秋田地方裁判所 平成23年(行ウ)6号 判決 2014年10月31日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
原告
X5
原告ら訴訟代理人弁護士
上条貞夫
同上
山内滿
同上
狩野節子
同上
冨田大
同上
有働悠一
同上
島田美佐都
被告
北秋田市
同代表者市長
A
同訴訟代理人弁護士
木元愼一
主文
1 本件訴えのうち、原告らを被告職員として任用することの義務付けを求める部分をいずれも却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(1) 主位的請求
原告らが、被告に対し、一般職地方公務員として雇用契約上の権利を有する地位があることを確認する。
(2) 予備的請求
北秋田市長は、原告らを平成23年4月1日付で北秋田市職員として任用せよ。
2 被告は、原告X3に対し、平成23年4月から毎月21日限り39万3900円、原告X2に対し、同月から毎月21日限り35万8760円、原告X5に対し、同月から毎月21日限り36万8560円、原告X1に対し、同月から毎月21日限り33万4560円、原告X4に対し、同月から毎月21日限り31万5800円をそれぞれ支払え。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ500万円及びこれに対する平成23年4月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 本件の事案の概要
(1) 原告らは、被告及びa村により組織された一部事務組合である北秋田市b病院組合(以下「本件病院組合」という。)が設置運営する公立c病院(以下「c病院」という。)に勤務する地方公務員であったところ、本件病院組合が平成23年3月31日に解散するのに伴って、本件病院組合の管理者によって、分限免職処分(以下「本件処分」という。)を受けた。
そこで、原告らは、本件病院組合の解散に伴ってc病院の事業を承継した被告に対し、①(ア)主位的には、一部事務組合が解散した場合には、これを承継した地方公共団体に一部事務組合の職員の地位が当然に承継される、あるいは一部事務組合が解散した場合にはこれを承継する地方公共団体に一部事務組合の職員を採用する義務が生じるなどとして、雇用契約上の地位確認を、(イ)予備的には、被告の市長において原告らを任用しないことは被告の市長の有する裁量権の濫用となるものであって、原告らには重大な損害が生ずるおそれがあり、他に適当な方法がないなどと主張して、任用の義務付けを求めるとともに、②未払給与の支払を認めるものである。
さらに、原告らは、本件病院組合の管理者兼被告の市長が被告において原告らを任用する旨約束していたことに加え、本件処分に当たって本件病院組合の管理者及び被告の市長には本件処分を回避すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったため、本件処分は違法であるとして、被告に対し、国家賠償法1条に基づき、各自慰謝料500万円の支払を求めるものである。
(2) なお、原告らその他の本件病院組合の職員は、本件処分がされるに際し、本件病院組合を被告として当庁に、本件処分の差止め等の訴えを提起したところ、当庁は、平成23年3月11日、原告らその他の本件病院組合の職員の差止め請求をいずれも棄却するなどした。これに対し、原告らは、本件病院組合の解散前の同月24日、上記判決に対し控訴したところ(なお、本件病院組合の管理者が同月31日付けで本件処分をしたことから、原告らは、上記差止めの訴えを本件処分の取消しの訴えへと交換的に変更した。)、仙台高等裁判所秋田支部は、平成25年7月31日、原告らの訴えをいずれも却下した。
2 前提となる事実(当事者間に争いがないか、証拠<省略>及び後掲各証拠<省略>によって容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 本件病院組合は、地方自治法284条2項に基づき、被告及びa村で組織された一部事務組合であり、秋田県内の○○、△△地域の医療を担うc病院の設置及び管理運営に関する事務を行う特別地方公共団体であった。なお、本件病院組合は、当初、○○町、△△町、□□町、◎◎町(以下、これらの4町を「旧4町」という。)とa村で組織された一部事務組合(当時の名称は○○町外四カ町村病院組合)であったが、後記のとおり、平成17年3月22日に旧4町が合併して被告が成立したため、被告とa村で組織された一部事務組合となったものである。
本件病院組合の管理者は、被告の市長の充て職とされていたところ、平成17年4月から平成21年4月までは、B(以下「B」という。)がその職を務めていたが、その後は、後記のとおり、平成23年3月31日に本件病院組合が解散するまで、C(以下「C」という。)がその職を務めていた(以下においては、Bを指して本件病院組合の前の管理者あるいは被告の前の市長ということがある。証拠<省略>)。
イ 原告らは、本件病院組合の管理者により任用され、後記のとおり、本件処分を受けるまで、一般職の地方公務員としてc病院に勤務していた者である。
ウ 被告は、普通地方公共団体であり、被告の市長(C)は、被告の職員の任命権者である。
(2) c病院をめぐっての旧4町の合併に至る経緯(証拠<省略>)
ア 旧4町においては、平成15年頃から合併協議会が開催され、旧4町が取り扱う事務その他の事項についての協議が行われていた。その中で、本件病院組合が設置及び管理運営するc病院については、当初は旧4町が合併する前日までに解散して、被告がc病院の事務を引き継ぐ予定で協議が行われていたが、c病院には恒常的に累積欠損が存在し、合併協議会開催時においてその額が約20億円に達していたこともあり、旧4町とa村との間で、c病院の資産配分や今後の資金拠出等の条件で折合いが付かなかった。そのため、合併協議会においては、c病院に関しては、旧4町の合併時にも本件病院組合を被告とa村で組織される一部事務組合として存続させることとした。その上で、今後の旧4町及びa村における病院事業としては、既存のd病院、北秋田市立e病院及びc病院の3病院(以下「既存3病院」という。)を統合して新病院(後のf市民病院を指す。)を開設することとし、新病院は地方自治法244条の2第3項に基づいて秋田県厚生農業協同組合連合会(以下「JA秋田厚生連」という。)が指定管理者として管理を行ういわゆる公設民営の病院とすること、既存3病院の職員については、新病院や既存病院、診療所に振り分けたり、今後何らかの医療の拡大策を採ったりするなどして、その身分保障を検討する必要があることなどが協議された。
イ 平成16年10月19日、旧4町は合併協定書(証拠<省略>)を作成した。合併協定書では、合併協議会での議論のとおり、本件病院組合については、新設される被告とa村で組織される一部事務組合とすることが定められた。また、病院事業に関し、地域医療体制の充実を図るため、新病院の建設及び既存病院の形態については、新市(被告)において事業計画を策定するものとされた。
平成16年11月2日、旧4町とa村は、新市(被告)の発足後も平成21年3月31日まで本件病院組合を存続させること、c病院の経営健全化について旧4町とa村が努力することを内容とする「4町合併に伴う一部事務組合に関する合意書」(以下「合意書」という。証拠<省略>)を締結した。
ウ 以上のような協議等がされた後、平成17年3月22日、旧4町は合併し、北秋田市(被告)が誕生した。
(3) 新病院及びc病院をめぐる各種計画等
ア 合併により被告が誕生した後、被告及びa村においては、c病院を含む既存3病院につき様々な議論がされたところ、まず、被告は、平成17年4月、「北秋田市病院事業基本計画」(以下「基本計画」という。証拠<省略>)を草稿した後、これと実質的に体裁及び内容が同じである「北秋田市病院事業基本構想」(以下「病院事業基本構想」という。乙5)を策定した。「基本計画」及び「病院事業基本構想」には、既存3病院の統合により新設される新病院の職員構成は、既存3病院の職員をもって構成すること、その新設は平成21年4月1日を予定していること、既存3病院の統合によりc病院に残る職員は50人とし、127人の余剰人員については、既存3病院と新市(被告)組織内において再配置すること、c病院から新病院に移る職員については整理退職あるいは公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(以下「公務員派遣法」という。)によることとし、その選択は職員が決定するものとすることなどが記載されていた。
イ その後、上記のような病院事業をより具体化するものとして、被告は、平成17年9月、北秋田市医療整備基本構想(以下「医療整備基本構想」という。証拠<省略>)を策定した。「医療整備基本構想」は、基本的には「病院事業基本構想」に依拠しつつ、さらに詳細に検討したものであり、その概要として、既存3病院を統合して新たにf市民病院を設立するが、その運営はJA秋田厚生連が行うこと、c病院は北秋田市立c病院とした上で、一般病棟、結核病棟、感染症病棟、精神科病棟を廃止するとともに外来機能も縮小すること、北秋田市立c病院においては外来機能の一環として居宅介護サービス事業の拡充を図るほか、介護老人保健施設50床を併設することなどが含まれていた。
ウ さらに、被告は、平成19年1月、北秋田市公的医療機関再編整備計画(証拠<省略>)、同年6月、北秋田市医療整備基本構想概要(変更点及び現在の計画)(証拠<省略>)を策定するなどし、新病院の開設に向けた検討を進めた。
(4) f市民病院の開設等
上記のような計画等を踏まえ、被告は、新病院の指定管理者として予定されていたJA秋田厚生連との間で、病院の運営に係る基本協定の締結へ向けての協議を進めた。しかしながら、その協議は、医師の確保や損失の負担その他の事項において難航し、平成21年10月1日、ようやく新病院の運営に係る基本協定が締結されるに至り、平成22年4月、f市民病院が開設された(証拠<省略>)。
(5) 本件病院組合の解散及び本件処分に至る経緯等(証拠<省略>)
ア 平成20年3月、a村は、被告に対し、「合意書」で合意されたc病院の経営健全化が進まず、一部事務組合の構成団体の負担金が増加しており、これ以上の本件病院組合への財政支出は困難であるとして、同月末をもって本件病院組合から離脱したいとの申入れをした。
そこで、被告とa村が協議をした結果、本件病院組合を一部事務組合として継続する期間を平成23年3月31日までとすることとした。また、被告とa村は、本件病院組合の解散に当たって、地方自治法289条に基づき、本件病院組合の解散に伴う財産処分を協議し、具体的には、本件病院組合の有する固定資産、企業債を全て被告に帰属させること、平成23年4月1日以降に発生する本件病院組合に関する事務及び経費については被告が承継して負担することを取り決めた。その上で、平成22年12月17日、これらの取決めは北秋田市議会及びa村議会でそれぞれ議決された。
