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福島地方裁判所いわき支部 昭和46年(ワ)21号 判決 1972年3月03日

原告

小林高明

ほか一名

被告

株式会社遠田商店

ほか一名

主文

被告らは各自原告小林高明に金六〇、〇〇〇円を、原告小林静枝に金一、一五七、五五二円およびいずれもこれに対する昭和四六年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告小林高明と被告らとの間に生じた分はこれを一〇分し、その六を被告ら、その余を原告高明の負担とし、原告小林静枝と被告らとの間に生じた分はこれを一〇分し、その八を被告ら、その余を原告静枝の負担とする。

この判決は第一項につき原告らは仮に執行することができる。

事実

第一  原告訴訟代理人は、(一)被告らは原告小林高明に対し金一〇〇、〇〇〇円、原告小林静技に対し金一、八九五、八三二円およびいずれも右金員に対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(二)訴訟費用は被告らの負担とする。との判決並びに一項につき仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一  原告らは、昭和四四年三月四日午後二時三〇分頃、東京都中央区日本橋本町一の七高速環状内廻り先道路上において、原告らの同乗する福島五の二〇五七号の自動車(以下原告車と称す)が別紙図面(イ)に一時停車中、被告遠田四郎の運転する自家用小型貨物自動車(足立四る八三二五号以下被告車と称す)が、停車中の原告らの右自動車に追突し、原告らはそれぞれ頸椎捻挫の傷害を受けた。

二  被告遠田は自動車運転に際し、前方を良く注視し、ハンドル・ブレーキ操作を適確に行ない、追突事故等を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠たり、被告車を原告車に追突せしめた過失がある。被告会社は被告車の保有者であり、かつ被告遠田を被告会社の業務の遂行の為に使用し、本件追突事故も被告会社の業務遂行中に惹起したものである。

三  原告らは右追突事故により次の損害を被むつた。

(一)  原告小林高明(以下原告高明と称す)の慰藉料金一〇〇、〇〇〇円

原告高明は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、昭和四四年三月五日から同年四月八日まで川崎市の太田綜合病院に通院し、同年四月九日から同年九月八日までいわき市立綜合磐城共立病院に通院加療し、右通院中は休業し、苦痛と不安な生活をして来たもので、右を慰藉するには金一〇〇、〇〇〇円が相当である。

(二)  原告小林静枝(以下原告静枝と称す)の損害は、以下合計金一、八九五、八三二円

(イ) 医療費金八四、一〇二円

右損害は、いわき市立綜合磐城共立病院の医療代である。

(ロ) 休業補償金五〇五、七三〇円

原告静枝はいわき市内郷の福島電子工業株式会社に勤務し、本件事故前である昭和四三年度の給与所得が年額金三〇九、〇二三円であり、これを一日に換算すると金一、〇三〇円であるところ、原告静枝は本件事故発生日である同四四年三月四日から同四五年一〇月一〇日まで四九一日間右勤務会社を休業したので、右一、〇三〇円に右日数を剰じた金五〇五、七三〇円が損失としての喪失利益である。

(ハ) 慰藉料金一、二〇〇、〇〇〇円

原告静枝は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け昭和四四年三月五日より同年四月八日まで川崎市の太田綜合病院に入院し、同年四月九日より同年六月一二日までと、同年六月一四日より同年一一月一日まで前記磐城共立病院に入院治療を受け、同年一一月二日より右磐城共立病院に通院治療を受け現在も加療中で、その間の苦痛を慰藉するには金一、二〇〇、〇〇〇円が相当である。

(ニ) 入院付添料金四九、五〇〇円

右は、昭和四四年三月六日より同年四月七日までの三三日間、一日金一、五〇〇円の割合による付添料の損失である。

(ホ) 交通費金六、五〇〇円

右は、原告静枝が前記太田綜合病院から磐城共立病院に転院する為に要した費用。

(ヘ) 弁護士報酬金五〇、〇〇〇円

四  以上、原告高明は右金一〇〇、〇〇〇円、原告静枝は右損害金一、八九五、八三二円にそれぞれ訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  被告らの過失相殺の抗弁事実は否認する。

第二  被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一項の事実は認める。

二  同二項の事実は争う。

三  同三項の事実は不知。

四  原告らには次の如き過失があるので過失相殺を主張する。すなわち、本件事故が発生した道路は羽田空港を起点として都心を通り、新宿、渋谷、池袋等に至る有料の自動車専用道路である首都高速自動車道路で、本件事故現場は本町インターチエンジ付近であり、道路が急角度にかつ大きくカーブし、見通しが困難なところである。

