福島地方裁判所郡山支部 昭和57年(ワ)166号 判決
一 原告が本件実用新案権を有していること、本件実用新案権の登録請求の範囲の記載を分説すると、本件考案は原告主張の(A)、(B)、(C)、(D)の四つの構成要件から成るものであること、被告の製品(一)が右構成要件のうち、(A)、(B)、(C)の各要件を、また製品(二)が(A)、(B)の各要件をそれぞれ充足していることについては当事者間に争いがない。
二 そこで、被告製品が、それぞれ本件考案のその余の要件を充足しているかどうかを検討する前提として、まず本件考案の目的ないし作用効果について考察する。
右記載によれば、本件考案の作用効果は、<1>無孔質シートの使用による完全防湿性、及び<2>凹凸を設けたシートを実質的にその裏面凸部において断熱材に接着せしめたことによるシートの剥離等の防止、という点にあると認められる。
2 そして本件考案の出願経過、出願時の公知技術等を斟酌して前記の記載を解釈するときは、本件考案の主要な効果は、右<2>の点にあり、これに対して<1>の点は第二次的、副次的な効果であると解するのが相当である。すなわち、
(一) 本件考案の出願経過をみるに、成立に争いのない甲第二九ないし第三一号証、乙第一〇号証の一ないし二四及び弁論の全趣旨によると、
(1) 本件考案の実用新案登録願に添付された明細書の「実用新案登録請求の範囲」には当初「予め多数の凹凸を形成せしめてなる塩化ビニル系合成樹脂シートを少なくとも片面に接着具備してなる無機繊維質断熱材。」と記載されていたこと
(2) 出願人(原告)は、昭和五〇年八月二九日付で特許庁審査官から、本件考案はその出願前公知の文献(実公昭三六―三〇〇五七号公報。浴槽用蓋に関するもの)に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものと認められるとの理由で拒絶理由通知をされたのに対し、昭和五〇年一一月二〇日付意見書中で「本願考案の無機繊維質断熱材は、上記のような構成により熱の影響などで収縮する作用を受けても多数の凹凸にて収縮が吸収されるため、断熱材から合成樹脂シートがはがれたり、合成樹脂シートに近い部分の断熱材内で層間剥離を起したり、又は反つたりすることがない作用効果を有しておりますが、引例には熱収縮によるはがれ、層間剥離については何らの記載がありません。」と主張したこと
(3) 出願人は、特許庁審査官の昭和五一年一一月二九日付拒絶査定(「接着力を向上させるために接着面を粗面とする本出願前周知の処理を施したにすぎず、材質の結びつきに考案の存在があるとは認められない。」との理由による)に対して審判請求をし、昭和五二年三月七日付審判請求理由補充書中で、「このような常識に反し塩化ビニール系シートを無機繊維質断熱材に接着する際、塩化ビニール系シートに上述のような凹凸を与えると、凹凸を有しないものに比し塩化ビニール系シートが断熱材からはがれたりそり反つたりすることを防止し、強固な接着の得られる予想外の効果を有することが発見され、本願の要旨をなしております。」との主張を再三繰り返すとともに、同日付手続補正書で登録請求の範囲の記載(昭和五〇年一一月二〇日付手続補正書による補正後のもの)を「予め〇・五ミリメートル以上の深さを有する凹凸を多数形成せしめてなる塩化ビニール系合成樹脂シートを無機繊維質断熱材の少なくとも片面に接着具備したことを特徴とする無機繊維質断熱材」と補正したこと
(4) 特許庁審判官は右審判請求事件について、昭和五三年八月一〇日付で、本件考案を出願公告すべきものと決定したこと
(5) 更に、出願公告後の日東紡績株式会社申立にかかる実用新案登録異議事件において、異議申立人から、本件考案は出願前公知の文献(実公昭三五―一八七三九号公報)に基づいて当業者が極めて容易に推考しえ、また先願考案(実願昭三九―六八九七八号。防音、断熱用内装材に関するもの)と同一であること、明細書の詳細な説明中では本件考案のシートは無孔質で通気孔やピンホールなどもなく防湿性も完全であるとされているのに、登録請求の範囲では無孔質の構成につき全く限定がなく、また、シートの凹凸は、一方向に連続したものではなく、ランダムに多数独立してかつ接着面にも形成され、シートと断熱材とはシートの全面で接着されたものでないことを必須の構成要件とすることにより初めて出願人の主張する剥離防止の効果を発揮しうるのに登録請求の範囲では右の点が全く記載されず、詳細な説明の記載も不明確であつて、明細書の記載に不備があることを指摘されたのに対し、出願人たる原告は、昭和五四年八月六日付手続補正書で、登録請求の範囲を「予め表裏両面に〇・五ミリメートル以上の深さを有する非連続状の凹凸を多数形成せしめてなる無孔質の塩化ビニル系合成樹脂シートを無機質繊維断熱材の少なくとも片面に接着具備したことを特徴とする無機質繊維断熱材。」と、また考案の詳細な説明の一部を「塩化ビニル系シートには図面に2で示された凹凸が表裏両面に亘つて多数形成され、この凹凸は、……一方向に連続した波形状のものではなく、非連続状のものである。又塩化ビニル系シート及び断熱材は塩化ビニル系シートの全面で接着することなく、両者の多数の接点において接着されている。」とそれぞれ補正するとともに、同日付異議答弁書において、本件考案の特徴について、「本願考案においては上述のように予め表裏両面に〇・五ミリメートル以上の深さを有する非連続凹凸を多数形成せしめた塩化ビニル系合成樹脂シートと無機質繊維断熱材とを接着させることにより従来品において生じた無機質繊維断熱材と塩化ビニル系合成樹脂シートとの熱膨張係数の差に起因する剥れ、反りを全く防止しうる格段の効果を有するものであり、この点について何等示唆すらされていない甲第一号証から本願考案が当業者の極めて容易になしうるとした申立人の主張は根拠のないものである。」と主張し、また先願考案との相違点の一つとして「本願考案は無孔質のシートを用いているのに対し甲第二号証(先願考案)のシートは多数の小孔を有している。」と反論したこと
