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福島地方裁判所郡山支部 平成18年(ワ)283号 判決 2009年3月27日

主文

1  被告D市及び被告E県は,原告Aに対し,連帯して,金1億5026万2522円及びこれに対する平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,金330万円及びこれに対する平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告Fと連帯して)を支払え。

2  被告Fは,原告Aに対し,被告D市及び被告E県と連帯して,金330万円及びこれに対する平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告D市及び被告E県は,原告B及び原告Cに対し,連帯して,各金264万円及びこれに対する平成15年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,原告らに生じた費用の5分の3並びに被告D市及び被告E県に生じた費用の5分の3をいずれも被告D市及び被告E県の負担とし,原告らに生じた費用の100分の1及び被告Fに生じた費用の100分の1をいずれも被告Fの負担とし,原告らに生じたその余の費用及び被告らに生じたその余の費用を原告らの負担とする。

6  この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行できる。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,連帯して金2億2174万8512円及び内金2億0174万8512円に対する平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告Bに対し,連帯して金440万円及び内金400万円に対する平成15年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告らは,原告Cに対し,連帯して金440万円及び内金400万円に対する平成15年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,中学校の柔道部の部活動中に負傷して後遺障害を負った生徒とその両親とが,中学校の校長及び教員らには,生徒に対する安全配慮義務を怠った過失があると主張して,学校設置者である市に対しては,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を,校長及び教員らの給与(俸給)負担者である県に対しては,同法3条1項に基づく損害賠償を求めるとともに,暴行を加えたとされる生徒に対しては,民法709条に基づく損害賠償を,その親権者に対しては,その監督義務を怠った過失があったとして,民法709条に基づく損害賠償を求める事案である。

1  争いのない事実等(証拠によって認定する場合は末尾に記載する。)

(1)  当事者

ア 原告ら

原告A(平成2年生まれ)は,平成15年4月(以下,特に記載がない場合は平成15年を指す。),H中学校に入学した生徒であり,原告B及び原告Cは,原告Aの両親である。(甲1,17,29,原告C本人)

イ 被告D市及び被告E県

被告D市は,H中学校の学校設置者であり,被告E県は,H中学校の校長及び教員らの給与(俸給)負担者である。本件当時,H中学校の校長は,Iであった。(乙A3,顕著な事実)

ウ 被告F及び被告G

被告F(平成元年生まれ)は,4月,H中学校の2年生に進級した生徒であり,被告Gは,被告Fの母親であり,親権者である(以下,被告Fと被告Gを併せて「被告Fら」という。)。(甲2,乙C1,2,被告F本人,被告G本人)

(2)  本件の概括的な経緯

ア 原告Aの柔道部への入部等

原告Aは,4月,課外活動として,H中学校の柔道部(以下「本件柔道部」という。)に入部した。原告Aは,従前に柔道をした経験は全くなかった。

なお,原告Aは,4月当時,身長約175センチメートル,体重約75キログラムであり,H中学校に入学する前に,頭部に持病等はなかった。

(甲29,原告C本人)

イ 本件柔道部の関係者

Jは,本件当時,H中学校の教諭であり,本件柔道部の顧問を務めていた。Kは,本件当時,H中学校の講師であり,本件柔道部の副顧問を務めていた。

被告F,L,M,N,O及びPは,いずれも本件当時,本件柔道部の部員であった者であり,被告F,L及びMは,原告Aの1学年上の学年に属し,N,O及びPは,原告Aと同じ学年に属していた。

被告Fは,小学生のころスポーツ少年団で柔道を始め,中学1年生のときから本件柔道部が参加した全国大会のメンバーに選出されたり,平成15年の中体連新人戦県大会で準優勝したり,同年秋ころには初段の段位を取得するなど,柔道の技量に優れていた。被告Fは,8月ころ,Jに指名されて,本件柔道部の部長となった。

なお,被告Fは,7月当時,身長約175センチメートル,体重約117キログラムであった。(甲33,35ないし37,乙A7,乙C2,証人N,証人O,証人L,証人J,被告F本人,被告G本人,弁論の全趣旨)

ウ 9月12日の出来事

原告Aは,9月12日,H中学校2階にある特別活動室(以下単に「特別活動室」という。)で行われていた本件柔道部の練習に参加したが,その際,頭部を打撲し,同日午後4時ころ,気持ちが悪いと訴えておう吐した。その後,原告Aは,R病院を受診し,Q医師らによる診察を受けたところ,急性硬膜下血腫と診断され,同日から同月23日まで,R病院に入院した。(甲29,30,36,37,乙A1,7,11,12,乙C1,証人Q,証人N,証人L,証人J,被告F本人,原告C本人。なお,9月12日に原告Aが頭部を打撲したことの原因が,被告Fにあったと認めるに足りる証拠はない。)

エ 事故の発生

原告Aは,10月18日午前9時ころから特別活動室で行われた本件柔道部の練習(以下「本件当日の練習」という。)に参加したが,その途中で意識を失うとともに呼吸困難となり倒れた(以下「本件事故」という。)。原告Aは,同日午後0時28分ころ,R病院に救急搬送され,急性硬膜下血腫と診断された。(甲29,33ないし37,乙A12,乙C1,3,証人N,証人O,証人L,被告F本人,原告C本人)。

オ 本件事故後の原告Aの状況

原告Aは,10月18日,開頭血腫除去手術を行い,その後,低体温療法を行うなどして一命を取り留めたが,現在まで意識は回復していない。原告Aは,平成18年1月17日,症状固定となり,遷延性意識障害(いわゆる植物状態)の後遺障害(後遺障害等級1級)が残った。

原告Aは,本件事故発生後,平成16年6月1日までの245日間はR病院に入院し,同日から平成18年1月17日までの596日間はS病院に入院し,その後は主に自宅で過ごしているが,生活の全面にわたって看護,介護が必要な状況にあり,主に原告Cがこれにあたっている。(甲3ないし5,29,30,乙A12,原告C本人)

(3)  既払金

原告Aは,本件に関し,次の各支払を受けている。

ア 平成17年3月23日,全日本柔道連盟から,傷害補償金8000万円(以下「本件傷害補償金」という。)の支払を受けた。(甲31の3)

イ 平成18年6月19日,独立行政法人日本スポーツ振興センターから,医療費323万8678円(以下「センターからの医療費」という。)及び見舞金3770万円(以下「センターからの見舞金」という。)の各支払を受けた。(弁論の全趣旨)

2  争点

(1)  争点1(本件事故の具体的な発生状況並びに被告Fの責任の有無及び程度)

(原告らの主張)

原告Aは,本件当日の練習に参加中,立ち技の乱取りをした際に足を痛め,休んでいた。被告Fはこれをみて激高し,原告Aの柔道着をつかんで無理矢理立たせ,少なくとも複数回腰技をかけるなどし,倒れた原告Aの体にのしかかるようにして連続して投げた。このような被告Fの暴行を原因として,原告Aは,上記1(2)エとおり,急性硬膜下血腫の傷害を負い,その結果,原告Aには同オのとおりの重大な後遺障害が残った。

