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福島家庭裁判所いわき支部 平成16年(少ロ)1号 2004年9月01日

主文

申立人の上訴権回復の請求を許容する。

理由

1  本件申立ての理由の要旨は、当庁平成15年(少)第583号、第631号、第706号事件(以下「基本事件」という。)については、検察官関与が決定されており、基本事件において裁判官が終局決定を言い渡す際には、検察官に対して審判期日の告知をする必要があるところ、検察官に対する通知がなく、審判期日において決定告知がされることを知り得る機会が与えられないまま、平成16年7月23日に窃盗について保護観察処分、強姦について不処分(非行事実なし)の決定がされるに至り、検察官は、上訴期間経過後の同年8月17日の通知により決定を知ったことから、上訴権回復の請求をするというものである。

2  少年法には、上訴権回復に関する規定は存しないものの、刑事訴訟法362条は、上訴権者が自己又は代人の責に帰することができない事由によって上訴の提起期間内に上訴することができなかったときは、原裁判所に上訴権回復請求をすることができると規定しており、その趣旨は、少年法における終局決定に対する抗告申立てや抗告受理申立てにも妥当するものと認められるから、同条を類推適用して、少年法における終局決定にも上訴権回復請求が許容されると解するべきである。

3  本件記録及び基本事件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  少年は、窃盗の非行事実により京都家庭裁判所発付の観護状を執行され、同事件が当庁に移送されたことにより(当庁平成15年(少)583号、同631号)、福島少年鑑別所に収容中、平成15年10月14日に強姦の容疑で逮捕され、勾留の後、平成15年11月4日に当庁に送致され(当庁平成15年(少)第706号事件)、当庁裁判官の観護措置決定により福島少年鑑別所に再度収容された。

(2)  福島地方検察庁いわき支部検察官は、平成15年11月21日、当庁宛てに、当庁平成15年(少)第706号事件についての検察官関与に関する申出書を提出し、同日、同事件につき検察官関与決定がされた。

(3)  当庁平成15年(少)第583号、同631号、同706号の各事件は併合され、第1回審判期日が平成15年11月27日に開かれた。同期日には、少年、保護者(少年の母)、付添人、家庭裁判所調査官に加え、検察官が立会い、少年に対する質問と被害者の証人尋問を行った。

(4)  第2回審判期日は、平成15年12月10日に開かれ、同期日には少年、保護者、付添人、家庭裁判所調査官が立ち会ったが、検察官は立ち会わなかった(その理由、経緯等については記録上明らかではない。)。同期日においては、少年を家庭裁判所調査官の試験観察(在宅)に付する旨の決定がされた。記録上、同処分について、検察官に告知がされたことを認めるに足りる資料は存せず、同決定についての検察官への告知は行われていないものと認められる。

(5)  当庁家庭裁判所調査官による試験観察の後、裁判所は、平成16年7月13日、第3回審判期日を平成16年7月23日と指定した。同期日の指定について、少年及び保護者に対しては告知がされたが、付添人及び検察官には告知がされなかった。

(6)  第3回審判期日は、平成16年7月23日に開かれ、同期日には少年、保護者、家庭裁判所調査官が立ち会ったが、検察官、付添人は立ち会わなかった。同期日においては、窃盗の各非行事実を認定した上、少年を保護観察処分とし、強姦の非行事実については不処分(非行事実なし)とする決定がされ、少年及び保護者には面前告知された。

(7)  その後、検察官及び付添人に対しては基本事件にかかる終局決定の内容についての告知はされず、検察官に対しては平成16年8月17日に、付添人に対しては同月18日に審判結果通知書が送付された。

4  以上の事実によれば、そもそも、基本事件の終局決定の検察官に対する告知は平成16年8月17日にされたもので、それを抗告期間の起算点として、抗告期間は平成16年8月31日までとなると解する余地も十分あり得るところであり、その場合には、そもそも本件の抗告受理申立てが抗告期間を経過する前にされたこととなるから、本件申立ては、その利益を欠くものということとなる。しかし、刑事訴訟においても、被告人が公判期日に出頭しなければ判決の宣告ができない事件につき、被告人不出頭のまま判決の宣告をした瑕疵があっても、上訴提起期間は判決宣告の日から進行すると解されており(最高裁昭和38年10月31日第三小法廷決定刑集17巻11号2391頁)、また、少年法では、同法に基づく終局処分については、検察官や付添人を含む関係当事者全ての立会いの下、裁判官が決定を告知することが想定されている(少年審判規則3条1項2号、28条4項及び5項、30条の6第2項)ことにかんがみれば、審判期日に出頭しない当事者がいた場合においては、その理由のいかんにかかわらず、全ての者について審判期日の翌日から抗告期間が開始すると解し、面前で告知を受けなかった者が終局決定がされた審判期日の翌日から2週間を超えてした抗告の可否については、上訴権回復請求の当否の判断として行うべきものであるとの解釈も成り立ちうるところである。そして、上訴権回復請求が抗告受理申立ての提起と同時にすることが求められている(刑事訴訟法363条2項)上、上訴権回復請求の判断が抗告受理申立てに先行することが想定されており、それに加えて、当裁判所が上訴権回復請求の申立てについて、前者の説に立ち、その利益がないと判断しながら、後の抗告受理申立ての判断において、本件抗告受理申立てが抗告期間を経過した後にされたものと判断された場合に申立人が負う危険を考慮した場合、当裁判所としては、後者の説に立った上で、本件申立てはその利益があるものと扱い、上訴権回復の可否を判断すべきものと思料する。

そこで、本件について検討するに、本件で、申立人である検察官は、基本事件の第3回審判期日の通知を受けておらず、基本事件で終局決定がされたことを初めて正式に知ったのは、裁判所書記官からの審判結果通知書の送付を受けた平成16年8月17日であると認められるのであるから、申立人が抗告期限を経過した平成16年8月30日に至って抗告受理申立て及び上訴権回復請求を行ったことは、申立人又はその代人の責に帰することができない事由によるものであることは明らかといわざるを得ず、また、本件申立ては、刑事訴訟法363条所定の要件も充足しているものと認められる。

5  よって、本件申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 廣澤諭)

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