(6) 出願人は、昭和五五年五月一日拒絶理由通知(「『……少なくとも片面に接着具備した……』における『接着』は、本件考案に関する限り技術的概念として過大、広すぎるものであつて、したがつて、実用新案登録請求の範囲は考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものと認めることはできない(シートは全面ではなく整列していない多数の点において接着されている)」ということを理由とする)を受けたため、同年六月一二日付手続補正書で、登録請求の範囲を「……無孔質の塩化ビニル系合成樹脂シートを無機質繊維断熱材の少なくとも片面に実質的に裏面凸部において接着具備した……」と、詳細な説明を「又塩化ビニル系シート及び断熱材は塩化ビニル系シートの全面で接着することなく、両者の多数の接点(塩化ビニル系シートの裏面凸部)において接着され、両者は良く馴染み充分強固に結合される。即ち、本考案においては断熱材と塩化ビニル系シートとは実質的に塩化ビニル系シートの裏面凸部において接着結合される。」とそれぞれ補正したこと
(7) 特許庁審判官は、昭和五六年八月一七日、異議事件について、異議申立は理由がない旨の決定をするとともに、同日付で、原査定を取消して本件考案につき実用新案登録すべき旨の決定を下したこと
以上の事実を認めることができる。
右出願経過に照らすと、出願人は、シートの剥離防止の点をもつて本件考案の特徴と考えていたこと、審査段階を通じて終始シートと断熱材の接着の態様、構造が審査の対象となり、原告も一貫してシートの剥離防止が本件考案の要旨であることを強調し、これを受けて特許庁審判官も本件考案は、シートに凹凸をもうけ、シートと断熱材の全面接着を排除することによりシートの剥離を防止する点において格別の効果があると認めて出願公告ないし実用新案登録すべきものと決定したこと、これに対し、無孔質シートの使用による完全防湿性については、当初登録請求の範囲で無孔質の構成を要件としていなかつたことから明らかなように、出願人はこれを本件考案の主旨とは考えておらず、したがつてまた殊更この点を強調することもなかつたこと、出願公告以前の段階では防湿性の点は何ら審査の対象とされず、出願公告後異議申立人から明細書の記載の不備等を指摘されて初めて右不備を補正し、また公知文献、先願考案との構成上の差異を強調するために「無孔質の」の文言を登録請求の範囲に加えたことが認められ、前記<2>が本件考案の目的とする最大の特徴であることは明らかである。
(二) 弁論の全趣旨によれば、本件出願当時、無孔の塩ビシートを貼着した断熱材はすでに公知技術となつていたことが認められ、このことからも出願人にとつて無孔質シートの使用による防湿性の点を剥離防止の点と同等の効果として主張する必要がなく、またその意図がなかつたことも明らかである。
(三) 更に、明細書の「考案の詳細な説明」中でも前記<1>の点に関しては、「防湿性も」完全である、と付加的な表現をとつているのに対し、<2>の点については、詳細な説明のまとめの部分において、「この様に本考案はこれまで使用されていなかつた多数の凹凸を有する塩化ビニル系の樹脂質シートを接着した断熱材であるため、両者がはがれる恐れもなく使用可能でかつ防湿、防音、断熱性能は何ら阻害されるものでなく工業的に格別の効果をもたらすものである。」と強調され、主要な効果であることがうかがわれる。
3 ところで、被告は、本件考案におけるシートの剥離防止の効果は、シートに凹凸を設けたことによつてもたらされるものであつて、シートの裏面凸部で接着したことによる効果ではないから本件考案の目的とする作用効果とはいえないと主張している。
しかしながら、前認定の出願経過及び弁論の全趣旨によれば、従来の製品のように断熱材本体の表面に平らな又はこれに類するシートを貼着した場合、シートが熱の影響によつて膨張、収縮すると、その膨張、収縮分を吸収する部分がないため、接着面において本体とシートの間に無理な応力が働き、これがたび重なると、それによつて接着面が剥がれたり、断熱材内で層間剥離が生じたりすることがあつたため、本件考案では薄手の合成樹脂シートに〇・五ミリメートル以上の凹凸を設けるとともにシートと断熱材とは全面で接着することなくシート裏面凸部で接着するようにし、このような構造をとることにより熱の影響によるシートの膨張収縮を接着していない凹部の膨張収縮として吸収せしめ、もつて接着面に無理な応力が働くことを阻止することによりシートの剥離等を防ぐことを所期したものであることが認められる。このことから明らかなように本件考案の右作用効果は、単にシートに凹凸を設けただけで得られるものではなく、「シートと断熱材とは実質的にシート裏面凸部において接着している」という構成と一体となつてはじめてよく発揮されるものであるから、被告の右主張は失当であり、容れることはできない。
