福島家庭裁判所 昭和36年(家)3810号 審判 1962年2月28日
申立人 大崎美子(仮名)
主文
記裁錯誤につき次の戸籍につき次の通り戸籍訂正することを許可する。
本籍伊達郡保原町字大和六二番地筆頭者大崎実の戸籍中妻美子の「母亡田辺あや」とあるを「母亡きみ」と及び
前記美子の関連戸籍につき前項趣旨の通り訂正すること。
理由
申立人大崎美子は戸籍上父亡山川勇吉、母亡田辺あや間の三女として登載されているが、同人の母は山川きみである。
その事情は、山川勇吉はその先妻あやと夙に事実上離別し、申立人の母関口きみと同棲し、申立人たちを出産したのであるが、当時先妻との離婚及び関口きみとの婚姻手続がなされていなかつたので前記のように田辺あやとの間の三女として出生届がなされたものである。
その後申立人の生母関口きみは山川勇吉と婚姻したので、申立人は準正により嫡出子の身分を取得したが、現在実父母及び戸籍上の母のいずれも死亡している。
上の事情であるから戸籍簿母欄記載の母亡「田辺あや」の記載は抹消されるべきであるが、母欄を「きみ」と訂正記載をするについては、母の認知のない限り、母欄の改訂はできないのでないかという疑問がある。けだし民法実体法は婚外子については、母の認知をも必要とするからである。しかし手続法である戸籍法については、必ずしも母の認知行為をまつて母子関係の記載がなされるべきものとは予定されていないから(戸籍法第五二条三項に第三者による出生届により婚外子についても母の記載がなされる)、母の明確である場合には、これの訂正記載はなされてよいと思料する。尤も右の訂正記載により母子関係が発生確定するものでなく、単に一応の公証力が生ずるだけであるから、若し母子関係の存否について、これを争うものがあれば、何時にても訴によりこれが解決されることになる。
以上の事由により主文の通り審判する。
(家事審判官 村崎満)