ところで高速自動車国道においては、特段の事情がない限り停車又は駐車することが禁止され(道路交通法第七五条の八第一項)、故障等の理由により運転できずに停止しているときはその旨を明瞭に表示するとともに高速道路以外の場所に移転するために必要な措置を講じなければならないものとされている(同条の一一、なお本件道路における右の必要な措置とは各所に設置されている緊急電話で道路公団に運転できずに停止していることを通報することとされている)。

ところが原告高明は何等の停車すべき正当な事由がないのにかかわらず、本件発生現場に原告車を停車させ、カーラジオを聞き、また原告静枝も同じくラジオを聞きながら化粧を直すなどして原告高明の右違法行為を黙認していたものである。

被告遠田は本件道路を羽田空港方向から本町方向に向けて、自家用小型貨物自動車(足立四る八三二五号)を運転して、時速約三〇キロメートルで進行してきたが本件事故現場付近は前述の通り大きくかつするどくカーブしていて見通しが困難なため停車中の原告車を約七メートル手前でようやく発見したものの併走車があるため進路を変えることができず、やむをえず急ブレーキをかけたが雪のためスリツプし、原告車に追突したものであるが、本件事故発生には原告らに重大な過失がある。

第三  〔証拠関係略〕

理由

一  請求原因一項の事実は当事者間に争がない。

二  被告遠田の過失の有無および被告の過失相殺の主張につき判断する。

〔証拠略〕を総合すると次の事実を認める。本件事故当時は、先日来の雪で路面が凍つておつた上に、雪が降つていて、若干積つていたこと、道路の状況は別紙図面のとおりで、本町に向つて左寄に一部未使用部分があり、若干右にカーブして少し下り坂になつているが見透しそのものはそんなに悪くないこと、原告高明は妻である原告静枝を助手席に同乗させて、右高速道路を本町に向つて進行中、後輪にまいてあるチエンが弛んでフエンダーに当る音がしたのでそれを張り直そうとして中央分離帯右端から一メートル位の間をおいておいた右側に後尾を斜め左に向けて車を寄せて停車し、窓を開けて自車の後輪を見ようとした瞬間追突されたこと、一方、被告遠田は右道路を本町に向つて時速約三〇キロメートルで進行中(後輪にチエンはつけていた)、前方約一八・四メートルのところに原告車を発見したが、原告車を走つているように錯覚し、同速度で同乗者の俵山と話しこみながら進行していたところ、原告車が停止しているのに気付いて急遽ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが雪の為スリツプして原告車に追突したこと、等が認められる。右認定に牴触する被告遠田の本人尋問の結果は信用しない。以上の事実によると、被告遠田は、事故当時は路面は滑り易く、かつ降雪の為前方の見透しは良好と言えない状況であるので、前方をよく注視し、ハンドル操作にも十分注意して運転すべき注意義務があるところ、前記認定のとおり、原告車を発見しながら、同乗者と話しこむなどして前方注視を怠つた為、原告車が停止していると気付いて急停車の措置をとつたときはすでに時遅く原告車に追突したもので、被告遠田は、右前方注視の義務を怠つた過失により本件事故を惹起したものというべきである。

他方、原告高明に被告主張の如き過失があるかどうかを併せ考えてみるに、右認定のとおり、原告高明は、チエンがフエンダーに当るような不協音がしたので、これを調べるべく一時停車したものであるが、右道路は高速道路であるので法令(道路交通法第七五条の八)に定められた場合を除き、停車および駐車が禁止されるので、この点につき検討してみるに、前記事実の外に原告高明本人尋問の結果によると、原告高明は、本件道路を始めて運行した為、道路事情はよく分かつていないこと、前記チエンの不協音も運転することができなくなる程のものでないが、ただそのまま運行すればブレーキオイルパイプを切断されるようなことがあつては危険と思料し、チエンの張り直しの為、本町に向い中央分離帯より左に一メートル離れたところに、後尾を斜め左にして停車したことが認められ、これに反する証拠はない。

以上の点をふまえて考えてみるに、本件事故当時は路面が凍つている上に若干の積雪があり、チエンの不協音を聞いて、それを点検調査しようとすることはやむを得ないが、本件道路は高速道であるので、他の交通妨害にならぬよう法令の定めるところに従つて停車すべき注意義務があるところ、原告高明は、前示の如き位置に停車したが、右停車位置は追越し車線の中にあり危険この上もないといわなければならないし、また、原告が仮りに、中央分離帯を路肩と思い違いをしたとしても、右原告車の停車位置が追越し車線にある以上原告は左側の路肩一杯に車を寄せて停車すべき注意義務があるというべく、右方法に違反して停車した原告高明にも過失があり、本件事故の発生に対する過失の割合は、被告遠田六、原告四の割合と認めるを相当とする。