4 また、被告は、シートに凹凸をもうけ全面接着を排除した点もまた出願当時公知であつたから、無孔シートを貼着することが公知であつたことをもつて防湿性が副次的な効果にとどまることの根拠とはなしえない旨主張している。しかしながら、成立に争いのない乙第三号証の二によれば、被告が右主張の根拠とする公知例(米国特許第三〇九二二〇三号公報)たる発明の構成、作用効果は、フイルムを繊維板に固着せず、自由に振動できる状態を保つように接着し(そのためには弾性、伸びのない軟性フイルムを使用し、これにエンボス加工等を施すことが望ましく、また接着剤は弾性のあるものが望ましいとされる)、もつて入射音波を該フイルムの振動に変換させて繊維材に吸収させることにより吸音効果を発揮させようとするものであることが認められるところ、これに対して本件考案はシートの表裏両面に多数の凹凸を設け、実質的にその裏面凸部で接着せしめることによりシートの剥離を防止する点にその特徴が存するのであるから、両者はその技術思想を異にする。したがつて本件考案が右公知例に基づくものとにわかに断ずることはできず、被告の右主張は容れることができない。
三 以上を前提として、被告製品が本件実用新案権の技術的範囲に属するか否かを検討する。
1 被告製品が本件考案の構成要件(D)を具備しているかどうかについて
(一) 「実質的に裏面凸部において接着」の意義
(1) 原告は、この点に関し、凸部以外の個所では全く接着してはならないことまでも意味するものではないと主張するのに対し、被告はシート裏面凸部でのみ接着され、凹部での接着を排除する趣旨であると主張する。思うに、前述のような本件考案の主たる作用効果に鑑みるときは、「実質的に裏面凸部において接着」とは、少なくとも裏面凸部において接着されていることを要する(これによりシートと断熱材本体は「良く馴染み、充分強固に結合される」――考案の詳細な説明)とともに、右作用効果に支障をきたさない限度においては、凸部のみならず凹部において接着されることを一切排除するものではない、換言すれば、製品全体として観察した場合に両者がシートの裏面凸部での接着によつて全体としての接着が維持されていることを要しかつそれをもつて足りるとの趣旨であると解される。けだし、本件考案における断熱材本体はガラス繊維を錯綜集積させた弾性体であり、またシートは厚さ〇・七ミリメートル以下の極く薄いものであるうえに凹凸の深さも〇・五ミリメートル程度であるところ、その製造工程は精密作業ではないから、接着材の塗布や接着の工程で凹部の一部が断熱材本体と接着することを完全に防ぐことは困難であり、また、シートには多数の凹凸が設けられていることから、凹部の一部が接着されたとしても直ちに前記作用効果を発揮できなくなるものではないと考えられるからである。また、もし凹部での接着を一切排除するのであれば、登録請求の範囲の記載においてもその趣旨が明確になるような表現(例えば「裏面凸部においてのみ接着」とするなど)をとるべきであるのに、本件考案ではかかる表現をとらず「実質的に」裏面凸部で接着と表現したのは右の事情を考慮したからにほかならないと解される。
(2) 被告は「実質的に裏面凸部において」との要件は公告後審査官の拒絶理由通知を受けて補正手続で加入したもので、これによつてようやく登録査定を受けたものであるのに、裏面凹部でも接着してよいとすることは右補正の趣旨を没却させる旨主張する。なるほど、出願人は前認定(二2(一)(6)項)のとおり、審判官から、「少なくとも片面に接着具備したとの要件における『接着』は本件考案の技術的概念として過大、広すぎる、シートは全面ではなく整列していない多数の接点において接着されている」旨の拒絶理由通知を受けて、登録請求の範囲の記載に右要件を追加するとともに、詳細な説明を「シート及び断熱材はシートの全面で接着することなく、多数の接点(シートの裏面凸部)で接着され、……両者は実質的にシートの裏面凸部において接着結合される」との趣旨に補正し、もつて登録査定を受けたものであるが、右各記載によれば、審判官及び出願人の主旨とするところは全面接着を排除するという点にあるというべきであつて、必ずしも凹部では一切接着してはならないとまでの趣旨を含むものではないことは明らかであるから、前記(1)のような解釈は右補正の趣旨を没却するものではなく、被告の右主張は採用できない。
(3) また、被告は、安島広行の申立にかかる登録異議申立事件に関する決定書に照らせば、特許庁審判官は、本件考案のシートは裏面凸部のみで断熱材と接着し、凹部では接着しない構成としてとらえていたことは明らかであると主張し、成立に争いのない乙第一〇号証の二五によれば、本件考案の実用新案登録異議申立人安島広行が、本件考案の接着態様に関し、「接着剤で塩ビシートを断熱材に貼り合わせる場合には、加圧しないと必要な接着力が得られないから、その加圧によつて塩ビシート裏面の凹部内に接着剤が圧入され、結局は塩ビシートと断熱材とは全面で接着することになるのが普通である」と主張したのに対し、特許庁審判官は、登録異議決定の中で「塩ビシートを通常用いられる接着剤で断熱材に貼り合わせる場合、加圧しないと必要な接着力が得られないからといつて、加圧によつて接着剤が塩ビシート裏面の凹部内に圧入され、塩ビシートと断熱材とは全面で接着することになるとは必ずしもいえないから、この点に関する登録異議申立人の主張も採用するに由ない。」と判断したことが認められる。しかしながら、右決定中の記載から直ちに特許庁審判官が本件考案につきシート裏面凹部での接着を一切排除する構成としてとらえていたと解するのは相当でなく、却つて右記載によれば審判官はシート裏面と断熱材との全面接着を排除する構成ととらえていたものと解されるから、被告の右主張もまた採用できない。
