第一版が発行された後に発行されたものであり、証人河原政秀の証言によれば、セリオ株式会社は実態がはっきりしない会社であって、原告は、パンチ工業株式会社に対しては著作権侵害行為として法的な手続をとることを検討し、その他に原告カタログと同様なカタログを作成した会社に対しては内容証明を送ったことが認められ、原告の著作権を侵害するものとして原告が対応しているのであるから、これらのカタログの存在は原告カタログの独創性を認める妨げとはならない。

また、甲第二号証、乙第六号証の一から二四、第七から九号証によれば、原告カタログには、竹内精工が提供した図面やカタログ又は他社のカタログと類似した部分がある。しかし、原告カタログの独創性は、前記2のとおり、顧客のニーズに対応した情報を有機的に結び合わせて選択及び配列したところにあるのであるが、前記の類似した部分は原告カタログの編集方針に沿うものではない上、図面は編集材料となった情報の一つとして用いたということを意味するにすぎず、原告カタログの独創性を認める妨げとはならない。

さらに、被告が証拠として提出しているカタログや商報(乙第一三号証の一から一一、第二〇、二一号証、第二六号証の一から一〇、第二七号証の一から一三)も、原告と同じ編集方針に基づいて作成されたとは認められないから、これらの存在も原告カタログの独創性を認める妨げとはならない。

二  争点2(被告の著作権侵害行為の有無)について

1  甲第二、四号証、第一四証の一から五、乙第一号証、証人三川照雄(以下の認定に反する部分を除く。)、河原政秀の証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告初版カタログには以下のような特徴がある。

(1) 被告が取り扱っている省力自動機用標準アイデア部品について、リニアブッシュ、三〇度台形ねじ、リニアシャフト・シャフトホルダ等の種類ごとに区分し、商品一種類ごとに見開き二ページないし一ページに写真、材質、図面、規格表(注文サイズの表)、注文方法、納期、使用例、価格、オプション等の情報を掲載している。

(2) 規格表は部品の構成部分ごとに細かくサイズを分けて掲載されている。

(3) 注文方法の欄は、注文に必要な記号及び具体例を掲載している。

(4) 納期の欄は、納期が「一日目発送」、「五日目発送」のように一目でわかるようにマーク化して表示されており、また、被告は、製作品を短時間で供給するシステムである特急システム「イーグル」を採用しているが、このサービスの表示も「イーグルA」「イーグルB」というようにマーク化して表示されている。

(5) 使用例は図面やイラストが使用されている。

(6) 価格の欄は、部品のサイズごとに一覧的に価格が分かるように表示されており、また、一〇個以上等の大口の注文についてはディスカウント幅を明示している。

(7) オプションの欄は、オプションの内容を図面を使って表示するとともに、注文方法を具体的に表示し、また、価格も明示されている。

(8) 巻頭に総合目次が設けられており、総合目次は、被告初版カタログが扱っている商品を網羅的に写真とともにその製品名、納期及び掲載ページを明らかにしている。

(9) 総合目次の次は、「EAGLEご利用にあたって」と題する被告初版カタログ使用方法について解説した。ページが一六ページ設けられている。

(10) 巻末には技術的情報を、「技術データ」としてJIS規格の中から抽出して並べてある。

(二) 被告初版カタログには、原告カタログと同一の内容で、図面、使用例等が原告カタログのデッドコピーとしか見られない部分や原告カタログの一部を改変しているにすぎない部分がある。被告初版カタログは、総ページ数が三六〇ページであるが、原告カタログと同一の内容か、一部改変しているにすぎない部分がある。ページは一九二ページに及んでいる。

(三) 被告改訂版カタログには、前記(一)(1)から(3)、(5)から(8)の特徴を有しているほか、出荷の欄は、出荷が二日目発送」、「五日目発送」のように一目でわかるようにマーク化して表示されており、また、被告は、製作品を短時間で供給するシステムである特急システム「イーグル」を採用しているが、このサービスの表示も「イーグルA」「イーグルB」というようにマーク化して表示されている、総合目次の次は、「EAGLE総合カタログの見方」と題する被告改訂版カタログ使用方法について解説したページが一六ページ設けられている、巻末には技術的情報を、「技術資料」としてJIS規格の中から抽出して並べてあるなど被告初版カタログと同様の特徴を有している。