イ その後、平成22年12月22日、本件病院組合の管理者は、c病院職員説明会において、本件病院組合の職員に対し、平成23年3月31日をもって本件病院組合が解散することを踏まえ、解散時に本件病院組合の職員全員について分限免職処分をすること、解散後に北秋田市立c病院として市立病院化する予定であったc病院については、予定よりさらに規模を縮小して、無床のg診療所とすることを表明した。そして、平成23年1月18日には、同年4月1日以降に被告が事務を承継するc病院をg診療所とする旨の条例が議決された(証拠<省略>)。
(6) 本件処分
本件病院組合は、被告とa村の取決めどおり、平成23年3月31日をもって解散した。そのため、本件病院組合の管理者であるCは、地方公務員法28条1項4号にいう「職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」に当たるとして、原告らを含むc病院の職員全員に対して、同日付けで分限免職処分をした。
(7) 関連訴訟
ア 当庁平成22年(行ウ)第2号、同第4号、平成23年(行ウ)第2号及び同第4号分限免職処分差止め請求事件(証拠<省略>)
原告らその他の本件病院組合の職員は、本件処分がされるに際し、本件病院組合に対し、本件処分は本件病院組合の管理者の裁量権を濫用するものであり、本件処分により原告らその他の本件病院組合の職員の地方公務員の職員の地位が失われるという重大な損害が生じるおそれがあるとして、本件処分の差止め等を求めたところ、当庁は、平成23年3月11日、要旨、一部事務組合である本件病院組合が解散すると法人格は当然に消滅し、本件病院組合において職員が行うべき職は存在しないことになる上、本件病院組合の職員の地位が被告に承継されると解することは困難であり、また、本件病院組合の管理者が本件処分を行うことに裁量権の濫用があると認めることもできないなどとして、原告らその他の本件病院組合の職員の差止め請求をいずれも棄却するなどした。
イ 仙台高等裁判所秋田支部平成23(行コ)第1号分限免職処分差止め請求控訴事件(証拠<省略>)
原告らは、本件病院組合の解散前の平成23年3月24日、上記アの判決に対し控訴した。その後、本件病院組合の管理者が同月31日付けで本件処分をしたことから、原告らは、上記差止めの訴えを本件処分の取消しの訴えへと交換的に変更したところ、仙台高等裁判所秋田支部は、平成25年7月31日、要旨、本件処分が取り消されたとしても、本件病院組合が解散したことから、原告らが職員としての地位を回復する可能性はなくなった上、他に原告らには回復可能な法律上の利益もないなどとして、原告らの訴えをいずれも却下した。
3 当事者の主張の骨子及び本件の争点
(1) 当事者の主張の骨子
ア 地位確認等について
(ア) まず、原告らは、本件病院組合は平成23年3月31日に解散したが、一部事務組合が解散した場合には、その事務を承継した地方公共団体に一部事務組合の職員の地位が当然に承継され(原告らにおいては、このような考え方を「自動承継論」と表現している。)、あるいは一部事務組合が解散した場合には、その事務を承継した地方公共団体にはその職員を採用する義務があるなどとして(原告らにおいては、このような考え方を「実質的身分承継論」と表現している。)、被告に対し、一般地方公務員として雇用契約上の権利を有する地位があることの確認のほか、未払給与の支払を求めている。
これに対し、被告は、一部事務組合が解散した場合に当然にその職員の地位が地方公共団体に承継されるべき根拠などなく、また地方公共団体の長には、職員の任用に裁量権があるからその職員を任用する義務などないとして、原告らの主張を争っている。
(イ) 次に、原告らは、平成23年3月31日付けで分限免職処分とされたところ、仮に、上記(ア)の自動承継論あるいは実質的身分承継論が認められないとしても、要旨、①被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において原告らを雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、その後被告の市長(C)は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にしたこと、②被告の市長は本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったことを理由に、被告の市長が本件病院組合の解散後に原告らを任用しないことは裁量権の濫用に当たり、原告らには重大な損害が生じているほか、これを避けるために他に適当な方法がないとして、被告の市長が原告らを平成23年4月1日付けで被告の職員として任用するよう、行政事件訴訟法37条の2に基づき、その旨の義務付けを求め、また未払給与の支払を求めている。
これに対し、被告は、原告らには、本件の義務付けの訴えの原告適格がない旨主張するとともに(行政事件訴訟法37条の2第3項参照)、要旨、①原告らと被告の市長との間には本件病院組合の解散後に原告らを雇用承継する約束などなかったこと、また②そもそも被告の市長において、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務などない上、実際にも本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを被告において任用することなどできなかったことを理由に、被告の市長が本件病院組合の解散後に原告らを採用しないことは、その裁量権を濫用するものではないほか、原告らの訴えには義務付け訴訟の要件(行政事件訴訟法37条の2第1項参照)を欠くなどと反論する。
イ 国家賠償について
(ア) 原告らは、要旨、①被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、その後被告の市長(C)は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にしたこと、②本件病院組合の管理者及び被告の市長が本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったことは違法であるとして、被告に対し、国家賠償法1条に基づき慰謝料の支払を求めている(なお、解散した本件病院組合の事務は被告が承継したことから、上記②のうち本件病院組合の管理者の違法行為に基づく損害賠償請求についても、被告に対して行うものである。)。
(イ) これに対し、被告らは、要旨、①原告らと被告の市長との間には本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかったこと、また②本件病院組合の管理者は、本件病院組合が解散する以上、回避措置を検討し得なかったほか、そもそも被告の市長においては、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務などない上、実際にも本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを任用することなどできなかったことを理由に、本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には何ら違法性がない旨反論する。
(2) 本件の争点
以上のことからすれば、本件の争点は、以下のとおりである。
ア 一部事務組合が解散した場合、当該組合の職員はその事務を承継する地方公共団体の職員としての地位を当然に取得し、あるいは当該地方公共団体は当該職員を当然に採用ないし任用する義務を負うか否か(争点1)。
イ 義務付けの訴えの可否(争点2)
(ア) 原告適格の有無(争点2-1)
(イ) 原告らに重大な損害が生じるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないといえるか否か(争点2-2)。
(ウ) 被告の市長が原告らを任用しないことは、その裁量権を濫用するものであるか否か(争点2-3)。
ウ 国家賠償責任の有無(争点3)
(ア) 本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められるか否か(争点3-1)。
(イ) 損害の有無及びその額(争点3-2)
4 当事者の具体的主張
当事者の具体的主張は、別紙「当事者の具体的主張」に記載のとおりである。
第3当裁判所の判断
1 争点1(一部事務組合が解散した場合、当該組合の職員はその事務を承継する地方公共団体の職員としての地位を当然に取得し、あるいは当該地方公共団体は当該職員を当然に採用ないし任用する義務を負うか否か。)について
一部事務組合は、特別地方公共団体として、これを組織する地方公共団体とは独立の法人格を有し(地方自治法1条の3第3項、2条1項、284条1項)、法令に特別の定めがあるものを除くほかは普通地方公共団体に関する規定が準用され、独自の議会と執行機関を有するものである(同法287条1項、292条参照)。そして、一部事務組合の職員は、一部事務組合を組織する地方公共団体の職員と兼ねることができるものの(同法287条2項)、一部事務組合の管理者がその任命権に基づき独自に採用するものであって(地方公務員法6条1項)、一部事務組合の職員について、何らの措置なく、当然に一部事務組合を組織する地方公共団体の職員になり得るような法令上の根拠は見当たらない。
また同様に、一部事務組合の解散に伴い、これを組織する地方公共団体の一つがその事務を承継する場合においても、事務を承継した地方公共団体に対し、一部事務組合の管理者が独自の任命権に基づき任用した職員を例外なく採用することを義務付ける法令上の根拠も見当たらない。
殊に、地方公共団体の職員の任用は、地方公共団体と職員との間の固有の身分関係の設定であり、専属的な性質を有するものと解されるものであって、一部事務組合に任用された職員の地位は、一部事務組合の管理者の補助機関(地方自治法292条、第2編第7章、172条)となるための固有の公法上の任用関係により生じたものであるから、法律に特別の定めがない限り、任用関係の主体が消滅したときに、当然に他の任用関係に承継されると解することは困難であり、また、同様に、任用関係の主体が消滅したときに、当然に他の任用関係の主体が例外なく職員を採用する義務を負うものと積極的に解釈することも困難である。
したがって、一部事務組合が解散された場合、当該組合の職員はこれを承継する地方公共団体の職員としての地位を当然に取得することはなく、あるいは当該地方公共団体は当該職員を当然に採用する義務を負うものではないというべきである。
よって、この点を理由とする原告らの地位確認の請求には理由がない。
2 争点2(義務付けの訴えの可否)について
(1) 争点2-1(原告適格の有無)について