(二) 被告製品との対比
(1) 被告製品におけるシートと断熱材本体との接着状況をみるに、成立に争いのない乙第二七号証によれば、被告製品の接着されているシートを断熱材本体から剥離すると、ガラス繊維材はシートの裏面に凸部凹部の差異なく随所に付着しているというよりも、むしろ、凸部に集中的に付着していて凹部への付着は一部分にすぎず、そのためシートと断熱材本体との結合はシート裏面凸部における接着によつて保たれていると認められる。もつとも弁論の全趣旨により被告製品の写真であることが認められる乙第二九号証(撮影年月日については争いがない。)によれば、右と同様に剥離したシートの裏面には凸部凹部の差異なくガラス繊維材が付着しているようにもうかがわれるが、仔細に観察すると、ガラス繊維は主に裏面凸部に固着しているのに対し、凹部底面に接着剤で殆んど固着しておらず、単に繊維同志が錯綜し、凸部と凸部にまたがつて支持されているにすぎないと認められる。
(2) 被告は、被告製品の製造に際し、シートと断熱材の接着に先立つて断熱材の表面を毛羽立て、また接着剤をシート裏面と断熱材表面の双方に吹き付けるので、シートは裏面の凸部のみならず凹部でも等しく断熱材と接着していると主張しており、成立に争いのない乙第一四号証、弁論の全趣旨により被告製品の写真であることが認められる乙第二八号証(撮影年月日については争いがない。)によれば、被告製品の製造工程の概略は、<1>熔融ガラスが繊維化装置によつて線状のガラス繊維となり、これにガラス繊維を固着するためのフエノール樹脂溶液が散布される、<2>ガラス繊維は乾燥機の内部を所定の厚さに圧縮されたまま通過し、この間フエノール樹脂が固化して繊維を固化させ、板状のガラス繊維板が形成される、<3>ガラス繊維板の表面を多数の鉄針を具備するロールブラシで回転擦過して毛羽立てる、<4>左右に揺動するスプレーによりシート裏面とガラス繊維板表面の双方に接着剤を吹きつける、<5>シートとガラス繊維板を重ね合わせ、圧着ローラーの間を通して両者を接着させる、というものであること、右毛羽立ての工程により、ガラス繊維板の表面はほぼ全面に亘つて一・五ミリメートル前後の高さに毛羽立てられることが認められる。
ところで、右毛羽立てが完全に行われ、接着剤の塗布も全面になされるならば、毛羽がシート裏面の凸部凹部の差なく全面に亘つて均一に接着され、全面接着に該ることになると考えられるが、しかし現実の被告製品では、(中略)毛羽立てによつても毛羽の凹部への付着は一部分にとどまるから、本件考案の構成要件(D)を具備していることは明らかである。
なお、被告は、毛羽立てることの意義について、接着面積を拡げ、接着を強化させることにあると主張しているが、にわかに肯認しがたい。なぜなら、断熱材本体はガラス繊維を圧縮し、フエノール樹脂で固化して形成されるものであるが、その表面全体を毛羽立てるときはシートとの接着面はガラス繊維が浮き上がつてふわふわした状態になり、その後に接着剤を塗布してローラーで圧着したとしても、シート裏面の凹部との接触面はもちろん、凸部との接合面についても右のようなふわふわの状態を毛羽立て前の固化した状態に完全にもどすことはできず、結局シートと断熱材との結合を強化するどころか却つてシートと断熱材の接着面の間隙を大きくして両者の結合を弱め剥離の危険性を大きくする結果になると推認されるからである。従つて右毛羽立ては何ら積極的な意義を有するものではないというべきである。
(三) 以上によれば、被告製品においては、シートと断熱材本体は実質的にシートの裏面凸部で接着しており、本件考案の要件(D)を具備しこれによつて本件考案の主たる作用効果を発揮しているものと認められる。
よつて、被告製品(一)は(A)、(B)、(C)、(D)の各要件を全て充足しているから本件実用新案権の技術的範囲に属するというべきである。
2 次に、製品(二)が本件考案の構成要件(C)を充足しているかどうかについて検討する。
(一) 「無孔質」の意義
(1) 本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」中には、右「無孔質」の要件に関して、前記二、1の及び
(2) このことは、前段で認定した本件考案の出願経過すなわち、出願人が「無孔質の」なる文言を登録請求の範囲の記載に付加したのは、異議申立人により指摘された明細書の記載の不備を補正するとともに異議申立人が異議理由の証拠として引用した公知例ないし先願明細書と本件考案との相違点の一つを小孔の有無に求めたことによるとの事情に照らしても肯認できる。
(3) もつとも、原告は右のような解釈に対して、