また、被告初版カタログと被告改訂版カタログは、表紙、総合目次、カタログの利用方法、製品の欄、技術的情報など実質的にほぼ同一の内容である。

(四) 三川照雄(以下「三川」という。)は、被告初版カタログ及び被告改訂版カタログの作成責任者であるが、証人尋問において、価格、注文、納期、オプション等が一目で分かるようにマーク化されている点、特急システムとして「イーグルA」「イーグルB」が採用されている点、価格の欄において、一一個以上等の大口の注文について、ディスカウント幅が明示されている点、総合目次において写真、製品名、納期及び掲載ページがそれぞれ記載されている点、総合目次の次に、カタログの利用方法に関する記載が一五ページくらい費やして掲載されている点について、被告改訂版カタログは被告初版カタログと同一の内容が盛り込んであると証言している。

(五) 被告は、平成七年三月に被告初版カタログの作成に着手し、同年七月に完成した。被告初版カタログの作成は、三川と他の被告の社員二名が中心となって、営業活動をしながら作成した。顧客のニーズについては、カタログ作成のために特に調査をしたわけではないが、被告の営業活動の中から知り得た情報を基にした。もっとも、被告は、このような情報を調査資料として蓄積していたのではない。

また、被告改訂版カタログは社員二名が三か月かげて作成した。

しかし、被告の営業活動の中から知り得た情報は被告の商品のみに関するものであって、広範な顧客のニーズについての情報としては不十分であり、このような情報を基に被告のような人数及び期間で被告初版カタログを、他のカタログ等を参考にしたとしても白紙の状態から制作することは不可能である。

以上の認定に反し、証人三川照雄は、証人尋問において、被告初版カタログに原告カタログのデッドコピーとしか見られない部分があるのは、全体のレイアウトの中で、キャドで作ったものについてバランスを考えていったところ、結果的に同じになったと供述しているが、右デッドコピーとしか見られない部分は単純ではないので、右証人の供述のように結果的に同じになるようなものとは考えがたく、また、前記(二)のとおり、被告初版カタログの総ページ数三六〇ページのうち、原告カタログと同一の内容か、一部改変しているにすぎない部分があるページが一九二ページに及んでいることをも考えると、この供述は信用できない。

2  原告カタログの特徴は、前記一1(一)のとおりであるところ、前記1(一)で認定した事実によれば、これと被告初版カタログの特徴を対比してみると、両者は、取り扱っている部品について種類ごとに区分し、商品一個ごとに見開き二ページないし一ページに写真、材質、図面、規格表(注文サイズの表)、注文方法、納期、使用例、価格、オプション等の情報を掲載している点で共通しており、各欄の表示方法、全体の構成も似ていることが認められ、また、被告改訂版カタログの特徴を対比してみると、被告初版カタログとほぼ同様な共通点及び類似点の存在を指摘するこができることが認められ、これに前記1(二)ないし(五)で認定した事実を総合すれば、被告初版カタログ又は被告改訂版カタログは、偶然に原告カタログと類似した形式や内容になったものとは考えることはできないから、原告カタログの主たる部分をそのまま複製若しくは改変したものと認められる。

3  以上に対し、甲第二、四号証によれば、原告カタログと被告初版カタログは、表示に使用する記号の有無や全体を枠組しているか否か等の違いが存在することが認められるが、原告カタログの独創性は、前記一1(二)のとおり、顧客のニーズに対応した情報を有機的に結び合わせて選択及び配列したところにあることを考慮すると、これらは本質的な相違点とはならない。

また、甲第二号証、乙第一号証によれば、原告カタログと被告改訂版カタログは、被告改訂版カタログには、TSKと明示されている点、価格表と規格表の位置が逆である点、製品の型式が異なる点、被告改訂版カタログには被告の独自商品の掲載がある点などの相違点があることが指摘できるが、原告カタログの独創性は前記のとおりであるから、これらはいずれも本質的な相違点とすることはできない。

さらに、甲第四号証、乙第一号証によれば、被告初版カタログの技術データの部分、被告改訂版カタログの技術資料の部分は、日本工業規格(JIS)から抜粋して作成されていることが認められるが、前記一1(一)(11)のとおり、原告カタログの独創性は、巻末に顧客に必要な技術的情報を、「技術データ」としてJIS規格の中から抽出し、重要度の高いものから順に並べていることにあるのであるから、日本工業規格(JIS)から抜粋して作成されていることで、被告初版カタログ又は被告改訂版カタログが原告カタログの主たる部分をそのまま複製若しくは改変したとの認定を覆すに足りる事情といえない。