ア 原告らが求める本件の義務付けの訴えは、いわゆる非申請型の義務付けの訴えに該当するものである(行政事件訴訟法3条6項1号)。そして、非申請型の義務付けの訴えの原告適格について規定する同法37条の2第3項にいう行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうところ、そもそも本件において原告らが求める職員の任用は、地方公共団体と職員との間の固有の勤務関係の設定であり、専属的な性質を有するものであり、地方公共団体における職員の任用は、当該地方公共団体の市長その他の任命権者が、その裁量のもと固有の権限としての任命権を行使して行うものである。したがって、何人も、地方公共団体の任命権者に任用され、当該地方公共団体と固有の勤務関係を設定することにつき、法律上の利益を有していると解することは困難であると言わざるを得ない。
イ この点、分限免職により本件病院組合の職員としての地位を失ったからといってかかる法律上の利益があるとはいい難いが、原告らが争点1において主張するとおり、一部事務組合が解散した場合、当該組合の職員はその事務を承継する地方公共団体の職員としての地位を当然に取得し、あるいは当該地方公共団体は当該職員を当然に任用する義務を負うものと解される場合には、本件病院組合の職員であった原告らには、本件義務付けの訴えの原告適格が認められ得るものと解される。しかし、上記1で説示したとおり、上記原告らの主張は採用できないから、上記原告らの主張を理由に、原告らが本件義務付けの訴えの法律上の利益を有する者と解することもできない。
また、本件においては、一部事務組合である本件病院組合との間で固有の勤務関係を有していた原告らが、本件病院組合を組織していた地方公共団体である被告との間で、改めて固有の勤務関係の設定を求めるものであるものの、本件病院組合の任命権者は、被告の市長の充て職とされ、その任命権者は実質的には同一であったところである。しかしながら、一部事務組合とこれを組織する地方公共団体とは、上記1で説示したとおり、別個の法人格を有するものであることに変わりはなく、また職員の任用に当たっては別途任用行為の介在が不可欠であって、その任用は任命権者の固有の権限に基づくものであることに何ら変わりがないことからすれば、上記のような事情をもってしても、直ちに本件の原告らが、法律上の利益を有する者と解することもできず、本件においては、他に原告らを法律上の利益を有する者と解すべき事情もうかがえない。
ウ したがって、本件の義務付けの訴えについて、原告らは原告適格を欠くものというべきである。
(2) 争点2(義務付けの訴えの可否)についての結論
以上のことからすれば、本件の義務付けの訴えについては、その余の争点を判断するまでもなく、却下すべきものとなる。
3 争点3(国家賠償責任の有無)のうち、争点3-1(本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められるか否か。)について
(1) 原告らは、概要、①被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において原告らを雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、被告の市長(C)は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にした上、②本件病院組合の管理者及び被告の市長は本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったのであるから、本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められる旨主張するので、以下順に検討する。
(2) ①雇用承継の約束の反故について
ア 上記のとおり、地方公共団体における職員の任用は任命権者の固有の権限に基づき行われるものであって、何人も地方公共団体の任命権者に任命されることについて法律上の利益を有しているわけではない。しかし、地方公共団体の任命権者が、ある者に対して、任用することを確約ないし保証するなど、任用されるものと期待することが無理からぬものと見られる行為をしたというような特別の事情があるものと認められる場合には、その者がそのような期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく損害賠償を認める余地があると解される。
そして、本件において、原告らは、上記特別の事情に相当するものとして、要旨、本件病院組合が解散する際には、本件病院組合の職員が地方公務員の身分のまま被告の職員に編入・再配置されることは被告の確定方針であり、そのことは、合併協議会の事務局報告書や「基本計画」にも明記されていたこと、本件病院組合の前の管理者(B)も本件病院組合の解散後に原告らを被告の職員として編入する旨約束し続けてきたことなどを主張するとともに、証人Bにおいても、要旨、本件病院組合が解散しても職員の身分保障をすること、具体的には、引き続きc病院の職員とすること、あるいは被告の職員としてf市民病院に派遣することを原告らに説明した旨証言し、また原告X1もこれと同旨を供述するところである。
イ(ア) そこで、本件において上記特別の事情が認められるか否かについて検討するに、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件病院組合の解散に関連して、本件病院組合の職員の身分につき、以下のような議論等がされたことが認められる。
a 平成16年8月10日開催された公立c病院構成町村財政課長・担当課長会議においては、本件病院組合の職員の身分については、合併により誕生する市(被告)に編入する旨話し合われた(証拠<省略>)。
b 平成17年4月に策定された「基本計画」においては、既存3病院の統合の結果、c病院に残る職員は50人とし、127人の余剰人員については、他の病院と新市組織内において再配置する旨明記された(証拠<省略>)。
c 平成17年6月2日に開催されたh労働組合と本件病院組合との間の団体交渉において、Bは、病院の統合によっても、c病院の職員の身分・雇用は基本的に100パーセント確保されるかとの質問に対し、「今の人達については、そのつもりでおります。」と回答した(証拠<省略>)。
d 平成17年11月21日に本件病院組合の管理者であるBとh労働組合との間でされた交渉の結果、同月25日、「医療整備基本構想」におけるc病院職員の身分保障と労働条件等につき、公務員派遣法に基づいて行う旨の協定書が作成された(証拠<省略>)。
e 平成18年10月2日に開催されたc病院当局説明会においては、Bは、本件病院組合の管理者として、c病院の職員が新病院に移った際の職員の身分につき、公務員派遣法に従って行い、このことはJA秋田厚生連にも話をしている旨述べた(証拠<省略>)。
f 平成21年4月10日、本件病院組合の管理者であるBは、h労働組合に対し、「医療整備基本構想」の実施によりf市民病院が開院し、c病院も病床の種別、病床数等規模の変更がされるが、職員の配置等については、飽くまでも「医療整備基本構想」に基づく形で、かつh労働組合と十分な協議をし、双方での合意を形成しつつ進めて参りたい旨、同月6日付け要求書についての回答をした(証拠<省略>)。
g 平成21年6月11日に本件病院組合の管理者であるCとh労働組合との間でされた交渉の結果、同月17日、c病院の職員の雇用・処遇については、平成20年2月26日のD国務大臣の国会答弁(一般論として適切な配置転換に努める必要があるとする趣旨の答弁を指す。)、平成21年4月10日付け管理者回答(上記f参照)に基づき最大限の努力をする旨の協定書が作成された(証拠<省略>)。
(イ) 以上で認定したことからすれば、上記BないしCの発言等は、それがなされた機会に照らし、本件病院組合の管理者としての立場としてされたものといえ、明示的に被告の市長の立場において、c病院の職員の身分保障について発言したり、回答したものとはいえず、BないしCの上記発言等をもって、直ちに被告の市長において、原告らに対して、被告において任用することを確約ないし保証したものと評価することは困難である。
また、本件病院組合の管理者は被告の市長の充て職とされていたことから、上記発言等は、実質的にみて被告市長の発言等であるとみるとしても、上記発言等それ自体、BないしCが原告らを被告において任用することを確約ないし保証したものというべき体裁及び内容とはいえず、あくまでも、既存3病院の統合及びf市民病院の開設に向けて各種計画が策定されていく中で、その時々の見通しや努力目標を示したものというべきである。例えば、平成17年6月の段階で、Bがc病院の職員の身分・雇用が100パーセント保障されるかと尋ねられ、「今の人達については、そのつもりでおります。」と回答したこと(上記(ア)c参照)についてみても、その回答は、結局は平成17年4月に策定された基本計画ないし病院事業基本構想において当初計画されていたc病院の既存職員の取扱い(上記(ア)b参照)と同旨のことを述べたものにすぎない。そして、基本計画や病院事業基本構想、医療整備基本構想は、JA秋田厚生連との関係において計画が進まず、f市民病院の開設時期さえも変更を余儀なくされたことからもうかがえるとおり、その時々での既存3病院の統廃合についての計画を記したものにすぎないことは明らかであり、これらの計画等を踏まえた上記発言等も、f市民病院の開院に向けて、c病院の職員の身分保障の在り方について、その時々の方向性を示したにとどまるというべきである。
さらに、証人Bにおいても、本件病院組合の解散に当たって職員の身分保障をする旨を原告らに説明した旨証言するも、一方で、その時点においては、これを予算面から担保するための予算構想の計画も立ててはおらず、また、c病院の職員を被告の職員としてf市民病院に派遣することについて、JA秋田厚生連との間ではまだどうなるか分からなかったと証言していることからもうかがえるとおり、原告らの身分保障をするとの説明は何ら具体性を帯びたものではなく、単に計画の前段階での一般的な見通しを示しただけのものにすぎないというべきである。
さらに、他のBないしCの発言等(上記(ア)f、g参照)それ自体についてみても、その内容及び体裁は、同様に医療整備基本構想に基づくもの、あるいは一般的な今後の進め方について述べたものでしかない。
ウ そうすると、本件においては、原告ら各人の内心は別にして、上記発言ないし回答をもって、直ちに被告の市長が、原告らに対して、任用することを確約ないし保証するなど、任用されるものと期待することが無理からぬものと見られる行為をしたものと評価することはできないというべきである。
(3) ②本件処分回避義務違反についての基本的な判断枠組み
原告らは、本件病院組合の管理者及び被告の市長は本件処分に当たって何ら分限回避措置を講じなかったことを理由に、本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められる旨主張するところ、本件においては、(α)本件病院組合の管理者には本件処分において分限免職回避義務違反が認められるか、(β-1)被告の市長は本件処分に当たって分限免職回避義務を負うか、これを負うとして、(β-2)被告の市長には分限免職回避義務違反が認められるかが問題になることから、(4)以下で順に検討する。
(4) ②のうち、(α)本件病院組合の管理者には本件処分において分限免職回避義務違反が認められるかについて