(イ) 「詳細な説明」中の「通気孔のない」とは、一見明確に通気孔として観察しうる孔を排除する趣旨にすぎず、また、「ピンホールもなく」とは断熱材表面に液状で塩ビ樹脂を塗布したものと比較した場合のことを記述したにすぎず、いずれも一切の孔を排除するまでの趣旨ではないと主張するが、仮に右のように解釈するときは、右各記載と同一文中にある「防湿性も完全である」との記載と矛盾することになるし、もし一見明確に観察しうる孔を排除したにすぎないのであれば、「詳細な説明」中に孔の大きさにつき具体的な説明があつて然るべきである。
(ロ) また、公告後に「無孔質」の要件を付加したのは、異議申立人の引用にかかる公知例のような明確かつ大きな孔を有するものでないことを明らかにするためであると主張するが、右公知文献では孔の大きさを必ずしも限定していないし、また右文献のみから当該製品の孔が非常に明確で相当に大きい小孔であるとまで断ずることはできないから、右主張も失当である。
(二) 要件(C)と被告製品(二)との対比
製品(二)に使用されているシートには孔径〇・〇四ないし〇・二八ミリメートルの大きさの孔が一平方センチメートル当たり約二五個の割合で設けられていることについては、当事者間に争いがない。そうすると、製品(二)は本件考案の要件(C)を充足していないことは明らかである。
3 均等物の主張について
原告は、仮りに製品(二)が「無孔質」の要件に該当しないとしても、本件考案の作用効果を具有している点に鑑みると、同製品は本件考案の断熱材と均等であると主張し、これに対して被告は、製品(二)は有孔シートの採用により吸音性において格別の効果があり、本件考案とは技術思想を異にしていると主張するので、以下検討する。
(一) 無孔シートを使用する本件考案にかかる断熱材と有孔シートを使用した製品(二)の各作用効果を対比するに、
(1) まず、防湿性については、成立に争いのない乙第二一、第二三号証によれば、一平方メートル・二四時間当たりの透湿量を測定した実験結果では、無孔シートを使用した製品の透湿度が平均一八グラムであるのに対し、製品(二)のそれは、平均一〇三八(孔径〇・〇四ないし〇・二六ミリメートル、開口率〇・二八パーセントの場合)ないし二一四一(孔径〇・一一ないし〇・二八ミリメートル、開孔率〇・七一パーセントの場合)グラムであることが認められる。これによれば、製品(二)の防湿性能は、無孔シート製品の五八分の一ないし一一九分の一と著しく劣つており、したがつて製品(二)は、有孔シートを使用したが故に本件考案の一効果たる完全防湿性を発揮し得ていないことが認められる。
(2) 次に吸音性については、成立に争いのない甲第二〇号証、乙第二二号証によれば、残響法による吸音率の測定結果を平均騒音減少率(NRC。二五六、五一二、一〇二四及び二〇四八サイクルにおける吸音率の平均値。)で示すと、製品(二)では〇・七五、無孔製品では〇・六二であること、また、垂直入射法による吸音率は、前者が〇・七五、後者が〇・六九(いずれもNRC)であることが認められる。なお、右測定結果の評価につき付言するに、被告の提出した測定結果は右残響室法によるものであるところ、当該試験の試料として供された有孔製品は孔径〇・二二ないし〇・二八ミリメートルのシートを貼着したものであるのに対し、被告が昭和五八年六月以降現に製造販売している製品(乙第一六号証)の孔径は、乙第二一号証によれば〇・一一ないし〇・二八ミリメートルであるから、右試料は被告の現製品より開孔率の大きいものであると認められるし、また、本訴の対象たる製品(二)の孔径は最小〇・〇四ないし最大〇・二八ミリメートルと広範囲に亘つているため、同じく製品(二)の範疇に属するものであつても、右試験に供する試料いかんによつては、製品(二)の吸音率は右測定結果より更に小さな値になるものと推認される。
そこで、製品(二)が本件考案に比し、吸音性において格別の効果を奏しているかどうかについて検討するに、右認定事実によれば、製品(二)は無孔製品に比べ、NRCで六パーセントないし一三パーセント高まつているのである。しかしながら、右一三パーセントという値は製品(二)のすべてに該当するものではなく、かえつて被告が現実に製造販売している製品(甲第七、第八号証及び乙第一六号証に示されるもの)ではもつと小さい数値になると推認されること、そして、被告が防湿性を敢えて犠牲にして吸音性能を最大の特徴とする商品の製造を目指したのであれば、その商品価値において防湿性の低下(短所)を補うに足りる程度に吸音性の向上(長所)を図つて然るべきであるのに、製品(二)においては、吸音性の向上の度合は前記の防湿性低下の度合に比べると未だ長所をもつて短所を補う程十分なものということはできない。このような事実に鑑みると、製品(二)には本件考案に対比し吸音性の点において格別の効果があると認めることはできない。
また、仮に右程度の吸音性の向上をもつて有意な効果であると評価するにしても、成立に争いがない甲第三二号証によれば、製品(二)は、有孔品として通常市販されている製品に比べて、孔径が小さいため、使用後煙や塵埃によつて容易に目詰まりし易く、そのため比較的短期間で孔をもうけたことによる吸音効果の劣化を招くことが認められる。そうすると、製品(二)の吸音性なるものは実用的観点からは極めて不十分といわざるを得ず、これをもつて格別の効果であるとは到底認められない。
