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福島地方裁判所会津若松支部 平成14年(わ)158号 判決 2003年12月03日

主文

被告人三神精工株式会社を罰金150万円に、被告人Y1を懲役1年2月及び罰金30万円に処する。

被告人Y1において、その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人Y1に対し、この裁判が確定した日から3年間、その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三神精工株式会社は、埼玉県八潮市大字a丁目1135番地に本店を置き、福島県喜多方市b町字c95番地1に三神精工株式会社喜多方工場を置いて非鉄金属の再生精錬及び非鉄金属地金の販売等を業務目的とするもの、被告人Y1は、同社常務取締役兼工場長として同工場の業務を統括管理するものであるが、被告人Y1は、同社の業務に関し、別表記載のとおり、平成13年8月10日ころから同年11月28日ころまでの間、前後7回にわたり、同工場敷地において、同工場従業員Aほか3名をして産業廃棄物である汚泥等合計約9724キログラムを同所に投棄させ、もって、みだりに廃棄物を捨てたものである。

(証拠の標目)省略

(争点に対する判断)

1  弁護人は、まず第一に、被告人三神精工株式会社(以下「被告人会社」ともいう。)は、平成14年7月1日ころには本件起訴に係る廃棄物の撤去を完了してその報告書を警察に提出しており、これにより本件は本来不起訴処分とされるべき事案であったが、警察がこの報告書を速やかに検察官に送致せず、検察官は、その存在を考慮に入れることができなかったために、同年10月31日に本件を公判請求するに至ったものであり、上記警察官の不作為は刑事訴訟法246条に違反し、これに引き続く検察官の本件公訴の提起には、同法247条、248条に反し公訴権の濫用に該当する事由があると主張する。

しかし、捜査段階において捜査官の行為に違法があったことにより公訴の提起が違法性を帯びるということはないし(最高裁判所大法廷昭和23年6月9日判決、同年12月1日判決)、検察官は、起訴、不起訴の決定について広範な裁量権を有するものであって、後日廃棄物が撤去されたという上記事実を勘案しても、検察官が本件を不起訴処分にしなかったことが裁量権の濫用に当たるとは解されない。

よって、弁護人の上記主張は採用できない。

2(1)  次に、本件では、現場となった判示喜多方工場(以下、単に「喜多方工場」という。)において、平成14年4月3日、同月4日及び同月6日にそれぞれ実況見分が実施され、これに基づき、司法警察員により実況見分見調書3通(甲2ないし4)が作成されている。しかるところ、弁護人は、この実況見分は、<1>捜査当局が、権限もないのに、現場を保持するように被告人会社に強制して、3か月もの間、廃棄物を処分することを妨げた後に行われたものである上、<2>犯罪捜査規範108条に反して、刑事訴訟法218条、219条による検証令状に基づかずに、被告人会社の敷地内において、しかもその営業時間帯に行ったもので、さらに、<3>被告人Y1ほか被告人会社の従業員らを立会人とした上、これらの者らに実況見分の主要な手伝いもさせ、また、被告人会社が所有ないし管理するフォークリフト、バックホー等の器具の提供も受け、被告人会社に一部費用負担もさせて実施したものであり、被告人会社側は、形式上は協力する姿勢を示していたが、真の意味における任意の承諾はしていなかったものであって、以上は、捜査員らの明らかな越権行為であり、被告人会社の従業員らに義務のないことを行わせ、あるいはその権利の行使を妨害する、刑法193条の公務員職権濫用罪にも該当しかねないもので、厳格な令状主義を採用する憲法をはじめ刑事訴訟法や犯罪捜査規範等の諸法令に反するものであるので、上記各実況見分調書は、証拠能力がなく、また、憲法38条3項の趣旨を受けて制定された刑事訴訟法319条3項所定の補強証拠にもなり得ない、と主張する。

