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福島地方裁判所白河支部 平成21年(ワ)160号 判決 2012年2月14日

第160号事件原告・第1号事件原告

X1(以下「原告X1」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X2(以下「原告X2」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X3(以下「原告X3」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X4(以下「原告X4」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X5(以下「原告X5」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X6(以下「原告X6」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X7(以下「原告X7」という。)

第160号事件原告・第1号事件原告

X8(以下「原告X8」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

倉持惠

深谷拓

南部弘樹

原告ら訴訟復代理人弁護士

藤原泰朗

第160号事件被告

破産者株式会社a破産管財人Y1(以下「被告会社破産管財人」という。)

第160号事件被告

破産者A破産管財人Y1(以下「被告A破産管財人」という。)

第160号事件被告

Y2協同組合(以下「被告組合」という。)

上記代表者代表清算人

第1号事件被告

Y3(以下「被告Y3」という。)

第1号事件被告

Y4(以下「被告Y4」という。)

被告Y3及び被告Y4訴訟代理人弁護士

青木淑企

主文

第1原告X1について

1  原告X1が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X1に対し,7万8074円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X1が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権319万7056円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万8904円の優先的破産債権並びに上記319万7056円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X1の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X1が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X1の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X1に対し,110万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X1の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第2原告X2について

1  原告X2が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X2に対し,7万1171円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X2が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権313万4062円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万8335円の優先的破産債権並びに上記313万4062円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X2の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X2が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X2の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X2に対し,110万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X2の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第3原告X3について

1  原告X3が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X3に対し,7万7414円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X3が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権311万9912円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万8207円の優先的破産債権並びに上記311万9912円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X3の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X3が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X3の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X3に対し,110万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X3の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第4原告X4について

1  原告X4が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X4に対し,7万3276円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X4が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権316万5396円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万8618円の優先的破産債権並びに上記316万5396円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X4の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X4が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権110万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金150円の破産債権並びに上記110万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X4の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X4に対し,110万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X4の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第5原告X5について

1  原告X5が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X5に対し,7万9796円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X5が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権292万8729円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万6478円の優先的破産債権並びに上記292万8729円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X5の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X5が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X5の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X5に対し,100万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X5の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第6原告X6について

1  原告X6が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X6に対し,7万9592円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X6が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権291万8415円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万6385円の優先的破産債権並びに上記291万8415円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X6の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X6が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X6の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X6に対し,100万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X6の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第7原告X7について

1  原告X7が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X7に対し,8万5965円及びこれに対する平成21年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X7が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権292万7433円及びこれに対する平成21年7月4日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万6467円の優先的破産債権並びに上記292万7433円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X7の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X7が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X7の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X7に対し,100万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X7の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第8原告X8について

1  原告X8が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する

2(1)  被告会社破産管財人は,原告X8に対し,7万9597円及びこれに対する平成21年7月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告X8が,破産者株式会社aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第79号破産手続開始申立事件につき,異議に係る給与債権292万9433円及びこれに対する平成21年7月3日から同年8月27日までの年6分の割合による遅延損害金2万6966円の優先的破産債権並びに上記292万9433円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

3  原告X8の被告会社破産管財人に対するその余の請求及びその余の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求を棄却する。

4  原告X8が,破産者Aに対し,福島地方裁判所白河支部平成21年(フ)第80号破産手続開始申立事件につき,異議に係る不法行為に基づく損害賠償請求権100万円及びこれに対する平成21年8月27日から同日までの年5分の割合による遅延損害金136円の破産債権並びに上記100万円に対する平成21年8月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することを確定する。

5  原告X8の被告A破産管財人に対するその余の請求を棄却する。

6  被告組合は,原告X8に対し,100万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  原告X8の,被告組合に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

8  この判決は第6項に限り仮に執行することができる。

第9訴訟費用の負担について

訴訟費用は,これを10分し,その3を被告会社破産管財人の負担とし,その1を被告会社破産管財人,被告A破産管財人及び被告組合の連帯負担とし,その余を原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

別紙請求目録<省略。以下,同じ>記載のとおり

第2事案の概要等

本件は,外国人研修生制度の研修生として来日し,後に技能実習生となった原告らが,①研修期間は第二次受入れ機関として原告らを受け入れ,技能実習期間は実習実施機関として原告らと雇用契約を締結していた株式会社a(以下「本件会社」という。)の破産管財人である被告会社破産管財人に対しては,(a)研修期間の原告らの実態からすれば,原告らは労働基準法9条及び最低賃金法2条1項(以下「労働基準法9条等」という。)所定の労働者に当たるのに労働基準法及び最低賃金法(以下「労働基準法等」という。)に基づく賃金が支払われておらず,技能実習期間中も労働基準法等に基づく賃金が支払われていないと主張して,未払賃金のうちの財団債権部分とこれに対する退職の日の翌日以降の日(原告X8は平成21年7月3日,その余の原告らは同月4日)から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」という。)6条1項所定の年14.6%の割合による遅延利息金の支払,財団債権部分以外の未払賃金とこれに対する上記退職の日の翌日以降の日から本件会社に対する破産手続開始決定日の前日(平成21年8月27日)までの賃確法6条1項所定の遅延利息金の優先的破産債権を有することの確定及び財団債権部分以外の未払賃金に対する本件会社に対する破産手続開始決定日(同月28日)から支払済みまでの賃確法6条1項所定の遅延利息金の劣後的破産債権を有することの確定を求め,(b)本件会社が原告らが逃亡したり逆らったりできない環境を作り上げ,劣悪,苛酷な環境で酷使したことが不法行為(A(以下「A」という。)及び他の被告とは共同不法行為)に該当すると主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料及び弁護士費用(以下「慰謝料等」という。)並びに未払賃金相当額の合計額。未払賃金相当額部分は,上記(a)の請求との関係では予備的請求である。)とこれに対する不法行為日以降の日(平成21年8月27日)から破産手続開始決定日の前日(同日)までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の破産債権を有することの確定及び上記損害賠償請求権に対する破産手続開始決定日(同月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することの確定を求め,②第一次受入れ機関である被告組合に対しては,本件会社と一体となって積極的に本件会社の不法行為に関与したこと及び本件会社を指導,監督すべき作為義務を負っていたのにこれを怠ったこと等が不法行為(本件会社,A及び他の被告とは共同不法行為)に該当すると主張して,不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料等と未払賃金相当額)及びこれに対する不法行為日以降の日以降の日(平成22年1月13日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,③本件会社の代表取締役であり,被告組合の代表理事であったAの破産管財人である被告A破産管財人に対しては,Aが本件会社及び被告組合の代表者として上記①(b)及び②の不法行為を主導したことが不法行為(本件会社及び他の被告とは共同不法行為)に該当すると主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料等及び未払賃金相当額)とこれに対する不法行為日以降の日(平成21年8月27日)から破産手続開始決定日の前日(同日)までの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の破産債権を有することの確定及び上記損害賠償請求権に対する破産手続開始決定日(同月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の劣後的破産債権を有することの確定を求め,④被告Y3及び被告Y4に対しては,(a)同被告らがAと共謀して,上記①(b),②及び③の不法行為に加担したこと等が不法行為(本件会社,被告組合及びAとは共同不法行為)に該当する,(b)同被告らが被告組合の役員であり,役員としての任務を懈怠したこと等が中小企業等協同組合法38条の3第1項の任務懈怠行為に該当し又は民法709条の不法行為に該当すると主張して,損害賠償金(慰謝料等と未払賃金相当額)とこれに対する不法行為日以降の日又は履行請求をした日以降の日(平成22年1月13日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払((a)と(b)とは選択的請求)を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠等により認めた事実はその認定に供した証拠等を記載した。争いがない事実はその旨記載した。)

(1)  外国人研修制度及び技能実習制度について

本件で問題となる外国人研修制度及び技能実習制度(以下まとめて「本件制度」という。)は,平成21年法律第79号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下「改正前入管法」という。)に基づく制度であり,その概要等は次のとおりである。

ア 制度概要(証拠<省略>)

(ア) 本件制度は,諸外国の青壮年労働者等を日本に受け入れ,日本の産業,職業上の技術,技能,知識の移転を通じ,それぞれの国の産業発展に寄与する人材育成を目的とした制度である。

(イ) 本件制度のうち,外国人研修制度は,研修生を受け入れた後概ね1年以内の期間に,日本の産業,職業上の技術,技能,知識の修得を支援することを内容とするものである。

a 研修生は,改正前入管法の「研修」(本邦の公私の機関により受け入れられて行う技術,技能又は知識の修得をする活動)の在留資格により在留を許可される者であるところ,「研修」の在留資格が認められるための具体的要件は,出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(証拠<省略>。以下「基準省令」という。)によって定められている。

本件で問題となる研修は団体監理型研修といわれるものである(証拠<省略>)。これは,事業協同組合等の団体(第一次受入れ機関)が,公的援助,指導を受けて受入れ責任を持ち,これらの団体等の指導,監督の下でそのメンバーである傘下企業等(第二次受入れ機関)が研修生を受け入れるというものである。このような団体監理型で行われる研修が上記「研修」の在留資格が認められるための具体的要件は,基準省令のほか,出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の研修の在留資格に係る基準の5号の特例を定める件又は同6号の特例を定める件(証拠<省略>。以下「研修告示」という。)によって定められている。これらによれば,第一次受入れ機関は,第二次受入れ機関が行う研修を監理し,第二次受入れ機関が行う研修の実施状況を3月につき少なくとも一回監査を行いその結果を地方入国管理局の長に報告することとされている。

b 研修生に対して実施される研修は,実務研修と非実務研修とがある。

実務研修とは,商品を生産し若しくは販売する業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技術,技能又は知識を修得する研修をいう。また,非実務研修とは,教室,実習室等で行われる日本語教育,専門技術教育,安全衛生指導,日本での生活指導等の研修(「座学」や「集合研修」と呼ばれる研修)等の実務研修以外の研修をいう。

基準省令では,上記「研修」の在留資格が認められるため実務研修及び非実務研修の割合について定めている。これによると,実務研修は,法務大臣が告示をもって定める場合を除き,研修を受ける時間全体の3分の2以下でなければならず,したがって,非実務研修は,研修を受ける時間全体の3分の1以上となることが必要となる。(基準省令7号本文。証拠<省略>)。

また,法務省入国管理局が平成11年2月に公表した研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針(以下「本件指針」という。証拠<省略>)によると,非実務研修は第一次受入れ機関と第二次受入れ機関の双方が行うこと,第一次受入れ機関が行う非実務研修(集合研修とも言われる。)は日本語教育,生活習慣等について,主に入国当初の1か月間,160時間程度を目安に行うこと,第二次受入れ機関が行う非実務研修は,第一次受入れ機関が行う研修と同趣旨のもののほか,研修生が修得しようとする実践的な技術等に係る知識や安全衛生教育等について行うものとされている。

なお,本件で原告らの研修期間(後記(2)アのとおり)当時に公表されていた指針は上記本件指針であったが,法務省入国管理局は,平成19年12月に本件指針の改訂版を公表した(以下「本件改訂指針」という。証拠<省略>)。

(ウ) 本件制度のうち,外国人技能実習制度は,研修期間と合わせて最長3年の期間において,研修生が研修により修得した技術,技能及び知識を,より実践的かつ実務的に習熟させる機会を提供するものである。

技能実習生は,改正前入管法の「特定活動」(法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動)の在留資格により在留を許可される者である。技能実習制度に関しては,「技能実習制度に係る出入国管理上の取扱いに関する指針」(証拠<省略>。以下「技能実習告示」という。)が定められている。

イ 研修生及び技能実習生の労働法令上の位置付け(争いがない)

研修生は報酬を受ける活動を行ってはならず,制度上は労働基準法9条等所定の労働者には該当しないとされる者である。研修生に対しては研修期間中に研修手当が支給されることがあるが,これは生活に要する実費として支給されるものであり,労働の対価である賃金たる性質のものではない。

これに対し,技能実習生は,実習実施機関との雇用契約を締結してその業務に従事し,その対価として報酬を受けとる者であり,労働基準法9条等所定の労働者に該当する。したがって,技能実習生に対しては,労働基準法等所定の基準以上の賃金を支払わなければならない。

(2)  当事者等

ア 原告ら

原告らはベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)国籍を有し,いずれも縫製の研修生として来日し,本件会社の研修生及び技能実習生として本邦に在留していた女性である。原告ら各人の生年月日,入国時期,入国時の年齢は別表経歴表のとおりである。

原告らは,本邦に在留中は本件会社の寮に入居して生活していた。

原告らが研修期間に作業を行った場所と技能実習期間の就業場所は,原告X1,同X2及び同X3については福島県石川郡○○町内でAの子であるBがb縫製の名称で運営していた工場(以下「○○工場」という。),その余の原告らは同県西白河郡△△村内の本件会社の工場(以下「△△工場」という。)であった。

原告らの研修期間は,原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4(以下「原告X1ら4人」という。)は平成18年7月5日から平成19年5月5日まで,原告X5,原告X6,原告X7及び原告X8(以下「原告X5ら4人」という。)は平成18年11月23日から平成19年11月23日までであった。それぞれそれ以降は,原告らは技能実習生として雇用されていたが,平成21年7月1日,退職した。

(以上のうち,研修生及び技能実習生の期間について証拠<省略>,その余の事実は争いがない。)

イ 本件会社

本件会社は,衣料品の縫製,販売等を目的とする株式会社である。本件会社は,原告らの研修期間は第二次受入れ機関として原告らを受け入れ,原告らが技能実習生に移行した後は実習実施機関として原告らと雇用契約を締結してその業務に従事させていた者である。なお,Aの子であるBが運営していたb縫製はその独立性がなく,本件会社と一体である。(争いがない)

本件会社は,本件訴訟が係属した後である平成21年8月28日午後4時に破産手続開始決定を受け,その破産管財人に選任された被告会社破産管財人が訴訟手続を受継した。(顕著な事実)

ウ 被告組合等

被告組合は,組合員の取り扱う縫製品の共同受注,外国人研修生の受入れに関する事業等を行うため,平成11年11月24日,Aを代表理事として設立された中小企業等協同組合法による事業協同組合である。

被告組合は,平成16年,ベトナムの送出機関であるc社(以下「訴外会社」という。)との間で研修生受入派遣に関する契約を締結し(以下「本件契約」という。),同契約に基づき,第一次受入れ機関として原告らを研修生として受け入れた。

原告らが来日した当時,本件組合の組合員には,本件会社,前記b縫製,Aの子であるCが運営していたd社,e社,f社などがあった。(以上について証拠<省略>)

エ A

Aは,本件会社の代表取締役であるとともに,本件組合の代表理事であった者である。(争いがない)

Aは,本件訴訟が係属した後である平成21年8月28日午後4時に破産手続開始決定を受け,その破産管財人に選任された被告A破産管財人が訴訟手続を受継した。(顕著な事実)

オ 被告Y3及び被告Y4(以下「被告Y3ら」という。)

被告Y3はe社の代表者,被告Y4はf社の代表者である。(争いがない)