(二) ところで、一般に第三者の製品が、<1>実用新案登録にかかる考案と同一の技術思想に基づきながら、登録請求の範囲のうちの一つで比較的重要度の低いものを省略し又は他の構成と置換したものであつて、<2>右考案に基づいて、右省略ないし置換することが当業者にとつて極めて容易であり、<3>右省略、置換により他に格別の効果をもたらさず、却つて当該考案よりも効果の劣ることが明白であり、したがつて技術的完全を期する限りそのような省略、置換をするはずがなく、結局登録請求の範囲を知つてこれを回避するために敢えて技術的に劣る右のような手段を採つたと推認されてもやむを得ないものであり、<4>そのような改悪によつてもなおかつ当該考案の目的とする特別の作用効果を奏し得ているときには、右製品はなお当該考案の技術的範囲に属すると解するのが相当である。けだし、これにより当該実用新案権の保護を全うならしめるとともに、第三者の法的安定性を害することもないからである。なお、付言するに、実用新案登録請求の範囲には考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載しなければならないとされ(実用新案法五条四項)、したがつて登録請求の範囲の記載はいずれも必須不可欠の要件から成るものであつて、当該考案の技術的範囲を確定するに際し、ある構成要件を無視、除外することは許されないところであるが、このことは一つの考案を構成するいくつかの構成要件相互間にその重要性の度合に差異がある場合のあること、そして技術的範囲を確定するにあたり右重要度の差異を考慮することを排斥するものではない。
そこで、本件をみるに、上述したところによれば、
(1) 被告の製品(二)は、本件考案の主たる作用効果を具有し、その意味で本件考案と同一の技術思想に基づきながら、その構成要件のうち比較的重要度の低い「無孔質」の要件について有孔シートをもつて置換していること(なお、本件考案において、無孔シートを接着すること自体はすでに周知のものであつて、またその奏する効果も副次的なものにとどまるから「無孔質」の要件は本件考案の構成要件中比較的重要度が低いということができる。もつとも、原告は出願経過の中で右要件を重要な構成要件であると主張していたものであるが、なるほど先願明細書との差異を強調し本件考案の拒絶査定を免れるためには右要件を加えることが必要不可欠であり、その意味で重要な構成要件であるといえるが、本件考案を構成する構成要件相互の関係においては、その主たる作用効果との関連では比較的重要度の低い要件であるというべきである。)
(2) 被告にとつて、無孔シートにかえて前記のような微孔を設けたシートを貼付することは、本件考案の登録請求の範囲の記載から極めて容易に想到しうること
(3) 右有孔シートを採用することによつて、他に特段の効果をもたらさず、却つて本件考案よりも防湿性において劣ることが明らかであり、したがつて、被告がかかる微孔のあるシートを使用したのは本件考案の登録請求の範囲を知つてこれを回避するためにほかならないと推認されてもやむをえないこと
(4) このような改悪によつてもなお被告製品は本件考案の所期するシート剥離防止の効果を奏し得ていること
が認められる。そうすると、製品(二)は、本件考案の要件(C)を欠くもののなおその技術的範囲に属しているというべきである。
よつて、被告製品(二)も、本件実用新案権の技術的範囲に属するというべきである。
四1 成立に争いのない乙第二一号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告は業として製品(二)を現に製造し、販売し、販売のために展示していることが認められる。したがつて被告は、これにより本件実用新案権を侵害しているというべきであるから、原告は被告に対し、右行為の差止と製品(二)の廃棄を求めることができる。
2 製品(一)の写真であることについて争いのない甲第六号証、成立に争いのない乙第二、第二四号証によれば、被告において少なくとも昭和五六年末頃までは製品(一)を大量に製造販売していたことが窺われ、また製品(一)が本件実用新案権に牴触することを争い、これと実質的に類似している製品(二)を現に製造し、販売し、販売のために展示していることを考慮すると、特段の事情の認められない限り、被告が製品(一)の在庫を抱え、また被告において将来製品(一)を製造し、販売し、販売のために展示するなどして、本件実用新案権を侵害するおそれが存するというべきである。しかるに、右各証拠によつて、被告において、原告の警告に対し、昭和五七年二月三日付の書面で製品(一)の製造販売の予定は全くないと回答し、また製品(一)の製造販売を即時廃止した旨の昭和五八年八月一〇日付の当裁判所宛の書面を提出していることが認められはするものの、在庫品の有無、製品の回収あるいは処分等につき具体的な説明がなされていないのであるから、右事実をもつてしても前記特段の事情が存するということはできない。したがつて原告は被告に対し、右行為の差止と製品(一)の廃棄を求めることができる。
五 結論
以上によれば、本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容する。
〔編註その一〕本件における請求の原因は左のとおりである。
1 原告は、次の実用新案権(以下、これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
登録番号 第一四一〇六一八号
登録日 昭和五六年一二月二五日
考案の名称 断熱材
出願日 昭和四六年四月六日