ア 地方公務員法28条1項4号(廃職又は過員)に基づく分限免職は、被処分者に何らの責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、その意に反して、任免権者の一方的都合によって被処分者の地位を喪失させるものであることからすれば、任免権者は当該分限免職処分を回避するために、配置転換その他の免職処分を回避するための措置を講じることが望ましいものというべきである。しかしながら、他方で、分限免職に当たって、一律に被処分者の配置転換その他の免職処分を回避するための措置を講じなければならないものとした場合には、任免権者に与えられた任免の裁量権を制約することになり妥当でない。そこで、廃職の必要性、目的に照らし、任免権者がその権限において被処分者の配置転換その他の免職処分を回避するための措置をとることが比較的容易である場合において、配置転換その他の免職処分を回避する努力を尽くさずに分限免職処分をした場合には、当該分限免職処分は任免権者に与えられた裁量を逸脱するものとして、その免職処分は違法となるものというべきである。
イ そこで、本件において、本件病院組合の管理者がその権限において、原告らの分限免職を回避するために、原告らの配置転換その他の免職処分を回避するための措置をとることが比較的容易であったかどうかについて検討するに、まず、既に認定した事実、乙第5号証及び弁論の全趣旨によれば、本件処分がされるまでのc病院をめぐる状況について、以下の事実が認められる。
(ア) □□・△△地域の医療供給状況
□□・△△地域においては、d病院、c病院及びi病院が存在したが、急速な人口減少と少子高齢化の進展、疾病構造の変化といった社会的要因に加え、敷地の狭隘、建物の老朽化などにより、今後の新たな医療需要に対応することが極めて困難な状況となっていた。特に、近年の医療情勢が大きく変わる中で、より高度な医療を求める住民が増え、□□・△△地域の医療圏から他の地域の医療圏へと移動する状態が続いていたほか、慢性的な医師不足によって入院患者が他医療機関へ流出するなどし、病床利用率の低下に伴って経営収支悪化がもたらされていた。
殊に、c病院の経営収支の悪化の程度は著しく、平成11年度の時点において、他の2病院の経営も決して芳しいものとはいえないまでも、累積欠損金はない一方で、c病院においては、20億6505万8000円もの累積欠損金を抱えていた。c病院においては、これを解消するため、平成7年度から国の第4次病院事業健全化計画を実施し、また、毎年度約5億円程度の他会計繰入金により対応するなどしてきたが、その経営は依然として一般会計依存の状態が続き、改善の兆しは見えなかった。
(イ) c病院の経営状況等
なお、基本計画及び病院事業基本構想の策定に至る平成16年度までのc病院の概要及び具体的な経営状況等の推移は、以下のとおりである。
a c病院の概要(平成17年1月1日時点)
(a) 病床数
254床
(b) 診療科目
内科、消化器科、循環器科、小児科、精神科神経科、外科、整形外科、脳神経外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、リハビリテーション科、皮膚科の合計14科目
(c) 正規職員数
合計203人
(内訳)
○ 医師 13人
○ 看護師 94人
○ 准看護師 27人
○ 看護助手 5人
○ 医療技術職員 27人
○ 事務職員 27人
○ その他 10人
b 損益計算
(a) 経常収益(他会計負担金、他関係補助金、国(県)補助金等を含む。ただし、平成16年度は見込みによる。)
○ 平成11年度 29億1985万6000円
○ 平成12年度 30億6184万6000円
○ 平成13年度 29億8697万8000円
○ 平成14年度 27億6753万3000円
○ 平成15年度 26億4251万9000円
○ 平成16年度 26億2529万5000円
(b) 経常費用
○ 平成11年度 30億1878万4000円
○ 平成12年度 30億8205万9000円
○ 平成13年度 29億7891万8000円
○ 平成14年度 28億9643万9000円
○ 平成15年度 28億0310万2000円
○ 平成16年度 27億1228万3000円
(c) 経常損益
○ 平成11年度 -9892万8000円
○ 平成12年度 -2021万3000円
○ 平成13年度 806万0000円
○ 平成14年度 -1億2890万6000円
○ 平成15年度 -1億6058万3000円
○ 平成16年度 -8698万8000円
(d) 累積欠損
○ 平成11年度 -20億6505万8000円
○ 平成12年度 -20億3527万1000円
○ 平成13年度 -20億3112万6000円
○ 平成14年度 -21億0017万8000円
○ 平成15年度 -21億2296万1000円
○ 平成16年度 -19億8537万4000円
c 患者数の推移
(a) 入院患者数
○ 平成11年度 7万5528人
○ 平成12年度 7万3512人
○ 平成13年度 7万0769人
○ 平成14年度 6万5408人
○ 平成15年度 5万6695人
○ 平成16年度 6万7936人
(b) 病床利用率
○ 平成11年度 75.0パーセント
○ 平成12年度 73.3パーセント
○ 平成13年度 71.1パーセント
○ 平成14年度 65.7パーセント
○ 平成15年度 65.4パーセント
○ 平成16年度 73.3パーセント
(c) 外来患者数
○ 平成11年度 17万3339人
○ 平成12年度 17万7273人
○ 平成13年度 16万9935人
○ 平成14年度 15万2999人
○ 平成15年度 14万5855人
○ 平成16年度 14万0424人
(ウ) □□・△△地域の医療供給体制の再編の動き
a このような中、厚生労働省において「医療機関の機能分化、集約化、効率化を図り医療供給体制を整備する」という医療制度改革を進めていたこともあり、被告においても、各病院の経営状況や□□・△△地域の変化する医療情勢をも踏まえ、□□・△△地域の住民への医療供給体制を整備し、住民への医療サービスを向上するため、d病院、c病院、i病院及びj診療所を再編成し、地域中核病院としてf市民病院を新設するものとされた。
b そして、既に認定したとおり、被告において、平成17年に「基本計画」、「病院事業基本構想」を策定したところ、この段階では、新設するf市民病院は、病床数348病床、診療科目22科目、正規職員数312名(うち医師33名、看護師180名、准看護師30名、医療技術職員40名)、開院日を平成21年4月1日とすること、f市民病院の運営は、指定管理者としてJA秋田厚生連に委託し、被告においても必要な支援をすることが予定されていた。それと同時に、上記のように経営が著しく悪化していたc病院については、その規模を縮小し、市立c病院とした上で、病床数75病床、診療科目を内科系と外科系の2科目、正規職員を50名(うち医師4名、看護師26名、准看護師1名、医療技術職員5名)とすること、その際、医師を除く職員配置についても議論され、病院の統合によりc病院に残る職員は50人とし、127人の余剰人員については、新市民病院のほか、既存の3病院と被告の組織内において再配置することが予定されていた。
その後、病院事業をより具体化するものとして、被告は、平成17年9月、「医療整備基本構想」(証拠<省略>)を策定した。「医療整備基本構想」は、基本的には「病院事業基本構想」の項目及び内容に依拠しつつ、さらに詳細に検討したものであり、その概要は、既存3病院を統合して新たにf市民病院を設立するが、その運営はJA秋田厚生連が行うこと、c病院を市立c病院とした上で、一般病棟、結核病棟、感染症病棟、精神科病棟を廃止するとともに、外来機能も縮小すること、市立c病院においては外来機能の一環として居宅介護サービス事業の拡充を図るほか、介護老人保健施設50床を併設することなどが含まれていた。
c この基本構想に関しては、上記のとおりf市民病院の指定管理者として予定されていたJA秋田厚生連から、被告に対して様々な要望がされるなどした。その要望の中には、被告が、f市民病院で働く職員について、c病院、市立e病院で働いている職員を公務員派遣法を利用した派遣職員としたいとの見解を示したことに対し、新病院の職員としては、原則として指定管理者となり得るJA秋田厚生連の職員で構成したい旨の要望が含まれていた。なお、JA秋田厚生連からのかかる要望に対し、被告は、平成17年11月16日、要旨、これらの病院の職員が一時に大量に退職した場合、膨大な退職手当(約23億円)が必要となる一方、厚生連側も指揮系統、職員意識の問題などの障害を抱え込むことになることから、今後それらの解消に向け協議したいとの回答をした(甲7、乙16。なお、本件においては、被告からJA秋田厚生連に対してした回答が、甲第7号証と乙第16号証のいずれであるのか、当事者間に争いがあるが、いずれにしろ実質的な回答の内容には変わりはないから、上記のとおり認定するのが相当である。)。
そして、被告は、平成19年1月に北秋田市公的医療機関再編整備計画(証拠<省略>)、同年6月に北秋田市医療整備基本構想概要(変更点及び現在の計画)(証拠<省略>)を策定するなどし、f市民病院の新設に向けた検討が進められた。
(エ) f市民病院の開設に向けての具体的な動き等(証拠<省略>)
a f市民病院については、JA秋田厚生連が指定管理者として指定されたところ、被告の前の市長であるBは、JA秋田厚生連との間で、病院の運営に係る基本協定の締結へ向けて協議を進めたが、既に述べたとおり、JA秋田厚生連から被告に対し、様々な要望が出されたこともあり、その交渉は難航した。
その後、平成21年4月、被告の市長がBからCに交代したところ、f市民病院は当初の計画では同年4月に開設される予定であったが、医師確保の問題や予想される欠損金の扱いについて調整がつかず、同様に被告とJA秋田厚生連との間の基本協定の締結は難航した。そのため、被告においては、同年5月29日、f市民病院についての従来の方針を変更し、開設に当たり当初必要としていた31名の常勤医師は半数にとどまる見通しを示したほか、開業直後2年間の赤字はそれぞれ3億5000万円前後と予想し、これらは被告において負担するとの方針を示した。そして、f市民病院の開設は同年10月に延期された。
その後も、JA秋田厚生連の役員の退任や基本協定の締結の遅れに伴って医療機器や医療情報システムの発注も遅延し、同年7月末、JA秋田厚生連は被告に対し、f市民病院の開設を同年12月以降へ変更するよう求めた。そして、被告においても検討した結果、同年9月、冬季の開設では患者の移転に不都合が生じるため、結局のところ、f市民病院は平成22年4月に開設することとされた。
このような結果、被告とJA秋田厚生連とは、ようやく同年10月1日、f市民病院の運営に係る基本協定を締結した。
b なお、被告においては、平成17年頃から、JA秋田厚生連に対して、f市民病院で働く職員としてc病院等の職員を公務員派遣法によって受け入れてほしいとの要望をしていたが、既に述べたとおり、JA秋田厚生連は、f市民病院の職員を原則としてJA秋田厚生連の職員で構成するとの回答をし、その後も、JA秋田厚生連からは、公務員派遣法により職員を受け入れる旨の回答はされなかった(証人B)。