被告Fは,本件事故当時,柔道の経験が豊富で技量も優れており,格闘技である柔道の危険性や安全性を確保すべき受け身の重要性についても十分認識していた。また,被告Fは,本件事故当時,原告Aの受け身の習得が極めて不十分であると認識していた。したがって,被告Fは,原告Aを相手に練習するときは,原告Aの技量を超えた技をかけた場合,あるいは原告Aが技を受け損じた場合,頭部を床に打ち付けるなどの危険性があることを認識して,原告Aの技量の程度,身体の状況,疲労度などを把握し,これに応じた練習をしなければならない義務があった。

しかし,被告Fは,本件事故当日,上記のとおり,原告Aに対し,非常に危険な暴行を加えた結果,原告Aは深刻な傷害を負い,遷延性意識障害という重大な後遺障害が残ったのであるから,被告Fは,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

(被告D市及び被告E県の主張)

原告らの主張は否認する。本件当日の練習中,被告Fが,足を痛めて休んでいた原告Aを無理に引きずって,柔道技の払い腰の形で転がすように投げた事実はあるが,原告Aは,それ以前の乱取り中に,受け身が取れず,頭を打っていた。しかも,原告Aは,本件事故以前に頭部を負傷していたため,誰と乱取りをしても,頭を打つような状況があれば急性硬膜下血腫の怪我が生じる状態であった。したがって,既に乱取り中に原告Aの急性硬膜下血腫は生じていたと思われ,少なくとも,原告Aの本件事故による負傷について,被告Fの投げた行為が原因であるとは断定できない。

(被告Fらの主張)

原告らの主張は否認する。被告Fが原告Aを投げたことは間違いないが,柔道の練習の一貫として,通常の投げ方をしたに過ぎない。そして,原告Aは,上記1(2)ウのとおり,9月12日にも脳内出血の傷害を負っていたことからすれば,被告Fの投げた行為によって原告Aに硬膜下出血が生じたのか,あるいは他の者との練習によって生じたのかは不明であり,被告Fの行為と原告Aの傷害との因果関係も不明である。

さらに,被告Fは,本件事故当時,原告Aが,9月12日に脳内に出血する怪我をしたことや医師から乱取りや試合を行うことを止められていたことを知らなかったから,被告Fは,上記のような投げ方によって,原告Aに生じたような重い後遺障害が発生することを,予見できなかった。したがって,被告Fには責任はない。

(2)  争点2(被告D市の過失の内容及び程度並びに原告側の過失の有無及び過失割合)

本件事故について,被告D市は,安全配慮義務に違反する過失があったこと自体は争わず,また,被告E県は,被告D市が負う責任と同様の責任を負うことを認めているものの,その過失の内容及び程度には争いがある。

(原告らの主張)

ア 中学校の部活動は,中学校における正規の教育活動であり,課外活動の一環として行われていたのであるから,J及びKは,本件柔道部の指導に当たって,部活動によって生ずる危険から生徒らを保護すべき安全配慮義務がある。特に柔道は,高度の危険性を伴うスポーツであるから,J及びKには,練習に立ち会って指導監督する義務,自ら練習に立ち会えないときは,安全な練習内容にとどめる義務,個々の生徒らの柔道の経験,技術,体格,体力などを勘案して,それに応じた練習をさせ,実力差のありすぎる者同士の練習は避け,初心者には受け身を確実に習得させてから乱取り等の練習に進ませるなどの配慮をすべき義務があった。

にもかかわらず,J及びKは,自ら練習に立ち会わないことが多かった上,被告Fが,本件柔道部の部長になって以降,本件柔道部において弱い者いじめをするなどしていたのにこれを黙認し,練習メニューの作成についても全員一律のメニューを作るばかりで,各人の条件に合わせた配慮をしなかった。原告Aに対する関係でも,J及びKは,原告Aが受け身を十分にできずにいたこと,原告Aが9月12日に脳内に出血する怪我を負って10日間以上入院したことを認識し,原告Cから,10月3日,同月4日に行われる再検査を待って柔道の練習を再開するかを決めたい旨伝えられ,さらに,原告C及び原告Bから,同月11日,人に投げられたり,回転を伴うような練習はしばらく避け,別メニューで練習させて欲しい旨伝えられていたにもかかわらず,原告Aのために,何ら特別の配慮をせず,他の部員らに一般的な注意を与えたのみで,9月12日の原告Aの怪我についても何ら伝えなかった。

そして,Jは,出張のため本件事故当日の練習には立ち会わず,Kは,H中学校に登校していたにもかかわらず,本件事故当日の練習にほとんど顔を出していなかった。

イ また,H中学校の校長であるIらH中学校の管理職らは,J及びKを監督する義務があったのにもかかわらず,適切な監督を怠った。さらに,IらH中学校の管理職らには,本件柔道部の練習が安全に行われるよう,練習環境を整える義務があったにもかかわらず,特別活動室に,衝撃吸収力に優れた柔道畳を導入させることなく,中の藁が抜けている部分があったり,サイズが異なり,隙間に詰め物をしなければならないような畳を使用させるなどして,上記義務を怠った。

ウ さらに,上記の事情からすれば,過失相殺は認められるべきではない。

(被告D市及び被告E県の主張)

ア Jは,部員の安全に注意しながら練習に取り組んでおり,日ごろから,経験者に対し,初心者が怪我をしないよう配慮して技をかけさせるなどの指導をしていた。また,柔道部員らの個人差に配慮し,原告Aについても,受身の練習をさせ,乱取りができると判断したときから乱取りをさせていた。なお,被告Fが部長になって以降,特に本件柔道部の規律が乱れたということはない。

イ IらH中学校の管理職らも,部活動に際しては十分安全を図るよう指導していたし,柔道場で用いていた畳は,一般に柔道で使用されていたものであり,安全性に問題はなかった。

ウ 他方,原告らは,Jに対し,10月4日に医師から,少なくとも年内においては原告Aは試合や試合形式の練習(乱取りなど)はしないように注意されていたこと,同月14日に原告Aが帰宅した際,練習で頭を打ったとして頭痛を訴え,同月16日にV診療所を受診したことなどを伝えていなかった。これらの事実を知っていれば,Jは原告Aを本件当日の練習に参加させることはなかったであろうから,本件事故は発生しなかった。したがって,原告らは,Jが本件事故を予防するより,はるかに容易に本件事故を予防しえたのであるから,原告らには重大な落ち度があるといえ,原告らの過失の割合は少なくとも50パーセントとみるべきである。

(3)  争点3(被告Gの責任の有無及び程度)

(原告らの主張)

被告Gは,被告Fの親権者であり,現に被告Fを監護していた。被告Fは,小学生のころから柔道を始めていたから,被告Gは,格闘技である柔道には本来的に一定の危険が内在しており,受け身を習得していない相手に対して無理な練習を行わせれば,練習相手に怪我をさせてしまうことを認識していたか,認識し得たはずである。また,被告Gは,本件事故以前に,柔道部の保護者会の席で,他の保護者から,被告Fが他の部員らに対し,柔道とは関係のないプロレス技をかけるなどの暴力を振るうとの苦情を言われていたことや,被告Fの性格,年齢などから,被告Fが,他の部員らに無理な練習をさせるなどして怪我をさせる危険があることを予見することができた。したがって,被告Gは,被告Fに対し,日ごろから,部活動において他の部員に怪我をさせることのないように指導監督すべき義務があった。しかし,被告Gは,被告Fに対するこのような指導監督を怠り,部活動における被告Fの動静について十分把握していなかった。その結果,本件事故によって,原告Aに深刻な傷害を負わせたのであるから,被告Gには被告Fに対する監督義務違反がある。