被告組合が福島県県南地方振興局長に対してした中小企業等協同組合法35条の2の規定に基づく役員変更届出には,次のとおり,被告Y3らが被告組合の役員となった旨の記載がある(以下「本件各届出」という。)。(証拠<省略>)

(ア) 平成18年8月9日付け届出

同年6月30日の通常総会において被告Y3が理事に,被告Y4が監事に選任され,就任を承諾した(変更の事由は任期満了による改選)。

(イ) 平成19年10月25日付け届出

同年6月30日の通常総会において被告Y4が理事に選任され,理事会において被告Y4が専務理事に選任され,同被告がいずれも就任を承諾した(変更の事由は専務理事と監事の辞任)。

(ウ) 平成20年7月10日付け届出

同年6月30日の通常総会において被告Y3らがそれぞれ理事に選任され,理事会において被告Y4が専務理事に選任され,同被告らがいずれも承諾した(変更の事由は任期満了による改選)。

(3)  原告らの従事時間,賃金(基本給),時間外割増賃金及び休日割増賃金の額並びに既払金及び控除すべき額

ア 本件会社が研修期間中に支払う研修手当は月額6万円とされており,また,技能実習期間中の基本給は月額11万4000円とされていた。(研修手当は争いがない。基本給は証拠<省略>,弁論の全趣旨)

イ(ア) 原告らは,研修期間及び技能実習期間中,別表1~8(以下「各人別表」という。)<省略。以下,同じ>の「争いのない従事時間(時間)」記載の時間,本件会社にて従事した(「平日」とは法定労働時間数を,「土」及び「残業」とは平成20年法律第89号による改正前の労働基準法37条1項による時間外割増賃金の対象となる時間数を,「日」とは上記同項による休日割増賃金の対象となる時間数をそれぞれ意味する。従事時間について原告らと被告会社破産管財人及び被告A破産管財人は合意をし,他の被告は積極的に争っていない。ただし,原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であり,各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」の従事時間についても原告らに対して労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきであるかは争いがある。)。

(イ) 原告らの研修期間の実態が労働基準法9条等所定の労働者として評価されるべきものであった場合の賃金(基本給),時間外割増賃金及び休日割増賃金は,1時間あたり,それぞれ659円,824円及び890円である。上記賃金(基本給)は,原告らの研修期間当時における最低賃金法所定の福島県内の最低賃金を上回るもの,時間外割増賃金及び休日割増賃金は,上記賃金(基本給)に改正前労働基準法37条1項を受けた政令で定める最低限の割増率を加算したものである(上記の各額によることについて原告らと被告会社破産管財人及び被告A破産管財人は合意をし,他の被告は積極的に争っていない。)。

また,原告らの技能実習期間の時間外割増賃金及び休日割増賃金は前記研修期間のそれぞれと同額である(原告らと被告会社破産管財人及び被告A破産管財人は合意をし,他の被告は積極的に争っていない。)。

ウ 本件会社は,原告らに対し,これまでに各人別表の「争いのない既払金員(円)」記載の金員を支払った。時間外分及び休日分を除く部分(各人別表の「基本給部分(b)」)の支払額は,おおむね,1か月あたり,研修期間は6万円,技能実習期間は7万円である。また,時間外分及び休日分の従事に対する支払額は,1時間あたり,来日1年目は300円,2年目は400円,3年目は500円である。

そして,各人別表の「賃金から控除(円)」及び「機構立替払控除(証拠<省略>)(円)」は,各人の賃金から控除される金員である。

(以上について原告らと被告会社破産管財人及び被告A破産管財人は合意をし,他の被告は積極的に争っていない。)

(4)  被告会社破産管財人がした消滅時効の意思表示

被告会社破産管財人は,原告らの本件会社に対する賃金請求権のうちの平成19年5月25日までの期間分について,平成21年12月24日の本件第2回口頭弁論期日において,原告らに対し,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。(顕著な事実)

2  争点

(1)  未払賃金及び賃確法6条1項に基づく遅延利息金(以下「未払賃金等」という。)の支払及び未払賃金等の破産債権の確定請求(争点1。別紙請求目録記載の原告ら各々の請求の趣旨中,被告会社破産管財人に対する主位的請求の趣旨第2項(1)及び(2)に係るもの)

ア 原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であり,各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」の従事時間についても原告らに対して労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきであるか。(争点1の1)

イ 原告らの賃金から寮光熱費相当額(各人別表の「被告否認額(円)の寮光熱相当額(E)」欄の金額)を控除することが許されるか。(争点1の2)

ウ 被告会社破産管財人がした賃金請求権の消滅時効の主張が権利濫用であり又は信義則に反しており許されないものであるか。(争点1の3)

エ 未払賃金等の金額(争点1の4)

(2)  被告らの不法行為(共同不法行為)の成否(争点2。別紙請求目録記載の原告ら各々の請求の趣旨中,被告会社破産管財人に対する請求の趣旨第1項及び予備的請求の趣旨第2項並びにその他の被告に対する各請求の趣旨に係るもの)

ア 本件会社の不法行為の成否(争点2の1)

イ 被告組合の不法行為の成否(争点2の2)

ウ Aの不法行為の成否(争点2の3)

エ 被告Y3らの不法行為の成否(争点2の4)

オ 共同不法行為の成否(争点2の5)

カ 損害及び因果関係(争点2の6)

(3)  被告Y3らについて被告組合の役員としての任務懈怠(中小企業等協同組合法38条の3第1項)又は不法行為(民法709条)の成否並びに損害及び因果関係(以下「成否等」という。)(争点3。別紙請求目録記載の被告Y3及び被告Y4に対する各請求の趣旨に係るもの)

ア 被告Y3らが被告組合の役員であったか(争点3の1)

イ 被告Y3らの任務懈怠又は不法行為の成否等(争点3の2)

3  争点に対する当事者の主張等

争点に対する原告らの主張,被告らの認否及び主張は(1)ないし(3)のとおりである。このほか,被告らは,いずれも他の被告がした主張を自己に有利な限度で援用している。

(1)  争点1(未払賃金等の支払及び未払賃金等の破産債権の確定請求)について

ア 争点1の1(原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であり,各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」の従事時間についても原告らに対して労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきであるか。)について

(原告らの主張)

労働基準法9条等にいう労働者であるか否かは契約の形式にかかわらず実質的な事情,具体的には,時間的場所的拘束性,作業についての裁量の有無,作業内容,当事者の意思,報酬の対価性などの事情から総合的に判断されるべきであり,本件における下記事情を総合すると,原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等にいう労働者であり,各人別表の「争いのない従事時間(時間)の「平日」の従事時間についても原告らに対して労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきである。

① 時間的場所的拘束性については,原告らは,来日直後から,○○工場又は△△工場で,月曜日から土曜日まで午前8時から午後8時又は10時まで休憩時間を除いて縫製作業に従事し,日曜日は一応休日とされていたが出勤を要請されることが多く,実際は月に1,2日の休みしか与えられず,作業が終わるまで自由に帰宅することは許されず,その結果,原告らは研修期間中,平均して月間120時間以上の時間外労働を余儀なくされた。また,作業についての裁量の有無及び作業内容については,研修期間と技能実習期間とでは変化はなく,○○工場では作業の具体的内容は工場長から身振り手振りを交えて伝えられてその指示に従って作業をし,△△工場では型紙を渡されるだけでその型紙に従って作業を行っており,原告らに作業の進め方や内容についての裁量の余地はなかった。さらに,当事者の意思及び報酬の対価性については,本件会社は,原告らに「きゅうよ」として毎月6万円を支給し,月曜日から土曜日までの午後5時以降の作業及び日曜日の作業に対しては,「ざんぎょう」として1時間あたり300円の手当を支給していたのであるから,被告会社は研修生であった原告らを労働者として使用する意思で作業に対する対価として報酬を支払っていた。

② 原告らは,いずれも来日前からベトナムで縫製作業に従事していた者であり,ミシンの使用による縫製,アイロンかけなどの縫製作業に必要な知識と技術を既に身に付けていたが,本件会社が原告らに実務研修であるとして行わせた作業は,既に身に付けていた技術でできるものであり,外国人研修制度が予定する水準,すなわち開発途上国等への技術移転を目的とする研修としてふさわしい水準に達するものではなかった。また,外国人研修制度で必要とされる非実務研修は全く行われておらず,逆に,本件会社は,同制度では禁止している時間外労働や内職を行わせていた。以上のとおり,原告らについて研修生としての実態は皆無だった。

(被告会社破産管財人の認否及び主張)

(ア) 研修期間の実態が労働基準法9条等にいう労働者であるとする点は否認する。ただし,研修時間外の従事に対しては,労働者性を認めて労働基準法等に基づく賃金を支払うことを認める。

原告らは研修生であり,研修時間内の作業に対しては労働基準法等の適用はない。原告らが縫製作業に必要な知識と技術を既に有していたのであれば,原告らは研修の必要性がないのに研修目的で入国したことになり,原告らは我が国の入国管理制度を悪用して違法に入国したと言わなければならない。仮に,本件会社に何らかの違法があったとしても,原告らが希望し,要請した結果として生じたものである。

(イ) 原告らの主張中の①の各事情のうち,本件会社が原告らに毎月6万円を支給したことは認めるが,これは研修手当として支給したものであり,労働者性を認めて支払った賃金ではない。被告会社は,研修時間外の作業に対して1時間あたり300円の手当を支払ったことは認めるが,これは,日本にいる間に多く稼ぎ,少しでも多く本国の家族に送金したいという原告らの強い要望に応えてしていたものであり,被告会社が原告らを時間的場所的に拘束したり,労働を強制したというものではない。

また,原告らの主張中の②の各事情のうち,原告らに対する非実務研修が行われていないとする点は否認する。原告らに対する非実務研修は,gセンターを借りて,他の会社の研修生と一緒に行われている。実務研修が外国人研修制度が予定する水準に達していないとする点は,その主張内容が抽象的で不明である。時間外労働や内職の点は,前記の原告らの強い要望に応えて行っていたものである。原告らに研修生としての実態がなかったとする点は否認ないし争う。

イ 争点1の2(原告らの賃金から寮光熱費相当額(各人別表の「被告否認額(円)の寮光熱相当額(E)」欄の金額)を控除することが許されるか。)について

(被告会社破産管財人の主張)

原告らと本件会社等の間には,技能実習期間中は寮費及び光熱費(以下「寮費等」という。)を賃金から控除することについての合意(相殺合意)があった。すなわち,本件会社は,ベトナムで行った説明会の際,原告らに対し,技能実習期間は寮費等で約3万円がかかるのでこれを差し引いた後,手取額で最低7万円を保障すると説明している。そして,原告らは,技能実習期間は寮費等の負担があることを知悉した上で本件会社との雇用契約を締結したのであるから,原告らと本件会社との間には賃金から寮費等を控除する旨の合意(相殺合意)があったというべきである。

そして,労働者の同意に基づくと認め得る合理的な理由が客観的に存在する場合には相殺合意は賃金全額払の原則(労働基準法24条1項)に抵触せず有効であるところ,寮費の相場は1か月あたり2万円程度であり,光熱費の実費は1か月約1万5000円ほどであったことからして,原告の寮費等が不当に高額であるということはなく,上記合意は賃金全額払の原則と抵触しない有効なものである。

(原告らの主張)

原告らと本件会社との間で,技能実習期間は寮費等を賃金から控除する旨の合意をしたことはない。かえって,原告らと本件会社との間では,技能実習期間も引き続き寮費等を本件会社が負担し,原告らは無償で使用する旨の黙示の合意があったのであり,引き続き無償で住めるものと信じ込ませるような態度をとっていた本件会社が寮費等の控除を求めるのは信義則に反する。

また,被告会社破産管財人が主張する寮費等は高額にすぎて公序良俗に反し,賃金全額払の原則とも抵触するものであり,こうした観点からも寮費等を賃金から控除することは許されない。

ウ 争点1の3(被告会社破産管財人がした賃金請求権の消滅時効の主張が権利濫用であり又は信義則に反しており許されないものであるか。)について

(原告らの主張)

本件会社は,争点1の1,争点2の1の原告らの主張のとおり,原告らが逃亡したり逆らったりできない環境を作り上げていること,本件会社は原告らが未払賃金を請求することをほとんど不可能な状態にしていたことなどのことからすれば,消滅時効の主張は,権利濫用であり又は信義則に反し,許されない。

(被告会社破産管財人の主張)

否認ないし争う。

エ 争点1の4(未払賃金等の金額)について

(原告らの主張)

原告らの未払賃金等のうち,財団債権部分は,各人別表「原告主張額(円)」のとおり,平成21年5月28日以降の未払賃金(その金額は請求目録の原告ら各々の被告会社破産管財人に対する主位的請求の趣旨第2項(1)のとおり)と,それぞれその金員に対する同年7月4日(ただし原告X8は同月3日)から支払済みまで賃確法6条1項所定の年14.6%の割合による遅延利息金であるから,被告会社破産管財人に対してその支払を求める。

また,原告らの未払賃金等のうち優先的破産債権部分は,各人別表「原告主張額(円)」の平成21年5月27日以前の未払賃金とこれに対する同年7月4日(ただし原告X8は同月3日)から同年8月27日(破産手続開始決定の前日)まで賃確法6条1項所定の年14.6%の割合による遅延利息金,劣後的破産債権部分は各人別表「原告主張額(円)」の平成21年5月27日以前の未払賃金に対する同年8月28日(破産手続開始決定日)から支払済みまで賃確法6条1項所定の年14.6%の割合による遅延利息金であるが,本件訴訟では,平成21年5月27日以前の未払賃金が,当初請求額全額から上記財団債権部分の未払賃金額を控除した金額(その金額は請求目録の原告ら各々の被告会社破産管財人に対する主位的請求の趣旨第2項(2)のとおり)であるとして,優先的破産債権及び劣後的破産債権の確定を求める。

なお,上記の賃確法6条1項所定の遅延利息が認められないとしても,商事法定利率による年6分の割合による遅延損害金又は民法所定の年5分の割合による遅延損害金は認められるべきである。

(被告会社破産管財人の認否及び主張)

(ア) 原告らの研修期間中の賃金について

研修期間のうち,研修時間(研修期間中の各人別表の「平日」)については研修手当を支払済みであって未払はない。また,研修時間外の従事時間については労働者性を認めるが,本件会社が支払ったのは1時間あたり300円の手当であるので,合意した時間外割増賃金(1時間あたり824円)及び休日割増賃金(同890円)との差額が未払いである。

ただし,原告らの賃金請求権のうち,平成19年5月25日までの期間分については,消滅時効を援用する意思表示をしたことにより消滅した。

(イ) 原告らの技能実習期間中の賃金について

基本給(月額11万4000円)から,社会保険料(控除することに争いなし)と,寮費等(争点1の2)を控除すべきである。

時間外割増賃金及び休日割増賃金については,本件会社が支払ったのは,1時間あたり400円又は500円の手当であるので,合意した時間外割増賃金(1時間あたり824円)及び休日割増賃金(同890円)との差額が未払である。

