秋田地方裁判所 平成15年(ワ)177号 判決 2004年9月16日
秋田県●●●
原告
●●●
上記訴訟代理人弁護士
江野栄
東京都●●●
被告
株式会社SFCG
上記代表者代表取締役
●●●
上記訴訟代理人弁護士
●●●
主文
1 被告は,原告に対し,金987万0077円及び内金924万0914円に対する平成15年1月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求の趣旨
被告は,原告に対し,①金988万3733円及び内金925万3618円に対する平成15年1月16日から支払済みまで年6分の割合による金員,②金90万円及びこれに対する平成15年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二事案の概要
一 本件は,貸金業者である被告との間で継続的に金銭消費貸借取引をしていた原告が,利息制限法所定の制限利率を超過する利息を支払っていたことを理由に,不当利得返還請求として過払金の返還を求めるとともに,被告が民法704条の悪意の受益者に該当することを理由として,同条所定の利息並びに同条尚書の損害として弁護士費用(請求の趣旨②記載の90万円)及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。被告は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)43条1項の適用を主張して原告の請求を争っている。
二 前提事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)
1 被告は,手形割引及び資金貸付等を業とする株式会社である。
2 基本契約の締結
(1) 平成10年6月30日,原告は主債務者として,訴外●●●は連帯保証人として,被告との間で以下の要旨の「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」(乙1)を作成した。
ア 根保証限度額(元本限度額) 600万円
イ 根保証期間 平成10年6月30日から5年間
ウ 根保証の範囲
本根保証契約締結日現在主債務者が被告に対して既に負担している債務及び上記根保証期間に発生する債務。尚,利息・損害金は承諾条項本文に従う。
(2) 平成13年10月17日,原告は,被告との間で元本限度額を600万円とする「金銭消費貸借・手形割引等継続取引並びに限度付根保証承諾書兼金銭消費貸借契約証書」(乙2)を作成した。
3 被告から原告への貸付
(1) 貸付年月日 平成5年3月1日(乙3)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成5年4月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成5年3月1日から同年4月5日までの36日間の利息2万8800円に諸費用を加算した3万6500円を天引した結果,96万3500円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(2) 貸付年月日 平成5年6月18日(乙4)
契約番号 ●●●
貸付金額 80万円
弁済期 平成5年8月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成5年6月18日から同年8月5日までの49日間の利息3万1360円に諸費用を加算した3万9260円を天引した結果,76万0740円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(3) 貸付年月日 平成5年7月6日(乙5)
契約番号 ●●●
貸付金額 50万円
弁済期 平成5年9月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成5年7月6日から同年9月5日までの62日間の利息2万4800円に諸費用を加算した3万0600円を天引した結果,46万9400円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(4) 貸付年月日 平成5年10月28日(乙6)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成6年1月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成5年10月28日から平成6年1月5日までの70日間の利息5万6000円に諸費用を加算した6万8700円を天引した結果,93万1300円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(5) 貸付年月日 平成7年7月21日(乙7)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成7年9月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成7年7月21日から同年9月5日までの47日間の利息3万7600円に諸費用を加算した4万7200円を天引した結果,95万2800円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(6) 貸付年月日 平成8年12月25日(乙8)