(被告Gの主張)

原告らの主張は否認ないし争う。被告Fは,原告Aに対し,原告らが主張するような暴行を加えていない。仮に,被告Fに何らかの責任があったとしても,被告Fが他の部員らに対し,日ごろから原告の主張するような暴行を加えていた事実はないし,被告Gは,柔道部の他の保護者らから原告の主張するような苦情を受けたこともなく,被告Gには,本件事故の発生を予見することは不可能であった。したがって,被告Gに監督義務違反はない。

(4)  争点4(原告らの損害額)

(原告らの主張)

原告Aは,本件事故によって,下記アのとおりの損害を被り,上記1(3)イのとおりセンターからの見舞金を受け取って,その一部のてん補を受けたから,被告らに対し,残額2億2174万8512円の損害賠償請求権及び内金2億0174万8512円に対するセンターからの見舞金が支払われた翌日である平成18年6月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求権を有する。

原告B及び原告Cは,本件事故によって,下記イのとおりの損害を被ったから,被告らに対し,各440万円の損害賠償請求権及び内各400万円に対する本件事故発生日である平成15年10月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求権を有する。

ア 原告Aの損害の内訳は,次のとおりである。

(ア) 入院諸雑費  126万1500円

日額1500円が相当であり,症状固定時までの入院期間は,R病院に245日間,S病院に596日間である(1500円×841=126万1500円)。

(イ) 入院付添費  546万6500円

原告Aは,入院期間中付添を要したが,近親者の付添費用は,1日当たり6500円が相当である(6500円×841=546万6500円)。

(ウ) 入院慰謝料  450万円

原告Aは,本件事故により,841日間にわたる長期の入院を強いられたのであり,その間の慰謝料は,金450万円を下らない。

(エ) 逸失利益  5496万6328円

原告Aは,症状固定時に15歳(中学校3年生)であり,本件事故による後遺障害として遷延性意識障害(後遺障害等級1級)が残ったから,労働能力を100パーセント喪失した。そこで,平成16年賃金センサス産業計,企業規模計,女子労働者全年齢平均賃金を基礎として逸失利益を計算すると,逸失利益は5496万6328円(350万2200円×(18.4180-2.7232)となる。

(オ) 原告Aの後遺障害慰謝料  3500万円

原告Aの後遺障害が非常に重篤であること,原告Aが13歳の若さで,上記のような重い後遺障害を負った精神的苦痛は甚大であること,被害者である原告Aと加害者であるH中学校との関係をみると,誰もが被害者となり,加害者となりうる交通事故と異なり,生徒に対し,重要な注意義務を負っている学校側の責任によって,本件事故による被害を受けた原告Aの被害感情は非常に大きいこと,中学校側の本件事故後の対応が事故隠しといわざるを得ない不誠実なものであったこと等の諸事情からすると,原告Aの後遺障害慰謝料は3500万円を下らない。

(カ) 症状固定後の介護費用  9767万5468円

原告Aは,遷延性意識障害によって,身の回り全てに介護を要する状態にあり,母親である原告Cが67歳に達するまでの間は近親者付添による介護が,その後,原告Aが平均余命に達するまでの間は職業付添人による介護が必要である。そうすると,必要な症状固定後の介護費用は次のとおりとなる。

a 症状固定後から平成18年8月31日まで  256万5290円

主に原告Cが原告Aの介護をしたが,その介護費用は日額1万円とするのが相当である。また,原告Cは,原告Aのためにホームヘルパー講座を受講し,受講代金として9万4248円が,実習参加のために健康診断費用として9042円が,それぞれ必要であった。また,原告Aは,身体障害者福祉法に基づく支援費制度(以下「支援費制度」という。)による身体介護の支援を受けてきたが,自己負担金19万2000円が必要であった。これらの費用が,本件と相当因果関係にある損害というべきであり,平成18年8月31日(227日間)までの介護料は,256万5290円(1万円×227+9万4248円+9042円+19万2000円)となる。

b 平成18年9月1日から平成42年8月31日(原告Cが67歳に達した月の翌月)まで  5652万4585円

原告Cを中心とした近親者による介護費用は,日額1万円となる。また,支援費制度における自己負担金として,月額3万7200円が必要になる。そうすると,年額409万6400円(1万円×365+3万7200円×12)が必要となる。中間利息を控除する際には,原告Aの症状固定時から平成42年8月までの,満24年間に対応するライプニッツ係数13.7986を用いるべきであるから,上記期間の介護費用は,5652万4585円(409万6400円×13.7986。小数点以下四捨五入。以下同じ。)となる。

c 平成42年9月1日から平成80年8月31日(原告A平均余命(78歳))まで  3858万5593円

原告Cが67歳に達した後,原告Aの平均余命までの期間は,職業付添人による介護が相当である。そして,原告Aの介護に際しては,たんの吸引などの医療行為も行う必要があり,看護師の資格を有する者に24時間の介護を依頼しなければならないから,その費用は日額2万円となる。また,支援費制度による身体介護等の支援を受ける必要があり,自己負担金は月額3万7200円となる。また,中間利息を控除する際には,平均余命までの63年に対応するライプニッツ係数19.0750から原告Aの症状固定時から平成42年9月までの満25年間に対応するライプニッツ係数14.0939を引いた4.9811を用いるべきである。そうすると,上記期間の介護料は,3858万5593円((2万円×365+3万7200円×12)×4.9811)となる。

(キ) 福祉車両購入費  97万5000円

原告Aは,車いすを利用しており,車いすを搭乗させるための福祉車両を購入することを余儀なくされ,その購入代金は307万5000円であった。このうち,当該車両の標準価格である210万円との差額の97万5000円は,本件と相当因果関係にある損害である。

(ク) 家屋改造費  976万4000円

原告Aの介護のため,介護用の部屋の増築や外部からの出入りのためのスロープの設置等の家屋の改造を余儀なくされ,合計976万4000円の工事費を要した。この工事費は本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。

(ケ) 介護器具,設備費  162万6750円

原告Aは,常時寝たきりの状態であることから,次の介護器具,設備を要した。これらの介護器具等の代金又は自己負担分として要した次の費用は,いずれも本件事故と因果関係のある損害というべきである。

a 車いす  33万1750円

b 介護用特殊寝台  10万3460円

c 特殊マット,体位変換機  14万3900円

d 天井走行リフトほか  99万3930円

e ネブライザー  3万1200円

f 電気式たん吸引器  1万1850円

g 入浴補助用具  4700円

h 車いすのキャリーバッグ  5960円

(コ) 原告Aの弁護士費用  2000万円

(サ) 損害の填補(センターからの見舞金)  3770万円

原告Aは,本件事故に関し,平成18年6月19日,センターからの見舞金の支払を受け,これを同日までの遅延損害金である2821万2966円(小数点以下切り捨て)に充当し,残額を損害の一部にてん補した。