(2)  そこで判断するに、本件については、平成13年12月14日及び同月17日に暴力団員が被告人会社を訪れて産業廃棄物の不法投棄がある旨を指摘してきたことから、同月18日、被告人会社は、自ら本件について、まず喜多方警察署に申告して相談し、引き続いて福島県会津地方振興局にも申告したという事情がある。そして、被告人会社は、同振興局からは、廃棄物撤去の計画をまとめて3月中には実施するように指示されたが、警察からは現況を保存するように求められたため、これに従った。それから、前記の各実況見分が行われたが、これは、弁護人が主張するとおり、裁判所の発する検証令状なくして実施されたものであった。また、その際には、被告人会社も作業機械を供出したり費用を負担したりし、被告人Y1ほかの被告人会社の従業員は、立会人となったり作業に参加したりして、これに協力していた(以上、前掲各証拠)。

しかし、本件において、警察が被告人会社側に対し、現場の保存を求め、また、上記各実況見分を実施してその中で協力を求めるに当たっては、強制にわたるような働きかけをしたことはうかがわれない。そして、被告人会社やその従業員らが自ら進んでこれに応じていたものであることは、被告人会社代表者B(以下、単に「被告人会社代表者」という。)や喜多方工場の工場長であった被告人Y1も当公判廷において認めているとおりである。被告人Y1は、非協力的だと受け取られると罪が重くなると思って、できるだけ罪を軽くするために協力をしたと供述しているが、そのような内心の動機があったとしても、協力が任意になされたことが否定されるものではない。そして、こうした関係者の協力の下に行われる任意捜査も、憲法、刑事訴訟法その他の法令に反せず、捜査手法として違法なものではないことはいうまでもない。

なお、弁護人は、上記捜査は犯罪捜査規範108条に反すると主張するが、同条項はあくまでも「捜索」について規定したものであるところ、本件において実施されたのは任意の検証たる実況見分であって、捜索が実施された事実は認められない。よって、これが上記条項に反するとの弁護人の主張は当を得ない。

(3)  以上によれば、上記各実況見分調書は、その作成過程に弁護人が主張するような違法はなく、真正に作成されたものと認められる。よって、これらが証拠能力を有することは明らかであり、弁護人の上記主張は採用できない。

3(1)  次に、被告人ら及び弁護人は、起訴に係る産業廃棄物は、被告人会社の敷地内にため置いていただけであって、被告人会社はその管理権までも失ったものではなく、現に、平成14年5月20日から同月23日にかけて、行政指導の下に完全に撤去しているので、被告人らの行為は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、単に「法」ということがある。)16条に定める「みだりに」「捨て」(る)行為には該当しない、と主張している。

そこで、以下、この点について判断する。

(2)  法16条にいう「みだりに」とは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上の見地から社会通念上許容されないことを意味し、これに該当するかどうかは、当該具体的事案の状況に即し、個別具体的に決せられる。また、同条にいう「捨て」(る)とは、廃棄物を占有者の手から離して自然に還元することをいうが、これに該当する行為かどうかも、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という法の趣旨を踏まえ、社会通念に照らして、行為の主観、客観面を総合して決せられる。したがって、単に行為者が内心で捨てる意思がなかったというだけで、これに該当しなくなるというものではない。

(3)  しかるところ、本件については、以下のような事実が認められる(事実認定は、特に摘示した証拠のほか、前掲各証拠による。)。

(ア) 喜多方工場は、雑木林の点在する郊外の街道沿いにあり、現在、敷地内には、工場、倉庫等の数棟の建物が建っている。

喜多方工場においては、アルミニウムの再生精錬の過程等において、汚泥、残灰、金属屑、鉱さい、煉瓦屑等の産業廃棄物が排出され、そのうち、処分を引き受ける廃棄物処理業者等が手配できる分については、これに処分を委託していた。しかし、こうした引取先の当てがない部分等については、昭和51年ころから、工場の敷地内に掘られた大きな穴に捨て、穴が一杯になるとこれに土をかぶせ、また別な穴に廃棄物を捨てるということを繰り返してきた。

これらの穴は、周囲が30メートルから90メートル程度、深さが4ないし5メートル程度で、平成9年ころの時点において、少なくとも6個の穴に廃棄物を入れ終えた状態となっており、これらに埋められた廃棄物の総量は約4200立方メートルと推定される。

