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福島地方裁判所いわき支部 昭和63年(ワ)61号 判決 1989年11月15日

主文

一  被告らは各自、原告全国金属産業労働組合同盟福島地方金属に対し、金二五万円及びうち金二〇万円に対する昭和六三年一一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告全金同盟福島地方金属清和電器労働組合に対し、金一一〇万円及びうち金一〇〇万円に対する昭和六三年一一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告らに対し、それぞれ金五五〇万円及びうち金五〇〇万円に対する昭和六三年一一月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき、仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 原告ら

(1) 原告全国金属産業労働組合同盟福島地方金属(以下、「原告福島地方金属」という。)は、昭和四〇年五月九日結成された、福島県下の金属関係労働組合を構成員とする連合団体たる労働組合である。

(2) 原告全金同盟福島地方金属清和電器労働組合(以下、「原告組合」という。)は、昭和六三年一月一〇日結成された、被告清和電器産業株式会社(以下、「被告会社」という。)に勤務する労働者をもって組織された労働組合である。

原告組合は、右同日原告福島地方金属に加盟し、その構成員となった。

(二) 被告ら

被告会社は、電器部品の生産及び加工並びに右に付帯する事業を目的とする株式会社であり、被告石川保男は、被告会社の代表取締役であった者である。

2  被告らの不当労働行為

(一) 団体交渉拒否

(1) 原告らは、被告会社に対し、昭和六三年一月一一日、原告組合の結成を通知するとともに、同月一八日に被告会社の第一工場内において、「暫定労働協約の締結について」外二項目を議題とする原告組合との団体交渉をすることを申し入れたが、被告会社は、同月一八日に至り、原告組合に対して後記のような「質問、申し入れ並びに回答書」と題する書面を提出し、かつ今後の交渉は全て文書でする旨通知した。

(2) これを受けた原告らは、原告組合の役員四名、原告福島地方金属の役員三名が右同日、被告石川外二名と面談して、被告会社の前記書面の質問事項は団体交渉の中で解決すべき事項であるなどと主張して団体交渉の開催を申し入れたが、被告会社側は右質問事項に対する文書回答が団体交渉開催の前提条件だと主張して譲らなかった。

(3) そこで、原告福島地方金属は同年一月二五日被告会社に対し「警告書」と題する書面を発して重ねて団体交渉の開催を求めるとともに、原告組合は事態の進展をはかるため同月二八日被告会社の前記質問事項に対し文書で回答した。

(4) しかし、被告会社は同年二月八日、原告組合の回答は抽象的である等として再度の回答を求めるとともに、前記(1)の団体交渉の申入れの際に原告組合が提示していた労働協約・協定案についても、これを一切認めず従前通りとする旨文書で回答してきた。

(5) 原告らは、この間の同年一月一九日、福島地方労働委員会(以下、「地労委」という。)に対して団体交渉応諾の斡旋の申請をなしたが、被告会社は同月二六日これを辞退し、同月二八日には労働委員会規則六二条の二に基づく実情調査をも拒否したため、地労委は同月三〇日斡旋を打ち切った。

(6) 原告らは同月二九日、地労委に対して、被告会社の団体交渉応諾、支配介入行為禁止及び陳謝文の提示等を求める不当労働行為救済申立てをなした。地労委は、より急を要する団体交渉応諾の件を分離して、まずこれを審理し、同年三月二日、被告会社に対し、原告組合が同年一月一一日付で申し入れた団体交渉に速やかに応ずるよう命じる命令を発した。

(7) しかし、被告会社は、右命令書の交付を受けた後も、原告組合との団体交渉を拒否したうえ、右命令を不服として、同年三月一六日、中央労働委員会(以下、「中労委」という。)に再審査の申立てをした。これに対し中労委は、同年一〇月一九日、「会社が文書による回答、申入れ及び対案の提示をする方式に固執し、直接話し合う方法による交渉に応じないことは、会社が労働組合法にいう団体交渉に応じているものとはいえない。」として、右再審査申立てを棄却する命令を出した。

