秋田地方裁判所 平成14年(行ウ)7号 判決 2005年3月25日
原告
X1
(ほか10名)
同
X2株式会社
同代表者代表取締役
X1
原告
X3株式会社
同代表者代表取締役
X1
上記13名訴訟代理人弁護士
菊地修
同
狩野節子
被告
秋田市
同代表者市長
佐竹敬久
同訴訟代理人弁護士
大場民男
同
加藤堯
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(行政事件訴訟法10条1項により原告らの主張は制限されるか)について
まず、再区画整理地区の無減歩の取扱いが無効事由に当たるとして無効確認を求める場合については、行政事件訴訟法38条は、同法10条1項を無効等確認訴訟に準用していないことに加え、実質的にも、無効等確認訴訟は、重大かつ明白な違法があるために処分の無効を確認する訴訟類型であるから、同法10条1項の類推適用を認め、行政処分を無効とすべき重大かつ明白な違法があるのに、その違法の主張を自己の法律上の利益に関係しないとして主張させないということは、実体法上通用力を有しない処分の外形を維持する方向に作用する解釈論であり、法が無効等確認という訴訟類型を認めて取消訴訟よりも救済の枠を拡げた趣旨に反するというべきである。したがって、無効等確認訴訟においては、行政事件訴訟法10条1項による主張の制限はないというべきであって、被告の主張は採用できない。
これに対し、取消訴訟については、再区画整理地区の原告らは、仮換地7筆につき、無減歩の取扱いを受けており、このことによって格別不利益を受けているわけではないから、再区画整理地区において無減歩の取扱いがされていることは自己の法律上の利益に関係しないというべきであるから、行政事件訴訟法10条1項により、かかる主張をすることは許されないというべきである。
2 争点(2)(本件事業計画決定は違法か)について
上記争いのない事実等のとおり、本件事業により道路、駅前広場、公園といった公共施設が設置されるものとされているが、本件全証拠によっても、このことが本件施行地区全体の宅地の利用を阻害するものと認めるに足りない。
原告らは、本件事業が違法であると縷々主張するが、<1>上記の公共施設は公共の負担で設置すべきものであって、本件事業は、土地区画整理事業の本来の目的とは異なる目的のために脱法的に行われるものであるとする点は、土地区画整理事業が、収用によらず健全な市街地の形成等を目的とするものであることからすると、上記の公共施設の設置を目的とすること自体が土地区画整理事業の趣旨に反するものということはできないこと、<2>本件事業により整備される公共施設は、秋田市民全体又はJR秋田駅東部の住民のためのものであるとする点は、本件施行地区の宅地の利用の増進も図られ得るものであり、秋田市民全体が利益を受けることになるとしても、それは公共の福祉の増進を目指す土地区画整理事業の趣旨に整合するものであること、<3>再区画整理地区や新区画整理地区固有の事情についての主張は、そのこと自体が本件施行地区全体の宅地の利用の増進の有無を判断する事情にはならないこと、<4>NHK秋田放送局の移転用地を確保する目的があったとする点は、被告の所有地の利用方法の問題にすぎず、本件事業の違法性の有無の判断に影響しないものであることから、いずれも理由がない。
3 争点(3)(本件事業による公園用地の確保が過大か)について
上記争いのない事実等及び〔証拠略〕によれば、本件事業の施行前の公園面積は6528.00平方メートルで、本件施行地区全体の6.36パーセントを占めていたところ、本件事業により公園面積が8426.48平方メートルとなり、本件施行地区全体の8.21パーセントを占めることになることが認められるが、このような公園を設置することが全く必要のなかったものであることを裏付ける的確な証拠はない。
原告らは、本件は、施行規則9条6号本文が規定する公園面積を3パーセント未満とすることが許される場合である旨主張するが、原告らの主張によってもそれが許されるものにすぎず、必ずそうしなければならないものではないこと、また、同号ただし書は施行地区の大部分が工場用地等であるため公園が整備されなくても支障がない場合や公園の設置が困難であるためやむを得ないと認められる場合に限り適用されることを予定しているものと解すべきであるが、本件においてはそのような事情を証拠上認めることができない。
したがって、本件事業による公園の設置は施行規則9条6号に違反していないものであって、これに違反していることを前提とする土地区画整理法違反や憲法29条の違反の主張も理由がない。
4 争点(4)(本件の保留地指定処分は違法か)について
上記争いのない事実等のとおり、本件事業計画においては、保留地指定処分がされているが、原告らの主張は、駅前広場等の公共施設は公共の負担によるべきであること、再区画整理地区の地権者に対する移転費の支出が違法であることを前提とするものであるが、これらの事由が違法であるということはできないから、理由がない。
5 争点(5)(本件仮換地指定処分が照応の原則、公平の原則に違反するか)について
(1) 公平の原則違反について