以上によれば,平成18年6月19日時点の原告Aの損害残金は,2億0174万8512円となる。

イ 原告B及び原告Cの損害は次のとおりである。

(ア) 慰謝料  各400万円

原告B及び原告Cは,本件事故によって原告Aが重篤な後遺障害を負い,深い絶望感や悲しみを抱いている上,今後,長期間原告Aを介護する負担も非常に大きい。そして,中学校とその生徒との親という関係にありながら,H中学校の責任によって被害者となった原告B及び原告Cの被害感情は非常に大きいこと,本件事故後の学校の事故隠しといわれても仕方のない対応等によっても著しい精神的苦痛を受けたこと,将来にわたり,原告Aの介護が必要になることによる精神的苦痛も大きいことから,その慰謝料としては上記金額が相当である。

(イ) 弁護士費用  各40万円

(ウ) 原告B及び原告Cの損害合計  各440万円

(被告E県の主張)

上記ア(エ)の逸失利益の中間利息の控除及び上記ア(カ)の原告Aの介護費用について,原告らの主張を否認ないし争う。

上記ア(エ)の原告Aの逸失利益について,原告らは症状固定日を逸失利益の起算日としているが,本件事故発生日を遅延損害金の起算日として請求しているのであるから,逸失利益の起算日も本件事故発生日とすべきである。すなわち,中間利息の控除は,稼働年数である18歳から67歳までの54年間のライプニッツ係数18.5651から,本件事故後,稼働年齢に達するまでの5年間のライプニッツ係数4.3294を引いたライプニッツ係数によるべきである。そうすると,原告らの逸失利益は4985万6269円を上回ることはない(350万2200円×(18.5651-4.3294)=4985万6269円)。

次に,前記原告らの主張欄ア(カ)の原告Aの症状固定後の介護費用について,原告らは本件事故発生日を遅延損害金の起算日として損害金を請求している以上,将来の介護費用についても本件の発生した日を基準として中間利息を控除し,本件事故日から原告Cが67歳に達した月の翌月までの27年のライプニッツ係数14.6430から本件事故発生日から原告Aが症状固定するまでの2年間のライプニッツ係数1.8594を引くべきである。また,前記原告らの主張欄ア(カ)aとbについて区別すべきではなく,同(カ)bの近親者の介護費用は,日額8500円とすべきであり,同・※bで近親者の介護費用と支援費制度を前提とする自己負担金を合算すべきではない。さらに,前記ア(カ)cの職業付添人の介護費用は,日額1万8000円とすべきである。そうすると,原告Aの症状固定後の介護費用は次のとおり,6934万4379円を上回ることはない(症状固定日から原告Cが67歳に達した月の翌月までについては,3966万1119円(8500円×365日×(14.6430-1.8594)=3966万1119円,原告Cが67歳に達した月の翌月から原告Aの平均余命までについては,2968万3260円(1万8000円×365×(19.1610-14.6430)=2968万3260円。)。

その他の損害については,不知ないし争う。

(被告D市及び被告Fらの主張)

不知ないし争う。

(5)  争点5(損益相殺の可否)

(被告D市及び被告E県の主張)

ア 本件傷害補償金は,柔道界独自の全日本柔道連盟傷害補償制度(以下「本件補償制度」という。)に基づくものであるが,本件補償制度の設立の趣旨は,柔道の指導者や管理者の保護をその目的としているものと解されること,H中学校の柔道部員らが本件補償制度に参加したのも顧問教諭の判断によること,保険料等について原告Aら柔道部員が直接負担したものではなくE県柔道連盟が負担しており,この制度に加入する前提となるE県柔道連盟への登録料はH中学校の柔道部の保護者らによるT後援会が負担していること,後遺障害の等級により補償金額が異なること,税務処理においても原告らから申告がなされていないこと,高額であり一般の慣習的に渡される金額ではないことなどによれば,本件傷害補償金は,損害のてん補の性格を有しており,損害賠償額に充当されると考えるべきである。

イ センターからの医療費についても,損益相殺の対象となるべきである。

(原告らの主張)

ア 本件補償制度は,柔道界の相互扶助の精神のもとに導入された制度であること,保険対象者は指導者から中学生までであり,保険料は登録会員1名あたり500円であること,この保険料は,都道府県柔道連盟が登録申請するときに納入することになっており,本件においては,T後援会が支払ったが,H中学校に在籍する生徒の保護者らが後援会費として拠出した金銭から支払ったもので,被告D市の負担はないこと,他の補償制度によって支給される見舞金とは無関係に支給されることになっており,加害者への求償権の行使を予定していないこと,全日本柔道連盟が保険会社と契約して見舞金を支払うものであり,損害のてん補を目的として制度設計がなされているものではないことから,損益相殺の対象とされるべきではない。

イ 原告らはセンターからの医療費を損害額に計上していない。

第3争点に関する判断

1  争点(1)(本件事故の具体的な発生状況並びに被告Fの責任の有無及び程度)について

(1)  本件事故の具体的な発生状況

前記第2の1の事実,各摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 本件当日の練習の内容

本件当日の練習は,翌日に予定されていた市民体育祭での試合に向けたものであった。原告A,被告F,L,M,N,O及びPは,本件当日の練習に参加していた。本件当日の練習の内容は,準備運動,寝技の打ち込み,寝技の乱取り,立ち技の打ち込み,移動打ち込み,3人打ち込み,立ち技の乱取りであり,立ち技の乱取りは3回行われた。本件当日の練習において,下記イの被告Fの行為以外には,原告Aの頭部に強い外力を加えた可能性のある出来事は発生しなかった。(甲33ないし37,乙A7,9,乙C1,3,証人N,証人O,証人L,被告F本人)。

イ 被告Fの行為

被告Fは,1回目の立ち技の乱取りの際に,足を痛め,休んでいた。原告Aは,2回目の立ち技の乱取りの際に,元立ち(乱取りの際,二,三分交代で異なる相手と連続して対戦する役割をする役)をしていたが,途中で足が痛いと述べて,壁の方へ行き,休んでいた。これを見た被告Fは,原告Aに対し,なぜ休んでいるのかと問い質し,原告Aが自分の意に沿う反応をしないことに苛立って,原告Aに対し,一方的に払い腰のような技を掛け,相当程度の強さで投げることを数回繰り返した。その後,被告Fは,原告Aに対し,「反省文を書け。」などと説教し,原告Aを立たせて引きずろうとしたが,原告Aは,倒れ,起こそうとしても体に力が入らず,意識を失って,前記第2の1(2)エのとおり,R病院に搬送された(甲29,33ないし37,乙A9,証人N,証人O,証人L,原告C本人,被告F本人)。

ウ 原告Aの受傷の機序

R病院において,原告Aは,前記第2の1(2)エのとおり,急性硬膜下血腫と診断されたが,その機序は,①以前の外傷の治癒の過程で硬膜と脳表の血管が一部癒着していたところ,その脳表の血管が頭部に受けた強い外力により引っ張られて切れて出血したものであり,②打撲してから数分ないし数十分くらいのうちに発症したと考えられるというものであった。

(乙A12,証人Q)

エ 被告Fの認識等

原告Aは,9月ないし10月ころに至っても,受け身の技術を十分習得できておらず,投げられたときなどに頭を打つことがあった。被告Fは,10月18日当時,原告Aの受け身の技術が十分でないことを認識していた。