(ウ) 以上(ア)及び(イ),争点1の1及び争点1の2の被告会社破産管財人の主張(各人「被告否認額(円)」は否認することとなる。)及び消滅時効の主張(平成19年5月25日以前の賃金請求権は持効により消滅することになる。)を踏まえて計算した結果は各人別表の「被告主張額(円)」のとおりである。これによれば,未払賃金のうちの財団債権部分は,原告X1が4万8963円,原告X2は4万2093円,原告X3は4万8276円,原告X4は4万3875円,原告X5は4万2452円,原告X6は4万2249円,原告X7は4万8590円,原告X8は4万2254円,未払賃金のうちの優先的破産債権は,原告X1が103万7960円,原告X2は101万7539円,原告X3は101万2511円,原告X4は107万0407円,原告X5は114万9664円,原告X6は114万1620円,原告X7は114万8664円,原告X8は115万0054円である。

(2)  被告らの不法行為(共同不法行為)の成否(争点2)

ア 本件会社の不法行為の成否(争点2の1)

(原告らの主張)

本件会社は,下記のとおり,安価な労働力を利用するために原告らを欺いて来日させたうえ,抵抗したり逃亡したりできない環境を作り上げ,原告らを劣悪,過酷な労働条件で酷使し,強制的に労働させた。被告会社の行為は一体として原告らの人格権を侵害する不法行為に該当するだけではなく,個々の行為単独でも原告らの人格権を侵害する不法行為に該当する。

① 本件会社は,逃亡を防止する目的で,原告らから旅券及び外国人登録証明書を取り上げ,「つみたて」と称して給与から毎月2万円又は3万円を天引きするという強制貯金をさせた。原告らが旅券及び外国人登録証明書の保管を本件会社に依頼したり,毎月の天引きを承諾したことはない。

② 被告組合は,原告らが逃亡したり抵抗したりできない環境を作り上げ,原告らを安価な労働力として長時間労働させる目的で,送出機関である訴外会社との間で,原告らが被告会社から逃亡した場合に訴外会社が被告組合に40万円を支払うことを内容とする違約金契約を締結して原告らから保証金を取ることを約束させて,原告らに訴外会社へ1人につき8000ドルから10000ドルの保証金を支払わせたが,本件会社は,被告組合と一体となって違約金契約を締結し,原告らから保証金を取ることを約束させた。

③ 本件会社は,外国人研修制度上必要とされている日本語学習を行わず,日本での生活に必要な基礎知識を全く教えないことにより,原告らを外部から孤立させ,原告らが助けを求めることを困難にさせた。

④ 本件会社は,原告らを安価な労働力として搾取する目的で,劣悪な住環境で住まわせ,低賃金,長時間の労働を強制した。

すなわち,本件会社は,原告らを2棟つづきの寮に入居させたが,寮には最も多いときで27人の研修生又は技能実習生が入居し,各人の固有スペースは各人のベッド分の広さしかなく,風通しや採光を全く考慮しないものであり,寮のエアコンは全て故障し,3台設置された洗濯機は1台のみがかろうじて動くがそれも脱水機能は故障し,2か所ある寮の入口のドアのうち1か所はドアの鍵が壊れ,自然劣化で割れた窓ガラスを修理せず,寮内に唯一のトイレは便座が壊れ,不潔で,プライバシーが守られないものであり,2か所ある入浴施設のうちの1か所は使用できず,もう1か所はシャワーヘッドが壊れて,冷蔵庫は各棟1個ずつしかなく,寮の建物に空いた穴からはねずみ,へび,虫類が度々侵入するというように,その住環境は劣悪なものであった。

また,本件会社は,原告らが研修生として来日した直後から,午前8時から午後8時又は10時まで就労させ,休みは毎月1,2日程度しか与えず,忙しい時期には帰宅後に本件制度上禁止されている内職を強要し,健康診断を実施せず,体調が悪いと言っても病院に連れて行かず,労働基準法等所定の賃金を支払わないというように,原告らに対して低賃金,長時間の労働を強制した。

⑤ 本件会社は,違法な就労実態が社会的に明らかになると,原告らの修了証授与を故意に行わず,原告らの帰国旅費立替制度手続を故意に怠り,「入管に電話したやつは誰だ」と語気鋭く詰め寄るなどして嫌がらせをした。

(被告会社破産管財人の認否及び主張)

原告らの主張冒頭の,原告らを欺いて来日させたとする点,抵抗したり逃亡したりできない環境を作り上げたとする点,原告らを劣悪,過酷な労働条件で酷使したとする点,強制的に労働させたとする点はいずれも否認ないし争う。原告らが主張する個別事情に対する認否及び反論は下記のとおりであるが,原告らの主張は,事実として存在しないか,存在するとしても不法行為に該当しない形式的法令違反をいうものである。

① 原告らの主張①のうち,原告らから旅券及び外国人登録証明書を取り上げたとする点は否認ないし争う。本件会社は,原告らから依頼を受けて旅券を預かっていたが,本人から返還の依頼があれば即座に返還していたのであり,原告らからは返還の申出がなかったのでそのまま保管していたにすぎないのであり,本件会社が原告らから旅券及び外国人登録証明書を取り上げたというものではない。

また,強制貯金をさせたという点は,否認ないし争う。本件会社は,以前に来日した研修生ないし技能実習生に対しては手当,賃金を全額支給をしていたが,ほとんどを本国に送金してしまうため,帰国する際に手元に金が残らなくなってしまっていた。本件会社は,そのことを見かねて,研修生ないし技能実習生が帰国する際にまとまった金員を持ち帰られるよう,原告らが入国する前に手当又は賃金から積立てをする旨を話し,原告らがこれを承諾したので実行していた。したがって,本件会社がした上記行為は,強制貯金でもなければ,逃走防止のために行ったものでもない。仮に上記行為が法令に違反する行為だったとしても,積み立てた金員は被告らに返還済みであり,不法行為には該当しない。

② 原告らの主張②の違約金契約は否認する。本件会社が知るところではない。

③ 原告らの主張③の点は否認する。原告らに対しては,集合研修としてgセンターを借り,警察官を講師とした交通安全及び防犯等の指導,通訳を講師とした日本語指導等が行われている。また,本件会社は,研修日誌のとおりの非実務研修を行っている。

④ 原告らの主張④はいずれも否認する。

住環境の点については,本件会社が原告らに対して提供した寮には十分な設備が備えられており,プライバシーにも配慮したものであり,問題が生じていたとすれば,それは原告らが自ら掃除をしないこと等によるものである。

労働時間及び賃金の点については,原告らの労働時間が長時間となったのは,原告ら自身が本国に多く送金したいために本件会社に時間外労働をさせるよう要求したためであり,本件会社が強制的に労働させたことはない。また,本件会社は原告らに健康診断を実施し,体調不良時には病院に連れて行っている。

⑤ 原告らの主張⑤の点はいずれも否認する。

本件会社は修了証を交付しており,原告らの帰国が遅れたのは原告らの選択によるものであり,語気鋭く申し向けるなどの嫌がらせをしたことはない。

イ 争点2の2(被告組合の不法行為の成否)について

(原告らの主張)

被告組合は,(ア)のとおり本件会社と一体となって積極的に本件会社の不法行為に関与し,また,(イ)のとおり,本件会社を指導監督すべき作為義務を負っていたのにこれを怠った。これらのことは不法行為に該当する。

(ア) 積極的不法行為について

a 非実務研修の不実施について

被告組合は,原告らに対する非実務研修を行わず,その結果,原告らは,日本語や日本での生活文化の知識が不十分となり,誰かに助けを求めることが困難となったばかりか,非実務研修が実施されなかった分長時間の労働に従事させられた。

b 監査の不実施及び虚偽の監査結果報告書の提出について

被告組合は,本件会社に対する監査を行わなかったばかりか,本件会社が争点2の1の原告らの主張にあるような旅券及び外国人登録証明書の取り上げ,強制貯金,違約金契約,劣悪な住環境,低賃金長時間の強制労働等の不法行為をしていたことを認識していたにもかかわらず,これらの事実を隠蔽するために,あえて全て問題なしとする監査結果報告書を作成して仙台入国管理局長に提出し,このことにより,約3年間にわたり本件会社の不法行為が継続された。

c 違約金契約の締結について

被告組合は,原告らが逃亡したり抵抗したりできない環境を作り上げ,原告らを安価な労働力として長時間労働させる目的で,送出機関である訴外会社との間で,原告らが被告会社から逃亡した場合に訴外会社が被告組合に40万円を支払うことを内容とする違約金契約を締結して原告らから保証金を取ることを約束させて,原告らに訴外会社へ1人につき8000ドルから10000ドルの保証金を支払わせた。

(イ) 作為義務違反(不作為の不法行為)について

被告組合は,研修期間中は改正前入管法,基準省令,研修告示等の法令に基づき,第一次受入れ機関として第二次受入れ機関である本件会社に対して,適正な研修を実施するよう指導監督する法的作為義務を負っており,被告組合は本件会社の不法行為を認識していたにもかかわらず,上記作為義務を怠り,本件会社による種々の不法行為の継続を容認した。

また,上記のとおり研修期間中に本件会社の不法行為が継続され,被告組合はこれを認識していたばかりではなく,自らも積極的不法行為を行って原告らに対する不法行為の結果発生の危険を生じさせていたのであるから,被告組合は,先行行為に基づき,条理上,原告らの研修期間終了後も,本件会社に対して,技能実習が適法かつ安全に実施されるよう指導監督を行うべき法的作為義務を負っていたというべきであるのに,被告組合は本件会社の不法行為を認識していたにもかかわらず,この作為義務を怠り,本件会社による種々の不法行為の継続を容認した。

(被告組合の主張)

原告らの主張は,(ア)及び(イ)のとおり,否認ないし争う。

(ア) 積極的不法行為について

被告組合は,送出機関から違約金を提供する旨の口頭の申出を受けたことはあるものの,原告らの主張するような違約金契約を締結したことはない。また,被告組合は原告らに対して非実務研修を行っている。さらに,被告組合が本件会社の不法行為を認識していたとする点は否認する。

(イ) 作為義務違反(不作為の不法行為)について

被告組合が原告らが主張する法的作為義務を負うとする解釈は争う。第一次受入れ機関は,研修期間中には第二次受入れ機関に対する監理を行うが,研修期間中であっても第二次受入れ機関に対する指導監督権限まで付与されておらず,法的作為義務を負うものではない。また,技能実習期間については,法的作為義務を負う理由がない。

そもそも,本件会社の原告らに対する不法行為自体が存在しないから,本件では被告組合の本件会社に対する作為義務違反を論じる余地はない。

ウ 争点2の3(Aの不法行為の成否)について

(原告らの主張)

Aは,本件会社の代表者として本件会社がした不法行為を主導し,また,被告組合の代表者として被告組合がした不法行為を主導しており,自ら直接又は間接的に上記不法行為を実行しており,これらのことは不法行為に該当する。

(被告A破産管財人の主張)

否認ないし争う。本件会社及び被告組合は不法行為をしておらず,Aの不法行為をいう原告らの主張は失当である。

エ 争点2の4(被告Y3らの不法行為の成否について)

(原告らの主張)

被告Y3らは,(ア)及び(イ)のとおり,本件会社及び被告組合の不法行為を認識しながら,これを黙認し又は積極的に加担しており,これらのことは不法行為に該当する。

(ア) 被告Y3らは,非実務研修の研修指導員又は講師となることが予定されていたのに,これを行わなかったことにより,原告らに対して非実務研修を実施しないという被告組合の行為に積極的に加担した。

(イ) 被告Y3らは,本件会社が原告らに対して労働基準法等に違反する低賃金で入国直後から長時間の時間外労働を強制していたこと,旅券及び外国人登録証明書を取り上げていたこと,劣悪な住環境に住まわせていたこと,強制貯金をしていたこと等を認識し,また,被告組合がこれを放置していることを認識しながら,これを黙認した。

(ウ) 被告Y3は,被告組合が監査を実施していないことを知りながらこれを黙認し,被告Y4は監査責任者でありながら監査を行わず,仙台入国管理局長に事実に反する虚偽の監査結果報告書を提出して被告組合の不正行為に積極的に加担した。

(エ) 被告Y3らは,被告組合が訴外会社との間で違約金契約を締結したことを認識し,被告Y3らの会社で受け入れていた研修生についても違約金契約を締結していた。

(被告Y3らの主張)

原告らの主張は,(ア)ないし(エ)のとおり,否認ないし争う。

(ア) 被告Y3らは,原告らに対する非実務研修の研修指導員ではなく,講師として呼ばれた際には研修を実施したのであるが,被告Y3らが被告組合が非実務研修を実施しないということに加担したということはない。

(イ) 被告Y3らは,原告らの労働条件,賃金支払状況がどのようなものであったか,どのような住環境であったか,本件会社が旅券及び外国人登録証明書を取り上げていたかなどのことについては知らない。

(ウ) 被告Y3らは被告組合の役員ではないので,監査結果報告書の内容について何らかの責任を負う立場にはなく,被告組合に対して適正な監査を求める立場にもない。

(エ) 被告Y3らは,被告組合が訴外会社と違約金契約を締結したか知らないし,自身の会社で受け入れていた研修生について違約金契約を締結していたということもない。

オ 争点2の5(共同不法行為の成否)について

(原告らの主張)

(ア) 本件会社,被告組合及びA(以下「本件会社ら」という。)の各不法行為は,本件会社らが共同して行ったものであるから,民法719条の共同不法行為が成立する。

(イ) また,被告Y3らは,下記のとおり,Aと明示又は黙示的に共謀して本件会社らの違法違反行為に加担し,仮に共謀があったとまではいえないとしてもAと相互に利用しあうことでお互いに利益を得ていたから,本件会社らとは民法719条の共同不法行為が成立する。

すなわち,被告Y3らは,争点2の4の原告らの主張のとおり本件会社らの不法行為を認識していたのであるが,本件会社らの行為はいずれも本件指針で定められた不正行為に該当するものであり,これを放置して万一外部に明らかになれば,被告組合として研修生の新規受入れが停止されることとなり,被告Y3らにも多大な不利益が生じるものである。そうすると,被告Y3らがAと共謀していなければ,本件会社らの不正行為を黙認し又は疑問を抱きながら知ろうともせず放置するはずがない。本件会社らの不法行為は,Aと被告Y3らとの共謀がなければほとんど遂行不可能であるし,共謀がないとするにはあまりにも不自然である。

また,仮に共謀があったとまではいえないとしても,被告Y3らが本件会社らの不正行為を認識しながらこれを隠しており,そのことは原告らに対する不正行為の継続にとって不可欠な役割を果たしていたこと,被告Y3らが経営する会社も被告組合を通して研修生を受け入れていたことから訴外会社と締結していた違約金契約の適用を受けていたことはもとより,被告組合から監査を受けなかったことによって利益を得ていたこと,被告Y3らも自身が受け入れた研修生に対して被告組合が行うべき非実務研修(集合研修)が行われなかったことによって研修生を直ちに労働力として利用できるという利益を得て,研修生の賃金等についても同様に利益を得ていたことなどのことからすれば,被告Y3らは,Aと互いに利用しあうことにより利益を得ていたといえる。

