福島家庭裁判所郡山支部 昭和63年(少)125号 決定 1988年2月09日
少年 D・R(昭和47.4.14生)
主文
少年に対し強制的措置をとることは、これを許可しない。
強制的措置許可申請事件を、福島県中央児童相談所長に送致する。
少年を福島保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 Aと共謀のうえ、
1 昭和62年11月1日午後8時ころ、福島県須賀川市大字○○字○○×番地市営住宅××棟南側自転車置場において、B所有の原動機付自転車1台(時価4万円相当)を窃取した
2 同日午後8時10分ころ、同所において、C所有の原動機付自転車1台(時価8万円相当)を窃取した
第2 同月2日午前11時ころ同市大字○字○○××番地D方南側軒下において、E子所有の自転車1台(時価7000円相当)を窃取した
第3 A及びFと共謀のうえ、
1 同月7日ころの午後10時ころ、同市○○町××番地G方西側軒下において、H所有の自動二輪車1台(時価8万円相当)を窃取した
2 同日ころの午後10時30分ころ、同市○○町××番地有限会社○○ガレージ北側駐車場において、I子所有の自動二輪車1台(時価15万円相当)を窃取した
3 同月9日午前零時ころ同県岩瀬郡○○村大字○○字○○××番地の×○○商店軒下において株式会社○○所有のピーカップ機械2台(時価3万円相当)を窃取した
ものである。
(適用法条)
第1及び第3の各事実につき刑法60条、235条
第2の事実につき同法235条
(当裁判所の判断)
1 本件強制的措置許可申請事件の送致理由の要旨は、少年は昭和60年12月5日教護院福島学園に入所措置され、昭和61年9月ころから無断外出をし、その外出中に起こした窃盗事件で昭和62年3月20日福島家庭裁判所白河支部で不処分となり、同学園で継続指導していたものであるが、中学校3年生になっても学習、作業面では意欲を欠き、服装等で規則違反も多く、昭和62年8月30日からは無断外出を繰り返しては窃盗、無免許運転等の非行を繰り返すという状況にあり、少年には反省心も乏しく、他の児童に与える影響も大であるから、同学園における教護指導は限界であって、少年に対し、強制的措置をとることの許可を求めるというものである。
そこで判断するに、少年は3人兄弟の末子で、また次兄の身体疾患のため、過剰な期待を受け甘やかされて育てられたため、甘えが強く、気が弱くて依存的であり、承認欲求が強く自己を認めてくれる不良交友に対しては従順であり、これに対し自己に規制を加えるものに対しては被害感を抱き易く他罰的な捉え方をしやすい。この様な資質上の問題が上記送致理由の要旨にあるような教護院での規則違反や、無断外出及びそれにともなう窃盗等の非行に至っているのであって、これ以上福島学園での教護指導は限界であるとする本件申請の前提は首肯できるところであって、この際少年を強制的措置をともなった教護院に収容することも、あながち不当な措置であるとは思われない。
しかしながら、少年はこれまで無断外出の期間はあるとはいえ、約2年間にわたって、施設内での生活を続けており、さらに国立の教護院に入所するにとになれば今後約1年間は施設内での生活を余儀なくされ、施設児の弊害も予想されること、これに対し、少年の両親は施設内に収容することを希望せず、少年を引き取るために、少年の稼働先を準備したり、母親が仕事を辞めて少年の監護に当たることにしていること、少年の無断外泊は両親のもとへ帰りたいということが契機となっており、少年は観護措置までの約1ヵ月間は父母の監護のもとで比較的落ち着いた生活をしていたこと、少年は観護措置をとられて多少の内省も窺えること、児童相談所も両親の監護力に期待して強制的措置をとる施設に収容することを強くは希望しておらず、その際はなんらかの保護処分を期待していること等諸般の事情を考慮するとき、保護者と隔絶して強制的措置をともなった教護院に収容するよりは、監護の意欲の認められる両親に少年を委ね、後記のとおり保護観察による専門的機関の援助を受けたうえで、両親の監護のもとで少年の行動の改善を図ることが相当であると考える。
よって、少年に対し強制的措置をとることはこれを許可せず、少年法23条1項、18条1項により強制的措置許可申請事件を福島県中央児童相談所長に送致することとする。
2 窃盗保護事件については、以上の諸事情、とりわけ少年の資質上の問題点が両親の養育態度によって形成されてきていることに鑑みれば、少年の前記資質上の問題点を矯正するためには第三者の適切な指導援助が必要であると認められるので、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項により、少年を福島保護観察所の保護観察に付し、相当期間専門家による周到な指導を受けさせる必要がある。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 林敏彦)