(8) しかるに、被告会社は、右中労委の命令が出された後も、右命令を不服として東京地方裁判所に行政訴訟を提起し、その後の原告らの数回にわたる団体交渉の申入れに対しても、従前同様文書での回答、申入れに終始し続けている。

(二) 支配介入

(1) 被告会社の総務課長吉田三良(以下、「吉田課長」という。)は、昭和六三年一月一九日午前九時、被告会社の朝礼において、出席していた日勤の被告会社従業員及び夜勤明けの従業員全員に対して、前記「質問、申し入れ並びに回答書」と題する書面を配付した。

右書面の内容は、原告組合に対し、原告組合が労働組合法上適法に結成されたものかどうか、自主的な組合なのかどうか、組合の役員及びその権限はどうなっているのか、組合員の名簿があればその提出を求める等の質問ないし要求をし、また、「一部管理監督者が中心となって、その職務と権限を利用し、または、職務を放棄し秘密裡に組合結成を準備し、組合活動を行ったとのことであるが……」とか、「『知らないうちに勝手に組合員にされて困っている』、『一部管理監督者が職務と権限を利用し、組合加入活動をしたのでやむを得ず加入した』など数多くの問い合わせがきています。」などと述べたうえ、原告組合に対して、「加入を強要したり、従業員の名前を勝手に使用することのないよう」申入れ、更に、「組合からの脱退に関しても、自らの意思で脱退することは自由であり、組合がこれを拒否したり、阻止したりすることはできない。」等の見解を述べるというものであった。

(2) 被告石川や当時被告会社の専務取締役であり、現代表取締役である石川文雄(以下、「石川専務」という。)らは、昭和六三年二月中旬から同年三月上旬を中心に、組合員である小宅嘉伸、丸田厚志、根本正好及び高橋明夫らに対し、社長室に呼びつけあるいは自宅に訪問したりして、「労働組合ができると会社が潰れる。」「野地委員長は信頼できない。」「組合と心中するつもりか。」などと発言して、原告組合からの脱退を強要ないし勧誘し、脱退届けを書かせたりした。

(3) 被告会社は、原告組合からの脱退届けの用紙を作成してこれを組合員に配付し、あわせて、脱退届出記載のマニュアルとして「組合の方針について行けない」「考えた結果自分の信念に基づいて決めた」「私の自由意思である」など脱退理由の記入例を作成し、組合員が脱退届を記載する際にこれを呈示して、脱退届けを作成し易くし、組合脱退を幇助した。

(4) 石川専務は、原告組合の執行委員長である野地芳夫(以下、「野地委員長」という。)に対し、昭和六三年二月二日、「この円高で受注が大変厳しい時期にそのような事を行っていたのでは会社がおかしくなってしまうのではないか。まして自社製品を持たない会社では無理でないのか。」と言ったり、その後「会社は上部団体を外せば団体交渉に応じる。アルプス電気は強い組合は認めないと言われているので、『労働委員会』にして労使でうまくやろう。」とか「もし、会社が倒産したら、執行委員長である君は、全従業員の生活に対してどう責任をとろうとするのか。」と言ったりした。

(三) 不利益取扱

(1) 原告組合の副委員長松村芳道及び同副書記長谷本秀樹の両名は、組合活動の中心的役割を果たしていた者であるが、被告らは、右両名に対して次のとおり極めて悪質な配置転換による不利益取扱をなした。

即ち、右両名は、被告会社の第一工場のライン部門に所属していたところ、同工場は多忙を極めていたにもかかわらず、被告会社は、平成元年三月二三日右両名に対し、突然これまで誰ひとり出向したことのない日立化成株式会社への出向を命じ、右両名及び原告らがこれを拒否するや右出向命令を撤回したが、同年四月三日、今度は右両名に対して、これまでそのような職務の前例さえなかった会社内外の清掃と環境整備を主体とする職務への配置転換を命じたうえ、右両名が被告会社の従業員の勤務場所に立ち入ることを禁じ、更に、両名の机を七メートルも離して相互の会話を困難にするなど右両名の人間としての尊厳を無視した職務命令を発した。