その結果、f市民病院の職員は、開設以来、全てJA秋田厚生連の職員で構成されており、現在に至るまで公務員派遣法によって派遣された職員は存在していない。
(オ) 本件病院組合の解散に向けての動き等
一方、平成20年3月、a村は、被告に対し、「合意書」で合意されたc病院の経営健全化がなされず、組織団体の負担金が増加しており、これ以上の本件病院組合への財政支出は困難であるとして、同月末をもって本件病院組合から離脱したいとの申入れをした。そこで、被告とa村が協議をした結果、平成20年12月26日、本件病院組合を一部事務組合として継続する期間を平成23年3月31日までとすることなどが合意された。
その後も、c病院の運営状況が改善する見込みはなく、平成21年度は常勤医師が5名にまで減少し、救急告示病院が取り下げられたほか、平成5年度から平成21年度までにも本件病院組合の構成員が90億9542万円を負担していたところ、平成22年度にもなお約8億1000万円の負担が見込まれるほどであった(弁論の全趣旨)。
そして、被告とa村は、本件病院組合の解散に当たって、地方自治法289条に基づき、本件病院組合の解散に伴う財産処分を協議し、具体的には、本件病院組合の有する固定資産、企業債を全て被告に帰属させること、平成23年4月1日以降に発生する本件病院組合に関する事務及び経費については被告が承継して負担することを取り決め、平成22年12月17日、これらの取決めは北秋田市議会及びa村議会でそれぞれ議決された。(証拠<省略>)
その後、平成22年12月22日、本件病院組合の管理者は、c病院職員説明会において、本件病院組合の職員に対して、平成23年3月31日をもって本件病院組合が解散することを踏まえ、解散時に本件病院組合の職員全員を分限免職処分をすること、解散後に北秋田市立c病院として市立病院化する予定であったc病院については、予定よりさらに規模を縮小して、北秋田市立c病院ではなく、無床のg診療所とすることを表明した。そして、平成23年1月18日には、同年4月1日以降に被告が事務を承継するc病院をg診療所とする旨の条例が議決された(証拠<省略>)。
なお、JA秋田厚生連は、平成22年12月15日から、平成23年4月1日以降のf市民病院の職員として、看護師及び准看護師15名以内、看護補助者15名以内の計30名以内の職員の募集をした(証拠<省略>)。また、平成23年1月頃、被告は、平成23年度採用の市職員として、g診療所で勤務する看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、理学療法士、事務職員をそれぞれ若干名募集し、具体的には、g診療所では、合計21名の職員(ただし、常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を含む。)が必要とされていた(弁論の全趣旨)。
ウ 以上で認定したとおり、既存3病院の統合及びf市民病院の新設計画の経緯に鑑みれば、c病院の職員の身分については、単に本件病院組合の管理者の一存によって決定できるような状況にはなく、被告を中心とした□□・△△地域における新病院の設立や既存病院の再編といった病院事業の成り行きに大きく左右されるものであった。殊に、これら新規の病院事業においては、f市民病院の指定管理者をJA秋田厚生連とすることで計画が進められていたところ、当初は、c病院の職員を公務員派遣法によってf市民病院に派遣する方向で被告とJA秋田厚生連との間で議論がされていたが、結局のところ、その調整はつかず、その議論に当たって、本件病院組合の管理者独自の権限を発動することもおよそ困難な状況であった。
そのような中、f市民病院が開設されるに伴って、被告及びa村により本件病院組合が解散される旨の決議がされた以上、もはや、本件病院組合の管理者としては、その権限に照らせば、c病院の職員の分限免職それ自体を直接に回避する措置をとることができないのはもちろんのこと、その独自の権限に基づいて、c病院の職員をf市民病院の職員として配置転換させたり、被告の職員として任用させたりすることもできなかったものといわざるを得ないし、また同様に、配置転換以外に具体的な分限回避の方策をとることもできなかったものというべきである。
エ そうすると、本件病院組合の管理者が原告らに対して本件処分を行うに当たって、分限免職回避義務に違反したものということはできない。
(5) ②のうち、(β-2)被告の市長には分限免職回避義務違反が認められるかについて
ア 本件においては、(β-2)被告の市長に分限免職回避義務違反が認められるかどうかの判断の前提として、(β-1)被告の市長が本件処分に当たって分限免職回避義務を負うかどうかが問題となるところ、本件病院組合の管理者は被告の市長の充て職とされていたことその他本件の事案の内容に鑑み、仮に(β-1)被告の市長においても分限免職回避義務を負うものとした場合について、以下検討する。
イ(ア) 既に述べたとおり、地方公務員法28条1項4号(廃職又は過員)に基づく分限免職に当たっては、廃職の必要性、目的に照らし、任免権者がその権限において被処分者の配置転換その他の免職処分を回避するための措置をとることが比較的容易である場合において、配置転換その他の免職処分を回避する努力を尽くさずに分限免職処分をした場合には、当該分限免職処分は任免権者に与えられた裁量を逸脱するものとして、その免職処分は違法となるものというべきである。
(イ) そこで、本件において、被告の市長において、原告らの分限免職を回避するために、原告らを配置転換することが比較的容易であったかどうかについて検討するに、既に上記(4)で認定したとおり、c病院を含め□□・△△地域の病院は、多額の累積欠損を抱え、殊にc病院においては、恒常的に経営が悪化しており、また、a村が本件病院組合からの離脱を申し入れたことからも明らかなとおり、その具体的な改善の見込みもなかった。加えて、□□・△△地域の病院においては、社会構造の変化等に伴う新たな医療体制を構築する必要にも迫られていたことがうかがえるところであって、既存3病院の再編及び新病院の設立は、被告において重要な課題となっていた。そのような中、被告を中心として、実際に既存3病院の統合及びf市民病院の新設に向けた各種計画が立案されたところ、計画が具体的に進展する中で、既に認定したとおり、f市民病院の指定管理者となる予定のJA秋田厚生連との調整に難航し、f市民病院の開設が大幅に遅れるとともに、当初予定された医師も半数しか集まらない見込みとなるなど、f市民病院の規模としても、当初の段階と比して相当程度縮小せざるを得ない状況となった。また、計画の当初においては、被告においてはf市民病院に公務員派遣法を利用し既存のc病院の職員を派遣することを想定し、これを見込んでいたものの、結局のところ、指定管理者であるJA秋田厚生連との折合いが付かず、f市民病院の職員は、JA秋田厚生連の職員で構成せざるを得なくなった。さらに、c病院についてみても、当初の計画では、50名の職員を必要とする北秋田市立c病院としても存続させることとしていたが、最終的にはg診療所とされ、平成17年時点では17名在籍していた医師も、診療所開設時点では、常勤医師2名、非常勤医師4名に、また病床数も無床とするまでに縮小することとされたものである。
このように、被告を中心とした□□・△△地域の病院の統廃合においては、その計画が具体化する中で、c病院の職員の受入先の一つとして検討されていた新設するf市民病院の規模も、医師不足等を理由に当初の予定よりも相当縮小したものとなり、また、有床として存続する予定であったc病院自体も、結局は無床のg診療所となり、大幅にその規模が縮小されたこと、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連の意向によってf市民病院には公務員派遣法を利用したc病院の職員の派遣も困難となったこと、さらには、原告らその他本件処分の対象とされた者の多くは、いずれも診療放射線技師ないし看護師といった専門的な職種であり、適切な配置転換先としては自ずと限られてくることに照らせば、被告の市長としては、c病院を含め□□・△△地域の病院の再統合の計画を実行する目的ないし必要性のもと、比較的容易に原告らをf市民病院その他の関係する病院に配置転換することが困難であったものというべきである。
(ウ)a この点、原告らは、f市民病院その他の関係する病院以外にも、被告の市長としては、原告らを被告の職員として配置転換すべきであった旨主張する。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、被告においては、既に述べた合併を経て、効率的な行政施行と財政改革のために、その職員数を平成17年度から5年間で98名削減する計画を立て、これを実行してきたことが認められるところである上、殊に本件の原告らが、いずれも診療放射線技師ないし看護師という専門的な職種であったことも考え併せれば、仮に各部局等に具体的な欠員が生じていたとしても、被告の市長において、現実的かつ具体的に本件の原告らを被告の部局等において比較的容易に配置転換できなかったものというべきである。
b また、原告らは、f市民病院はその開院後に新たに30名の職員を募集していること、g診療所は職員全員(21名)を新規に公募していることをもって、被告の市長は容易に原告らを配置転換することができた旨主張する。
たしかに、既に認定したとおり、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連は、平成22年12月15日から、平成23年4月1日以降のf市民病院の職員として、看護師及び准看護師15名以内、看護補助者15名以内の計30名以内の職員の募集をしているほか、平成23年1月頃、北秋田市は、平成23年度採用の市職員として、g診療所で勤務する看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、理学療法士、事務職員をそれぞれ若干名募集し、g診療所では、最終的には合計21名の職員(ただし、常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を含む。)が必要とされていたところである。
しかしながら、f市民病院は、指定管理者としてJA秋田厚生連がその運営を行っており、□□・△△地域の病院の再編を現実的に遂行するに当たって公務員派遣法に基づくc病院の職員の派遣の途も適わなかったことからすれば、f市民病院が新たに30名以内の職員を募集したことをもって、直ちに被告の市長において原告らの配置転換が容易であったということはできない。