契約番号 ●●●
貸付金額 200万円
弁済期 平成9年2月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成8年12月25日から平成9年2月5日までの43日間の利息6万8800円に諸費用を加算した8万6700円を天引した結果,191万3300円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(7) 貸付年月日 平成9年3月17日(乙9)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成9年5月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成9年3月17日から同年5月5日までの50日間の利息4万円に諸費用を加算した5万円を天引した結果,95万円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(8) 貸付年月日 平成9年6月13日(乙10)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成9年8月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成9年6月13日から同年8月5日までの54日間の利息4万3200円に諸費用を加算した5万3800円を天引した結果,94万6200円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(9) 貸付年月日 平成9年9月11日(乙11)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成9年11月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成9年9月11日から同年11月5日までの56日間の利息4万4800円に諸費用を加算した5万5700円を天引した結果,94万4300円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(10) 貸付年月日 平成10年2月9日(乙12)
契約番号 ●●●
貸付金額 100万円
弁済期 平成10年4月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成10年2月9日から同年4月5日までの56日間の利息に諸費用を加算した5万5700円が天引された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(11) 貸付年月日 平成10年5月1日(乙13)
契約番号 ●●●
貸付金額 75万円
弁済期 平成10年7月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成10年5月1日から同年7月5日までの66日間の利息に諸費用を加算した4万8800円が天引された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(12) 貸付年月日 平成10年6月30日(乙14)
契約番号 ●●●
貸付金額 140万円
弁済期 平成10年8月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 元金の弁済期までの利息を貸付時に一括先払い
天引 平成10年6月30日から同年8月5日までの37日間の利息に諸費用を加算した5万2540円が天引された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(13) 貸付年月日 平成11年1月29日(乙15)
契約番号 ●●●
貸付金額 120万円
弁済期 平成11年8月5日
利息 日歩8銭
利息支払方法 平成11年4月5日までの利息を貸付時に一括先払い。平成11年4月から同年7月まで毎月5日限り翌月分の利息を支払う。
天引 平成11年1月29日から同年4月5日までの67日間の利息6万4320円に事務手数料1万4800を加算した7万9120円を天引した結果,112万0880円が原告に交付された。
遅延損害金 年40.004パーセント
(14) 貸付年月日 平成13年10月17日(乙17)
契約番号 ●●●
貸付金額 300万円
利息 年27.375パーセント
元金支払方法 平成13年12月から平成18年11月まで毎月5日限り5万円ずつ支払う。
利息支払方法 平成13年12月から平成18年11月まで毎月5日限り支払う。
天引 なし
4 弁済経過