(2) 更に、被告会社は、平成元年四月二九日、組合員である鈴木康郎に対し、三か月入院して休業したことを理由として就業規則に基づき解雇の通知をしてきた。しかし、被告会社ではこれまで三か月以上休業した者についても就業規則をそのまま適用して解雇した例はなく、まして右鈴木は、間もなく復職できる見込みがあり、吉田課長も右鈴木の入院先を見舞って復職の意向を伝えていたのであるから、右解雇の処置は全く異常なものであった。したがって、右解雇の処置は、右鈴木が原告組合の組合員であることを唯一の理由とするものであったことは疑いなく、ここにも被告らの原告組合潰しの意図が認められる。

3  原告組合の組合員数は、昭和六三年一月一〇日の結成当時は三四名で、同月二八日には一一九名に増加したが、その後脱退者が続出し、同年二月二一日には六七名となり、更に同年六月末までには八名と激減した。

4  右2(一)ないし(三)の被告らの行為は、労働組合法七条の不当労働行為であり、かつ被告会社のこのような行為を指揮監督した被告石川の行為は民法七〇九条の不法行為に該当する。

5  また、被告石川の右行為は、被告会社の職務を行うにつきなされたものであるから、被告会社は、民法四四条に基づき、被告石川が右行為によって原告らに与えた損害を賠償する義務がある。

6  損害

(一) 慰謝料

原告らは、被告石川の右一連の団交拒否、支配介入及び不利益取扱により計り知れない損害を被ったが、これを慰謝料として請求すれば、一原告につき金五〇〇万円が相当である。

(二) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟の提起及び遂行を弁護士高橋一郎に委任し、一原告につき金五〇万円の報酬を支払うことを約した。

7  よって、原告らは、被告らに対し各自、不法行為に基づく損害賠償として、各金五五〇万円及び弁護士費用を除く金五〇〇万円に対する昭和六三年一一月二〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び反論(被告ら)

1  請求原因1(一)の事実は知らない。同1(二)の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実については以下の部分を除き、すべて認める。(2)のうち、被告会社側の対応については、文書で回答して欲しい旨要請したというにとどまる。(3)のうち、原告組合の回答の動機については知らない。(4)のうち、原告組合の労働協約・協定案については、被告会社は後日対案を提出すると回答していたものであり、現に対案を提示したにすぎない。

なお、被告会社は文書による団体交渉は継続して行っているものである。

我が国の労働組合法には、米国と異なり団体交渉の定義規定はなく、交渉方式に特段の制限はない。したがって、複数の交渉方式がありうることになるが、その方式の選択権については、民法の選択債権に関する規定(民法四〇六条)が類推適用され、「債務者」(本件では被告会社)が選択権を有することになるから、被告会社が選択した書面による交渉も法的には有効である。

(二)  請求原因2(二)(1)の事実は認める。右文書は、労使問題の現状及び被告会社の見解を周知せしめる目的で配付したものであるが、同文書は、配付日の前日に組合に予め交付しており、内容自体、被告会社の見解を率直に表明した正論そのものの内容であり、まさに使用者の言論の自由に属するものであって、不当労働行為ないし不法行為のそしりを受けるものではない。

同2(二)(2)、(3)の事実は否認する。

同2(二)(4)の事実のうち、石川専務が野地委員長と昭和六三年二月二日に話し合いを行い、「この円高で……無理でないのか。」と発言した事実は認め、その余は否認する。組合の委員長と会社の役員が、労使問題について右の程度のことをフランクに議論することは、他社の労使関係においても日常的にあることであり、使用者に認められた言論の自由の範疇の行為である。

(三)  請求原因2(三)(1)の事実のうち、被告会社が松村及び谷本の両名に対して、原告ら主張のころに、日立化成株式会社への出向を命じ、両名がこれを拒否したこと、その後被告会社が、右両名に対して、環境整備を含む職務を行うよう指示したことは認めるが、その余は否認する。右両名に対する出向打診等の経緯は次のとおりである。