その他、前記2の認定判断を覆すに足りる事情は認められない。

三  争点3(損害額)について

1(一)  著作権法一一四条一項によれば、著作権者が、故意又は過失によりその著作権を侵害した者に対し、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は当該著作権者が受けた損害の額と推定するものとされている。

このような推定規定が設けられた政策的目的は、自己の著作権を侵害された著作権者が、著作権侵害を理由に不法行為に基づき損害賠償請求をしようとする場合、損害の中心となることが多い逸失利益の範囲の認定及び損害の算定については、侵害者による侵害行為がなかったとしたならば、著作権者が得られただろう利益という現実に生じた事実と異なる仮定の事実に基づく推論をすることになるから、侵害行為と損害の因果関係の存在、損害額算定の基礎となる各種の数額等の証明が困難である場合が多いので、現実に著作権の侵害行為に当たる利用行為をした侵害者がその侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失利益と推定することで、著作権者の損害を証明する方法の選択肢を増やして著作権者の救済を図るとともに、侵害者に推定を覆すための証明をする余地を残して、著作権者に客観的に妥当な逸失利益の損害賠償を得させることにあるものと解される。この推定規定の前提にあるのは、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、本来の著作権者が、同様の方法で著作物を利用するかぎり同じ利益を得られる蓋然性があるという推定を裏付ける社会的事実の認識があると認められる。

したがって、推定の前提事実である侵害者が侵害行為により受けた利益の意味も、財務会計上の利益概念にとらわれることなく、考えられるべきであり、本件において原告は、原告カタログを完成し、これを頒布済みであって、新たに原告カタログの開発費用を支出することも、制作スタッフのために人件費を支出することも必要ないから、原告の逸失利益とは売上高から製造原価を控除した粗利益と考えるのが相当であり、これからさらに当該売上高を得るために必要とされた販売費及び一般管理費等を控除の対象とすることは要しないというべきである。

このように考えても、侵害者に推定を覆すための証明をする余地が残されているから、必ずしも侵害者に制裁的であるということはできない。

以上のとおりであるから、被告が主張するように著作権法一一四条一項により推定される利益は純利益と解することはできない。

(二)  当事者間に争いがない前記第二の一4(一)のとおり、被告の平成七年五月一日から同年一二月三一日までの被告初版カタログを利用した通信販売による売上高は一四九五万〇三一四円であり、売上原価は一一六二万〇〇三三円であるから、右期間の粗利益は、売上高から売上原価を控除した三三三万〇二八一円であると認められ、原告は、平成七年五月一日から同年一二月三一日まで被告が被告初版カタログを作成、発行、頒布したことにより同額の損害を被ったものと認められる。

(三)  当事者間に争いがない前記第二の一3のとおり、被告は平成八年一月から被告改訂版カタログにより通信販売を開始したが、同4(二)のとおり、被告の平成七年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの売上総利益は三二五三万二二二〇円であり、右期間の保険代理店収入が六一万八五六四円である。また、同じく同4(二)のとおり、被告の平成七年一〇月から同年一二月までの通信販売による粗利益合計二九五万五一七二円(なお、乙第一四号証及び証人佐藤久の証言によれば、右金額は月別損益計算書(乙第一四号証)が根拠になっているが、この金額はカタログ作成費用を変動費として控除した後のものである。原告は、右費用は変動費とならないものと主張しており、当裁判所も、後記のとおり、右主張を相当であると認めるものであるが、平成七年一〇月から同年一二月までの通信販売による粗利益について自白が成立しているため、右粗利益の金額については前記月別損益計算書の金額を前提に判断することにする。)である。

これらのことからすれば、被告改訂版カタログによる平成八年一月一日から同年九月三〇日までの粗利益は、前記売上総利益三二五三万二二二〇円から保険代理店収入六一万八五六四円及び平成七年一〇月から同年一二月までの通信販売による粗利益合計二九五万五一七二円を控除した二八九五万八四八四円であると認められ、原告は、平成七年五月一日から同年一二月三一日まで被告が被告改訂版カタログを作成、発行、頒布したことにより同額の損害を被ったものと認められる。