(被告会社破産管財人,被告A破産管財人及び被告組合の認否及び主張)

否認ないし争う。本件会社らにはいずれも原告らに対する不法行為は成立しない。

(被告Y3らの認否及び主張)

否認ないし争う。被告Y3らがAと共謀したということも,Aと相互に利用しあうことでお互いに利益を得ていたということもない。

カ 争点2の6(損害及び因果関係)について

(原告らの主張)

原告らは,被告らの不法行為(共同不法行為)により,(ア)及び(イ)のとおり不法行為(共同不法行為)と相当因果関係のある損害を被ったから,被告会社破産管財人及び被告A破産管財人に対しては破産債権の確定を,被告組合及び被告Y3らに対しては損害額の連帯支払を求める。

なお,被告会社破産管財人に対する請求のうち(イ)の未払賃金相当額に係る部分は,未払賃金等に関する請求(争点1)との関係では予備的請求となる。また,被告Y3らに対する請求は,中小企業等協同組合法38条の3第1項又は民法709条に基づく請求(争点3)との関係では選択的請求である。

(ア) 慰謝料等について(別紙請求目録記載の原告ら各々の請求の趣旨中,各被告に対する請求の趣旨第1項に係るもの)

原告らは,被告らの不法行為(共同不法行為)により,約3年間にわたり実質的に奴隷状態にあった。原告らの精神的苦痛は甚大であり,慰謝料は1人につき300万円を下らない。また,弁護士費用は,1人につき30万円を認めるのが相当である。

(イ) 未払賃金相当額について(別紙請求目録記載の原告ら各々の請求の趣旨中,被告会社破産管財人に対する予備的請求の趣旨第2項及びその他の被告に対する各請求の趣旨第2項に係るもの)

a 原告らは,被告らの不法行為(共同不法行為)により,未払賃金相当額の損害を被った。

すなわち,本件会社が原告らを強制的に労働させたことによって,原告らは労働時間相当分の労働エネルギーを搾取されているのであり,これは精神的苦痛とは別のものである。したがって,この労働時間相当分の労働エネルギーが原告らの損害になる。そして,この労働エネルギーの損害額は,原告らが普通に働いていれば得たであろう賃金相当額ということができる。この賃金相当額は,本来であれば,同業同年代の平均賃金を基準にすべきであるが,少なくとも,最低賃金及び原告らが被告会社との間で締結した雇用契約に基づく賃金相当額であると評価することはできるから,原告らには,賃金相当額の損害が生じたと言える。この労働エネルギー分の損害は,賃金債権と競合関係に立ち,賃金が支払われればその分の損害は填補されることから,現時点で残存している損害は未払賃金相当額ということになる。

b 又は,被告組合は,本件制度上,第二次受入れ機関である本件会社が研修生に労働させていないこと及び適時適切な賃金を支払っていることを監視し,万が一にもこれを順守していない場合には,これを是正させるなどして必要な措置を講じるべき義務を負っていたところ,被告組合はこの義務を怠った結果,研修期間に労働に従事させられ,技能実習期間には本来支払われるべき賃金を受けられなかった。そして,本件会社は破産手続開始決定を受け,原告らが未払賃金の支払を受けることが事実上不可能な状態になったことから,原告らは,被告組合の不法行為により未払賃金相当額の損害を被った。

また,被告Y3らはAと共謀して被告組合による監督を実施しなかったのであるから,原告らは,被告Y3らの不法行為により未払賃金相当額の損害を被った。

(被告会社破産管財人,被告A破産管財人の認否及び主張)

否認ないし争う。原告らは自ら外国人研修制度を悪用して入国し,労働に服していたのであり,原告らは何ら精神的苦痛を受けていないし,意に反して労働力を搾取されたということもない。

(被告組合,被告Y3らの認否及び主張)

否認ないし争う。

(3)  争点3(被告Y3らについて被告組合の役員としての任務懈怠(中小企業等協同組合法38条の3第1項)又は不法行為(民法709条)の成否等)について

ア 争点3の1(被告Y3らが被告組合の役員であったか)について

(原告らの主張)

被告Y3らは,本件各届出のとおり,被告組合の役員である。

役員を選任したとされる総会が開催されていないとしても,被告組合の代表理事であるAが個別に被告Y3らに役員への就任を要請して同被告らはこれを承諾していること,被告組合の他の組合員は被告Y3らの役員就任を了承し,被告Y3らが役員であることに異議を述べる者がいないことなどからすれば,実質的に選任の手続を経ており,その瑕疵は軽微であって,役員の選任の効力を妨げられるものではない。

また,平成19年3月に開催された外国人研修生に関する研修会には,被告Y3は被告組合の理事として,被告Y4は専務理事として参加をしていること,平成21年10月6日付の被告組合の清算人会議には清算人として決議に参加していることなど,被告Y3らが被告組合の役員として振る舞う行動をしていたことからすれば,選任手続の瑕疵を理由に役員であることを否定することは禁反言の原則に反する。

(被告Y3らの認否及び主張)

否認する。被告Y3らを役員に選任したとされる総会は開催されておらず,これに代わり得る手続が行われたということもない。また,被告Y3らが,事前にも事後にも役員に就任することを承諾したことはない。本件各届出は,Aかその意を受けた本件組合の事務局長であるDが被告Y3らの名前を冒用してしたものであり,被告Y3らは自身が被告組合の役員に就任していることを知らなかった。被告Y3らが役員として振る舞う行為をしたということもない。

清算人会議録に被告Y3らが押印したことは認めるが,それは,Aから,本件会社が倒産し,被告組合も解散すると聞いたことから,本件組合を放置するべきではなく,きちんと清算しなければならないと考えて押印したものであるものであって,被告Y3らが被告組合の役員であったことを認めた趣旨ではない。

イ 争点3の2(被告Y3らの任務懈怠又は不法行為の成否等)について

(原告らの主張)

被告Y3らは,被告組合の代表理事であるAが取締役を務めていた本件会社に対して被告組合による監理が適切になされているか常時監視する義務があったにもかかわらず,悪意又は重大な過失(重大な過失を基礎付ける事実は争点2の4における原告らの主張と同旨である。)によってこの義務を懈怠して,原告らに損害を与えたのであるから,被告Y3らは中小企業等協同組合法38条の3第1項の任務懈怠責任又は民法709条の不法行為責任を負う。

そして,争点2の6の慰謝料等及び未払賃金相当額は上記任務懈怠行為と相当因果関係のある損害であるから,被告Y3らに対しては連帯支払を求める。

(被告Y3らの認否及び主張)

否認ないし争う。

第3争点に対する判断

一  争点1(未払賃金等の支払及び未払賃金等の破産債権の確定請求)について

1  争点1の1(原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であり,各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」の従事時間についても原告らに対して労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきであるか。)について

(1) 争いのない事実等のほか,証拠等(文中に掲記した。なお,被告組合代表者尋問調書のうち,第4回口頭弁論期日におけるものは「被告組合代表者(第4回)」と,第5回口頭弁論期日におけるものは「被告組合代表者(第5回)」と表記する。以下同じ。)によれば,次の事実が認められる(争いのある事実関係については適宜判断をする。以下同じ。)。

ア 被告組合と送出機関である訴外会社との間で締結された本件契約では,研修生の待遇に関し,月額6万円の研修手当を支給すること,研修期間中の基本研修時間は週40時間とすること,年間カレンダーがある受入企業ではそれに従い休日を与えることとされていた。また,本件契約では,研修生の選抜に関し,日本において修得しようとする技術等に係る業務に現に従事し,その業務に2年以上従事している者であって,研修を受けるに足りる日本語能力を持つと認められる者であることなどの要件を満たす者を訴外会社が適任者として選任し,被告組合が受入企業と協議した上,係る適任者の中から選抜することとされていた。そして,原告らはいずれもベトナムで縫製の業務に従事した経験のある者であり,来日前にベトナム国内で日本語の勉強をしていた(原告X1ら4人は9か月間,原告X5ら4人は3か月間勉強していた。)者であった。(証拠<省略>,原告X4本人,原告X3本人)

イ Aは,平成17年10月,ベトナムに行って研修生の選抜をし,原告らを本件会社で受け入れることを決定した。Aは,その際,原告らに対し,研修期間は月額6万円の手当を保障し,その間の残業手当は1時間300円とすること,技能実習期間は手取りで7万円を保障し,この間の残業手当は1時間400円とすることを説明した。(証拠・人証<省略>)

ウ 原告らは,来日後,△△工場又は○○工場での縫製作業に従事した。研修期間中の研修時間は午前8時から午後5時まで(休憩時間を除く)とされていたが,原告らは研修時間外にも上記各工場で作業に従事しており,その時間数は,原告X1ら4人が月平均120時間以上,原告X5ら4人は月平均130時間以上であった。このほか,原告らの中には,上記各工場での作業以外にも内職として縫製作業を行っていた者もいた。そして,本件会社は,原告らが入国する前から,研修時間外に報酬を伴う作業を行わせることは外国人研修制度上禁止されていることを知悉しながら,研修期間中であっても研修時間外の作業に従事させることを考えていた(A証人尋問調書48頁)。

また,原告らが研修期間に従事した上記の作業は,原告らのベトナムにおける縫製の従事経験で修得していた技術によっておおむねこなすことができる内容のものであり,その作業内容は原告らが技能実習生になった後も特段の変化はなかった。

そして,本件会社は,研修期間中,原告らに対して月額6万円の研修手当(ただし,「ちょきん」として天引きした月額2万円又は3万円を含む額である。),本件会社が認定していた研修時間外の作業従事時間(各人別表中の「争いのない既払金員(円)」の「土日残時間数」欄の時間)に対して1時間300円の「ざんぎょう」手当を,内職に対しては「ないしょく」手当をそれぞれ支払った。

(以上について争いのない事実等,証拠<省略>,原告X4本人,原告X3本人,A証人)

エ 被告組合は,本件指針にあるとおり,原告らが入国した当初の1か月間に20日間,160時間の日程で,日本語学習,日本での生活指導等をする集合研修を,gセンターや本件会社の研修室,工場等で行うとする研修計画書を作成していた。しかし,原告らに対しては,被告組合の他の組合員の研修生と合同で,gセンターで,警察官を招いての交通安全及び防犯等の指導,通訳を招いての日本語学習,駐在所や消防署の確認等の日本で生活する上で必要となる事項の学習や日本語学習等は行われたものの,上記日程どおりの研修が行われなかった。(証拠<省略>,被告Y3本人,被告Y4本人,被告組合代表者(第5回))

この点,予定どおり160時間の集合研修を行ったとする被告組合代表者の陳述書の記載部分(証拠<省略>)があるが,同人自身が研修実施状況についてあいまいな供述をしていること(被告組合代表者尋問調書(第5回)4頁),原告らが入国した当初の1か月間に従事した研修時間外の作業時間は原告X1ら4人がいずれも80時間を超え(各人別表の2006年7月欄),原告X5ら4人が60時間程度に達しており(各人別表の2006年11月,12月欄),原告らが入国当初から本件会社での縫製の作業に多忙であったことがうかがわれることに照らし,信用することができない。

他方,原告らは全く集合研修が行われていないと主張し,これに沿う原告X4及び原告X3の供述部分ないし陳述部分(証拠<省略>)がある。しかし,警察官を招いて交通安全,防犯等の指導を受けている状況を撮影したと認められる写真(証拠<省略>)には,原告X5ら4人が同時期に来日した(証拠<省略>)と認められるe社の研修生が一緒に写っていること,原告X1ら4人が白河市内の名所旧跡,gセンター,△△村駐在所及び消防署前で撮影したと認められる写真(証拠<省略>)には,同時期に来日した(証拠<省略>)と認められるf社の研修生が一緒に写っており,これと符合する集合研修日誌の記載があること(証拠<省略>),被告組合が集合研修を行う場所の一つであるgセンターを借用していること(証拠<省略>),講師として予定されていた被告Y3らが,研修を全く行っていなかったわけではないと供述ないし陳述をしていること(証拠<省略>,被告Y3本人,被告Y4本人)に沿わないことから信用することができず,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

オ 本件会社は,研修期間中,原告らに対して日本語学習,縫製機械の取扱い等についての非実務研修を行ったが(証拠<省略>,A証人),研修日誌(証拠<省略>)に記載されたとおりの非実務研修を行ったことはなかった。

この点,被告会社破産管財人は,研修日誌に記載されたとおりの非実務研修を行った旨の主張をするが,前記エのように原告らが研修時間外に長時間,本件会社での縫製の作業に従事していたことにそぐわないものであり,上記主張をそのまま採用することはできない。

他方,原告らは,本件会社は全く非実務研修を行わなかったと主張し,これに沿う原告X4及び原告X3の供述部分ないし陳述部分(証拠<省略>)がある。しかし,研修日誌には日本語研修等を行った担当講師による所見が記載されており(証拠<省略>,A証人尋問調書11頁),記載内容の全てが不自然であり,研修日誌の全てが虚偽であるとまで認めるに足りない。他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

カ 原告らか研修生であった平成18年12月当時,本件会社には日本人の常勤職員が65人,ベトナム人研修生及び技能実習生が合計13人おり,○○工場には日本人の常勤職員が15人,ベトナム人研修生及び技能実習生が合計6人おり,以上を合算すると全人員に対するベトナム人研修生及び技能実習生の人員比率は2割弱に達していた。また,本件会社は,時間外作業を命じる場合,日本人従業員よりもベトナム人研修生及び技能実習生に作業を行わせることを優先させ,日本人従業員が行う時間外作業に対しては労働基準法等に沿った時間外割増賃金を支払うものの,ベトナム人研修生及び技能実習生に対しては1時間あたり300円,400円又は500円というように,最低賃金法による最低賃金額(平成18年9月30日までは1時間あたり614円,同年10月1日以降は1時間あたり618円。その後も改定されて618円を上回る金額となっていることは当裁判所に顕著である。)を下回る手当しか支払っていなかった。(争いのない事実等,証拠<省略>,A証人,顕著な事実)

(2) そこで,原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であるか検討するに,前記(1)の各認定事実のとおり,本件契約によれば,研修生となる者は日本で修得しようとする技術に係る業務に一定程度従事した経験があることが予定されており,実際にも原告らはいずれもベトナムにおいて縫製の経験を有していた者であったこと,原告らが研修期間中に従事した縫製作業はそうした経験から修得していた技術でおおむね対応し得るものであり,そうした技術を有していた原告らが研修時間外に長時間の縫製作業に従事していたこと,本件会社は研修期間中の時間外に作業を行わせて報酬を支給することが禁止されていることを知悉しながら,原告らが来日する前に,来日後には研修時間外の作業を行わせる意図をもって,その報酬である「ざんぎょう」代金が1時間あたり300円であると説明し,実際にもその旨の支払をしていたこと,原告らに対する非実務研修は全く行われていなかったものではないが,基準省令や本件指針に定められた時間行われていたとは認められないこと,原告らの研修期間であった平成18年12月には,本件会社(○○工場を含む)におけるベトナム人研修生及び技能実習生の比率は2割弱にも達しており,時間外作業を命じる場合には,最低賃金額を下回る手当しか支給しないベトナム人研修生及び技能実習生を優先させていたことからして,本件会社では,ベトナム人研修生及び技能実習生は,人件費上重要な位置付けにあったことなどのことが認められるところである。以上の事実を総合すると,本件会社は,ベトナム人研修生及び技能実習生が日本人の常勤職員に比べて安価に使用することができることから,日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもって,縫製作業に従事させていたものと認めざるを得ない。そして,上記事実関係の下では,原告らに対する非実務研修が全く行われていなかったわけではないことをもって,研修時間中は研修生としての実態を有していたとはいえず,原告らは,研修時間の内外を問わず,本件会社の指揮監督の下に本件会社の業務に従事していたと評価することができる。

