大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 昭和23年(行)34号 判決 1949年2月12日

原告

安保三郞

被告

秋田縣農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告は鹿角郡錦木村農地委員会が鹿角郡錦木村末廣字中野平四十七番畑一反二十三歩同字四十八番畑六畝十三歩同字三十番畑一反十六歩を訴外村木吉之助に賣渡すことの賣渡計画に対する承認を取消す、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、其の請求の原因として本件土地外六筆の土地は原告の養父熊太郞の所有であつたが負債の代償として大正十四年十二月二十四日訴外立山鈊太郞に買戻條件付で其の所有権を讓渡したが昭和五年九月二日原告は本件土地を永小作することになり耕作を継続した然るに右鈊太郞は原告の買戻請求を拒み且土地の耕作迄させないので原告は右鈊太郞を相手取り昭和十七年秋田地方裁判所大館支部へ小作調停の申立を爲し、同年十二月再び原告が本件土地を耕作出來る樣に調停が成立した、原告は本件土地以外の土地は賣買其の他の方法で解決したのに本件土地が未解決の儘残された理由は本件土地が荒地になつて雜木や芝茅が茂生して居て右鈊太郞が之を整地する約束であつたが同人がそれを実行しなかつた爲である、併し其の儘放置する訳にも行かないので昭和二十年中原告は右鈊太郞との間に本件土地の買戻の予約を爲したが其の後農地に関する法制の改革の爲本件土地は昭和二十二年十二月二日政府の買收する所となつた、之に先だち原告は同年二月中本件土地の買受の申請をしたが右錦木村農地委員会委員長田子鐱〓(昭和二十三年四月中退職)は其の退職前前記村木吉之助と謀り本件土地を右吉之助に賣渡す事の賣渡計画を立て被告に其の承認を求め被告は右実情を調査することなく昭和二十三年四月二十日秋発農委会第三十九号通牒を以て右計画を承認した其の爲右吉之助に本件土地の賣渡令書が発せらるる寸前に立至つた、然し右吉之助は本件農地の小作人ではなく唯昨年中右鈊太郞及び原告の諒解を得ることなく整地の未済であるのを奇貨とし勝手に本件土地を開畑したに過ぎない、從つて右吉之助の不法の耕作者で新法令による買受の資格がない、之に反して原告は本件土地の原所有者から昭和五年九月二日永小作権を取得し同十七年十二月五日小作調停で其の再確認を得同地の占有を確保し唯整地の問題で未解決であつた迄であるから原告は本件土地を買受ける資格がある、然るに右吉之助が右鐱〓と謀り不法耕作を爲し又原告は法令の手続に暗かつた爲右計画に対する異議訴願の機会を失した結果右吉之助が本件土地の賣渡を受け得る樣な立場になり原告は其の事情を本訴提起の二週間程前に発見したのであつて本件土地を政府から賣渡を受ける正当な権利者は原告であるから本訴によつて錦木村農地委員会の右吉之助に対する賣渡計画に付秋田縣農地委員会の爲した承認の取消を求めるものであり尚賣渡計画竝に其の承認及びそれに基く賣渡令書の發行は夫々政府が賣渡を完了する段階的行政処分行爲であるから原告は不当な賣渡計画の承認を取消し更に適正な賣渡計画の再建を求める目的の下に本訴を提起した次第であると陳述した。

理由

原告の本訴請求は要するに秋田縣鹿角郡錦木村農地委員会が訴外村木吉之助に対し爲した本件土地の賣渡計画に付被告の爲した承認行爲は違法な行政処分であるとして其の取消を求めるものと認められるが右承認行爲が行政訴訟によつて取消を求め得る行政処分であるか否かの点に付職権を以て審査するに所謂行政訴訟は違法な行政行爲に因つて権利利益の侵害を受けた場合裁判所に訴えて之が是正を求むるものであるから訴訟の目的となる行政行爲は外部に対して一定の法規的利害関係を生ずべき処分に限定せらるるものにして本件承認の如く外部に対する意思表示でなく單なる行政廳内部のものであり外部の者に何等の法規的利害関係を生じない行爲は訴訟の対象とはならないものと謂わなければならない、よつて原告の本訴請求は此の点で失当であるから他の主張に対する判断を省略して之を排斥し訴訟費用に付ては民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決するものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例