その一方で、g診療所が新たに常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を含む合計21名の職員を新規に募集したことについて、一般論としては、本来的にはc病院の規模が縮小されたg診療所においては、既存のc病院の職員を配置転換することが適切であり、その配置は比較的容易になし得るものと考えられるところである。しかしながら、本件においては、①c病院には平成17年1月の段階で医師を除き190名の職員が勤務していたところ、当初の段階では、病院の統合によりc病院に残る職員は50人とされ、100人以上もの職員が廃職となることが想定されていたこと、②さらには、c病院はg診療所とされ、その職員も医師等を除けば12名で足りるものとなり、本件処分時においても、80人以上にも上る職員が廃職となるような状況にあったこと、③本件病院組合の解散が決定したとしても、c病院においては、入院中の患者も含め各種医療サービスを提供し続ける必要があり、間断なく専門的な職員の確保が必要不可欠であったこと、④当初はc病院を北秋田市立c病院として存続させる計画がg診療所として相当程度規模を縮小する計画に変更され、また、g診療所において必要な職員の募集を本件処分の直前である平成23年1月に行っていることからもうかがえるとおり、g診療所において必要とされる職員自体も具体的に明らかとはいえない状況にあったものと考えられることからすれば、被告の市長において、本件処分時に80人以上もが廃職となるc病院の職員について、c病院において必要な医療サービスを提供できるだけの専門的な職員を確保しつつ、具体的なc病院の規模につき見通しが立たない中、敢えてg診療所に配置される職員を具体的に特定し選考し、その後配置転換をすることは、量的にも質的にも、また時間的にも比較的容易であったものと解することは困難であったというべきである。さらに言うと、本件においては、g診療所に就職している者の多くが本件処分の対象とされた者であることが認められること(証拠<省略>)からすれば、希望退職に応じた者を除いた者全員を形式的には分限免職処分にしてはいるものの、その対象者が80人以上にも上ることや、改めて同一の条件のもとにg診療所への就職を希望する職員の選考を新規募集という形で行ったものとも評価し得ることをも踏まえれば、g診療所において新たに常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を含む合計21名の職員を新規に募集したことをもって、直ちに本件処分が任免権者に与えられた裁量を逸脱したものとまで評価することはできないというべきである。
(エ) その他、被告の市長がとり得る配置転換以外の分限免職回避の手段の有無についてみても、既に上記(4)で認定したとおり、c病院を含め□□・△△地域の病院は、多額の累積欠損を抱え、重大な経営上の問題に直面していたほか、社会構造の変化等に伴う新たな医療体制を構築する必要にも迫られていた中、既存3病院の再編は被告において重要な課題となっていたことからすれば、例えば本件処分がされた時点において、改めて分限免職が不要となるようにc病院の事業その他の関係する病院事業を抜本的に見直すことはもはや現実的かつ実際的ではないというべきである。また、原告らは、被告の市長はc病院の職員を積極的に採用するようJA秋田厚生連に勧奨すべきであった旨主張するが、そもそも被告の市長において、指定管理者に対し、特定の職員の採用を積極的に勧奨すること自体が適当な分限免職の回避措置と言い得るかどうかは疑問である上、これを措くとしても、これまでの被告とJA秋田厚生連との間の公務員派遣法の利用に関する議論の経緯にも鑑みれば、被告の市長において、c病院の職員を積極的に採用するようJA秋田厚生連に勧奨することは実際的ではないというべきである。そして、本件においては、他に分限免職を回避し得るような具体的な方策も見当たらない。
(オ) そうすると、本件においては、廃職の必要性、目的に照らし、任免権者において被処分者の配置転換その他の免職処分を回避するための措置をとることが比較的容易であるということはできないから、仮に被告の市長において、分限免職回避義務を負うものとしても、被告の市長は、その義務に違反したものということはできない。
(6) 争点3(国家賠償責任の有無)についての結論
以上のことからすれば、本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められないから、争点3(国家賠償責任の有無)については、争点3-2(損害の有無及びその額)について判断するまでもなく、原告らの主張には理由がない。
第4結論
以上のことからすれば、原告らが、主位的に、一般職地方公務員としての地位確認を求める請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、また予備的に、北秋田市長に対し原告らを平成23年4月1日付けで北秋田市職員として任用することの義務付けを求める訴えはいずれも不適法であるから却下すべきこととなる。そして、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 棚橋哲夫 裁判官 太田多恵 裁判官 佐野文規)
(別紙)
当事者の具体的主張
1 争点1(一部事務組合が解散した場合、当該組合の職員はその事務を承継する地方公共団体の職員としての地位を当然に取得し、あるいは当該地方公共団体は当該職員を当然に採用ないし任用する義務を負うか否か。)について
(原告らの主張)
(1) そもそも一部事務組合は、複数の地方公共団体それぞれが処理すべき事務を共同で処理することにより、事務の円滑処理に適うという理由から法人格を与えられたものにすぎず、便宜的な色彩の強い形式的法人格と解されるものである。したがって、一部事務組合が解散した場合には、その職員は身分を失うことなく、構成団体たる関係地方公共団体にその身分が当然に承継されるものと解すべきである(原告らにおいては、このような考え方を「自動承継論」と表現している。)。
(2) 仮に、一部事務組合の職員の身分が当然には関係地方公共団体に承継されないとしても、一部事務組合の解散は、対等な市町村の合併による消滅とは異なり、市町村の出先機関の廃止に近く、身分承継の要請がより高い。それにもかかわらず、一部事務組合の職員のみがその解散によって一律に職員の身分を失うことになれば、一部事務組合の職員は、構成団体たる地方公共団体の事務処理上の都合によって、常に身分を脅かされるという不安定な状況に置かれることとなる。したがって、関係地方公共団体には、一部事務組合の職員を採用しないという自由はなく、関係地方公共団体は当該職員を当然に採用する義務を負うものというべきである(原告らにおいては、このような考え方を「実質的身分承継論」と表現している。)。
(被告の主張)
(1) 一部事務組合と関係地方公共団体は、それぞれ独立した組織であって、一部事務組合は、複数の地方公共団体それぞれが処理すべき事務を、単に共同処理することが事務の円滑処理に適うという形式的な理由のみで法人格が与えられたものではない。そのため、一部事務組合が解散した場合に、当然にその職員の身分が関係地方公共団体に承継されることはない。
(2) また、現行法において、一部事務組合が解散した場合、関係地方公共団体にその職員の任用を義務付ける法令は存在しない。また、そもそも職員の任用は、地方公共団体の専権に属する事項である以上、職員の任用が強制されるものと解することはできない。したがって、一部事務組合の解散に当たって、関係地方公共団体がその職員を当然に任用する義務を負うことなどない。
2 争点2(義務付けの訴えの可否)について
(1) 争点2-1(原告適格の有無)について
(原告らの主張)
原告らには、被告の職員として任用すべき旨を命じることを求める法律上の利益がある。
(被告の主張)
何人にも公務員になることを請求することができるような権利はないから、原告らには、被告の職員として任用すべき旨を命じることを求める法律上の利益はない。
したがって、原告らには、本件の義務付けの訴えの原告適格がないというべきである。
(2) 争点2-2(原告らに重大な損害が生じるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないといえるか否か。)について
(原告らの主張)
原告らは、本件処分を受けて、それまでの地方公務員の地位を一方的に奪われて重大な損害を被り、この損害は更に増大するおそれがある。
そして、この損害を避けるための直接的救済に最も適しているのは、義務付けの訴えというべきである。
(被告の主張)
争う。
(3) 争点2-3(被告の市長が原告らを任用しないことは、その裁量権を濫用するものであるか否か。)について
(原告らの主張)
ア 原告らの主張の概要
①被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、その後被告の市長は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にした上、②被告の市長は本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったのであるから、被告の市長が本件病院組合の解散後に原告らを任用しないことは裁量権の濫用に当たるというべきである。
イ 被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、その後被告の市長が、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にしたこと
(ア) 平成17年3月22日に4町合併により被告が発足した当初から、f市民病院の設立に伴って本件病院組合が解散する際には、本件病院組合の職員を地方公務員の身分のまま被告の職員に編入・再配置することは、被告の確定方針であった。殊に、平成17年3月21日に、k高等学校組合とl市町村圏組合が解散し、これらの組合が担ってきた事業が被告の事業として被告に承継された際、これらの組合の職員は、直ちに全員が被告の職員に編入されるなどしており、c病院についても、その医療事業が被告の事業として被告に承継される以上、その職員は被告の職員として編入・再配置されることは当然であり、このことは、4町合併に先立つ合併協議会の事務局報告書にも明記されたほか、「基本計画」にもその旨が詳細に明記された。
このような方針のもと、本件病院組合が解散されるに当たって、本件病院組合の前管理者(B)は、その就任以来、平成16年6月8日付けの労使協定以降、退任する平成22年1月まで、団体交渉、労使協定、職員説明会において、繰り返し、本件病院組合解散時に原告らを被告の職員として編入する旨約束してきた。また、その約束は、形式的には本件病院組合の管理者としての約束ないし協定ではあるが、その内容は被告の市長の権限に基づく約束ないし協定であった。そのため、Bは、被告の市長としても、平成16年6月15日や同年9月14日の北秋田市定例議会で市職員としての再配置や雇用確保の答弁をするなどしていた。
しかるところ、本件病院組合の管理者であるCは、上記のような約束を、一旦は確認しながら、一方的に破棄し、平成22年1月、平成23年3月末をもって本件病院組合の職員を全員分限免職する旨公言したほか、c病院の労働組合からその理由を問いただされても、「身分保障の約束はない。計画は前管理者のときで過去の話だ。」と言い放って、それ以降、労働組合の再三の団体交渉の求めを拒絶したものである。
