福島家庭裁判所白河支部 昭和49年(家)654号 審判 1974年12月23日
申立人 須賀川市福祉事務所長
事件本人 安藤信之(仮名)
(明三七・二・一二生)
主文
本件申立を却下する。
理由
本件調査の結果によれば、事件本人は、安藤初雄、花子の二男に生まれ、昭和一六年八月八日父母に対する尊属殺人、尊属殺人未遂罪を犯して宮城刑務所に服役し、昭和二八年八月同刑務所を出所後は農業のかたわら行商などをしていたが、生活に困窮して、生活保護の適用をうけるようになつていたところ、昭和四七年二月二九日精神分裂病の診断をうけ、以来、須賀川市○○病院に入院中である。同人に対する扶養義務者としては、弟の安藤二郎(明治四二年三月一六日生)、安藤三郎(明治四四年一二月二九日生)、妹の西村きぬ(大正六年九月三日生)が生存しているが、弟らは、高齢のうえ、その家族の収入に依存して生計を維持している実情にあり、また、妹は、警察官の夫をもち、やや安定した生活を送つているものの、約八年前から糖尿病に悩み現に治療をうけている状態であつて、いずれも遠隔地の東京都あるいは横浜市に居住しているうえ、永らく事件本人との交渉を絶つていたことなどから、保護義務者になることを強く拒否していることが認められる。
ところで、「扶養義務者が数人ある場合において、それらの者がすべて遠隔地居住等のため保護義務を行なわせるのに適当でないときでも、家庭裁判所は、保護義務を行わせるのに比較的適当と認める者を選任するほかない。」との見解もあるが、しかしながら本件のように扶養義務者いずれもが保護義務者に選任されることについて強い抵抗を示し、且つ客観的にも右義務の遂行を期待し難い状況下にある場合においても、その選任を断行することは、かえつて精神障害者の保護に欠けるという制度の趣旨に違背するおそれがあるので、かかる場合においては、精神衛生法第二一条の定めるところにより、精神障害者の居住地を管轄する地の市町村長が保護義務者になるのが相当であると解すべきである。
よつて、本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 本田恭一)