Jは,原告Aが9月12日に少なくとも脳内出血の傷害を負ったことを認識していたが,このことを,被告Fを含む本件柔道部の部員に全く伝えておらず,被告Fは,原告Aが9月12日に脳内出血の傷害を負ったことを知らなかった(乙C1,証人J,被告F本人)。

(2)  上記(1)の認定の補足説明

ア 被告Fらの反論について

上記(1)の認定に関し,被告Fらは,被告Fが原告Aを投げたことは認めるが,指導の一貫として一,二回程度,払い腰で転がすように投げたに過ぎないと主張し,被告Fも,この主張に沿う供述をする(同人作成の陳述書である乙C1も同旨)。しかし,本件当日の練習に立ち会っていた当時の本件柔道部の部員であったP,N,O及びLの各証言ないし陳述は,被告Fの行動の順序,被告Fが原告Aを投げた回数や場所などについて,相互に若干の齟齬が見受けられるものの,被告Fが,原告Aに対し,払い腰のような技を掛け,相当程度の強さで投げることを数回繰り返したとする点ではよく符合しており,その限度での信用性は十分にあるものと認められる。これに対し,被告Fは,平成16年2月9日にH中学校の教員らから事情を聞かれた際にはうそをついて原告Aを投げたことを否定していたことがあった(乙A6資料⑦)上,口頭弁論期日においても,部分ごとに記憶の程度が異なっているかのような不自然な供述態度を取っていることからすれば,その供述の信用性は低く,上記認定に反する被告Fの供述は採用の限りではない。

イ 被告D市及び被告E県の主張について

被告D市及び被告E県は,I作成に係るD市教育委員会教育長宛ての生徒(傷害)事故発生報告書(乙A3,4。以下「本件事故発生報告書」という。)の記載を根拠に,原告Aは,原告Aが被告Fに投げられる前である2回目の立ち技の乱取りの際に,頭を打っていたと主張する。

しかしながら,①本件事故発生報告書は,初版(乙A3)から再提出版(乙A4)に改訂するに当たり,多くの訂正がなされていること,②本件報告書には,10月24日の本件柔道部の保護者会において,ある保護者が,原告Cから,本件事故について,「柔道部,柔道部員の責任でもないし,学校の責任でもない。」と電話で告げられた旨の報告をした旨の記載があるが,10月18日から同月24日までの時期は,原告Aの生命そのものが危ぶまれていた時期であって,そのような時期にあって,原告Cがそもそも本件事故の責任の所在について発言したとは考えにくく,ましてや上記のようにH中学校にとってだけ都合の良い発言をしたなどとは到底考えられないことなどからすれば,本件調査報告書の記載の信用性には大いに疑問がある。現に,その後,D市教育委員会が本件事故を再検証するため,本件当日の練習に参加していた生徒に対して聞き取り調査を行った際には,原告Aが2回目の立ち技の乱取りの際に頭を打ったなどと供述した者は誰もいない(乙A9)。以上によれば,被告D市及び被告E県の主張は採用できない。

(3)  被告Fの責任の有無及び程度について

ア 被告Fの行為の不法行為該当性

上記(1)イ,エのとおり,本件事故当日,被告Fは,原告Aが足を痛めて休んでいたにもかかわらず,その事情をよく聞かないまま,原告Aの態度に苛立って,受け身の技術の習得が十分でない原告Aに対し,一方的に,払い腰のような技を数回掛け,相当程度の強さで原告Aを数回投げたものであるところ,このような被告Fの行為は,明らかに部活動における練習や指導の範ちゅうを逸脱した暴行であるというべきであって,原告Aに対する不法行為にあたると認められる。

そして,上記(1)ウのとおり,原告Aの硬膜下血腫は,打撲から数分ないし数十分くらいのうちに発症したものであり,このころに,被告Fの暴行のほかに,原告Aの頭部に強い外力を与えたものは見当たらないことからすれば,原告Aの硬膜下血腫の直接のきっかけは,上記のとおり被告Fに投げられたことであったと認められる。

イ 被告Fの不法行為と原告Aに生じた後遺障害との因果関係

しかしながら,被告Fが原告Aに対して加えた暴行は,相当程度の強度のものであったとはいえ,柔道技である払い腰を基本とする態様のものであって,その回数も数回にとどまり,通常であれば,本件事故によって原告Aに生じたような重篤な傷害をもたらす程度のものであったとは考え難い。にもかかわらず,被告Fが原告Aに暴行を加えた結果,前記第2の1(2)オのような重篤な後遺障害が発生したのは,上記(1)ウのとおり,本件事故当時,原告Aについては,硬膜と脳表の血管が一部癒着していたため,血管が切れやすい状態であったという事情によるものと認められる。そして,上記(1)エの事実を踏まえれば,被告Fは,本件当時,原告Aの状態がそのような状態であることを予見できなかったものといえるから,被告Fからすれば,原告Aが前記第2の1(2)オのような重篤な後遺障害を負ったことは,予見することのできない特別事情によって生じた損害というべきであり,結局のところ,被告Fの不法行為と原告Aが負った重篤な後遺障害との間の相当因果関係は否定されるものといわなければならない。

2  争点2(被告D市の過失の内容及び程度並びに原告側の過失の有無及び過失割合)

(1)  本件事故発生に至る経緯

前記第2の1の事実,上記1(1)の事実,各摘示の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 本件柔道部の日ごろの練習状況等

Jは,日ごろ,本件柔道部の練習の全てには立ち会っておらず,乱取りなど危険性のある練習が行われる練習の後半ごろから立ち会ったり,練習の終わりころにだけ立ち会ったりしていた。Jは,部員らに対し,引き手をしっかりとること,強引な巻き込みはしないことなどについて日ごろから口頭では指導していた。

本件柔道部は,全国大会に出場するなど,県内有数の強豪校であり,被告FやNのように,小学校から柔道を始めていて技術に優れた者もいたが,原告Aら1年生の部員は,Nを除いて,初心者であった。これら1年生の部員は,当初は,マットを敷くなどして,特別活動室の外で受け身の練習を行っており,8月末ころないし9月初めころから,特別活動室に入って練習をするようになった。その後の練習メニューは,部長である被告Fが作成し,Jがこれを追認したものであって,部員全員が,その技量の程度にかかわらず基本的には同じ内容の練習をするというものであり,原告Aを含む1年生の部員らも,他の部員らと同じメニューの練習をしていた。

被告Fは前記第2の1(2)イのとおり,8月ころ部長になったが,これ以降,被告Fは,Jがいないときなどに,ふざけて他の部員にプロレス技をかけることがあり,これを嫌がっている部員もいた。なお,被告Fが,ことさらに原告Aを標的にしたり,プロレス技をかけたりすることはなかった。

上記1(1)エのとおり,原告Aは,9月ないし10月ころに至っても,受け身の技術を十分に習得できておらず,投げられたときなどに頭を打つことがあった。原告Aの受け身の技術が十分ではなかったことは,本件当時の本件柔道部の部員らのほぼ全員が認識していた。(甲33ないし37,乙A7,9,乙C1,証人N,証人O,証人L,証人J,被告F本人。なお,Jは,原告Aは,受け身の技術をそれなりに習得していたなどと証言するが,その証言の根拠は定かとはいい難い上,本件当時の本件柔道部員らの認識にも反するから,Jの証言は強弁にすぎず,採用できない。)