(イ) 平成9年ころ、同工場敷地内の材料処理工場のすぐ北西脇に、北西から南東方向が約12メートル、北東から南西方向が約16メートル、深さが南東側の地表面から約2.7メートル、北西側の地表面から約4.8メートルの穴(以下「本件穴」という。)が掘られ、そこに廃棄物が入れられるようになった。その際には、運んできた廃棄物を直接穴に入れずに、一旦穴のすぐ脇にこれを積み上げ、ある程度の量がたまってから、これをローダー等により穴の中に押し込むという手順がとられることもあった。

平成13年8月から11月にかけて、喜多方工場では、工場長である被告人Y1の直接の指示ないし承諾あるいは同被告人の許諾の下でそれまで行われてきたやり方に従って、判示のとおり、従業員4名が、汚泥等の産業廃棄物合計9724キログラムを、本件穴のすぐ脇に積み置いた。これらは、従前されてきたように、ある程度の量がたまったら本件穴の中に押し込む予定でそこに置かれたものであり、廃棄物の種類ごとの仕分けもなされなかった。また、作業の際には、被告人Y1と作業に当たった従業員らとの間では、本件廃棄物を「穴に捨てる」「穴に埋める」という表現でやりとりがなされていた(甲9、12、13)。

その後、平成13年12月に本件が外部に発覚するまで、喜多方工場において、本件穴の中ないしその脇に置かれた廃棄物や、それ以前に掘られた穴に捨てられた廃棄物を撤去、処理したことは一度もなかった。また、処理の委託先の選定等、その撤去、処理に向けた具体的な行動が起こされたこともなく、そのための具体的な予定が立てられたこともなかった。

(ウ) その後、被告人会社は、平成14年1月25日付けで福島県会津地方振興局長宛てに「産業廃棄物の不適正処分に係る経過報告書について」と題する書面を提出したが、そこにおいては、本件穴を「埋立て穴」、そこに廃棄物を入れる行為を「埋立て」「埋立て処分」「違法埋立て」、入れられた廃棄物を「埋立て内容物」と表記し、「埋立てを行った期間」が「平成9年6月から平成13年12月18日まで」であり、「平成13年12月18日をもって敷地内での産業廃棄物の埋立てを中止」するものと報告した(甲23)。

(4)(ア)  以上を前提に、被告人会社代表者は、捜査段階では、本件起訴に係る廃棄物を「捨てた」「不法投棄した」などと供述していた。しかし、当公判廷においては、平成12年に至るまでは捨てるという趣旨で工場敷地内に廃棄物を埋めていたことを認めつつ、さらに、要旨、以下のように供述している。

「平成になってから、世相が変化してきたことから、環境問題にも気をつけなければならないと考えるようになり、平成12年9月、環境問題に取り組み、ISO14001の資格を取得するために、外部から技術顧問としてCを迎えた。それから、同年10月に、Cと共に喜多方工場を訪れ、被告人Y1及びA(被告人会社製造部長兼総務課長。以下「A」という。)と話をして、本件穴の中及びその脇に置かれた廃棄物をすべて撤去するという方針を固めて、指示した。それからは、処理を引き受けてもらえる廃棄物は極力引き取ってもらい、それでも当面手配がつかない分について、本件穴の中等に保管した。本件穴の廃棄物については、被告人会社の経営が苦しく、費用を捻出することができなかったこともあり、その後、その処理に向けた取り組みを具体的に行うことはできなかった。しかし、以前から入れていた分も含めて、穴の中の廃棄物は、いつかは全部掘り出して処理をするつもりであって、そのときまでためて保管していたのである。」

「しかし、捜査段階では、それ以前に長年にわたり廃棄物を捨ててきたことと一体として考えてしまった上、取調べが長時間に及んできつく、質問にだけ答えるようにも求められ、また、あまり弁解がましいと受け取られてもいけないと考えてしまったこともあって、本件の起訴に係る廃棄物について、撤去する予定であることを話さず、不法投棄をしたと認めるような供述をしてしまった。」

また、被告人Y1も、捜査段階では、本件起訴に係る廃棄物を「穴に埋める」「穴に捨てた」「不法投棄した」などと供述していたが、当公判廷においては、事実経過について被告人会社代表者の上記供述に概ね沿う供述をし、その上で、さらに、要旨、以下のように述べている。