上記争いのない事実等のとおり、新区画整理地区における原告らの所有地又は借地について、減歩が実施され、その平均減歩率は36.02パーセントであるのに対し、本件施行地区全体の平均減歩率は31.15パーセントであり、また、再区画整理地区については減歩がなく、減歩率の取扱いに差がある。
しかしながら、他方で、<1>上記争いのない事実等及び〔証拠略〕によれば、再区画整理地区は第一地区事業により区画整理され、その際、減歩がされていること、同事業完了後約15年しか経過していないことから、被告の仮換地を減らし、その分再区画整理地区について減歩しないことにしたことが認められ、殊更原告ら新区画整理地区の地権者の負担が増えたわけではないこと、<2>実質的にみても、原告らが主張するように被告が原告らに対しても一定割合の減歩分を負担するということは、結局、再区画整理地区の地権者の不公平感を解消するものにならず、地方公共団体である被告の財産を原告らに不当に譲渡することになり、逆に不公平な結論となるというべきであるから、再区画整理地区について減歩をしない特例措置に違法はないというべきである。なお、本件事業計画において、再区画整理地区について清算金を徴収しない措置がとられていることを認めるに足りる証拠はない。
また、再区画整理地区の建物の移転費用については、事業に関する費用として支出されるものであって、支出の相当性が問題となることはあっても、それ自体は、地権者間の仮換地の定め方の平等性についての公平の原則違反の問題とはならないというべきである。
(2) 照応の原則違反について
ア 上記争いのない事実等及び〔証拠略〕によれば、新区画整理地区の原告ら所有地については、別紙新区画整理地区減歩率表に記載のとおり減歩されており、その平均減歩率が36.02パーセントであること、別紙重ね図のとおり、その形状及び位置が変更されていることが認められる。
しかしながら、上記各証拠によれば、その従前地には、極めて不整形なもの、島地となっているもの、細分化されているものが多く、また、大部分が幅の広い道路に接していなかったこと、その仮換地は、四角形に整形されたものが多く、従前地が小さかったため仮換地が小さくなるものも集約されて一体利用が可能になっていること、すべての仮換地が都市計画道路又は区画道路に接道し、交通の便がよくなっていること、本件事業によりJR秋田駅東口が整備されていることからすると、仮換地の定め方が従前地と照応していないと認めることはできず、その他原告らの主張を裏付けるに足りる的確な証拠はない。
イ 原告らの主張のうち、登記簿地積をもとに算定することが違法であるとする点については、算定方法をどのようなものとするかは事業施行者である被告の合理的裁量に委ねられているというべきであって、登記簿地積によること自体がこの裁量に違反しているということはいえないから、採用できない。
また、原告らは、照応判断に当たり、JR秋田駅東口の自由通路の存在を前提とし、それと仮換地との距離を問題としているが、照応判断の基準時は、本件事業と無関係である状況変化がある場合を除き、区画整理事業の開始時であると解すべきであり、〔証拠略〕によれば、上記自由道路は、上位計画であるまちづくり整備事業のもとで設置され、本件事業とも関連の深いものであったことが認められるから、原告らの上記主張は採用できない。
次に、原告らは、2街区のうち、駅東線の底地や崖地として評価されていた点について、地代収入を得ていたことから、それを前提とした評価をすべき旨主張するが、傾斜があり高低差のある土地等については、宅地としての利用の増進を図るために盛土等を行って標準的な宅地とすることが必要となることや、従前地をどのように評価するかは、施行者である被告の合理的な裁量に委ねられているというべきであり、当時の客観的利用状況に照らして判断すること自体がその裁量を逸脱しているものということはできないことから、原告らの上記主張は採用できない。
さらに、原告らが、本件仮権利指定処分による原告乙が経営する有料駐車場に対する影響を指摘する点については、上記のとおり、本件事業により本件施行地区の状況が改善され、自動車の通行量が増加することも予想されることに照らすと、従前の有料駐車場の経営が阻害されるものと認めることはできない。
(3) 手形東通線の道路用地負担について
手形東通線にかかる道路用地を本件施行地区においてどの程度負担するかは、事業計画の合理的裁量の問題であって、このこと自体が照応の原則の問題になるものではないから、この点に関する原告らの主張は採用できない。
6 争点(6)(覚書の破棄が違法事由となるか)について
上記争いのない事実等のとおり、原告X1らと被告との間で、覚書が締結されているが、土地区画整理事業において、一部の地権者との合意により、減歩や清算金の取扱いを異にできるというのであれば、法89条が要求する照応の原則に違反し、同条の趣旨に反することになるから、かかる合意が存在することをもって土地区画整理事業の違法性の根拠とすることはできないというべきであるから、原告らの上記主張は採用できない。
第4 結論
以上検討したところによれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法65条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今泉秀和 裁判官 山本正道 岡村英郎)