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福島地方裁判所郡山支部 昭和62年(む)30号 決定 1987年12月10日

被疑者

O

申立人(右弁護人)

安藤和平

主文

福島地方検察庁郡山支部検察官Yが申立人に対してした、同地検同支部で検察官発行の接見指定書を検察官から受け取りこれを持参しない限り申立人と被疑者との接見を拒否するとの処分は、これを取り消す。

理由

一本件申立ての趣旨及び理由は別紙「準抗告の申立書」写し記載のとおりである。

二一件記録及び当職の事実調べの結果によれば以下の事実が認められる。

被疑者は恐喝未遂で昭和六二年一二月四日逮捕され、同月五日勾留され、右勾留の際に接見禁止決定がされている。申立人は、警察官からの電話連絡により被疑者が弁護を依頼している旨聞いたので、同月四日午後四時三〇分ころ被疑者と接見し、弁護人選任届を作成したが、接見に際しては警察官から接見指定書の持参要求はなかった。申立人は、同月九日に郡山警察署留置副主任者に対し、被疑者との接見を求めたところ、本件は接見禁止決定がされているので、福島地方検察庁郡山支部の検察官が作成する接見指定書を持参しない限り申立人の接見には応じられない旨の回答を得た。申立人は、同日及び同月一〇日、担当検察官Yと接見の具体的指定の方式について話し合ったが、合意できなかった。

福島地方検察庁郡山支部支部長検察官Yは昭和六一年八月二五日四時三〇分ころ郡山署長にあてて、今後接見禁止決定のあった事件について弁護人から接見の申出があった場合は検察官の発する指定書を持参しない限り弁護人の接見は認めないという取扱いをされたいとの連絡をした〔なお、本件で当職の電話聴取に際し、同検察官はその様な連絡をしていない旨の回答をしているが、裁判官作成の昭和六一年八月二七日付及び昭和六二年一二月一〇日付(二通)電話聴取書並びに決定書(昭和六一年(む)第二九号事件についてのもの)によれば、同事件では接見禁止決定のあった後にも具体的指定書を要求することなく一度は接見を認めており、その後に弁護人が接見を求めた際には具体的指定書の持参を要求されているのであるから、その間に同検察官が右のような内容の一般的指定をしたことは疑いなく、また現に警察の留置事務においてその趣旨に従った処理をされているのであるから、なぜ本件の電話聴取に際し前言を翻しその趣旨を否認するのか理解に苦しむところである。〕。

三右に認定した事実によれば、検察官Yは、昭和六一年八月二五日にまずは警察署長に対し検察官の発する具体的指定書を持参しない限り弁護人と被疑者との接見を認めない旨の通知をしたにすぎないにしても、それによって弁護人と被疑者との自由な接見交通が事実上禁止されるという効果をもつ以上、さらにその通知の趣旨がたとえ電話連絡であろうと警察官や検察官から弁護人である申立人に通知されれば、同検察官は、申立人に対し、検察官発行の具体的接見指定書を検察官から受け取りこれを持参しない限り、申立人と被疑者との接見を一般的に拒否する旨の処分を行ったと認めるのが相当である。

そこで検察官の右処分の当否について検討する。刑事訴訟法三九条三項は、同条一項の弁護人と被疑者との自由な接見交通権を原則としたうえで、例外的に「捜査のため必要があるとき」という前提条件があるときはじめて捜査官は接見又は接受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができると規定しており、その「捜査のため必要があるとき」とは現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合であると解されるところ、本件の検察官の処分は右のような前提条件のない場合をも含めて一般的に接見についての指定権を行使したものと認められ、右処分は違法といわざるをえない。

四よって、本件準抗告の申立ての趣旨第一項は理由があり、本件の接見に関する指定は取り消されるべきであるから、同法四三二条、四二六条二項により、主文のとおり決定する(なお、同第二項で求める裁判は、主文のとおりの決定で所期の目的を達するので必要なしと認め、さらに裁判しない。)。

(裁判官林敏彦)

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