そうすると,原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であると認められ,原告らに対して,研修時間外の従事時間に対してのみならず,研修時間内の従事時間(各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」欄の時間)に対しても,労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきである。

2  争点1の2(原告らの賃金から寮光熱費相当額(各人別表の「被告否認額(円)の寮光熱相当額(E)」欄の金額)を控除することが許されるか。)について

労使間の書面による協定がある場合を除いては賃金から寮費等を控除することは許されないが(賃金全額払の原則。労働基準法24条1項),本件会社において上記労使間の書面による協定が存することを認める証拠はない。

被告会社破産管財人は,原告らと本件会社等の間には,技能実習期間中は寮費等を賃金から控除することについての合意(相殺合意)があったと主張する。被告会社破産管財人は,係る合意を裏付ける事実として,本件会社は,ベトナムで行った説明会の際,原告らに対し,技能実習期間は寮費等で約3万円がかかるのでこれを差し引いた後,手取額で最低7万円を保障すると説明していると主張し,これに沿うAの証言部分がある。しかし,Aの証言によっても係る説明をした場所,内容,対象者があいまいであること(A証人尋問調書49頁~50頁)に加え,原告らは同一の寮で生活をしていたこと(争いのない事実等)から,その寮費等の額を原告毎に異にすべき理由を見出し難いというべきであるのに,控除するべきであると主張している寮費等の額は原告毎に異なるという不自然なものである(各人別表参照)。また,技能実習期間中に原告らに交付していた給与明細書(証拠<省略>)には,寮費等を控除した旨の記載はされていない。以上によれば,Aの証言は信用することができず,被告会社破産管財人の主張を認めることはできない。

そして,ほかに,寮費等を控除することが労働基準法上適法であると認めるに足りる証拠はなく,原告らの賃金から寮費等を控除することは許されない。

3  争点1の3(被告会社破産管財人がした賃金請求権の消滅時効の主張が権利濫用であり又は信義則に反しており許されないものであるか。)について

本件で消滅時効の対象となるのは,原告らの研修期間中の賃金の一部である(争いのない事実等)。そして,本件会社が,ベトナム人研修生及び技能実習生が日本人の常勤職員に比べて安価に使用することができることから,日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもって縫製作業に従事させていたこと,こうした実態から原告らは,研修時間の内外を問わず労働基準法9条等の労働者に当たることは前記争点1の1にて認定判断したとおりであるところ,上記意図及び実態からすれば,本件会社は研修生に支払うべき金員の処遇について,研修生が本件制度上は労働基準法等9条所定の労働者に該当しないとされていることを奇貨として,労働基準法等の規定が適用されることを潜脱する意図を有していたことが推認されるというべきである。

また,原告らの技能実習期間について,本件会社は原告らについての給与台帳と給与明細書(証拠<省略>)を作成していたのであるが,これらは原告らに実際に渡していた給与明細書(証拠<省略>)とは内容が異なっており,しかも,あたかも時間外割増賃金や休日割増賃金について労働基準法に沿った支払いがされているかのように記載されているものである。また,本件会社は,△△工場で勤務していた原告X4ら5名について賃金が月額11万4000円である旨の雇用契約書を作成しているものの(証拠<省略>),同額を支払ったことは一度もない(A証人尋問調書51頁)。そして,以上のことについて,A証人自身が,原告らを労働法令上適切な処遇をしていることを労働基準監督署に説明するために作成したものであったと認めていること(A証人尋問調書48頁,51頁)からすると,本件会社には,技能実習生の賃金の処遇についても労働基準法等の労働法令を遵守しようとする意識がなかったものと言わざるを得ない。そして,上記事実からは,その前段階にある研修生に支払うべき金員の処遇についても,本件会社が労働基準法等の規定が適用されることを潜脱する意図を有していたことが推認されるというべきである。

上記の本件の事実関係のとおり,本件会社は,研修生に支払うべき金員の処遇については労働基準法等の規定が適用されることを潜脱する意図をもって,外形上はあたかも研修生であるかのような処遇を続けていたのであり,そうでありながら,本件訴訟において原告らが労働者であるとすれば賃金請求権の消滅時効を援用するということは,信義則に反するものと言わざるを得ない。そして,原告らは平成21年7月に本件会社を退職した後,同年8月には本件訴えを提起しているのであるから,原告らが研修期間中の賃金について長期間権利行使をしていなかったという事情があったとはいえない。以上のような本件事情の下では,被告会社破産管財人がした消滅時効の援用は,権利を濫用するものとして許されないというべきである。

4  争点1の4(未払賃金等の金額)について

(1) 未払賃金について

未払賃金のうち,財団債権部分は各人別表「原告主張額(円)」のとおり平成21年5月28日以降の賃金,すなわち,原告X1は7万8074円,原告X2は7万1171円,原告X3は7万7414円,原告X4は7万3276円,原告X5は7万9796円,原告X6は7万9592円,原告X7は8万5965円,原告X8は7万9597円となり,優先的破産債権部分は,各人別表の「原告主張額(円)」のとおり,同月5月27日以前の賃金,すなわち,原告X1は319万7056円,原告X2は313万4062円,原告X3は311万9912円,原告X4は316万5396円,原告X5は292万8729円,原告X6は291万8415円,原告X7は292万7433円,原告X8は292万9433円となる。

(2) 賃確法6条1項所定の遅延利息請求について

原告らは,未払賃金に対する賃確法6条1項所定の年14.6%の遅延利息の支払又は破産債権の確定を求めているが,本件会社は破産手続開始の決定を受けており,賃確法6条2項,賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条2号により賃確法6条1項が適用されないこととなるから,上記遅延利息に係る原告らの請求は認められない。

もっとも,原告らは,予備的に商事法定利率による又は民法所定の利率による遅延損害金の請求をしているところ,本件会社は商人であることから,未払賃金に対する原告ら各人の請求の始期から支払済みまでの商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払請求権は認められることとなる。

よって,原告らの請求は,財団債権部分の未払賃金に対する平成21年7月4日(ただし原告X8は同月3日)から支払済みまで年6分の割合による金員の支払請求,優先的破産債権部分の未払賃金に対する平成21年7月4日(ただし原告X8は同月3日)から同年8月27日(破産手続開始決定の前日)まで年6分の割合による金員の優先的破産債権を有することの確定請求及び優先的破産債権部分の未払賃金に対する平成21年8月28日(破産手続開始決定日)から支払済みまで年6分の割合による金員の劣後的破産債権を有することの確定請求について認められる。

(3) 結論

原告らの請求は上記(1)及び(2)の限度で理由があり,その余の請求は理由がない。

二  争点2(被告らの不法行為(共同不法行為)の成否)について

1  本件会社の不法行為の成否(争点2の1)

(1) 争いのない事実等,前記一の認定事実のほか,証拠等(文中に掲記した。)によれば,次の事実が認められる。

ア 旅券について

原告X1ら4人は,来日直後である平成18年7月4日,自己の旅券の保管を本件会社に依頼する旨の旅券保管依頼書を作成し,自己の旅券を本件会社に提出した。また,原告X5ら4人は,来日直後である同年11月23日,依頼により旅券を預かった旨の記載がある貴重品預かり書に署名をし,同年12月6日には原告X1ら4人が作成したのと同様の旅券保管依頼書を作成して自己の旅券を本件会社に提出した。

本件会社は,原告らと紛争となるまでは,旅券を返還してほしいとの求めに対して旅券の返還を拒んだということもなかった。本件会社は,原告X1ら4人と同時期に来日したベトナム人技能実習生1名については,平成21年1月ころ,同人の求めに応じて旅券を返還した。

(以上について証拠<省略>,原告X3本人,原告X4本人,A証人。上記書類に署名したことはないとする原告X3,原告X4の各供述部分及び陳述部分(証拠<省略>)並びに同趣旨の原告X6の陳述部分は信用することができない。)。

本件指針(平成11年2月公表)によると,受入れ機関が研修生及び技能実習生の失踪等問題事例の発生の防止を口実として旅券を預かることは不適切であり,法令違反に問われることにもなりかねないものであるとされている。また,本件改訂指針(平成19年12月公表)にも同様の記載があるほか,仮に外国人研修生,技能実習生から保管して欲しい旨の要望があったとしても預かるべきではないとされている。(証拠<省略>)

イ 「つみたて」について

本件会社は,原告X1ら4人については,平成18年8月から同年11月までは月額3万円を,同年12月以降は月額2万円を「つみたて」と称して支払うべき手当又は賃金から天引きし,原告X5ら4人については平成18年12月以降月額2万円を同様に天引きした。本件会社は,平成21年6月25日,天引きしていた額を原告らに支払った。(証拠<省略>,A本人,弁論の全趣旨)

本件会社は,日本人職員から賃金の一部を天引きしていたということはなく,また,賃金から天引きして貯蓄金管理をすることについての労使間の書面による協定を締結(労働基準法18条2項)したこともなかった。(A証人)

この点,被告会社破産管財人は,研修生ないし技能実習生が帰国する際にまとまった金員を持ち帰られるよう,原告らが入国する前に手当又は賃金から積立てをする旨を話し,原告らがこれを承諾したので実行していたと主張する。しかし,Aの証言(A証人尋問調書3~5頁)によっても話をした相手は原告らの親や訴外会社であって原告らではないこと,原告X1ら4人は来日した翌月から天引きを受けたが,月額3万円の天引きは厳しいので減額するよう申入れをしていることからして,原告らにとって天引きは負担感が強く,意に沿うものではなかったと認められること(証拠<省略>。この申入れが,天引きすること自体は承諾した上で,その減額を求めるという趣旨であったと認める証拠はない。)を総合すると,本件会社が原告らに対して賃金から積立てをする旨の話をしたとも,原告らがこれを承諾していたとも認めることはできない。もとより,こうした天引きは,労働基準法18条2項との関係では,承諾があったとしても,同法違反の問題が生じるものである。

ウ 寮について

(ア) 原告らが居住していた寮には,2階建ての建物部分と増築した建物部分とがあった。原告X1ら4人が居住していた2階建ての建物部分の構造は,1階が和室,食堂,物置,台所,風呂,トイレ,玄関,2階が寝室であり,原告X5ら4人が居住していた増築部分の構造は,洋室,寝室,台所,シャワー室,洗濯機置場及び物干スペース,トイレ,土間,出入口である。また,本件会社は,寮で生活する外国人研修生及び技能実習生のために炊飯器,掃除機,冷蔵庫,クーラー,ストーブ,扇風機を提供して備え付けていた。(証拠<省略>,A証人)

寮には本件会社(b縫製を含む。)の外国人研修生及び技能実習生が居住していたが,その人数は,平成18年12月4日現在で19人,平成19年2月20日及び同月4月6日現在で17人,平成20年6月4日現在で9人,平成21年6月現在では原告ら8名ともう1名の技能実習生の合計9人であった。(証拠<省略>,弁論の全趣旨)

寮の清掃と玄関の鍵の保管は入居する外国人研修生及び技能実習生に委ねられていた。(A証人,原告X4)

(イ) 寮には,本件会社と原告らとの雇用契約が終了した後である平成21年7月8日において,玄関の鍵の不具合,3台あった洗濯機のうちの2台が故障していたという不具合があり,同年8月11日当時において,シャワー室のシャワーにはホース部分から水が吹き出ているものがあるという不具合,2階建ての建物部分の台所の流し右側部分隅の床に穴が開いた部分があるという不具合があることが認められ,また,同月16日当時において,2階建ての建物部分の1階の誰も使用していなかった寮生固有スペースには,ねずみの糞様の黒い粒が散らばっていることが認められた。

また,Aは,原告らから寮でねずみが出たと聞かされたことがあり,その際には,Aがねずみ取りを設置したということがあった。(証拠<省略>,A証人)

エ 原告らの従事時間,賃金等の支払状況等について

争いのない事実等,争点1の1における認定事実及び証拠(証拠<省略>)を総合すると,原告らは,入国した最初の月から長時間の時間外作業(各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の土日残業合計。以下この項について同じ)に従事しており,こうした時間外作業は研修期間及び技能実習期間を通じて恒常化していたこと,研修期間中の月間の時間外作業時間は,原告X1ら4人は平均120時間以上,原告X5ら4人は平均130時間以上であったこと,技能実習期間中の月間の時間外作業時間は,原告X1ら4人は平均110時間以上,原告X1らは平均90時間以上であったこと,原告らは以上のとおり時間外作業を行っており,全期間を通じて労働基準法等に基づく時間外割増賃金及び休日割増賃金が支払われるべきであったのに,本件会社は「ざんぎょう」手当として1時間あたり来日1年目は300円,2年目は400円,3年目は500円しか支払わず,また,研修期間には研修時間中の作業に対しても労働者としての賃金を支払うべきであったにもかかわらず研修手当しか支払わず,その結果,争点1の4で認定したとおり,原告X1ら4人についてそれぞれ約320万円,原告X5ら4人についてそれぞれ約300万円の未払賃金を生じさせていること,原告らは「つみたて」として月々の手当ないし賃金から,平成18年11月までは月額3万円を,同年12月以降は月額2万円の天引きをうけていたため,原告らが実際に月々に受領していた金員は天引き額を控除した低額なものにとどまっていたことがそれぞれ認められる。

また,証拠(証拠<省略>,原告X4本人)によれば,原告X3を除く原告らは,本件制度上行うことができないとされている内職を行っていたことが認められる。

(2) 他方,次の各点については,認めることができない。

ア 外国人登録証明書について

原告らは,原告らの外国人登録証明書を本件会社が取り上げたと主張し,原告X3及び同X4の陳述書には,Aが外国人登録証明書を預かったとする陳述部分がある(証拠<省略>)。

しかし,被告組合が仙台入国管理局長に提出した監査結果報告書(証拠<省略>)には,旅券とは異なり外国人登録証明書は本人が管理しているとの記載があること,外国人登録証明書については本件会社が保管する旨の書類が存しないことに照らし,上記陳述部分を直ちに信用することはできず,ほかに本件会社が外国人登録証明書を預かっていたと認めるに足りる証拠はない。

イ 旅券の保管及び天引きの目的について

原告らは,旅券の保管及び天引きの目的が,原告らの逃亡を防止することにあったと主張する。

この点,こうした行為が原告らの自由な行動の事実上の制約となり得ることは否定し難いが,本件会社が実際に原告らの自由な行動を制約していたことを認めるに足りる証拠がないこと,旅券の保管及び天引きの目的について被告会社破産管財人の主張に沿うAの証言及び陳述書の記載(証拠<省略>)が虚偽であるとまでは認め難いことに照らし,逃亡の防止をすることを目的としていたとまで認めるに足りる証拠はない。