原告は,別紙計算表「入金額」欄記載のとおり,被告に対して弁済した。なお,平成5年3月1日の3万6500円,同年6月18日の3万9260円,同年7月6日の3万0600円,同年10月28日の6万8700円,平成7年7月21日の4万7200円,平成8年12月25日の8万6700円,平成9年3月17日の5万円,同年6月13日の5万3800円,同年9月11日の5万5700円,平成10年2月9日の5万5700円,同年5月1日の4万8800円,同年6月30日の5万2540円及び平成11年1月29日の7万9120円の各入金は,いずれも天引によるものである。
三 争点
1 天引に法43条1項が適用されるか。
2 原告が行った弁済に法43条1項が適用されるか。
3 被告は民法704条の悪意の受益者に該当するか。
4 弁護士費用の支払義務の有無
第三判断
一 争点1について
1 法43条は,文言上,利息制限法1条1項の特則であり,同法2条の特則となっていない。また,天引をするか否か,そしてその額をいくらにするかについては,貸主が主導権を握っており,借主は事実上貸主の決定に従わざるを得ない状況にある。すなわち,借主が弁済する場面においては,約定利息を支払うか,利息制限法所定の制限利率に従って算出した利息を支払うかの選択肢を有しているのに対し,天引の場面においては,借主が貸主に対して利息制限法に従って算出した利息を超える部分の交付を要求する術はない。このように,天引は相殺と類似した機能を有しており,法43条1項の「任意に」「支払った」のいずれの要件にも該当しないというべきである。
2 もっとも,借主としては利息制限法所定の制限利率を超える利息の天引を条件とする貸付を受けない自由(換言すれば,そのような貸主とは契約を結ばない自由)があるから,天引にも法43条の適用を認めるべきだとの反論もあり得るところであるが,法43条1項の要件である任意性は,契約を締結するか否かが借主の自由に委ねられていることを指すわけではなく,契約を締結したことを前提として,契約に従って利息を支払うか,利息制限法に従って利息を支払うかの選択肢を有することを意味すると解すべきである。
したがって,利息制限法所定の制限利息を超える金員が利息(いわゆるみなし利息〔利息制限法3条〕を含む。)として控除された場合に,法43条1項を適用する余地はない。
二 争点2について
1 法18条1項は,貸金業者に対し,「弁済を受けたときは,その都度,直ちに」所定の受取証書を当該弁済者に交付することを要求している。
しかし,乙第20から第47号証,第49から第60号証,第62から第64号証は,いずれも弁済日から16日ないし22日後の日付で作成された受取証書であり(別紙受取証書日付一覧表参照。乙48及び61はそもそも受取証書に該当しない。),到底,上記「直ちに」の要件を満たすものとは認められない。
2 乙第20から第38号証の各「前回までのお取引明細」の箇所においては,「受取額(元本+利息+費用)」欄に一括して受領額が記載され,「(元本ご返済)」欄に元本充当額が記載されている。しかし,利息及び費用への各充当額が明示されていない。このような記載では,法18条1項4号の要件を満たすということはできない。
3 乙第39から第64号証の「前回までのお取引明細」の箇所の「受領額(元本+利息+費用)」欄においては「内費用」との標目の下に,乙第95から第113号証の「前回お取引のご報告」の箇所においては「手数料等」欄に,それぞれ費用ないし手数料(以下,両者併せて「費用等」という。)として充当された金額が記載されている。
しかし,原告が提出した借用証書(乙3から14)及び計算書(乙16から18)には,費用等の負担に関する記載がない。乙第2及び第15号証には,①契約書類等貼付印紙代,②公正証書作成・送達等公正証書に関する一切の費用,③不動産登記・抹消費用,④確定日付代金,⑤手形取立料,⑥謄本取得代を債務者が負担すべき旨の記載があるが,乙第39から第64号証及び第95から第113号証に記載された費用等が,これらのいずれかを指すのか否か全く明らかでない。弁済の都度,費用等が徴収されていること,利息と費用等の合計額の残元本に対する割合がほぼ一定していること(「実質年利」として表示されている割合は,概ね38.3パーセントか38.4パーセントである。)に照らせば,ここに掲げられている費用等は,何ら「費用」ないし「手数料」の実体がなく,元本利用の対価ないし原告の一般的な営業経費(特定の債権の管理とは結び付きのない費用)回収のための方便と推認される。
したがって,このような性格の金員を「費用」ないし「手数料」として掲げること自体欺瞞的であり,上記費用等の記載は実体を反映したものとはいえない。
4 乙第65から第94号証には弁済受領後にその充当関係を通知する記載がなく,他にこれがなされた形跡はない。事前の請求書ないし案内文書をもって,弁済受領後の受取証書の交付に代えることはできない。
5 上記1から4の説示を前提とすれば,少なくとも乙第19から第113号証は法18条1項の要件を満たすとは認められないから,これらに対応する弁済については,利息制限法所定の制限利率に従って充当計算をすることとなる。