(四)  被告の平成七年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの通信販売による粗利益は、右期間の売上総利益三二五三万二二二〇円から保険代理店収入六一万八五六四円を控除した三一九一万三六五六円であり、これを一か月あたりに換算すると二六五万九四七一円になる。

また、平成八年一月一日から同年九月三〇日までの粗利益二八九五万八四八四円を一か月あたりに換算すると三二一万七六〇九円になる。

以上によれば、原告は、平成八年一〇月一日以降被告が、原告カタログを複製することなく、被告初版カタログ及び被告改訂版カタログ等を制作等することなく、前記カタログ等を廃棄するまで少なくとも毎月三〇〇万円の損害を被るものと認められる。

(五)  以上に対し、被告は、平成八年一月一日から同年九月三〇日までの通信販売による粗利益について、通信販売の特質からカタログ制作費なども変動費として控除されるべきであり、これら変動費(カタログ経費を含む仕入費、外注費、運賃)を差し引いた残額の一三七〇万二七一五円であると主張して、これに沿う税理士佐藤久(以下「佐藤」という。)作成の月別損益計算書(乙第一七号証)を提出している。

しかし、カタログ作成費用等に見合った収益が直ちに生ずるとは考えられず、乙第一五、一六号証、証人佐藤久の証言によれば、被告初版カタログ作成費用は、被告の平成七年四月一日から同年九月三〇日までの決算報告書(乙第一五号証)上、貸借対照表の繰延資産として計上されており、同年一〇月一日から平成八年九月三〇日までの決算報告書(乙第一六号証)上、損益計算書の繰延資産償却として計上されており、被告改訂版カタログの作成費用は、右計算報告書においては、販管費の中の広告宣伝費として計上されていることが認められる。他方、乙第三一号証、証人三川照雄及び佐藤久の証言によれば、三川が佐藤に通信販売においてカタログ作成費用は変動費になるのではないかと相談して、佐藤が右費用を変動費として売上高から控除して月別損益計算書(乙第一七号証)を作成したことが認められるものの、変動費と考える根拠についての合理的な理由を見出せない。これらのことからすれば、カタログ制作費などを変動費と考えることはできない。

なお、被告は、原告が主張する粗利益には、原告カタログに登載されていないし、原告が商品として扱っていない商品で、被告が取り扱っている商品による利益が含まれているから原告の請求は過大であると主張するが、原告カタログは顧客のニーズに対応した情報を有機的に結び合わせて選択及び配列した点に独創性が認められるのであり、原告が扱っていない商品についての部分でも情報の選択、配列等について原告カタログと同様な特徴が認められる。したがって、被告のこの主張も理由がない。

2  甲第一五号証及び証人河原政秀の証言によれば、原告カタログと類似したカタログにより部品の供給を受けた請負業者が、これを原告から供給された部品と勘違いして、原告に対し、品質に関するクレームを寄せたことがあり、原告カタログの他に、被告初版カタログが出回っていることで、混乱を生じた顧客から原告が苦情を受け、釈明することが必要になったり、このことが価格交渉の題材にされたりしたことが認められ、このことからすれば、被告の著作権侵害行為により、原告の信用は段損されたものと認められる。

また、乙第二二、二三号証及び証人三川照雄の証言によれば、被告改訂版カタログは、平成八年一月から同年一二月までを有効期間として、二万部制作し、約一万六〇〇〇部を顧客に頒布したことが認められ、これに、当事者間に争いがない前記第二の一2のとおり、被告初版カタログの顧客に対する頒布部数は約一万二〇〇〇部であり、顧客に約一万二〇〇〇部頒布されたことを併せ考えると、被告が、原告の著作権を侵害するカタログを頒布した期間が長く、量も多いものと認められる。

以上の事実からすれば、原告は、被告の著作権侵害行為により少なくとも一〇〇〇万円の信用毀損による損害を被ったものと認められる。

3  原告が、原告訴訟代理人の本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に顕著であるが、本件は専門的な知識が要求される複雑困難な事案であるから、原告に生じ弁護士費用のうち、六四一万円は被告の不法行為と相当因果関係にある原告の損害と認められる。

四  結論

以上によれば、原告の請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条を、仮執行の宣言につき(主文第四項に限る。その余の請求についての仮執行宣言の申立てについては、仮執行宣言を付すのは相当でないものと認めこれを却下する。)同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年二月四日)

(裁判長裁判官 小野田禮宏 裁判官 梶智紀 裁判官 藤原俊二)

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