ウ 違約金契約について

原告らは,被告組合が,原告らが逃亡したり抵抗したりできない環境を作り上げ,原告らを安価な労働力として長時間労働させる目的で,送出機関である訴外会社との間で,原告らが被告会社から逃亡した場合に訴外会社が被告組合に40万円を支払うことを内容とする違約金契約を締結して原告らから保証金を取ることを約束させて,原告らに訴外会社へ1人につき8000ドルから10000ドルの保証金を支払わせたが,本件会社は,被告組合と一体となって違約金契約を締結し,原告らから保証金を取ることを約束させたと主張する。

しかし,本件契約(証拠<省略>)上,被告組合と訴外会社との間に原告らの主張に係る契約条項はなく,そのこと自体,原告らが主張する違約金契約が存しないことを推認させる。この点,本件契約外での合意があったとする訴外会社マーケティング部長のEの証言及び陳述書(甲39)が存するものの,同人の証言によっても同人が当該合意があったとされる場面に立ち会ったわけではなく,同人の証言は伝聞を根拠とするのであることからして,その証言の信用性は低いといわざるを得ない。また,被告組合の組合員であったh社の技能実習生が失踪した際のやりとりの中で,訴外会社が,「F氏が失踪のための賠償400,000」「F氏が逃走した原因はG社長の責任だし,更にA理事長もこの件に関して損害賠償を追求しないと言ったことにも関わらず弊社は賠償する」と提案したことはあるものの(甲39添付「未払いのこと」からはじまる書面の2頁目),こうした提案があったことが直ちに原告らの主張する違約金契約の存在を裏付けるものとはいえない。さらに,原告X3,原告X4及び原告X6の陳述書には,同原告らが訴外会社に10000ドル相当の保証金を預けた旨の部分があり,原告X3及び原告X4は同趣旨の供述をし,前記Eもこれに沿う証言をしているが,これは原告らと訴外会社との間の契約の問題であって,こうした契約が存在しているからといって被告組合と訴外会社との間に違約金契約が存したことを裏付けるものとはいえない。そして,上記Eの証言,h社の際のやりとり,原告らと訴外会社との保証金の件を総合して見ても,原告らの主張する違約金契約があったと認めるに足りず,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば,被告組合と訴外会社との間に原告らが主張する違約金契約があったと認めることはできず,したがって,本件会社の関与については検討するまでもなく,原告らの主張は認められない。

エ 日本語学習等について

原告らは,本件会社は,外国人研修制度上必要とされている日本語学習や日本での生活に必要な基礎知識を全く教えず,原告らを外部から孤立させ,原告らが助けを求めることを困難にさせたと主張し,これに沿う原告X4,原告X3の供述並びに同人ら及び原告X6の陳述(証拠<省略>)がある。

しかし,基準省令及び本件指針に沿った非実務研修が行われたとまでは認められないものの,原告らに対しては,被告組合により,被告組合の他の組合員の研修生と合同で,gセンターで,警察官を招いての交通安全,防犯等の指導,通訳を招いての日本語学習,駐在所や消防署の確認等の日本で生活する上で必要となる事項や日本語学習等が行われたこと,本件会社により,日本語学習,縫製機械の取扱い等についての非実務研修が行われたことは争点1の1の認定判断のとおりである。また,原告X1ら4人は来日前の9か月間,原告X5ら4人は来日前の3か月間それぞれ日本語の学習をしていたこと(証拠<省略>)から来日時においても日本語が全くわからないという状態にあったとはいえないこと,本件会社は,原告らが買い物をするために,1か月に1度は白河市内の大型商業施設に連れて行ったほか,原告らの求めに応じて近隣のスーパーマーケットに連れて行ったこと(証拠<省略>)などの事実もあると認められる。他方,本件会社が,原告らの日常の行動を監視し,外部との接触を許容しなかった等の事情が存していたとはうかがわれない。

以上によれば,上記供述ないし陳述は信用することができず,原告らの主張は認め難いのであって,ほかに原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

オ 寮について

原告らは,寮について種々の不具合の事象を主張している。

しかし,前記(1)ウ(イ)で認定した雇用関係終了後の寮の状況からすれば,雇用関係終了から遡る一定期間は認定した不具合が存していたことがうかがわれるものの,原告らが居住していた時期を通じて又は相当程度の期間これらの不具合が継続して存していたことを認めるに足りる証拠はない。また,その他にも種々の不具合が入居時からあったとする原告X4,原告X5の供述部分及び同原告ら及び原告X6の陳述部分(証拠<省略>)は,前記(1)ウ(イ)で認定した寮の状況,Aの証言や陳述書(証拠<省略>)に照らしてにわかに信用することはできない。そして,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

カ 健康診断の不実施等について

原告らは,本件会社が原告らへの健康診断を実施せず,体調が悪いと言っても病院に連れて行かなかったと主張する。しかし,平成19年11月に健康診断を実施したことを証する領収書及び診断書が存することや(証拠<省略>),原告らの主張に反するAの陳述書(証拠<省略>)が存することに照らして上記主張を認めることはできず,ほかに上記主張を認めるに足りる証拠はない。

キ 修了証認定の不実施等について

原告らは,本件会社は,違法な就労実態が社会的に明らかになると,原告らの修了証授与を故意に行わず,原告らの帰国旅費立替制度手続を故意に怠り,「入管に電話したやつは誰だ」と語気鋭く詰め寄るなどして嫌がらせをしたと主張し,原告X3及び原告X4の陳述書(証拠<省略>)にはこれに沿う陳述部分がある。

しかし,これに反するAの陳述書の記載部分(証拠<省略>)があることに照らし,上記原告らの陳述部分はにわかに信用することができず,ほかに原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) そこで,前記(1)の認定事実を前提として,本件会社がした行為が不法行為に該当するか否かを検討する。

ア(ア) 原告らは,来日した当初の月から長時間の時間外作業に恒常的に従事し,研修時間中の作業もその実態からすれば労働者としてのものであり,原告X3を除く原告らは本件制度上行うことができないとされている内職にも従事していたこと,本件会社は研修期間及び技能実習期間を通じて原告らに労働基準法等に基づく賃金を支払わず,賃金未払額は320万円又は300万円程度にも達していたのであるが,争点1の1の認定判断と前記(1)の認定事実を総合すると,こうした作業を原告らにさせ,賃金の支払も上記のようなものとした本件会社の意図は,外国人研修生及び技能実習生が日本人の常勤職員に比べて安価に使用することができることから,日本人の常勤職員の代替として使用し,労働基準法等の規定が適用されることを潜脱するというものであったと認められる。

本件会社破産管財人は,時間外労働については,原告ら自身が本国に多く送金したいために時間外労働をさせるよう要求したことにより行われたと主張する。少しでも多くの賃金を得たいということは通常の労働者の欲求として理解することができ,原告らが訴外会社に多額の保証金を支払ってまで研修生として来日したという原告らの供述が存することからしても,上記主張に沿うAの証言及び陳述部分(証拠<省略>)は不合理なものではなく,これに反する原告X3,X4及びX6の陳述部分(証拠<省略>)並びに原告X3及び原告X4の供述部分は信用することはできない。そうすると,時間外労働は原告らの意向に沿うものであったということは否定し難く,原告らの主張するような強制労働があったと認めるに足りる証拠はないというべきである。

しかしながら,上記認定判断のとおり,原告らは恒常的に長時間,労働基準法等に違反する低賃金で労働をしていたと認められるのであり,多くの賃金を得たいという原告らの意向があり,そのことが長時間の時間外労働につながっていたという面があったとしても,原告らが上記のような態様の労働までも全て容認していたとは認められない。したがって,原告らは,強制的に労働させられたとまではいえないものの,恒常的に長時間,労働基準法等に違反する低賃金での労働を余儀なくされたというべきである。

(イ) また,原告らが実際に受け取っていた手当又は賃金は天引き後のものであったため,原告らは,本邦での滞在中,本件会社が定めた額面額よりもさらに低額の手取金となることを余儀なくされたのであるが,このことが原告らの意に沿わないものであり,労働基準法上も違法であることは前記(1)イのとおりである。原告らに対しては,後に天引き額が支払われたのであるが,そのことによって,本件会社がした天引きの労働基準法上の違法性及び不当性が解消されたと評価することは相当ではない。

(ウ) さらに,本件会社が原告らから旅券を預かり保管していたのであるが,その預かった時期が原告らの来日直後であったことから,果たして原告らが旅券を保管されることの意味を十分に理解していたのか疑問があることに加え,平成11年2月に公表された本件指針では旅券を預かることは不適切であるとされ,平成19年11月に公表された本件改訂指針では研修生又は技能実習生からの依頼があっても預かるべきではないとされていることからすれば,本件会社が原告らから旅券を預かり保管していた行為は,全期間を通じて不適切な行為であったといわざるをえない。そして,原告らの研修先ないし雇用先であり,居住用の寮を提供している本件会社が原告らの旅券を預かるということは,原告らの行動の自由に対する事実上の制約となり得るものであり,たとえ預かり証を徴し,原告らが返還を求めればこれに応じて返還するという態様のものであったとしても,相当性を欠くものであったと言わなければならない。

(エ) 以上(ア)ないし(ウ)のとおり,本件会社が原告らに対してした行為には,不適切,不相当な行為があったと認められる。

イ(ア) 他方,寮の状況については,認定判断した限度では不具合があったことは認められるものの,そのことをもって,劣悪な住環境であったとまでは認めるに足りない。

(イ) また,原告らは,本件会社は,安価な労働力を利用するため,原告らを欺いて来日させたうえ,抵抗したり逃亡したりできない環境を作り上げ,原告らを劣悪・過酷な労働条件で酷使し,強制的に労働させたと主張する。

この点,本件会社が原告らを安価な労働力として利用する意図を有していたこと,原告らを長時間労働させ,労働基準法等所定の賃金を支払わなかったことが認められることは前記アのとおりであり,その意味では原告らの労働環境は悪いものであったと認めることはできるものの,本件会社が強制的に労働させたとまでは認められないことは前記アで認定判断したとおりである。また,原告らを欺いて来日させたという点,逃亡したり逃走したりできない環境を作り上げたとする点は,これを認めるに足りる証拠はない。

ウ そして,前記アで認定した本件会社の行為は,個別に見れば不適切,不相当であることが明らかであり,労働基準法等に違反する行為が含まれ,賃金請求権が発生するものであるが,全体として見れば,上記にとどまるものではなく,原告らが本件制度の予定していた研修及び技能実習の適切な運用を受け,支払われるべき金員の処遇等に関して労働基準法等の遵守を受けることなく,原告らが恒常的に長時間,労働基準法等に違反する低賃金での労働を余儀なくされたという意味において,原告らの人格権を侵害し,不法行為法上違法というべきである。そして,争いのない事実等と争点2の1における認定事実とを総合すると,本件会社に故意又は過失があることは明らかであるから,本件会社には,全体として原告らに対する不法行為が成立する。

2  争点2の2(被告組合の不法行為の成否)について

(1) 争いのない事実等,争点1の1,争点1の3及び争点2の1における認定事実,証拠等(文中に掲記した。)を総合すると,次の事実が認められる。

ア 非実務研修について

被告組合は,原告らに対し,被告組合の他の組合員の研修生と合同で,gセンターで,警察官を招いての交通安全及び防犯等の指導,通訳を招いての日本語学習,駐在所や消防署の確認等の日本で生活する上で必要となる事項の学習や日本語学習等を行ったものの,本件指針にあるような,1か月間,160時間の研修までは行わなかった。(争点1の1の認定事実)

その結果,予定どおりの非実務研修が行われなかった時間について,原告らは本件会社での業務に従事することとなった。(上記認定事実,証拠<省略>)

イ 監査及び監査結果報告書の提出について

(ア) 本件組合は,平成18年12月25日付け,平成19年4月23日付け及び同年8月24日付けで,本件会社(b縫製を含む)を監査したとする監査結果報告書を仙台入国管理局長に提出した。(証拠<省略>)

これらの監査結果報告書は原告らの研修期間のものであるが,全ての監査結果報告書には,第一次受入れ機関の集合研修及び第二次受入れ機関の非実務研修が計画どおりに実施されている旨,研修手当から控除している金員がない旨が記載され,また,平成18年12月25日付け及び平成19年4月23日付けの監査結果報告書には旅券を預かっていない旨が記載されているが,争点1の1,争点2の1における認定事実と対比すると,上記の各記載はいずれも実態とは異なる内容のものであり,この監査結果報告書上は,研修状況に特段の問題がないことを表すものであった。

(イ) また,被告組合は,平成19年2月20日及び平成20年6月4日に本件会社(b縫製を含む)を監査したとする「技能実習状況及び研修状況の監査報告」と題する報告書を作成した。(証拠<省略>)

この報告書は,主として技能実習状況についての報告であるが,直近の給料の支払内容,時間外割増賃金,最低賃金との確認,時間外労働時間,旅券の管理者,技能実習生に対する労働条件,技能実習期間中の時間外労働等の記載内容は,争点1の1,争点2の1の認定事実と対比すると,いずれも実態とは異なる内容のものであり,この報告書上は,技能実習状況に特段の問題がないことを表すものであった。

(ウ) 被告組合は,事務局を本件会社内に置き,Aは,本件会社で経理及び事務の仕事を担当していた本件会社社員のDに事務局の仕事を兼ねて担当するよう命じ,同人が被告組合が外部機関に提出する書類を作成し,提出する事務を行っていた。

上記(ア)の監査結果報告書及び上記(イ)のうち,「監事Y4」名で作成されたもの(証拠<省略>)は,Dがあらかじめ準備していた「Y4」の印を押捺して提出したものであったが,被告Y4が監査対象とされた本件会社(b縫製を含む)を監査したということはなかった。また,上記(ア)の監査結果報告書のうち,「監事C」名で作成されたものがあるが(証拠<省略>),CはAの子であり,本件会社と同じ△△村内でd社の商号で縫製業を営むとともに,本件組合の事務を行っていた者(例えば,h社の事後処理について,本件組合の担当者の立場で訴外会社との交渉を行っている。証拠<省略>)であった。

平成18年8月当時,本件組合の組合員は,Aが経営する本件会社,Aの子であるBが運営するb縫製,前記d社,被告Y3が経営するe社,被告Y4が経営するf社,Gが経営するh社があり,このほかにも5社が組合員であるとされていたが,これらの5社は既に業務を停止していたり,営業しているものの研修生を受け入れていなかったことから被告組合との関わりが薄い状態にあった。また,平成18年末ころにh社の外国人研修生,技能実習生に対する不正行為が明らかになり,同社が本件組合から抜けると,本件組合の組合員は,本件会社,b縫製,d社,e社及びf社の5社となっていた。