そうすると,乙第116号証が送付された時点で,被告には利息制限法所定の制限利息を超えて受領した金員を返還すべき義務があったことは明らかであり,利息制限法所定の制限利率による引き直しの結果と「前回お取引のご報告」の記載内容が大きく齟齬しているから,乙第115から第129号証はおよそ原告と被告の間の継続的金銭消費貸借取引の実体を表示するものとはいえない。したがって,これらが法18条1項の要件を満たすとは認められない。
よって,原告がしたすべての弁済につき,利息制限法所定の制限利率に従った充当計算がなされるべきである。
三 争点3について
被告が民法704条の悪意の受益者か否かを検討するに,そもそも,本件における悪意とは,一定の事実認識を基礎として,当該事実を法43条1項に当てはめた上で,その要件を満たさないことを認識している場合は勿論のこと,貸金業者としての通常の知識をもってすれば,容易に法43条1項の要件が欠如していると認識し得べき事実関係を認識している場合をも含むと解すべきであるところ,上記二で指摘した,①弁済受領から受取証書発送までに2週間以上を要していること(乙20から47,49から60,62から64),②弁済受領後の充当関係の通知が欠如していること(乙65から94),③費用ないし手数料として金員を徴収する根拠が契約書面上明らかでなく,その使途も受取証書上記載されていないこと(乙39から113),④費用として徴収した金額が受取証書上明らかでないこと(乙20から38)等の不備は,いずれも容易に認識可能な事実である上,これらの事実を法18条1項所定の要件に当てはめて,同条項所定の要件が欠如しているとの判断をすることは,貸金業者であれば,さしたる困難を伴わないといえる。
そうすると,被告は,企業の方針として,契約内容を定型化した上で一定の書式の書面を用い,弁済受領から受取証書発送までの期間を定めていたと推認されるから,上記①から④の不備の性格に鑑みれば,被告は,企業として悪意の受益者であったと認められる。
四 争点4について
民法704条尚書の損害賠償義務の法的性質は不法行為と解されるところ,被告が裁判外で任意に過払金の返還請求に応じないことをもって,直ちに不法行為と評価することはできない。また,裁判外での過払金返還請求に応じないことが債務不履行にとどまらず,不法行為に該当すると評価できる特段の事情の主張立証はない。
したがって,弁護士費用相当額の請求は理由がない。
五 利息制限法所定の制限利率に従った引直し計算の方法について
1(1) 乙第1及び第2号証並びに原被告間の取引経過に加え,借用証書(乙3から14)には「本日現在総融資残高」が記載されていること及び複数の契約番号が付されていても弁済日は同一であること等の事情によれば,原被告間の取引は,基本契約に基づき継続的に貸付とその返済が繰り返される金銭消費貸借取引であると認められる。
(2) 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付とその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち利息制限法による制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。また,利息制限法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
(3) したがって,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
(4) なお,過払金が発生した時点において,他の借入金債務が存在しない場合であっても,その後に同一の基本契約に包摂される貸付がなされた場合は,上記(3)と同様にその貸付に直ちに充当されると解するのが相当である。借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常であることは,この場合にも妥当する上,貸主としても,過払金を保持したまま,自らの過払金返還債務と貸金債権を敢えて併存させておく合理的理由がないからである(過払金の存在を認識すれば,それを速やかに解消しようとするのが,貸主としての合理的行動といえる。)。
2 天引の処理について
(1) 利息が天引により前払いされている期間(以下「天引期間」という。)中に,弁済がなされた場合,利用可能元本を基準とすれば,貸付当初に利息制限法所定の制限利率に従って計算された天引期間の利息の保持をそのまま許容してしまうと,利息制限法所定の制限利息を超える利息の保持を債権者に許すことになる。
(2) 例を挙げれば,弁済期を1年後とする100万円の貸付で,弁済期までの利息として20万円が天引された場合,借主は,弁済期に94万4000円を弁済すべき義務を負っている。このような貸付において,借主が半年後に50万円を弁済した場合,貸主に期限の利益を認めるとすれば,借主は弁済期に残額44万4000円を支払わなければならない。
(3) これに対し,現実に利用可能な元本額を基準にして支払総額を計算すれば,
800,000×1.09-500,000=372,000(半年後の残元本)
372,000×1.09=405,480(弁済期に支払うべき残額)
というように,天引利息をそのまま保持することを許容する場合よりも,支払総額は減少する。