右両名の所属する被告会社小名浜第二工場は、従来L・C・D部門(いわゆる液晶板製造)の下請け製造を主体としていたが、右部門の採算が悪化した等の理由により注文が大幅に減少したため、被告会社は第二工場の人員を大幅に縮小せざるを得なくなった(現実に約五〇名分の仕事がなくなった)。そこで、被告会社は、整理解雇等による合理化を回避するため、第二工場は、比較的人件費の安い女性中心の工場に移行させるとともに、男性従業員については、雇傭を確保すべく配転や出向によって対応することとした。このような折、日立化成株式会社山崎工場より、五名前後の期間決め(平成元年三月より九月まで)による出向依頼がきたので、被告会社は早速人選に着手し、人選にあたっては、一時的に転居が必要であることを考慮して、第二工場の独身者ということで右両名の他、馬上征弘、赤木一成及び田辺文昭の計五名を選んだものであり、また、出向を拒否した右両名に対して、やむなく賃金を一〇〇パーセント保証しつつ周辺の環境整備、会社再建のための具体策についてのレポート作成を指示したが、これだけでなく、右両名には、スポット的な仕事の手伝い、その他製品の運搬、部品の引取り、不良品見直し等の仕事にも従事して貰った。

以上のとおり、被告会社の右両名に対する出向打診とその対応には、不当労働行為と目しうるものはいささかも存しない。

同2(三)(2)の事実のうち、被告会社が、原告ら主張のころ、鈴木康郎を休業を理由として就業規則に基づき解雇したことは認めるが、その余は否認する。

右鈴木は、平成元年一月一四日より、後部蓋窩クモ膜嚢腫によって入院したが、同年二月一三日に至っても病気欠勤を続けたため、被告会社就業規則二二条一項二号により休職となり、同年四月一三日に至るも、依然として体調が思わしくなく、欠勤が継続したので、就業規則二四条によって退職扱いとなったものである。右鈴木は、第一工場製造課単キー・メカ組オペレーターとして従来三交替勤務に服していたものであるが、四月段階においても体調は回復せず、到底三交替勤務に耐えられる様子ではなく、更に過去の勤務状況も格段に悪い状況であったから、就業規則に反してまで、同人をこれ以上在籍させる理由が見出せなかったのが実情である。また、原告らは、三か月以上休業してもそのまま退職扱いをした例はないと主張するが、被告会社においては、鈴木多恵子という女子社員について、三か月の休職期間満了により退職扱いをした例がある。

3  請求原因3の事実は知らない。

4  請求原因4ないし7の事実及び主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、請求原因1(一)の事実が認められる。

二  団交拒否について

請求原因2(一)の事実は概ね当事者間に争いがない。

そこで、書面による交渉も労働組合法上の団体交渉にあたるとする被告らの主張の当否を検討するに、成程労働組合法上、団体交渉の手続・方法については特別の定めがないけれども、団体交渉には、労使間の対等を実現するため、労働者が強力な団結力を背景にその威力によって交渉を行うという意味が歴史的に含まれているとみるべきであるから、憲法二八条及び労働組合法七条二号にいう「団体交渉」は、直接かつ口頭の交渉であることを当然の前提として規定されているものと解するのが相当であり、実際上も、団体交渉は労使双方の代表が直接に話し合う方法で行うのが通常であり、かつ常識的な理解であるものということができる。もっとも、労使間の合意があるなど正当な理由の存する場合には、これを文書の交換によって行うなど他の方法によることも許される、ということまで一概に否定することはできない。

被告らは、労働組合法上、交渉方式について特別の定めがない以上、被告会社は、民法の選択債権に関する規定の類推適用により、複数の交渉方式のうちから、任意の方式を選択できると主張し、<証拠>によれば、そのような解釈を唱える論者もないではないことが認められるけれども右に述べたところからも明らかなように、労働組合法七条二号は、原則として会合方式による交渉を予定しているとみるべきであるから、これを単純な選択債権と同視することはできず、右主張は到底採用することができない。

