福島家庭裁判所 昭和45年(家)398号 審判 1971年4月05日
申立人 滝沢裕子(仮名)
相手方 渡辺順治(仮名)
事件本人 滝沢浩治(仮名) 昭三六・一二・二二生
外一名
主文
本件申立はこれを却下する。
理由
一 申立人は、相手方は申立人に対し、事件本人等の養育料として、毎月相当額の金員を支払うべしとの審判を求めたが、相手方はこれに応じない。
二 それで、調査の結果によると、
(一) 申立人と相手方とは、昭和三六年三月一四日婚姻し、その間に同三六年一二月二二日事件本人長男浩治、同三八年一一月二〇日事件本人二男秀道を儲けたが、同四一年八月二二日当裁判所で次の条項により調停離婚(当庁昭和四一年家イ第一八三号離婚等調停事件で申立人は本件申立人、相手方は本件相手方)したこと。
イ 申立人と相手方とは離婚する。
ロ 当事者間の長男浩治、二男秀道の親権者を申立人と定め、申立人の負担において、養育及び監護教育する。
ハ 相手方は申立人に対し、その所有にかかる物件並びに当事者間の子供の物一切を昭和四一年八月二九日相手方宅において引渡す。
ニ 申立人は本件については、他に何らの請求をしない。
(二) 申立人は、離婚等調停において、離婚原因として、相手方の異性関係を主張し、相手方はこれを争い、申立人の嫉妬による猜疑心によるものであるとして慰留に努めたが、申立人が事件本人を自分の負担で養育し、相手方に負担させないと主張し、強く離婚を求めたため、結局、相手方もやむなくこれに応じ、上記記載の通り調停が成立したこと。
(三) 上記調停において、申立人はその負担において事件本人を養育すると定め、その費用を相手方に負担させない旨定めてはいないが、養育費はその実質が事件本人の生活費であるから、申立人が事件本人の母として請求する場合は勿論事件本人の法定代理人としてする場合でも、扶養請求権の放棄ができないため、相手方に対し事件本人の扶養につき経済的負担をさせない趣旨で、申立人が負担すると定めたにすぎないことが明白であるが、扶養を受ける権利はこれを処分することができないのであるから、本件申立はもとよりこれを適法とせねばならないこと。
(四) 次に申立人は事件本人の母として相手方に対し、同四五年七月二日事件本人が小学校に入学し何かと費用が嵩むとの理由で、養育料として相当額の支払即ち監護費用請求の調停申立(当庁昭和四五年家イ第二三〇号、第二三一号養育料請求調停事件)をなし、これにつき同年七月一五日調停が開かれたが、相手方は、引取扶養するならば、格別、先の離婚等の調停の際、申立人が自分の力で子供を育てる、その費用を相手方に負担させないと約したため調停が成立したのであるからと主張して支払を拒否し、当事者間に、合意成立の見込みがたたず当日不成立となつて、審判に移行したこと。
(五) 申立人は、事件本人二人と申立人の妹との四人世帯で、申立人とその妹とは○○として、申立人がその自宅で○○を経営し、離婚当時四歳と二歳であつた事件本人も九歳と七歳となつて小学四年と二年となり、その教育費を含め養育費が、離婚当時に比すれば嵩んでいると思われるが、福島市役所税務課調査結果による申立人方の昭和四四年度の総収入が一、一七一、五五〇円で、仕入経費等必要経費九〇〇、七一〇円を差引いた課税額が一八〇、〇〇〇円で公租公課の対象外であるとの調査は、事件本人の服装教育費等の支払状況、家計の支出状況、家具、調度品の備付状況等から勘案すると信用し難く、寧ろ、却つて、事件本人の教育費を含めた生活費に事欠く状態でなくて、普通以上の生活程度であることが認められること。
(六) 相手方は、その養父母と住込の○○との四人世帯で、○○製造と○○の業務に、養父は○○の業務に、養母は○○として○○を経営し、相手方の昭和四四年度における総収入は、青色申告によると、一、九七八、二三九円で必要経費一、六七四、六一二円を差引いた課税額が、三〇三、六二七円であり、その外養母の昭和四四年度における実収入が二〇八、四七九円あつて、互に依存して生活していると思われ、その外相手方は○○製造に使用している二階建の合計一六坪の木造建物を所有し、その生活程度は、申立人のそれよりも稍高いと思われ、事件本人の生活費について、一部負担の能力はあると思われること。
(七) しかし、相手方は申立人を極端に嫌悪し、これと断絶するため、事件本人の引取扶養を主張し、申立人も、事件本人が希望するなら相手方の引取扶養に応ずるが事件本人が相手方を嫌つている旨主張し、結局引取扶養の点につき一致しなかつたこと。
が認められる。
三 そして、
上記離婚等調停で、申立人の負担で事件本人を養育し、相手方に経済的負担をさせないこととした趣旨は、もとよりこれを絶対的のものとし、調停後如何なる経済的需要が臨時的または恒常的に惹起したとしても、相手方が負担しないとしたものでなく、かつ、扶養請求権はこれを処分し得ない点からも、将来申立人がその資力で事件本人の扶養を賄うことができなくなつたり、事件本人の重病等で、臨時的または恒常的に経済的需要が著しく増大した場合は相手方も負担することを予定して調停したものと解するのが相当であり、これこそ事情の変更に該当するものであるが、事件本人が学齢期に達すれば就学し、その教育費を含めて養育費が多少増加する程度のことは、調停の際、十分斟酌してなされたものであるから、申立人も負担を承知していたものであつて、その費用は上記相手方の予定した負担に含まれないと解するのが相当であり、かつ、申立人の生活程度が普通以上で事件本人の日常生活に事欠くようなことがなく、本件申立も経済的需要が臨時または恒常的に著しく増大したことを理由とするものでないから、相手方に事件本人の生活費負担の能力があるとしても、結局、上記調停成立後現在まで、事情の変更があつたとは認め難いのみならず、相手方の引取扶養についても、事件本人が単に相手方を嫌うからと称して反対するだけでは、生活費犠牲もやむを得ないところである。
よつて、申立人の本件申立はその理由がないから、これを却下することとし、参与員幸野岩雄同石原三起子の意見を聴き、主文の通り審判した。
(家事審判官 早坂弘)