イ 9月12日以後の本件事故発生直前までの経緯

前記第2の1(2)ウのとおり,原告Aは,9月12日に急性硬膜下血腫の傷害を負った。同日,R病院において,Qは,原告B,原告C及びJに対し,原告Aの病状の説明をした。その際,Qは,Jの面前で,少なくとも,頭の中に少量ではあるが出血したこと,出血はその後止まっており,このまま出血が止まれば一,二週間ほどで治る見込みであることなどを説明した。

原告Aは,9月23日,退院したが,その際,医師からは,入院期間が長かったため,筋力が落ちているから,徐々にゆっくり体調を整えながら日常の生活に戻るようにとの指示がなされた。また,原告Cが,医師に対し,部活動について尋ねたところ,2週間後の再診察の際,改めて相談するようにと言われた。

原告Cは,10月3日に開催された本件柔道部の保護者会でJと会い,その際,原告Cは,Jに対し,少なくとも,軽い練習から始めて欲しい旨述べた。他方,Jが原告Cに対し,原告Aの具体的な状況や医師の診察結果等を尋ねることはなかった。

原告Aは,10月4日,R病院で再診察を受けた。その際,診察したU医師は,原告C及び原告Aに対し,部活動の再開等について,軽いランニングや体操程度は再開してもよいが,当分の間は回転を伴う練習は避けたほうがよく,少なくとも年内は,試合や試合形式の練習である乱取りなどはしないように助言した。

原告Aは,10月11日に行われた県中地区新人大会に出場した。この大会出場に際しては,同月10日に,Mから,原告Cに対し,原告Aを大会に出場させて欲しいとの要望があり,原告A自身も出場を希望したことから,原告Cは,原告Aに対し,出場を禁止することはしなかった。他方,試合出場に関し,Jは,原告Cらに事前に相談しなかった。

この間,原告Aは,9月末ころないし10月初めころは,見学や軽い体操,ストレッチ等をしていたが,同月12日ころ以降は,他の部員らと全く同じ練習をするようになった。Jは,原告Aの練習再開に際し,本件柔道部の部員らに対し,原告Aが9月12日に入院した原因が脳内出血であったことを伝えず,原告Aの練習について配慮するように指導したこともなく,投げるときは引き手を十分に引くなどの一般的な安全指導を行うにとどまった。

原告Aは,10月14日,原告Bに対し,練習で頭をぶつけたとして,頭痛を訴えた。原告Aは,同月15日にも風邪の症状を呈して,頭痛を訴えたので,原告Cは,同月16日,原告Aを,V診療所に連れて行き,検査を受けさせたが,特に新たな異常は見つからなかった。原告Cは,これらの10月14日以降の出来事について,Jらに連絡しなかった。(甲29,乙A7,11ないし14,証人Q,証人U,証人W,証人J,原告C本人)

ウ 本件事故当日のJ及びKの行動

Jは,出張のため,本件当日の練習には立ち会わず,Kも本件当日の練習の最初のころ立ち会い,その後も若干顔を見せたことはあったが,一般的に安全に配慮するよう伝えただけで,具体的な指導はせず,上記1(1)イのとおり被告Fが原告Aを投げた際も,練習に立ち会っていなかった。(甲33,35ないし37,乙A7,乙C1,証人N,証人O,証人J,被告F本人)

(2)  被告D市の過失の内容及び程度

ア 上記(1)の事実によれば,①J及びKは,日ごろから必ずしも十分に本件柔道部の練習に立ち会っておらず,部員の個々の技量に応じた安全対策も講じておらず,さらに,8月に被告Fが本件柔道部の部長になってから,部長自ら本件柔道部の秩序を乱す行動をとっていたのに,これに適切に対処せず,②Jは,9月12日,原告Aが脳内出血という,柔道の指導者であれば当然,今後の指導方針について十分に配慮を払うべき傷害を負ったことを認識したにもかかわらず,その後,原告らに対し,原告Aの病状を具体的に確認することは一切せず,原告Aの安全に特に配慮を払わないまま,漫然と通常の練習に復帰させ,更に試合にも出場させ,③J及びKは,本件当日の練習にもほとんど立ち会わなかったという過失があり,これらの過失を総合すればその程度は極めて重大なものといえる。特に,Jは,9月12日に原告Aが,脳内出血という一般的な感覚からすれば重傷というべき傷害を負ったことを認識していたのに,その後,それに対する具体的な対策をほとんど何も採らなかったのであって,その危機意識の低さには,顕著なものがあったといわなければならない。そうすると,J及びKの過失の程度には,被告D市及び被告E県が自認する程度より遙かに大きなものがあるといわなければならない。

イ また,J及びKが上記アのとおり,生徒に対する安全配慮を怠ったまま,本件柔道部の指導を行っていたことを放置したIらH中学校の管理職らに監督過失があることも明らかである。

ウ 他方,原告らは,特別活動室の畳の不備も指摘するところ,たしかに,関係証拠(甲16,17)によれば,特別活動室の畳の質には問題がなかったとはいえないが,本件事故の発生と特別活動室の畳の管理とは因果関係がないから,この点については,被告D市側の過失の程度を加重する事情としては,考慮しないこととする。

エ なお,Jが9月12日に,原告Aが脳内出血の傷害を負ったことを認識していたことからすれば,原告Aが前記第2の1(2)オのような後遺障害を負ったことは,被告D市との関係では,予見することができない特別事情によって生じた損害とはいえないから,被告D市側の過失行為と原告Aが負った重篤な後遺障害との間には相当因果関係があると認められる。

(3)  原告側の過失の有無及び過失割合

上記(1)イの事実によれば,原告C及び原告Aは,10月4日,Qから,年内は試合や乱取りは避けるように指示されていたにもかかわらず,原告Cは,Mに懇願されたこともあったためとはいえ,10月11日に試合に出場することを積極的には止めず,また,原告Aの病状について,Jらと必ずしも十分に情報を共有しようとしなかったことが窺われるところ,医師らから直接診断結果を聞かされていた原告らとしては,自らの判断で,本件柔道部の活動への参加を差し控えるなどして自ら結果の発生を回避する選択肢を採ることもあり得たというべきであるから,これらの経過に照らして,本件事故の発生について,原告側にも一定の過失があったことは否定し難い。

しかしながら,①本件事故のような学校の支配領域内で発生した事故については,まずもって,学校側にこそ第1次的な事故発生防止の注意義務があるといえること,②上記(2)で検討したとおり,被告D市側の過失の程度には大きなものがあるといえること,③他方,原告側の過失は,Jが,原告Aの病状について,原告らに十分に確認しなかったこととあいまって成立するものであることなどの事情を踏まえれば,原告側の過失は2割にとどまるものと認められる。

3  争点3(被告Gの責任の有無及び程度)について

本件事故のころ,被告Gが,他の保護者から,本件柔道部における被告Fの振る舞いについて苦情を受けたと認めるに足りる証拠はなく,また,本件事故のころ,被告Fが,被告Gの注意を喚起するような問題行動を起こしていたとまでは認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告Gには,被告Fの性格や日ごろの行動等から,直ちに,被告Fが本件柔道部の活動中に,他の部員らに対し,不法行為を加えることまで予見できたとはいえないから,被告Gに過失があったとは認められない。

