秋田地方裁判所 平成13年(わ)177号 判決 2001年12月28日
主文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1平成13年6月3日午前1時20分ころ,秋田市ab丁目c番d号A駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有する接着剤16缶(約1240ミリリットル)をみだりに吸入する目的で所持した
第2同年8月12日午前1時20分ころ,前記A駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有するシンナー2瓶(約290ミリリットル)をみだりに吸入する目的で所持した
第3同月22日午前零時5分ころ,同市ae丁目f番g号付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有するシンナー1瓶(約89ミリリットル)をみだりに吸入する目的で所持した
第4同月23日午後7時ころから同月24日午前4時30分ころまでの間,同市h町i番j号B方において,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有する接着剤をみだりに吸入し,かつ,同月24日午前4時45分ころ,前記吸入にかかる接着剤の残量1缶(約35ミリリットル)をみだりに吸入する目的で所持した
第5同月24日午前4時32分ころ,前記の実父B(当時61歳)方において,同人に対し,「この野郎。これでも起ぎねが。火を点けてやる。」などと怒号しながら廊下等に灯油をまき散らした上,さらに「警察呼ばったべ。火,点けてやる。」などと語気鋭く申し向けるなどし,同人の生命,身体,財産等に危害を加える旨を告知して脅迫したものである。
(累犯前科)
被告人は
1 毒物及び劇物取締法違反の罪により秋田地方裁判所において平成7年7月11日懲役1年2月に処せられ,平成8年8月18日その刑の執行を受け終わり,
1 その後犯した同罪により,仙台高等裁判所秋田支部において平成9年7月29日懲役8月に処せられ同年8月13日その刑の執行を受け終わり,
1 その後犯した窃盗,毒物及び劇物取締法違反の罪により秋田地方裁判所において平成10年5月27日懲役1年6月に処せられ平成11年10月26日その刑の執行を受け終わり,
1 その後犯した窃盗罪により秋田簡易裁判所において平成11年12月22日懲役1年2月に処せられ平成13年1月29日その刑の執行を受け終わったものである。
上記は,検察事務官作成の前科調書及び裁判官作成の各判決書謄本によって認められる。
(法令の適用)
被告人の所為 第1ないし第4につき毒物及び劇物取締法24条の3(なお第1の事実については平成13年法律第87号附則4条により改正前の同条項による),3条の3,同法施行令32条の2,第5につき刑法222条1項
刑種の選択 懲役刑
第1,第2につき5犯,第3ないし第5につき4犯加重
同法56条1項,57条,59条
併合罪加重 同法45条前段,47条本文,10条
最も重い第5の罪の刑に法定の加重
未決勾留日数の本刑算入 同法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項但書
(弁護人の主張に対する判断及び量刑について)
弁護人は,被告人は,本件脅迫事件の犯行時,「シンナー中毒等により異常な精神状態になっていたものであり,責任能力を欠く状態にあった可能性がある」と主張しているが,被告人は本件脅迫の10日ほど前の平成13年8月12日から同月18日までトルエン吸入による有機溶剤依存症によりB病院に入院し,さらに本件脅迫の前々日の8月22日に同症でCに入院し,23日に退院したものであるが,その時の各医師の診断では,各入院直後(本件脅迫時と類似する精神状態であったと考えられる),被告人はいずれも行為責任能力があったとされていること,また被告人は確かに所々に記憶の欠落はあるものの,被害者らの供述によると被告人は「起こしても起きないから火を点けてやる」と告げてその言葉に合う冷静な行動をとっていること等から判断すれば,確かにその動機にいささか飛躍があるので事理弁別の判断能力が劣っていたとは認められるものの,いまだ著しく劣っているとは認められず,いわんやその能力が全くなかったというものではなく,結局,被告人が犯行時に行為責任能力を有していたとみるべきである。
被告人は,これまで毒物及び劇物取締法違反の罪で罰金2回,懲役刑6回を受けて,いずれも服役し,さらにその後犯した窃盗の罪で服役し,本年1月刑の執行が終了した者であるが,何ら自重自戒することなく,再び本件に至ったものであって,本件ではあわや自宅に放火する寸前まで行ったもので,きわめて悪質というほかなく,被告人の責任は重い。
以上の諸点に照らし,被告人が反省をしていること,今度こそは強い意思を持って両親及び周囲の関係者の指示に従いしかるべき施設で治療する旨述べていること等諸般の情状も考慮し,被告人を懲役2年に処することとする。なお服役後,直ちにD入所を実現させて,同所で強い意思と自覚を持って,療養に専念するよう,強く希望する。
(裁判官 穴澤成巳)