「喜多方工場内に設置されている品質管理委員会では、平成12年4月17日に、廃棄物の適正処理について議論をし、さらに、平成13年1月29日にも、工場で発生する廃棄物について、現在置かれている廃棄物も撤去し、処分業者に委託して最終処分してもらうことを話し合った。また、同じく喜多方工場内に設置されている環境管理委員会の同年11月30日の会議においても、廃棄物の処理が適正でなければならない旨を話し合った。」

「捜査段階の取調べでは、気が動転しており、質問にだけ答えるように求められもしたため、撤去する予定だったという言葉が思いつかず、不法投棄であると指摘されて、それをそのまま認めてしまった。」

(イ)  しかし、「平成12年10月に喜多方工場において被告人会社代表者、被告人Y1、C及びAの4名で話をし、その時から明確に方針を転換した」、という上記各供述については、Cは、「平成12年10月ころに、喜多方工場を1回訪れ、本件穴とその脇に廃棄物が置かれている状況を目にして、被告人Y1に対し、よい状態ではないと話したが、具体的な対処方法については話は出なかった。また、本社に帰った後、被告人会社代表者にもこのことを報告し、いずれ撤去しなければならないという話になったが、具体的にいつまでにするという話はなかった。」旨述べ、Aも、「これは完全に撤去しなきゃいけないんだなということを、うすうす会社の方針としてなりつつあった」とだけ述べて、いずれも、そのような話し合いがなされたとも、それを機に方針が転換されたとも述べていない(いずれも当公判廷における供述)。また、被告人会社代表者にしても、自らこの件について指示をしたのは上記の1回だけであり、その後はCと工場の現場に任せ、特段の報告も受けなかった旨、当公判廷において供述しているところである。これによれば、上記のような話し合いが持たれた事実自体が極めて疑わしいものというほかはなく、仮にそのころそのような話が出ていたとしても、少なくともこれにより産業廃棄物に対するこれまでの扱いが大きく変えられたと社内一般に認識されるようなものではなかったと認められる。

また、「その後、喜多方工場内の各委員会において廃棄物の撤去、処理の適正化等について議論をした」との被告人Y1の上記供述についても、その裏付けとして提出されている当該会議の議事録とされる書面をみても、平成12年4月17日付けの品質管理委員会に係る書面(弁(書)5)には、「環境保全推進委員会を立ち上げ」「廃棄物の適正な処理方法などを検討することとする」との記載しかなく、平成13年1月29日付けの同委員会に係る書面(弁(書)6)にも、「廃棄物の処理等の現状が適正でなければならない」との記載しかなく、平成13年11月30日付けの環境管理委員会に係る書面(弁(書)7)には、廃棄物の処理については記載されていないのであって、これによれば、これらの会議においても、少なくとも、本件穴の中や周辺に置かれた廃棄物の撤去、処理が具体的に議論されたものとは認められない。

(5)  以上のとおり、喜多方工場においては、以前から素堀の穴である本件穴の中に廃棄物を入れて捨てていたところ、本件起訴に係る廃棄物も、いずれ穴の中に押し込む予定で、分別もされずに、その脇に積み置かれ、長期間そのままの状態に放置されていたものである。これは、客観的に見て、「捨てる」との評価をされるべき行為態様である。

また、上記作業の際には、被告人Y1や作業に当たった従業員らの間では、本件廃棄物を「穴に捨てる」「穴に埋める」といったやりとりがなされていたものであるし、被告人会社が福島県会津地方振興局長宛てに提出した報告書においても、本件穴に廃棄物を入れる行為は「埋立て」などと表記されている。これらによれば、被告人会社内においても、本件穴の中や周辺に廃棄物を置く行為は廃棄物を捨てていることであると認識されていたことが見て取れる。

他方、上記のとおり、被告人会社代表者及び被告人Y1は、平成12年10月の話し合いをもって、この廃棄物はいずれ撤去するように方針を転換したと供述しているが、少なくとも、社内一般にそのように認識されてはいなかったし、喜多方工場内の各種委員会においても、本件穴の中や周辺に置かれた廃棄物の撤去、処理が具体的に議論されることはなかった。