4  争点(4)(原告らの損害額)について

(1)  中間利息の控除について

後遺障害に基づく逸失利益の算定及び将来の介護費用は,裁判所が諸般の事情を考慮して合理的に相当な額を定めるべき性質のものであるところ,被告E県の中間利息に関する主張には相応の理由があるが,当裁判所は,本件事故による原告Aの後遺障害の内容及び程度に照らし,症状固定の判断をするについてはそれ相応の経過観察が必要であったと考えられること,本件事故から原告Aの症状が固定するまでの期間は約2年3か月にとどまっていること等の事情を考慮し,後遺障害に基づく逸失利益の算定について,原告Aの症状固定時を基準として中間利息の控除をすることとする。

被告E県は,損害賠償金に事故時からの遅延損害金を付すことが前提とされていることを考慮すると,中間利息の控除に際しても,事故時を基準とすべきと主張する。しかし,損害賠償請求権自体は本件事故時に発生し,本件事故時から遅延損害金が発生するとしても,そこから論理必然的に逸失利益の算定についても事故時を基準とすべきものとはいえず,被告E県の主張は採用できない。

(2)  原告Aの損害

前提となる事実及び各摘示の証拠によれば,次のとおり認めるのが相当である。

ア 入院諸雑費  126万1500円

(日額1500円×(245日+596日)=126万1500円)

イ 入院付添費  546万6500円

(日額6500円×(245日+596日)=546万6500円)

ウ 入院慰謝料  400万円

原告Aの入院期間,生命も危ぶまれる傷害であったこと等からすると,慰謝料は,400万円と認めるのが相当である。

エ 逸失利益  5387万2401円

原告Aは,本件事故前は健康であり(原告C本人),症状固定時に満15歳と若年であったことに照らすと,症状が固定した平成18年当時の女子労働者の平均賃金額(学歴計)である343万2500円程度の収入を,満18歳から得られる蓋然性があったと認められる。そして,前記第2の1(2)オの原告の後遺障害の程度からすれば,労働能力喪失率は100パーセントとするのが相当であり,中間利息の控除について,症状固定時から満67歳までの52年間のライプニッツ係数18.4180から症状固定時(満15歳)から満18歳までの3年間のライプニッツ係数2.7232を引いた15.6948を用いて計算すると,後遺障害に基づく逸失利益は5387万2401円(343万2500円×15.6948=5387万2401円)と認めるのが相当である。

オ 原告Aの後遺障害慰謝料  3000万円

原告Aの後遺障害は,いわゆる寝たきりの状態で,言語を用いて意思の疎通を図ることができず,飲食,身の回りの世話等について,常時介護を要するなど,非常に重篤である。原告Aは,戸惑いや苦労も多かったであろうが,一度始めた柔道部の活動を続けようと努力を重ねていたさなかに,13歳の若さで,本来安全に配慮されるべき中学校の部活動中に上記のような深刻な後遺障害を負ったのであり,その精神的苦痛は非常に大きい。

さらに,①本件事故発生報告書は,上記1(2)イで検討したとおり,本件事故の原因に直結する原告Aの受傷経緯や原告Cの発言内容について,不可解な記載を含むものであったこと,②本件事故当時,H中学校の教頭であったXは,平成16年2月11日にLから本件事故の状況を再聴取した際に,被告Fが原告Aを投げたことを告白したLに対し,黒板などを叩いて威迫する行為を行ったこと(甲37,乙A10,証人L。この点について,Xは,被告E県及び被告D市による調査に対し,そのような行為に及んだ事実は認めつつ,Lがそれまで真実を語っていなかったことに腹を立ててそのような行為に及んだと弁明しているが,もし,Xが本件事故の真相を知りたいと思ってLを再聴取していたのであれば,真相を語り始めたLに対してそのような態度をとったとは考え難く,Xの弁解は自己撞着しているとしかいいようがない。)などに照らせば,IらH中学校の管理職は,本件事故について責任逃れをしようとした疑いが強く,この点は慰謝料の増額事由となる。

以上によれば,原告Aの後遺障害慰謝料は,3000万円と認めるのが相当である。

カ 介護費用  8888万8061円

原告Aの後遺障害は,遷延性意識障害であり,体位の交換,たんの吸引,食事(胃に直接挿管して,流動食を摂取する方法によるもの。),体温の調節,入浴,排泄など,24時間体制のきめ細やかな介護を要すること,原告Aの介護にあたっては,たんの吸引などの医療行為も必要であり,職業介護人がこれを行う場合には,看護師の資格をもった者によることが必要になること,原告Aの介護にあたっては,近親者による場合には,ホームヘルパーやショートステイなどを併せて利用する必要があること,その際の費用は,現在の支援制度の利用状況等を考慮し,月額2万円と認めるのが相当である。他方で,職業介護人の介護による場合には,これに加えてホームヘルパー等を併用する必要があるとまでは認められない。そして,このような状況に見合う付添介護料を算出するに,上記の原告Aの介護状況に照らすと,近親者による介護の場合は日額1万円を,職業介護による介護の場合は日額1万8000円と認めるのが相当である(甲28,29,原告C本人)。また,原告Cは,原告Aの介護のために,ヘルパー2級の資格を取得しているところ,上記の原告Aの介護の状況からすると,資格取得に要した費用も原告Aの介護費用と認めるべきである(甲20ないし29,原告C本人)。そうすると,原告Aの介護費用は,次のとおり認定することになる。

(ア) 症状固定日から平成18年8月31日(訴訟提起前)まで  248万5680円

上記期間の日数は227日間であったこと,この間,主に原告Cが原告Aの介護にあたっていたこと,支援費制度による自己負担金として,11万2400円が必要であったこと(甲18,19の2ないし6),原告Cが原告Aのために,ホームヘルパー2級の資格を取得し,その費用として10万3280円(9万4248円+8232円+800円)が必要であったこと(甲20ないし27)がそれぞれ認められる。したがって,上記期間の介護費用は,248万5680円(1万円×227日+11万2400円+10万3280円=248万5680円)と認めるのが相当である。

(イ) 平成18年9月1日から平成42年8月31日(原告Cが満67歳に達するころ)まで  5367万6554円

原告Cら家族による介護を中心に,ホームヘルパー,ショートステイなどの利用も必要であるから,1年間当たり必要な費用は,389万円(1万円×365日+2万円×12か月)となる。中間利息の控除について,平成18年に満43歳となった原告Cが満67歳になるまでの24年間のライプニッツ係数13.7986を用い,5367万6554円(389万円×13.7986=5367万6554円)を上記期間の付添介護料として認めるのが相当である。

(ウ) 平成42年9月1日から平成80年8月31日(原告Aが平均余命に達するころ)まで  3272万5827円

職業介護人による介護を毎日必要とし,1年間当たり必要な費用は,657万円(1万8000円×365日=657万円)となる。中間利息の控除について,原告Aの症状固定時(満15歳)から原告Aが平均余命(満78歳)に達するころまでの63年間のライプニッツ係数から症状固定時に満42歳であった原告Cが満67歳に達するまでの25年間のライプニッツ係数を控除した係数を用いて,3272万5827円(657万円×(19.0750-14.0939)=3272万5827円)と認めるのが相当である。

キ 福祉車両購入費  97万5000円

標準価格との差額として(甲6の1ないし5)