また、文書の交換によって団体交渉を行うことにつき、労使間の合意その他これを許容すべき正当な理由があったことは被告らにおいて何ら主張するところではない。

以上によれば、被告会社は正当の理由なく原告らの団体交渉申入れを拒否しているものといわなければならない。

三  支配介入について

1  請求原因2(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば、被告会社は、原告組合結成直後、多数の被告会社従業員に対し、組合の結成、組合員の範囲、役員人事、上部団体との関係等純然たる原告組合の内部問題について言及したうえ、原告組合の結成については、その適法性を疑い、従業員の原告組合への加入については、その際原告組合が誤った活動をしたかのような言動をなしたということであって、その内容、時期、対象に照らせば、被告会社が、原告らに対する嫌悪ないし反感から、原告組合の弱体化を目的として、このような発言を行ったものと推認すべく、被告会社のかかる行為は、使用者の言論の自由の範囲を越えるものとして、不当労働行為にあたるというべきである。

2  <証拠>を総合すれば、被告石川及び石川専務ら被告会社の職制が、昭和六三年二月ころ、原告組合の組合員である小宅嘉伸、丸田厚志、根本正好、高橋明夫らに対し、その自宅を訪問するなどして、「組合があると会社が潰れる」「野地委員長は信用できる人なのか」「組合と心中するつもりか」等の発言をし、同人らに原告組合からの脱退を迫ったこと、被告会社において、原告組合からの脱退届出用紙を作成し、これを原告組合から脱退しようとする者に利用させたこと、その際、右脱退希望者に対して、「組合の方針について行けない」「考えた結果自分の信念に基づいて決めた」「私の自由意思である」などの脱退理由の記載例を示して、脱退届の作成を容易にしたこと、以上の事実が認められる。<証拠>の吉田三良の供述部分には右認定に反する部分があるけれども措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、右認定にかかるような行為が組合に対する支配介入として不当労働行為にあたることは明白である。

3  請求原因2(二)(4)の事実のうち、石川専務が野地委員長と昭和六三年二月二日に話し合いを行い、「この円高で……無理でないのか。」と発言した事実は当事者間に争いがないが、その余の事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく(原告組合代表者の尋問の結果中には、石川専務が「上部団体を外せば団体交渉に応じる」旨の発言をしたとする部分があるけれども、いささか具体性に欠けるものと言わざるを得ず、また<証拠>に照らして直ちに措信することができない)、右争いのない事実に限ってみれば、石川専務の野地委員長に対する発言は、使用者の有する表現の自由の範囲内の行為と認められるから、これをもって原告組合に対する支配介入であると結論することはできない。

四  不利益取扱について

1  請求原因2(三)(1)の事実のうち、被告会社が松村芳道、谷本秀樹の両名に対して、原告ら主張のころ、日立化成株式会社への出向を命じ、両名がこれを拒否したこと、その後被告会社が、右両名に対して、環境整備を含む職務を行うように指示したことは当事者間に争いがない。

そこで、被告会社の右両名に対する出向命令及びその後の職務命令が、同人等に対する不利益取扱にあたるか否かを検討する。

<証拠>によれば、平成元年三月当時、松村芳道は、原告組合の副執行委員長であり、谷本秀樹は、同組合の副書記長であったこと(<証拠>によれば、このことは被告会社も知っていたものと認められる)、当時両名とも被告会社の小名浜第二工場に勤務していたこと、右第二工場は液晶板の下請製造を主としていたが、そのころ注文が大幅に減少したため、生産計画及び人員を縮小し、余剰人員については配転や出向で対応していたこと、このような折、それまで取引のなかった日立化成株式会社山崎工場(茨城県日立市所在)から被告会社に対し、五名前後の出向依頼があったので、早速被告会社が、第二工場に勤務する独身者のうちから、右松村及び谷本を含む五名を選んで出向を打診したところ、右両名以外の者は、これに応じたこと、その後の平成元年四月初め、被告会社は、右両名に対して会社内外の清掃と環境整備を主とする業務を命じ、他に両名に対して臨時の仕事や製品の運搬、部品の引取りなどの仕事も与えたが、右業務のうち主な仕事である会社内外の清掃と環境整備は、それまで被告会社の全従業員が、就業時間外に手分けして行っていたものであること、同年七月ころ、被告会社に対してコスモ電子より一名の出向依頼があり、これを右松村に打診したところ、同人は、今度はこれを了解し、同年八月一日より出向中であること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