(4) この点,上記1(2)で説示したとおり,利息制限法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする同法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,天引期間中の利息を既に受領している債権者が,天引期間中に弁済を受領した場合にも,天引額をそのまま保持できるとの期待は法的保護に値しないと解される。
そうすると,計算上は,現実交付額の金銭消費貸借契約が締結され,弁済時に経過利息を支払う場合と結果は同じになる(但し,上記(2)の例において何ら弁済のないままに弁済期を経過した場合,94万4000円に対して利息ないし遅延損害金が生じる点が,単なる80万円の貸付と異なる点である。)。
3 過払金に付すべき利息の利率について
民法704条の利息の趣旨は,単に法律上の原因なく移転した財貨の返還のみならず,同財貨を利用して生み出された収益をも返還させることによって,法律上の原因のない利得から得られた収益を悪意の受益者の手許に残さないことにあると解されるから,本件のごとく,受益者が商人であり,不当利得の原因たる行為が商行為である場合には,商事法定利率を適用するのが相当である。
4 適用される制限利率
原被告間の取引が同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引であることに鑑み,以下のとおり制限利率を適用する。
(1) 上記第二の二3(1)記載の貸付(以下「貸付(1)」という。同(2)以下記載の貸付についても同様に称する。)においては,平成5年3月1日に96万3500円が交付されたので,天引期間中(同年4月5日まで)については,年18パーセントを適用する。天引期間経過後貸付(2)までの期間は,契約上の元本(100万円)を基準として,年15パーセントを適用する。
(2) 平成5年6月18日に76万0740円が交付されたが,同交付金額と同日における既存貸付の残元本62万9315円とを合算すると100万円以上となるので,平成5年6月18日以降貸付(3)までの期間は,年15パーセントを適用する。
(3) 上記(2)と同様の理由に基づき,貸付(3)から貸付(9)までの期間は,年15パーセントを適用する。
(4) 貸付(9)において交付された金額は100万円未満であり,同貸付がなされた当時,既存貸付の残高は存在しなかったのであるから,貸付(9)の天引期間中(平成9年11月5日まで)については,年18パーセントを適用し,天引期間経過後貸付(10)までの期間は,貸付(9)の契約上の元本(100万円)を基準として,年15パーセントを適用する。
(5) 上記(4)と同様の理由により,貸付(10)の天引期間中(平成10年4月5日)については,年18パーセントを適用し,天引期間経過後貸付(11)までの期間は,貸付(10)の契約上の元本(100万円)を基準として,年15パーセントを適用する。
(6) 貸付(11)は契約上の元本が100万円未満であり,かつ,同貸付当時,既存貸付の残高は存在しなかったのであるから,貸付(12)までの期間については,年18パーセントを適用する。
(7) 貸付(12)において交付された金額は100万円以上であるから,同貸付以降貸付(13)までの期間については,年15パーセントを適用する。なお,貸付(12)当時の過払金を同貸付に充当すれば元本が100万円未満となるが,これは弁済や相殺で元本が減少した場合と同視できるから,制限利率適用の基準を左右するものではない。同様の理由により,貸付(13)以降についても年15パーセントを適用する。
5 以上の認定説示に基づき,原被告間の取引に利息制限法所定の制限利率を適用して引直し計算をすると,別紙計算表記載のとおり,平成15年1月16日における過払金合計は924万0914円,過払金に対する未払利息合計は62万9163円となる。
6 別紙計算表についての補足説明
(1) 「過払金に対する利息」欄記載の金額は,当該取引日における取引がなされる直前の未払過払金利息の累計であり,直前の取引日における過払金に対する経過利息に,直前の取引日における未払過払金利息を加えたものである。
「未払過払金利息」欄記載の金額は,当該取引日における取引終了直後の未払過払金利息額である。
(2) 「入金合計」欄記載の金額は,当該取引日の「入金額」及び「過払金に対する利息」に直前の取引日における「過払金」を加算したものである。
(3) 「経過利息」欄記載の金額は,直前の取引日における残元本に対する経過利息である。
(4) 「利息合計」欄記載の金額は,「経過利息」と直前の取引日における未払利息の合計である。
第四結論
以上によれば,原告の請求は,987万0077円及び内金924万0914円に対する平成15年1月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払いを求める限度において理由があるが,その余の請求は理由がない。
よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 山本正道)
<以下省略>