ク 家屋改造費  976万4000円

原告Aの介護のための部屋の増築,スロープの設置等として(甲8ないし11)

ケ 介護費用,設備費  162万6750円

(ア) 車いす  33万1750円

自己負担分として(甲12の1ないし3)

(イ) 介護用特殊寝台  10万3460円

自己負担分として(甲13の1・8)

(ウ) 特殊マット,体位変換機  14万3900円

自己負担分として(甲13の2・8)

(エ) 天井走行リフトほか  99万3930円

特殊寝台からの異動等に必要なリフト,レール,取付工事代等として(甲13の3・8)。

(オ) ネブライザー  3万1200円

自己負担分として(甲13の4・8)

(カ) 電気式たん吸引器  1万1850円

自己負担分として(甲13の5・8)

(キ) 入浴補助用具  4700円

自己負担分として(甲13の6・8)

(ク) 車いすのキャリーバッグ  5960円

代金として(甲13の7・8)

コ 原告Aの弁護士費用

後に検討する。

(3)  原告B及び原告Cの損害額

ア 慰謝料  各300万円

本件により原告Aは重篤な傷害を負い,非常に重い後遺障害が残ったのであり,当時13歳であった原告Aの両親であった原告B及び原告Cの受けた精神的な苦痛は深刻であり,その後の介護の負担も非常に大きい上,本件事故後のH中学校の対応が,慰謝料の増額事由になるのは,上記(2)オで検討したとおりである。以上によれば,原告B及び原告Cの慰謝料を各300万円と認めることが相当である。

イ 弁護士費用

後に検討する。

(4)  被告D市及び被告E県が賠償すべき損害額

上記(2),(3)の検討を踏まえ,また上記2(3)のとおり被告D市側の過失割合が8割であることからすれば,被告D市及び被告E県が,原告Aに対して賠償すべき損害額は,1億9585万4212円となり,原告B及び原告Cに対して賠償すべき損害額は各300万円となる(ただし,いずれも損益相殺及び弁護士費用加算前の金額)。

(5)  被告Fが賠償すべき損害額

上記1(3)イで検討したとおり,被告Fは,原告Aが負った重篤な後遺障害についてまでは責任を負わないところ,被告Fが賠償すべき損害額は,客観的損害については,後遺障害とそれ以外のものを分離して評価するのが困難であるから,結局のところ,被告Fが上記1(3)アのとおり不法行為を行ったことについての慰謝料としてその全てを評価すべきこととなる。そして,慰謝料の額は,暴行の態様の理不尽さに加え,原告Aが重篤な後遺障害を負う契機となったことなどの諸事情を考慮して,原告Aに対し,300万円の慰謝料を認めるのが相当である。なお,被告Fの原告B及び原告Cに対する請求については,被告Fが本件の後遺障害については責任を負わないことなどからすれば,これを認めることはできない。

5  争点5(損益相殺の可否)について。

(1)  本件補償金について

証拠(甲31の1ないし10,乙A15の1ないし4,乙A17)及び弁論の全趣旨によれば,①本件補償制度の趣旨は,柔道界における相互扶助の精神から,柔道の練習及び競技中において,死亡したり,後遺障害を負う者に対し見舞金を支給するものであること,②本件柔道部の部員らは,E県柔道連盟に登録申請するとき,各500円の保険料を納付し,本件補償制度に加入し,当該年度の補償の対象となることになるが,この保険料はH中学校の後援会が負担したもので,被告D市が負担したものではないこと,③本件補償制度による見舞金は,他の補償制度による給付とは無関係に支給されること,④見舞金を支給する日本柔道連盟は,見舞金を支給後に,見舞金相当額について,加害者に求償権を行使することは予定されていないことを踏まえれば,補償金額が高額となる場合があること,後遺障害の等級等によって支給金額が定まる制度になっていることを考慮しても,本件補償制度による見舞金は,損害のてん補を目的としたものとは認められない。

したがって,本件傷害補償金は,損益相殺の対象とはならないと認めるのが相当である。

(2)  センターからの医療費について

上記2(3)のとおり,原告側の過失が2割認められることからすると,センターからの医療費の2割に該当する部分(64万7735円)については,本来,原告側が負担すべき医療費であったといえるから,この相当額については,被告D市及び被告E県との関係では,他の損害に充当されるべきものとして,損益相殺の対象になるというべきである。

(3)  被告Fとの関係での損益相殺について

センターからの見舞金が,被告Fとの関係ではどのように扱われるべきかを検討するに,センターからの見舞金は,原告Aの損害について,①遅延損害金,②被告D市及び被告E県が被告Fと連帯せずして賠償すべき損害金の元金,③被告D市及び被告E県が被告Fと連帯して賠償すべき損害金の元金に順次,充当されるとするのが,原告らの合理的意思解釈に合致するというべきであり,これはセンターからの見舞金の趣旨にも反するものではない。

6  まとめ

(1)  被告D市及び被告E県について

ア そうすると,被告D市及び被告E県との関係で,過失相殺前の原告Aの損害額(弁護士費用を除く。)は,1億9585万4212円,原告B及び原告Cの損害額(弁護士費用を除く。)は,各300万円となる。

イ 次に,過失相殺後の損害額は,原告Aについて,1億5668万3369円(小数点以下切り捨て。),原告B及び原告Cについて,各240万円となる。

ウ 次に,上記第2の1(3)イのセンターからの見舞金である3770万円を,まず,センターからの見舞金が支払われた平成18年6月19日までの遅延利息に充当し,その残額を元本に充当し,更に,上記5(2)のセンターからの医療費の2割に該当する部分を差し引くと,次のとおり,損益相殺した後の原告Aの損害は,1億3932万2859円となる。

1億5668万3369円×0.05×(2+245/365)≒2092万6888円

1億5668万3369円-(3770万円-2092万6888円)=1億3991万0257円

1億3991万0257円-64万7735円=1億3926万2522円

エ 弁護士費用については,本件事案の審理の経過及び認容額などに鑑みれば,原告Aについては1100万円を,原告B及び原告Cについては各24万円を,それぞれ損害と認めるのが相当である。

(2)  被告Fについて

ア 原告Aの損害額(慰謝料)は,300万円と認めるのが相当である。

イ 前記1(3)の被告Fの本件事故に対する責任の程度からすると,被告Fに対しては,30万円の弁護士費用を認めるのが相当である。

(3)  小括

以上によれば,原告らの損害額は,次のとおりとなる。

ア 原告A

(ア) 被告D市及び被告E県に対して認められる損害額  1億5026万2522円

(1億3926万2522円+1100万円=1億5026万2522円)

(イ) 被告Fに対して認められる損害額  330万円

イ 原告C及び原告B(被告D市及び被告E県に対して認められる損害額)  各264万円

(240万円+24万円=264万円)

第4結論

よって,原告らの請求は,原告Aが,被告D市及び被告E県に対し,連帯して,金1億5026万2522円及びこれに対するセンターからの見舞金が支払われた翌日である平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求め,被告Fに対し,330万円及びこれに対する本件事故発生日である平成15年10月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度において,原告B及び原告Cが,被告D市及び被告E県に対し,連帯して各264万円及びこれに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において,それぞれ理由があるからこれを認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから,これを棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき,同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 見米正 裁判官 大川隆男 裁判官 堀部麻記子)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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