(以上について争いのない事実等,証拠<省略>,D証人,被告Y3本人,被告Y4本人,被告組合代表者(第4回)。ただし,D証人の証言部分のうち,被告Y4が監査を行ったとの証言部分(D証人尋問調書2頁)は,被告Y3ら代理人が被告Y4が監査に行ったことがあるのか尋ねると「それは記憶の中では余りなかったと思う。」(D証人尋問調書3頁)と曖昧な証言に後退していること,被告Y4が監査を行ったことを否定する供述をしていることに照らし,信用することができない。)

(2) 他方,次の各点については,認めることができない。

ア 非実務研修について

原告らは,被告組合は,原告らに対する非実務研修を行わず,その結果,原告らは,日本語や日本での生活文化の知識が不十分となり,誰かに助けを求めることが困難となったと主張するが,被告組合の研修実施状況については前記(1)アの認定のとおりであり,係る研修実施状況と原告らの日本語等の理解度との関係については原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

イ 違約金契約について

原告らは,被告組合が訴外会社と違約金契約を締結したと主張するが,係る主張を認めるに足りる証拠がないことは争点2の1における認定判断のとおりである。

ウ そして,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) そこで,上記(1)の認定事実と,本件制度が予定している第一次受入れ機関と第二次受入れ機関又は実習実施機関との関係性を踏まえて,本件組合に不法行為が成立するか検討する。

ア 研修期間について

(ア) 争いのない事実等のとおり,団体監理型研修では,外国人の在留が改正前入管法の「研修」の在留資格要件を満たすためには,第二次受入れ機関の行う研修を第一次受入れ機関が監理し,少なくとも3月に1回,第二次受入れ機関の監査を行い,その状況を地方入国管理局長に報告することが必要であるとされている。

また,証拠(証拠<省略>)によれば,法務省入国管理局は,一部受入れ機関において研修生,技能実習生の失踪,研修生の時間外労働ないし休日労働,研修生への手当ないし技能実習生に対する賃金の支払方法等の不正,研修生ないし技能実習生の事件又は事故の発生等の問題事例が発生しているという実情があることを背景として,研修生及び技能実習生の受入れの適正化を推進するために本件指針を策定したが,本件指針は,第一次受入れ機関が行う監査及び報告は適正な研修が行われていることを確認するためのものであり,その際には研修指導を行う者だけではなく,指導を受ける研修生からも研修の進捗状況を聴取し,双方の相違点等を明確にするなどして研修が適正に行われているかどうかを判断すること,定められた監査報告以外にも失踪等の問題事例や不適正な研修内容あるいはその疑い等が生じたときは地方入国管理局長に報告することを求めており,本件改訂指針にも同様の定めがあることが認められる。さらに,証拠(証拠<省略>)によれば,本件指針及び本件改訂指針のいずれにおいても,研修及び技能実習に係る提出書類の内容と相違する研修又は技能実習を行うこと,研修生に所定時間外,休日等の活動を行わせるなど研修ではなく就労活動と認められる活動をさせること,研修生及び技能実習生に対して研修手当の不払いや直接払い違反,旅券や外国人登録証明書の取り上げ等の悪質な人権侵害を行うことは不正行為に該当するとされており,入国管理局が行う実態調査により不正行為があったと認定されたときは,第一次受入れ機関及び第二次受入れ機関又は実習実施機関の経営者又は管理者に対して現に受け入れている研修生及び技能実習生を直ちに帰国させるよう,入国管理局から指導を受けることとなるとともに,上記各機関は,基準省令及び技能実習告示の規定により,3年間は研修生及び技能実習生を受け入れることができないこととなることが認められる。

他方,基準省令,研修告示,本件指針及び本件改訂指針その他の諸規定によっても,第一次受入れ機関には,第二次受入れ機関に対する強制的な立入り,調査の権限や,従わなかった場合の制裁の権限といった,第二次受入れ機関の意向に反してでも不正行為の存否を調査して抑止することを可能ならしめる規定はない。

以上の改正前入管法,基準省令等の定め方等からすれば,第一次受入れ機関が行う監理は,適正な研修が行われていることを確保し,もって外国人研修制度の適切な運用を図る点にあり,第一次受入れ機関には,第二次受入れ機関に不正行為又は不正行為の疑いがあるときには地方入国管理局長にその旨の報告をすることによって入国管理当局が行う実態調査の端緒を与えることが求められており,こうした報告と不正行為の認定がされた場合の制裁とがあることにより第二次受入れ機関の不正行為を抑止することが期待されているとはいえるものの,第一次受入れ機関自身が第二次受入れ機関の意向に反してでも不正行為を調査し,抑止することを可能とする規定がないことからすれば,上記定め方等のみを根拠に,直ちに,第一次受入れ機関が監査を実施しない場合や,実施したとされる監査の内容が実態と異なるものであった場合に,第一次受入れ機関に不法行為法上違法と評価すべき法律上の作為義務に違反した作為又は不作為があると認めることはできないというべきである。

(イ) もっとも,現実の第一次受入れ機関と第二次受入れ機関の関係性には,両者が実質的には同一視することができるものであり,第二次受入れ機関が行った前記(ア)に記載したような不正行為を研修生に対して行ったことを第一次受入れ機関が認識し,客観的に当該不正行為を抑止し,解消することができる立場にあるという特別な事情があるものから,各々の独立性が高く,第一次受入れ機関が第二次受入れ機関における実情を把握することに限界があると考えられるものまで様々なものが想定されるところである。また,第一次受入れ機関が行う不正行為には,それが行われたときには研修生の人格権を侵害すると評価されるような看過することができない重大な不正行為であると認められるものから,その程度にまで至らないものまで様々なものが想定されるところである。そして,上記重大な不正行為がある場合で,かつ,第一次受入れ機関と第二次受入れ機関との間に上記特別の事情があると認められる場合には,第一次受入れ機関に不法行為が成立する余地があるというべきである。

そうすると,両者の関係性に関する改正前入管法,基準省令等の定め方等が,前記(ア)のようなものであるからといって,いかなる場合にも第一次受入れ機関には不法行為が成立しないと解することは相当ではないというべきであり,第二次受入れ機関が研修生に対して看過することができない重大な不正行為を行っており,第一次受入れ機関がこれを認識し,客観的に当該不正行為を抑止し,解消することができる立場にあるという特別な事情が認められる場合には,前記(ア)の第一次受入れ機関が行う監理の在り方に関する諸規定があることと相まって,条理上,第一次受入れ機関には,第二次受入れ機関を調査して不正行為を抑止するとともに,不正行為がある旨を地方入国管理局長に報告すべき作為義務があると解するべきであり,これに違反した場合には,研修生の人格権を侵害するものとして,不法行為法上違法であるというべきである。

本件では,争点2の1において認定判断したとおり,本件会社は,原告らの研修期間中,恒常的に長時間の時間外作業,休日作業に従事させており,その実態は研修生としての研修ではなく,労働者としての就労活動と評価される活動であったこと,原告らに支給すべき手当てから月額3万円又は2万円天引きをして渡し,時間外作業,休日作業に対して労働基準法等に定める賃金を支払わないというように,低賃金での労働を余儀なくさせたこと,旅券を預かり保管していたことなどのことがあり,上記は前記(ア)の不正行為にあたるものである。そして,上記不正行為は入国当初から行われていたこと,こうした行為は本件会社が原告らを日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもってされたものであり,そもそも外国人研修制度と相容れないものであったことからすると,上記不正行為は全体として見れば原告らの人格権を侵害するものであり,看過することができない重大なものであるというべきである。

また,争いのない事実等,争点1の1における認定事実のとおり,本件会社と被告組合の代表者はいずれもAであること,Aはベトナムに赴いて原告らを選抜し,第二次受入れ機関として原告らを受けいれた者であることからすれば,被告組合が本件会社の上記不正行為を認識していたことも明らかである。

さらに,争いのない事実,前記(1)の認定事実のとおり,Aは被告組合設立以来被告組合の理事長であり,被告組合の事務局は本件会社内におかれて本件会社の社員が事務局の仕事を兼任していたこと,原告らが研修生であった当時の被告組合の組合員の半数以上はA及びAの子が運営する会社で占められていたなどのことを総合すると,被告組合の業務は,実質的にはAの意向によって行われていたと認められるというべきである。こうした被告組合と本件会社の実質的に同一視することができるというべき関係性に照らすと,被告組合は,客観的に本件会社の不正行為を抑止し,解消することができる立場にあったというべきである。

以上に認められる本件事実関係の下では,被告組合には前記特別の事情があると認められる。

イ 技能実習期間について

(ア) 技能実習告示,本件指針及び本件改訂指針のとおり,研修生が技能実習に移行した後については,技能実習生の受入れ機関は実習実施機関のみとなり,第一次受入れ機関は研修生について基準省令が定めるような地方入国管理局長に対する定期的な監査報告義務を負うものではない。また,第一次受入れ機関が,実習実施機関に対して,その意向に反してでも不正行為の存否を調査して抑止することを可能ならしめる規定がないことは研修期間と同様である。以上からすれば,技能実習期間に実習実施機関が不正行為又は不正行為と疑われる行為があった場合であっても,第一次受入れ機関は,原則として何らかの措置を講じるべき法律上の作為義務を負っていると解することはできない。

(イ) もっとも,本件指針及び本件改訂指針(証拠<省略>)によれば,第一次受入れ機関は,研修を監理していた実態に鑑み,技能実習本体の活動以外で技能実習に協力することが望ましいとした上で,技能実習生の生活面のフォローアップ,地方入国管理局等からの指導の徹底,実習実施機関への意識の徹底及び実習実施機関における不法就労の排除の指導等が望まれるとされており,技能実習生に対する不正行為認定や,不正行為認定があった場合には第一次受入れ機関及び実習実施機関に制裁があることは前記ア(ア)のとおりである。

そして,現実の第一次受入れ機関と実習実施機関の関係性,実習実施機関が技能実習生に対してした不正行為の軽重については前記ア(イ)で説示したことと同旨のことがいえることからすれば,技能実習機関がした不正行為が技能実習生の人格権を侵害すると評価されるような看過することができない重大なものであること,係る重大な不正行為が研修期間から継続されているものであり,研修期間の不正行為について第一次受入れ機関が第二次受入れ機関に対してこれを調査し,抑止する条理上の作為義務を負っていたものであること,第一次受入れ機関が実習実施機関の不正行為を認識し,客観的に当該不正行為を抑止し,解消することができる立場にあるという特別な事情が認められる場合には,上記本件指針及び本件改訂指針の趣旨や,第一次受入れ機関の先行行為が存在することにより,条理上,第一次受入れ機関には,実習実施機関を調査して不正行為を抑止するとともに,不正行為がある旨を地方入国管理局長に報告すべき作為義務があると解するべきであり,これに違反した場合には,技能実習生の人格権を侵害するものとして,不法行為法上違法であるというべきである。

本件では,争点2の1において認定判断したとおり,本件会社は,原告らの技能実習期間中,長時間の時間外作業,休日作業に従事させていたこと,原告らに支給すべき賃金から月額2万円を天引きをして渡し,時間外作業,休日作業に対して労働基準法等に定める賃金を支払わないというように,低賃金での労働を余儀なくさせたこと,旅券を預かり保管していたことなどのことがあり,上記は不正行為にあたるものである。そして,上記不正行為は研修期間から連続しており,技能実習期間を通じて行われていたこと,こうした行為は本件会社が原告らを日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもってされたものであることからすると,上記不正行為は全体として見れば原告らの人格権を侵害するものであり,看過することができない重大なものであるというべきである。

また,研修期間の不正行為について被告組合が本件会社に対してこれを調査し,抑止する作為義務を負っていたものであること,被告組合が本件会社の不正行為を認識し,客観的に当該不正行為を抑止し,解消することができる立場にあったことは,前記ア(イ)の認定判断と同様である。

以上に認められる本件事実関係の下では,被告組合には前記特別の事情があると認められる。

ウ そうすると,本件組合には,本件事実関係の下では,研修期間及び技能実習期間を通じて,本件会社の不正行為を調査し,抑止するとともに,不正行為を地方入国管理局長に報告するべき義務があり,これを怠った場合には,研修生及び技能実習生の人格権を侵害するものとして不法行為法上違法と評価すべきところ,本件認定事実を総合すると,被告組合は,本件会社が原告らの研修期間の実態,長時間の時間外労働,休日労働,手当又は賃金からの天引き,旅券の預かり等について看過できない重大な不正行為があることを認識し,客観的に当該不正行為を抑止し,解消することができる立場にあったにもかかわらず,適正な監査を実施しなかったばかりか,上記に関する事項について実態とは異なる監査結果を記載し,特段の問題が認められなかった旨の監査結果報告書を仙台入国管理局長に提出し,技能実習期間に関する報告書を作成したものと認められる。上記作為及び不作為は,本件会社の不正行為を隠蔽し又は加担するものであったというほかなく,上記被告組合の作為及び不作為は,原告らの人格権を侵害するものとして不法行為法上違法というべきである。そして,以上の事実によれば,被告組合に故意又は過失があることは明らかである。

エ なお,被告組合は,自身が行うべき非実務研修(集合研修)を,本件指針のとおりには行っておらず,研修が行われなかった分は原告らが本件会社での作業に従事することとなったが,防犯に関する講習や日本語研修等は一定程度行っていたことや,原告らが本件会社で従事することとなった期間は長いものではなく,その従事分に対しては労働者としての賃金請求権が認められること(争点1の認定判断)からして,上記のことが不法行為法上違法とまでは認められないというべきである。

3  争点2の3(Aの不法行為の成否)について

争いのない事実等,争点1の1,争点1の3,争点2の1及び争点2の2における認定判断を総合すると,Aは本件会社及び被告組合の代表者であり,本件会社又は被告組合がした原告らに対する不法行為は,本件会社又は被告組合の職務として,Aが自ら行ったもの又はAがその意向を受けた者を通じて行ったものであったと認められ,また,Aには不法行為について故意又は過失があると認められる。そうすると,A自身にも,本件会社及び被告組合がした原告らに対する不法行為と同様の不法行為が成立するというべきである。

4  争点2の4(被告Y3らの不法行為の成否)について

(1) 原告らは,被告Y3らは,非実務研修の研修指導員又は講師となることが予定されていたのに,これを行わなかったことにより,原告らに対して非実務研修を実施しないという被告組合の行為に積極的に加担したと主張する。

この点,被告組合は,本件指針にある1か月,160時間の研修を行ったとは認められないものの,原告らに対し,被告組合の他の組合員の研修生と合同で,gセンターで,警察官を招いての交通安全及び防犯等の指導,通訳を招いての日本語学習,駐在所や消防署の確認等の日本で生活する上で必要となる事項の学習や日本語学習等を行ったことは争点1の1及び争点2の2における認定判断のとおりである。また,証拠(証拠<省略>,被告Y3本人,被告Y4本人)によれば,被告Y3らは原告らに対して被告組合が行う非実務研修(集合研修)の講師となることが予定されており,その一部については行ったが,全部を行ったものではなかったことが認められる。

そうすると,被告組合はもとより,被告Y3らも,本件指針のとおりには原告らに対する非実務研修(集合研修)を行わなかったこととなるが,上記のことが不法行為法上違法とまでは認められないことは,争点2の2における認定判断と同旨である。