これらの事実によれば、被告会社の右松村及び谷本に対する出向命令は、同人らが原告組合の役員であるが故にとりたてて同人らに対して差別的取扱いをしたものとは認められない。ただ、その後の清掃等を主とした職務命令については、その内容からしても、決して正当な職務命令と評することはできないのであり、前認定の被告会社の原告組合に対する態度をも併せ考えれば、それが原告組合の弱体化を目的とした嫌がらせではないかと疑われないではない。しかし、単に出向命令を拒否したことそれ自体に対する見せしめの域を出ないものである可能性もなお残るのであって、同人らが原告組合の役員であるが故に不利益な取扱いをしたものとまで直ちに断ずることはできない。

2  請求原因2(三)(2)の事実のうち、被告会社が、原告ら主張のころ、鈴木康郎を休業を理由として就業規則に基づき解雇したことは当事者間に争いがないが、その余の事実については、これを認めるに足りる証拠がなく、右争いのない事実のみでは、右解雇が、右鈴木が原告ら組合の組合員であることを理由とした同人に対する不利益取扱であるとみることはできない。

五  原告組合の組合員数の減少について

<証拠>によれば、原告組合の組合員数は、昭和六三年一月一〇日の組合結成当時は三四名で、同月末ころには一一〇数名に達したが、その後減少し、平成元年五月現在では一〇名程度であることが認められる。

六  被告らの責任

前記二及び三1の争いのない事実及び前記三2で認定した事実及びこれらに基づいて判断したところを総合すれば、被告会社は、原告組合が結成され、存在し続けていることを被告会社にとって不都合なことと受け止め、極力その弱体化をはかり、あわよくば消滅させたいとの考えに基づいてこのように頑な団体交渉の拒否や露骨な支配介入といった一連の措置をとったものと断ぜざるを得ない。そして、被告石川は、当時被告会社の代表取締役として、その職務を行うにつき、右の一連の不当労働行為を指揮し、又は自ら行ったものであることは明らかであり、同被告の右行為は、労使間の公の秩序を侵害するものとして、不法行為に当たるというべきであるから、同被告は民法七〇九条に基づき、被告会社は、同法四四条に基づいて、それぞれ原告らに生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

七  損害

1  前記認定のとおり、被告会社は、原告組合の結成当初から、同組合の結成或いは存続自体を嫌悪して、同組合の活動を非難するかのような文書を被告会社従業員に配付したり、同組合の組合員に接触して脱退を勧誘するなどしたうえ、原告らの原告組合との団体交渉の申入れに対しても、頑にこれに応ずることを拒否し続けているのであるが、これにより、原告組合は、固有の団結権を侵害され、その組織の維持・拡大を阻害された(前記五で認定した原告組合の組合員数の減少は主として被告会社の右行為に起因するものと推認される)ものであり、現在の組合員数からするとまさに組織の存亡の危機に立たされているとさえいうことができ、また原告福島地方金属についても、その構成員である原告組合が右のような状況におかれたことにより間接的に右と同様の被害を被ったものと認められる。

もっとも、<証拠>によれば、被告らとしては被告会社の親会社ともいうべき訴外アルプス電気株式会社の意向を体してこのような挙に出たのではないかと窺われるところであり、そのような下請会社及びその経営者の地位にある被告らの苦悩はそれなりに理解できないではない。

そこで、以上の諸事情を勘案した上で、原告らの右損害を金銭に評価すれば、原告組合については金一〇〇万円、原告福島地方金属については金二〇万円がそれぞれ相当であるものということができる。

2  弁護士費用

原告らが本件代理人に本訴の追行を委任し、報酬の支払約束をしたことは、弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の難易、審理経過、本訴認容額等に照らすと、原告らが被告らに対して賠償を求めうる相当因果関係の範囲内の弁護士費用としては、原告組合につき金一〇万円、原告福島地方金属につき金五万円がそれぞれ相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告組合については、金一一〇万円及びうち弁護士費用を除いた金一〇〇万円に対する不法行為の後であることが明らかな昭和六三年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、原告福島地方金属については、金二五万円及びうち弁護士費用を除いた金二〇万円に対する不法行為の後であることが明らかな昭和六三年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行宣言の申立てにつき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋一之 裁判官 西 理 裁判官 庄司芳男)

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