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福島家庭裁判所会津若松支部 平成3年(家)182号 審判 1992年9月14日

申立人 大宅裕二 外1名

事件本人 朴淑子 外1名

主文

事件本人を申立人らの特別養子とする。

理由

1  申立ての要旨は主文と同じである。

2  本件記録及び申立人らの審問の結果によると、次の事実が認められる。

(1)  事件本人は、昭和63年(1988年)6月17日母中村恵子こと朴恵淑(在日韓国人、昭和46年3月26日生)の子として出生した。父は、朴恵淑の言葉によれば、北原裕(昭和43年10月25日生)であるが、同人は昭和63年8月11日に死亡しており、法的に父であるとは確定されていない。

(2)  母朴恵淑は、当初から事件本人の養育をする意思はなく、出生直後の昭和63年7月3日、事件本人を置いたまま、病院を退院して静岡県沼津市の実家に帰ってしまった。

他方、事件本人は、父と日された北原裕の両親に引き取られたが、北原家でも、はたして裕が父であるかどうかについて疑問をもっていたことや、経済面で事件本人の養育が困難であったこともあり、福祉事務所と相談の上、同年7月15日事件本人を○○乳児院に入所させた。そして、平成2年6月23日、事件本人は、同乳児院から申立人らに里親委託され、以来申立人らのもとで養育されている。

(3)  母朴恵淑は、沼津の実家に帰った後、平成2年2月3日中村章と婚姻し、同年6月に子をもうけたが、その後行方不明となっており、中村家でも連絡がとれず、夫である章は朴恵淑との離婚まで考えるに至っている。もっとも、朴恵淑は、その母(祖母)金山良子こと李栄蘭とは連絡をとっているらしいが、李栄蘭は裁判所にも朴恵淑の連絡先を教えようとしないので、本当に連絡が可能かどうかは明確でない。

母朴恵淑の事件本人に対する態度は、前記のとおり当初から事件本人を養育する意思は全くなく、この意思は平成2年2月ころになっても変化がなく、同年5月29日には、福島県○○児童相談所長あてに、事件本人の里親委託について同意する旨の書面を差し入れているが、同書面中に「将来特別養子縁組を行うことについても同意します」と記載して署名押印している。

(4)  祖母李栄蘭は、事件本人を母朴恵淑が養育することは反対であり、本件の特別養子縁組については、当初は、北原裕に対する不満からこの特別養子縁組に同意できないと述べたこともあったが、現在は、特別養子縁組をすることが事件本人の福祉につながることを理解し、平成4年7月27日付けでその同意書を作成して、当裁判所に送付してきている。

(5)  申立人らは、昭和47年7月27日に婚姻した夫婦であるが、子供に恵まれなかった。昭和63年ころニュースで特別養子縁組の制度を知り、平成元年8月○△児童相談所に里親登録をした。そして、平成2年6月初旬○△児童相談所からの連絡で事件本人と会い、同月23日から自宅に引き取って養育している。夫婦とも職業は会社役員であり、豊かな収入があり、肩書住居地の自宅も所有している。また、申立人ら自身の健康にも心配はなく、事件本人に対する愛情も充分である。

事件本人の申立人らに対する態度は、当初は拒否的な面もあったが、現在ではすっかり申立人らに懐き、精神的にも安定した生活を送っている。

このように、事件本人の生活面は何ら問題がない状況であるので、申立人らは、平成3年5月28日本件申立てをした。

2  以上の事実に基づいて考えて見る。

(1)  以上によれば、夫婦共同縁組、養親、養子の年齢の要件は問題がなく、また母朴恵淑による事件本人の監護が著しく困難又は不適当であることも明白である。そして、現在事件本人が申立人らのもとで経済的にも精神的にも安定した生活を送っており、その期間が2年以上になっていることからすれば、本件の特別養子縁組を成立させることは、事件本人の利益のために特に必要があるものと考えられる。

(2)  次に、民法817条の6の「父母の同意」の要件を考えてみると、事件本人の父は、法的には存在しないし、また母朴恵淑は、現在審判の時点では、所在が不明であるから、母がその意思を表示することができない場合にあたる。なお、この関係では、前記平成2年5月29日付け書面による同意が問題になるが、同書面による同意は、裁判所に対して表示されたものでもなく、民法817条の6で要求されている同意にはならないことは明らかである。

さらに、家事審判規則64条の4に要求されている同意を考えてみると、母朴恵淑の所在は、本件申立ての時点でも、不明の状況にあったものと考えられる。これは、申立書中に「平成3年3月23日現在生母は行方不明」との記載があることや、本件記録中の児童相談所の記録の写しに「平成3年2月中旬頃喧嘩をして家出」との記載があることから明らかである。また、この点に関しても、前記平成2年5月29日付け書面による同意が問題になりうるが、この同意は、本件申立てがされることが具体的になってからされたものでもなく、同意の文言が記載されてから本件申立てまで相当の日時が経過していることを考えれば、同規則に要求されている同意にも該当しないというべきであろう。

(3)  母朴恵淑の国籍は韓国である。ところで、大韓民国民法(平成元年1月13日法律第4199号による改正後のもの)870条によれば、養子縁組については父母の同意が必要であり、父母が同意することができない場合には直系尊属(最近尊属が先順位)の同意が必要とされている。しかして、本件では、前記のとおり母朴恵淑は行方不明で同意をえることができないが、平成4年7月27日付けで祖母李栄蘭の書面による同意をえた。これによって、大韓民国民法の要件も充足することができた。

3  よって、本件の特別養子縁組を成立させることは事件本人のために特に必要があると認められ、かつ法定の要件も充足しているので、本件申立てを認容することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 佃浩一)

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