なお、被告は原告静枝にも原告高明の右違法行為を黙認していた過失があると主張するが、原告静枝が運転免許を有し、かつ本件原告車の運行につき何らかの支配力を有しているならば格別、そのような事実を認める証拠がない本件では、原告静枝に原告高明の右違法行為を黙認していた過失があるということは、前提事実を欠くので、右主張は採用しない。

三  被告会社の責任の有無につき判断する。

〔証拠略〕によると、被告車は被告会社の所有であることが認められるので被告会社は被告車の保有者である。これに反する証拠はない。してみると、前記で判断したとおり被告遠田には被告車の運行に関し過失があつたのであるから被告会社は本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

四  原告ら主張の損害につき判断する。

(一)  原告高明の慰藉料金六〇、〇〇〇円。

〔証拠略〕を総合すると、原告高明は本件事故により、昭和四四年三月五日より同年四月八日まで川崎の太田総合病院に三五日間通院し、その後、磐城共立病院に転院し、同病院に同年四月九日より同年九月八日までならして数日おき位に通院したこと、治療を始めてから一ケ月位過ぎた頃から医師の指示に従つて仕事を始めたこと、治療費全部と原告高明の休業補償金を被告の方で負担したこと、その他原告高明の過失の度合等諸般の事情を考慮し、原告高明の被むつた精神的苦痛を慰藉するには金六〇、〇〇〇円を相当と認める。

(二)  原告静枝の損害

〔証拠略〕を総合すると次の事実を認めることができる。

(イ)  治療費金八四、一〇二円。

原告静枝は本件事故により、昭和四四年三月五日より同年四月八日まで、右太田総合病院に入院し、その後磐城共立病院に転院し、同病院に同年四月九日より同年六月一二日まで入院し、同年六月一四日より同年一一月一日まで再度入院し、同四六年七月まで通院治療を受けていたこと、原告静枝は、被告側より太田総合病院の治療費と原告静枝の休業補償として合計金五四、〇〇〇円の支払を受けていること、磐城共立病院に支払つた治療費は金八四、一〇二円である。

(ロ)  休業補償金三二一、九五〇円。

原告静枝は、本件事故当時福島電子工業株式会社に勤務し、一日平均金一、〇三〇円の給与を受けていたこと、原告静枝は本件事故による治療の為三六五日間休業したので、右金員にこれを剰じると合計金三七五、九五〇円の得べかりし利益を喪失したところ、前記のとおり被告側より金五四、〇〇〇円の休業補償を得ているのでこれを控除すると金三二一、九五〇円となる。

(ハ)  入院付添料金四五、〇〇〇円。

原告静枝の負傷は、入院当初、かなり重く付添を必要とする状況で、医師の指示により一ケ月はこれを要するとされ、原告高明の母が付添看護したこと、右看護料は一日金一、五〇〇円を相当とすることは経験則上是認できるので、右金員に三〇日を剰じた金四五、〇〇〇円の出費を要したこと。

(ニ)  交通費金六、五〇〇円。

原告静枝は前記のとおり太田総合病院より磐城共立病院に転院しているが、右転院は原告夫婦の勤務先がいわき市で、住所もいわき市にあるところから行なわれたものでやむを得ないものというべく、その転院の交通費として金六、五〇〇円出費したこと。

(ホ)  慰藉料金六五〇、〇〇〇円。

原告静枝の前記治療期間、本件過失の態様(原告静枝の夫である原告高明に過失のあることも斟酌した)、現在もなお首筋や後頭部に痛みを残していること等諸般の事情を考慮し、原告静枝の被むつた精神的苦痛を慰藉するには金六五〇、〇〇〇円を相当と認める。

(ヘ)  弁護士報酬金五〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告らは本件訴訟遂行の為、法律扶助協会福島県支部の法律扶助を受けて、本件訴訟の提起を大学一弁護士に委任したものと思料されるが、依頼者は原告高明のみと表示されていること、しかし、本件記録に編綴されている訴訟委任状には原告静枝は大学一弁護士に訴訟委任をしていること、他に特別の事情がない限り受任者たる弁護士に報酬を支払う旨の合意があることは経験則上明らかである。してみると、本件訴訟の経過、難易、勝訴額その他諸般の事情を考慮すると、原告静枝が大学一弁護士に支払うべき報酬額は金五〇、〇〇〇円を下らないものと認める。

五  以上、原告高明の被告らに対する請求は右認定した金六〇、〇〇〇円原告静枝の被告らに対する請求は右認定した合計金一、一五七、五五二円およびいずれもこれに対する訴状送達の翌日が記録上明らかな昭和四六年二月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、原告らのその余の請求をいずれも棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宇佐美初男)

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