公告日 昭和五三年一二月一三日
公告後の補正日 昭和五四年八月六日及び昭和五五年六月一二日
実用新案登録請求の範囲
予め表裏両面に〇・五ミリメートル以上の深さを有する非連続状の凹凸を多数形成せしめてなる無孔質の塩化ビニル系合成樹脂シートを無機質繊維断熱材の少なくとも片面に実質的に裏面凸部において接着具備したことを特徴とする無機質繊維断熱材。
2 本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成要件
(A) 塩化ビニル系合成樹脂シート(以下、単に「シート」ともいう。)が無機質繊維断熱材(以下、単に「断熱材」ともいう。)の少なくとも片面に接着具備されていること
(B) シートは、予め表裏両面に〇・五ミリメートル以上の深さを有する非連続状の凹凸を多数形成していること
(C) シートは、無孔質であること
(D) シートが、実質的にその裏面凸部において断熱材に接着されていること
を特徴とする無機質繊維断熱材
(二) 作用効果
(1) 本件考案の主たる作用効果は、シートと断熱材の全面接着を排除することにより、熱の影響によるシートと断熱材との不慮の剥離等を防止する点にある。すなわち、これまで合成樹脂シートが断熱材表面に接着されたものはあつたが、一般に熱による膨張係数の大きな差異から、接着面においてシートと断熱材との間に無理な応力が働き、はがれたり、シートに近い部分の断熱材内で層間剥離を起こしたり又は反つたりしていた。ところが、本件考案ではシートに多数の凹凸を付し、断熱材とはシートの裏面凸部において接着するようにしたため、熱の影響などで膨張、収縮する作用を受けても、右膨張収縮部分は該凹凸部で吸収され、接着面に無理な応力が働かないようになり、このため、熱の影響によるシートと断熱材との剥離等を防ぐことができ、右のような弊害が全くなくなつた。
(2) 本件考案の副次的な効果の一つとして防湿性等がある。すなわち、本件考案の断熱材はその表面に通気孔のない塩化ビニル又はその共重合の樹脂質シートをもつているため、無機質繊維断熱材としての耐熱、難燃性を有していると共に防湿性も完全である。
(3) なお、本件考案の最大の特徴がシートの剥離を防止する点にあり、防湿性の点は副次的な効果にとどまることは、本件明細書の「考案の詳細な説明」中において、剥離防止の点が特に長文をもつて強調され、また本件考案の出願経過において、出願人たる原告は本件考案の最大の特徴が右剥離防止の点にあることにつき再三にわたつて強調しているのに対し、防湿性の点は、明細書中では通気孔のある製品や断熱材表面に塩ビ樹脂を塗布した製品との対比の観点から数行宛記載されているにすぎず、また出願過程においても防湿性の点が本件考案の大きな特徴として強調されたことはないこと、無孔の塩ビシートを貼着した断熱材は本件考案の出願前から公知だつたのであるから、無孔質シートの採用により防湿性が高いこと自体を本件考案の主たる特徴として強調することはあり得ないこと、に照らして明らかである。
3 被告は、現に別紙目録(一)及び(二)記載の各製品(以下、それぞれ「製品(一)」、「製品(二)」といい、両者を総称するときは「被告製品」という。)を製造し、販売し、販売のため展示している。
4 被告製品は左の構成及び作用効果を有している。
(一) 製品(一)の構成
(A´) 塩化ビニル合成樹脂シートがガラス繊維断熱材の片面に接着具備されていること
(B´) シートは表裏両面に約〇・七ミリメートルの深さを有する非連続状の凹凸模様を多数形成していること
(C´) シートは無孔質であること
(D´) シートが、その裏面凸部において断熱材に接着されていること
を特徴とするガラス繊維断熱材。
(二) 製品(二)の構成
(A´) 塩化ビニル合成樹脂シートがガラス繊維断熱材の片面に接着具備されていること
(B´) シートは表裏両面に約〇・七ミリメートルの深さを有する非連続状の凹凸模様を多数形成していること
(C´) シートには孔径〇・〇四ないし〇・二八ミリメートル程度の孔が一平方センチメートル当たり約二五個設けられていること
(D´) シートがその裏面凸部において断熱材に接着されていること
を特徴とするガラス繊維断熱材。
(三) 被告製品の作用効果
被告製品は右(一)、(二)項記載の構成をとることによつて、本件考案と同様の作用効果を有している。
5 製品(一)は、本件考案の構成要件をすべて具備しており、本件考案の技術的範囲に属する。すなわち、
(一) 製品(一)の構成(A´)、(B´)、(C´)は、本件考案の構成要件(A)、(B)、(C)をそれぞれ充足している。
(二) (D´)も(D)の要件を充足している。なぜなら、要件(D)にいう「実質的に裏面凸部において接着」とは、凸部以外の個所では全く接着してはならないことまでを意味するものではない。本件実用新案の最大の特徴ないし主たる効果は、前記のとおりシートと断熱材の、全面接着に由来する不慮の剥離を防止しようということである。本件実用新案における「実質的に裏面凸部において接着具備し」というのも、右効果を達成するに必要な限度の凸部接着を意味し、凹部の一部に接着剤が付着して断熱材と接着しても、或いは、断熱材のガラス繊維の「ケバ」がシートの凹部にくつついても、接着の主体がシート凸部であつて右の効果が顕著に妨げられない限り、「実質的に裏面凸部において接着」に該当するのである。むしろ、出願経過に照らせば、本件実用新案で排除されているのは、シートの「全面接着」に外ならないことが明らかである。しかるところ、製品(一)の接着態様は、偶々シート裏面凹部にも断熱材の一部の毛羽が接着していることがあるという程度のものであつて、「全面接着」とは程遠いものであり、この意味において製品(一)が右要件に該当することは明らかである。
