大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 平成17年(ワ)249号 判決 2007年8月30日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3争点に対する判断

1  争点(1)(本件訴えの適法性)について

〔証拠省略〕によれば、原告は、本件直接施行に係る損失の補償裁決申請事件(施行者が被告、被補償者が原告)においても、本件直接施行の違法性及び損失額につき、本件訴訟と概ね同様の主張を行っていたこと、本件裁決においては上記違法性についての原告の主張がいずれも排斥されたことが認められる(なお、原告は、本件裁決後、これに対する不服申立ての方法としての土地収用法133条に基づく損失補償に関する訴えを提起していない。)。

そうすると、本件訴訟において本案判決をすれば、同一の当事者間における争点を共通とする紛争について、別の手続で重複した判断を行うことになることは否定できない。

しかしながら、本件訴えは、訴訟物を民法709条又は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権とする通常の民事訴訟であるところ、このような民事訴訟を土地収用法133条の訴えと別途に提起できないことを定めた規定はない。

そうすると、裁決を経て被告によって現実に原告に損失補償がなされた場合、それが本件訴訟の訴訟物について損害の填補と解される場合があることは別として、本件訴訟提起自体が不適法なものとして却下される理由はないというべきである。

2  争点(2)(本件直接施行の違法性)について

(1)  基準法違反の有無

ア  原告は、本件建物は私人が所有するものであるから基準法18条1項に定める「建築主事を置く市町村の建築物」に該当しない旨主張する。

しかしながら、上記規定は、建築主事を置く市等が、建築行政を執行する機関であることから、手続等の一定事項に限り、通常の建築とは別の取扱いをしたものであり、このような立法趣旨にかんがみれば、上記機関が所有権を有しなくても、管理又は占有する建築物にも適用があると解される。被告は、本件直接施行の際、本件建物を管理又は占有していたのであるから、基準法18条1項が適用されるというべきである。

もっとも、基準法が国民の生命等の保護を図るために建築物の構造等に関する最低基準を定めるものであることからすると、本件直接施行によって本件建物が上記最低基準を下回ることは同法の趣旨に反するものであることは明らかであるから、本件直接施行に上記条項の適用があるからといって、被告が本件直接施行に当たって本件建物の安全性を考慮しなくてよいことにはならない。本件直接施行にも基準法の実体規定の適用があるとの原告主張も、その趣旨をいう限度においては正当である。しかしながら、実質的に同法の定める安全性を備える限り、建築確認申請の際に構造計算書の添付といった手続を踏むかどうかは、本件直接施行の違法性についての判断を左右するものではない。

イ  原告は、建築主事が、本件建物自体は基準法に適合するのに、建築物でない本件物置に不適合があることを理由に本件建物まで一体として検査済証を交付しないことが違法であると主張する。

しかしながら、〔証拠省略〕によれば、本件物置は、屋根、壁、窓及び扉を有し、人が出入りすることを予定したものであることが認められ、国民の生命等の保護という基準法の趣旨からすると、基礎等によって土地に緊結されていなくても、その物の使用上、経常的に土地に定着していれば足りると解されるから、本件物置が基準法上の建築物に当たることは明らかである。

また、上記のような基準法の趣旨からすれば、検査等の建築規制についても、用途上不可分の関係にある複数の建築物のある一団の土地を単位として適用されると解される(同法施行令1条1号の「敷地」参照)。そして、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、従前地(2筆の土地)においては、2筆の土地の境界を明確にするブロック塀などの工作物が設置されておらず、境界を跨いで駐車場の白線が引かれていたこと、車両及び人が往来していたこと、喫茶店の利用者と月極駐車場の利用者はそれぞれの宅地の出入口を分け隔てなく利用していたこと、本件物置には喫茶店営業に関する物品が保管されていたこと、喫茶店の上下水道管、電気通信設備等の埋設物が他方の土地の下に存在していたことが認められ、これらの事実関係からすると、本件建物等は、用途上不可分の関係にあったことは明らかというべきである。したがって、建築主事が、本件物置の基準法不適合を理由として、本件建物を含む仮換地及びその上の建築物全体について検査済証の交付を行わなかったことは、基準法上違法ではない。

そうすると、原告の上記主張は理由がないというべきである。

ウ  原告は、本件直接施行の主体である被告が本件物置の基準法不適合を除去する義務があるのにこれを怠っている旨主張する。

しかしながら、前提事実によれば、本件物置の基準法不適合の状態は、従前地にあった時点で既に発生していたのであるから、本件直接施行があったからといって被告が上記違法状態を除去する義務を負う理由はないというべきである。

エ  原告は、上記以外にも、本件直接施行における基準法違反の事由を縷々主張するが、前提事実によれば、建築主事が検査済証を交付しない理由とするところは、もっぱら本件物置の基準法不適合なのであって、それ以外の理由によって検査済証が交付されてないという事実は認められない。

原告は、本件直接施行が基準法に違反するものであり、本件建物を使用できなくなった(基準法7条の6)ことによる損害を被った旨主張するのであるから、仮に、本件直接施行の過程において、原告が主張するような基準法違反があったとしても、そのような瑕疵によって本件建物の使用が制限されているわけではない。

(2)  原告は、本件建物を使用できなくなった理由として、検査済証の不交付以外にも、本件建物及び敷地の強度の不安を主張する。

しかしながら、〔証拠省略〕によれば、被告は、本件直接施行に際し、仮換地のボーリング調査等を踏まえ、本件建物の柱や地盤の強度にも問題がないように配慮して本件直接施行を行ったことが推認され、この認定に反する証拠はない。

(3)  原告は、仮換地の形状や同土地上の本件建物の位置を理由に、本件建物が喫茶店としての機能を失った旨の主張をする。

しかしながら、〔証拠省略〕によっても、原告が主張するように従前地における本件建物と仮換地における本件建物とで、喫茶店の営業上、有意の差があることを認めるに足りないし、原告が喫茶店の営業を再開できない原因は、喫茶店の物品の保管にも利用され、本件建物と用途上不可分の関係にある本件物置の基準法不適合を自らの判断で解消しないことにあるのであるから、原告の上記主張も理由がないものというべきである。

3  結論

以上の次第であるから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例