そして、いずれにしても、本件が外部に発覚するまで、本件穴の中ないしその周辺に置かれる廃棄物のそれまでの扱い方に変化があったことはうかがわれないし、この廃棄物の撤去、処分がなされたことも、これに向けた具体的な行動が起こされたことも、そのための具体的な予定が立てられたことも全くなかった。

以上の事実によれば、本件起訴に係る産業廃棄物を積み置いた行為は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という法の趣旨を踏まえ、社会通念に照らしてみれば、廃棄物を占有者の手から離して自然に還元するものと評価され、法16条に規定する「みだりに」「捨て」(る)行為に該当することは明らかである。仮に被告人会社内において、いつかこれを撤去、処理しようという考えがあったとしても、これは要するに、現状の扱いが違法であってこれを改めるべき義務があることを自認していたということにほかならず、これにより上記の法的評価が覆されるものではない。

そして、廃棄物を捨てたことにより犯罪が一旦成立した以上、その後にこれを撤去したとしても、犯罪が成立しなかったことになるという道理はない。

(6)  以上によれば、被告人ら及び弁護人の上記主張も採用することができない。

(法令の適用)

被告人三神精工株式会社について

同被告人の判示所為は包括して平成15年法律第93号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律25条8号、16条、32条1号に該当するところ、その所定金額の範囲内で同被告人を罰金150万円に処することとする。

被告人Y1について

同被告人の判示所為は包括して平成15年法律第93号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律25条8号、16条に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、その所定刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役1年2月及び罰金30万円に処し、その罰金を完納することができないときは、刑法18条により金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、アルミニウムの再生精錬等を業とする会社が、その精錬過程で排出される汚泥等の産業廃棄物を工場の敷地内に投棄したという事案である。被告人会社においては、昭和50年代から、上記のような廃棄物を工場の敷地内に穴を掘って埋め立てて処理してきたものであるところ、本件犯行もその一環として敢行されたものである。このように、犯行には常習性が顕著であり、埋められた廃棄物も本件犯行に限っても少ないものではなく、環境を損なうこと甚だしい。その動機は、当該廃棄物の処理を引き受ける業者が当面手配できなかったことに加え、被告人会社において経営が逼迫していて、廃棄物の処理のための費用が捻出できなかったということであるが、これにより犯行が正当化できるはずはない。以上によれば、被告人らの刑事責任は、いずれも重大というべきである。

もっとも、本件は被告人会社がそれまで捨ててきた産業廃棄物のごく一部に限り起訴したものであり、それを超える部分までも処罰の対象とすることはできない。また、本件において廃棄物が捨てられたのは被告人会社自身の工場の敷地内であり、これもやはり環境を汚染する行為ではあるが、他人の所有地に無断で廃棄物を捨てたような事案と比較すれば、他者に被害を与える程度は軽いものといえる。そして、本件発覚後、被告人会社は、起訴に係る廃棄物は早期に回収して適正に処分し、少なくとも捜査段階においては、自ら費用を負担するなどして事案の解明に積極的に協力してきた上、生成される廃棄物も適正に処理するようになり、さらには、本件以前に投棄された廃棄物も、順次、適正に処理すべく努力している。そして、被告人らはいずれも前科前歴がないこと、被告人会社については、地場産業を担う企業として、地域社会の振興のためにこれまで力を尽くしてきたものでもあること、被告人Y1については、支えるべき家族がいることなどの斟酌すべき事情も認められるので、以上を総合考慮して、主文のとおり刑を定めた。

(求刑 被告人三神精工株式会社につき罰金500万円、被告人Y1につき懲役2年及び罰金50万円)

別表

投棄年月日 投棄の場所 投棄物 数量 (約キログラム) 投棄者

13.8.10ころ 福島県喜多方市b町字c95番地1 三神精工株式会社喜多方工場敷地 汚泥 1,762 A

13.9.15ころ 同上 金属くず (天ぷら鉄等) 金属くず (アルミ口金等) 618 1,077 D

13.10.1ころ 同上 鉱さい 730 同上

13.10.26ころ 同上 同上 (乾式集塵灰) 3,680 E

13.11.12ころ 同上 汚泥 (湿式集塵灰) 1,011 A

13.11.19ころ 同上 鉱さい (中子砂) 247 F

13.11.28ころ 同上 がれき類 (煉瓦くず) 599 E

合計 9,724

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