6 製品(二)も以下に述べるとおり、本件考案の技術的範囲に属する。
(一) 製品(二)は、本件考案の構成要件をすべて充足している。すなわち、
(1) 製品(二)の構成(A´´)、(B´´)は本件考案の構成要件(A)、(B)をそれぞれ充足している。
(2) (C´´)は(C)を充足している。
もつとも、(C)では「無孔質」とされているのに対し、(C´´)ではシートに孔径〇・〇四ないし〇・二八ミリメートル程度の、一見しただけでは判然としないが、仔細に観察すると漸くその存在が認識しうるような孔が一平方センチメートル当たり約二五個の割合で設けられている。しかし以下の理由により、(C´´)は(C)を充足しているというべきである。
(イ) 本件考案における「無孔質」とは、いかなる意味においても孔は一切存在しないという程の完全な無孔状態を意味するものではなく、断熱材という製品の一般的性状に照らして見た場合に、実質的に無孔とみなしうる程度のものであればよいとの趣旨であり、「通気孔」のように、通常「有孔品」として販売されている断熱材に設けられている、肉眼でも明確に認識しうるような孔が設けられていない状態を意味するものであつて、製品(二)に設けられているような極微の孔までをも排除するものではない。
(ロ) そもそも本件実用新案登録請求の範囲に「無孔質の」という文言が加入されたのは、出願中に異議申立人が有孔製品にかかる公知文献を異議の証拠として提出したことに対応したものである。すなわち、右公知文献に記載されている吸音板は非常に明確な、相当程度に大きな「小孔」を有するものであつたので、出願人である原告は本件考案に用いるシートが右文献記載の製品のように大きな孔を有するものではないことを明確にするため「無孔質の」という文言を付加したものである。
(ハ) また、本件断熱材をその用法に従つて天井板に用いた場合、製品(二)のようにシートに極微の孔を設けることがこれを設けない場合に比べて、天井板用断熱材に何ら意味ある効果をもたらすものではない。結局製品(二)は、無孔質のままのシートの果たす効果を維持せしめつつ、これに効果に変更を生ぜしめない程度の微差を加えたものであつて、その差異は講学上いわゆる構造上の微差にすぎず、本件考案の(C)の要件を免れるものではない。
(3) (D´´)が(D)を充足することは製品(一)の場合と同様である。
(二) 仮に、製品(二)のシートが前記(C´´)の孔が設けられていることにより(C)の要件を充足せず、また、それにより本件考案の断熱材に比べ防湿性において劣るとしても、製品(二)は本件考案の断熱材の均等物とみなされるべきであり、したがつて本件考案の技術的範囲に属することにかわりはない。
すなわち、製品(二)は右(D´´)の構成を具えることによりシートと断熱材の全面接着に由来する不慮の剥離の防止という本件考案の最大の特徴をそのまま具有している。これに対し、(C´´)の構成により形式的に「無孔質」の要件から外れ、そのため防湿性の低下をもたらしているとすれば、その点は本件登録請求の範囲の文言を形式的にせん脱し、それにより本件考案の副次的な効果の一つにすぎない防湿性の点において相対的な改悪をもたらしているにすぎず、しかも無孔質の要件を逃れるために極微の孔を設けることは当業者にとつて極めて容易に想到しうることは明らかであるから、製品(二)は本件考案と均等である。
7(一) 被告は、業として被告製品を製造し、販売し、販売のために展示し、現に本件実用新案権を侵害している。
(二) 仮に、被告が現在製品(一)の製造販売を一時中断しているとしても、将来再びこれを製造販売する蓋然性は極めて高く、本件実用新案権を侵害するおそれがある。なぜなら、<1>被告の製品(二)は天井板用断熱材であるが、小孔を多数設けたシートを用いた断熱材を天井板に使用した場合、屋根裏の結露の発生並びに孔周り及び孔を通しての汚染の発生という天井板として重大な欠点を有し、市販に耐えないばかりか、<2>製品(二)のシートの微孔は格別有意な効果をもたらさず、単に製造工程を煩雑にし、原価を増大させるだけであり、技術的、経済的観点からいつて無孔シートを用いた製品(一)を製造販売する方が有利だからである。
8 よつて、原告は被告に対し、被告製品の製造、販売及び販売のための展示の差止を求めるとともに、被告所有の被告製品の廃棄を求める。
〔編註その二〕本件に関する目録は左のとおりである。
目録(一)
表裏両面に約〇・七ミリメートルの深さを有する非連続状の凹凸模様を多数形成せしめた穿孔のない塩化ビニル合成樹脂シートを、ガラス繊維断熱材の片面に、シートの裏面側凸部において接着せしめたガラス繊維断熱材。
目録(二)
表裏両面に約〇・七ミリメートルの深さを有する非連続状の凹凸模様を多数形成せしめ、孔径〇・〇四乃至〇・二八ミリメートル程度の孔を一平方センチメートル当り約二五個設けた塩化ビニル合成樹脂シートを、ガラス繊維断熱材の片面に、シートの裏面側凸部において接着せしめたガラス繊維断熱材。