したがって、被告の市長は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、これを反故にしたものである。
(イ) この点、被告は、「基本計画」は、合併協議会の病院部会内で作成された内部資料にすぎない旨主張する。しかしながら、この「基本計画」の策定担当者は、当時の被告の副市長の指示を受け、被告の計画として確認、策定されたものであると明言し、また、被告の前市長(B)からの承認も受けていたものであって、単なる内部資料にとどまるものではないものというべきである。
ウ 被告の市長が本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったこと
(ア) ①本件病院組合の管理者は被告の市長の充て職とされており、本件病院組合の設置及び解散は、被告をはじめとした本件病院組合の構成団体が決定していること、②実際にも被告の前市長であるBは、被告の市長として本件病院組合の職員の分限免職回避に向けた努力をしていたこと、③本件処分の実質的決定者は被告の市長であったことからすれば、被告の市長は、その有する権限によって、本件病院組合の職員につき、分限免職回避措置をとるべき義務を負うものというべきである。
そして、本件病院組合の解散時にはc病院の職員を被告の職員に編入・再配置することが被告の確定方針であったところ、本件処分時において、f市民病院においては30名、g診療所においては21名の職員が新規募集がされていることからすれば、被告の市長としても、原告らを配置転換して分限免職の回避措置をとることは可能であった。
それにもかかわらず、被告の市長は、本件処分に当たって、何ら分限回避措置をとらなかったものである。
(イ)a この点、被告は、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連がc病院の職員を公務員派遣法により受け入れることに対し難色を示したことから、職員の再配置が困難となった旨主張するとともに、平成22年4月に開院したf市民病院の業務量が大幅に縮小された結果、再配置された職員がなすべき業務がなかった旨主張する。
しかしながら、そもそも、JA秋田厚生連が公務員派遣法によりc病院の職員の受入れに難色を示した事実はないし、仮にそのような事実があったとしても、被告としては、JA秋田厚生連に対し、公務員派遣法に基づかずとも、c病院の職員を優先的に採用するよう積極的に働きかけるべきであったところ、何ら具体的な行動に出なかった。また、f市民病院の各科の診療体制そのものは計画どおりであり、また、f市民病院が、開院後に新たに30名の職員を募集していることにも照らせば、看護師や技師、事務員らの業務量が当初予定したものと比較して大幅に縮小されたということもできない。
b また、被告は、市職員を平成17年度から5年間で98名削減する目標を立てて組織改革を推進してきたことから、本件病院組合の職員を被告の職員に編入・再配置することことは困難であった旨主張する。
しかしながら、原告らが本件処分を受けた平成23年3月末時点では、上記の計画は達成済みである上、被告は平成24年3月に被告の職員が現員数で16人不足している旨の結果を公表しており、職員は欠員状態にあったものである。
(ウ) したがって、被告の市長は、原告らに対し分限回避義務を負うにもかかわらず、これを怠ったものである。
(被告の主張)
ア 被告の主張の概要
①原告らと被告の前市長(B)との間には本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかった上、②そもそも被告の市長において、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務などなく、実際にも本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを任用することなどできなかったのであるから、被告の市長が本件病院組合の解散後に原告らを任用しないことは、何らその裁量を濫用するものではないというべきである。
イ 原告らと被告の市長との間には本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかったこと
そもそも、原告らと被告の市長との間で、本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかった。
なお、「基本計画」には本件病院組合が解散された場合の原告らの身分に関する記述はあるが、これは被告が策定したものでもなく、合併協議会の病院部会内で作成された資料にすぎない上、これが対外的に公表されたこともない。
ウ そもそも被告の市長においては、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務はなく、また、本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを任用することなどできなかったこと
(ア) そもそも本件病院組合と被告は別個の地方公共団体であり、本件病院組合の管理者と被告の市長が、偶々、自然人として同一人物だとしても、被告の市長において、本件病院組合の職員を被告の職員に編入・配置するなどして本件処分を回避する義務を負うものとはいえない。
(イ) また、以下の事情に照らせば、被告の市長として、本件病院組合の解散時に原告らを被告の職員として編入・配置することは不可能であった。
a c病院の経営状況
c病院は、少子高齢化の進展による人口の減少、疾病構造の変化、施設の老朽化、常勤医師の減少等により、慢性的な赤字を抱える経営状況であった。そのため、c病院は、平成7年度から平成11年度まで5年間、自治省(当時)から第4次病院事業経営健全化団体の指定を受け、経営再建に取り組んできたが、その期間中、単年度収支が黒字となることはなく、指定期間最終年度においても不良債務が残る結果となった。そして、その後も経営状況は改善されることはなく、毎年度不良債務が発生し、累積欠損金も増加の一途をたどっていたほか、平成21年度には常勤医師が5名まで減少し、医療提供体制も縮小せざるを得ない状況となった。
そのため、c病院の経営は、本件病院組合の構成団体である地方公共団体の支援に依存する体質が一層顕著になり、例えば、構成団体からの負担金は、平成5年度から平成21年度までの間、90億9542万円にも上り、平成22年度には約8億1000万円の負担を見込む状況となった。
その結果、平成20年3月には、本件病院組合の構成団体であるa村は、c病院に対するこれ以上の財政負担は困難であるとして、平成20年3月31日をもって一部事務組合から離脱したいとの申入れをするまでに至った。
したがって、c病院の経営状況を踏まえれば、もはや本件処分を回避することは困難な状況にあったというべきである。
b JA秋田厚生連の派遣受入拒否とf市民病院の業務量の縮小
被告は、当初、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連に対して、f市民病院で働く職員として、c病院の職員を公務員派遣法によって受け入れて欲しいとの要望をしてきた。しかしながら、JA秋田厚生連は、f市民病院の職員をJA秋田厚生連の職員で構成したいとの意向を示し、公務員派遣法に基づくc病院の職員の受入れに難色を示した。
加えて、f市民病院は、当初の計画では平成21年10月の開設の予定であったが、被告とJA秋田厚生連との間の基本協定が整わず、平成22年4月に開設が遅れたほか、当初はf市民病院の医師は31名が必要とされていたが、実際、病院の開院時に確保できた医師は半数程度にとどまった。そのため、f市民病院の予定の業務量は大幅に縮小され、被告においても、c病院の職員を再配置することは非常に困難な状況となった。
c 被告における編入・配置転換
さらに、被告は、4町合併による効率的な行政施行と財政改革のために、被告の職員を平成17年度から5年間で98名削減する目標を立てて組織改革を推進してきた。c病院の財政は逼迫しており、危機的な状況にあったことから、c病院を引き継ぐ被告において、c病院の職員を編入・配置転換により受け入れることは到底不可能であった。
d 原告らの主張について
この点、原告らは、f市民病院において30名、g診療所において21名の合計51名の欠員があったにもかかわらず、原告らを配置転換することがなかった旨主張する。しかしながら、f市民病院はJA秋田厚生連が指定管理者とされており、f市民病院の職員に関して被告の人事権が及ぶものではない。また、g診療所は新規に開設されたものであり、その際の募集人員は、常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を除けば、12名にすぎない。
3 争点3(国家賠償責任の有無)について
(1) 争点3-1(本件病院組合の管理者ないし被告の市長の管理者の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められるか否か。)について
(原告らの主張)
ア 原告らの主張の概要
①被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、被告の市長は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にした上、②本件病院組合の管理者及び被告の市長は当該分限免職処分に当たって何ら回避措置を講じなかったのであるから、被告の市長ないし本件病院組合の管理者の行為には、国家賠償法1条1項の違法性が認められるというべきである。
イ 被告の前市長(B)は、原告らとの間で、本件病院組合の解散後に被告において雇用承継する旨約束していたにもかかわらず、被告の市長は、一旦はその約束を確認しながら、これを反故にしたこと
(ア) 平成17年3月22日に4町合併により被告が発足した当初から、f市民病院の設立に伴って本件病院組合が解散する際には、本件病院組合の職員を地方公務員の身分のまま被告の職員に編入・再配置することは、被告の確定方針であった。殊に、平成17年3月21日に、k高等学校組合とl市町村圏組合が解散し、これらの組合が担ってきた事業が被告の事業として被告に承継された際、これらの組合の職員は、直ちに全員が被告の職員に編入されるなどしており、c病院についても、その医療事業が被告の事業として被告に承継される以上、その職員は被告の職員として編入・再配置されることは当然であり、このことは、4町合併に先立つ合併協議会の事務局報告書にも明記されたほか、「基本計画」にもその旨が詳細に明記された。
このような方針のもと、本件病院組合が解散されるに当たって、本件病院組合の前管理者(B)は、その就任以来、平成16年6月8日付けの労使協定以降、退任する平成22年1月まで、団体交渉、労使協定、職員説明会において、繰り返し、本件病院組合解散時に原告らを被告の職員として編入する旨約束してきた。また、その約束は、形式的には本件病院組合の管理者としての約束ないし協定ではあるが、その内容は被告の市長の権限に基づく約束ないし協定であった。そのため、Bは、被告の市長としても、平成16年6月15日や同年9月14日の北秋田市定例議会で市職員としての再配置や雇用確保の答弁をするなどしていた。