(2) 原告らは,被告Y3らは,本件会社が原告らに対して労働基準法等に違反する低賃金で入国直後から長時間の時間外労働を強制していたこと,旅券及び外国人登録証明書を取り上げていたこと,劣悪な住環境に住まわせていたこと,強制貯金をしていたこと等を認識し,また,被告組合がこれを放置していることを認識しながら,これを黙認したと主張する。

しかし,本件会社及び被告組合につき不法行為が成立することを基礎付けるものとして認められる事実は争点2の1及び争点2の2において認定判断した限度のものであるところ,これらの事実を被告Y3らが認識していたことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 原告らは,被告Y3は,被告組合が監査を実施していないことを知りながらこれを黙認し,被告Y4は監査責任者でありながら監査を行わず,仙台入国管理局長に事実に反する虚偽の監査結果報告書を提出して被告組合の不正行為に積極的に加担したと主張する。

しかし,原告らの主張が被告Y3らが被告組合の役員であることを前提とした主張であるとすれば,後記争点3の1における認定判断のとおり,被告Y3らが被告組合の役員であったことを認めるに足りる証拠はないから,その主張は失当である。また,原告らの主張が,被告Y3らが被告組合の役員であることを前提としない主張であるとしても,被告Y3らが被告組合の役員でもないのに,被告組合が行う監査に対して何らかの法律上の作為義務を負っていたり,虚偽の監査結果報告書を提出させないという法律上の作為義務を負っていたことを認めるに足りる証拠もない。

(4) 原告らは,被告Y3らは,被告組合が訴外会社との間で違約金契約を締結したことを認識し,被告Y3らの会社で受け入れていた研修生についても違約金契約を締結していたと主張する。

しかし,被告組合が訴外会社との間で違約金契約を締結していたとは認められないことは争点2の1における認定判断のとおりである。また,被告Y3らの会社で受け入れた研修生について違約金契約を締結していたことを認めるに足りる証拠はない。

(5) そして,他に被告Y3らの作為又は不作為について,不法行為法上違法であると認める証拠はなく,被告Y3らには,不法行為は成立しない。

5  争点2の5(被告らの共同不法行為の成否)について

争いのない事実等,争点2の1,争点2の2及び争点2の3の認定事実を総合すると,本件会社らは,共同して,原告らが本件制度の予定していた研修及び技能実習の適切な運用を受け,支払われるべき金員の処遇等に関して労働基準法等の遵守を受けることなく,原告らが恒常的に長時間,労働基準法等に違反する低賃金での労働を余儀なくされたという意味において,原告らの人格権を侵害したというべきであり,本件会社らには原告らに対する共同不法行為(民法719条1項)が成立し,本件会社らは,争点2の6における認容額について連帯支払義務を負う。

なお,被告Y3らには個別に不法行為が成立しない以上,同被告らには共同不法行為は成立しない。

6  争点2の6(損害及び因果関係)について

(1) 慰謝料等について

認定判断した被侵害利益の内容,原告らが本件会社の研修生又は技能実習生であった期間(原告X1ら4人が約3年間,原告X5ら4人が約2年8か月間),上記期間中に原告らが支払を受けられなかった賃金額(原告X1ら4人がそれぞれ約320万円,原告X5ら4人がそれぞれ約300万円)その他本件で認められる一切の事情を考慮すると,原告X1ら4人に対する慰謝料は各人につき100万円,原告X5ら4人に対する慰謝料は各人につき90万円をもって相当と認める。

また,弁護士費用は,原告ら各々について10万円をもって相当と認める。

(2) 未払賃金相当額について

前記(1)の被侵害利益の内容からすれば,本件会社らがした共同不法行為と慰謝料等とは相当因果関係があると認められるものの,未払賃金請求権自体を侵害したものであるとは認められないから,未払賃金相当額との関係では相当因果関係があるとは認められない。また,本件証拠を検討しても,本件会社らが,原告らの未払賃金請求権の帰属自体を故意又は過失により侵害したことを認めるに足りる証拠はない。そして,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) したがって,本件会社らの原告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償は,前記(1)の慰謝料等の限度で認められる。

三  争点3(被告Y3らについての被告組合の役員としての任務懈怠責任(中小企業等協同組合法38条の3第1項)又は不法行為責任(民法709条)の成否等)について

1  争点3の1(被告Y3らが被告組合の役員であったか)について

(1) 中小企業等協同組合法の定め及び被告組合の定款(証拠<省略>)の定めによると,被告組合の理事及び監事は,総会において無記名投票により選挙するとされているほか,総会出席者全員の同意があるときは指名推選の方法により行うこともでき,被告組合の定款では被指名者の推選を選考委員が行った上,被指名者をもって当選人と定める旨の総会出席者全員の同意があった場合にはその者が当選人となるものとされている。他方,被告組合の定款には,総会において役員を選任することができる旨の定めはないことから,被告組合では,上記の総会における選挙又は指名推選による方法で役員に就任するべき者が決定され,当該者がこれを承諾した場合に役員に就任することとなる。(同法35条3項,8項,10項,11項,12項,35条の3(組合と役員との委任関係))

被告Y3らに関しては,平成18年6月30日,平成19年6月30日,平成20年6月30日に被告組合の通常総会が開催されて被告Y3らが理事又は監事に選任された旨の本件各届出が存する(争いのない事実等)。しかし,被告組合の代表者であるAも,被告組合の事務局の担当者であり本件各届出に係る書類を作成したDも,いずれも上記各日には通常総会は開催されていないが開催されたものとして本件各届出を作成した旨の証言をしていること(被告組合代表者尋問調書(第4回)4~6頁,31頁,D証人尋問調書4~6頁),平成18年6月30日については,被告Y3らはいずれも日本にいなかったこと(証拠<省略>)からすれば,上記各日に被告組合の通常総会が開催されたとは認められず,したがって,上記各日の総会において選挙により又は指名推選の方法により被告Y3らが役員に就任するべき者となったことはないこととなる。

原告らは,役員を選任したとされる総会が開催されていないとしても,被告組合の代表理事であるAに個別に被告Y3らに役員への就任を要請して同被告らはこれを承諾していること,被告組合の他の組合員は被告Y3らの役員就任を了承し,被告Y3らが役員であることに異議を述べる者がいないことなどからすれば,実質的に選任の手続を経ており,その瑕疵は軽微であって,役員の選任の効力を妨げられるものではないと主張する。

しかし,そうした承諾は,総会前に行われたのであればそれは総会の選挙又は指名推選の方法により役員に就任するべき者とされることを停止条件として役員就任を受諾する旨の意思表示と,総会後に行われたのであれば役員に就任することを受諾する意思表示と評価することはできるものの,上記法及び定款の定めが役員に就任するべき者を選ぶ方法を総会による選挙又は指名推選の方法に限定しており,役員就任の効力は総会において役員に就任するべき者となった者が承諾することにより生じるものと解される以上,総会外で行われた要請と承諾自体のみによって役員就任の効力を生じることはないというべきであり,これに反する原告らの主張は採用することはできない。原告らの主張は,主張に係る事実が存在することを間接事実とし,他の間接事実と相まって総合考慮すると別の機会に総会が開催されたと認めることができるか,総会が開催されたと認められないとしても,被告Y3らが被告組合の役員であることを否定する主張をすることが禁反言の原則に反し許されないものであるかという観点から検討されるべきである。

(2)ア そこで,まず,被告Y3らが役員への就任を承諾していたか検討するに,Aは,被告Y3らから役員に就任することの承諾を得たと供述している(被告組合代表者尋問調書(第4回))。そして,被告組合の定款上,役員の定数は理事4人,監事1人とされていたこと(証拠<省略>),平成18年8月当時に実働していた本件組合の組合員は,本件会社,b縫製,d社,e社,f社,h社程度であり,h社が抜けた以降は本件会社ら5社だけとなったこと(争点2の2の認定事実,証拠・人証<省略>,被告Y3本人,被告Y4本人,被告組合代表者尋問調書(第4回))など,上記Aの供述に沿う事情もあったと認められる。

イ しかし,Aの供述によっても,いつ,いかなる場面で被告Y3らに役員への就任を打診し,承諾を得たのかについて明確ではない。

ウ また,被告Y3らは,役員に就任したとされる平成18年6月30日から,辞任の意思を表明したとされる平成21年6月30日までの間(証拠<省略>),役員としての活動であったと評価される行動をしていたと認めるに足りる証拠はない。

(ア) この点,本件各届出に添付された理事会議事録(証拠<省略>),平成21年1月25日に開催されたとされる臨時総会議事録(証拠<省略>),同年6月30日に開催されたとされる通常総会議事録(証拠<省略>)中に出席者として被告らの記名があるものについては,いずれも理事の肩書きが付され,被告らの記名下には被告らの名字と同一の押印がされている。しかし,これらの書類は,DがAから被告Y3らが被告組合の役員に就任することを承諾していると聞かされていたことを前提としてDが作成したものであり(D証人尋問調書15~16頁,32~33頁),被告Y3らの記名下の印章も被告組合が準備し,Dが押捺したものであって,被告Y3らから印章を預かったり,同被告らが押捺したものではない(同4頁,26頁)。また,上記臨時総会及び通常総会は,実際には開催されたものではない(前記(1)の認定事実,証拠<省略>,被告組合代表者尋問調書(第4回)31~32頁,37頁)。

したがって,被告Y3らが,上記各総会や理事会に出席し,被告組合の役員としての活動を行ったとは認められない。

(イ) また,被告組合が作成した監査結果報告書及び技能実習状況及び研修状況の監査報告と題する書面には,監事Y4名で作成され,その記名下に「Y4」の押印がされているものがあるが(証拠<省略>),これも,上記と同様に,Dがあらかじめ準備していた「Y4」の印を押捺して作成したものであり,被告Y4が監査対象とされた本件会社(b縫製を含む)を監査したということはなかった(争点2の2の認定事実)。したがって,被告Y4が,被告組合の監事と評価される活動を行ったとは認められない。

(ウ) さらに,Aと被告Y3らは,平成19年3月16日に福島県商工労働部と中小企業団体中央会が主催し,県内の外国人研修生受入組合を参加対象者として開催された特定問題研修会に出席した際に,主催者側から配付された出席者名簿には,被告Y4が被告組合の専務理事,被告Y3が被告組合の理事であると記載されていたことが認められる(証拠・人証<省略>)。

しかし,上記記載は,Aが主催者側に事前に提出した被告組合から専務理事である被告Y4と,理事である被告Y3が出席する旨の書面の記載に基づき作成されたものであり(証拠<省略>,被告組合代表者尋問調書(第4回)12頁),この会議において被告Y3らが被告組合の役員の立場で発言をしたことも認められない(証拠<省略>)ことからすれば,出席者名簿に上記のような記載があり,被告Y3らが会議に出席していたことをもって被告組合の役員としての活動であったと評価される行動であると認めることはできない。そのことは,同会議に出席していたHの証言及び陳述書(証拠<省略>)の記載内容によっても左右されるものではない。

(エ) そして,ほかに,被告Y3らが役員としての活動であったと評価される行動をしていたことを認めるに足りる証拠はない。

エ さらに,被告組合の業務は,実質的にはAの意向によって行われていたと認められ(争点2の2の認定事実),その業務の在り方も,通常総会を開催していないのに開催したものとして役員変更届出をする(前記(1)),被告Y4が監査を行ってもいないのに監査を行ったものとして地方入国管理局長に監査結果報告書を提出する(前記(2)ウ(イ))というように,行政機関に提出する書類の関係では,被告組合が適切な業務を行っているとの体裁だけを整えるというずさんなものであったことが認められる。

上記の被告組合の実情からすれば,被告組合において上記のような行政機関に対する提出書類が作成されていることからは,Aがそうした書類を作成することを事務局であるDに指示し,その前提としてDがAから,被告Y3らから役員に就任することや監査結果報告書を作成することについて承諾を得ていると聞かされていたということは推認することができるが,そうした書類が作成されていること自体から,被告Y3らから承諾があったことまでを推認することはできないというべきである。

オ そして,被告組合では,平成21年10月6日に清算人会議が開催され,代表清算人にAが選任されたとの清算人会議事録が作成されている。この議事録には,被告Y3らの肩書きがいずれも清算人であるとされており,記名下にはそれぞれの押印がされ,これらはいずれも被告Y3ら自身が自己の意思で押印したものであることが認められる。(証拠<省略>,被告Y3本人,被告Y4本人)

しかし,上記議事録は,被告組合の役員とされていた者が全員辞任することを了承し,被告組合を解散することを決定したとされる通常総会の議事録(証拠<省略>。この通常総会が実際に平成21年6月30日に開催されたものではないことは前記ウ(ア)のとおりである。)と連続性を持たせる趣旨で作成されたものと解されること,弁論の全趣旨によれば,清算人会議事録を作成した際には既に本件会社及び被告組合と原告らとの紛争が生じていた状況にあったと認められることからすれば,本件組合を放置するべきではなく,きちんと清算しなければならないと考えて押印したとする被告Y3らの主張を不合理なものとして排斥することはできないというべきである。

カ 以上のとおり,被告Y3らが役員への就任を承諾していたことと符合するアの事実ないし事情が存するものの,これを疑わせるイないしオの事実ないし事情も存することが認められるのであり,個別的に見ても,総合して見ても,被告Y3らが役員への就任を承諾していたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。

(3) また,本件各証拠を検討しても,いつ,いかなる場所で,いかなる者が参加した上で,本件各届出とは別の機会に総会が開催されていたことは明らかではない。

(4) 上記(2)及び(3)を総合すると,本件では,別の機会に総会が開催されたとも,被告Y3らが役員への就任を承諾していたとも認めるに足りる証拠はないというべきである。

そして,上記認定判断した事情からすれば,被告Y3らが被告組合の役員であることを否定する主張をすることが禁反則の原則に反して許されないともいえないというべきである。

2  そうすると,原告らの,被告Y3らが被告組合の役員であることを前提としてした中小企業等協同組合法38条の3第1項に基づく損害賠償請求は,争点3の2を検討するまでもなく,理由がない。

また,前記1における認定事実と,争点2の4における認定事実からすれば,被告Y3らの作為又は不作為には不法行為法上違法なものはないというべきであり,民法709条に基づく損害賠償請求についても,争点3の2を検討するまでもなく,理由がない。

第4結論

被告会社破産管財人に対する未払賃金等の支払及び未払賃金等の破産債権の確定請求(不法行為に基づき未払賃金相当額の損害賠償を求める請求との関係では主位的請求)は争点1の4における当裁判所の認定判断の限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。また,被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求のうち,慰謝料等の支払を求める部分は,被告会社破産管財人,被告組合及び被告A破産管財人に対する関係で争点2の6における当裁判所の認定判断の限度で理由があるが,その余の請求は理由がなく,未払賃金相当額の支払を求める部分は全部理由がない。さらに,被告Y3らに対する請求は,いずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決をし,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条,64条本文,65条1項を適用し,仮執行宣言については同法259条1項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木健二)

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