しかるところ、本件病院組合の管理者であるCは、上記のような約束を、一旦は確認しながら、一方的に破棄し、平成22年1月、平成23年3月末をもって本件病院組合の職員を全員分限免職する旨公言したほか、c病院の労働組合からその理由を問いただされても、「身分保障の約束はない。計画は前管理者のときで過去の話だ。」と言い放って、それ以降、労働組合の再三の団体交渉の求めを拒絶したものである。
したがって、被告の市長の行為は、原告らが有していた本件病院組合の解散後の市職員への編入等の雇用確保に係る期待権を一方的に侵害するものであり、違法性を有するものというべきである。
(イ) この点、被告は、「基本計画」は、合併協議会の病院部会内で作成された内部資料にすぎない旨主張する。しかしながら、この「基本計画」の策定担当者は、当時の被告の副市長の指示を受け、被告の計画として確認、策定されたものであると明言し、また、被告の前市長(B)からの承認も受けていたものであって、単なる内部資料にとどまるものではないものというべきである。
ウ 本件病院組合の管理者及び被告の市長が本件処分に当たって何ら回避措置を講じなかったこと
(ア) 本件病院組合の管理者が回避措置を講じなかったこと
本件病院組合の管理者は、平成22年1月に、本件処分を公表した後、分限免職回避義務を負うにもかかわらず、h労働組合との団体交渉に応じたのはわずか3回だけで、3回目の平成22年7月17日の団体交渉においては、「身分保障の約束はない。前管理者の時の計画は過去の話だ。」と言い放った。そして、h労働組合が、同年3月5日、4月21日、5月18日及び7月14日と再三にわたり団体交渉を要求したにもかかわらず、これを拒否し、希望退職者の募集も同年3月15日で打ち切った。殊に、労働組合は、希望退職の募集を3月で打ち切らず延長して欲しい旨の申入れをしたにもかかわらず、これを拒否し、原告らにはハローワークの求人票のコピーを手交するだけであった。
(イ) 被告の市長が回避措置を講じなかったこと
a ①本件病院組合の管理者は被告の市長の充て職とされており、本件病院組合の設置及び解散は、被告をはじめとした本件病院組合の構成団体が決定していること、②実際にも被告の前市長であるBは、被告の市長として本件病院組合の職員の分限免職回避に向けた努力をしていたこと、③本件処分の実質的決定者は被告の市長であったことからすれば、被告の市長は、その有する権限によって、本件病院組合の職員につき、分限免職回避措置をとるべき義務を負うものというべきである。
そして、本件病院組合の解散時にはc病院の職員を被告の職員に編入・再配置することが被告の確定方針であったところ、本件処分時において、f市民病院においては30名、g診療所においては21名の職員が新規募集がされていることからすれば、被告の市長としても、原告らを配置転換して分限免職の回避措置をとることは可能であった。
それにもかかわらず、被告の市長は、本件処分に当たって、何ら分限回避措置をとらなかったものである。
b(a) この点、被告は、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連がc病院の職員を公務員派遣法により受け入れることに対し難色を示したことから、職員の再配置が困難となった旨主張するとともに、平成22年4月に開院したf市民病院の業務量が大幅に縮小された結果、再配置された職員がなすべき業務がなかった旨主張する。
しかしながら、そもそも、JA秋田厚生連が公務員派遣法によりc病院の職員の受入れに難色を示した事実はないし、仮にそのような事実があったとしても、被告としては、JA秋田厚生連に対し、公務員派遣法に基づかずとも、c病院の職員を優先的に採用するよう積極的に働きかけるべきであったところ、何ら具体的な行動に出なかった。また、f市民病院の各科の診療体制そのものは計画どおりであり、また、f市民病院が、開院後に新たに30名の職員を募集していることにも照らせば、看護師や技師、事務員らの業務量が当初予定したものと比較して大幅に縮小されたということもできない。
(b) また、被告は、市職員を平成17年度から5年間で98名削減する目標を立てて組織改革を推進してきたことから、本件病院組合の職員を被告の職員に編入・再配置することことは困難であった旨主張する。
しかしながら、原告らが本件処分を受けた平成23年3月末時点では、上記の計画は達成済みである上、被告は平成24年3月に被告の職員が現員数で16人不足している旨の結果を公表しており、職員は欠員状態にあったものである。
c したがって、本件病院組合の管理者及び被告の市長は、原告らに対し分限回避義務を負うにもかかわらず、これを懈怠したものであるから、その懈怠につき違法性を有するものというべきである。
(被告の主張)
ア 被告の主張の概要
①原告らと被告の市長との間には本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかった上、②本件病院組合の管理者は、本件病院組合が解散する以上、分限回避を検討し得なかったほか、そもそも被告の市長においては、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務などない上、実際にも本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを任用することなどできなかったのであるから、本件病院組合の管理者ないし被告の市長の行為には、何ら違法性はないというべきである。
イ 原告らと被告の市長との間には本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかったこと
そもそも、原告らと被告の市長との間で、本件病院組合の解散後に原告らを任用する約束などなかった。
なお、「基本計画」には本件病院組合が解散された場合の原告らの身分に関する記述はあるが、これは被告が策定したものでもなく、合併協議会の病院部会内で作成された資料にすぎない上、これが対外的に公表されたこともない。
ウ 本件病院組合の管理者は、本件病院組合が解散する以上、分限回避を検討し得なかったこと
本件病院組合が解散すれば、その法人格は当然に消滅することとなるから、本件病院組合の管理者としては、職員の編入や再配置等の分限免職処分を回避する手段を持ち得ない。その上で、本件病院組合の管理者としては、本件病院組合の職員に対し、希望退職者の募集をするなどしたものである。
なお、本件病院組合においては、その職員の希望退職者の募集に期間を設けたが、これは、c病院に入院していた患者に対して責任をもってその診療を遂行するためであり、単なる経営の都合によるものではない。
エ そもそも被告の市長においては、原告らの本件病院組合における分限免職処分を回避すべき義務はなく、また、本件病院組合が運営していたc病院の経営状況や被告の状況からすれば、被告の市長において原告らを任用することなどできなかったこと
(ア) そもそも本件病院組合と被告は別個の地方公共団体であり、本件病院組合の管理者と被告の市長が、偶々、自然人として同一人物だとしても、被告の市長において、本件病院組合の職員を被告の職員に編入・配置するなどして本件処分を回避する義務を負うものとはいえない。
(イ) また、以下の事情に照らせば、被告の市長として、本件病院組合の解散時に原告らを被告の職員として編入・配置することは不可能であった。
a c病院の経営状況
c病院は、少子高齢化の進展による人口の減少、疾病構造の変化、施設の老朽化、常勤医師の減少等により、慢性的な赤字を抱える経営状況であった。そのため、c病院は、平成7年度から平成11年度まで5年間、自治省(当時)から第4次病院事業経営健全化団体の指定を受け、経営再建に取り組んできたが、その期間中、単年度収支が黒字となることはなく、指定期間最終年度においても不良債務が残る結果となった。そして、その後も経営状況は改善されることはなく、毎年度不良債務が発生し、累積欠損金も増加の一途をたどっていたほか、平成21年度には常勤医師が5名まで減少し、医療提供体制も縮小せざるを得ない状況となった。
そのため、c病院の経営は、本件病院組合の構成団体である地方公共団体の支援に依存する体質が一層顕著になり、例えば、構成団体からの負担金は、平成5年度から平成21年度までの間、90億9542万円にも上り、平成22年度には約8億1000万円の負担を見込む状況となった。
その結果、平成20年3月には、本件病院組合の構成団体であるa村は、c病院に対するこれ以上の財政負担は困難であるとして、平成20年3月31日をもって一部事務組合から離脱したいとの申入れをするまでに至った。
したがって、c病院の経営状況を踏まえれば、もはや本件処分を回避することは困難な状況にあったというべきである。
b JA秋田厚生連の派遣受入拒否とf市民病院の業務量の縮小
被告は、当初、f市民病院の指定管理者であるJA秋田厚生連に対して、f市民病院で働く職員として、c病院の職員を公務員派遣法によって受け入れて欲しいとの要望をしてきた。しかしながら、JA秋田厚生連は、f市民病院の職員をJA秋田厚生連の職員で構成したいとの意向を示し、公務員派遣法に基づくc病院の職員の受入れに難色を示した。
加えて、f市民病院は、当初の計画では平成21年10月の開設の予定であったが、被告とJA秋田厚生連との間の基本協定が整わず、平成22年4月に開設が遅れたほか、当初はf市民病院の医師は31名が必要とされていたが、実際、病院の開院時に確保できた医師は半数程度にとどまった。そのため、f市民病院の予定の業務量は大幅に縮小され、被告においても、c病院の職員を再配置することは非常に困難な状況となった。
c 被告における編入・配置転換
さらに、被告は、4町合併による効率的な行政施行と財政改革のために、被告の職員を平成17年度から5年間で98名削減する目標を立てて組織改革を推進してきた。c病院の財政は逼迫しており、危機的な状況にあったことから、c病院を引き継ぐ被告において、c病院の職員を編入・配置転換により受け入れることは到底不可能であった。
d 原告らの主張について
この点、原告らは、f市民病院において30名、g診療所において21名の合計51名の欠員があったにもかかわらず、原告らを配置転換することがなかった旨主張する。しかしながら、f市民病院はJA秋田厚生連が指定管理者とされており、f市民病院の職員に関して被告の人事権が及ぶものではない。また、g診療所は新規に開設されたものであり、その際の募集人員は、常勤医師2名、非常勤医師4名、非常勤技能労務職3名を除けば、12名にすぎない。
(2) 争点3-2(損害の有無及びその額)について
(原告らの主張)
原告らは、上記(1)で述べたとおり、本件病院組合の管理者の行為ないし被告の市長の不作為によって、甚大な精神的苦痛を被ったものであり、これを慰謝する金員としては、500万円が相当である。
(被告の主張)
争う。
以上